パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
銀座レカン割田シェフ講習会レポート
9月10日、銀座レカンの割田健一シェフが、講習会を行った。
場所は、パン用のフィリングなどを作る正栄食品工業の、最新設備が整った快適な講習会場。

フランス産小麦を使った「バゲット・ポーリッシュ」。
割田シェフによるパンを出すルシャスリヨンで、いつも私を恍惚とさせているバゲットのアレンジバージョンである。

「ポーリッシュは液種ということです。
ポーリッシュ種の作り方って、目の前で見ないとわからない。
あるMOF(フランス国家最優秀職人)の講習会でアシスタントをやったとき、怒られたことがある。
『おまえのポーリッシュはちがう』って。
繊細にやらないといけない。
木べらとかで混ぜるのではなく、空気を抱き込ませるように混ぜる。
コシを与えるのと、空気を入れるのが目的」

割田さんは手ですくって高々と持ち上げるようにしながら、種を混ぜていく。
レシピに書き込めないポイントがこんなところにあった。
手順を示したあと、実際に使用する、前日に仕込んだ種を冷蔵庫から取りだす。

「この種を見てください。
ぼこっときて、少しふくらんだ感じ。
前日に3時間ぐらい発酵させたものです。
この状態になったら、5℃〜0℃の温度帯があるチルドの冷蔵庫に入れて発酵を止めれば、翌日すぐ使えます。
力をつけたいちばんいいところで保存して、種の発酵力をそんまんま利用させてもらう。
これがあれば、当日は4時間でバゲットができる。
小麦の風味を感じるバゲットが焼き上がります」

本捏ねでのポイントは水の合わせ方にある。
「フランス産小麦は、デコローニュと、アルカンのファリーヌ ブーランジェール T65の2種類を使います。
石臼で挽いたものをフランスから直輸入しているので、香り立ちがいいです。
仕込むときはむずかしい。
デコローニュは扱いづらく、すごくだれやすい。
普通に水を入れるとだれる。
水を少なめにしてしっかり生地を作ったあとで、バシナージュ(捏ねあがった生地に水を足していく手法)で入れます」 

塩は2種類使って味に奥行きを出すのは割田シェフが得意とするところだ。
「粉がフランス産なので、塩もフランス産を入れました。
ゲランドの塩、粗いものと細かいものを。
うちで入れる塩はぜんぶブレンドしています。
細かいものと粗いものであったり、国産と外国産であったり。
粗い塩を入れるのは狙いがあります。
日本では、ハード系のパンは皮がやわらかくなる。
それは気候なので解消できません。
そういうときでもかりっと感を残せないか。
クラストではなく、塩でかりっとさせられるように粗い塩を入れています」

バゲット・ポーリッシュを食べる。
フランス産小麦のポテンシャル。
まるでバターを塗ったみたいにコクのあるバゲット。
塩の力なのか、粉の力なのか、皮がオイリーにとろける。
皮も気泡膜も剥がれるように薄い。
中身にも皮同様にとろける感覚と、エロティックな味わいの変化がある。
ピュアな小麦の旨味とともに、繊細な穀物感の淡さがやがて溶けだしてくる。
そして、最後のもう一段押し込んでくるミネラル感。

独特の形にはこのような狙いがある。
「粉と水のジューシーな感じを味わってほしい。
だから真ん中を太くしています。
もうひとつ、フランスの粉はかりかり感があるので、先は尖らせている。
いいとこどりの形です」

国産小麦を使用するバゲット・オーバーナイト。
パンの食感を決める大事な成形は割田流の少し変わった方法だった。
名前の通り、一晩熟成させた生地を会場に持ちこみ、参加者全員に成形を実践してもらう。

「すごくやわらかい生地なので、びっくりされると思います。
うちの生地はやわらかくて成形できない。
(普通の成形のやり方を実演しながら)これだと生地が締まりすぎちゃうんですよ。
締めてはいますけど、締めすぎない。
これぐらいのやわらかさでぽんといったほうがいい。
そうすると、僕の好きなさくっと切れる食感になります。
ぎゅっとやるよりこれぐらい。
そのほうがおいしそうに見えませんか?」

普通の成形ではバゲットを折り畳み、手のひらの分厚いところを使って、綴じ目を締めていく。
ところが、割田シェフは2度生地を折るような動作をしているだけに見える。
いとも簡単に、ラフに、そして素早く、成形を行う。
生地は締めない。
けれども、しっかりと張らせて、空気を逃さないようにしている。
しかも、この生地はひどくやわらかいのだ。
ある参加者は「気持ちいいです。でもやわらかくて怖い」。
 
「できなくて当たり前です。
この成形の感じだけでも覚えてもらったら今日は大丈夫です。
僕も18からこの仕事やって、18年これやってる。
はじめの頃はバゲットの成形がむずかしくて、先輩みたいにはできないと思ってました。
ホイロ(二次発酵)は僕の成形で60分。
ゆるい成形をした人は40分。
締めた人はもうちょっととったほうがいいです。
僕がやったとのうちのスタッフがやったのでも10分ぐらいちがいます」

バゲット・オーバーナイトは、バゲット・ポーリッシュとまったく別の魅力を放っていた。
皮には麦らしい香り、あるいは竹炭のような清々しさ。
塩のミネラル感。
濡れた米粒から立ち上がってくるような力強い穀物感。
中身はややもちもち、ややぷりっとしている。
やがて、ガーゼに水が滲むように、舌にじわっと味わいが広がっていく。

昼食はこの講習会で割田シェフが特にこだわったものだ。
岩本町にあるブルックリンスタイルのバール北出食堂とコラボ。
4月に行ったイベント「北出サンド」で披露した「パンの開き」の進化系バージョンを披露した。

・季節野菜のテンペのせサラダ ディジョンマスタードドレッシング
(テンペとは揚げた丸大豆のこと)
・バターナッツスクウォッシュ(かぼちゃ)と赤唐辛子のポタージュ

対になる2つの具材をパンにのせ自分でサンドするのが基本。
単独で、あるいは別の具材となど、自分の好きな組み合わせにもアレンジできる。

・ソルトビーフ(ハニーディルマスタードソース) + 柚子サルサ
・パクチーシュリンプ (エビ)         + チポトレ(薫製唐辛子)ライムバター
・茹でダコのオーブン焼き            + レッドビーツバター
・イチジクとカッテージチーズのマリネ      + 生ハム
・薫製サーディーンのリエット          + プチトマトのカプレーゼ 

ソルトビーフ(牛肉の煮込み)のとろけぶりと柚子の香りの組み合わせは感動もの。
パクチーシュリンプは、エビに対して、唐辛子がぴりぴりしたりライムが香りを加えたりと、あっちからこっちからマリアージュが押し寄せる。
イチジクとカッテージチーズのマリネは、イチジクの甘さ、みずみずしさに、生ハムの中の肉の色気が反応する。
プチトマトのカプレーゼは魚のリエットと重なり合うことで、いままで食べたことのない複雑さとインパクトを獲得する。

これらの具材を割田シェフによる3種類のカンパーニュと自由に合わせる。
大きく焼いたものを、すごい切れ味を誇るギューデ社ブレッドナイフでひとりひとりが切り分ける。
あえて、焼いてから時間をおいたカンパーニュを提供している。

「昔っぽいスタイルで、大きく焼いたほうがおいしい。
昨日焼いたものがゴルゴンゾーラとトマト。
おととい焼いたものが「国産小麦のカンパーニュ あまくさ&クルミ&カカオニブ」とシンプルなもの(フランス産小麦のカンパーニュ)。
いま流行の熟成ですね。
このカンパーニュは3日目ぐらいがおいしいと思う」

肉で有名なあるフレンチレストランに割田シェフはカンパーニュを卸している。
この店では、大きく焼いた1個のカンパーニュを1週間かけて切り分けていく。
日々の味わいの変化を楽しみつつ。
パンの香りは毎日減少していくと思っていた。
ウェルメイドなパンにおいてはそうではない。
割田シェフのカンパーニュは日を追うごとに香りが増す。
そして、皮と中身、種と小麦といった部分は、相互にコミュニケートしあって一体感を増し、ひとつの味わいへと昇華していく。

午後はバニラ風味のクロワッサンCroissan Vanilleの制作に入る。
クロワッサン生地を使って、くるくるっと丸める成形を全員で実践。
家庭では作るのがむずかしいパンだけに生地に触れるだけでもわくわくする体験となった。
三角形にカットした生地を、手で伸ばして長く、薄くする。
その単純な動きの中にも味わいに関係するコツが潜んでいる。

「イメージ的にはまっすぐずーっと伸ばして、巻き数を増やしたほうが高く上がるのでおいしそうに見えます 。
でも、生地が薄くなるりすぎるとおいしくなくなるので、両方に折り合いをつけられるところを見つけるには何度も作らないと。
サイドはエッジがきちんと見えないと、形よく見えないので、伸ばさない。
真ん中だけのばすようにしてください」

クロワッサンを噛み砕く。
たしかに、割田シェフのクロワッサンはおいしそうにエッジが切り立っている。
表面に浮かんだバニラビーンズの黒いドットは裏切らない。
やや厚めの皮であることも手伝って、あふれるほどバターとバニラの香りが涌きでてくる。
それを支えるのは国産小麦のコクであり、強めの塩気とミネラル感によって際立たせられた甘さである。

贅沢なワイン入りのパン、パン・オ・ヴァン。
フィグ&マロン、フィグ&クランベリーと、2種類を作る。

「ワインのパンは好きで、いつも作っています。
高いワインを入れると繊細すぎて合わないので、安いもので大丈夫です。
いちじくは粉々になっているので、特有のじゃりっとした食感が出て、生地が甘くなる量。
そこにクランベリーと栗。
いまは夏なのか秋なのかわからないような気候なので、両方の季節を持ってきました。
クランベリーにはソミュール(オレンジリキュール)を入れました。
ドライフルーツ一本だと埃っぽい味がする。
マスキング効果でクランベリーのいいところが出ます」

生地にひねりを加えて成形する。
「トルデュというクラシックな形です。
混ぜ込んだ具材を内側に隠したいとき、自然な感じを出したいとき使います」

(アシスタントには、IBAカップ日本代表に選ばれた、ブーランジュリー オーヴェルニュ浅井一浩さん)

これはレシピにも書き込まれていた決めごとだったが、途中から丸い形に成形しはじめた。
丸めは作業台の平らなところを利用してするのが普通である。
ところが割田シェフは、右手と左手でお手玉をしながら空中で丸くする。
「ふわっとさせたほうがいいと思って、途中で変えた」
講習会は完成したものを披露する場のような思い込みがあるけれど、割田シェフはそれを飛び越える。
ときには、決めごとを守るより、そのとき感じたままにパンを作る。
割田シェフのパンにいつも自由さ、ライブ感を感じていたのはこのためなのだと合点した。(池田浩明)


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とかち小麦ヌーヴォー東京イベント出品FILE 01 銀座レカン
9月28日(日)に青山・国連大学前広場で行われる「とかち小麦ヌーヴォー東京イベント」
参加店の思いと、出品される商品を紹介していく。
第1回は、フレンチレストランのシェフブーランジェにしてモンディアル・デュ・パン元日本代表の実力者・銀座レカンの割田健一シェフ。
あくまで計画段階であるが、披露予定の3アイテムを紹介する。

1点目はコーンブレッド。
コーンを練りこんだ、アメリカンな甘いパン。
「粉っぽい感じのコーンブレッドです。
パウンドケーキみたいな生地。
ふわふわしてて、もっちりなコーンブレッドではなく、粉の味がする、重たいパンにしたらおもしろいかなと」

小麦畑ととうもろこし畑が交互に広がる十勝にぴったりな、田舎の風景を思い起こさせるパン。
キタノカオリのような、十勝小麦的な黄金色の甘さにコーンの甘さは相性抜群である。

2点目は十勝のあんこを使ったブレッドマフィン。
3月のイベント『小麦で旅する日本』のために作られ、大好評だった通称「池田マフィン」の「進化バージョン」がついに一般発売されるのだ。

「十勝のあんこ、北海道産のクリームチーズ。
あんことクリームチーズはすごく合いますから。
洋物と和物を合わせたパン。
そういう意味では、日本の食材を外国の人にアピールするのにすごくいい組み合わせ。
食べやすいでしょ。
国産小麦を世界へ広めていくという発想が必要になると思いますし」

「池田マフィン」はキャラメルとバナナを混ぜ込んだ甘いマフィンだった。
これもキタノカオリの黄色い甘さを見事に活かしていた。
さっくりした食感と見事な口溶けのよさは、それまで食べたマフィンにないものだった。

3点目は割田さんがライフワークとするバゲット。
「十勝ヌーボーブレンド(このイベントのために用意された小麦粉)で作ったバゲット。
バゲットに、とれたての麦のフレッシュ感が出せるよう準備します。
もちろん、焼きたてを持って行きます!」


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グリオット(駒沢大学)
196軒目(東京の200軒を巡る冒険)

おいしければいい、わくわくすればいい。
いままで食べたこともない新しいものであれば、さらにいい。
ブーランジュリーでも、ベーカリーでもなく。
パン屋にフレンチの感覚、パティスリーの感覚が融合する。
ときにはイタリアン、ときにはスパニッシュ。
なににもとらわれない店が、駒沢公園近くにある。

食いしん坊と食いしん坊との出会い。
グリオットの物語は、シェフの小島正義さんが、オーナーの石川暢子さんと意気投合するところからはじまる。

「知人の紹介でオーナーに会ったんですが、初対面にも関わらず3時間ぐらい、好きなパンについて語り合った。
どこのパンが好きだとか、どういうパンが作りたいとか。
僕はずっと、それまでなかったような新しい空間を作りたかった。
そこでスタイリッシュなパンを作ろう。
なんか楽しくやりたいなと思ってて。
そんなとき石川と出会って、なんか盛り上がるんじゃないかなと予感がしました。
みんなが幸せになるようなおいしいものを、作りたい。
もともとあったジャンルにとらわれずに作りたいという方向になってきて。
パン屋ではやらない新しいことに挑戦していければと考えています」

グリオットが挑戦する「新しいこと」とはパンと料理の融合。
おいしいものに国境もジャンルもないというスタイル。

「パンはフランスなんですけど、オーナーがニューヨーク好きなので、デリとか、お惣菜とか、なんでもある感じでいけたらいい。
1階で買っていただいたのを、地下のカフェスペースで食べられるように。
お惣菜やフィリングはぜんぶ手づくり。
ピクルス、タプナード、カレー…。
作れるものはできるだけ作っていきたいな。
クスクス,サラダ、キャロットラペ、ツナのブランダード。
お酒に合う感じのものを考えています。
サンドイッチならニソワーズのような、食事として成立するものを。
そういうのって家で作ると手間がかかるので便利だと思うんですよ」

フレンチレストランやビストロより、気楽に立ち寄れるバールやワインバーが近年の流行である。
パン屋が惣菜まで置けば、それよりさらに敷居の低い、日常的な形態になる。
グリオットの新しい「挑戦」。
オーナーの石川さんはこう言う。

「他にないようなおもしろい店を作りたい。
小さいお子さんも大歓迎ですが、大人の舌を満足させられるお店を。
会社帰りにパンも買えるし、ワインのお供になるようなものも買えたら楽しい。
チャバッタを使ったバインミー風サンドやニソワーズ(上写真)、そば粉のカンパーニュに合わせた、自家製オイルサーディンサンドとか、鶏のコンフィとキノコのソテーのカンパーニュサンド。
一皿の料理のような、それだけで食事になるようなサンドイッチ増やしてます。
カフェにはオーダー受けてから作るので、野菜と生ハム、ポーチドエッグのシーザーサラダサンドもありますし」

たしかにこれならお酒といっしょにちょっとなにかつまみたいときにうってつけである。
あるいは、フムス(ひよこ豆のペースト)やにんにくのコンフィも小さいサイズをパックで販売する。
あとはバゲットを1本買えば、簡単かつ満足いく夕食になる。

小島シェフがパンも惣菜もオールラウンドに作れる理由。
もともとはフレンチを志し、料理の専門学校卒業後、フランスで研修。
その後、一流のフレンチレストランで勤めた経歴を持つ。
特に、フランスでの食いしん坊経験はその後を決定づけるような経験となった。

「フランスに行ったことはかなりインパクトのある経験でした。
ケーキ屋ばっかり行ってた。
本当においしくて。
めちゃくちゃ甘いんですけど、慣れてきたらおいしい。
チョコとか、アイスとか、食べまくりました。
2つ星、3つ星のレストランはぜんぶいったし、普通のカフェやビストロも。
日本とは食材がちがうんですよね。
バターもおいしいし、鶏なんかもすごくおいしい。
リヨンにいたときには、フロマージュブラン1リットル食べてた(笑)。
本当においしかったですね。
仕事が休みの日はパン屋に行きました。
セーヌ川沿いのホテルで働いてて、川沿いをジョギングすると、すがすがしい。
そこに屋台のパン屋がある。
ガナッシュが詰まったコロネ。
ジャイアントコーンか、クッキーみたいなパイ生地でした。
シンプルで重いんですけど、おいしいな。
毎週毎週通いました。
その頃から、甘いものが好きだった。
ケーキ、チョコ、パン。
だから、パン屋になったのは正解だったですね」

フロマージュブランやコロネに取り憑かれる食いしん坊。
おいしいものへの半端ない執念。
こんな人なら人一倍努力しておいしいパンを作ってくれるはずだ。

メロンパン
白い甘さに捧げられたメロンパン。
中身とビス生地は完全に一体となっている。
ともに白さが強調されているからに他ならない。
白パンのように焼き切らない中身は、メロンパンとしては例外的に水分をたっぷりと含み、かつ少しだけ発酵の香りを残す。
あられ糖とビス生地はかりかりと響きあい繊細な糖分と口溶けよさゆえに、食べ終わったあとまでしみじみとさせる。

「白いメロンパンを作りたくて。
デニッシュ生地を使ってるんですけど、ビス生地は卵白だけを使ってゆっくり低温で焼いてしっとりに。
甘さはざらめ糖、ビス生地もパンもしっとりさせて、一体感を出せればなと。
卵白を泡立てて、軽い感じになるかなと。
メロンパンはぱさついてるイメージがあって、あんまり好きじゃなかった。
これはしっとりしてるのでいいなと思っています」

フランスでの食体験、料理人としての修行。
それは、いかにもフランスではない、日本的なパンにさえ顔を出す。

「フレンチの経験はいまに活きてますね。
フランス料理をやってると、どんな料理もだいたいはできるようになる。
中華も、パンも、菓子も、ワインも。
コニャックのことも覚えないといけないですし。
どんな料理でも本質的なところはいっしょなんじゃないかな。
フレンチをやっていると、食材とパンの相性がわかってくる」

カレーパン
この焼きカレーパンがはじめに香らせる一撃は、なんとバルサミコのすっぱい香りである。
カレーパンの屋上に野菜のマリネがのっているからだ。
カレールーのコクと刺激もありながら、野菜のさわやかさがそれらを押しまくり完全拮抗状態を作り上げる。
カレーのインパクトは、そこにあって、そこにないという不思議な体験。
焼きカレーパンゆえにものたりないかといえばそうではない。
フォカッチャから滲みだすオリーブオイルの芳香がルーも野菜も強力にバックアップする。

「カレーパンを考えたのは洋食屋で野菜カレーを食べたときです。
揚げた野菜がライスにのってる。
あれをパンでできないかと。
ルーと野菜をまぜないで別々にする。
単なる野菜だとインパクトがないので、ピクルスにしています。
カレーは昼にランチでも出していて、ルーは3日かけて手作りしています」

ある日、小島さんはパンのすごさに目覚めたという。
それを啓示として受け取り、料理人からパン職人へ転向したのだ。

「レストランの先輩がレーズンから起こしたルヴァン種を使ってパンを作っていた。
食べたらおいしくて。
『これあげるから、自分で作れば?』ってルヴァンをくれた。
せっかくもらったんで、勉強しまして。
100%自家製の種だけで。
すごくおもしろいな。
粉からパンができる。
魔法のように、なにもないところからものができる。
職人ってこれなのかな。
職人と呼ばれる人になりたい。
22歳ぐらいからパンの道に入って、いまは31。
パンにのめりこみました」

下積み時代に、一流の技術を持つ親方に出会えるかどうかは、一生を決定づけるほどの重要性を持つ。
その点、小島さんは幸運だった。

「ブルディガラ、オーバカナル、カフェ エメ・ヴィベール。
先輩に誘われて、いろんな店に行きました。
最初の店ブルディガラで、いまはクラブハリエ ジュブリルタン(滋賀県)のシェフ小金井利嗣さん、ブラッスリー オザミのシェフ木村さんに出会った。
パンは繊細なものだってはじめてわかった。
生地にちょっと触っただけで味が飛んじゃう。
いきなり厨房に入れてもらって、1ヶ月後には窯をまかされ、いろいろな技術を最初の店でほとんど教えてもらった。
家には30分しかいられない。
でも、ぜんぜん楽しくて。
弱音とか吐かないし、そういう思いもまったくなくて、恵まれていてよかった。
小金井さん、木村さん、2人はロブション出身。
厳しかったですね。
ミキシングのときは温度もきっちりはかる。
成形も新入りのときはすぐにはできませんでした。
成形ひとつで甘みも香りもぜんぜんちがうものになりますから。
パンチで味が決まる。
そこに感動を覚えましたね。
パンの情熱がある人しかいなかった。
パン食べて、味見て、感想を言い合う。
きっちり徹底してやるっていうのは、財産ですね。
先輩にロブション出身がいてよかった」

日本のパン作りの王道。
クープ・デュ・モンド(パンのワールドカップ)のゴールドメダリストも輩出した輝かしいロブションの厨房。
生地の見極めや、時間や温度を守ること、成形やパンチのワンタッチで、パンの味ががらりと変わるということをそこでは叩き込まれるという。
パン職人としてもっとも大事なベースを、ロブションの系譜を引き継ぐ小金井シェフらに学んだ。

たとえば、焼き色の薄いクロワッサンは、ロブションと同じくバターの生々しさを活かす方向性にある。
表面だけわずかにぱりぱりとして、その下の白い部分はたっぷりとして、予想を超えて次々と押し寄せるバターの波が唾液の洪水を誘いだす。
バターのフレーバーは、まるでクラムチャウダーででもあるかのようにずっしりとコクに満ちている。

「クロワッサンは、バカナルにいたときからずっと自分で試作してました。
バターの残るクロワッサンを目標にしてて、低温で焼いてるから、色が白い。
外はかりっと中ジューシー。
バターの味がして、中はふわっとして、最後に端を食べるとかりっと終わるようなものを目指しています。
黒く焼きこむより、むしろバターの味を重視する。
焼きすぎると、小麦の香ばしい味が出てきてしまいますから。
それより僕はダイレクトにバターの味を出したい」

このクロワッサン生地を使ったシナモンロールの衝撃。
見て驚き、食べて興奮する。
突刺すラム酒の香り。
シナモンロール史上、もっともセクシーなアイシング。
半透明に透き通って、デニッシュの渦巻を見え隠れさせている。
デニッシュ生地はエアリーに浮き、ゆえに軽く、歯切れよく、ぱらぱらっと壊れ、噛んではしゅわっと溶ける。
口に入れ、アイシングが溶けるとともにたっぷりとラム酒が生地にふりかかり、甘さはさらに狂おしくなる。
アイシングの甘い芳香とシナモンが出会うとき、興奮はマックスに達する。
デニッシュのバターと溶けそうで溶け合わない宙づりの時間が天国。

「お酒のインパクトがあるシナモンロールにしたいと思いまして。
ラム酒のアイシングを上からかけています。
コーティングされることで生地がしっとりもしますし。
アイシングを薄めにして、でっかく生地が巻いてあるのを見せたいなと。
パンのことをまったく知らない幼なじみがいて、アイデアに困ったとき意見をもらう。
ずっとなんかないかって話してたら、『ガラスのパンを作れ』。
べっこう飴みたいなのでパンを覆ってほしいと。
それで、『ガラスのパン』のイメージで、シナモンロールを透明なフォンダン(アイシング)で包みました。
まったく素人の人に訊くと、そういうアイデアが出てくるんですよね。
そういうのいろいろやってったらおもしろいんじゃないか。
食が好きなんで、おいしいものを見つけたら、この料理とパンが合わないか? とすぐに考える。
人とはちがうことをやりたいというのはありますね。
なんかないかなーって常に考えてます」

グリオット
東急田園都市線 駒沢大学駅
目黒区東が丘2-14-12 B1F〜1F
03-6314-9286
8:00〜19:00
月曜休み(祝日の場合は営業、火曜休み)



200(東急田園都市線) comments(0) trackbacks(0)
十勝小麦でパンを作るということ2 はるこまベーカリー
バゲット、リュスティック、パン・ド・セーグル。
ハード系のパンに出迎えられ、気持ちを持ち上げられる場所は、地方都市においてはますます貴重で、灯火のような存在になる。
帯広において、はるこまベーカリーはそういう一軒である。
そこに作り手の魂が籠っているならばなおさらだ。
オーナーシェフ、栗原民也さん。
十勝パンを創る会の前会長として、十勝産小麦を地元で使うムーブメントの先導役になってきた。

埼玉県出身の栗原さんを十勝愛に駆り立てるものとはなんなのだろう。
十勝へ導びかれたいくつかのきっかけがある。

「高校卒業して、自転車で日本一周しまして。
1年8ヶ月、旅をする中で、知床でユースホステルを経営する陶芸家に出会った。
『これから生きていくためには手に職があったほうがいい』と言われた。
日本一周終わったあと調理師学校に通ったんですが、パンの授業がいちばんおもしろくて、パン屋になりました。
その日本一周のとき、自転車漕ぎながら『北海道ってけっこう小麦作ってるよなあ』って思ってたんですよね。
その後、トロワグロに勤めたんですけど、シェフが室蘭の出身。
すごく厳しい人で、『ここ勤め上げたら、帯広のますやパン紹介してあげるぞ』って言ってくれてた。
当時、坪単位の売り上げが1番だったのがますや。
トロアグロは店の売り上げが1位」

日本一周しながら出会ったたくさんのものの中で、心にずっと残っていたのは、北海道の人や風景だった。

「トロアグロを辞めて、すぐ北海道にこようとも思ったが、ニュージーランドにワーキングホリデーに行きました。
パンも見たかったし、農業も身につけたい。
羊飼いをやって、シェアリング(羊毛を刈る仕事)の技術を身につけられないかなって。
人口500人の村で農家さんに4ヶ月ホームステイしてました。
『日本人はじめて見た』って言われるような村で(笑)。
なにより、日本とパンがぜんぜんちがうことに驚きましたね。
町まで5日おきに、こんなでっかいカンパーニュを買い出しに行くんです。
羊の農家なんで、年老いてよぼよぼの臭い羊を食べるんですけど、それをごまかすために煮込み料理なんかにする。
そういうどぎついソースにはカンパーニュが合う。
バゲットじゃなくて、カンパーニュみたいな重たいパンが絶対に合う。
日本のパン屋がまだ作ってないパンがここにあるって思いました。
そのときインプットされたのは、パンって私が思ってたよりも、もっと素朴なものだっていうこと。
菓子パンやデニッシュをやってきたけど、日本人が作るそんなこぎれいなものって、ここではちがうものなんだ」

赤道の向こう側で自分の知っていたものとまったく異なる食文化に出会った衝撃。
そのイメージは、パン職人としての足取りを決定づけるものとなる。
北海道での修行先は、サホロのホテル「クラブメッド」などパンと食事が共にある場所を選んだ。
釧路ではイタリアンレストランに併設された小さなパン屋のシェフにもなった。
やがて栗原さんは帯広にあこがれを抱くようになった。

「釧路では人間関係がぎくしゃくし、住みづらくなってきて、帯広に通うようになりました。
釧路は漁業や炭坑で栄えた、狩猟民族の町なので、みんな気性が荒い。
帯広にくると、麦の畑があった。
『またのびてるなー』『2週間でこんなに伸びるんだ』『穂がつきはじめた』『もうすぐ収穫だ』とか、くるたびに思うようになった。
釧路から車を走らせると、一面の湿原が、作物のとれる環境へと風景が移り変わっていく。
帯広は釧路より四季がきちんとしてるんですよ。
この小麦がパンに使えるんじゃないかって思っていたんですけど、当時栽培されていたホクシンはタンパク値が低く、私にも腕がないもんだから、作ってもまずかったんですよ」

15年前、帯広ではるこまベーカリーを開業する。
現在、小麦粉の90%を十勝産でまかなえるようになったが、当時の流通・製粉・品種では、まだ商品としてパンを作る段階にはなかった。
そこに至るまでには、きっかけとなる出来事が押し寄せ、少しずつ潮が満ちていったのだ。

「当時は、十勝産小麦って、名乗れるほどの量はまだ売られてなかったんですよ。
『十勝ブランド』の認証機構が立ち上げられ、十勝産限定の粉を江別製粉が挽いてくれることになった。
そのあと、前田農産の前田茂雄君が、麦種別(キタノカオリ、春よ恋など)に小麦粉を作るようになったのが7、8年前。
キタノカオリの一本挽きは江別製粉でありましたが、農家限定の一本挽きなんてほとんどなかったです。
前田君がきて『栗原さん、ぜひ使ってみて』。
前田君の粉は、志賀さん(シニフィアン・シニフィエ)、栄徳剛さん(ブラフベーカリー)も使いはじめました」

小麦の味わいは品種ごとにちがう。
さまざまな品種を一本挽きした小麦粉が発売され、それぞれのちがいをパン職人が感じながらパンを作れるようになったのは、この頃を境にしてのこと。
小麦粉といえば、製粉会社がブレンドし、銘柄をつけたものしかほぼ流通していなかったからだ。
品種固有の味が意識されるようになると、小麦は工業製品ではなく、農家が作りだす自然の原料という側面がはじめてクローズアップされることになる。
国産小麦の時代がついに到来したのだ。

(「Only  One」。店内に貼られた志賀勝栄シェフのサイン)

「その頃、帯広市の産業連携室の2人のお役人がベーカリーキャンプ(現在の小麦キャンプ)やりたいって、頭を下げにきた。
本当にそんなことできるのかなって思ってたけど、シニフィアン・シニフィエの志賀勝栄さんが、当時ラ・テールにいた栄徳さんといっしょに講師を引き受けてくれた。
それを聞いてびっくりして、『日本を代表するシェフが帯広にくるんですか?』って、すぐ2階から志賀さんの本を持ってきて『こんなすごい人がくる!』って言いました。
最初は集客30名からはじまって、そのあと150名になり、去年、5年目の節目で300人集められるようになりました。
いちばんうれしいのは講師の先生が十勝のファンになってくれること。
明石克彦さん(ベッカライ・ブロートハイム)のパンの作り方は、十勝にぜんぜん存在しなかったエッセンスですし。
行政、農家さん、パン屋さん、製粉会社さんみんなが協力しあう。
なにより、畑を体感したり、講習会を聴いたりと、一生懸命取り組んでるお客さんに感動する」

十勝の小麦について、知り合いの農家について、栗原さんが語り出すと止まらない。
小麦粉のことはどんなパン職人でさえ知悉しているけれど、植物としての小麦について、こんなに情熱をもって語るパン屋を私は知らない。

「開業した頃、100%日清製粉でした。
だけど、ブノワトンの高橋幸夫君(国産小麦によるパン作りをはじめた先駆者)や志賀さんに会ううちに変わってった。
前田君、土蔵(とくら)さん、中川さん、織笠さんといった小麦農家さんに会って変わってった。
実は前田君のキタノカオリと土蔵さんのキタノカオリはちがう。
土地もちがうし、雨がよく降ったとか、風が強いとかいうことでも変わってくる。
じゃあ、農家さんがどういうことをやるといい小麦になるのか。
(自ら卸先を探して小麦を販売している人は)農協に卸してる人とはモチベーションがちがう。
それぞれの人が誰に使ってもらうためのものかを考えて小麦に向かい合ってるので、農家さんごとの方向性が出る。
前田さんの小麦は力強い。
ただ、江別製粉で挽いてるから、粒度が低いし、白い。
土蔵さんのスム・レラ(志賀勝栄さんが監修したアグリシステムの粉)も、やっぱり力強い。
手ごねで作ると、前田君のきたほなみと、土蔵さんのきたほなみのちがいもわかった。
小麦粉が水和した段階でうわっと香りが立つ。
感動しましたね。
塩が入ると生地が締まるのわかりますし。
ダンディゾンの木村さんに『たまに手ごねやったほうがいいですよ、楽しいですよ』って言われた。
『手が考える時間になります』って表現してました。
触感的にパンを作ると、原点に戻る。
そこがわかってれば、引き出しから技術を引っ張り出すんじゃなく、水と麦と酵母で原点的なパンが作れる」

パンの原点。
それは素材から出発することに他ならない。
素材の作り手である農家の思いを知って、それを出発点にパンを作る。
あるいは手ごねによって、小麦という素材に直接触れ合い、そこからのインスピレーションによってパンを作る。
技術やマーケティングといった頭で考えるやり方ではなく、五感を大事にした「手で考える」やり方によって。

十勝での革新的な取り組みを特徴づけるもの。
それは、小麦農家と連携することであり、十勝のパン屋同士が地域のために協力しあうことだ。
商圏を同じくするライバルという関係性を超えて、十勝のパンのレベルアップという共通の目標を目指して切磋琢磨しあう。

「『十勝パンを創る会』を立ち上げました。
ベーカリーキャンプの講習会を下支えできるように自分たちが勉強しようというのが最初の目的。
志賀シェフに講習会を開いてもらう。
麦種ごとにそれぞれ特徴が出せるパンを作ろう。
いつまでもあんぱんを作っていても、いまのレベルから抜け出せないんじゃないか。
十勝小麦を使ったパンのレシピをメンバーがお互い持ち寄って、誰もがクオリティを保って作れるよう基準をきちんと定めた『十勝パン』を5年後に2つ、3つ出せればいいなと思ってはじまりました。
最初に生まれたのがキタノカオリのチャバタ。
キタノカオリの特性を出すなら水を100%入れよう(通常は対粉比60〜70%)というのがコンセプト。
その次に長芋のバゲットができあがりました。
加水上げるとか、地場産の野菜を使うとか、毎年いろんなテーマで行っています」

ますやパンの天方慎治さん、くるみのランプの小川雅之さんらと結成した十勝パンを創る会。
次にフォーカスした目標は、低アミロ小麦でパンを作ることだった。
低アミロ小麦とは。
収穫期に雨を浴びた小麦は穂が発芽してしまう。
すると、酵素活性が高くなって、小麦の中のデンプンが分解して糖に変わる。
粘性がなくなってパンが作りづらくなるため、パン用の小麦粉としては商品価値がなくなる。
特にキタノカオリやはるゆたかのような雨に弱い品種は低アミロになりやすい。
収穫期に雨が降れば、農家の1年の努力は水泡に帰す。
もし低アミロ小麦でパンを作ることができれば、農家の無念を晴らすことができる。
小麦を作る人の苦労を間近で知る十勝のパン屋ならではの着想。

そうして生まれたのが低アミロ小麦の食パン「完熟小麦パン」である。
水分の多いパンに特有の口溶けよさ、引きのなさ。
舌と鼻腔に濃厚に差し込んでくる強い甘さ。
甘く、やわらかいという、食パンの売れ線にのったこの食パンは多くの人の心をとらえるはずだ。

「普通にディレクト法(標準的な製法)でやったら低アミロ小麦でできないです。
6年前にキタノカオリが穂発芽して全滅したときがあったんですが、生地がべたついてぜんぜんパンになりませんでした。
グルテンの膜が溶ける。
でも、冷蔵なら低アミロ小麦でもできるんじゃないだろうか。
熟成は進むけど、発酵は進まない5℃の温度帯がいい。
15〜30℃の温度帯にいる時間をできる限り短くする。
5℃以上にしないよう、成形も指を冷やして行う。
ミキシングで捏ねたおして、最初からグルテンを形成してしまう。
85%以上の高加水、48時間以上の発酵、砂糖6%以下の食事パン、というのがこのパンの規定です。
食パンにしているのは型に入れないと溶けるから。
低アミロ小麦は、完熟して(でんぷんが麦芽糖に変わって)糖度が上がっている状態。
問題なのは、僕らがこれを作っても農家の所得にならないこと。
手助けにはならないが、食べられるようになったということで、モチベーションは上げてもらえるかもしれない。
低アミロ小麦でパンを作ることの意味を、天方君がこう言ってました。
キタノカオリをやめてほしくないから、そのアピールなんだって。
低アミロでもキタノカオリなら使いますよ、と。
いま農家さんはキタノカオリからゆめちからにシフトしてる。
キタノカオリは収量がとれないし、穂発芽の可能性がありますから。
でも、私たちはこう言いたいわけです。
お願いだからキタノカオリをやめないでください」

他の品種に代えがたいキタノカオリの甘さは、日本の自然が生む宝物だと思う。
キタノカオリがどれほど切望されているか、その声を農家に届けなくてはならない。
それは十勝のパン屋の務めなのであり、だからこそ低アミロ小麦でパンを作るのだ。

国産小麦というと、キタノカオリ、はるゆたか、春よ恋といった、甘さに特徴のある品種がパン屋から(ひいては消費者から)もてはやされてきた。
消えゆくキタノカオリの保存を後押しすることも大事だ。
一方、農家の立場、国産小麦の発展を考えるならば、病気や穂発芽に強く、収量も多いはるきらりの使用を広めたいというのが、栗原さんらの考えだ。

「はるきらりは不遇なんですよ。
1CWと交配させているので、カナダっぽい。
その評判といえば、道産ぽくないの一言。
志がある人は、はるきらりでこういうパンできるんじゃない? ということは考えていると思いますが。
いま道産を使うといえば、ほとんどの人は春よ恋が中心。
もっちりして、甘みが濃いですから。
はるきらりはまるっきり逆で、あっさりとして軽い。
(新品種の開発を担った)農業試験場にとっては、はるきらりは思惑通りにできた品種だったんですが、人気が出ない。
以前、春よ恋とはるきらりの両方バゲットにして、麦畑で官能検査したことがあります。
皮の部分、内相、噛みごたえをそれぞれ点数化しました。
年齢別と性別で分けたら、好みの傾向がはっきりでた。
女性は、もっちりして甘い、春よ恋を選ぶ。
男性ははるきらり。
皮がきちんとあって噛みごたえがありますから。
栄徳さんも、『あのときの、はるきらりのバゲットを超えるのできない』って言ってます」

はるこまベーカリーでは、はるきらり:きたほなみ:キタノカオリが5:4:1でブレンドされた、アグリシステムのモンスティル(栗原さん監修による小麦粉)でバゲットを焼く。
はるきらりから由来しているのだろう。
たしかにこのバゲットは、皮がぱりっとして香ばしさに秀で、すかっとしたおいしさがある。
どの品種がいちばんおいしい、というような考え方ではない。
この品種はこういう特徴があり、この品種にはまた別の特徴がある、という考え方。
それが定着することが、パンの文化をより深く、おもしろくしていく。
それに加えて、十勝のパン屋には、小麦農家との交流という、インスピレーションの源がある。

「農家さんが、何を考え、小麦を作っているのか。
畑に遊びに行ったとき、言葉の端々に出てくる。
農作物は毎年できがちがうんですよ。
今年はこういうふうに表現しようとか、その年の小麦に合わせて考えればいい」

小麦農家との付き合いは、パン作りに向き合う姿勢の変更をも迫った。
「変わったんだと思うんですよ。
植物のことなにも知らなくても、トマト育てただけでも変わるじゃないですか。
ニュージーランドで羊を締めたときも、食べ物のありがたさ、食べることの文化を痛切に感じた。
そこにパンがなくてはならないこともわかったし。
この前、テレビで見たんですけど、小麦という作物がなかったら、人類は絶滅してたらしい。
小麦を交配させて多粒にしたからこそ、農業をして生き残ることができた。
小麦は人類にとって原点的な食べ物。
その文化を構築したのがパン屋。
そこに誇りを持っていいし、それを知ってたらモチベーションも上がるじゃないですか」

パン屋の使命。
数千年の人類史をさかのぼり、あるいは現代の世界の食料事情を俯瞰してみるならば、北米産の小麦でなければおいしいパンは焼けない、という考えは再考する必要があるかもしれない。

「日本人は金にものをいわせて、世界中から上澄み(1CWのような製パン性の高い小麦)を集めている。
原麦の時点から、加工しやすいものばかりを。
それで日本のパンおいしいでしょって言ってる。
それはちがうでしょ。
日本のパン屋の平均的な技術はすごく高くなりました。
いい粉に対しての技術は高いんだけど、イレギュラーなものへの技術を私たちは持ってない。
どんな小麦でもおいしいパンにできる技術を持とうよ。
それが本当のパン屋じゃないんですかね。
昔は、竃(かまど)1個しかないところで、粉袋の底にたまっている小麦を掻き集めてパンを作った。
パン屋の原点はそこだと思う」

パン屋の原点。
はからずも栗原さんがそれを私に教えてくれるできごとがあった。
アグリシステム主催の『小麦ヌーヴォーツアー』。
全国からやってきたパン屋が農家を巡るイベントにおいて、土蔵信さんの畑に行ったときのこと。
栗原さんがきて、土蔵さんの石窯でパンを焼いてくれた。

土蔵さんのスム・レラT85(アグリシステム)とキタノカオリを使った、チャバタ。
ごつごつとした外皮、火傷のような荒々しい焦げ。
素朴な見た目とは裏腹に、中には水分がたっぷり籠って、小麦の香りを引き出す。
石窯特有の熱量がキタノカオリならではの甘さをマックスにまで高める。

そのパンにナイフを入れ、近隣の農家の人たちが持ち寄った野菜をはさんで手渡してくれた。
夢中で食べた。
本能に訴えかける味。
原点を見失わず、自然の恵みがパンになれば、それがいちばんおいしいのではないか。

「一人一人が船を持て」
志賀勝栄さんが勉強会で言った一言を、栗原さんは心に刻んでいる。
パン屋は、厨房という孤島にいて、ひとりパンを焼きつづける存在である。
自分の製法こそベストだと信じ、島に閉じ籠っていれば快いかもしれない。
だが、もっと進化するために、その孤島から出る勇気を表現したのが「船」という言葉だ。

「志賀さんは言ってました。
島を出て、船を漕ぎ出す勇気を持ってパンを作ろうよ。
パン屋はみんな他の島に行ってそこの種をもらってくる旅をしてる最中なんだって。
その旅にあるよろこび、悲しみ。
守ってたらダメだよ、出てかないとダメだよ。
そのとき、忘れてはいけない原点は小麦なんですよ」

かっては、それぞれの島にいた十勝のパン屋たちは、勇気を持って団結し、志賀勝栄シェフらの先端的なエッセンスを取り入れた。
はるこまベーカリーはじめ、ますやパン、くるみのランプは技術を進化させ、十勝小麦でほぼすべてのパンを作るようになり、売り上げを伸ばしている。
地産地消の先進地域十勝につづいて、今後全国各地のパン屋が船を漕ぎだすだろう。(池田浩明)

はるこまベーカリー

北海道帯広市西19条南5丁目43-11

0155-38-5311

8:30~19:00

日曜・第三月曜休み

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十勝小麦でパンを作るということ1 くるみのランプ
地元でとれた小麦でパンを作る。
百年、千年という単位で人間の歴史を振り返ってみるなら、それが食べ物の本来的なありかたのはずだ。
北海道十勝で、そうした地産地消の取り組みが広がっている。
本格的な国産小麦の時代に突入しようとしているいま、それは全国に先駆けるものだ。
取り組みは実を結び、地元の人に愛されるパンが生まれ、ノウハウは蓄積しつつある。
十勝の知恵。
この地域の新しいパン作りを主導する2軒のパン屋に聞く、「十勝小麦でパンを作るということ」。

「くるみのランプのパンっておいしいね。
いちばん好きなのは、たっぷりコーンのチャバタ。
おにぎりを食べてるみたいな感じ。
これを食べれば、午前中いっぱいはお腹が持つ。
日本のパンってああいうことなんですよ」

そう言って、くるみのランプを教えてくれたのは、十勝の名物農家・前田農産の前田茂雄さんだった。
たっぷりコーンのチャバタは、前田さんの育てた、ゆめちからとはるきらりを使用している。
想像以上のもちもち感と甘さ、しっとり感。
細かく挽き割られた新鮮なコーンと長芋を練りこんでいる。
黒糖のような甘い香りが皮からむんむんきて、コーンはさらに甘さの総体を持ち上げながら調和する。
パンを飲み込んで、それが消え去ったあとにも、もちを食べたときに似た、穀物的な後味が、おだやかに残っている。
甘さの中にも、日本人のDNAに馴染むものとそうでないものがあるのだと、このパンを食べて知った。
前田さんが言うように、「腹持ち」も、おいしさの重要な要素だ。
このパンはお米のように、ずっしりと腹に溜まる感じがある。

前年の夏に食べて記憶に残り、再訪問したときはぜひ食べようと心待ちにしていたパン。
だが、たった2週間ずれていたために、出会うことはできなかった。
くるみのランプの小川雅之さんはいま十勝でとれている旬の材料を使うことにこだわっているからだ。

「長芋はまだ収穫されていないんですよね。
このパンには前田さんのゆめちから、はるきらりを使っています。
長芋を入れて、水をたくさん入れて、ミキシングは長くします。
ゆめちからじゃないとダメなんです。
普通の国産小麦だとだれちゃいますからね。
両方とも味は淡白な小麦なので、そこを玄米などの具材で強調できればいいかな。
長芋ってパンを甘くしてくれるんです」

地元産小麦を使ったパンを、力仕事に追われる当の小麦生産者が日常で食べる。
ここには、パンと小麦のもっとも幸福な関係が成立している。

くるみのランプが開店して約10年。
小川さんはすべてのパンを十勝産小麦で作る取り組みをつづけてきた。
当時は、ここ十勝でさえ、十勝産小麦がパンに使われることはほとんどなかった。

「地元のものを地元の人に食べてもらいたい。
そう思って国産小麦に切り替えました。
うちらのお客さん、小麦畑を日常で見てるでしょ。
それがパンになってることをわかってる。
『こんなにいっぱい畑があるのに、なんで十勝産小麦のパン高いの?』って言われたこともありました。
いまでは地元の小麦の価値がわかってるお客さんが増えてる。
10年前、いまみたいにはパン用粉ってありませんでした。
江別製粉さんとうちあわせさせてもらって、
いまでこそ、キタノカオリ、春よ恋、はるゆたか、ホクシンとありますが。
製粉技術も進んでなかったと思いますし。
ロッドによって製粉状態がちがっていてパンは作りにくいけれど、それも楽しみながらやってましたね。
ちょっとずつよくしていけばいいかなって」

国産小麦でパンを作ること、国産小麦のパンを根づかせること。
技術的、経営的にも平坦な道のりではない。
小川さんの情熱はどこからやってきたのか。

「もともと札幌出身。
ドンク時代、帯広に転勤になったとき、『小麦作ってる町なんだ』ってわかった。
自分が店を出すんだったら、この町がいいな。
飛行機で降りる途中、小麦畑が見えますけど、はじめはお米だと思ってたぐらい知らなかった。
国産小麦を使いはじめて、パン用小麦を作ってる農家さんと話をしてみたいと思った。
音更農協に最初に紹介してもらった庄司さん、彼なんか全品種を作ってる。
その人と出会ってから、いちだんと小麦に対して思いが深まった。
生産過程もわかりましたし。
芽が出て、雪をかぶり、雪が溶けて、茎が出てくる。
おとといも小麦畑を見る機会があったんですけど、だいぶ色づいてましたね」

農家と会い、小麦畑を見て。
小麦栽培という苦楽を共有することが、農家とパン屋との絆になっている。

「庄司さんには、ライ麦作ってくださいって、僕からリクエストした。
1年目は全滅。
いまは順調です。
ライ麦は背が高くて、1m7、80になる。
強風が吹いたら倒れちゃう。
うちでもなるべく使いたいんですけど、ライ麦ばっかり使うわけにはいかない。
ダンディゾンの木村さんはじめ、いろんなところで使ってもらえたのはよかったですね。
去年のベーカリーキャンプでは明石さん(ベッカライ・ブロートハイム)にも使っていただいた。
だいぶ広まってきました」

日本でライ麦を生産する数少ない農家の一軒が庄司さん。
ライ麦は丈の高さゆえに栽培が容易でない。
庄司さんにわざわざライ麦を作ってもらったという感謝が、おいしいライ麦パンを作ってたくさん売りたいというモチベーションにつながっている。

十勝産小麦100%という取り組み。
それを自分のものにしていくまで、どのような葛藤があったのか。
「外麦(外国産小麦)を基準にして比べちゃうから(劣って見えていた)、というのはあるんですけど、内麦には内麦のよさがあるのかな、と開き直った部分もあった。
お客さんに、『これが地元でとれた麦なんですよ』って謳い方もしたし。
北海道の人はもちもち好き。
そこが合っていましたね」

国産小麦には共通して低アミロース(食感がもちもちになる)という特徴がある。
それはもちを好んで食べてきた日本人の味覚に刻み込まれたおいしさでもある。

「(もちもち感という意味で)いちばんストレートなのは春よ恋。
食パンは春よ恋を100%使用しています。
国産小麦は全品種もちもち感があるんですけど、それだけじゃなく、小麦の風味もある。
国産小麦は一歩まちがうと口の中でダンゴになりやすい。
それが春よ恋にはありません」

小川さんが修行したドンクは、フランスの伝統的なパン作りを守りつづけることを社是としている。
それが、小川さんの葛藤の元となっているのではないか。
本物のパン・トラディショネルにもちもち感は必要ない。
そうなれば、国産小麦を無理して使うより、日清製粉リスドオルのようなフランスパン専用粉を使ったほうがいいことになる。

「いまだに伝統を守るべきなのか。
地元にある素材でいちばんそれらしく作るべきなのか。
だけど、リスドオルで作るバゲットを国産小麦で作りなさい、というのは、正直むずかしい。
バゲットはもちもち感を出さないように、国産小麦の中では、唯一もち感が少ない小麦はるきらりを使っています」

国産小麦でも人気が高いのは、国産小麦らしいもちもち感や甘さの感じられる、キタノカオリや春よ恋である。
そうした特徴のないはるきらりは軽視されがちだが、国産小麦であらゆるパンに対応するためには、むしろ重要になる品種だ。

「クロワッサンははるきらりで作っています。
はるきらりは味が淡白な粉ですが、(はるきらりの)全粒粉を2割入れると、風味が豊かになります。
最初ははるきらり以外の粉を2割入れてたんですが、なんかしっくりこない。
自分の求めてる食感じゃなかった。
たかが2割だけど、もち感が出るんですよね。
クロワッサンに小麦の風味はそこまで求めてない。
バターが出ればいいかなと」

小麦がごりごりと全面に出ることは、小川さんの抱くイメージではない。
くるみのランプのクロワッサンは、皮がさくさくして、中身はあっさり崩れてすーっと溶け、バターの風味が豊かに広がっていく。
自らの存在感を意識させず、脇役に徹して、その他の材料を活かすことも、小麦の仕事のひとつだ。
このクロワッサンで小麦はまさにそのような役割を果たしているが、存在感が完全にゼロかというとそうではない。
そこはかとなく漏れ出る小麦の個性はあって、やさしさとして感じられる。
それが国産小麦を使う意味ではないだろうか。

「はるきらりをいちばん作ってる農家は前田さんですが、売れない、売れないと言っていましたね。
パン屋が使ってないから、いま農家がはるきらりを作る方向にいってない。
農協でも、はるきらりは売れないので作るなって指示してるそうです。
はるきらりは、春よ恋などより、病気になりにくいので、農家にとって作りやすい品種なのですが」

おいしいパンを作るためにこの麦がほしいとパン屋が考える品種と、政策誘導によって導かれる品種のあいだにはずれがある。
かって麺用小麦として盛んに作られていたホクシンが、後継品種であるキタホナミにとって替わられたことを惜しむ声は多い。

「ホクシンがなくなって、キタホナミに替わった。
でも、ホクシンでしか作れないパンがありました。
風味は圧倒的にいいです。
キタホナミは(小麦を製粉したときの)歩留まりが多いんで、(味が薄まって)風味が悪くなるはず。
その前には、チホク小麦っていう、うどんやラーメン用の小麦があったんですが、それがやっぱりホクシンより、よかった」

小麦は品種改良によってどんどんよくなっているというのが定説であるが、むしろ味が薄まっていると考える小川さんの意見は新鮮だった。

「キタホナミは風味が少ないですね。
だから、キタホナミを使うときは、2等粉(小麦の皮に近い外側の風味が強い黒っぽい部分を挽いた粉)を1等粉(小麦の粒の中心の白い部分を挽いた粉)に混ぜて使っている。
バゲットは、キタホナミをベースに、いろんな小麦粉の黒っぽい部分(外側の風味が強い部分)を混ぜたものを使っています。
ヤマチュウ(十勝の製粉会社)さんにPB(プライベートブランド)で作ってもらったもの。
何回か試作し、やりとりを重ねて、作りました。
(ヤマチュウとしては)その代わり、新しい小麦が出たときには、売り込み方をアドバイスしてね、と。
製粉会社さんは粉を知っててもパンの作り方を知らないわけですから。
目と鼻の先の製粉会社さんなんで、協力しあっていくのはいいことだと思います」

小麦の個性がもっとも活かせるブレンドとはなにか。
十勝産小麦を使い尽くした小川さんは、製粉会社にとってまたとないアドバイザーにちがいない。
こうした形でも、「十勝の知恵」が全国に拡散されていく契機になるとしたら、よろこばしいことだ。

小川さんの継続的な努力によって、十勝産小麦は地元に浸透してきた。
そのことを端的に示すエピソードがある。

「いまだと、プライスカードに品種を書いてないと、『なんの品種を使ってるの?』って聞いてくるようになりました。
『生産者限定』と書いてあると、『どの生産者なの?』と」

ここ十勝では、消費者が、自分の好きな品種、自分の好きな生産者を持ちはじめている。
5年後、10年後、全国でこれが当たり前になったとしてもおかしくない。

十勝小麦を体感的に知り尽くした小川さんは、各小麦粉の特徴をどのように捉え、どんなパンに対して、どのように配合しているのか。

「カンパーニュはベースがヤマチュウさんの専用粉(前述のくるみのランプ用PB)。
2割が庄司さんのライ麦。
2割がはるきらりの全粒粉。
庄司さんのキタノカオリを2割にしようか迷ったのですが、キタノカオリの全粒粉はクラスト(皮)がやわらかくなりやすい。
ビニール袋に入れるとぱりぱり感がなくなってしまうので、はるきらりを選択しました」

キタノカオリの風味をとるか、はるきらりのさくさく感をとるか。
カンパーニュの性格を決定づける分かれ道。
結果として、くるみのランプのカンパーニュは軽快さに傾いたものとなった。
食べ口は軽く、しかし発酵種の風味がかなりきいていることとも相まって、味わいは深く。
食感・口溶けと、風味とのかけ算がパン作りだとするならば、小川さんは国産小麦同士のブレンドによって、その両方を満たすような合理的な答えを与えていくのだ。

「キタノカオリで食パンを作るとケービング(パンが曲がる)しちゃう。
だけど、ちいさいパンに使うとソフト感が期待できる。
うちはあんぱんとかにキタノカオリを使ってます。
ブリオッシュにはお菓子用に製粉されたキタホナミを2割。
こうすると口溶けがよくなります。
キタホナミは(現在パンに使われる主な十勝小麦の中で)いちばんタンパクが低い品種です」

十勝小麦を使いつづけることで、品種の特徴は手のうちに入った。
では、その技術はどんなふうに使われるべきなのか。
国産小麦らしさを消しながら、フランスの伝統的なパンを再現する方向へ向かうのか。
十勝の人たちのために、十勝小麦を使った、新しいパンを作ることに舵を切るのか。
小川さんの口ぶりは2つの方向性のあいだで葛藤しているように聞こえていたけれど、本当はそうではなかった。
別れ際に言った一言は、決意表明のように聞こえた。

「年配の人がすごく多いので、ハード系は硬すぎるという人がいる。
そういう人でも、具材が入っているハード系なら食べられるんですよね。
田舎ではバゲットを出しても、よろこばれない。
(フランスの)伝統だけが本当に正しいのかなって、ずっと思ってました。
ここ北海道でしょって言われたらなにも言えない。
伝統を使いながら、地元ならではのパンでいいのかなと思ってます」

(池田浩明)

くるみのランプ
0155-30-3210
10:00〜18:00
日曜休み




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NYダイナーのアップルサイダードーナツ
ニューヨーク・ドーナッツ・マップ(All-You-Can-Eat Press刊)を知っているだろうか。
NY市内のドーナッツ店を、マンハッタン、ブルックリンと全制覇したマップが現地で売られているのだ。

オレンジと黒の2色刷りという、あえてのレトロ感。
ただのグルメ・インフォメーションではない。
「オールドスクール」「ニューウェーブ」「インターナショナル」といった、批評性を持った分類。
きちんと全店食べていることは、おすすめが記されていることからもわかる。
ドーナツの穴がなぜ空いているのかといった歴史まで、たった1枚のマップの中に書き込まれて。
パンラボの同志がニューヨークにいた。
僭越ではあるけれど、そう思った。

無印良品が世界中から自らのコンセプトに合った商品をセレクトした、まるで旅をするようなブランドFound MUJI。
(著書『サッカロマイセスセレビシエ』の造本は、ここで売られていたインドの羊皮紙が表紙に使われたノートにインスパイアされたものだ。)
今度、Homer社のダイナーウエアーをはじめ、アメリカのダイナーで使われ続けている定番のダイナー用品が期間限定で販売される。
あのニューヨーク・ドーナッツ・マップを作った松尾由貴さんが、プロデュース・コーディネートを手がけたというのだ。

それを見て思った。
エッグベネディクト、チーズのとろけるホットサンド(グリルドチーズというらしい)、パンケーキ、ベーコン・オムレツにはケチャップ(All-You-Can-Eat Press編集の『the Diner News』によると「Heinzのケチャップじゃないと邪道」)ををたっぷりかけて。
ドラえもんの名作『グルメテーブル掛け』みたいに、空のお皿を見ているのに、そこにのっているべきパンがホログラフィーみたいに浮かび上がってくる。
何千マイル離れたNYのダイナーからイメージだけ転送されてきたみたいに。

(松尾由貴さんと写真家のSTEPHAN SCHASCHERさん)

松尾さんはFound MUJI青山で開かれたオープニングでこのように挨拶した。
「ダイナーは労働者のために生まれたもので、50年、100年と変わらずにつづいてきました。
私はダイナーをカルチャーとして紹介したい」

オーソドックスなものの力。
つづいてきたものは、ただかっこよく、目に親しいだけではない。
その歴史にまつわる記憶まで、次々と呼び寄せる。

食器を見たあと2階に上がる。
そこで見たものは、あまりにおいしそうだったためにまたホログラフィーではないかと訝りそうになったが、どうやら現実だった。
おおぶり肉厚なボディの周囲には、夜空にまばたく天の川のように砂糖の粒がたっぷり光り輝く。
これが、あのアップルサイダードーナッツ。
日本人がまだ見ぬ、このあまりに東海岸的なおやつを手探りで作ったのは、江古田のブーランジェリージャンゴ。
日夜フェイスブックや画像検索を駆使し、引き蘢りながらにして世界を旅し、インスピレーションの源を探索する川本シェフはこの仕事にうってつけ。
川本さんはNYのダイナーを青山のMUJIの中に再現したいという松尾さんの願い(アップルサイダードーナツ発祥の地であるバーモント風)に見事応えた。

ややもするとジャンキー方向へ行きがちなドーナツを、りんごの酸味が中和する。
あふれだすシナモン、ナツメグを嗅げば、なぜだかわからないがパブロフの犬のように、コーヒーかコーラが飲みたくなる。
と同時に、ダイナーに漂っている現場の空気まで想起させられた。
ただし、やわらかに、ほろりと崩れる繊細な食感は川本さんの職人技であり、NYの豪快なドーナツでは味わうことは少ないかもしれない。(池田浩明)

STEPHAN SCHASCHERさんの『CUTIES AND CALORIES』と『PLATE+DISCHES』。
アメリカのダイナーのテーブルセッティングとウェートレスの写真集。

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パンクラブ15周年パーティのお知らせ
こんがりパンだ パンクラブ15周年の活動の集大成となる、15周年イベント。
毎月行われる試食会にはたくさんのパンが並び、参加者の人気投票によって「ベストパン」が選ばれます。
ベストパンの中でも特に人気の高かった「殿堂パン」やこの日のために特別に人気のパン屋が焼いたスペシャルパンも登場。
普段は、いろんなパン屋をまわらなければ食べることのできないパンを一度に食べられる機会です。


<スケジュール>


9/27(土) 14:00-17:00 

※途中からの参加、途中退出OKです 


定員: 50 名 

※定員を超えるお申し込みがあった場合、締め切り日後に抽選とさせていただきます。



会費:¥3800

※パン&パンのお供、ソフトドリンク付き


☆このイベント用に焼いていただいたスペシャルパンや、過去の殿堂入りパン、人気パン他

☆パンにあわせて飲みたいビールの販売コーナーも登場します!
 


会場:SHIBAURA HOUSE

JR 田町駅芝浦口より徒歩7分 または都営三田線・浅草線 三田駅A4出口より徒歩10分 



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第9回チャリティ製パン講習会のお知らせ
ブルディガラ、ジェラール・ミュロなどのシェフを歴任、日本のパンを引っ張るカリスマシェフ、山院丙蝓頬さんのライフワーク。
東日本大震災の復興を支援するチャリティ製パン講習会が開かれます。

いつものように、Zopfの伊原靖友さん、オーヴェルニュの井上克哉さんという、人気ベーカリーのシェフを従え、今回は名古屋での開催となります。
ゲスト講師は、ココット料理とパンという新しいスタイルを提案してきた、ポンレヴェックの大山伸さん。
お近くの方はぜひ、4人のすばらしい技術をライブでご体験ください。
受講料は「あしなが育英会」に寄付されます。
(本会への寄付は税金の寄付金控除の対象とはなっておりません。よって講習会では領収書は発行致しませんのでご理解賜りますようお願い致します)

1 実行委員及び講師
大山 伸 氏(Pont-l’Evequeオーナーシェフ)レストランのシェフに伝授したいバゲット
                       昼食(ポークシチュー)
井上 克哉 氏(Auvergneオーナーシェフ)ミルヒブレッツェル・塩ロール
伊原 靖友 氏(ZOPF オーナーシェフ)濡らしパン・手まぜフォカッチャ生地
山院)  氏(元 Gerard Mulotシェフ)大麦パン・昼食(ブラウニー・チャパタ)

2 日時・場所
  平成26年10月16日(木)10時〜16時30(9時30分受付開始)
  名古屋ユマニテク歯科製菓専門学校
  〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅2-33-8
  ※お車でのご来場はご遠慮ください。鉄道など公共交通機関のご利用をお願いします。

3 会費
  受講の方 7,000円(お一人当たり)  
  メディアの方 2,000円          
  *義援金は5,000円とし、2,000円は運営経費に充当させていただきます。
4 定員
   70名  ※定員となり次第締切らせて頂きます。

5 お申込方法 
下記の事項をご記入の上、FAXにてお申込下さい。
※申込頂きました後、詳細(会場案内図等)をご連絡致します。

・貴社名(フリガナ)
・貴社ご住所
・電話番号
・FAX番号
・参加者ご芳名(役職・所属部署)

6 お申込締切
  平成26年10月10日(金)
チャリティー製パン講習会 申込書
名古屋ユマニテク歯科製菓専門学校チャリティー製パン講習会 窓口行
FAX:052−564−0085
お申込締切:平成26年10月10日(金)

お問合せ先
名古屋ユマニテク歯科製菓専門学校 TEL:052−564−0084
チャリティー製パン講習会窓口 中村
  *授業中は電話に出られませんのでご理解御願いいたします


お知らせ comments(0) trackbacks(0)
とかち小麦ヌーヴォー東京イベント開催!
小麦畑の感動がそのまま届く。
とかち小麦ヌーヴォー東京イベントが、9月28日(日)に青山・国連大学前広場「ファーマーズマーケット」内で開かれる。

ここまで参加が決定している店舗
・365日 
・ダンディゾン 
・カタネベーカリー 
・ル・ルソール
・ヨシダベーカリー
・チクテベーカリー(以上東京都)
・セテュヌ・ボンニデー(川崎)
・テーラ・テール(名古屋)
・パンデュース(大阪)
・パンストック(福岡)
・ブルージャム(福岡)
(その他の店舗は決まり次第順次発表いたします)

9月23日に解禁となる、とかち小麦ヌーヴォー。
全国200店舗に及ぶパン屋が参加。
今年の8月にとれたばかりの小麦を使って、思い思いのパンを作り、それぞれの店頭で販売する。
その中でも新進気鋭の若手パン職人が、国産小麦にふさわしい「日本のパン」を提案するイベントというのが「東京イベント」の位置づけである。

そもそも、とかち小麦ヌーヴォーとはなにか。
ボジョレヌーヴォーのように今年の小麦のでき具合をいち早く味わい、収穫のよろこびを分かち合う。
収穫された小麦がこんなに早くパンになることは従来なかった。
製粉された小麦粉は数週間〜数ヶ月に及ぶエイジング=熟成期間がおかれるからだ。
酵素活性を弱めパンを作りやすくすることが目的だが、一方で挽きたての風味は薄れていく。
小麦の香りをそのまま食卓に届けたい。
挽きたての小麦粉でパンを作るという困難な試みにあえて挑戦するのが、今回とかち小麦ヌーヴォーに参加するパン屋である。

国産小麦の時代がやってくる。
パンの原料となる小麦粉は、北米から輸入されたものが普通だった。
製粉会社の努力により、あらかじめ繊細にブレンドされ、パンが作りやすいよう調整がなされている。
それは銘柄や機能によって語られるばかりで、小麦の作り手や、それを生み出す自然に思いが及ぶことはあまりない。
奇妙なねじれだ。
海の向こうから小麦を取り寄せなくても、私たちのすぐそばで小麦は栽培されているのだから。
とかち小麦ヌーヴォー参加店の多くは、北海道に足を運び、十勝の広大な原野に広がる広大な小麦畑を自分の目で見た。
農家と会話をし、彼らの苦労と情熱に共感し、小麦のひと粒さえ無駄にせず、本来の香りを活かしきってパンを作りたいと願っている。

小麦はそれぞれの品種に特徴がある。
土地によっても、栽培方法によっても、風味やふくらみ方も変わる。
今年の小麦の個性をどのように表現するのか。
各シェフによる競い合いを目の当たりにできるのが、とかち小麦ヌーヴォー東京イベント最大の楽しみである。
パンラボblogでは、当日まで参加各店のプロフィールと最新情報を発信していく。

主催のアグリシステムは、北海道・十勝に本拠を置く製粉メーカー。
すべての小麦を契約栽培、農家から直接届けられた原料で小麦粉を作る。
ロッドことにぜんぶナンバリングされ、生産者名だけではなく、栽培方法(肥料や農薬を何回与えたか)まで記録される。
現在望まれる最高の安全・安心システムといえ、一部農家限定の小麦粉も販売している。
フィールドマンが各農家を巡り、高品質な環境保全型農業をともに作りあげていく取り組みを行う。
石臼をゆっくりまわす「石臼方式」、石臼挽きに近い状態に挽ける昔ながらの粉砕型製粉をヒントにした独自の「麦の風方式」による製粉を採用。
えぐみのある表面1層のみを削りとり、栄養価も風味も高いふすまの部分を残した全粒粉を提供することにこだわりを持つ。
それら先端的な取り組みが評価され、多くのパン職人から篤い信頼を得ている。

とかち小麦ヌーヴォー東京祭り
■日時 2014年9月28日(日)10時〜16時
■場所 青山ファーマーズマーケット http://farmersmarkets.jp/
      青山・国連大学前広場(港区神宮前5-53-70)

なお、12時半より(12時開場)会場内でトークショーが行われる。
出演は、小麦ヌーヴォーの提唱者である365日の杉窪章匡シェフ、アグリシステム伊藤英拓専務、パンラボ池田浩明、北海道より小麦生産者、その他特別ゲストも招聘。
種まきから収穫までの流れの紹介や、製粉の実演など、小麦を知るための得難い機会となる。

全国各店舗で開かれるとかち小麦ヌーヴォーの情報はこちらへ

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十勝小麦キャンプレポート4『ベッカライブロートハイム明石克彦シェフ講習会』
熱心な聴衆にとっては、開始時刻の30分も前から講習がはじまっていた。
下準備のために、パン・オ・ヴァン(赤ワインの入りのパン)の仕込みを行っていた明石氏。
一挙手一投足さえ見逃したくないと、参加者がミキサーのまわりに人垣を作っていた。
彼らに向かって、冗談まじりに、ときには脱線しつつ、説明する言葉すべてが金言だった。

ミキサーで生地をまわしながらバシナージュ(足し水)を行う。
「水をいっぺんに入れたらいいじゃないかと思うかもしれないけど、ミキシングを余計にかけなくちゃいけなくなる。
余計なミキシングかけると、味・香りが抜けちゃう。
ほら、グルテンがつながりかかったのが、新たな水を入れるとまたゆるんでくるでしょ。
これ、すごくやわらかい生地ですよ」

見ているだけではパン作りのことはわからない。
できあがった生地をミキサーから取りだしながら、参加者にも触ってみるように促す。
このとき、感じなければならないポイントとはなにか。
「温度と生地のつながり具合。
グルテンの組織ができてきて、しっかりつながっています。
ミキサーの底から生地がはがれてくるのは、つながってきましたよということ」

こうしてできたパン・オ・ヴァンはどういう味だったか。
薄い皮はかりかり、中はふんわり、やわらかいという食感のめりはり。
噛むとふわんと沈んで、すぐに溶けていく。
ワインの香りはサラミの風味をやさしくし、かつ色気を与える。
うまみを引き出す絶妙な塩のバランス。
サラミの塩分を引いて、巧みに計算しているのだろう。

講習会の本番がはじまる。
まず取り掛かったのはヴァイツェンミッシュブロート。
「ライ麦比率40%のパンです。
グルテンが少ないパンなんで、さっきとは別の見極めをします。
副材料が混ざったらミキシングは終わりです。
パンは3回ぐらい失敗するとうまいのができる。
1回でうまいの作ろうとするのがまちがいです。
一度作っていろいろな条件などを反省し、仮定を考えて次への準備をする」

つづいて成形。
ひとつの作業が、パン作りという全体にとってどういう意味を持っているのか。
明石さんはそれを常に意識させようとしていた。
明石さんの呼びかけに促され、一般の聴衆も前に出てみんなで成形を行う。

「ミキサーでぜんぶ生地ができているわけじゃないんですよ。
最後の感覚はここですから。
ライ麦パンは成形できつく締めすぎてたら、ふくらまないですよ。
フランスパンみたいに生地を締めちゃダメです。
ドイツパンは初心者にやらせろと言われる。
ちょっとうまい奴は生地を締めちゃう。
ライブレッドは締めると台無しになります。
成形は『最後のミキシング』だと思ってやってください。
『もういいよ』って生地が言ってくるのが手のひらの感覚でわかりますんで」

「一般的にドイツではパンをスライスしたら焼かずにそのまま食べる。
トーストする文化はドイツにはないっていわれるんだけど、このパンはトーストするとおいしいと思います」

ライ麦パン特有の歯切れの良さとやや粘りけのある食感に、サワー種の酸味とうまみが浮かびあがってくる。
しっかりとした厚い皮はさまざまな風味に満ちている。
十分な塩気とうまみ、渋み、香ばしさ、そしてキャラウェイの清涼感。

「ドイツではキャラウェイをライブレッドに入れるんですけど、僕はそれが非常に好き。
ザワークラウトにもキャラウェイは入れることがあります」

パンの作り方だけではなく、現地でどのようにパンが食べられているかやパンの歴史について精通。
その深み、厚みが、客の頭の中でパンのイメージをふくらませるのに役立つのだ。

「パンの香りが食欲を呼ぶんですよね。
食事中、パンを食べることによって、口の中が一回リフレッシュする。
それがパンの役目。
パンがなければ、フルコースが食べられない。
腹をふくらませる役割もあるし、今日作ったようなちょっと酸味のあるパンは、料理の脂肪分をクリアにする。
それがパンの役割だろうと思います」

パン単体ではなく、おかずやワインなど食事全体の中の欠かせないパーツとしてパンを見る視点。
それは、十勝でパンの文化が広まっていくためにも重要になってくるはずだ。

サワー種を使ったドイツのライブレッドのあとは、ルヴァン種を使ったフランスのライ麦パン、パン・ド・セーグルの仕込みに入った。
ライ麦から作られるサワー種、小麦粉から作られるルヴァン種。
なぜ、ライ麦パンを、ドイツ流・フランス流両方で作るのか。
国境を越え、ライ麦パンの文化に通底する普遍性があることこそ、明石さんの伝えたかった眼目だった。

「ライ麦の少ないのはパン・オ・セーグル(ライ麦入りのパン)。
65〜70%とライ麦比率が高いのがパン・ド・セーグル(ライ麦のパン)。
ドイツとフランスって隣同士ですごく近い関係にある。
アルザスなんか戦争するたびに、ドイツになったり、フランスになったりしてますよね。
国柄や国民性はちがうけど、ライブレッドだけは考え方がいっしょなんです。
レイモン・カルヴェルさん(元国立製パン学校教授)が、日本にきて広めたのがパン・ド・セーグル。
カルヴェルさんの古い資料を見てたら『ドイツパンと同じように焼く』って書いてある。
ドイツパンのように蒸気をたっぷり入れて焼きなさいと。
だけど、ライ麦の比率が高いので、普通に(パン酵母で)仕込んでもパンはできません。
サワー種とルヴァン種は考え方がいっしょなんです。
生地のphを低くもってって、酸性にして生地の進展性を良くしてガスを含みやすくする。
目的はまったくいっしょ。
乳酸菌をパン作りにうまく使おうという考え方。
それはパネトーネ、サンフランシスコサワーブレッド、すべて同じです」

パン・ド・セーグルを試食する(写真奥はカイザーゼンメル)。
「今日はデザートみたいに食べてもらおうと思っています。
マスカルポーネを塗って、ハスカップのジャムをのせて」

十勝の生産者・庄司さんのライ麦。
明石シェフも気に入り、昨年の「十勝ベーカリーキャンプ」でも使用。
外国産と比べるとパン作りはむずかしいというが、素朴な深い味わいがある。
やわらかく、口溶けのいい生地が、それを見事に活かしている。
ライ麦パンの香りは、ジャムとマスカルポーネに少しも負けていない。

パンの適切なスライス厚もおいしさを演出する。
「ライ麦100%だったら5〜6ミリ。
ライ麦65%だったら10〜12ミリの厚さで、口の中にあるライ麦の量がちょうどよくなる」
覚えておきたい法則である。

近年、国産小麦のパン作りが日本でも一般的になってきた。
けれども、パンの長い歴史にとって、まったく新しい事態。
ドイツ、そしてフランスの伝統に即したパン作りをつづけてきた明石さんの目に、それはどのように映っているだろう。

「日本中、内麦ブームで、いいことだと思ってるんですけど、僕はちがうほうにいこうかなと思ってた。
内麦にはいいところもデメリットもある。
内麦の特徴はもちもちすぎるということ。
もちもちというのはたまにだったらおいしいけど、毎日食べるパンには合わないんで、逆にどうやってもちもちを減らそうかと考えています」

「僕は26のときパン職人をはじめて、37年やってきました。
パンはおもしろい。
日本のパン業界は長い間ほとんどアメリカを向いてパンを作ってた。
それがカルヴェルさんがきてフランスパンを広めてから、僕も西へ向いた。
ずっと、タンパクが高い粉で作るパン(食パンや菓子パンなどアメリカ指向のパン)しかなかったところへ、直焼きのパン(フランスパン/ハード系)に向いた粉がいろいろ出てきた。
(フランスの伝統において)『パン』というのは穀物だけで作るもの。
牛乳やバター、砂糖、卵などが入ったのは『パン』って言わない。
灰分が高めの粉は、直焼きにすれば、臭みも抜けておいしい。
そういうものが十勝の粉で十分できる」

食パンや菓子パンが、日本人にとってはパンでありつづけた。
そこへ、フランスパンやドイツパンがやってきて、本場に追いつこうと、パン職人は修練を重ねてきた。
灰分の高さは、国産小麦ならではの味の深みとなるが、一歩まちがえば過度な癖になる。
それを活かすには、この講習会で明石シェフが伝えたような、フランスパン・ドイツパンの方法論が有効である。
パンの普遍性。
ヨーロッパの伝統を見つめ直すことが、国産小麦を真に活かす道なのだ。

講習の最後に明石さんが披露した話を、ぜひ書いておきたい。
生地が手や台にくっつかないようにふる「手粉」の話である。

「前日の夜に、手粉は必ずふるいをかけておきます。
そうすると、朝ふったときに、さっと広がる。
朝からぼてっと塊が落ちると、やる気がなくなるでしょ。
仕事ってそういうところ(が大事)なのかな。
(作業台の上にちらばっている粉を集めて)これ、捨てる店が多いんですよ。
畑に生えている麦って、ひとつの穂に40粒ついている。
40粒で何グラムの小麦粉ができると思います?
すぐに答えは言いませんので、ちょっと考えてみてください」

「(わざと話題を変えて)フランスパンを作るときは、作業台の上を一回オールクリアにしてください。
ブリオッシュ、菓子パン生地のあとフランスパンを作ると、黒い点がつく(焦げやすい糖分や油分がフランスパン生地に混入してしまうため)。
パンの表面に黒い点がついてるってことは、麺台を掃除してないパン屋だってこと。
仕事ってそこらへんかなと僕は思う」

「(話を戻して)さっきの答えですが、5g? 3g?
そんな量ないんですよ。
ひとつの穂でたったの1g。
これ(作業台の上にちらばってた粉)だけでも6、7gありますよ。
これを捨てるってことは、昨日見たようないっぱい実った麦の穂を6、7本捨ててるのと同じことです。
台の上にちらばってる手粉は必ず集めて、ふるってから、こっち(ふるいの上に残ったほう)だけを捨ててください。
手粉を使うのは使っていいんです。
無駄をするなということなんですよね。
こっちにきて、畑に行ったり、農家の人と話したりして、改めて思う」

作業の丁寧さや厨房の清潔さなど「基本」を大事にしてきた明石さんでなければできない話だと思った。
ベッカライ・ブロートハイムの、何度食べても飽きないベーシックなおいしさ。
基本に忠実な仕事だけがそうしたパンを作りだせる。
明石さんの教え。
ひと粒の麦さえ大事にするという倫理と、仕事への心構え、そうして完成したパンのおいしさとは互いにつながりあっているのだ(池田浩明)。



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