パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
シェカザマ(半蔵門)
136軒目(東京の200軒を巡る冒険)

風間豊次。
この人の経歴は日本のパンの歴史そのものである。
「いま73歳。
中学出てすぐにパン職人になったから、この世界に入って58年。
日本ではじめてのイースト、丸十イーストを作り上げた人は、僕のおじさん。
その縁で、昭和30年に丸十製パンに入社して、昭和45年にドンクに入った。
高級パンを学んだのはドンク。
フランスにも行かせてもらって、いろいろなことを学んだ」
丸十で修行を積んだあと、ドンクでフランスパンを学ぶ」

当時のドンクでは、フランスから招請したフィリップ・ビゴが第一線で活躍していた。
イーストによるパン作りのさきがけ丸十、フランスパンのパイオニアであるドンク。
日本が西洋からパンという文化を吸収し、オリジナルを作りだそうとした古き良き時代の製法が、風間シェフの感性の中に保存されている。

「パンの定義とは、じっくり熟成させること。
醗酵なくしておいしさは語れない。
ワインでも、チーズでもそう。
しっかり小麦の香りと味わいをいかに引き出すか。
あんまりいじくらないで、小麦粉そのもののよさを。
いろいろ変えちゃいけない。
パンは素朴なもの」

パン・ド・プルミエ(530円 火金土限定発売)
自家製酵母の食パンを語るとき、このパンを避けて通れないのではないだろうか。
あたたかさと気品。
やわらかさと豊かな噛みごたえ。
リーンさと味わいの充実。
両立しない2つを兼ね備える。
厚い皮は、しっかり焼くことがおいしいパンの基本であることを確認させる。
味わいが重層的に畳み込まれたように、分厚く次々と押し寄せてくる。

「イースト1/4ぐらいにして、長時間発酵。
天然酵母の種の力を借りる。
けっこうパンチ力がある。
スーパーキングという、グルテンが強い、いちばんいい粉だからね。
ふすまの部分を4日間かけて培養する。
天然酵母はドンク時代に研究した。
ぶどうの酵母とかみんなよさを持ってるけど、パンはやっぱり小麦粉から作るのがいい。
もっと歯ごたえのあるもの、風味のあるものと求めて、最後に行き着いた」

フルーツライブレッド (1/2 600円)
ライ麦50%、ハード系。
重いパンという先入観が頭をよぎるが、そんな影はみじんも感じさせない。
それどころか、あらゆるハード系のパンにまして軽やかである。
ぷりんとした中身の歯切れよさ、口溶けよさ。
ラム酒の芳香が匂いたち、食べれば喉の奥まで強烈に響く。
ライ麦のコクがそこに対峙する。
さまざまなフルーツの風味が吹きすさび消え去っていったあと、舌の上をあたたかく癒すのは、大量のフルーツにもかき消されることのなかった、まぎれもなくパンの豊かな味わいだ。

「僕は苦労人。
ドンクやめて、麹町のシェリュイで15年、猛烈にパンを焼きつづけた。
家に帰れないからダイヤモンドホテルに泊まって、10年でホテル代が3000万(笑)。
毎日、猛烈な戦いをした。
醗酵は待ったなしでしょ。
パンの大変さ、それは1度仕込んじゃうと、成形、醗酵、焼成とどんどん進んで待ってくれない。
プロセスの戦い。
最後にオーブンの中で花を咲かせる。
そのための戦い」

限界を超えて働きつづけ、寝る間も惜しんで遊ぶ。
そうした激しい生き方をしてきた人に特有のオーラが、風間シェフには備わっている。

「遊ばなきゃだめ。
恋をして、感性を磨かないとだめ。
こんなこというパン職人僕だけですよ(笑)。
うつくしいもの、すてきなものと出会わないといいパンは作れない。
人間は感性なんですよ」

風間シェフ曰く、パンとは感動である。
実人生の中で、魂を持っていかれるような、激しい感動に襲われたことがなくて、どうしてパンに感動を込められるのか?
73歳の金言を私はそう理解した。
たしかに、そのためには、恋愛をするのがもっとも近道である。

シェカザマといえば、飾りパン。
動物や花などをかたどったうつくしいパンを自由自在に作りあげる。
あるいは、大きな飾りパンの中にたくさんのサンドイッチを仕込んだ、パン・ド・リオレ。
それは厨房に引き蘢っているだけでは出てこない発想である。
元来、パンは食事の場で料理を引き立てる脇役。
飾りパンやパン・ド・リオレは、パーティであらゆる出席者の目を惹き付ける主役の座を料理から奪った。
有名人のパーティやデパートの催事での注文は引きもきらず。
高い値段を付けられるので、経済的な成功も得た。

「僕はこれで世に出た。
夢の世界をやった。
人がやらなかった世界をやらなきゃ。
それには遊んでる人じゃないとだめ」

飾りパンを作るところを見せてもらった。
ものの数十秒。
変哲もない生地が綿棒で伸ばされ、目にも留まらぬ早さでスケッパーとはさみを使うと、あっという間に、パン生地は魚に変貌を遂げていた。
私が驚いていると、
「これぐらいのスピードでやらなくちゃ、間に合わないよ」

中学を出てすぐパンの世界に身を投じたことがよかったと、風間さんは強調する。
「雑念が入っちゃうとだめ。
浅田真央ちゃんでも、ピアノやバイオリンの世界でも、3歳、4歳からはじめる。
そうじゃないと一流になれない。
いろんなことが頭にあると、いじくりまわしてしまう。
音楽だってそうでしょ。
シンプルに、力強く。
むずかしく考えないで。
パン好きな人がうわーって思うようなパンをどうやって作るか。
そういう戦いをしている」

インタビューのあと、少しあたためたファンデュにカマンベールチーズをのせたものをふるまってくれた。
そのおいしさが、まさに上の発言通りのものだった。
丸めた生地がふたつくっついたような形の、ごくシンプルなフランスパンから、あふれだす味わいの豊かさ。
このよろこびが原点だし、パンの探求はこのよろこびに行き着くしかない。

(池田浩明)

東京メトロ半蔵門線 半蔵門駅/東京メトロ有楽町線 麹町駅
千代田区一番町10 一番町ウエストビル1F
03-3263-2426
8:30〜20:30
日曜休み(盆時期、1月1〜3日休み)

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