パンの研究所「パンラボ」。
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陸前高田の津波を生き抜いた「希望のりんご」を錚々たるパン屋さんに使っていただくイベント「りんごの日」。
第3回目となる今回は、1月9・10・11日に、東京近郊の各店で行われた。
陸前高田市米崎町・金野秀一さんが栽培する、同じ園地で作られたりんごが、各シェフの手によってどのようなパンになるのか。
どのパンも個性的で、そのシェフの人柄や嗜好を表わすものとなった。
ZOPF(北小金)
キャラメルりんごのデニッシュ
ラム酒の香りがまろやかで尖りなく、ひたすら鼻腔をやさしく撫で、彗星の尾のようなうつくしい余韻をたなびかせる。
使用しているのは「ロン サカパ センテナリオ 23年」。
その芳香はデニッシュの中のバター、ダマンドそして、りんごの三位一体をさらに魅力的なものに変容させる。
りんごはさくさくと鳴り、キャラメリゼすることでなお香りが活かされている。
CALVA(大船)
りんごのタルティーヌ
さくさくさくさく。
噛んでも噛んでも高い音で鳴るりんご。
バゲットの上にごろごろと置かれたたくさんのバターソテーに気分は上昇。
りんご、レーズンからほとばしる甘酸っぱい液体がバゲットを濡らす。
バゲットはこぼれでたジュースを受け止め、さらに投げ返して、りんごの香りを口の中で増幅させる。
ローゼンボア(東白楽)
りんごのデニッシュ
デニッシュの中にりんごのコンポートがたっぷり入っているのがうれしい。
さくさく鳴るデニッシュのあたたかさの中に、ひんやりと冷たいりんごが包まれている。
りんごの甘酸っぱさとバターの甘さのマリアージュは永遠の定番だと改めて思う。
ケポベーグルズ(上北沢)
焼きりんごベーグル
歯と歯のあいだでぴちぴちと気泡が弾けて音が鳴るような、元気のいいベーグルの弾力。
ときどきりんご、ときどき生地。
生地にぐるぐると巻き込まれたりんごが舌に触れると、甘酸っぱさが口の中に不意打ちのように広がる。
一方、生地だけのところを噛むあいだにもぱふぱふとふいごのように、りんごとシナモンの香気は巻き起こる。
nukumuku(中村橋)
希望のりんごとチョコチップ
バンズのような形をして、実はライ麦の甘いパン。
甘く、あまりにも濃厚なチョコチップとりんごの酸味との息が止まるほどの衝撃的な出会い。
カカオの後味とライ麦の後味もぴたり調和しあうのも素敵である。
希望のりんごと口溶けチョコレート
nukumukuもうひとつのりんごのパン。
少しジューシーさを残してりんごをドライし、そしてミルクとバターを乳化させて作ったガナッシュがパンの上に置かれる。
そしてトッピングされているのは、バニラシュガーをまぶしたりんごの皮をかりかりに焼いたもの。
とろけるチョコレートとりんごの皮、なんと香りあふれるパンだろう。
「皮を捨てちゃうのはもったいない。
食べてほしい。
だったらかりかりに焼いちゃえと思いました」と与儀さん。
(希望のりんごとチョコチップは現在も販売中。希望のりんごと口溶けチョコレートは不定期販売中)
ボネダンヌ(三軒茶屋)
りんごのタルト
かりかりしたパイの上にりんごのコンポートがバラの花びらのように重なる。
酸味がひやりと駆け抜けたかと思えば、すぐさまその下のマドレーヌ生地の甘さがやってきてバランスする。
パイとマドレーヌ、なんとすばらしいアイデア。
マドレーヌにりんごの果汁が滲みこんで、それが一拍置いてりんごの風味を投げ返し、リフレインするのだ。
シニフィアンシニフィエ(三軒茶屋)
パンの中に焼きりんごを入れる構想力。
表面のマカロナージュはかりかり。
湿った生地がほろほろと崩れ、歯にねっちりとくっつき、なおかつちゅるちゅる溶けていく、というウルトラDは志賀勝栄シェフならではの技術とこだわりだと思った。
想定外なことに、りんごの香りはいつしかきんかんの香りに変化を遂げる。
かりかり焦げたアーモンドスライスとりんごとの相性まで緻密に計算されているのだ。
星パン屋(根岸)
りんごミルキーウェイ
「煮詰めたりんごをたくさん入れた銀河系のシナモンロール」とメッセージが添えられていた。
星パン屋は昨年横浜にオープンしたばかり、宇宙をテーマにした異色のパン屋。
シナモンロールは、店主の白井純子さんが得意とするもので、渦を巻いたその姿からミルキーウェイと名づけている。
シナモンの銀河系に相性抜群のりんごが飛び込んだ。
エペ(吉祥寺)
りんごのベラベッカ
りんごをわざわざドライフルーツにし、りんごのお酒カルヴァドスで香りづけしたものを使用。
たくさんのドライフルーツやナッツをりんごの香りとともに食べる、贅沢なパン。
11日夜には、六本木のピッツァ ヌーバで、「りんごの日パーティ」が行われた。
上記のパンを一堂に集め、みんなで食べるという催し。
おかげさまで30席がすぐにいっぱいとなる盛況。
みなさんの被災地への変わらぬあたたかい気持ちをたしかに感じることができた。
ピッツァヌーバで出た料理。
パンに合うものをというリクエストでご用意いただいた前菜は、ヌーバの名物である石窯料理。
石窯で焼いただけのシンプルな野菜が、素材の味がしてとてもおいしかった。
同じく石窯で焼いた陸前高田広田湾産のきらきらほたて。
そしてりんごを使ったデザートピッツァもご用意いただいた。
粉糖をふって、熱いりんごの上に冷たいアイスをとろけさせていっしょにいただくのは、言うまでもなくおいしかった。
そして、各お店から集められたパンを分けて召し上がっていただいた。
ゲストにお呼びしたのは、いつも陸前高田へご同行いただいている、Zopfの伊原靖友店長。
4種類の食事パンをご用意いただくとともに、前記したりんごのパン。
そして、Zカンパーニュを持ってきていただいた。
Zopfの庭に生るぶどうからとったZ酵母を、希望のりんごジュース「点 TOMORU」で培養した特別バージョン。
発酵の香りが普段よりいっそうさわやかであるように思われた。
りんごジュース「点 TOMORU」や「KEEP CALM AND EAT BREAD」Tシャツを店頭で販売していただいているnukumukuの与儀高志さんも駆けつけてくれた。
ピッツァヌーバのオーナーである澁谷満廣さん。
ピッツァ窯付きのキッチンカー「ぬーば号」を製作。
月2回程度のペースで、陸前高田を中心に、三陸各地を訪れ、保育園・幼稚園などでピッツァの提供やワークショップを行っている。
「ぬーば号」の基地とする狙いもあって、ピッツァヌーバをオープンしたほど、熱く東北支援に尽力しているのだ。
「被災地の人たちに『笑顔』を運びたい。
そんな思いで、ぬーば号を作りました。
被災地であっても、おいしい物を食べること、おいしい味を知ってもらうことが大事かなと考えています」
おいしいものを食べるとき、笑顔になる。
笑顔こそ、人を前向きにさせ、苦難から立ち上がろうとさせる原動力になる。
渋谷さんのぬーばの活動も、私たち希望のりんごの活動も、それを信じるということでは変わらない。
さて、すべてのお店のパンをイベントで食べることはできなかったけれど、ご協力いただいたその他のお店のことも記しておこう。
ロワンモンターニュ(王子)
生りんごのシナモンドーナツ。
シナモンとりんごの相性言わずもがな。
油滲みしてない清らかな生地だけにりんごの香りがすごく活きているのは、さすがベテランの遠山シェフである。
油で揚がってシナモンシュガーをまぶされ、とさまざまな衣装をほどこされてなお、りんごの香りがより澄んで聴こえてくるのだ。
マールツァイト(茗荷谷)
焼きりんご
お店を訪ねるとドアの外まですばらしい香りが漂っていた!
ちょうど翌日出す焼きりんごをオーブンで焼いていたのだ。
芯の部分にバターとシナモンを入れることが多いと思うが、白井幸子さんの作る焼きりんごは少し砂糖をふる程度で、そのまま。
オーブンから出たとき、鉄板にはたくさんの煮汁が溢れ出している。
それさえもったいないと、白井さんは鍋で煮詰めてゼリー状のソースを作り、1個1個にかけていく。
そのひと手間で愛情もかけるかのように。
焼き上がったあとホイップクリームをのせてできあがり。
陸前高田りんごのおいしさにほとんど手を加えていない。
天が与えたままの酸味と甘さと、すばらしい香りに感動した。
残念ながらいくつかのお店は食べにうかがうことができなかったがここでご紹介だけはさせていただきたい。
レ・サンクサンス(三軒茶屋)
タルトレットオポム
事前にコンポートなど調理するのではなく、希望のりんごを生のままパイ生地で包み、オーブンで焼きこんだのち上からきび糖をかけて仕上げる。
これはきっとりんごのジュースがたっぷりと生地に垂れ、ジューシーであるにちがいない。
粉花(浅草)
アップルパイ
藤岡真由美さんの作るアップルパイは本当においしい。
さくさくと割れるパイからすばらしい香りのコンポートが出てきたとき、ひどく幸せを感じる。
普段は別の産地の農家さんから取り寄せたものを使用しているのを、りんごの日は特別に「希望のりんご」で作っていただいた。
パラオア(新鎌ケ谷)
りんごのソーダブレッド
クリームチーズ&りんごのコンポート入りりんごのマフィン
自家製りんごのコンポートのアップルパイ
キャラメリゼしたりんごを巻き込んだりんご食パン
ブログではこれらのパンの写真とともにりんごのパンが早々と売り切れた旨が書かれている。
私が食べたかったのはりんごの食パン。
あのおいしい食パンにりんごの香りが合わさったらどんな化学変化を起こすか、わくわくしてしまう。
うれしいことに、売り切れたというご報告を各お店からいただいた。
このブログや希望のりんごFacebookでの告知を見て、わざわざお店に足を運んでいただいた方、店頭で知ってお買い上げいただいた方、本当にありがたいことだと身に滲みて思う。
もちろん、りんごのパンを作り、販売していただいた、各お店の関係者のみなさんにも感謝を。
みなさんの熱い気持ちを陸前高田の復興へつなげていく責任を痛いほど感じながら。(池田浩明)
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