パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
メゾン・ド・カリテ レパス(本八幡)
137軒目(東京の200軒を巡る冒険)

店名のフランス語repasとは「食事」を意味する。
食パン、バゲット、カンパーニュという食事パン中心の品揃え。
東京の中心ならいざしらず、郊外で、シンプルなパンに絞り込んで店をつづけるのは、至難である。
わずかな味のちがいが客足を大きく左右する。
職人技と感性を頼りに、そのタイトロープを渡ろうとするパン屋が、目立たない本八幡の住宅地にあった。

はるゆたかの食パン(450円)
それは真水のさわやかさ、りりしさがある食パンだった。
香ばしさと発酵の香りにバランスがあるゆえに酔わされる。
そのまま食べてもトーストしたかのような、皮の香ばしさ、ビスケットのようなさくさく感。
リーンな中身の味わい。
透明だったはずが、少しずつ甘さのほうへと針が振れていくけれど、心地いい範囲に収まって、完全な甘さにはならない。
かつ、ふわっとしてもちっとした食感は王道。

櫻井幸治さんは、独立前に勤めていたパン屋で、仕事が終わったあと、国産小麦を使った食パンの試作を繰り返した。
そして、ついにたどりついたのが、はるゆたかの食パンだった。

「食パンはイーストで軽さが出る。
副材料は砂糖と塩だけ、あとはなにも使ってない。
試行錯誤しているとき、この味を奇跡で1回だけ出せた。
これならいける、お店を出せると思った。
業務用のミキサーでこねるとパワーが強すぎる。
一方で、しっかり捏ねないとパンにならない。
その辺のバランスを導きだすのに時間がかかりましたね。
同じ粉を使っても、先輩に聞いたやり方だと、いわゆる食パンの味になっちゃう。
1度だけ、『これはおいしい』って味になったんで、それが忘れられなくて。
ペリカンさんの食パンがいちばんおいしい、と思ってたんですけど、あんまり変わらないか、うちのほうがおいしいんじゃないか(笑)」

暗闇を手探りで歩くような試作の連続から、目的地へたどりつけたのは、イメージという羅針盤を明確に持っていたからだろう。
だから、たった1回、偶然にできた理想のパンを見逃さなかった。
店は、はじめイーストのパンだけではじめたが、そのうち自家製酵母も手がけるようになった。
パンの食べ歩きは趣味だったというが、自家製酵母でおいしいと思ったことはなかったそうだ。
それゆえに、なにかを参考にするより、独自レシピの探求へと向かった。

「僕は使い切り(作った種を継がない)でやっています。
酵母って、最初にレーズンなどの素材から起こして作るわけですが、空気中の菌と結びついて発酵して液種になる。
そこに粉を混ぜて種継ぎをすると、雑菌も増えていくイメージ。
僕なりの見解ですが。
ならば、フレッシュなうちに使ってしまったほうが、酸味も出ないし、味にもムラが出ない」

全粒粉のカンパーニュ(380円)
自家製酵母の野生の香りが濃厚にあれど、このパンは癖がない。
皮はかちっ、中身はもちのようにしっとり。
重くはないが、味わいはしっかり、なのにみずみずしい。
溶ければ溶けるほど、いい感じで酵母の風味が滲んでくる。
火の香り、皮のぱりぱり感、ごくすっきりとした甘さ未満の甘さ。
日本人の好きな焼きもちの魅力によく似ている。

「まずレーズンの酵母でパン・オ・ルヴァンを作ったんですけど、バゲットをやろうとしたとき、しっくりこなかった。
それでバナナに行き着いて。
レーズンとバナナ、酵母が2種類あったらおもしろいと。
酵母自体にそんなに差はないんですが、粉の配合もちがうので、味はぜんぜんちがうものになります。
若干、風味が変わるのでそれがおもしろい。
選べる楽しみというか」

バゲット(280円)
イーストのバゲットと錯覚する。
皮の薄さ、味わいの白さ、軽やかさ。
しかし、と思う。
この複雑さ、この味わいの幅は、自家製酵母でなくては作り出せないものだと。
中身の味わいは確かに白いけれど、白さに分厚さがある。
むちむちと豊潤に溶けてくる。
イーストの軽さ、みずみずしさに接近しつつ、自家製酵母のあたたかさを兼ね備える。

「(レパスのバゲットは)イーストかなと思ったら、噛んでいくうちに味が濃くなっていく。
胚芽を種に入れています。
そのほうが発酵が速い。
でも、発酵が長すぎると臭みが出る。
そのぎりぎりを狙っています。
フランスパンは、なにかつけたり、はさんだりしたときのおいしさが大事だと思うので、軽くしたい」

透明さと強さ。
両立しがたいものが両立するゆえにネクストステージの味わいは生まれる。
精密な仕事によって、2つをともに引き出し、バランスを取ることを、シェフは「せめぎあい」と呼ぶ。

「混ぜ方だったり、捏ね上げ温度だったり、砂糖の量だったり、その微妙なちがいで味が変わる。
せめぎあい。
味を殺すけれど、こうやったら簡単にパンになるということもある。
それをやってしまうと普通のパン。
僕の中ではちがうので。
試作の繰り返しで見つかる。
あとは理想をどこに置いているか。
こんなもんだろと思ったら終わり。
いまの味が僕の好み。
自分のパンはこの味。
それによろこんでくれるお客さんがいたらいちばん。
なるべくストイックにいきたい」



JR総武線・都営地下鉄新宿線 本八幡駅/京成本線 八幡駅
047-326-3262
9:00〜18:00(パンがなくなり次第、終了)
日月祝休み

#137



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#137
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ドンナ(幕張本郷)
94軒目(東京の200軒を巡る冒険)

ドンナママの食パン(250円)の幸福な甘さと舌触りは一度食べたときからずっと記憶に残っていた。
小麦の匂いをたしかに香らせ、手に取ると中身はかすかにふるえる。
なめらかで、もちもちで、やわらかく、歯を包みこんでしまう。
みずみずしく、味わいは純白。
実に幸福な小麦の甘さが口いっぱいに満ち、飲みこむとき喉の奥でひときわ甘く輝く。

ドンナママこと吉野俊江さんがドンナを開店したのは18年前。
女性によるパン屋の草分けといえる。
原点となったドンナ食パンは祈りをこめて作られた。
アトピーだった長男を苦しみから救いだそうとして。
「ハイカラなパンは焼けないんですが、無添加で体にやさしいパンを、子供からお年寄りまでみんなによろこんで食べてもらえたらいいなと。
うちの食パンは60〜70%が老麺(前日以前に作られ、熟成された生地)。
1週間後にトーストして食べても味が落ちない。
こんな超めんどくさい作り方してるパン屋、私の知ってる限り2軒しかありませんって、材料会社の人にいわれたことがあります。
愛で焼いてます」

開店のきっかけは、41歳で離婚して、2人の子供を女手で育てなくてはならなくなったことにはじまる。
「夫は商社マンで、それまでごく普通の生活してたから、子供に貧乏さすわけにいかないじゃん。
それには私が働くしかない。
でも水商売ってわけにいかないじゃん。
朝5時から夜の7時8時までずっとパン屋さんやって。
1年で10キロやせて、40キロ切ってた。
参観日もいけないし、子供にもあんまりかまってやれなかった。
だから負い目を感じてましたね。
パン屋さんってみんなそうじゃないかな。
最初は9坪のちっちゃいお店ではじめたんですよ。
3人入ればいっぱい。
だからいつも外で人が待ってるから、流行ってると思われてたんだけど、ちがうんだよね(笑)」

「その頃、毎日パンを買いにきてくれてたおじいちゃんがいました。
64、5だったと思うんですけど、上品な方で。
くるたびにいろんな世間話をしてた。
子供何人? とか。
そのとき、ほんのちょこっとですよ、『5丁目に競売物件でてるんですよ、私ほしいけど、買えないな』という話をしました。
新聞に競売物件ってでてるでしょ。
あれ見るの、私、好きだったから。
そしたら、そのおじいちゃん、『わかりました、僕の事務所にきてください』って。
その頃、私もやせてたし、若かったから(笑)、『あぶないよね』ってでいいながら、事務所にいきました」

「そしたら、この辺に銀行4つあるんですけど、ぜんぶの支店長を集めてた。
『この人にお金貸してやってくれ』
ってその人はいうんだけど、みんなはやだっていいますよね。
『僕がこんなに頼んでも貸してくれないんなら、帰ってくれ』
って怒るんです。
どうしようと思ってたら、さびた大きい金庫から300万だして、
『これを銀行に入れてきなさい』
いわれた通りにすると、それから1ヶ月半でお金を借りることができた。
あれよあれよあれよというまに、おじいちゃんが手続きして、保証人になってくれて。
名前も知らない人ですよ」

「私、お礼いいにいって、
『なにもお返しできないんですけど、どうしたらいいんですか』って訊きました。
そしたら、おじいさん、
『僕がどんなに朝早く店の前を通っても、どんなに夜遅くても、いつも働いている。
僕は応援したい。
がんばりなさい』
それで、この店が買えたんです」

天然酵母のイギリスパン(350円)。
やわらかく、なめらかな中身。
押し込んでいく歯を包みこみ、やさしくしなやかに跳ね返す。
皮はコーヒーのように香ばしく、アルコールにようなすっとする香りは食べながらずっと鼻のあたりをふわふわとまとわりついて、心地いい。
甘さというほどの甘さではない、押しつけがましくない味わい。
それは透明で、そうであるがゆえにあらゆる味わいを映しだすように感じられるほど、深みがある。

クリームパン(155円)。
卵味が超濃厚なザ・クリームパンという趣き。
素朴で、ナチュラル、お母さんの手作りの味わい。
クリームの量も惜しみなく、これ以上は入れられないというほど、たっぷり。
甘さは控えめで、後味がさわやか、けれど卵とミルクのリッチな風味だけは、ずっと口の中に残る。
焼き色もしっかりと香ばしく焼き上げられたパン生地がクリームとよく合う。
歯切れ、口溶けいい生地は、クリームを引き立てる。

このクリームパンより、技術的にすぐれたものは、たくさんあるのかもしれない。
しかし、技術だけで計れない、はっきりとは表現しがたい、プラスαのあたたかさがすごい。
ドンナママはいう。
「パンはハートだよね」と。(池田浩明)

JR総武線/京成千葉線 幕張本郷駅
043-274-6618
8:00〜18:00
日曜・月曜休み

#094



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#094
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ジュリアン・ベーカリー(亀戸)
80軒目(東京の200軒を巡る冒険)

亀戸の駅前からつづく中央通りは八百屋や生活用品の店が奥様たちでにぎわいを見せる、生活に密着した商店街。
一軒だけバタ臭い、赤い壁のベーカリーがある。
ひさしには赤い文字で、
「Established in Hawaii, 1982」(1982年、ハワイで創業)

客がすれ違う隙間もない狭い店内に天井までパンが積まれている。
どのパンもレベルの高いオールラウンダーだが、特に、惣菜パンやサンドイッチに、見ただけでも欲望を満たしてくれそうな予感を抱かせるボリューム感がある。
具材をはさむ食パンやチャバッタのすばらしさもさることながら、欲望を刺激する盛りつけ感覚に、作り手のセンスを感じさせる。

カツサンド(240円)。
薄切りではなく、6枚か5枚切りかもしれない食パンでサンドイッチを作る豪快さ。
自らが作ったパンへの揺るぎない自信に見ただけで打たれてしまう。
ふにっと歯を包んだかと思うとあっけなく歯切れ、やわらかい食感で口中を満たす。
そのやさしさを実感できる厚さが、この食パンにとってももっともおいしい厚さなのだ。
ソースでとろとろになった衣ともやわらかさにおいて響きあう。
カツも分厚い。
これもやわらかいけれど、ロースらしい食感の快さも同時に備え、とんかつ専門店並のクオリティ。
ソースのまろやかさが、パンとカツとの一体感を確かにして、極めて完成度が高い。

あんチャバッタ(150円)。
がしがしっと音を立てる軽やかな皮。
乾いていて乾きすぎない絶妙の感触をうまく捉えた焼き加減が、さらに香ばしくしている。
あんことバターが中身をしっとりとしめらせて、それ以外の乾いた部分とのコントラストを生み、滲みこんでは生地自体の甘さを刺激する。
「採算が合わない」
と店主を嘆かせるほど、よつ葉バターはたっぷり塗りこまれて、じわじわミルキーなコクを口中に広げていく。
どら焼き用のあんこには和菓子屋特有のつやっぽい甘さがある。

店主の小谷謙次さんはパンを焼いて30年になる。
「技術的に大事なことって、温度とか、湿度とか、いちいち考えられないほどいろいろある。
それより、『きょうちがうぞ』っていうのを体で感じる。
工程が滲みちゃってるから、どっかちがっても、体が『なんかへんだな』って感じて、いいものを作る意欲がわかない」

「気分がよくて、1個1個がいきとどいているときって、時間がぴたっと合う。
そういうときはうまくいっているということ。
誰も邪魔してない。
自分だけの世界でやってる。
これから作るための材料が山のように積んであるとき、電話があって5分、10分すぎると、発酵も狂って、気分がのらなくなっちゃう。
これでもプロのはしくれ、完璧に近い形には戻してるんだけど、本来のより落ちちゃう。
そう考えると、いちばん大事なのは時間だね。
決められたことを決められたようにできてるときがいちばんおいしい。
のってるからすべてがうまくいくという側面もあるし」

たったひとりで厨房に立ち、若い頃と変わらぬ仕事をこなす。
「一日の仕事が終わったとき、すべて出し切ってて、もうなにも残ってない。
よかった、悪かった、さえ残ってない。
朝から、100m競走みたいに全力で走って、終わるとがくっとくる。
もうくたくたで帰る。
寝ながらごはんを食べる。
仕込みを終えてうちに帰ると11時半、12時に寝て、3時半には起きて仕事にいく。
ハワイでやってたときは、睡眠時間1、2時間で休みなし。
7年間で一生分働いたなー。
死ぬ思いでやったけど、店畳んで日本に帰るとき1円も儲かってなかった(苦笑)」

話を聞いていて、パン職人とは普通に考えるというときと別の仕方で思考するのだと思った。
頭でするのではなく、体で、肌で、心で考える。
無心で作りつづけ、人間として持てるものすべてを用いて考える。
仕事が終わればベッドに倒れこむ。
もっと楽をする方法はあるのかもしれないが、決してそうはしない。
パン屋という職業が厳しい労働環境を強いているにはちがいないが、小谷さんにとってはそういう方法でしかパンについて考えること、生きている実感をつかむことができないのではないか。
頭で考えない考え方を、パンを作らない者が理解するのはむずかしいように思えたが、私にも近い体験があった。
パンを夢中で食べているときである。
どれだけ時間が過ぎたかわからない。
完全に我を忘れ、体全体でおいしさを感じている。
あの瞬間には、作り手が無心で作る感覚が、パンを通じて受け渡されているのかもしれない。

「いろんな人がいて、お客さんがいて。
でも、毎日きて、食パン1斤を買ってくれる人、本当にありがたい。
絶対、味を変えられないって思いますもん。
だから、時間通りにできればいいなと」

ブリオッシュカスタードクリーム(150円)。
中央だけ底の低くなったところにたっぷりとカスタード。
生地の味わいが見えなくなるほどの贅沢な充填ぶりが食べ手のツボをつき、クリームのとろとろ感をいやがうえにも高める。
黄身の味わいが充実し、舌にひりひりくる、濃いめのカスタード。
ブリオッシュ生地の軽さ、香ばしさ、しゃきしゃき感、空気感、甘さのほどもちょうどよく、カスタードを引き立てる。(池田浩明)

#080

ジュリアンベーカリー
JR総武線 亀戸駅
03-5836-4424
10:00〜19:30
水曜休み


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#080
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グリムハウス(亀戸)
79軒目(東京の200軒を巡る冒険)

パンは西高東低という先入観がある。
たしかにメディアに取り上げられる有名なブーランジュリーはほぼ東京の西側に集中する。
だが、こと食パンにおいて西高東低はあてはまるだろうか。
ペリカンしかり、木村屋しかり。
あんぱんや食パンなど日本の伝統的なパンについて、戦前からの伝統を引き継ぐのはむしろ下町のパン屋ではないだろうか。

昭和元年創業の老舗、グリムハウスの食パン(200円)を食べ、その思いを強くした。
中身のとろとろなやわらかさ。
耳の好きな私でも思わず耳をとって純粋なやさしさだけに身をゆだねたくなった。
羽毛を舌の上にそっと置いたような最低限の重量感と、なめらかさ、しっとり感。
最初のひと噛みで、かすかに甘く、軽やかな発酵の香りが吐きだされ、小麦とミルクの味わいが溶けてくる。
最初は軽く滲み、そのあと一段強い甘さがまろやかに溶けだす。
けれど甘さはあくまですっきりと透明感を保っている。

3代目の木島一哉さんはいう。
「こだわっているのは、イーストです。
イーストは微生物、生き物。
問屋から2〜5度ぐらいの冷蔵の状態で仕入れるのですが、すぐ使うのではなく、7〜9度ぐらいの、酵母の活性がいちばんよくなる温度帯の、専用の冷蔵庫で最低でも1日保管し、それから使っています。
活性がよくなるとパンがやわらかくなる。
お客様の中には翌日、翌々日召し上がる方もいらっしゃいますが、やわらかさを保たせることができます」

木島さんはこの製法を、80歳を越えていまなお給食のパンを作りつづけるパン職人から教えてもらった。
グリムハウスでも給食のパンを納入しているが、配合も材料もすべて東京都で規格が決められ、個人性の入りこむ隙間はあまりない。
そうであっても、この老職人のパンだけはとてもやわらかかったのだという。
パンの革新に役立つものは新しい装いのものの中だけにあるのではなく、伝統や長くつちかったものの中にむしろ隠れている。
そのことをこのエピソードは教えてくれる。

コッペパン あんマーガリン(150円)。
豊満なボリュームが給食パンをほうふつとさせるが、配合は給食規格でなく、食パンと同じ。
とはいえ、こんなにやわらかいパンに小学校で出会っているとしたら、その後の食生活さえ変えてしまうだろう。
中はふわふわにしてとろとろ、外側の皮はがさっとしっかりした食感があって香ばしい。
こんなに外と中にコントラストのあるコッペパンはめずらしい。
味わいは強く主張していないけれど、とても充実している。
食べはじめに甘く感じさせないので、むしろ甘いスプレッドを塗るのにちょうどいい。
甘さのたったこしあんが、皮の香ばしさ、中身のふにふにしたやさしさに出会って、ちょうどよく感じられる。

グリムハウスがチャレンジしたもうひとつの「伝統」は江戸みそをパンの材料にすること。
亀戸の老舗みそ屋佐野みそ 亀戸本店とコラボして味噌パンを作りあげた。
「みそをパンの中に入れるというのは、簡単な発想かもしれませんが、パン屋には考えつかないことでした。
というのは、イーストにとって塩は敵で、入れすぎると死滅してしまうからです。
これは大変だと思いました。
佐野みそでは100種類ものみそを取り扱っており、その中からパンに適したものを選びださなくてはならない。
塩分の高いものはやめよう、でも低いものでは味がでない。
結局、せっかくなので江戸みそを使用し、甘いみそと白みそをブレンドすることになりました。
おみその香りがでてしょっぱすぎないバランスを心がけました」

味噌パン(490円)。
ブリオッシュのようなうつくしい黄色い断面、これがみその色だ。
みその味が、予期したようにはダイレクトではない。
奥ゆかしく、むしろバターと一体になって、パンをおいしく食べられるようにしているそのことが、ただの企画ものではない、普遍性を感じさせる。
いわゆるデニッシュ食パン。
手でちぎると膜に沿ってつるつるーとあっけなく破れていく快感。
ひと噛みで、ぷちぷちぷちと何枚ものやわらかい膜が破れていく快感。
中身がとてもやわらかくふにふにとして、やがてクリーム状になって溶けていく。
甘すぎもせず、くどくもなく。
ほどよい甘さが、上品でほのかなみそ風味とともにとろけていく。

「デニッシュにしたのは、みそ屋さんから、みそは乳製品と合うという話を聞いたからです。
ラーメンでもみそバターというのがあるように。
手間はかかります。
ケービング(折れ曲がること)がでたり、焼き色がつきすぎるので、窯の温度を下げなくてはならなかったり。
デニッシュ食パンは、最初の1口2口はおいしくても、飽きやすい感じがあると思いますが、これはみそなので飽きない。
うちは老人ホームにもパンを卸しているのですが、スライスしておだしするとよろこばれます」

パンを配達している。
得意先には老人ホームや保育園、病院が含まれる。
食パン型のものはスライスしてビニール包装して食べやすく。
保育園では年齢に合わせて小さいポーションのロールパンを作る。
食べられるサイズに切ればそれで済むのかもしれないが、まるごと1個食べきる達成感は、教育上とても有益だと思う。
「配達ルートにのっていれば1本でも2本でも配達にいきます。
大きなメーカーさんにできない細かな配慮がうちの生命線ですから」
小さい子供や体の弱っている人、ご高齢の方こそ、手作りのあたたかみを感じられるパンを必要としている。
パン屋とは本当の社会貢献ができる仕事だと改めて思う。(池田浩明)

グリムハウス
JR総武線・東武亀戸線 亀戸駅
江東区亀戸5-46-3
03-3683-0344
6:30〜19:30

#079


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#079
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