パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
シンボパン(立川)
197軒目(東京の200軒を巡る冒険)

おかしなことはいろいろあった。
シンボパンはスナックやキャバクラが並ぶちょっと怪しい町にある。
店の入口では自転車が妙に幅をきかせていて、同じシンボという屋号の自転車屋のシールが、その後ろに貼られている。
パン屋と聞いていたけれど、どちらかというとカフェのようだし、きのこだとか自由の女神だとか、キッチュな置物がいっぱい飾られている。
水玉模様のテーブルに、背もたれだけクラシックなロッキングチェアみたいな椅子と、インテリアもぶっ飛んでいる。

「イメージとしては、プチ歌舞伎町を歩いてきて、不安の中ここにたどりつくと、歩いてきた道を忘れてしまうような異空間が作れたらおもしろいかな、と思ってました。
私のまわりにはすてきなものを作ってる人がたくさんいるので、そういう人たちといっしょに表現したい。
私が歩いてふらっと見つけてきたものを置いて。
家具はmagmaっていう2人組のユニットにお願いしています。
ひと目惚れして調べていったら、立川にアトリエがあって。
行き当たりばったりだったのに、いいふうにできあがりました」

そう語るシンボユカさんは、一目見れば忘れられないし、どんなに遠くからでもよくわかる人だった。
前髪ぱっつんのおかっぱ頭。
それは文字通りのトレードマークとなっていて、店名ロゴの「ホ」の字の点がおかっぱ頭をかたどっている。

店の入口で自転車が気になった訳。
こんな店は前代未聞だが、ここはパン屋であり、かつ自転車屋でもあるのだ。
「昭和12年、祖父の代からうちは自転車屋をやっていて、私で3代目です。
いまでも外で修理したり、地下で組み立てたり、ここでカタログ見てもらって自転車を売っています。
小さい頃も普通にパンク修理の横を通って、家に出入りしてましたね。
水の中にチューブを浸して、ぶくぶくしてるの楽しかった」

そのお父さんはといえば、いつもカフェスペースの椅子に座っている。
お父さんを目当てにお客さんがやってきては世間話をして帰っていく。
みんなが頼むのは、コーヒーとトースト。
ポップな見かけから想像できなかったけれど、ここはご近所の集う喫茶店として機能しているのだ。

「空間を作りたいというイメージが先にありました。
父は自転車で人とつながるイメージ。
私は食べることでつながる。
それには、身近なもの、毎日日常にあるものということで、パンがぴったりだった」

みんながトーストを食べるのをそばで見ていて、食べたくて仕方なくなった。
私が注文したのはバニラシュガートースト。
厚めに切ったトーストをオーブントースターでこんがり焼いて、バターをたっぷりと塗る。
ここまでは普通のトーストと同じだけれど、その上にバニラ入りの砂糖をまんべんなくふりかける。
ただそれだけのものが夢を見させてくれる。
砂糖はバターの甘さを強め、バニラは砂糖に夢のような香りを与えるという、おいしさの雪だるま式3ステップ。
表面はぱりぱりで、中身はふんわり、耳はさくさく音を立てる、絵に描いたような喫茶店のトーストの幸福もそこにはある。

考えてみれば、町の喫茶店は、トーストというパンがあってこそ、みんなの集う空間となっている。
自分の作る空間にはパンがなくてはならないと思ったシンボさんは、パン屋に勤める。
彼女のを惹き付けたのは、地下にカフェスペースを持つカタネベーカリーだった。
生粋のパン職人である片根さんと、料理上手で切り盛り上手の妻・智子さんの仕事は、シンボさんに大きな影響を与えた。

「なに食べてもおいしいし、作るものがすごく誠実だと思った。
それは私がお店をはじめる上で、大事にしたいもの、いちばん身につけなきゃいけないものでしたし。
おいしいものを作るという追究心を近くで見たかった。
おいしいものを食べることが勉強でしたね。
智子さんのお料理、できあがってくるものを食べさせてもらったり、片根さんと智子さんが2人でお店をやっていく過程も勉強になりましたし。
毎年、フランスに家族で行かれる。
帰ってきたあと、イメージが頭にあって、試作をはじめる。
突然やりはじめてる。
味のイメージに近づけていくのに、『これでいいや』はない。
智子さんのやり方というのは、レシピはなくて、素材を食べて作り上げていく。
カタネベーカリーには、おいしくないものが出てない。
フランスパンも、リュスティックも好きだし、嫌いなものがなかったんで、本当に飽きないですよね。
パンって日常的にあるものなので、そこ(飽きないこと)を目指していかなきゃいけない。
カタネさんちみたいなパン屋さんがパン屋さんであるべき。
毎日食べてもらえるパンを作っていきたいと思ってます」

パン屋の厨房は工場(こうば)と呼ばれるが、シンボパンの厨房はむしろキッチンと呼びたい。
食いしん坊のシンボさんがおいしいものならなんでも作りだすコクピットに、パン製造の設備も置かれている、という印象を受けた。

「スープやパンに合うお惣菜、サンドイッチ。
特別なものではなく日常的な感じの食べ物がとても好きで、ランチではパンに合うようなものを作ってます。
立川で野菜がとれるので、それを使ってシンプルに煮込んだラタトゥイユやクリーム煮、野菜といっしょに鶏を蒸し焼きにしたり」

食事のためのパン、パンのための食事。
それは店の中だけで完結するのものではない。
「サンドイッチを気軽に家でしてもらいたいんです。
食べ方は好きにお客さんに選んでもらえたら」

サンドイッチにうってつけのパンたち。
食パン、バゲットはもちろん、フォカッチャ、コッペパン。
チャバタのサンドイッチを食べたい、コッペパンでサンドイッチを作りたいと思っても、ジンボパンのようにパンだけで売っている店は少ないのか。
あるいは、じゃがいものパン、オリーブのパンみたいな、具材のアイデア次第で夢が広がるユニークなパンも、サンドイッチ向きのポーションで売られている。
このパンでサンドイッチを作るとしたらどんな具材が合いますか?
ジンボさんが特に活き活きと語っていたのはこの質問のときだ。

コッペパンには。
「マヨネーズ系が合うんですよね。
タマゴだったり、ツナ。
ツナのフィリングには紫タマネギ、ピクルスをたっぷりしゃきしゃきなぐらい入れるとおいしい。
そこにマヨネーズを入れるときはサワークリームをいっしょに入れるとおいしくなります」
市販のマヨネーズだけのフィリングにはしつこさを感じがちなので、このアイデアはとても参考になる。

フランスパンには。
「いちばん好きなのはハムとグリュイエルチーズ。
バターをたっぷり塗って、生ハムとルッコラをはさむのも好きです。
シンプルなものを合わせておいしくなるバゲットが理想だと思います。
軽くて、ぱりっとしていて、中身がむちっとしているような。
うちのバゲットは、ソースと食べたときの相性を考えたりしているうちに、だんだん軽くなっていきました。

じゃがいものパンには。
「じゃがいもが入っているんで、ルッコラとか水菜とかオリーブとか、香りがある野菜が合います。
じゃがいもが入ってるパンが好きなんですけど、じゃがいもは水分を吸うので、生地がぱさぱさしてしまう。
油でしっかり味つけしてからじゃがいもを入れたらおいしかったんですよね。
生地の外側にはみ出してるのはかりってしたりとか」

フォカッチャには。
「いろんな野菜を、オリーブオイル、レモン、塩コショウのドレッシングにあえたものをはさんで豪快に。
グリルした野菜を和えてもおいしい。
夏はセミドライトマトを作って、モッツァレラチーズと、ルッコラをドレッシングで和えたものをはさんでお出ししてました。
自分でも毎日食べてましたね。
そういうのに合うような味にこのパンは自然になってる」

マッシュポテトとキノコのマリネ
サンドイッチは我を忘れるほどの加速度がないと嘘だ。
このパンは私を野獣にしてくれた。
くにゅくにゅして、一気に歯切れるフォカッチャ。
舞茸の風味をジャガイモが吸い込んで生まれる幸福な相性。
バルサミコの酸味、生地の中のオリーブオイル、パンの表面に水玉のようにトッピングされた塩、イタリアンパセリの爽快感。
そうした具材をおいしくするものたちがあっちからこっちからと素材を攻めてくる。
後味はフォカッチャのおだやかな甘さで締めくくられる。

デザートにはおやつパンを。
そう思って、シナモンのパンとミルククリームをレジで買い、「中で食べます」と宣言。
すると、カラフルかつ面妖なトレーにパンをのせてくれた。
それはまさにシンボ的空間にパンが置かれて完成したスモールワールドだった。

シンボパン
JR中央線 立川駅
東京都立川市曙町2-21-5

042-522-6211

7:30〜18:00(ランチ11:30〜15:00)

日曜月曜休み


200(JR中央線) comments(2) trackbacks(0)
ドゥエトゥレ(西八王子)
192軒目(東京の200軒を巡る冒険)

Due Tre(ドゥエトゥレ)の川崎泰之シェフにはじめて出会ったのは、とある講習会でだった。
ボルチーニ茸のチャバタを手ごねで作っていた。
講習会用なのでは決してなく、開店以来作りつづける、思い入れ深いパンなので、店でも必ず手ごねするという。
その姿を見て、私は川崎さんの店に行ってみたくなった。

指でつまめば先が垂れ下がるほどのやわらかさ。
でか食パン(220円)は衝撃的だった。
鼻先をかすめる自家製酵母種の香り。
それはどこかフルーツを感じさせ、そうかと思うと、ミルクの甘さへと変わり、そして麦の香りへと移ろっていく。
耳の部分は一段と酵母のフレーバーを感じさせ、いっそう甘く。
ソフトな中身は噛まなくてもなくなりそうなほど、よく溶ける。
なにも考えず食べても単純においしく、ひとつひとつの味わいに分け入ればさらに味わい深さを感じさせる。
「嗅いだことのないような洋梨っぽい香り」
講習会のときこの種を嗅いだ、Zopfの伊原靖友シェフはこのように評した。
香りと食感が噛み合うことで、この食パンはさらに魅力を増しているのだ。

「食パンだけは負けないぞ、と思っています。
酵母種を入れる製法にたどりつくまでは、納得いきませんでしたね。
3日するとぱさついてしまう。
AOSANの食パンを食べたとき衝撃を受けて。
これはいかん、と思いましたね。
イーストなんですけど、自家製酵母も入れています。
フランス産石臼挽き粉で液種(液体状の酵母)を継いで。
それまではイーストで液種を作っていたんですが、おもしろくない。
フランス産の石臼挽きを使うのは、フレーバーを加えたいからです。
しっとりしているのはルヴァン(自家製酵母種)のせいもありますし、形が大きいので水分が保持できる。
水は85%入っています(基本配合で約70%程度)。
窯をウェルカー(ドイツ製オーブン)に変えてから、またおいしくなりました」

八王子のさらに向こう、高尾の手前。
住宅街という土地柄、おしゃれなパンは似合わない。
でっかいフィリングの入ったお腹にたまりそうな食パンサンドやコッペサンドが昼時にはどんどん売れていく。
そんな地元密着のパン屋に、なぜイタリア語の店名がついているのだろう。

「ブーランジェリーなんてつけなくたって、パン屋でいいやって。
そんなにかっこいいパンは焼けないですし。
イタ車に乗ってまして。
フィアットパンダっていうんですけど、マフラーが取れたり、ぼろくて壊れるところがかっこいい。
古くなればなるほど飽きないんですよね。
ドゥエトゥレは、イタリア語で23という意味です。
店の名前をイタリア語にしたくて、誕生日が23日なので。
以前はイタリアのパンを置いてました。
チャバタ、フォカッチャ、塩なしパン。
すごく研究してたんですが、案の定ぜんぜん売れなくて(笑)。
チャバタとビスコッティ以外は残っていません」

多くのパンに自家製のフィリングを使用する。
それが変哲ない定番のパンをおいしくしている。

クリームパン(130円)。
バニラの香りの芳醇さ、水気の多いクリームのなめらかさ。
とろとろ感、たっぷりの量。
ひんやりととろけ、ひたひたと喉を甘い液体が滑り降りる。
パン生地は味も食感もしっかりしているのに、口溶けがいいためにそうとは感じさせない。
口いっぱいに広がるバニラの香りは幸福なものだ。
甘すぎだと感じさせる一歩手前で鎮静化していく頃合い。
一口かじってはすーっと引き、かじっては引き。
その甘さの波打ち際に漂う心持ちがとても楽しい。

「ラム酒、バニラビーンズもオーガニックを使っています。
それでも130円。
(都心ではなく)この土地だからできる値段です」

カレーパン(180円)
よく揚がった衣のかりかり音が異常に高い。
パン生地に油染みが少なく、甘さが後味よくて、ナチュラル。
ひと噛み、ふた噛みしただけで、もろっと崩れて、しゅわっと溶けていく。
カレーフィリングには、きれのいいコクがあって、まとわらない。
肉の味、スパイスが追いかける。
家庭的ななつかしめのカレーは、ぴりぴり感もさわやかに、たっぷりの野菜は形も残して、こくこくと噛みごたえがある。

「カレーパンの肉はブロックでお高いのを買っています。
どうしても既製のカレーフィリングはおいしくない。
じゃがいも、にんにくは八王子でとれた素材です」

食パン、あんぱん、クリームパン、カレーパン。
町のパン屋らしいアイテムとハード系のパンが同居する。

「食いしん坊なので、見た目より、とにかく味。
最近のパン屋さんには、形ではかなわないので、味は負けないように。
毎日でも食べたくなるようなパン。
雑誌に載ってるのって、遠くから食べに行くのはいいが、毎日だと飽きる。
食パン、あんぱん、クリームパンにはやっぱりかなわないですよね。
オーソドックスなものをいかに磨いていけるかだと思います。
ユニークなパンじゃないと、雑誌の記事にはしにくいと思いますが(笑)。
新作をたまに出すけど売れない。
クリームパンだけはどんどん売れますね。
それから、あんぱんに、カレーパン。
一時は挫折しそうになりました。
世の中の流れに巻き込まれそうになって。
食べたことのない組み合わせとかじゃないと、だめなのかなって思いはじめていた」

新作の開発に追われるのはやめ、定番のパンをしっかりと作る方向に舵を切った。
それは正しいことだったと、食パンやクリームパンを食べて思う。
子供の頃から食べてきたいつものパンが、いつものようにおいしいこと。
それにまさる幸福はほとんどないのだから。

Due Tre(ドゥエトゥレ)
JR中央線 西八王子駅
八王子市千人町2-13-8 モナーク西八王子1F
042-682-5066
6:30〜19:00
月曜休み

200(JR中央線) comments(1) trackbacks(0)
しげくに屋55ベーカリー(武蔵境)
174軒目(東京の200軒を巡る冒険)

パンを成形しながら、青木哲夫さんが呟く。
「外から見られながらやるのおもしろいな」
しげくに屋は角地にあって、作業台は路地に開いた窓に面している。
道ゆく人が作業を見やり、青木さんも見送る。
知っている人がいれば挨拶を交わす。
パン職人として、地域の人たちとつながっている感覚を、こんなにリアルに得られるパン屋は意外と珍しいのではないだろうか。

「1回は差別化しようと思って、ベーグルとハード系のみにしたけど、お客さんに『あんぱんないの?』ってよく訊かれるもんで、町の普通のパン屋さんにまたなってましたね。
自家炊きのあんこやクリームを使ったパンだから、よろこんでもらっていたんでしょうね」

商店街のなつかしいパン屋のようなたたずまい。
いま流行のパンへの憧れもあるし、作り方も知っている。
それでもあんぱんやクリームパンを作るし、フランス産小麦のバゲットも、自家製酵母のパンも、ベーグルも置いている。
ブーランジュリーで、ベーグル屋で、町パン屋。
不思議な折衷ぶりが、しげくに屋の魅力である。

「大学卒業後、手に職をつけたくてパン屋に勤め、休みの日にはパン屋巡りをしていました。
たまプラーザ、パンペルデュのクロワッサンを食べたときは衝撃でしたよね。
どうやったらこんなにおいしいクロワッサン作れるんだろう。
パンペルデュの淺野正己さん・井出則一さん(デュヌラルテなどをプロデュース)は尊敬する人です。
その後、パンペルデュに募集が出たとき、応募しました。
面接でクロワッサンの作り方を聞いて、『こんなにバター使っていいのか?』と思い、『普通の食パン、あんぱん作りたいんで』って、お断りさせてもらいました。
そのとき断らないで、やってればよかったって考えたこともあったけど、あのクロワッサンの記憶がずっと頭にあったから、ここまでやってこれたのかな。
バターが120%のブリオサンや。
アルトファゴスの志賀さんのパンも衝撃を受けました。
そういうの食べて、どうやって作るのか、考えるのが楽しい」

青木哲夫さんの記憶に残るパンがある。
現実にどうだったかは確かめようがなく、時が経つごとに記憶はすばらしいものになり、永遠に追いつけない神聖なものとなる。
それが、目標となり、夢となって、職人仕事を支えている。
町パン屋としてあんぱんを作りながら、一方で淺野・井出・志賀といったパンの革新者も視野に置く。
行き過ぎないが、平凡じゃない。
それが、しげくに屋の独特さである。

フランス産小麦の熟成レトロバゲット(300円)
皮の食感がすばらしかった。
乾いた落ち葉を踏むような、ざっという音がして、皮が一度にばりばりと砕け散る。
強く焼かれているせいで、皮は苦みを含んでいて、水分は完全に飛んで、強い甘さになっている。
中身も軽やか。
溶け際に残す、皮の強さにやや隠れがちであるが、バターに似たさわやかな甘さが印象的である。

「気泡がぼこぼこで、水分が多くて、甘みがあって、香りがあってっていう、いまどきのバゲットを以前は作っていたんですけど、疑問が湧いてきた。
それでいいのかなって。
いまはスタンダードなバゲットになりました。
パンを作っていて、いろんな疑問が出てくる。
たとえば、長時間発酵って本当にうまいのかな?
いくつもあって。
答えを探して、疑問をひとつひとつ潰して、解決していってる途中です」

自家製酵母パン ミルクフランス(210円)
引きがなく、ざっくりした歯切れで、ばりばり割れる。
ソフトフランスでもバゲットでもなく、全粒粉入りのハードパンを持ってきているところがユニーク。
自家製の練乳入りミルククリームは、ココナッツアイスクリームにそっくりなところに萌える。
硬めに作られたそれは、たっぷりと盛り上げて塗られ、濃厚な甘さに口の中がひりひりするのに、食べれば食べるほど、もっと欲しくなる。
よく焼けたパンの乾きにクリームが滲み、強い甘さがリーンなパンにかえって好相性。

店に並ぶパンのうちベーグル率の高さにそそられる。
ちょっとしたベーグル専門店並みの品揃え。
「むっちり」と「もっちり」という2種の基本生地。
アールグレイやホワイトチョコやドライレモンや塩豆など、ツボを突く具材が混ぜ込まれている。

「ベーグラーの方に受けそうなものを作れたらいいな。
そう思ってベーグル専門店なんかでいろんなもの食べても、うーん、自分には合わない。
自分が食べれて、自分がおいしいなと思うベーグル作ろうとしたのがはじまりです。
うちはパン屋なんでちゃんと発酵したのを作ろうか。
最初はイーストだけで作ったり、自家製酵母だけで作ったり、ストレート法で作ったりいろいろ試してみました。
いまは3日間かけて作ってます。
ベーグルは口の中に残りがち。
それがいやだから生地を2日置いてみたら、口溶けがいいし、香りもよくなった。
中種1日、翌日本捏ね、成形してからまた1日置いています。
最終的には茹でて焼くんで、そこで自家製酵母だけだと酸味が出る。
ごく少量、市販の酵母もプラスしてそうならないように。
うちはパン屋のベーグルです」

ベーグル専門店はベーグルを食べるぞ、という気合い、あるいは心構えで行く。
しげくに屋のベーグルは普通にお腹が空いてパンを食べる気持ちで食べられる。
よく熟して、きちんと味わいがある。
ベーグルの世界観を共有しているからおいしいのではなく、普通においしい。

もっちりベーグル 赤えんどうの塩豆(260円)
ベーグルと本格ハード系の中間という独自の境地は、男のベーグル。
皮はよく焼けてハード。
中身の引きも強く、簡単には噛み切らせてもらえず、硬い芯を噛みしめねばならない。
噛むごとに様相は変わってくる。
小麦のそれよりもよりうっすらとほのかな、米の甘さを滲みださせるせいで、噛みごたえ、歯にくっつく感じ、皮の香ばしさとあいまって、かき餅と錯覚させる。(「もっちりベーグル」は米粉入り)
そして、これは豆パンの新展開でもある。
塩豆だけをシンプルに入れて。
塩気は生地に働いて、先述のうっすらとした甘さを、濃厚さへと急旋回させる。

青木哲夫さんは被災地でパンを売っている。
パンになにができるか、自分になにができるのかを問う、挑戦であり、冒険である。

「うちは(移動販売用の)車があるから、その車で被災地にパンを売りに行っています。
石巻のものを売る支援を行っているボランティアさんと話をした際、被災地は店がないと聞いて。
そういうところを回ろうかな。
2ヶ月に、3ヶ月に1回が精一杯ですが。
『来てくれてありがとう』と言ってもらえる。
これも支援のひとつの形かなと思えるようになりました。
安く売るわけでも、ボランティアをするわけでもないですが。
それを承知で買ってくれる人がいる」
 
行ってみなくてはわからない。
なにが望まれているのか、なにが必要とされているのか。
被災地の人と同じ目線に立ちたい。
その場に立つからこそ、見えてくるものが、わかってくることがある。

「『たいへんね』と言われるんじゃなくて、隣の町からパン売りにきたよぐらいの気持ちで受け入れてもらえればいいんですけど。
そのほうが相手にとっても、自分も、気持ちが楽だし。
被災地に行きはじめていちばん最初に出会った、石巻のお味噌屋さん『山形屋商店』には必ず寄ります。
いまは他のお味噌屋さんに自社ブランドの製品を作ってもらってるみたいなんですけど、工場を立て直すには大きな資金が必要なので、なかなか立ち上がることができない。
うちの車の空いたスペースに山形屋商店さんの味噌やしょうゆも置いて、売っています。
山形屋さんも昔は車で売ってたそうで、車に味噌積んでたら、それを見た人がすぐに『あ、山形屋さんだ』と。
味噌は10キロ根こそぎ売れたが、パンは1斤しか売れませんでした(笑)。
『味噌売れましたよ』って言ったら、
『すごいねー』って笑って、やる気を出してくれました。
被災地だと売れないので東京を回っているそうですが、地元でもこれだけ需要があるんだと、改めてわかったと言ってましたね」
 
自分が必ず役に立てるなどとは到底思えず、半信半疑で行く。
行ってみれば、出会いは必ずあるものだ。
予期せぬことが起こり、会話が生まれ、心が通じ合う。

「最初は仮設だけまわっていたんですけど、それだと差別になるので、復興市場も出させてもらったり。
売るのに必死でそんなに話もできませんでしたが、だんだん話せるようになってきました。
なにができるのかといったら、なにもできない。
ただ、話を聞くしかない。
たわいもないことで、わいわいがやがや。
それが少しでもプラスになるのなら」

青木さんはボランティアとしてパンを配っているのではなく、パンを売っている。
儲けは出ないが、利益があれば、その分お菓子などを寄付する。

「『パン、ただじゃないんだ』って言われることもあります。
ボランティアさんによると、
『これからのことを考えると、お金を出して買うものだと自覚する、そこからはじめないといけない。売りに来てくれることも大切』だと。
子供なんかみんなもらえるものだと思っている。
これから先、ずっともらいつづけるわけにはいかないですからね。
『ありがとうございました』とみんなに言われる。
自分が本当は言うほうなのに。
ありがたいし、申し訳ないし」

「ありがとう」がありがたい。
それは、被災地に行った者の実感としてある。
役に立てるかどうかは、常に手探りである。
「ありがとう」と言ってもらえるかどうか、それが道しるべなのだ。
自分自身からも「ありがとう」という言葉が自然に口をついている。
与えるよりもっと多くを、被災地で得ていると思う。
 
「車の扉を開けたら、いっぱいにパンがあるようにもっていきます。
『うわーっ』て、買ってくれる。
昼まではお店の分を作って、それから8時ぐらいまでまたパンを焼いて、そこから包装、それから車で高速を走らせて持っていきます。
以前はスタッフに販売をやってもらって、自分は作るだけで脇から見ていましたけど、自分が売らないとだめですね。
自分が話したいし。
作るだけじゃなくて、お客さんの口に入るまで。
楽しいですね。
走って戻ってきて、『おいしかったからまたください』って買ってくれる人がいたり。
予約をしてくれたり、わざわざ隣の仮設からきてくれたり。
『遅い! パンが少ない!』って怒ってたおばちゃんが、『来てくれてありがとう』と言ってくれた。
1回目は『すいませーん』だけだったのが、2回目は『前に来てたでしょ』、3回目には会話ができてたり。
ありがたいことですね。
パンを通して話ができたらおもしろい」

パンの力。
言葉の力、笑顔の力、やさしさの力。
臭い、恥ずかしい、ダサイと思っていた価値が、あの場所では必要とされている。
それを体験し、確認することは、被災地に行った者にとって日常を生きる勇気となるのだ。
被災地で生まれた、人とのつながりをうれしそうに語る青木さんの表情が、それを物語っていた。

JR中央線・西武多摩川線 武蔵境駅
0422-34-1281
10:00〜19:00
日曜水曜休み

青山Farmer's Marketに毎週土日出店
・表参道駅近くの246COMMONでも販売

#174



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ムッシュイワン(立川)
161軒目(東京の200軒を巡る冒険)

パンを食べつづけていくと、「逆転現象」に出会うことがある。
新しい店に既視感を覚える一方、古い店に食べたことのない新しさを感じる。
ムッシュイワンにあるのはそうした新しさである。
食パンのような、古めかしいパンこそいっそう新しい。
パンから漂う酵母の芳しさ、食感においてはやわらかさと反発がハイレベルに拮抗する。
新しいパン職人が目指しているものが、数百年にわたって守りつづけられる技術の中にあるとしたら。

福田元吉という人がいた。
「ホテル系」と呼ばれる流れの祖となったパン職人である。
いま多くのパン屋が加入するJPB友の会という団体は、もともと福田を囲む親睦会として設立されたものだ。
かって一時代を築いた、パン業界の顔。
年を経て、時代が変遷していく中で、福田の直系の弟子であり、かついまも現役のパン職人である人は、とても少なくなっている。
その代表とも呼ぶべきひとりは、シニフィアン・シニフィエの志賀勝栄シェフ。
もうひとりが、ムッシュイワンの小倉孝樹シェフである。

「福田元吉の師匠がイワン・サゴヤン。
僕がやってきた仕事のルーツはそこまでさかのぼります。
明治の頃、当時の帝国ホテルのオーナー大倉喜七郎が、満州に行ったとき、大和ホテルのメインダイニングで食べたパンがあまりにうまかったそうです。
そのときパンを焼いていたのがサゴヤン。
サゴヤンはロマノフ王朝の宮廷料理人だった。
王朝には芸術や食などすごいものが集まっていたが、日露戦争に負け、衰退していった。
サロヤン一族は世襲でパンを作っていたが、国外追放になり、満州まで逃げてきていた。
ウクライナの小麦とホップス種を使ったパンは抜群にうまかった。
大倉は2年越しで口説いて、彼を日本に呼んで、帝国ホテルにベーカリー部門を作った。
門外不出の技をなかなか教えようとはしなかったけど、日本人の勤勉さに心を開いて、技法や種の作り方を教えていくようになった」

「僕の師匠福田元吉は、昭和のはじめに帝国ホテルに入り、イワン・サゴヤンの元で修行した。
イワンさんは昭和23年になくなりますが、元吉は僕らの前でも『イワンの親父』と呼んで、製法を守り抜いていった。
戦後、福田元吉が帝国ホテルからホテルオークラに転じると、帝国は代替わりでイワンのパンじゃなくなり、オークラのパンが有名になった。
その後、品川のパシフィック東京のベーカー長になると、『パシフィックのパンがうまい』とまた有名になって、ホテルのベーカリーはこぞって福田の子分をチーフとして招請した。
それで、福田は『ホテルパンの父』と呼ばれるようになった」

もともと料理人志望だった小倉シェフはもう40年近く前、パシフィクホテルの厨房で、福田元吉に出会う。
そして、浅草ビューホテルなどのシェフ・ブーランジェを務めながら、福田から受け取った「ホテルパン」を守りつづけようとした。

「オイルショックや不況などの影響で、ホテルの各部門は独立採算制になり、利益を出すことにこだわるようになった。
食材や時間や人件費を削減した。
発酵時間を短縮し、製法を崩したパンを出さざるを得ない。
僕もがんばったんですが、『ホテルパン』がなくなっちゃった。
1次、2次、しっかり発酵熟成を守らなければいけない。
いま長時間発酵が主流になっていますよね。
志賀君の『酵母から考えるパン作り』(長時間発酵を世に広めた本)なんかを読んでも、福田元吉の『ホテルパン』のエッセンスが入っていると思う。
突き詰めていくと、流れてるものが同じなんじゃないでしょうか」

とはいえ、それほど偉大だった福田元吉の仕事を継ぐ者はいま少ないのだという。
福田は亡くなり、年を追うごとに福田の直弟子たちも現場を離れていった。
弟子の中でももっとも若手に属する小倉さんは、パン業界が福田元吉を忘れようとしている現状を嘆く。
「福田の親父を引き継いでいく人たちはだらしがなかった。
師匠が偉大すぎた」

小倉シェフは、福田の仕事を「無形文化財」と呼ぶ。
レシピとして書き残せる以上のなにか。
生地や発酵の見極めという「勘」、丸めなどの「技」は、形のないものだから、職人が現場から去れば消滅するしかない。
数百年にわたって培われた伝統が、ことによったら無に帰することになる。

「スタッフにもよくいいます。
『僕の仕事をまねするのは、コピーじゃないんだ。
福田の親父の仕事の継承なんだよ。
そばにいて見ていないとできないものなんだよ』
たとえば、独学でやる人は、手のさばきが未熟だと思います。
スキーでも、基礎ができている人間はきれいに滑れる。
僕が気にかけているパン屋さん、徳多朗のマダムが僕の講習会にきてくださった。
マダムはこう言ってくれました。
『(小倉さんの)手さばきを見たとき、愛おしそうにパンを触っている。
私はパンになりたいです』」

イギリスパン(315円)
小倉シェフが福田元吉から教わったそのままのホテルパン。
香りの中で酵母とミルクが完全に融合している。
噛んだ瞬間にバターの風味が広がり、塩気がそのあとを追いかけてくる。
抜きつ抜かれつの追いかけ合いがいつまでも止まない。
溶ければ溶けるほど、より甘さを増し、より広がりを増して、変化をつづけて飽きさせない。
食感はふくよかで、ぷよんとした感じもあれば、やわらかくたわんで、快い歯ごたえもある。
シンプルながら豊潤。
それは素材がポテンシャルを十分に発揮しているからにちがいない。
生でも1枚があっという間。
トーストすれば、翌日でも翌々日でもおいしい。

小倉シェフの語る、ホテルパンの特徴はこのようなものだ。
「こねすぎないこと。
アンダーミキシングにして、発酵で育てていく。
ミキサーでこねると発酵が早くなり、失敗も少ない代わり、小麦本来の持ち味を出し切れていません。
酵母は最低限の量。
それに見合う発酵時間をとってあげて、パン酵母が働きやすい時間・空間を作って、めいっぱい働かせる。
1次発酵をうまくできれば、そのあとも管理がしやすい」

「ほとんどの人がオーバーデベロップではないでしょうか。
強めにまわして、ミキシングの段階で生地を作ってしまう。
まわしすぎると発酵が早くなり、若い生地は味もぼける。
菓子パンでもくちゃっとした腰のないものになる。
ミキサーの音って、まわしていると確実に変わっていく。
音を聞いていたら、いま生地がどんな状態なのかわかる。
『こんなに早くバター入れるの?』っていうようなタイミングでも、水と油に分離しない。
そのあと数分しかこねず、あとは休ませるだけなのに、不思議なことにそれで生地ができてしまう」

じゅうぶんな発酵によって酵母自身がおのずからパンを作りあげる。
ミキシングを少なめにして小麦の味を活かすことや、酵母を少なくした長時間発酵は最近の流行であるかのように思われている。
それは現代において「発見された」わけではなかった。
福田元吉において、すでにそうだったのだから。

「丸めも大事なんですよ。
丸めにも法則があって、それを体で覚えてるから。
我流でやると、分割丸めの段階でいい加減になる。
福田元吉のイギリスパンは一般的に見たら塩が多い配合なんですが、それが絶妙の塩加減になる。
塩がなければ、えぐみがでる。
この量でも、塩がききすぎるなんて、きちんと作ればありえない。
昭和50年代は精製塩が主流で、いまよりもっと強い塩でしたが、ホテルの朝食で出していて、しょっぱいといわれたことはありませんでした。
当然なんですね。
一次発酵の丸め、成形の丸め。
その工程をきちんとしてないから、塩が強く出てしまう。
塩がうまく生地の中へ分散しない。
発酵が足りないと、うまく糖分を食べてくれずに残ってしまう。
ちゃんと発酵させて、きちんと丸めて、タイミングをまちがえなければ、味がうまくぱーんと出る。
そこがおもしろい。
プロセスの中で砂糖も塩も分解されていく。
きちんと発酵させ、きちんと生地を作らなくては、配合の妙がわからない。
レシピを見てもわからない部分です」

私はシニフィアン・シニフィエの厨房で志賀勝栄シェフの丸めを見たことがある。
それは小倉シェフと同じく、福田元吉直伝の丸めである。
若き日の志賀さんは、師の元へ通い詰め、それを会得した。
彼はその丸め方を「揉む」と表現していた。
シニフィアン・シニフィエのパン・ド・ミは副材料を入れずリーンであるにもかかわらず、きちんとふくらんでやわらかい。
福田直伝の丸めができなければ、シニフィアン・シニフィエのパン・ド・ミは作ることができないのだと。
いま最先端だと目されるパンの核心部分を支えているのが、実は数百年の時を経て伝承された職人技なのだ。

「1回目の丸めは分割して箱に入れるとき(1次発酵の前)ですが、ちゃんとガスがたまる丸めをしないと、伸びしろにかかわる。
いちばん芳醇な香りのする炭酸ガス、有機物をちゃんと溜まるように丸める。
しっかり丸めてガスが逃げないようにする。
丸めが悪いと、成形のときに元気がない。
伸びしろがない。
気泡膜が広がってはじめて、塩と砂糖が生きてくる。
ちっちゃい気泡だときめが詰まってしまう。
ヴィロンのレトロドールという粉(フランス産小麦)がなぜうまいか?
雑味の味わいですよね。
雑味も塩と同じで、使い方では大失敗になる。
詰まった生地だと、えぐみ、むれが出る。
だから、フランスパンは気泡を大きくする。
他のパンも同じこと。
食パンだって、発酵がきちんととれたものは、窯伸びして、おいしくなる」

Vバタール(260円)
フランスVIRON社の粉を30%、ライ麦を3%ミックス。
硬めの皮の快い崩壊感と、中身のしなやかさのコントラスト。
なにより味わいのトーンが明るく、複雑で、しかし透明感があって。
じわじわと雑味が発してくる。
それは荒々しさであり、豊穣さであるが、静かに発してくるので、奥行きをも感じさせる。
だから、中身の白い味わいの繊細さも同時に聴こえてくるのだ。

多くのパン屋と同様、ムッシュイワンの経営も常に順風満帆ではなかった。
「7年目で思い知らされました。
インストアベーカリーのあるスーパーが近くにできて、客足が落ちた。
それでコンセプトを曲げかけたところがあった。
(ムッシュイワンがテナントとなっている)若葉ケヤキモールの担当者が女性に変わって、こう言われました。
『なにをやってるの!
スーパーを相手にしても仕方がない。
ここにくるお客さまはそんなの関係ない。
10円、20円安いからってパンを買うお客さまじゃないんですよ』
勇気をもらった。
もう1度、僕らしいパンを作ればいい。
ドーナツとかぜんぶやめちゃった。
うちにしかないものを作りつづけよう。
そうなると客が戻ってきた」

ムッシュイワンは立川駅からさらにバスで10分ほどいった郊外のショッピングセンターにある。
都心に比べて、高級なフランスパンを売る立地として好ましいとはいえない。
だからこそ、だと思う。
まわりののどかさから一転、店に入るとパンのいい香りが鼻腔を突き、うつくしいパンが並ぶ光景には、うれしい驚きがあり、ここでしか買えないというありがたさがある。

「コンセプトは守らなくちゃいけない。
『最初の志を曲げて、あんぱん・菓子パン作ったら繁盛店になりました』って、うちはそれできないんですよ。
まわりと同じものを作る必要ない。
ホテルブレッドなんかよその店にはないんですから。
流れてる血筋がちがうし、それをもっと磨かなきゃいけない」

「僕がこの店をはじめたとき、なんでこの名前をつけたか。
イワン、この火だけは消し去りたくない。
『もう福田の時代じゃない』っていう人もいます。
でも、僕は守り通したい。
こんな奴が1人か2人いたっていいじゃないか。
イギリスパンを作りつづけたい。
福田の親父に教わった通り、愛おしんで作れば、必ずおいしいパンができる」

ペイザンサンド(320円)
使用されるのは、極小のイースト量で作るバゲットの老麺(前日の生地)を種にして作り上げるパン・ペイザン。
ぎりぎりまで熟し、凝縮された生地に特有のしなやかな舌触りと繊維感。
その凝縮ぶりは香ばしさを通りこし、渋い旨味にまで到達している。
皮はかりかり、中身はよく火抜けして軽やか。
滲みだしてくる味わいの濃さがものすごいのに、酸味も、えぐみもない。
それは噛むごとにさらに変化し、むしろさわやかになっていく。
おかずとの相性が圧倒的。
ハムのスモーク感、チーズのとろけ、トマトの熟れた感じと次から次に受け止めていく。

伝統を守りつづける店。
しかし、この店のパンにあるのは、古さではなくむしろ新しさではないか。
私がそう告げると、小倉シェフはこう言った。
「保守です。
保守であることが革新」

JR中央線 立川駅
(JR立川駅北口より、若葉町団地行きのバスに乗り、砂川九番で下車)
042-538-7233
10:00〜20:00(土曜日曜祝日 9:00〜20:00)
 


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#161
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パサージュ ア ニーヴォ(武蔵境)
155軒目(東京の200軒を巡る冒険)

踏切のそばにあるからパサージュ ア ニーヴォ(フランス語で「踏切」)。
なんと単純で、なんと普通。
でも、それがいい。
毎日、踏切を通り過ぎるような日常感覚で、家の近所でおいしいバゲットを買う。
近所の人たちがスーパーのレジ袋を下げて、買物帰りに立ち寄る。
それが当たり前の風景になっている。

夫婦で営むパン屋だが、奥さんがシェフ、旦那さんが手伝ったり、販売を担当する、ちょっと珍しいパターン。
大和祥子さんがパン屋で修行し、独立を果たした。

「もともとサラリーマンでしたが、30をすぎてからパン職人になりました。
近所においしいパン屋さん(ムッシュソレイユ)があって、私もパン作ってみようかな、パンやりたいなーと、軽く思った(笑)」

「3軒のパン屋さんに勤めたあと、3ヶ月ぐらいフランスのパン屋さんで働きました。
パリの南、アントニーという町にある、お菓子も作るパン屋さん。
勉強になりました。
パンが特別なものじゃないことがわかりました。
フランスではパンは朝昼晩食べるもの。
作り方はそんなに変わりはないのですが、旅行じゃなくそこに暮らして、毎日パンを食べるって、すてきな体験だったなと思います。
オーナーシェフもショコラティエだった人で、パティシエも、ショコラティエもきちんとした専門の人がいたので、その人たちについて、パンだけではなく、お菓子も勉強させてもらいました」

大和さんがフランスで会得した得意技のひとつはマヨネーズである。
「サンドイッチも日本のパン屋さんではないような材料を使う。
自家製のマヨネーズは、ディジョンマスタードを使って、お酢は使わない。
そうやって作ったマヨネーズはバゲットとすごく合うんだなとわかって、いまうちで出しているサンドイッチにも、それを使っています」

パサージュ ア ニーヴォの原点とはなにか。
店をはじめるにあたって、大和さんが考えたこと。
それは自分がフランスで食べておいしかったバゲットを作って、お客さんに食べてもらおうということだった。

「フランスで食べたトラディションというバゲットがすごくおいしいと思った。
長時間発酵で作っていました。
それで、うちのバゲットはすべて長時間発酵で作っています。
修業先のパン屋さんで使っていた粉をそのまま使えたらいいのですが、入ってきていない。
日本にも輸入されているエピレットを使っています。
フランス産50%、カナダ産50%。
このカナダ産の粉もおいしいんですよ。
中身は引きがあるけど、口溶けがいい。
フランスで食べたその味を目指しています」

バゲット(260円)
中身のクリーム色はフランス産小麦ならでは。
香りさえクリーム色で、のっぺりと立ちはだかる。
皮は薄めだけれど、がりっとしてぱりっとしたところもフランス流で、手加減はない。
引っ張ってちぎれず、噛み切ると、ざくっと一挙に離れる、気持ちのいい引きの強さ。
皮の香ばしい甘さのあとから、中身の旨味が豊かにあふれ、飲み込んだあとまで、残照が喉を照らす。
この濃厚さこそ、長時間発酵のものだ。

「お客さんに『国産小麦ないの?』とよくいわれるので、作りました。
あまり甘くしたくもなくて、軽く食べられるようなのがいいな。
北海道産の石臼挽き小麦が少し入って、全粒粉も入る。
メインは熊本産の小麦」

ジャポネ(240円)
いかにも「麦」を感じさせる、あたたかみのある香り。
薄いしなやかな皮の下にもわんもわんと跳ね返る中身がある。
麦の粒の外側のほうの雑味や軽い酸味を感じる。
さまざまな味わいを含み込んだおおらかさ。
それが餅のようなもっちり食感と相まって、和を感じさせる。
底の皮がいい。
せんべいのようなばりばりさで、長時間発酵ならではの、甘さの伸びがある。

バゲットを溺愛する。
籠にささったさまざまなバゲット。
普通は、丸や小さなバトン型をしている、ドライフルーツ入りのパン・オ・フリュイさえ、バゲットの形に作られる。

「お客さんにほしいといわれて作ったオリーブ入りのパンも、バゲットで作りました。
とにかく長時間発酵で作りたかった。
食べたときの食感がバゲットがいちばん好き。
スライスすると一口サイズで食べやすいし、チーズなんかものせやすいですからね。
思ってたより年配の方もバゲットを買ってくれる。
バゲットがいちばん売れます。
『おすすめは?』と聞かれたら、『バゲット』と答えます」

バゲットを作りたいと思ってはじめたお店でバゲットがいちばん売れる。
日常で食べるパンとして多くの客がバゲットを買っていくパン屋は、フランスではごく普通のことだが、日本ではなかなかない。
普通のことを普通の顔でつづけることが実はいちばんむずかしく、また幸福なことだ。
近所に住み、この道をいつも通っている人が、一度この店でバゲットを食べたなら、それを買わずに通り過ぎることはむずかしいだろう。
遮断機の棒さえバゲットに見えるようになるかもしれない。(池田浩明)

パサージュ ア ニヴォ
JR中央線 武蔵境駅
0422-32-2887
8:00〜18:00頃(売り切れ終了)
第1火曜休み、水曜休み

#155




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#155
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ファクトリー(市ヶ谷)
126軒目(東京の200軒を巡る冒険)

ファクトリーはパン工場である。
店で販売するパン、母体である麹町カフェで使用するパン、ホテルやレストランに卸すパンを焼く場所。
元は麹町カフェで供するサンドイッチや食事パンを焼いていた三浦隆広シェフがパン部門として独立し、ファクトリーという別店舗を構えたのが開店の経緯だ。

カフェの厨房から生まれてきたパン屋。
料理人である麹町カフェのエグゼクティブシェフ松浦亜季さんは、パン職人である三浦さんとのコラボレーションについてこう語る。
「以前、麹町カフェはちっちゃなコーヒースタンドでした。
オーブンだけしかなかったのですが、その設備で作れる料理ということで、サンドイッチを作りはじめた。
やがて、自分たちがパンを作ったほうがいいとなって、いまのファクトリーのシェフと、同じ厨房でいっしょに作るようになりました。
パン屋さんで買ってきたパンに具をはさむのではなく、サンドイッチからパンを考えていった。
この具をはさむためのパンがほしい、というようにパンを作ってもらう。
パンの食感とか形も具に合わせて。
もうちょっとばさっとしたほうがいいとか、酸味があったほうがいいとか、形の大きい小さいも相談して」

料理はレストランで作られ、パンはパン屋で作られるのが普通である。
だが、料理とパンは本来切り離せないはずだ。
両者は麹町カフェの厨房で再び出会い、ケミストリーを起こした。

「ずっとパン屋さんをやってきましたが、料理を作っているのをそばで見る機会はありませんでした。
麹町カフェでは同じ厨房で料理を作る、すぐ横でパンを作っていました。
それによって、お互いいい意味での刺激がありました。
料理の味見をさせてもらったり、この料理にはどんなパンが合うのかと考えてみたり」

料理に触発されたパンは、自らの存在をネクストレベルへと高めたのではなかったか。

ブラウンシュガー入り全粒粉食パン(220円)
かすかに発酵の香り、ブラウンシュガーの甘い香り。
それよりなにより、この食パンにはあたたかな小麦の香りがある。
小麦の素材感を前面に出しているのに、このパンは食べやすい。
中身はなめらかで、食感にバネがきいていて、しかも空気をはらんでいてややほどけるので、うまく唾液がまわって口溶けが心地いい。
小麦の豊かな風味はすぐに軽やかな甘さへと移ろっていく。
やがていっしょに噛んだ味わい深い皮と一体になって、白と褐色、2つの小麦の甘さが絶妙に重なり合う。

この食パンは、バターを塗ってコーヒーで流しこむことより、肉汁流れだすチキンソテーをはさんで食べる場面を私に想像させた。
フランスパンのように、料理と小麦が衝突し、コントラストを際立たせることによって、マリアージュを生みだし、かつこれだけ食べやすければ、具材といっしょでもなめらかに喉を通っていくだろうと。

パンの素材感と食べやすさを両立させる製法について三浦シェフはこう説明する。
「イーストは最小限で発酵時間を十分にとり、添加物を使わないようにしています。
白い砂糖ではなく、ブラウンシュガーを使っています。
よけいな味がしなくて、ひとつひとつの素材が伝わるほうがいいと思います。
サンドイッチの具材も添加物が入っていません。
具がせっかくそうなのに、パンで入れてしまったら、台無しにしてしまう」

麹町カフェと同様に、ファクトリーもサンドイッチを売り物にする。
サンドの調理はアシスタントシェフの中島基子さんにゆだねられている。
「パンと具材の相性を考えて。
具材の組み合わせ、食感、パンの厚さも食べやすいように考えますね。
片面にマスタードバターを塗ってバターの風合いを感じさせ、もう片面には粒マスタードを塗ってアクセントにしたり。
マスタードによって、ただの野菜でもサンドイッチにすごく合います。
ちょっと焼目をつけてかりっとさせて、ジンジャーポークをはさんだり。
いろんな組み合わせが無限にある。
チーズのサンドイッチといっても、チーズの種類だけでもたくさんありますし。
マヨネーズなのか、ケチャップにレモンを入れたサウザンドレッシングなのか、ジェノベーゼなのか、ベジタリアンの方にはアーモンドにトマトを和えたアーモンドドレッシングもあります」

食パンなのか、カンパーニュなのか、それ以外のパンなのか。
白いパンなのか、全粒粉入りの味わいの強い生地なのか。
どのぐらいの厚さがふさわしいのか。
パンは生のままなのか、炙るのか。
スプレッドとドレッシングを考え、具材の組み合わせをイメージし、という他に、パンにまつわるさまざまを決定する。
小さなちがいや心づかいが、食べる側の印象をまた別のものに変えるだろう。
それがサンドイッチの自由である。

トマトチェダークレソン(450円)。
チーズとトマトとマヨネーズ。
いつ食べてもおいしい組み合わせにちがいない。
ではあっても、このサンドはなんと舌に滲みることか。
このチェダーチーズであり、このマヨネーズであり、このパンでなくてはならないと思わせる説得力。
やや厚めのカンパーニュが食べづらさとならず、小麦の味わいを存分に具材の上に重ねて、マリアージュのステージをさらに高める。
サンドイッチの耳は取るというジャパニーズスタンダードの逆をいって、この皮は強く主張し、香ばしさ、ほろ苦さがフィリングのスパイスとなる。
あえてラフに、タフに見せかけながら、繊細な計算を感じる。

三浦さんが、前の職場であった渋谷のビオカフェ、そしてファクトリーでコラボレーションした料理人から学んだことは、
「なにかとなにかの組み合わせですね。
料理の知識がなかったんで」
単に手近にある2つを合わせてパンにするということを超えて、別の場所にあるものを結びつける驚き、イマジネーション。
シェフが、「組み合わせ」と呼ぶのは、その感覚のことではないだろうか。

コーヒーシナモンロール(280円)。
コーヒーのアイシングが、まるでパン生地をフラペチーノに浸して食べるごとくに生々しく、エッジがきいている。
そしてパンは、菓子パンでも、デニッシュでもなく、ややハードでもちもちの全粒粉生地。
食事パンに使うようなカントリー風のものを組み合わせて意表を突く荒技。
アイシングの甘さへと浸透する豊潤なラムレーズンの風味はめくるめくようで、クリームチーズによって湿り気を帯びた生地の食感と相まって、サヴァランを彷彿とさせる。
とどめにシナモンの一撃。
アイリッシュコーヒーのようでも、コーヒークリームを使ったケーキのようでも。
二転三転のどんでん返しに、思う存分振り回される。

「生地にクリームチーズ、ラムレーズンをのせて巻き込み、アイシングにエスプレッソをかけて。
アメリカンなパンを作りたくて、ドイツパンに入れる粉を配合しています。
ひまわりの種、麻の実が入っている。
外が甘いんで、ちょっとくせのある生地がいいと思いました」

三浦シェフが女性客と話し込む光景を見た。
なにを話しているのかと思ったら、「食パンの上の部分の焼き色を薄く」という彼女の好みを訊いていたのだった。

「お客さまの求めているものを提供したい。
季節感だとか食べやすさだとか。
なるべく焼きたてのものをお客さまに提供しようと思っています。
自分の好みの焼き色をオーダーしていただけたら。
『この時間にあたたかいものを』と予約していただければ、できる限りそれ合わせて焼くようにしています」

サンドイッチ用のパンはもちろん、たったひとりの客のためにさえパンを焼く。
ファクトリーの語感とは裏腹に、この店にはオーダーメイドを受け入れる細やかさと心づかいがある。(池田浩明)


JR中央線/東京メトロ南北線・有楽町線 市ヶ谷駅 / 東京メトロ半蔵門線・東西線 九段下
03-5212-8375
8:00〜22:00(土曜 9:00〜18:00)
日曜休み

#126





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#126
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ポチコロベーグル(西荻窪)
88軒目(東京の200軒を巡る冒険)

引きこまれるように白くて狭い階段を上がると、アニマル・コレクティヴが流れていた。
ボサノヴァでもフレンチポップでもなく。
かわいいお店ですね、と私がいうと、松尾綾子さんはちょっと意外そうな表情をして、
「倉庫っぽい感じ、男っぽい感じにしたかったんですけど…」といった。

ベーグルがべーグル自身であること、私たちのベーグルであること。
アメリカの動向から離れて、自分たち自身のベーグルを作ろうという流れがいま静かに広がっているように思える。
だから、2011年4月に、綾子さん幸子さんの姉妹がポチコロベーグルを開店したのは、象徴的だった。

「ベーグルといえば硬いイメージで、パン屋さんで売っているものに好みのがありませんでした。
天然酵母でも作ったのですが、好みの食感にならなくて、イーストで作ったら中身のもちもち感や皮の感じがいちばんおいしくできました」

プレーン(160円)
焼き菓子のような甘くていねいな香り。
いとおしくなるような弾力。
それは、海水浴のときボートに空気を入れるために押すポンプのぽむっぽむっというあの感触に似ている。
目の詰まりかた、硬さからくるのではなく、細かな気泡ひとつひとつに含まれた空気が顎の動きに反応し、エアインシューズのように圧縮され反発するようだった。
ゆっくりと中身は溶けて、どろっと輪郭をなくす。
原料の味を殺さないほんのりした甘さがして、そのヴェールがはがれ落ちると、国産小麦の甘さがとろとろと溶けてくる。

東京に出たらなにかに出会えるのではないか。
松尾綾子さんは、姉妹で店を開く夢をあたためながら、上京し、アルバイトしていた。
ベーグル作りは独学で習得した。
「材料も大事ですが、ちょっとしたタイミング、ゆでるときの上げるタイミングやゆで加減が大事だと思います。
毎日作りつづけていて、こういうときはこうだな、ということがわかってきました。
触った感じとかで」

毎日作ることが大事。
別の仕事をしながら、開店準備をするのは、たいへんなことだ。
でも、毎日つづけられたから、夢をかなえることができたのだと思う。
「長くつづけられることって、自分たちの中で限られてて、ベーグル作りが唯一のつづけられることだと思ってて。
楽しいです。
焼き上がったときはうれしい。
お客さんがまた食べたいと思ってくれるとうれしい。
目標にしつつ、つづけていくことだと思います」

学校や店で製パン技術を学ぶのではなく、感覚だけを頼りに自分の味にたどりついた作り手に特有の、しなやかさやニュアンスが、このベーグルにはある。

この形でなければならないと思う。
このうつくしい棚にはアクセサリーや器を置くこともできるのかもしれない。
でも他のパンではなく、いろいろなパンを置くのでもなく、この形のベーグルだけが、唯一そぐうもののように思われる。
「穴があいた形だとサンドにしたときにソースや具が出てしまうので、穴のない形にしました。
それと焼き上がった時のころんとした形が好きだったのであの形になりました」

アンティークの街、西荻窪の、美意識や自由さがベーグルを膨らませている。
松尾さんのベーグルを最初に置いてもらったのは、器や古道具を扱う店、西荻窪の魯山だった。
「魯山さんで食ライブというイベントを開いたこともあります。
テーブルいっぱいに野菜や、焼豚、ヨクチャムを置いて、アジアンサンドを作ったり…。
サンドイッチはまだ置いていませんが、いまやりたいことのいちばんです」

「人にも恵まれました」
内装を手がけた、造園家のゾエンさんも魯山で知り合った。
いぬんこさんのイラスト(写真)や、松尾ミユキさん、チャンキー松本さんなど、知人が店の壁にイラストを描いた。

涼しげだが冷たくはなく、あたたかいけれどべたべたしていない。
かっこよくも、かわいくもあるような、西荻窪らしいちょうどいい空気感は、この町に集まるいろいろな人たちの手で作られる。

ライ麦いちじく(210円)
ほんの少しのライ麦の加減が味わいのうつくしさを作り出している。
刻まずに入れたドライフィグ(いちじく)がねっちり感を強調し、濃い味わいともあいまってあんこを想起させる。
それはゆっくりと生地と混じりあいながら、落ち着いた甘さを全体に行き渡らせていく。
いちじく、小麦、ライ麦。
透明なレイヤーを3枚重ねたように、お互いを殺さず、濁りのない気持ちのいい甘さをふわりと醸しだす。

スコーン。
もくもく、さくさくとした食感の生地から滲みだすミルク味がやさしく、せつない。
とともに、粉の風味が前面にでていて、素朴に、豊かに香る。
舌の上で溶け、甘さが微妙に移ろっていくとき、時間さえやさしく通り過ぎていくように感じられる。


JR中央線 西荻窪駅
03-5941-6492
11:00〜19:00
火曜水曜休み

#088


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#088
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ブーランジェリーカフェ バンブー(国立)
87軒目(東京の200軒を巡る冒険)

バンブーのバゲットは、ムッシュ・ビゴがもたらした本物のフランスパンの製法を頑なに守って作られる。
その理由について、以前オーナーシェフの竹内勉さんに尋ねたとき、こう答えが返ってきた。
「おいしいのだから、変える必要はない」
静かだが、口調の思わぬ強さは、覚悟を感じさせた。
日々、新しい製法が発見され、少しずつパンはおいしくなっていく。
そう考え、基本のレシピに個人的な改良を加えていくことが当たり前のようになっている現在において、動かせない原点があると信じることは、迷いのなさ、強さにつながるのではないか。
竹内シェフは、もちろんバゲットを長時間発酵など新しい製法で作ることもできるが、あえてそうしない。

バゲット(220円)。
うつくしいパラフィン紙によってしっかりと包まれ、手渡される。
原点の味わいだった。
確かに、私にとって、いや多くの日本人にとってはじめてのフランスパンとの出会いであった、ドンクのバゲットに似ている。
あの淡い香ばしさは、皮だけでなく全身から発せられていて、すっと現れ、すーっと残像を引きずりながら去っていき、そのあと塩気とともに小麦の味わいがやや揺らぎながら嫌みなく浮かびあがってくる。
これだけすっきりとした味わいならば、食事のとき、水を口にするようになにげなく手に取れる。

「この生地は、パン・トラディショナルといわれる、基本中の基本です。
フランスのパン文化がはじまって以来、食べられているものを、ビゴさんが日本にきて伝えていった。
これを変えたらバゲットじゃなくなっちゃう。
昨日今日はじまった日本のパン文化が変えてしまうのだったら、それはちがう」

竹内シェフはビゴの店の出身である。
ムッシュ・ビゴは関西に住んでいて、東京とは離れていたが、ビゴの流儀に店は染められていた。
「直接、ビゴさんとお仕事したことはないんですけど、ビゴさんが東京の店も商品チェックを徹底していまして、いつも厳しいことをいっていた。
いっしょにパンを捏ねたりというのはないに等しいんですが、エスプリは感じることができました」

ビゴのエスプリとはなにか?
「日本人は時間ばっかり気にしていると。
時間がきたら成形し、時間がきたら分割する。
そうじゃない。
人間に合わせる必要はない。
いつもパンと対話をしながら作りなさいと。
でもそうすると、休憩時間はなくなるし、職人はどんどんやめていく(笑)。
僕がいちばん大事だと考えているのは発酵なんですけど、目安となる『このぐらいの発酵』にどう近づけていけるかだと思っていて。
焼き上がったときの気泡、酵母の息吹を見ると、こんな感じね、とわかります」

西荻窪の駅からアンティーク街を抜けて歩いていくと現れる、小さなブーランジュリー。
あのうつくしい店、ムッシュ・ソレイユが荻窪に移転してしまったことに、私はたまらないさびしさを覚える。
ビルのオーナーが変わったことにより、移転を余儀なくされたのだという。
「あの場所でやりたかった。
とにかくいい店でした。
汚れがでているのが味になっていた。
看板なんかぼろぼろになっていたんですが、いまでも取ってあります。
いつか使うときがきっとくるんじゃないかと」

1996年、28歳で店主になった。
当時はいまのように、どこにいってもブーランジュリーがあるという状況ではなく、ムッシュ・ソレイユはいっそうの輝きを放っていた。
「若さのすごいところで、なにも考えずやっていましたからね。
とてもいいチームでした。
4、5人でむちゃくちゃやっていましたからね。
夜中からむちゃくちゃなスケジュール組んで。
アホみたいな注文が入って、僕が無理だと思っても、あいつらのほうから『やりましょう』っていってくる。
いっしょに戦った戦友です。
僕は軍団の隊長。
社長という感じじゃなく」

いまでも10年前に食べたパンの感動をきのうのことのように思いだせるほどだ。
その味わいはこのように熱い厨房から生み出されていたのだと、ようやく合点したのだった。

ムッシュソレイユ出身者の店といえば、茨城県鹿嶋市のユニデプーラファリーヌ、ファミーユ代官山など数多い。
「潰れた店一軒もありませんからね。
あの時代の経験があったからいまもやれてるんじゃないか」
ハイレベルな空気とは、それを吸ってみるまではそういうものがあることすらわからないものだ。
だからこそ、経験は一生を通じた糧になるのだと思う。

「店がちっちゃかったせいもあるんですが、なにか関係が近かった。
やってること目につくし、息づかいもわかった。
僕の体から発しているものもわかったと思うし。
言葉にしなくても、先読んでもらって、動いてくれるんで。
仕事ってみんなそうだと思うんですが、間とかタイミングが大事。
あうんの呼吸というか。
空気感がわかりあえるチームだと、ものすごくいいものがあがったりする。
パンって働いてる子たちがすべてというところがある。
個々がいい発酵とろうって考える。
指示されたことをやるだけではなく、そこを超えようとする子はなかなかいない」

「いいパンを作っていく、つづけていく、それは基本。
食べたお客さんがどう考えるか、よろこんでくれるか、そこに重きを置くことが、すごく重要。
ただ作るのではなくて。
パン芸人というか。
僕らの仕事というのは、お客さんをよろこばせてなんぼのところがある。
ビゴさんの話につながるんですけど、生地にあわせる、いいものをあげるというのは、お客さんによろこんでもらうためでもある」

竹内シェフは自己犠牲について語っていたのだと、私は理解している。
小さな私益を超えたところに、想像もつかなかったほど大きなよろこびは現れる。
自分を捨てて、パンを作ること。
食べる人のために。
ムッシュ・ビゴのエスプリとはそのことではないのだろうか。

ポルカ オ ノア(210円)。
がっちりとした硬い皮はクルミの食感を呼び、ライ麦の深い香りはクルミの渋い風味と響きあう。
クルミの味わいは刹那で終わらず、呼吸するように、別の側面を表しては消える。
そう感じられるのは、雑味までふくんだ、懐の深い生地があってこそで、時間ごとにさまざまにマリアージュするせいだと思われる。
特に口の中で消える瞬間の渋みが、クルミの味を再点火させ、そのために名残惜しく、食べやめることができない。
チーズ、ワインの最高の友人となるだろう。

ランティーユ(189円)。
私たちがフランス人ならば、わざわざこの組み合わせのパンを買うまでもないのかもしれない。
レンズ豆(ランティーユ)の煮込みとソーセージ。
フランスの日常の食卓を想起させる。
バターの香り濃いパンとソーセージとの相性は私たちにも馴染み深いものだ。
ランティーユのおっとりとした素から、デニッシュとの組み合わせで甘さの部分が前面に引き出される。
ランティーユ自体に添加された甘さやバターではなく、パンから与えられるがゆえに、複雑に変化する。
不思議な相性だった。

いつもこの店の冷蔵ケースにパテなどが置かれて、フランスの食文化を伝えようと努めていることも見逃してはならない。
私が訪れた日、ルヴァーブのデニッシュの横に、ルヴァーブの茎が生けられていたのも印象深かった。(池田浩明)


JR中央線 国立駅
042-577-5168
10:00〜19:00
月曜休み


#087

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#087
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ル クールピュー(荻窪)
86軒目(東京の200軒を巡る冒険)


パンプキンスープ、ひまわりの種とライ麦のパン、アプリットとライ麦のパン、かぼちゃのパン(週替わり野菜のパン)、オリーブのフォカッチャ、レーズンパン、ミルクロール。
ミンチポークのオーブン焼きに半熟ボイルドエッグ、付け合わせはスパゲッティ・ブールとキャロット・ヴィシー。
デザートのガトーフレーズと紅茶(あるいはコーヒー)。

このランチが819円。
いい加減なものはひとつもない。
この値段で可能な最高最大限の努力が払われている。
なぜ、ル・クールピューはこんなにも惜しみないのか。
あまりの値ごろ感ゆえに長い行列すら気にならず、私は何度も足を運びながら、頭の中では上記の疑問をいつも繰り返していた。

鈴木芳男シェフはいう。
「こういったお店だからこのぐらいでいい、とかいうことではなく、高いレベルを目指しています。
食材にはコストがあるから、その中でできるだけ再現しようと。
それなりの素材だったら、組み合わせや、味付け、火の通し方で表現できます。
いまは、手をかけない、刺身のような、素材を活かす料理が主流になっていますが(ヌーヴェルキュイジーヌ)、流通がよくなかった時代の手をかけたお料理を取り入れています。
たとえばチキンソテー、いいものだったら塩こしょうと火の通し方でそれなりのおいしさになると思いますが、そうでなければソテーするだけではおいしく感じられません。
シーフードのムースを作って、中に詰めて焼いたりしています。
本来のフランス料理はそういうものなのです」

ランチで供されたパンにも同じことがいえた。
噛みしめて味わったり、スプレッドを塗ったりと、食べ手が作業するよりも、舌の上に置きさえすればすぐに味わいが溶けて、広がっていくような、愛情深さがある。
ふわっとほどけるようにちぎれ、ばらける。
ほんのりと甘く、やわらかく、ふにっとして、しかしナチュラル。
ひまわりの種やライ麦、かぼちゃ、オリーブなどはふわっと香り、やさしい。
それぞれのパンにそれぞれの個性と楽しみ。
華やかさはパティスリーの看板を掲げるこの店らしさでもある。

「日本のパン屋さんは特にフランス的なパンを作ろうとして、ハード系をそろえようとしますが、私たちのお客さんに、いつも洋食とパンを食べているという方はあまりいないと考えています。
ですから、ハード系はあまり作りません。
自分の作りたいものではない、お客さんの望むものを作りたいと思っています」

壁に飾られる、さまざまな名店のメニュー。
ジョエル・ロブションやタイユヴァンをはじめとする、フランスの三ツ星獲得店などのもの。
誰しもが足を運ぶことのできるこの店の壁に、なぜかくも高級な店のメニューが貼られるのか。
フランスと日本で、シェフ・パティシエとしてもさまざまな経験を積んだ鈴木さんの経歴を表すものだと考えていたが、その深意はさらに別なところにあった。

「ものづくりというのは、味わう技術だと思います。
自分がどんな味を作ろうかわからなければ作れないからです。
たとえばクロワッサンを作るなら、いままで体験した中でのあのクロワッサン、がなければ作れません。
材料の見極めは当然として、食べる技術、食べることが好きじゃないとダメなんだと思います。
引き出しを持つこと、噛み砕いて自分の中に取り入れて、それを表現する。
組み合わせて、再現する。
だから、作るときは楽ですよね。
食べるのもたいへんなんですけど」

「作るのは楽だが、食べるのはたいへん」。
決してその反対ではなく。
このようにいうパンの作り手に私ははじめて出会った。
鈴木シェフは席を立ち、アルバムを持ってきてくれた。
そこにはフランスへ旅行したときに食べたありとあらゆるものの写真が収められているのだった。
一流フレンチのコースすべてから、ホテルの朝食、機内食に至るまで。

「真剣に食べていれば、記憶の中にインプットしておけば、自分の中で味わって再現できるようにしておけば、作るときいつでも取り出すことができます。
味がわからなければ作れないと思うんですよ。
パン屋だからパンを食べなければいけない。
それは当たり前として、自分の分野ではないものを食べないと広がりません。
食事を食べなければ、パンは作れないと思います。
パン屋さんのパンを作ってる人からしたら、えーっと思うかもしれませんが、大切なことです。
パンは食べて普通、もっと自分の味覚を知っていないと、細くなる。
お料理にどんなパンが合うかもわからなくなってしまいます」

自分の持っているものしか、与えることはできない。
取り入れれば取り入れるほど、多くのものを与えられる。
取り入れたものは、すべて与える。
+と−からなる単純な、それゆえ真剣に向き合うことは決して楽ではない数学を、鈴木シェフは生活を通じて実践している。
ル・クールピューが819円で提供する料理は、三ツ星店でいつか食べたものの、巡り巡ったアウトプットなのである。

合鴨スモーク(300円)。
舌の上でぷるぷるとふるえる合鴨の身が、スモークの香りと上品な脂をとろけさせる。
同時に、ピクルスの甘酸っぱさと、パンの中に混ぜ込まれたドライマンゴーの甘さが一体となって作り出す味わいは、偶然ではなく、これでなければならないという確実さを思わせる。
この感覚を受け止めるのは、全粒粉の味わいがしっかりとしたロールパン。
素朴感があるのにとても食べやすい。

パン ア ラ クレーム ヴァニーユ(189円)。
ブリオッシュ生地の軽やかさが秀逸。
ふわふわでさくさく、なのにしっとり。
軽く引きちぎっただけですぐさま破け、瞬間的に舌の上で溶けて輝かしい甘さを放つ。
生地はカスタードクリームと分けがたく一体となり、惜しみなくリッチに、充実した卵と牛乳の風味を口いっぱいに満たし、幸福を感じさせる。
口溶けていく最後のひとかけらまで輝きは失われない。

帰り際、戸口で、ひとまわり以上年かさの鈴木シェフが、私に深々とお辞儀をするのだった。
そこには、シェフが店で供するものと同じクールピュー(純粋な心)があった。(池田浩明)






JR中央線・東京メトロ丸ノ内線 荻窪駅
03-5335-5351
7:30〜21:00(日祝8:00〜20:00)
モーニング 7:30〜10:00
ランチ 11:00〜14:30   
アフタヌーン 14:30〜18:00
ディナー 18:00〜20:30

#086
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ポム ド テール(西荻窪)
85軒目(東京の200軒を巡る冒険)

フレンチのビストロとしてはじまったポム・ド・テールは、なぜベーグルの店になったのか。
工藤美幸さんが、サンドイッチデリの中の一商品として作っていたにすぎなかったプレーンベーグルを、毎日買っていく男性がいた。
ニューヨーク勤務の経験があるその男性は、ニューヨークと同じ味がするといって、時には買い占めていくこともあった。

「ベーグルは独学です。
ゆでるという工程があるのがベーグルだということ以外、アメリカの製法を守っているのかわかりません」
パンとは普遍的なものなのだろう。
本場といわれるものを、見たことも食べたこともない職人が、レシピだけで本質をつかまえることは時として起こる。
パンはそのようにして国境を越えてきたのだ。

工藤さんがパン職人ではなくパティシエールだったことは、ベーグルが日本で発展を遂げる上で幸福なことだったのではないだろうか。
アメリカ人が想像もつかないような種類のベーグルを、スイーツの発想で続々と生みだし、後続の店にも影響を与えてきた。

「具材を生地の中に混ぜ込むようになったのは、あとからサンドするのがめんどくさかったからです(笑)。
生地を巻いてみることにも違和感を感じませんでした。
ロールケーキをよく作っていたので」
渦巻の断面はポム ド テールを特徴づける。
空気がはらむことにより、食感においてはクッションを、味わいにおいては空気感が与えられる」


キャラメルチョコベーグル(230円)。
芳香漂うキャラメルが生地に混ぜこまれ、ベーグルのねっちり感を強調する。
そこにはキャラメル特有のまろやかさだけがあって、かすかに苦みばしる。
ストイックといえるほどのまったくの甘さのなさに耐えると、やがて天国のように、フィリングとしてのもうひとつのキャラメルチョコが甘く舌に触れはじめる。
生地のねっちりと、キャラメルチョコのねっちりが出会い、シンクロする。
甘さと苦さは混ざりあいながらも完全には一体とならず、コントラストがあるために響きあう。

キャラメルチョコベーグルは、工藤さんがお菓子的な発想で自由に生みだしたベーグルのひとつ。
「キャラメルを入れちゃったらどうかな、と。
あえて甘ったるくないように、ビターにビターに攻めて、中のキャラメルチョコと出会う。
入れこむ状態、どのタイミングでフィリングを入れるかを考えています。
生地を巻いていくとき、どの瞬間に入れるか。
口に入るタイミングで風味の抜け方がちがってくる。
噛んだ瞬間に味がするのか、噛んでいくうちにしてくるのか」

つまり、生地の渦巻の外側にフィリングを置けば、噛んだ瞬間に舌に触れるし、渦巻の中心に巻き込めば、なかなか舌は到達しない。
渦巻の発明は工藤さんに時間をコントロールする権能まで与えた。
時間の芸術ですね、と話を向けると、
「そうありたい、そう感じてほしい」

そして、ベーグルはフレンチと出会う。

ブロッコリー、生ハム、チキンコンフィ、クリームチーズ、コーンフランのサンド(300円)。
ベーグルにサンドされたフレンチの一皿。
ひとつだけでも満足なフィリングを重ねに重ねる贅沢。
ふわふわのコーンフラン(ムース状のとうもろこし)の、コーンスープと同じあの素敵な甘さ。
ブロッコリーはえぐみを完全に抜かれ、羽が生えたかのように軽やか。
甘さ、酸味、塩気。
まるで調味料を混ぜ合わせるように、具材の持つ味わいを利用して、それらを調合する。
立体的で、めまぐるしく、とらえきれないほど複雑で、甘美。

「フレンチの方法で下処理をしています。
ブロッコリーをゆでるときはびっくりするぐらい塩を入れ、ダスターで完全に水気を切ります。
マヨネーズも自家製です。
よそではない感じのものをだしたいと思っています」

積み上げてきたものに満足していない。
ベーグルの新しい可能性を押し広げつづけている。
ベーグルを使ったキッシュに、ベーグルのラスク…。
再訪問するたびに驚きがある。

ベーグルのクロックムッシュー(250円)
ベシャメルソースの甘い香りが、食欲をそそり、期待を高める。
グリュイエルチーズ、マッシュポテト、トマトソース。
ふわふわのとろとろでほんのり甘いものばかりを集め、クロックムッシューがすばらしく軽やかなものへ高められている。
具材同士の微妙に異なる甘さの戯れは、幻影のようなしょっぱ甘さを織りなす。
ソースが滲みこんでとろとろなのに、なお小麦のコクを感じさせるベーグルの粘り腰。
もはや姿をとどめないほど具材を重ねられても、やっぱりベーグルはベーグルだった。(池田浩明)
#085
JR中央線 西荻窪駅
03-5382-2611
12:00〜20:00
火曜日水曜日休み



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#085
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