パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
小春日和(大宮)
107軒目(東京の200軒を巡る冒険)

小春日和に行くときは、いつでも小春日和である。
最初に行ったときは冬で、その日だけは晴れて、あたたかかったので足を延ばしてみたくなったのだった。

2度目に行ったのは残暑が厳しい日だった。
店の前の、コンクリートのタイルの隙間から青々と芽吹いたクローバーに日差しが照りつけるのを、涼やかな店の中から大きなガラス越しに見る気分は、夏ではあってもなんとなく小春日和の幸福感なのだった。

プレーン(180円)
ふにゅうととても素直にやわらかく押し潰れて、皮だけがちぎれない。
やっと歯切れると、たくましくむくむくと元の高さへ戻ってくる。
やわらかさ、しなやかさ、コシの強さを併せ持った、新しい気持ちよさ。
甘さを感じたり、小麦の口溶けを感じたり、という境界線上の加減がちょうどいい。
有機のグラニュー糖を使用しているためか、甘さはやわらかく、透明感がある。
だから、素材の味わいとまったくバッティングしていない。
喉で甘さを感じながら、舌の上では、白くてみずみずしい小麦の味わいが、あふれるばかり豊かに溶けだすのを、同時に感じることができる。

小春日和の幸福を感じるべーグルを作るのはどんな人か。
べーグルのかわいい形や、感覚の新しさから、30代のご夫婦が営んでいると睨んでいたら、そうではなかった。

母と息子、2人のべーグル屋。
「ひとりでやろうと思っていたら、たまたま息子が入ってきまして」
とお母さんの角井良さんはいう。
いかにもおいしいパンを作りそうな、やさしく、静かな人だった。

「すべてとはいきませんが有機の材料を使って、ホシノ天然酵母で作っています。
健康的であれば、買ってくれるかな、と思いまして。
小さいお子さんや、お年寄りの方もいらっしゃるので、菓子パンもご用意しました。
窯が小さいので大型のパンは焼けませんが、小さい食パンだけはご用意しています」

食パン(340円)
おやつのべーグルを買いにきて、翌朝の食パンまで買ってしまう。
べーグル屋らしい食パン。
包丁を入れると、皮はばりばりと小気味いい音を発して割れ、中身にはすっと包丁が通る。
薄いけれどしっかりと焼けた皮に、とてもしっとりの中身。
香りも、味わいも、べーグルの甘さ。
それは甘酒にも似ていて、ふわっと漂う感覚がある。
ちょっと甘いパンで目を覚ましたいときにぴったりの、食パンとしては強めの甘さ。
しかしナチュラルで、素材が活きている。
トーストしたときは、香ばしさと甘さが、対称的に混ざりあって、極めて快い。

「食パンは、基本的にはべーグルとまったく同じ配合です。
ちがうのは水の分量だけ。
べーグルはふくらませないように作らないといけないので、ぎりぎりまで水を控えています」
ベーグル屋でなければ買えない食パンは、小春日和を訪れることに、おまけの楽しみを与えている。

すべてのパンに共通して感じるのは、小麦の口溶けの豊かさ、心地よさ。
舌をおだやかな甘い液体がひたひたと浸すように感じられる。
べーグル、食パンはもちろん、甘いフィリングの入った菓子パンでさえ、その目覚ましさは歴然としていた。

「粉には絶対の自信があります。
北海道産のを中心に使っています。
特に庄司農場さんのを使わせていただいています。
熱心な方で、パン屋さんをまわって営業をしています。
以前、小春日和はもっと小さな店だったのですが、そんな店にもまわってきてくださった」

「庄司さんが精魂込めて作った粉。
小麦粉に生産者の名前をつけて売るのはむずかしい。
製粉会社でいろんな生産者の小麦と混ぜられてブレンドされてしまうからです。
庄司さんはこだわりがあって、多少お値段高いが、小麦の味わいや香りがちがうんじゃないかと。
キタノカオリという品種です。
いまはあまり作られなくなってきてて、庄司さん以外では、他の品種とブレンドされたのしか流通していません。
すごくいい粉だと思います。
1種類だけだとふくらみが悪いので、ブレンドはしていますが」

コーヒーキャラメル(200円)
コーヒーを混ぜ込んだもちもちの生地の中に、ねっとりとしたキャラメルを隠し持つ。
キャラメルの甘さとコーヒーの苦みの対比、あるいはキャラメルのほろ苦さとコーヒーの苦みの同調。
いくつかのマリアージュが微妙に交錯するゆらめきが、果てしのないような快さにつながる。
やがて、生地は溶け、小麦の味わいがだんだん強まってくると、小麦に対するコーヒー・キャラメルというマリアージュに、俄然焦点が合わさってくる。
もっともっと小麦味は溶け、ついに口全体を覆ってしまう。

それにしても、べーグルとコーヒーとは、なんと合う組み合わせだろう。
いわずもがなのこの感想を何度でも、再確認してみたい。
おだやかな光差す、小春日和のベンチで。(池田浩明)


小春日和
JR京浜東北線/埼京線/高崎線/宇都宮線 大宮駅
東武野田線 北大宮駅
048-648-5614
11:00〜18:00
月・土・日曜休み

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#107
200(JR京浜東北線) comments(1) trackbacks(0)
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from. - | 2011/10/10 11:56 |
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