パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ひとくちで300メートル・ブーランジェリーレカン12月17日オープン
春のパンコレ(池袋東急ハンズにて)で、遊び心満載のクロワッサンを提供してくれた
銀座レカングループのパン職人であり、パン責任者でもある割田さんのパンがついに自由に、気ままに(←ここは大事ですねぇ〜)買えることになった。

ブーランジェリー・レカン
12月17日オープン
東銀座駅A1出口・目の前


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10:30〜21:00

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↑手前の薄紫色のパンはワイン生地のパン


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ドーナッツの上にかかっているのはギモーヴ。

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ギモーヴ? 自分は知りませんでした。
マシュマロのことだそうです。
「フランス語でギモーヴ。ここではギモーヴと言ってほしいそうです」と、ムッシュ池田。
了解!


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ギモーヴのドーナッツ。焦げ目にギモーヴ感が垣間見える!
キャンプファイヤーで割り箸にギモーヴを刺して、焼いたときにできた焦げ目と同じだ。



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レセプションには一口サイズのプチ・パンが並ぶ。

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感動したのが上の写真の真ん中のやや赤みがかったプチパン。
ワインを練り込んだパン。
料理に合うパンとして、レセプションに並んでいるのだと思うけど、
単品で食べても上品で美味しい。
ほのかな酸味、ほのかな甘み、咀嚼感もあって、口直し感もある。
っていうか、ベースノートの持続が半端ない。最後にほのかで上品な甘みがず〜〜っと残る。

一粒で300メートルといえば、グリコのキャラメルだけど、
これは一口で300メートルだ。
(追記/このプチパンは女性の2口で食べ終わるよう計算されているそうです。食いしん坊の男性にとっては1口かもしれませんが)

だって、最後にこのパンを齧りながら、店を出て、地下鉄の階段を降りる頃には口の中にパンはなくなって、
だけど東銀座駅から茅場町駅まで、もっと言えば東西線に乗り換えるまで、
ず〜〜っと口の中に美味しい香りが残ってましたから。
口の中に残ったパンの余韻だけで、駅3つ分も過ごすなんて、生まれて初めてだ。


ブーランジェリー・レカンは
12月17日オープンです。


とりあえず、速報として。
かしわで



パンの漫画

 
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食べる前からデニッシュがおいしいかどうかわかる法則
ぐるなびのippinというホームページで、
「食べる前からデニッシュがおいしいかどうかわかる法則」
という記事を書かせていただきました。
ピエール ガニェール パン・エ・ガトーのパン・オ・ショコラがすごかったという話です。
よろしくお願いします。(池田浩明)


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しあわせパンまつり*パンキャラバンスタート

水曜からパンキャラバンがスタートした。


パンセミナーがあり、6時頃到着した

しあわせパンまつりの会場にお客さんはポチポチってくらいで、

ちょっと不安になったが、

4時の時点では行列が出来ていたと

担当者(かなり疲れて放心状態だった/笑)に聞いてホッ。


それでもまだいくつかのパンは残っていたし、

焼き菓子やオリジナルブレンドのコーヒーなどもあり、

売り場がスッカラカンでもなく、それはそれでホッ。


初日の水曜は4時20分にパンが到着し、4時半に開場にパンが届いたそうだ。

道路事情により到着時間が変わってしまうので、

4時販売開始!とか5時販売開始!とかお知らせ出来ないのは申し訳ないが、

到着&準備が整い次第売り場に並べたいってことなので、

わくわくしながら待ってもらいたい。

水曜は宗像堂もカイトもあった。

かつて沖縄旅行買ったパンたちもあったはず。



パン屋さんマップはちょっとわかり難いけど、レジ脇に置かれていた。

これは本物を見たらめちゃめちゃかわいらしかった。

プレゼント用にすでに50個予約したくらい(役得♫)


昨日偶然、パン友が会社帰りにパンを買いに来てくれ、

彼女にも、見知らぬふたり連れの女性にもオキコパンのゼブラやうずまきパンを

オススメたりした。

ふたりの女性たちは会社の同僚にとお買い得価格のうずまきパンをたくさん買ってくれ、

お友達はゼブラ。

ちょっとうれしかった。きっとみんなでたのしんでくれたはず♫


8日月曜までのパンキャラバン

(物販は9日までだけど、当日の沖縄パンがあるのは8日まで)。

沖縄パン屋さんめぐりの予習にぜひどうぞ!


プランタン銀座「しあわせパンまつり」


◎ ○ ◎ まさこぱん ◎ ○


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渡邉政子さん comments(0) trackbacks(0)
マイベーグルがマイブーム
こんなとき、どうしたらいいのだろう。
家にパンがない、でも腹減った。
サンドイッチでも作ってみるか。
寒いからカップスープでも買って、パンといっしょに。
と思ってみても、家の近所にパン屋がない、あるいはもう閉まっている、もしくはわざわざパン屋まで行く余力がない。
ところが、サンドッチにしたり、スープと合うプレーンなパンは、食パン以外だと、スーパーやコンビニになかなか売ってないのだ。
甘くなくて、ちょっと噛みごたえがあって、歯切れはいい。
それでいて、ひとりで食べ切れるような食事パンがあったらいいな。

とずっと考えていたところ、ぴったりのパンをついに発見。
PASCOのマイベーグル。
そうか、ベーグルか。
それなら上記した諸条件もぴったりあてはまっているではないか。

最近のお気に入りである。
スーパーでいつも待っていてくれる、そんな気持ちさえしてきた。
バリエーションは3種類、プラス季節もの1種類。
そのうち、この日あった3種類を買う。

このとき、忘れずに買いたいもの。
クリームチーズ。
最近はバター不足なので、常備しておくと、なにかと便利。
これで家がベーグル屋になる。

そのまま食べてもいいけど、できればひと工夫したい。
オーブンで1分程度、中があたたまるぐらいさっと焼く。
表面がぱりぱり、中ふっくらになる。

さてマイベーグルのうち、ブルーベリー&クランベリーを半分に切る。
クリームチーズを1個開けて塗る。
たったそれだけ。

冷たいときはもちもちだけど、あたためるとやわらかくなってもちーっとなる。
そしてねばねばとしてきて、クリームチーズといっしょにとろけて、甘さまったりワールドの幕が開く。
きら星のように輝くのはブルーベリーとクランベリーの甘酸っぱさ。
たった一工夫で恍惚のベーグル体験が保証される。

以上は日米の境を超えた、インターナショナルなベーグルの基本技。
今度は、マイベーグルがチャバタやバゲットといったフランスパンの代わりにもなる、ということを示すために、おフレンチに攻める。
プレーンに、缶詰のパテドカンパーニュを塗る。
ここは、貴重でもバターも塗ろう。
瓶詰のシトロンコンフィ(塩レモンみたいなもの)もお好みで。

味わいの強いものに対しては食パンでは支えきれないところがある。
これは中身に密度があり、皮の香りもあるので十分に拮抗する。

季節限定のチョコレート。
オーブンから出ると、表面のチョコが焦げ、たまらない甘い香りを放っていた。
そのまま食べても十分だが、イチゴジャムを塗って、甘さと酸味を強化してみる。
チョコレートがとろけ、あたためたせいでふわっと口溶けよくなっている中身もいっしょにとろける。

チーズも一工夫しがいがある。
チキンをはさんだり、ベーコンをはさんだりすると、きっとおいしいはずだ(やってないけど)。

コンビニやスーパーの袋パンは、買ってすぐ食べられる便利さを競い合っている。
逆をいうと、一工夫しがいのあるパンがほとんど絶滅してしまった。
そこへ登場したマイベーグル。
かってイングリッシュマフィンで衝撃を与え、食事パンの新ジャンルを切り開いたPASCOがまたやってくれた、という感じだ。
国産小麦ゆめちからを使用していることも好感できる。(池田浩明)




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しあわせパンまつり*パンキャラバン〜沖縄〜

先日お知らせしたプランタン銀座でのパンキャラバン。

沖縄のパン屋さんや出店日をお知らせしたほうが親切よね。


今のところ確定しているのが


宗像堂

パン屋 水円

PANCHO RI-NA(パンチョリーナ)

Ploughman's Lunch Bakery(プラウマンズ)

Pain de Kaito(カイト)

八重岳ベーカリー(八重岳)


あと2店舗くらい増やす努力をしてるけど、まだ不確定。

そしてオキコパンのゼブラとうずまきパンは毎日並ぶ予定です。


12月3日(水)宗像堂 カイト パンチョリーナ 八重岳 

12月4日(木)宗像堂 カイト パンチョリーナ 

12月5日(金)カイト パンチョリーナ 水円 八重岳

12月6日(土)宗像堂 プラウマンズ カイト パンチョリーナ 水円 

12月7日(日)プラウマンズ カイト 水円 八重岳

12月8日(月)宗像堂 プラウマンズ カイト パンチョリーナ


飛行機が飛ばないなんてハプニングがない限り、

しあわせパンまつりの中に夕方5時頃からパンキャラバンは登場しま〜す♫


ちなみに9日はしあわせパンまつりが終わりの時間が通常よりも早く、

パンキャラバンは8日までだった!!!


パンもマップも期間&数量限定! お早めにどうぞ。



◎ ○ ◎ まさこぱん ◎ ○ ◎


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渡邉政子さん comments(0) trackbacks(0)
チャリティー製パン講習会in京都
11月19日、株式会社 京都麻袋で開かれた「チャリティー製パン講習会」。
これは元ジェラール・ミュロでシェフも務めた山院丙蝓頬シェフのライフワークとして開始され、10回目を数える。
Zopf伊原靖友店長、ブーランジュリー オーベルニュの井上克哉シェフと手を携え、10年にわたって講習会を行い、その収益を被災地に届けるというものだ。

はじめに、京都の老舗・小川珈琲の勝又貴司さんによる、パンとコーヒーについての講演が行われた。
話は多岐にわたった。
コーヒーの歴史、コーヒー豆の種類、スペシャリティコーヒーとはなにか、食べ物とコーヒーとの相性を追究するフードペアリング。
パンといえばコーヒー、コーヒーといえばパンという切っても切れない組み合わせは、世界中に見られるという話も。
フランスでは、エスプレッソマシーンで抽出したコーヒーにミルクを入れたカフェオレに、バゲット、クロワッサン。
デンマークはフレンチプレスによるコーヒーと、デニッシュ。
イタリアではエスプレッソと、フォカッチャやパニーニという組み合わせがポピュラーとの話。
短時間ではあったが、コーヒーという知ってて知らない飲み物についての理解が深まった。

特別に、今年ドイツのシュトーレンコンテストで金賞に輝いた、コンディトライ・フェルダーシェフ(広島県廿日市市)のシュトーレンが参加者全員に配られた。
それは、とろけるようだった。
フルーツの酸味と相争いながら、生地の甘さが勝ち、喉の奥へ流れこんでいく。
とろけるからはかなく、そして甘さはうつくしく光るのだ。

Zopfの伊原さんは、人気のあんマーブルを作る。
ロールパン生地にあんこを折り込んでマーブル状になったもの。
Zopfの数多くのアイテムのうち、私も大好きなパンのひとつ。
食パン型なので、スライスしながら何枚も食べられるし、ファミリーでも楽しめるのだ。

「冷蔵庫に一晩入れていた生地です。
いま吹いて(十分に発酵がきて)います。
最初に常温で25分一次発酵をとり、冷蔵庫に入れます。
1次発酵はとらずに冷蔵庫で一晩置いても、生地が吹いてさえくれれば大丈夫です。
ただ、ブレークする(ふくらんできた生地が過発酵となり、下に落ちる)と、窯伸びしないので注意してください。
ブレークするといけないのは、グルテンが切れるという意味あいが大きいんですよね。
一度切れたグルテンを復活させるのは大変ですから」

そのあと話は、どのようにグルテンの性質をイメージしつつパンを作るかに及んだ。
「パンのグルテンは一度伸びた地点までしかふくらまないようになっていると考えていいと思います。
だから、ミキシングでは、しっかり生地を伸ばしておくことが大事になります。
そして、生地を折り畳みながらこねるとグルテンは編まれてガスを保持しやすくなり、ふっくらとふくらむ、というイメージです。
生地を練るときや丸めるときなどはグルテンを伸ばすこと、編むことを意識してください。
それを工程のどこかでちゃんとやっておくと、窯の中でふっくらよくふくらむようになります」

あんマーブルの成形は見ているだけでもたいへんおもしろいものだった。
「きょうは2種類作ります。
栗あんと黒豆、小倉あんとさつまいも。
生地に対して8割のあんこ、黒豆とさつまいももたっぷり入ります。
3つ折りを2回するだけです。
あんこと黒豆をのせて折る、その上にあんこと黒豆をのせてまた折る。
あんこは生地の上に伸ばしてもいいですし、あんこが硬かったらちぎって分けたものをのせるだけでもいいです。
3つ折りが終わったら、冷蔵庫には入れないで1度休ませてから、2回目の3つ折りを行います」

食パンに入れる前、生地を三つ編みしてから成形するのもおもしろい。
「重たいあんこを支えられる強さがほしいので、生地を編んでから、型に入れます。
何回編むかで、食感も変わってきます。
まず生地を4等分して、さらに3等分します。
この3本で三つ編みしていきます。左右を交差させていくだけです」

できあがったあんマーブルを手にした。
あんこがたっぷりと入って、このずしっとくる重さがうれしい。
ぷるぷるした生地は、絶妙の口溶けを見せ、むせ返るほどあずきの香りがしてくる。
生地のバター感があんこと激しく反応し、あんばたと同じ快感となる。
焼いて食べて、すこしあんこが焦げた感じもおいしいだろう。
日本茶と合わせてもよさそうだ。
たっぷりのあんことバター感を感じられ、伊原さんらしく、豊かな気持ちにしてくれるパンなのだ。

山泳シェフは、被災地・陸前高田をパンで応援するために立ち上げられた団体「希望のりんご」のジョナゴールドを使って、「陸前高田リンゴパン」を作ってくれた。

「いつもは、僕はバゲットを焼いて、その中にりんごをごろごろ入れるんですよ。
きょうはソフトフランスの生地でやります。
分割のときは、あまりきつく丸めないでください。
形を整える程度です。
(ミキシングのときは)塩も、イーストも、粉もオールインワンで、すべて入れて混ぜます。
ただバターだけはあとから、完全に生地が混ざったところで入れてください。
混ざりきってないところにバターを塊で入れると、イーストが飛び散っちゃうので。
そういうことに注意するのが、丁寧な仕事です」

パンの中にフィリングとして入れる、りんごのプレザーブの作り方。
「りんごを半分に割り、さらに6等分、さらにそれを半分に切ります。
本当はもっと小さくするんですけど、今回のりんごはやわらかかったので、なくなっちゃわないように。
僕は皮もぜんぶ使います。
皮と身の間が、味があるし、ペクチンもいちばん多いです。
きょうのは皮が硬いですけど、パンに入れる分には問題ないです。
ピンク色になりますし。
皮を入れなければ真っ白になります。
ただし、酸化しないうちに作業しないと、色が変わってしまいます。
銅鍋で炊くといちばんきれいにできます。

プレザーブの作り方からも、山吋轡Д佞素材の個性を大事に汲み取ろうとしていることが伝わってくる。
「りんごは炊いても10分まで。
まだ芯が残っているぐらいで大丈夫です。
レシピに、りんごを炊くときの砂糖の量を書いてますけど、その通りじゃなく、味を見ながら入れてください。
入れすぎると、りんごの風味がなくなっちゃうんですよ。
市販のプレザーブは、保存の意味で多く入っています。
きょうのりんごだったら、甘いので、生のままパンに入れてもいいぐらい。
そういうときは長めにオーブンに入れてもらえば、りんごが蒸されます。
シナモンを合わせてもいいんですが、りんごの風味をマスキングしちゃうので、僕は好きじゃないんですよ。
せっかくいいりんごがもったいない」

パンの中に包餡するようにりんごのフィリングを入れ、さらにアーモンドビスキュイも入れる。
「きょうはりんごがやわらかかったので、食感を出すために、アーモンドビスキュイを用意しました。
オペラっていうケーキがありますよね。
あの生地と同じもの。
60gで分割した生地の底にビスキュイを入れて包みます」

山韻気鵑砲茲辰討いしいパンとなった希望のりんご。
フランスパンらしい引きがありながら、食べてみるとむっちりしてやわらかい中身。
味にも食感にも、ぶつかってくるところが全然ない。
この生地はあっさりしているのに、なんだか味わい深いのだ。
パンのすっきりしたおいしさと、りんごのフィリングはすごく響きあっていた。
りんごの香りは濃厚であってうつくしく、けれども甘さはすっきりして、引きが早い。
ビスキュイによるもうひとつの甘さは、りんごを活かすアクセントにもなっていた。
山韻気鵑蓮希望のりんごの個性をとてもうまく活かした。

京都の人気ベーカリーチェーン志津屋から、小林健吾製パン部部長が登場。
「大きく焼く京黒豆のパン」を実演した。

「パン・ド・ロデブ的な配合で作ります。
ロデヴはしっかりと火を通すのが大事です。
きょうのは大きく2キロで焼いているので(水分が保持され)、しっとりもっちりです。
焼き上がってから切ります。
日本製粉のブリリアントは、歯切れがよくて、もっちりしているのが特徴です。
これを100%使います。
それから、月桂冠さんの酒種ペースト。
しっとり感や甘酒っぽい風味を出す効果があります。
水は70%で仕込んで、さらに10%を捏ね上がってから足していきます」

大きく伸ばした生地に、黒豆を入れ、2つ折りにしてはさみこむ。
「(冷蔵でオーバーナイトさせた生地は)必ず復温させてください。
冷たいままだと窯伸びがよくないんで。
せっかくふわっとしているので、麺棒でがんがん伸ばさないで、なるべく手で伸ばしてください。
京都のパン屋なので、丹波の黒豆を使っています。
黒豆を生地に折り込んで成形します。
窯に入れる前に、生地の上にサイコロ状に切ったバターをちりばめます」

フォカッチャのように、大きく、平たく焼いたパン。
表面ぱりぱり、中もっちり。
揺れ動くトランポリンの上にのった皮、そんなイメージの食感だった。
表面で溶けて生地と混ざってないだけに、バターがなんとも愉楽的な香りを放っている。
それが噛むごとに黒豆と合わさって、どんどんおいしくなっていく。
味わいとしても、あっさりとしつつ穀物感が強調されてもちのようなので、ますます黒豆と合う。
口溶けもよく、口の中ではや液体に変わって、黒豆の甘さと合流するのだった。

毎回お楽しみの昼食はZopfによるもの。
鶏肉をオリーブオイルにローズマリーとともに漬け込み、オーブンで焼いたもの。
上から、トマトソースと、パプリカ、パルメザンをのせて。
トマトの酸味と鶏肉の脂が合わさって、実にパンがすすむ。
にんじんのつけあわせはクミンなどとマリネされていて、スパイス感が加わることで、鶏肉をまたひと味変化させておいしくする。

それから、山吋轡Д佞砲茲襯侫カッチャ。
講習会場の隅でいつも説明もなく準備しているのだが、何度食べてもおいしい。
オリーブオイルによって小麦の味わいは引き出され、しっとりした生地はそれを存分に活かす。
酸味に満ちた粒のオリーブのフレッシュさもこの生地に抜群に合う。

デザートに、希望のりんごを使ったタルトも山吋轡Д佞郎遒辰討れた。
タカナシ乳業株式会社により、リコッタ、フロマージュブラン、マスカルポーネ、クリームチーズなどが添えられ、マリアージュによる味わいのちがいをテイスティングできたのも楽しい体験だった。

午後は井上シェフにより、めずらしいロシアのパンが作られた。
リング型の生地にけしの実がつけられたものはブーブリク。
15分しか発酵をとらない速成のパンである。

「ブーブリクの成形です。
このリング状の形に、けしの実をつけるのが伝統です。
(生地を手のひらで伸ばしながら)3つ折りを入れてから伸ばしたほうが、力がつきます。
つなぎ目の部分は細くして、包むように連結します」

「もうひとつ、プリューシカ・マスコフスカヤはモスクワのパンです。
プリューシカは「平たく伸ばす」という意味、マスコフスカヤは「モスクワの」という意味があります。
バターではなく、マーガリンを使います。
ロシアにはバターは置いてないからです。
ハムロールと同じような成形。
ぐるぐるっと巻き込んで、生地の真ん中にナイフで切れ目を入れ、開く。
ハート形にして焼きます。
このハート形に誇りがあるそうなんです。
ブーブリクとプリューシカ・マスコフスカヤは、本当は別の生地なんですけど、きょうは同じ生地で作りました。
両方ともたいして変わらないんですよね(笑)」

プリューシカ・マスコフスカヤはおもしろい食感をしていた。
表面だけは極端にかりかり、クラッカーのよう。
反対に、中身は目が詰まって、もっちり。
中から滲みだしてくるマーガリンの味わいとかりかりが相まって、まるで焼菓子のようだ。
発酵時間が短いことによって、かえってこのような食感を生むのだろう。

伊原さんはもう一品、ベーマーバルトブロートを披露した。
ライ麦90%に、石臼挽きの小麦粉と、サワー種、レストブロート(古くなったパン)を入れて作るドイツパン。

「日本製粉のグリストミルを10%入れています。
グリストミルを入れると、甘くなります。
モルトの味を引き出す。
すごくいい粉で、これ一本でバゲットを作ってもすごくおいしい」

サワー種を簡単においしく作るコツは市販のスターターを使うことだと言う。
「ライサワー種は手こずるところですよね。
なんでも手づくりのほうがいいというより、簡易種を利用してもいいのです。
ライ麦パンってなかなか売れないんですよ。
食べ方を提案しても、お客さんはあんまりやってくれないし。
それだったら、ライ麦パンで惣菜パンなんかを作ったり、工夫をしてったほうがいい。
ボッカー社(ドイツ)さんのTKスターターを使います。
乳酸菌種はサンフランスシコ乳酸菌です。
元種が安定しているので、起こした種も安定する。
安定というのは、いつも同じ香り、同じ味になるということです。
種って、やわらかくてあったかいと酢酸が減って、すっぱくない。
反対に、硬くて冷たいと、すっぱくなるということです。
スターターを使えば、(種継ぎなしで)1回でできちゃうので、好みの味にするには温度と硬さとライ麦粉の種類で調整すればいい」

市販だからおいしくない、手づくりだとなんでもおいしいというのは、思い込みだと伊原さんは言う。
市販のものでも、ひと工夫することで、自分らしい味にすることもできる。

「サワー種を使ってもすっぱくならない方法。
粉末ライサワーはパウダー状の種です。
粉くささが気になるのであれば、使う前に2〜3時間水を吸わして、水和させればいいんですよ。
それで冷蔵庫に入れておけば、大丈夫。
出来合いでも、自分でアレンジすれば、おいしくできます。
それから、発酵種をカビさせないいちばんのポイントは、ラップをしっかり貼りつけることです。
ライサワーを起こして、小麦粉でつなげばホワイトサワーになる。
でも、ライ麦のほうが小麦より安定しているので、ライサワーのまま持ってたほうがいいかなと思います」

ドイツパンに並々ならぬこだわりを持つ伊原さんは、サワー種を上手に作るコツ、うまく使いこなすコツをたくさん教えてくれた。

「ドイツパンはフランスパンよりもっと簡単に家庭でもできますよ。
サワー種さえできてればね。
つまり、スターターを買っちゃえば、簡単なんです。
ライサワーを食パンとかに入れてもおいしいです。
もち感も増えるし。
ライサワーはドイツパンにしか使っちゃダメだと思ってるでしょ?
パン作りは、ダメなことがあると思っちゃダメなんです」

最後に、各シェフの作ったパン(お菓子)をまとめておく。

小林健吾さん
・大きく焼く京黒豆のパン
・くるみのパンコンプレ

井上克哉さん
・トルテ
・ブーブリク

伊原靖友さん
・あんマーブル
・ベーマーバルトブロートR90W10

山泳さん
・オプストヨーグルトブロート
・陸前高田リンゴパン


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2冊の本、2人のパン職人 志賀勝栄著『パンの世界』
シニフィアン・シニフィエの志賀勝栄シェフも職人の中の職人にちがいないが、そのありようは松崎さんと対称的である。
ビオブロートのパンが伝統の中に回帰していくように見えるのに対し、志賀さんは『パンの世界』の中でこう書く。

「人間の歴史の中で誰も味わったことのない風味、誰も経験したことのない食感を目指しているわけです」

サブタイトルにある「基本から最前線まで」を語るのに志賀さんはうってつけである。
志賀さんほどにいつも最前線に立ちつづけ、遠くまで歩みを進めたパン職人は現代にほとんどいないのだから。

私はある期待をしながら本を開いた。
志賀さんに話を聞いているときに感じるわくわくどきどき感を、ページからも感じられたらと。
志賀さんのパンの現場ではいつも新しいことが起こっている。
パンの可能性は新たに開かれ、大げさかもしれないけれど、それは人類の未来さえ切り開くのではないかと実感する。
言葉を換えれば、知的好奇心が心の中で飛び跳ねて仕方ないのだ。

第2章「日本のパンの可能性」では自らの歩みを振り返る。
半生を振り返ることが即、日本におけるパンの可能性の探求の記録とイコールになってしまうところが、志賀さんのすごさだ。
たとえば、いまや当たり前の技術となったが、「発明」当時は驚異をもって迎えられた低温長時間発酵バゲット。
(実はドンクのシモン・パスクロウさんに教えてもらった、フランスの戦前のパンのレシピが元になっていることが書かれているのも興味深い。)
それは日本のパンのレベルを格段にアップさせるとともに、寝ている間に発酵が進められるために、多くのパン職人に睡眠時間を与えた。
発酵時間を変化させるだけで、おいしさという付加価値が付け加えられ、作業工程さえ省略される。
この気づきは志賀さんの方向性を決定づけた。
「発酵のもつ新たな可能性に目覚めたのはこのときからです。私の原点だと思います」

第3章「小麦粉を考える」。
国産小麦の時代を迎えて、ますます必要となる小麦についての理解にうってつけの手引きである。
原産地や、グルテン・灰分(ミネラル)のことなど、基本中の基本。
わかるようでわかりにくい、国産小麦、北米産小麦、ヨーロッパ産小麦のちがいについては、端的にこう書かれる。

「日本の小麦はいまだに黄色っぽい。土壌にカロチノイドが多いのか、キタノカオリなんて黄色と表現していい色をしています。そして甘い。土壌が石灰質のヨーロッパの小麦粉はグレーがかっていて、味はシャープです。アメリカの小麦粉は白くさっぱりしている。灰分が高いほうが、味の印象はストレートに出てきて、その分ヨーロッパの小麦は主張があるのですが、アメリカの小麦にはそれがない」

北海道・十勝でのパンのレベルアップに注力した人だけに、追肥の問題や穂発芽など、小麦と農業の関係にまで踏み込んでいる。

発想のジャンプ。
志賀さんのわくわく感を言い表すならそんな言葉になるだろうか。
それがもっとも感じられるのは最終章「パンを作る」。
パン入門書であるから、ミキシングやベンチタイムといった基本が解説される。
ところが、「私の場合は」という段になると、アクロバティックな技が繰り出されることとなる。
「幅の狭い塀の上を歩いていて、1ミリ踏み外しただけで下に落ちてしまうような世界」
と表現する、製法のぎりぎりを突くパン。
工程でのさまざまな工夫がパズルのように複雑に組み合わせられることによってそれは生まれてくる。

たとえば、志賀シェフのスペシャリテ「バゲット・プラタヌ」がミキシング4分、17℃で18時間発酵させるのはなぜなのか。
レシピ本であれば、数字だけで終わってしまうところを、その根拠まで記してある。
深い考察に満ちて。

「バゲット・プラタヌの小麦粉は、フランス産のオーガニックとカナダ産小麦の2種類のブレンドです。
オーガニックは残留酵素が多く、長時間こねると、酵素がどんどん生地の中へ出ていく。酵素がたっぷりあれば、発酵には役立つはずです。しかし、タンパク質やデンプンが分解されすぎてドロドロになると。成形もできない。(中略)長時間発酵で旨味を増したいと考えるなら、こね時間を最低限に抑えるしかありません」

「2日前に作った生地を置いておく場所すらないので、作業は24時間で終わらせる必要がある。(中略)
一次発酵は18時間より長くできない。その条件下でたどりついた温度が、バゲット・プラタヌなら17度なのです。
 温度を15度に下げると、18時間の発酵で同じ旨味を出すことはできません。18時間で発酵させるには、酵母の投入量を増やすしかなくなる。しかし、酵母を増やすと、それだけ糖分が消費される。アミノ酸、核酸、有機酸と並んで、糖分も旨味のひとつになるからそれは避けたい。(中略)
 糖の消費を最低限に抑えたうえで、きちんと発酵させなければいけない。パンの骨格になるグルテンも、ギリギリつなげておかないといけない。そうした条件をひとつずつクリアしていった落としどころが、バゲット・プラタヌの場合は『17度で18時間』でした。」

「17度での発酵だと、ときに酵素が大暴れする」とも書かれる。
温度を下げれば、発酵は容易になるが、狙った旨味は出ない。
さまざまなファクターがせめぎあう、ガラス細工のバランスの上に、志賀勝栄シェフのパンはある。

志賀さんが自分の本を読んでほしいと思っているのは、実は若いパン職人であると前書きに書かれる。
既存のレシピをただ踏襲するのではなく、自分の頭で考えたオリジナルのパンを焼くために、理論の深い理解は必須だ。
それを助けるのに、これほどの好著はない。(池田浩明)


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2冊の本、2人のパン職人 松崎太著『ベッカライ・ビオブロートのパン』
『パンの世界 基本から最前線まで』(志賀勝栄著、講談社選書メチエ)
『ベッカライ・ビオブロートのパン』(松崎太著、柴田書店)

2ヶ月あまりのうちに出された2冊の本を机の上において、私は満ち足りた気分でいる。
大好きなパン職人2人が立て続けに本を出したのだ。
偶然ではあるが、この2冊はよく似ている。
口絵、及び巻中のカラーページをのぞいて、写真がなく、字ばかり。
そして、読者として想定されているのが、同業者だけでなく、パンに多少なりとも関心のある一般読者なのである。
パン職人が出す本といえば、たいていはレシピ集であり、そこにあるのはカラー写真とレシピが主な内容である。
この2冊はそうではない。

ベッカライ・ビオブロートの松崎太さんは以前話していた。
ドイツでマイスターの学校に通っていた頃、古書店を探し歩いて買った昔の本を読んで勉強した。
それは字ばかりの本で写真はなかった。
ひるがえって、日本の本はなぜ写真が多いのだろうと。
松崎さんは字ばかりの本を書いた。
本書の前半では自らの半生を追っていて、松崎さんのパンを知るためにどうしても必要なのである。

上記したような写真ばかりのパンの本には、たくさんのパンのレシピが提示されていて、それらはすっかり完成した状態にある。
松崎さんの本には、「フォルコンブロート(全粒粉のパン)」と、その派生形である「ラントブロート(サワー種を使った大型パン)」の2種のレシピしかのっていない。
そして、そこに至るまでの失敗や、成功の元となる着想を得た瞬間について書かれている。
こんな具合に。

「このときに先生が、『28℃を超えると発酵過多で種がダメになってしまうから絶対に超えないように!」と言った。(中略)そこで他の生徒が28℃になるように材料の温度を測って、水の適温を計算するなか、僕は30℃になるように計算した。先生にはもちろん内緒で。
 ところができあがった種はなんと32℃近くとなってしまった。(中略)
 翌朝、先生が一人ひとりの種をチェックし始め、僕は、内心ドキドキしていた。さすがにまずかったかなぁと思った。
 僕の番になった。先生が種の膨らみを見て、香りをかいで、こう言った。
『Sehr Gut!(ゼアグート、とてもよい!)』」

そのあとでラントブロートのレシピを見ると、種を起こすときの温度は32℃になっているのだ。
もうひとつ大好きな箇所がある。
松崎さんが敬愛する師匠、小麦畑に囲まれたオーガニックのパン屋を営むユルゲン・ツイッペルについて書いているところだ。
ひとつ説明しておくと、松崎さんは毎日パンを焼き、ランニングし、読書することを日課としている。

「ユルゲンは丸めの段階で、一瞬、てのひらを生地の下に滑り込ませるようにして、見事に生地をとじてみせた。(中略)
 そのちょっとしたことを習得するのに、僕はかなりの時間と労力を費やした。ユルゲンの動きが頭には残っているのに、どうしても丸める動作から閉じる動作への一瞬の切り替えのタイミングがつかめなかった。
 ある日、僕は仕事を終えて、近所の湖の畔(ほとり)をいつものようにランニングしていた。(中略)
 最後のアップダウンの坂を越えて、なにげなく腕をプラプラさせたときに、突然そのタイミングをつかんだ。なぜだかわからないがそう確信した」

なにかをつかむことは一瞬にして起こる。
そして、そこに至るまでの道は途方もなく長い。
私は職人にあこがれる。
なぜかといえば、彼らは試行錯誤を繰り返しながら成長し、技術を自分のものにして仕事だからだ。
松崎さんは数少ない全粒粉のパンしか焼かない。
たったひとつかふたつの「自分のパン」を焼くために人生をささげる人がいることに私は感動する。
こつこつとパンを作り、もくもくと走り、たんたんと本を読む。
このような繰り返しの音をもつ言葉が、私にとっての松崎さんのイメージだ。
この本はライターが聞き書きしたのではなく、松崎さんが自ら書いた。
私は松崎さんの文章に、パンを作るときと同じリズム、同じ息遣いを聞く。(池田浩明)

(つづく)



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パンキャラバン

12月3日、プランタン銀座でパンまつりが開催される(〜9日まで)。

その中に登場するのが「パンキャラバン」。

パンで旅するパンキャラバンは、その日のパンを食べる。


今回が初の試みだったパンキャラバン、何とスタートは沖縄にしてしまった。

少し前のブルータスカーサのパン特集でも沖縄はパンの聖地みたいなこと書いてたよね。

実際いいパン屋さんがたくさんあるから。


沖縄の当日のパンを東京で食べるって。。。


飛行機で飛んで来るのさ!!!


かなり困難だったけど、何とか夕方5時くらいにはプランタン銀座にパンが届くように出来た。

この企画のミーティング@沖縄のときの写真がこれ。



ちゃんとミーティングもしたけど、その後はみんなが持参したパンを囲んでパン食べ食べ会♫

おいしいしたのしいし、すんごくいい一日だった。


あのミーティングから2ヶ月、何とかパンキャラバンが走れることになった。

朝から一番遠くは北のほうにある八重岳の頂上の八重岳ベーカリーにはじまって、

名護のパン・ド・カイト、パンチョリーナから車を飛ばして、

途中でさらにパンをピックアップし、10時前に那覇空港。

お昼頃の飛行機に乗り、午後羽田着。

空港でしばし足止めを食らって、その後猛ダッシュで銀座へGO。


そんなスケジュールなので、パンが届くのは夕方。

でもその日(深夜?)に焼かれたの沖縄のパンがやって来る。

いろんなパンまつりがあったけど、沖縄の当日パンがあるのは「初」でしょ。


出店は日よって変わるし、数も限定なので、出たとこ(行ったときが)勝負。

そんでもって5時までは何もないわけぢゃない。

沖縄名物オキコパンの「ゼブラパン」と「うずまきパン」の販売

(これも沖縄以外ではほとんど販売されていない/通信販売はあるけどね)もあるし、

今回のパンキャラバンのために作った沖縄パン屋さんマップもある。

これはプラウマンズランチ&ベーカリーの屋部龍馬君(写真後ろ側のヒゲと帽子のひと)が

お友達のデザイナーまさくんと作ってくれたもの。

「沖縄のおいしいパン屋さんマップがほしい」という私のわがままから生まれたこのマップは、

私の想像よりもずっとずっと素敵でクリスマスプレゼントにしようと思ってる。

200円だし(写真は100円ってなってるけど、これは間違い)。



早く12月3日にならないかな〜。

あっ、でもその日はオーヴェルニュでパンセミナー「クリスマスのパン」だ。

4時半には終わるだろうから、ギリギリ沖縄のパンにありつけるかな。

ダッシュしよっと。

みんなも当日の沖縄パンめがけて、5時にプランタン銀座へGO!!!


◎ ○ ◎ まさこぱん ◎ ○ ◎


パンの漫画

JUGEMテーマ:美味しいパン

渡邉政子さん comments(0) trackbacks(0)
新オープン! 小麦畑のあるベーカリーカフェ「ファールニエンテ」
パンが障がいのある人の社会参加に本当の意味で役立つために。
チャレンジングな試みに踏み込む施設が登場する。
横浜市泉区、横浜市営地下鉄の下飯田駅前の、巨大な三角屋根の建物。
スキー場かゴルフ場のクラブハウスのような豪華な建物がファールニエンテ。
パン屋であり、石窯を備えた本格的ピッツェリア、生パスタを売りにするイタリアンレストラン。
そしてなにより、注目すべきは、このパン屋に小麦畑があることだ。

ファールニエンテの母体となっているのは、障がい者の作業施設である共働舎。
障がいのある人のパン・菓子コンテスト『チャレンジドカップ』で日本一になったこともある、製パン分野でパイオニアといえる施設。
大きな夢に満ちた構想は、広大な土地を利用しないか、という話が不動産業者から持ち込まれたことにはじまった。
ファールニエンテの鈴木康介さんは語る。

「障がいのある人の施設を建てないかというお話があった。
敷地が広すぎるし、暮らすためだけの施設なら土地がもったいない。
そしたら、作業所のような施設がいいんじゃないか。
最初の構想は小麦畑があるということ。
それから、レストランもやってみたい。
畑は2反あり、1反は小麦、1反はレストランで使う野菜を作ろうと思っています」

広大な土地が駅前に。
ここは市街化調整区域にあたり、農地を保全することが義務づけられているため、一等地に残されていたのだ。
そもそも共働舎は、パンだけでなく、小麦作りも行っている。
神奈川県秦野市に畑を借りて、障がい者の手によって種蒔きから収穫を行い、事業所内に石臼を置いて製粉、「ぼくらの小麦」というブランド名で販売、神奈川県内のパン屋などでも使用されているのだ。

ファールニエンテには1000坪の敷地があり、店舗に隣接する畑で1tの小麦を収穫、自家製粉してその小麦粉によってパンを作る。
これから種蒔きを行い、来夏にはうつくしい実りの光景が姿を現すだろう。
パンが自然の恵みとしてあることを、消費者の目の前でわかるように展開する。
消費地と生産地が共存する横浜市泉区ならではの事業。
農業の発展のために六次化(生産・加工・販売を一手に手がける)が叫ばれる現在、北海道・十勝の麦音などにつづいて、日本でも数少ない試みとなる。
共働舎の施設長で、ファールニエンテのプロジェクトオーナー萩原達也さんはその意義を強調する。

「横浜市泉区は面積の半分を農地が占めるほど、農業が盛んです。
いま農業従事者が減って、どんどん高齢化している。
農業は大事な産業。
ファールニエンテは入り口(生産)と出口(販売)を一体につなげている。
この場所だったらできる」

ファールニエンテは夢に踏み込む。
そうした施設を、障がい者の手を借り、ゆだねながら運営していくのだから。

「現在、20人の利用者(作業施設で働く障がい者のこと)がいます(定員は40人)。
その人たちがシフトで動いて、365日営業します。
この施設では3つの事業『就労移行支援事業』『就労継続支援B型』『就労継続支援A型』を行います。
就労継続支援A型は、障がいのある人と雇用契約を結ぶ。
最低賃金をクリアする890円の時間給を支払います」(鈴木さん)

この施設が画期的な理由はここにある。
障害者自立支援法に基づいた雇用の形態は3つに分けられる。
そのうち、就労継続支援A型は、通常の事業所に雇用されるのが困難な人に対して雇用契約を結んで、最低賃金以上の給与を支払うものだ。
パン作りを行う作業施設の大部分は就労継続支援B型で、雇用契約は結ばない。
最低賃金さえ支払われず、作業所の売り上げに応じての支払いとなっている。
理想は就労継続支援A型であるけれど、雇用契約を結ぶことは、当然施設の経営をむずかしくする。
それでも、ファールニエンテは、障がいのある人に健常者と同等の社会参加を行ってほしいという理想のために、それを行うのだ。

売り場にせり出した、円形の石窯。
障がいのある人が果たしてピッツァを焼けるのか、不特定多数が訪れる環境は精神的にハードではないかと心配した。
ところがそうではなく、これも障がいのある人に社会参加を促すための舞台装置なのだ。
そのヒントを、萩原さんは横浜市青葉台のプロローグ・プレジールから得たという。パン屋に隣接するカフェスペースでピッツァやパスタを供するこの店は、休日には行列ができる人気店となっている。

「共働舎では3,4年前から、プロローグ・プレジールの山本敬三シェフに教えてもらっていて、窯ができる人もいる。
障がいのある人も十分できる仕事です。
共働舎の利用者にも40代が増えてきて、ご両親が亡くなられる人が出てきた。
障がいのある人って、親が死んじゃうと、名前を呼んでくれ る人ががくっと減るんですよ。
そうすると、社会的なつながりが減って、その人の生活の基盤が危うくなっちゃう。
こういうお店に立って、石窯でピッツァを焼いているところが見えれば、お客さんに顔と名前を覚えてもらえる。
世間の人とつながれるのは、障がいのある人にとってすごく大事なことです。
なにもできないかわいそうな人じゃない。
いろんなことができる。
そういうことを知らせる舞台として、いい場所になったと思います」

障がいがあるからといって、お店に行くことをためらったり、就きたい仕事に就けない社会であってはならない。
健常者も障がいのある人も区別なく働き、飲食や買物ができる場所が、ファールニエンテである。

強力なバックアップがある。
チャレンジドカップを主催する特定非営利活動法人NGBCは、障がいのある人のパン・お菓子作りを支援している。
大繁盛店プロローグの山本シェフをはじめ、NGBC所属の人気店・企業が、ファールニエンテを、是が非でも成功に導こうと応援している。
ブーランジェリー・ボヌールは接客の研修を受け入れている。
この店の象徴となる石窯を作った櫛澤電機はまた、主宰する「パン屋さんよろず相談室」で培ったパン屋開店支援のノウハウを、注ぎこむ。

「みっちゃん(櫛澤電機澤畠光弘社長)は、駅前、幹線道路沿いで、広い駐車場があるこの立地なら、1日100万売れる店も不可能ではないと太鼓判を押してくれています。
箕輪さん(ブーランジェリー・ボヌール社長)には接客の研修をしてもらったし、応援の人もよこしてくれている。
みんなが協力してくれないと、この店はできなかったでしょう」(萩原さん)

中心となってパンを作るのは、パン屋さんよろず相談室でたくさんのパン屋を開店に導いてきた足立総次郎さん。
このベテラン職人は、横浜市泉区産のゆめしほうを石臼で挽いた「ぼくらの小麦」を使って、どんなパンを作るのか。

「この『ぼくらの食パン』は国産小麦100%、そのうち『ぼくらの小麦』は50%入ってる。
他のパンにも少しずつ『ぼくらの小麦』が入ってるんだよ。
だけど、なんでもかんでも入ってるわけじゃなくて、フランスパン、リュスティックみたいな、歯切れを出したいパンが中心。
国産小麦はタンパク値が低いから、皮のざくっとした感じが出るでしょ。
石臼で挽いていて風味がいい小麦だから、パンの香りもよくなってくる。
(『ぼくらの食パン』を見せながら)普通、国産の全粒粉を50%使ったらこんなにふっくらならないよ。
よくできてるでしょ?(笑)」

ぼくらの食パンからは甘い香りが発せられていて、そのうち濃厚な香ばしさとなる。
口溶けに驚く。
口に入れた瞬間から中身はなし崩しになっていくのだから。
小麦が甘く、そしてうっすらとミルクの甘さ。
毎日食べられるやさしい濃度で。
そして、石臼で挽いた国産小麦らしい草っぽい香りは襲いつづけて、畑のイメージを伝えてくる。

食パンのラインナップが充実しているのはうれしい。
私が注目したのは、イタリア食パンである。
型に入れず、丸くつくる。
オリーブオイルの香りが鼻腔に抜け、舌を刺激する。
そして、小麦といっしょになってうまみとなり、唾液で溶けておいしい液体となって、舌を潤す。
それが、喉へ流れこむときの快感。
ちょっと引きがあり、香りには穀物感を残す。
でもイタリアのパンよりも、もっとふっくらしていて、ストレスはない。
食パンとイタリアのパンのいいとこどり。
朝食にも、パスタなどイタリアンにも合わせられる、この店らしいパン。

障がいのある人の手で高品質なパンを作り、ストーリーによって付加価値をつけ、きちんとした価格で売る。
たとえば、「プレミアムホワイトブレッド」は、1斤が500円を超す特別な食パン。
国産のホップから発酵種を起こし、手間と材料を惜しまず作られる。
山梨県北杜市の生産者・浅川定量さんによるホップ。
そもそも浅川さんとの関係は、NGBCと共働舎が協力し、山梨県で小麦を生産しようとしたときにはじまる。
仲立ちとなったのが、八ヶ岳「バックハウスインノ」の故・猪原義英さん。
自ら小麦を生産、自家製粉してパンを作るパイオニアである。
素材の生産とパン作りがともにあるという理想は、猪原さん亡きあとも生きているのだ。

「プレミアムホワイトブレッドは1CW(カナダ産小麦)のおいしいところをそのまま食べさせたいので、『ぼくらの小麦』は入れてない。
ふわっとさせたいのに入れちゃうと、生地が締って硬くなっちゃうから。
昔からホップ種は作ってたんだよ。
新商品を作るために努力してるんじゃなくて、いろんな人とつきあってるうちに自然にストーリーができちゃう。
猪原さんが小麦作りを習った人が浅川さん。
米もめちゃくちゃうまい。
麦もすばらしくて、粒がこんな大きくて、中身がぶちっと入っている」

人と人の共感やつながりから、素材が生まれ、パンが生まれる。
そうした水平な関係性は、パンを指導する足立さんと、パンを作る利用者(障がいのある人)とのあいだでも変わることがない。

「この店を成り立たせるために、いっぱいパンを作って、いっぱいパンを売らなきゃいけないといったって、それだけじゃ済まない。
ここは就労継続支援A型の施設だよね。
俺がパン作りをぜんぶやって、『どうだ、売れただろ』といっても、それじゃ駄目なんだよ。
ここにいる人たち(利用者)のもってるものをどれだけひっぱりだしてやれるか。
それは俺の腕にかかっている。
このデニッシュ見てよ。
仕込みして、シートバター使って3つ折して、カットして 成形と、ぜんぶやってもらってるんだからね。
(はじめたばかりの人、長期間つづけて働いている人のデニッシュを比べながら)これだけ進歩したんだよ。
こういうことしてかないと、この施設を作った意味がなくなっちゃう。
俺の思いはここにあるんだよ。
個々の利用者にどうやってスキルを教えるか。
売り上げだけあげるなら、職人がぜんぶやりゃいいじゃん。
袋入れるのだけ、利用者さんにやらせたりというのではなく、個人個人がぜんぶの仕事をできるようにならないと駄目じゃん。
そのために、おだてたりすかしたりしながら、大変なんだから(笑)」

健常者が働いて、パン屋をなりたたせる。
それだけでも簡単ではないが、ファールニエンテで足立さんがやろうとしていることは、それにとどまらない。
障がいのある人が、材料の計量から生地の仕込みまですべて行ってパンを作り、最低賃金を支払って経営を行っていく。
そのために、かってシェフをしていたパネテリア・ピグロをたたんで、共働舎の厨房に入り、1年間パン職人を育成した。

「仕込みのとき、生地を発酵させるときの温度や湿度の把握や、時間を計ったりすることはできるよ。
見極めほとんどわからないけど、繰り返しやっていけば、だんだんわかるじゃん。
生地温度の調整もどうにか自分でできるようになった。
でも、やり方覚えるけど、忘れる。
このあいだまでできてたのに、忘れちゃうわけ。
『えっ!』てなるよ(笑)。
普通は『やれてただろ!』って大きい声を出しちゃうじゃん。
こういう子たちに、やってもらうためには辛抱しなきゃいけない。
俺はいらいらしたりしないし、辛抱でもないんだけどね。
その子なりにやってればいいと思ってるから」

障がいのある人が尊重されて働き、生きていく術としてのパン作りの技術をマスターすること。
そしてなにより、消費者がパンやピッツァを食べて楽しみ、ひとときのやすらぎを得ること。
ファールニエンテとは、イタリア語で「なにもしないこと」(dolce far nientet=なにもしないことの甘美さ)を意味する。
障がいのある人が楽しく働き、お客さんが声をかけという環境。
それは、ファールニエンテな時間を過ごすのに、まさにうってつけではないか。
障がい者と健常者がるべき関係を築く実験がいまはじまろうとしている。

ファールニエンテ
横浜市営地下鉄ブルーライン下飯田駅、相鉄いずみ野線ゆめが丘駅
横浜市泉区和泉町1011-1
045-392-3225

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