パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ベッカー フジワラ(北池袋)
117軒目(東京の200軒を巡る冒険)

八百屋、婦人服店、豆腐屋、シャッターを閉めた酒屋。
池袋も、私鉄でたったひと駅、北に向かえば、細い路地がぐねぐねとつづき、どっちが繁華街なのかもわからない、下町のメビウスにたどりつく。

「若い人もいるとは思いますが、ここらへんに昼間いるのは、ほとんどお年寄りばかり。
具がのっかっかててそれだけで食べられるパンがやっぱりいちばん売れますね」

本格ベーカリーも、下町メビウスに取り込まれたのか。
モルタルの長屋に、ここだけヨーロッパの風が吹き込んでいるのが、おかしくも、かわいくもある。

「ハード系、ライ麦とか中心にって、最初は思ったけど、ぜんぜん売れない。
お客さんが買ってくれるもの作らなきゃ生きていけない。
かっこつけても、売れなきゃつづけられない。
もちろんハード系も毎日作ってはいますが。
プンパニッケルとかは予約でほとんどなくなる量だけですね」

田舎パン(130円)
クープが開かなかったところが、かえって焼き芋のような形でかわいいと思った。
火中から取り出されたように、色あいも素焼きの焼き物に似て、香りもいぶされてくぐもっている。
香りに天然酵母らしい酸味があるのに、味にすっぱさはなく食べやすい。
皮はつるんとして、中身は厚めの座布団に座ったようにふわんとする。
わさわさした触感ともあいまって味わいにあたたかさを感じる。
ごく単純さの中にあえてとどまっているというように、なつかしい。
コッペパンが、実はフランスパンのクーペに由来する、という説があるが、これがクーペとコッペパンをつなぐ、ミッシングリングではないかという気がしてくる。

客の入り込む隙間は畳一畳あるかどうかの三角形。
小さければ小さいほど、パン屋は宇宙に近づくように思える。
限られたスペースに、おばあちゃんの好きな惣菜パンも、パン好きの愛するハードパンも、マカロンも、シュークリームも、自家製アイスまで置かれている。
こんな小さなパン屋にすべてがある。

自分の作りたいパンなのか、売れるパンなのか。
葛藤を抱きながら仕事をつづけるのは、誰もが同じことだ。
「こっちがいくらプライド持ってても、売れなきゃなんの意味もない。
まったく売れなきゃ、プライドも持てない」

「まともに作る。
普通のことをやる。
材料どうこうじゃない。
小麦とか種類あるけど、まともに作ってるか、発酵できているかで味は決まる。
イーストは最低の量しか入れない、発酵をしっかりとる。
本当に基本です。
教科書通り。
毎日毎日の中で、それをやっていけるかどうかであって」

豆クロワッサンブレッド(400円)
音もなくナイフを吸い込みながら、柄をつかむ手のひらに、層の感触をかすかに伝えてくる。
丁寧で細やかな仕事。
デニッシュ食パンでありながら、切り出す一片に、食べきりのデニッシュに迫る満足感がある。
中身はへなへなとやわらかく、甘さはもちろんリッチに、だが材料以上に量感ある味わいが感じられる。
甘さに甘さを重ねて。
金時豆と青えんどうが、バタくさい甘さの中で、そこだけおだやかな甘さで一息つかせる。
そのコントラストを感じたくて、食べる手が止まらなくなる。

どのパンもしっかりとした焼き色に強く焼かれている。
焼き締めることに自分の思いを込められるのも、すべての工程をたったひとりで作る小さなパン屋の特権である。
「生っちょろいと好きじゃないです。
しっかり焼いたほうが、香りも味も強くでます。
そうすると硬くなっちゃって、また売れなくなりますけど(笑)」

究極メロンパン(210円)
かりかり、とろとろ。
強く強く、底面が濃褐色になるまで焼きしめられた皮とビスケット生地。
そのために、生地の甘さまで強く、濃くなっている。
なのに中身はしっとりふにゃふにゃとやわらかく、クリームのとろとろと軌を一にしている。
カスタードの卵もミルクも豊潤だから、普通のメロンパンのような一休みの部分はまるでない。
これだけ甘さが充実しているのに、クリームが溶けたあとには、底面のかりかりの部分の焦げたような甘さが復活してくるどんでん返しまである。(池田浩明)

東武東上線 北池袋駅
03-3981-6540
8:30〜20:00
火曜休み


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#117
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