パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
長野ベーカリー(溜池山王)
118軒目(東京の200軒を巡る冒険)

子供の頃、台所から流れてきた、パンを作り始めるときの匂い。
ドライイーストをお湯で溶いたとき満ちる、甘いような、あたたかいようなあの香り。
パンを作り慣れている人ならばおなじみなのかもしれないが、それをできあがったパンから嗅ぐことはあまりない。
それは悪いものではなく、なつかしさ、やさしさへとつながっていく。

豆パン(120円)
イーストの甘い香りにふんわりと包まれた、愛おしくなるような豆のじわりとした甘さ。
生地は完全ふわふわでなく、ちょっとねっちり、ちょっと硬く、ちょっともこもこ。
この「ちょっと」の按配が、個性となり、素朴さ、親しみやすさになっている。
そして、「ちょっと」焼ききらない白パンは饅頭にも似て、熟しすぎない白っぽい小麦の甘さを滲み出させる。
そして底面に、餃子の羽根のような、ぱりぱり薄焼きの生地が。
発酵を取らない、小麦の素の味わいが、生地本体といっしょに食べたとき、深さと素朴さをさらに印象深いものにする。

「SINCE 1948」と看板に記された通り、創業は四半世紀以上前。
パン屋を一筋につづけるうち、まわりにアークヒルズや、そのほか巨大なビルディングと高速道路の陰に隠れるようになってしまった店舗は、バージニア・リー・バートンの絵本「ちいさいおうち」を地でいくものだ。
創業のきっかけは、「おじいちゃん」こと先代の長野重治さんが、靴の修行のため「洋行」したとき、パンのおいしさに目覚めたことだという。
「材料は落としちゃいけない。
よく吟味して。
おいしいパンを作ればおのずとお客さんはいらっしゃる」
が先代の口癖だった。

「昔からコロッケパンメインの店ですから」といいきる。
昔から付近の会社員、OLさんのお昼の空腹を満たしてきたコロッケパンは、いまなお不動の人気ナンバーワンメニューである。

コロッケパン(200円)
パーカーと店の人が呼ぶ、2つ折りのバンズのような生地は、いまにもしゃべりだしそうな形をしている。
砂糖、卵、牛乳、バターに練乳まで加えて、いまどきにはめずらしくしっかりと甘い。
揚げパンにも迫る濃い甘さゆえに、コロッケが不思議なほど引き立つ。
「コロッケに合わせたパンを試行錯誤で作り上げました」
つやのある薄い表面が割れると、やわらかな中身が勝手にほどけ、ふわふわと小麦の味わいが解けてくる感覚がある。
このコロッケは手作り感があって、パンからやってくるふわふわの流れを止めることがない。
コロッケの衣の甘さ、じゃがいもの甘さ、コーンとにんじんの甘さ。
甘さの多重奏をまとめるのが生地の甘さで、さらにソースの甘辛さが引き締める。

長野悦子さんは、昭和40年代にこの店にお嫁入りして、以来ずっと切り盛りする。
「みんなにおいしく召し上がってもらえるように、愛情込めて。
おいしいってお客さんにいってもらえるからやりがいがある」
昔ながらの対面式販売でパンを売るこの店を、もう一度訪れるときは、「おいしかった」といってしまいそうだ。

カレーパン(185円)
「これがカレーパンだ」と心の中で呟いた。
老舗の洋食屋っぽいカレールーの味。
プラスほどよい油のじゅわじゅわ感覚、プラス生地のほんのりな甘さ。
衣かりかり、中身ふんわり。
ふくらみいく甘さと、ぴりぴりの度を増すスパイスの対比効果が、漸増し、ピークを迎え、漸減し、やがて余韻へと席を譲って消えていく数十秒間。
その時間が、たまらなく甘美で時を忘れる。

長野ベーカリー
東京メトロ銀座線・南北線 溜池山王駅
03-3583-4216
港区赤坂2-17-31
7:00〜19:00
土曜日曜祝日休み

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