パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
障害のある人のパン菓子コンテスト「チャレンジドカップ」
チャレンジドカップは、障がいのある人たちと、その支援者たちが参加するパン・菓子つくりコンテストである。
障害のある人たちがパン作りに取り組む施設は、全国数千カ所に及ぶ。
その人たちを支援しようと、パン焼き窯の製造を手がける櫛澤電機はじめ、有志のパン屋さんによる、NPO法人NGBCが主催し、今年で5回目となる。

その第2次審査が、10月15日、横浜の国際フード製菓専門学校で開かれた。
書類選考によって第1次審査を通過した、パン部門・お菓子部門あわせて64チームの中から、決勝大会(横浜に参加者が集まって実際に製造を行う)に進める両部門各8チームを選ぶものだ。
全国の出場チームから冷凍するなどして送られてきた作品を、ラ・テール洋菓子店の中村逸平審査委員長をはじめ、著名なパン職人、パティシエ、専門学校教授、ジャーナリストなどからなる審査員たちが実際に食べ、審査を行う。

審査員全員の点数を足し、点数上位8チームが決勝に進んだ。
(評価のポイントは、外観10点、内層10点、話題性・物語性10点、香味20点の合計50点)

(右からパティシエールの木村さちこさん、パンと食のライター本行恵子さん、リリエンベルグの横溝春雄シェフ、宮田章三さん[東京多摩調理製菓専門学校製パン技術室長])

ウィーン菓子の第一人者である、リリエンベルグの横溝春雄シェフは、選考の基準についてこう語る。
「むずかしいんですよ。
普通は、見て、購買意欲をそそるとか、食べておいしいとかだと、高評価できますが、このコンテストの場合、一概にこっちがいいと判断することはできません。
お菓子にも、簡単に作れるもの、むずかしいものがあります。
それから、障害の程度もあって、おいしいという基準だけで評価してしまうと、障害の軽い人が作ったほうが勝ってしまう。
どういう思いで作っているか、訴えることはありますよね。
簡単なものでも、思いがこもっているもの。
本戦でも、重度の障害がある人を、介助の人が根気よく助けて、騒ぎだしたり、途中でやめそうになる人をあったかくもちあげて、一生懸命作ろうとする。
そういう人に、審査員の評価が集まったりします」

パンステージ プロローグ(エピソード)の山本敬三シェフが驚きを隠せなかった、神奈川県の共働舎の作品、自家製小麦を使った3種のベリーとナッツのパン。

「これを障害のある人だけで作るの、すごいむずかしいよ。
こういうパンは見極めがむずかしいから。
ブリオッシュやデニッシュみたいな高配合(砂糖や卵やバターなどタンパク質が多い)のパンならごまかしがきくけど。
前日から種作ってるでしょ。
それが失敗したらぜんぶパーだから」

(審査資料。写真右側、「一部補助」の欄にひとつもチェックが入っていないのは、介助者なし、障害のある人のみでパンを作ったことを示す)

共働舎は過去4回の大会ですべて決勝まで進んだ実力派。
パンの事業をはじめてから21年目にして、はじめて障害のある人だけでパンが作れるところまできたと、鈴木康介さんはいう。

「毎回、参加しているので、この大会があるって、利用者の方(障害のある人)もわかってる。
みんながんばるぞと思ってるし、決勝に出られるかどうか、どきどきしてる」
チャレンジドカップで勝ち抜くことが、参加者にとって大きなモチベーションになっている。

日本にはじめて、フランスから本格的な自家製酵母(ルヴァン)の製法を持ち込んだパイオニア、NOVAのピエール・ブッシュさん。
彼が絶賛するのは、山梨県甲斐市のぎんか工房の作品、干し柿ケーキ。
「感動しました。
会場にきた瞬間に、見た目で伝わってきて、これだと思いました。
手間がかかってる。
オレンジ、グリーン、見た目もうつくしいし、焼き具合もうまい。
フランスからきた有名シェフなら、平気で5000円取るでしょう(実際の価格は3500円)」

地元の食材である干し柿を洋のケーキに混ぜ込む秀抜なアイデア。
ぷるんとした食感、うつくしい色合い。
ピスタチオや、オレンジもそこに加わって、ラム酒とのハーモニー、生地の完成度もすばらしい。
ベーカリーアドバイザーの加藤晃さんも
「生地が5層になってるのは、すごく手間がかかる。
味のバランスも、焼き加減もむずかしい」

愛パン家の渡邉政子さんの姿もあった。
「どれもすごくおいしい。
毎年レベルが上がってる。
普通にパン屋さんで売ってても、ぜんぜん変じゃないし」

製パン界の重鎮である帝国ホテルの金林達郎さんが推したのは、北海道北斗市にあるクッキーハウス ハーベストの道産子リュスティック。
「普通においしい」と。
地味ではあったが、小麦の風味をじっくりだした、日常で食べられるパンだった。
出品作にあたたかい視線を向ける審査員が多い中、金林氏だけはあえて辛辣な意見を述べていたのが印象的だった。
「障害のある人だから」という視点ではなく、徹底的にプロの仕事として評価しようとしているのだ。
「パン屋さんでは商品にならないようなものも中にはあったんじゃないかな。
障害のある人に限らずだけど、コンテストではみんないろいろ趣向を凝らしくる。
そういう奇をてらったところではなく、普通の部分を評価したい」

テイスティングのあと、決勝進出チームが決まった。

パン部門
作品名             施設名(チーム名)
ひまわり畑には仲間がいっぱい  あけぼの福祉会(北海道大好きファイターズ)   北海道
道産子リュスティック      侑愛会(はーべすと)              北海道
米っこパン           ポプリ                     北海道
ブルーベリーロール       日ノ出町ユートピア(ひまわりのパン屋)     東京
自家製小麦を使った3種のベリーとナッツのパン    共働舎           神奈川
オレンジリングデニッシュ    あすなろ学苑                  神奈川
だだちゃ豆べーグル       飛鳥井ワークセンター              京都
フルーツブロード        ひまわりファクトリー(とみぐすくサンフラワーズ)沖縄

キャラメル栗パウンド      下馬福祉工房(チームしもまる)         東京
キルシュシュニッテン      前野福祉園(アトリエまえの)          東京
隕石クッキー          NPO法人さくら会(チームフラワー)       東京
ブルーベリーシフォンケーキ   国分寺市障害者センター(スイーツいずみ)    東京
フィナンシエ          NPO法人ワークステーション(amam kitchen)  神奈川
米粉フランスラスクッキー    新潟市中央福祉会(リトルベア白山浦)      新潟
干し柿ケーキ山梨の秋みつけた  ぎんが福祉会(ぎんが工房)           山梨
クリームチーズのパウンドケーキ さふらん会(ヨナワールド)           愛知

決勝に進めなかったチームには3つ星評価の入った認定書が送られた。
1枚1枚に審査員諸氏による手書きのコメントが添えられる。
2、3行分のスペースだったが、どの審査員も、改めて試食し直すなどして、真剣に言葉を練った。
どのチームも上達したいと切実に願っているし、審査員の評価を待っている。
なぜ決勝に出られなかったのか、どうやったらもっとおいしいパンを焼けるのか。
コメント次第で、障害のある人たちや、施設の職員たちに希望を与えもするし、反対にやる気を削ぐかもしれない。
だから、安易な言葉は書けないのだった。

金林さんも、1つのチームのコメントに10分ほども悩み、書きあぐねていた。
「このパンはもっと焼いたほうがいい。
でも、これ以上焼くと、(高配合なので)焦げてしまう。
焦げないようにするためには、砂糖を減らせばいいんだけど、味のバランスが崩れてしまう。
味はいまのままでいいんだけど。
分量を減らして焼くのがいちばん早いんだけど…」

かくもパンはむずかしい。
おいしいパンを作ることは、発酵、熟成、分量、焼成…すべての要素のあいだで繊細なバランスを取ることだからだ。

プロローグの山本シェフは、かつて出場チームに「どうしても」と請われ、指導のために訪れたときの経験を語る。
「朝から行って、つきっきりで作ってるところ見て、もっと水を減らしたほうがいいとか、もっと焼いたほうがいいとか。
そういうアドバイスをできれば、もっともっとおいしいパンができる」

審査員同士で交わされるディスカッションは、作り手にとって金言だろう。
この言葉を伝えられないのがもどかしい。
審査員から直接アドバイスを仰げるのは、決勝へ進んだチームの特権なのだ。

決勝は11月26日(土)、会場は横浜の国際フード製菓専門学校。
どんなドラマが紡がれるのか、どんな笑顔が、あるいは涙が流れるのか。
参加者たちのひたむきな姿が、いまから楽しみだ。(池田浩明)



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パンの取材 comments(4) trackbacks(0)
Comment








目黒区の「しいの美社」のパンも美味しいですよ。
from. あーちゃん | 2011/10/16 19:40 |
昨日はどうもありがとうございました。
パン工場 寛のHPもチェックしました。
続々と情報ありがとうございます。
今度いってみます。
from. 池田浩明 | 2011/10/17 04:12 |
チャレンジドカップを運営している皆様に感謝申し上げます。
北海道でパン作りをはじめて来年5月で20年になる施設です。
この度、本選に選ばれ利用者、職員共に大変喜んでおります。
私たちは、職員が作ったパン屋ではなく、利用者が作ったパン屋でありたいと開設当初から技術の向上を目指してきました。
その成果が、やっと見れる時が来たように思えます。
仲間達の検討と一回りおおきく自信を付けた笑顔で帰ってきてほしいと祈っています。どのチームも頑張れ!
北海道白老町
from. 北平 保 | 2011/11/21 17:09 |
北平様
いよいよ土曜日が本選ですね。
どうぞがんばってよいパンを作ってください。
私も会場にうかがいます。
from. 池田浩明 | 2011/11/23 23:38 |
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