パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
バインミー☆サンドイッチ(高田馬場)
131軒目(東京の200軒を巡る冒険)

早稲田通りから一本入った裏路地。
赤と黄のにぎにぎしい外観が、高田馬場の猥雑さによく似合っている。
それはアジアの情熱とパワーの色だ。
バゲット丸々の中に豪快にはさんだ肉と野菜を噛み破る。
甘酸っぱさと、南国の調味料の香り。
突風のようなバインミーの衝撃は、南洋からやってきた台風のようだ。

木坂幸子さんは日本初のバインミーサンドイッチ専門店を約2年前に開店した。
「出会ったのは、6年前、カナダに留学してたときです。
カナダはベトナムからの移民がとても多い国。
各都市の中華街に、ベトナム・サンドイッチの専門店がある。
私のいたカルガリーにも3、4店舗。
バンクーバー、モントリオールにもありました。
おいしくて、週3回ぐらい食べてましたね(笑)。
3ドル(当時のレートで約250円)ぐらい。
安いんですよ。
日本に帰ってきて、食べたいと思っても売ってない。
それなら私が作りたいって思いました」

西を目指して歩きつづけていたつもりが、たどりついたのは東南。
バインミーとの出会いは運命的だった。
「18歳からパン職人を目指していて。
カナダに留学したのは、ベーグル屋さんをやりたかったからなんです。
ニューヨークで修行してベーグル屋さんを開くのが夢で、それで英語を習うために留学したんですが、日本に帰ってきたら、ベーグル屋さんがやけに増えてた(笑)。
いまさらやってもなーって。
バインミーの専門店ないから、私がやらなきゃ」

すかすかさが気持ちいいバゲット。
中身はひと噛みで小さくなって、すぐ溶けて。
リーンゆえに、自らは主張せず、肉汁やソースを吸って、じわっと発散させる。
それにしても、皮が極薄でかりかりぱりぱりなこと。
微細な破片に分裂していくような、くしゃくしゃ感で中身をくるんでいる。
閉店したベーグル店で譲り受けたという、アメリカ製のベルトコンベア式のトースターで注文を受けてから焼き直すことも、このぱりぱり感の秘訣。
「これが壊れたらどうしようかと思います」

ベトナムハム&レバーペースト(500円)
レバー特有のコクが、ペースト状になっていることで、より舌に滲みこんでもわーんと口中に広がる。
その過剰なインパクトを、なます(酢漬けの千切り野菜)がすぐさま酸味で中和する。
バゲットとこの具材の組み合わせは、パテのサンドイッチを食べているようで、フランスぽくもあり、けれどアジアンで、どこでもない不思議な感覚に誘われる。

海老&アボカド(ハーフサイズ300円)
ぷりぷりの海老をアボカドがとろとろとさわやかな油で包み、溶かす。
あっさりして、甘めの自家製アジアンマヨネーズが、海老に淡くコクを滲みこませて、中華で定番のマリアージュを作り出す。

それにしても、なますとはなんとあらゆる肉や魚と合うことだろう。
肉のストレートな味わいに酸味を加え、さわやかに、マイルドにしていく。
甘めのソースとは逆ベクトルに走って、味覚を混乱させて、快楽へと運ぶ。

塩豆黒豆あん大福(170円)
もっちりパンシリーズ。
噛み潰すと、歯間からぷにゅっと飛び出すごときもちもちぷにぷに感覚。
焼きは浅く、白パンに似て、ベーグル以上に和を感じさせ、パンと大福の間の子の趣きがある。
微妙に甘く、微妙に足りないところに、甘いフィリングを呼び込む。
塩豆のしょっぱさが甘さを心地よく増幅させ、こしあんの滲みこむ口溶けが、このパンのなめらかなもちもち感と響きあう。

バインミ−ともちもちパンの2種類の生地。
数百円で満腹になるメインとデザートとして、シンプルにして、必要充分。
「イーストリートベーグルズで働いてた時期もあって。
製法を身につけていたんで、それも活かせたらなと。
バインミーが知られてなかったんで、ベーグルって付けちゃうと、バインミーが負けて、ベーグルが買っちゃうから、それで『もっちりパン』にしました。
両方あるのがよかったのかもしれませんね。
OLさんとか、バインミーのミニサイズと、もっちりパンを両方買って、楽しんでいたり」

サンドイッチは具材ではなくパンが命。
それはパン好きとしては絶対譲れないところだ。
バインミーのバゲットからはその魂を、愛を、じんじんと感じる。

「アメリカではパンがもっと軽かったりします。
だから、見た目はすごく大きいのに、ぱくぱくぜんぶ食べちゃって。
このパンができるまではかなり試行錯誤しましたね。
最初はぜんぜんうまくいかなくて。
開店当初はもっと皮が厚くてもっちりしてましたね。
ニューヨークで食べ歩いてきたら、自分のよりもっとおいしかった。
隣にニューヨークのバインミーができたら、うち潰れちゃいますね(笑)。
でも、帰ってきて、微妙に配合変えたら、薄皮がぱりっとしたのができました」

木坂さんのバインミーは、異国の味付けの中に、日本人のツボが垣間見える。
たとえば、牛焼肉のしょう油ベースの味付けは、昔から食べてきた焼肉のタレをほうふつとさせる。
それがいい。
エスニックを食べているのに、日本人のDNAをくすぐられ、だから昼休みのたびに、飽きず買いにいきたくなるのだろう。

「アメリカやカナダではベトナムの移民の人がやってるので、本当のベトナム風です。
ベトナム料理も勉強したんですが、私がやるとどうしても、やっぱり日本風になっちゃう。
ベトナムには調味料もたくさんあるんですが、私が使いこなせるのはそのうちのいくつかで。
本場の味にはまだまだですが、それでもみなさんがおいしいといってくれるので」

国境を越え、海を渡って、オリジンがその土地その土地の文化や産物とマリアージュを遂げ、パンはできあがる。
ベトナムの移民たちは、祖国から遠く離れた国で、自分たちの舌に馴染んだ味付けを忘れられず、ベトナム料理をパンにはさんだ。
高田馬場のバインミーがほのかに和風なのは、バインミーの精神にむしろかなっている。
バインミーはエスニック料理もラーメンでも安くておいしいものならなんでも受け入れる雑食系のこの町によく似合っている。

高田馬場は木坂さんをずっと誘引してきた。
「昔からお店やりたいなと思ってたから、10年以上前、お金もないのに物件探したことがありました(笑)。
そのとき、馬場の駅を降りたら、なにをやってるかわからないけど、人がたくさんいた。
必要以上に人がいるなーって(笑)。
商売やったら当たりそうだな(笑)。
バインミーをやろうと思ってまた探したら徒歩1分という物件があって、すごく狭いけど、なんとか収まりました。
パン屋なのに食券を買わなくちゃいけないの? ってお客さんにびっくりされちゃって(笑)。
でも、高田馬場はアジア料理も多いし、ラーメン屋も多いから券売機もみんな慣れてました(笑)」

18歳でパン職人を志して、自分のパン屋を持つまでに10数年。
それでも、夢を持ちつづけられたのはなぜだったのか。

「いろいろな仕事をやってきました。
カレー屋さん、ジェラートが好きだったからジェラート屋さんも。
でも、やっぱり私はパンだな。
パンを作ってる自分がいちばん楽しい。
それで、パン屋をやってます。
パンに愛情を注いでますね。
サイズをきっちり守ることは心がけています。
気がゆるんで、発酵が足りずに、ちっちゃいまま焼いちゃうこともあるんで、そうならないように」

ひょっとしたら、18歳の木坂さんが、ベトナムのサンドイッチを作る10数年後の自分を知ったら驚くかもしれない。
だが、人生とは得てしてそういうものだし、本当に好きなことはそうして見つかるものだ。(池田浩明)

JR山手線 高田馬場駅
03-5937-4547
平日11:00〜19:30 
土曜10:00〜18:00
日祝10:00〜17:00
月曜休み、第3〜5日曜休み

#131






にほんブログ村 グルメブログ パン(グルメ)へ panlaboをフォローしましょう
(応援ありがとうございます)


JUGEMテーマ:美味しいパン

#131
200(JR山手線) comments(2) trackbacks(0)
Comment








かしわで


自分はここのバインミーは世界一上手いと思う。
ベトナムにも行ったことのある自分が言うんだから間違いない!

ベトナムでは食べてないけど間違いない!

でも決めつけていいのだ!

そのくらいこの店のバゲットの噛みごたえ、食感は自分にはあう。マッチする。サンドイッチとしての噛みごたえ、食感、もちろん具との交わりもマッチ・ミー!

シャンツァイ大盛り、特盛でギャブリ(ここ必須。盛りは気分で。だけど最低で大盛り)。

うむ、間違いない!

from. かしわで | 2012/01/08 23:35 |
かしわで様
僕もバゲットとてもおいしいと思います。
僕の中ではサンドイッチ屋さんというより、まぎれもなくパン屋です。
from. 池田浩明 | 2012/01/10 11:03 |
Trackback
この記事のトラックバックURL: http://panlabo.jugem.jp/trackback/1166
<< NEW | TOP | OLD>>