パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ネモ ベーカリー&カフェ(武蔵小山)
109軒目(東京の200軒を巡る冒険)

黒を基調とした内装に、間接照明がきらめいている。
でも、入口近くに並べられたパンの力なのか、入りづらいという感じはない。
この店のカウンターなら、ひとりで座ってビールを1杯、と躊躇なくできる。

「フランスの片田舎にあるようなお店をイメージしています。
フランスやイタリアにもバールがあって、朝ですとクロワッサン、パンオショコラ、ブリオッシュなんかが並べてあって、カウンターで食べることができたり。
最初は華やかな町、恵比寿、代官山のようなこじゃれた町でやろうと思っていました。
でも、そういうところだと、店にくるのはそこに住んでいる人ではなくなってしまう。
それはパン屋のあるべき姿じゃない。
地域密着。
商店街にこの店があれば、もっと人が通ったでしょうけど、それだと全体が見えなくなってしまう。
大人のパン屋が作りたかった。
地域の人によろこんでもらいたい。
お客さんが若い子ばっかりだと、それなりの年齢の方は入ってこないし。
若い子からご年配の方まで好きに使ってほしい。
2人じゃないと座れない、じゃなく、ひとりでいらっしゃる方でも入りやすく。
気取ってるとこはどこにもありません」

池田さんは、パリまで調査に出かけて、カウンターや家具までそっくりそのままのパン屋+カフェを作った。
オーバカナルが参考にしたのはシャンゼリゼにあるような有名カフェだっただろう。
根本さんも、ネモを開店するとき、同じようにヨーロッパへ出かけたが、目指したのはスノッブなカフェではなく、誰でも入れるような下町の店だ。

「オーバカナルはフランスそのままのパン屋さんでしたが、うちの場合はメロンパン、あんぱんのような日本のパンがあったり、ヨーロッパのパン、アメリカのパンも。
あえてブーランジェリーではなくベーカリーとしたのは、自分でも新しいものに挑戦したいと思ったからです。
お客さんが知ってる商品を出しつつ、知らない商品を紹介する。
最初からこてこてにいってしまうと、わからないものがある。
あんドーナツ、カレーパンがありながら、ハード系をしっかり作る」

夏野菜のピザ(320円)
ぱっと見には、どこのパン屋にもあるピザパンに見える。
これは、根本さんがイタリアのバールで見たフォカッチャを再現したものだ。
季節の野菜や具材などなんでも好きなものを生地の上に置いて、鉄板1枚分に焼いたフォカッチャをオーブンから取り出してから、お客の好きな分量だけ切り分け、カウンターで食べる。
取り分けてみんなで食べるという文化、イタリアらしさを提案している。

野菜の旨味を含んだ液体が大量にほとばしる。
分厚い生地を噛み切るときのふかっとした食感。
オリーブオイルが野菜をおいしくしている。
それは生地の中にも浸透して、小麦の味わいを実に甘く押し出してくる。
甘さは時間ごとにますます強くなって、野菜の味わいを忘れさせる。
まるで菓子パンのように思えるほど甘く、けれど実にさわやかに舌の上に残る。

数年前、根本孝幸シェフを最初に取材したとき、バゲットの製法があまりに複雑すぎ、メモする手が間に合わなかった。
緻密な理論を持ち、完成度の高いパンを作る。
叩き上げの人である。
中学校をでてすぐパンの世界に身を投じた。
中学校の先生に紹介されたマザーグースに就職し、そこで池田裕之さんに出会う。

「厳しかったですよ。
逃げてしまうと、終わり。
仕事がきついから辞めるとか、怖いから行きたくないとか。
みんなやめちゃって、気づいたら池田さんと2人だけになってたことがある。
オーブンのところに手紙が貼ってあって、『探さないでください』って書かれていたり(笑)」

厳しい下積みに時代に得たものとは。
「下積みの頃、厳しかった先輩の目、上司の目が、いまでも必ず見てる。
どっかから見てる。
まわりを気にしながらやってた頃にいわれた言葉が、どこからか聞こえてくる。
たたきこまれた部分はいまでも残っていますね。
いいものをもらったと思います。
決して器用なほうではないですから、何度も怒られましたよ。
下っ端は八つ当たりされたり。
『なんで俺ばっかり』って、矛盾しかないように思える
でも、あきらめずにいってくれた先輩ってありがたいと思う」

こだわりクロワッサン(220円)
発酵バターが豊かに香る。
生地の味わいが濃い。
塩味も、焼きも、勇気をもってぎりぎりまで攻めている。
表面の香ばしさもさることながら、噛むたびに、白い中身から押し寄せるバターと甘さに圧倒される。
脳天にまで響くさくさくという音が、皮の繊細さを証明する。

「生地の状態、焼くタイミング。
結局どのタイミングもぜんぶが重要ですね。
タイマーをあてにするんではなく、感覚を働かせる。
焼く温度が5℃、10℃ちがうだけで、硬さが変わる。
時間が長過ぎても、短すぎても、そうだし」

「フィリングはぜんぶ自家製なんですけど、オリーブとか果物のような、瓶詰、缶詰を使うものは自分で作れない。
毎日味を見ていないと、ちょっとちがうんですよね。
10個開けて、10個同じ硬さではない。
自分のところで作っているものは、寒いときはちょっと塩分を強めにしたり」

インタビューの間、ときおり厨房から若い職人が根本さんを呼びにきては、数分中座してまた戻ってくるということが数度。
生地の状態の確認はシェフ自ら行う。
「1日のルーティンの工程はあるわけですが、生地の状態を見て、もうちょっと発酵とりたいというときはある。
毎日同じようにやっててもちがう。
小さい差に気づいて修正できたとき、いいものができる」

カスタードのデニッシュ(220円)
オーバカナルのカスタードデニッシュを思わせる。
普通はこの上にフルーツをのせるのかもしれないが、あえてそうしない。
フランス流に、カスタードとデニッシュのシンプルな組み合わせを研ぎすませて勝負する。
背の低いデニッシュのざくざくとした噛みごたえ。
カスタードの香り高さ、濃厚さ。
秀逸な生地と秀逸なクリームがハイレベルでバランスを取る。
カスタードのひんやりした甘さが高音部、バターとともにやってくるデニッシュの甘さが低音部となり、絶妙のコーラスを響かせる。
それにしても、おいしいカスタードを食べて思うことだが、「これが俺のカスタードだ!」という誇りまで味といっしょにのっかってきている気がする。

ひとつ残念なのは…。
カツサンド、バゲット…とネモには名物が多く、すべてを紹介しきることができないことだ。(池田浩明)


東急目黒線 武蔵小山駅
03-3786-2617
9:00〜23:00(L.O.22:30)
水曜休み

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