パンの研究所「パンラボ」。
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パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
りんごの日レポート 12の名店が「希望のりんご」を使ったパンを販売
津波に飲み込まれた陸前高田にあって、高台の上で幸運にも生き延びたりんごを使い、12の名店がパンを競作するイベント「りんごの日」。
21日(土)22日(日)の本格開催を前に、一足先に今日から販売をはじめたお店を巡った。

まず、王子のロワンモンターニュへ。
金野さん家のりんごカスタード(250円)。
りんごが自らの香りとともにすばらしい芳香をまとっている。
カスタードクリームの中のリコッタチーズだった。
さわやかでいやみないチーズの香りが、りんごに移ってからみあってえも言われぬ香りに高められているのだった。
カスタードはまったりととろけ、蜂蜜漬けクランベリーのやさしい酸味を引き寄せる。
バター・白ワイン・蜂蜜・レモンで煮たというりんごのコンポートは、甘さがりんごの持ち味をむしろ引き出して、生のりんごにある野の風味を感じさせてくれた。

遠山シェフは、りんごの生産者である金野さんに自ら電話をし、被災地の現実を訊ねたといい、なかなか復興が進んでいかない現実に共感を寄せていた。
きっとその思いを胸にしながらこのパンを作ったから、りんごそのものが持つおいしさがそのまま活きているのではないだろうか。

茗荷谷のマール・ツァイトは焼リンゴ(450円)を販売。
「送られてきたりんごが、すごくきれいな赤だったよ。
まるで白雪姫に出てくる魔法使いのおばあさんが持ってるりんごみたいで。
それ見たら、これ焼リンゴかなって思いました。
リンゴを煮たらいっぱい煮汁が出てきたので、それを煮詰めたの。
そしたら、ジャムみたいにぷるんぷるんしてきたので、それを上にかけました。
それでも、汁が出てくるので、下にパンを敷いてみました」
と、店主の白井さんは一滴の果汁さえ漏らさず、手間ひまかけて焼リンゴを作ってくれた。

丸ごと焼いたことで、りんごの味わいも歯ごたえも濃縮され、保存されたようだ。
がぶり噛むと、りんごの身が自然と溶け崩れていく。
しなやかな甘さがほとばしったあと、長い余韻を残して、さわやかで微妙な風味を発散する。
煮汁を受け止めるのは、愛パン家の渡邉政子さんが大好きな、「戸隠」という名のそば粉入りのパン。
そばの香りが、こんなにりんごと合うとは。
滴り落ちた果汁の風味がまた空へ立ち上って、鼻腔へと漂いだすかのように。

ワルンロティの大和田聡子さんは、岩手県の農業試験場で父の開発したこゆきという小麦でパンを作りつづける。
一度は作付けが中止にもなったこの小麦を、岩手県の農家や行政機関、製粉会社を駆け回って復活させた。
町おこしのため、岩手県平泉で「きんいろパン屋」を開店。
今回のりんごが栽培された陸前高田市米崎町の保育園に、そこからパンを届ける活動も行った。

大和田さんが岩手への思いをこめて作ったのは、りんごのブリオッシュ。
「幸運のおすそわけ」というキャッチフレーズも添えられていた。

私がうかがったときすでには売り切れていたので(よかった!)、代わりに「岩手の小野寺おじいちゃんのあんぽ柿と栗のブリオッシュ」を食べた。
こゆき小麦で作ったブリオッシュが秀逸。
酵母と生地のミルクが溶け合った、チーズのような乳白色の香りがふわっと鼻へ抜けたかと思うと、小麦の味わいがやさしく広がってくる。
あんぽ柿と栗は、ワインアドバイザーの大和田さんらしく、ポルトワインに漬けられていて、香りのアクセントは官能的であった。
それにしても、こゆき小麦のブリオッシュとりんごの組み合わせはどんな味がするかとても楽しみだった。

ちなみに、大和田さんがすすめる、りんごのブリオッシュにぴったりのワインは、五月長根リースリング

「リースリングにはりんごの香りがあるし、岩手つながりだし。
岩手のワインでももっともおいしい岩手エーデルワインで、花巻の大迫町で栽培される、リースリング・リオン種から作られます」

こんがりとした焼き色、丸いふくらみ、うつくしいクープ。
イトキトのアップルパイは、店に並べられたパンの中でもひときわ目を引いて、食べるのが惜しくなるほどだった。

勝野シェフは、りんごをバターでソテーしてから生地に入れた。
キャラメリゼされた表面の甘さがまず舌に触れてどきりとさせる。
パイと名はつけど、デニッシュ生地だけに、ふにっとした食感があたたかい。
バターの風味をまとうことでりんごの甘さがよりやさしく、ざくりとした歯ごたえとともに舌に滲みる。
バター風味のりんごは、デニッシュのバターと、りんごジャムの甘酸っぱさと重なりあって響きあう。
その実に明るい甘さは、あたたかいふとんにくるまれるような心地よさがあった。

本日、りんごのパンを買いに各店へ足を運んでいただいた方に、お礼を申し上げたい。
また、このブログを読んで、陸前高田の現実に思いを寄せていただいている方にも。

最後に、金野秀一さんからのお手紙を引用させていただく。
「市内のがれき撤去も80パーセント位進み、仮設商店街も立ち始め一歩ずつですが復興に向けて前進しております。
震災後数ヶ月は知人、友人と会うたび涙が止まりませんでしたが、今は皆様からのご支援に勇気をもらい『がんばっぺし』(皆でがんばろう)の言葉を交わしながら、震災に強い、住み良い陸前高田市を作ろうと頑張る所存でございますので、今後とも宜しくお願いします」

りんごの日
1月21日(土)・22日(日)
*は1月20日(金)・21日(土)の開催です。おまちがいなく!
**は現在発売中です(要予約)
***は1月20日(金)・21日(土)・22日(日)

りんごの種類:ジョナゴールド
(紅玉のような、お菓子やパンに向くタイプのりんご。放射能検査済み[未検出]です)

参加店舗(五十音順)

アルティザン・テラ
東急田園都市線 三軒茶屋駅
03-5787-8850
世田谷区下馬2-44-11
東急バス 渋31〜34番(渋谷駅発) 自衛隊中央病院入口下車
10:00〜20:00
年始休
りんごのタルト(263円)
【画像はホールで、1個は8等分の価格です】
ダノワ―ズ生地にたっぷりのりんごと、ダマンドに自家製キャラメルを合わせて焼き上げました。

イトキト
東急大井町線/目黒線 大岡山駅
03-3725-7115
大田区北千束1-54-10佐野ビル1F
11:00〜20:00(土曜・祝日は〜19:00)
日曜・月曜休み

グロワール(大阪)
0120-517314
大阪市旭区大宮3丁目18番21号
7:00〜20:00
水曜休み
市営地下鉄谷町線 千林大宮駅(徒歩2分)
京阪電車 千林駅(徒歩15分)
一軒のみ大阪の参加です。

シニフィアン・シニフィエ
東急田園都市線 三軒茶屋駅
あるいは、渋谷駅発東急バス 渋31〜34
自衛隊中央病院入口バス停下車 徒歩1分
03-3422-0030
世田谷区下馬2-43-11 1F
11:00〜19:00(不定なので電話で確認を)
不定休
http://www.artandcraft.jp/ss/
りんごのパンをいろいろと手がけている志賀シェフですが、このイベント限定のものをお作りいただけるとのこと(予定)です。

ZOPF
JR常磐線 北小金駅
047-343-3003
松戸市小金原2-14-3
6:30〜18:00
無休(夏期・冬期休業あり)
R北小金駅「南口」バスロータリー、[ 2 ] 発着の松戸新京成バス
「小金原団地循環・バス案内所行」に乗車。約10分。
バス停留所「表門(おもてもん)」下車。降りた歩道をバスと進行方向を逆に進み徒歩1分。右側。
↑伊原店長とりえさんが腕を振るい、いろいろご試作いただいています。

パン・オ・フゥ
JR山手線 五反田駅
品川区東五反田3-20-14高輪パークタワー1F・2F
03-5420-5404
7:30〜19:30
ブラフベーカリー**
みなとみらい線 元町・中華街駅元町口
045-651-4490
横浜市中区元町2-80-9ヒルクレストオグラ1F
8:00-13:30・15:00-18:30
火曜水曜休み
ガレット・ポム(2500円・要予約)を現在すでに発売中です。

BOULANGERIE ianak! (ブーランジュリー イアナック)
JR山手線/京浜東北線/東京メトロ千代田線 西日暮里駅
03-3822-0015
荒川区西日暮里4-22-11
8:30〜19:00(パンがなくなり次第閉店)
不定休

マールツァイト
東京メトロ丸の内線 茗荷谷駅
03-5976-9886
文京区大塚3-15-7
11:00〜19:00
日祝休み

ル・プチメック東京
山手線・中央線 新宿駅
丸ノ内線 新宿三丁目駅
03-5269-4831
新宿区新宿3-30-13 新宿マルイ本館1F
11:00〜21:00(日祝は20:30まで)
リンゴのタルトフィンをお作りいただく予定です。

ロワンモンターニュ
JR京浜東北線/東京メトロ南北線 王子駅
03-3900-7676
北区王子本町1-15-20高木ビル1F
9:30〜18:30
日祝、第2・4土曜休み

ワルン・ロティ***
東急目黒線 洗足駅
03-5704-2105
目黒区洗足2-8-27
10:00〜18:00(売切れ閉店)
金土日曜営業


その他、セイジアサクラ(高輪台)にもご協力いただいております。

主催
パンラボ(池田浩明)
こんがりパンだ パンクラブ


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かしわで


9レースと10レースの合間を縫って、プチ・メックへ駆け込みました。

そのとき出てたリンゴタルトは2枚。

前の方が2枚とったら、その場はナッシング。
それで売り切れでもしょうがない。
そんな穏やかな気持ちで見つめていたら、一枚余った。


よかった。ありがとう、前の人。


これからゆっくり噛み締めます。11レースを観戦しながら。
from. かしわで | 2012/01/21 15:24 |
池田さんとニアミスしてたみたいですヨ。

すぐに売り切れていたお店があったようなので、
次のお店には行く前に確認してみました。
自分、明日は飛ぶっす。
京阪神へ飛ぶっす。
from. 研究員D | 2012/01/21 20:35 |
みなさま足をお運びいただいてありがとうございました。
行ったのに、買えなかったという皆様、どうもすいませんでした。
私もいくつかの店で買えなくて残念だったのですが、でもぜんぶ売れてよかったなーと安堵もしました。
作ってくれた店の人、りんごを作ってくれた人、買ってくれた人…。
パンを買うという日常なにげなくやっている行為で、
誰かのことを思うという、なかなかない体験でした。
from. 池田浩明 | 2012/01/22 06:44 |
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こんにちは
| グロワールパンブログ | 2012/05/03 20:58 |
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