パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
LDK(日吉)
120軒目(東京の200軒を巡る冒険)

小さなパン屋は夫婦で営む店が多い。
旦那さんが黙々とパンを作り、奥さんは明るくお客に接する。
このLDKも夫婦2人のパン屋にはちがいないが、役割はあべこべである。
接客するのは旦那さん、パンを作るのは奥さん。
オーナーの牧田祐典さんは、実にいい笑顔でお客を迎え入れる。

「2人ともパン屋さんで仕事をしたことはなくて。
会社員をしていたのですが、自分たちでなにかしたいなという思いはずっとありました。
彼女が趣味でずっとパンを焼いていた。
お料理全般なんでも好きなのですが、お菓子、料理、パンってあったら、パンがお客さんにいちばん近いんじゃないかと思いました。
どの町にも1軒は手づくりのパン屋さんってあるじゃないですか。
駅前には出たくなかった。
地元のお客さんのお気に入りの店にしたいと思いました」

ご近所のパン屋さんらしい誰にでも親しめる気安さと、丁寧に手づくりすること、メニューの新しさ。
それがLDKをただのパン屋とはちょっとちがうユニークな存在にしている。

石臼挽きフランス小麦のクロワッサン(210円)
このクロワッサンはおやつではなく、お腹いっぱいになる。
小麦のおいしさを味わうためのクロワッサン。
繊細な皮のぱりぱりさくさくではなく。
もちもち感のものすごさ。
中身が跳ねるごとに小麦の味わいまで膨らんでくる。
酵母の味わいをともなってますます存在感を増し、目の前すべてが小麦の白さ一色になる。
表面の薄皮数枚は軽く、対照的に、中身はクロワッサンと思えないほどにしっかりとふかふかしている。
表面がうっすらと黄色くなるぐらいにバターを塗ったトーストを食べている感じに近い。

そういえば、クロワッサンを食べるときには、いかにバターが香るかとか、いかにさくさくかということばかりに注意が向いていたので、小麦の味がおいしい、と思ったことはいままであまりなかった。
「カナダ産のオーガニック小麦、ムールドピエール(石臼挽き)を使用して、粉の味をしっかりだしています。
折り込み回数を少なくして、もちもち感を出しています。
軽いというより、しっかりと食べてほしい」

LDKのどのパンを食べても、豊かで、福々しいもちもち感を感じることができる。
きちんと発酵・熟成していながら、適度な素朴さ、膨らみきらなさと、なつかしい酵母の香りを備えている。
あこ酵母(市販の天然酵母)を使用することによるものだ。

「店を開くとき、最初に決めたのがオーブンでした。
キューハンというメーカーのガスオーブンで、もともとカステラ職人のためのオーブンを作っていた会社なのですが、カステラはきめ細かくなければならないのでお客からの要求が厳しく、高い技術を持っています。
キューハンのオーブンと相性のいい酵母として紹介してもらったのが、あこ酵母。
それまでは自家製の酵母や、ホシノ酵母を使っていました。
あこ酵母の食パンを食べたとき、天然酵母とわからないぐらいまったく癖がなく、衝撃でした。
あこ酵母の社長さんも、
『おいしいパンというのは、小麦と酵母とオーブンの相性』だとおっしゃっていました。
小麦は、『この小麦がいちばん合うよ』と社長さんから教えられた、東京製粉の『あこの里』(カナダ産小麦)。
おっしゃる通り、この小麦で作ったとき、いちばんおいしく、癖がない。
最初はいろいろな小麦で作っていましたが、だんだん『あこの里』に収斂してきました」

あずきぱん(189円)
あんぱんではなく、あんこを生地の中に練り込んでいる。
おだやかな味わい。
でも、生地の中の紫色のつぶつぶの割合以上に、甘さがすごく立っていて、滲みわたってくる。
ふわふわねちねちもちもちと、シリコンボールのおもちゃをもみもみするような独特の引き。
手のひらでこころしたくなる小ささ、丸さ、紫色。

「あんこを生地の中に練り込む方法は、京都の人に教えてもらいました。
創業以来の人気メニューで、オーガニックのあんこを使っています。
生地の中に直接練り込むと、しっとりしたやさしい感じの味になります」

あずきが、やさしい甘さなのに、印象的滲みこんでくるのは、オーガニックのものを使っているからだろう。
「出どころがわかっている食材だけをお出ししたいというのがあって。
必ずオーガニックを使用しているわけではありませんが、おいしいものを追求していくと、おのずとオーガニックとか、安心安全なものになっていく。
それは、この店をはじめてからわかった、大きい気づきでした」

クロックムッシュ
溶けたチーズの滲みた食パンをかりかりまでトーストして香ばしく。
パンとパンのあいだでは卵フィリングがふわりとして甘く、乾いたパンの味わいの底のほうがらトマトの酸味がせり上がってきて、最後に鶏肉の味わいが姿を現す。
オーガニックの肉の味は実に純粋で、しかもすばらしい強度がある。
卵の甘さ、パン、鶏肉の味わいを強烈にトマトの酸味が貫き、赤で染め上げていく。
甘いような、コクがあるような、みずみずしいようなこの味は誰もが好きになるような楽しい味だと思った。

クロックムッシュを食べて、そういえばLDKの看板に掲げられていた「Bread & Cooking」(パンと料理)の文字を強く意識したのだった。
こういうおかずがいつも並べられる、牧田家の食卓はさぞ楽しいだろうと、その風景がリアルに想像されてきた。

「惣菜の具材はぜんぶ自分で作っているので、そういう意味での料理からはじまって、ランチボックスもありますし、クリスマスなどはディナーセットを販売します。
パンという意識は強くなくて、パンからはじまるおいしい食卓を提案したいと思っています。
お客さんにおいしいものを出す仕事なのに、自分たちの食生活がまずいのはよくない。
自分たちが食べておいしい食材を、『こんなのいかがですか』とお出しするのが基本です。
せっかく食べていただくんで、お客さんの食卓が明るくなってほしい。
LDKという名前は、みなさんのリビング・ダイニング・キッチンでありたいと思ってつけました」

ご主人が接客をし、奥さんがパンを作るのは、あべこべではなく、極めて自然なことなのだ。
この店のパンは、牧田家のLDKで供される、ご主人自慢の、奥さんの手料理なのである。(池田浩明)


LDK 
東急東横線 日吉駅
045-563-6669
11:00〜19:00
火曜水曜休み

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