パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
パサージュ ア ニーヴォ(武蔵境)
155軒目(東京の200軒を巡る冒険)

踏切のそばにあるからパサージュ ア ニーヴォ(フランス語で「踏切」)。
なんと単純で、なんと普通。
でも、それがいい。
毎日、踏切を通り過ぎるような日常感覚で、家の近所でおいしいバゲットを買う。
近所の人たちがスーパーのレジ袋を下げて、買物帰りに立ち寄る。
それが当たり前の風景になっている。

夫婦で営むパン屋だが、奥さんがシェフ、旦那さんが手伝ったり、販売を担当する、ちょっと珍しいパターン。
大和祥子さんがパン屋で修行し、独立を果たした。

「もともとサラリーマンでしたが、30をすぎてからパン職人になりました。
近所においしいパン屋さん(ムッシュソレイユ)があって、私もパン作ってみようかな、パンやりたいなーと、軽く思った(笑)」

「3軒のパン屋さんに勤めたあと、3ヶ月ぐらいフランスのパン屋さんで働きました。
パリの南、アントニーという町にある、お菓子も作るパン屋さん。
勉強になりました。
パンが特別なものじゃないことがわかりました。
フランスではパンは朝昼晩食べるもの。
作り方はそんなに変わりはないのですが、旅行じゃなくそこに暮らして、毎日パンを食べるって、すてきな体験だったなと思います。
オーナーシェフもショコラティエだった人で、パティシエも、ショコラティエもきちんとした専門の人がいたので、その人たちについて、パンだけではなく、お菓子も勉強させてもらいました」

大和さんがフランスで会得した得意技のひとつはマヨネーズである。
「サンドイッチも日本のパン屋さんではないような材料を使う。
自家製のマヨネーズは、ディジョンマスタードを使って、お酢は使わない。
そうやって作ったマヨネーズはバゲットとすごく合うんだなとわかって、いまうちで出しているサンドイッチにも、それを使っています」

パサージュ ア ニーヴォの原点とはなにか。
店をはじめるにあたって、大和さんが考えたこと。
それは自分がフランスで食べておいしかったバゲットを作って、お客さんに食べてもらおうということだった。

「フランスで食べたトラディションというバゲットがすごくおいしいと思った。
長時間発酵で作っていました。
それで、うちのバゲットはすべて長時間発酵で作っています。
修業先のパン屋さんで使っていた粉をそのまま使えたらいいのですが、入ってきていない。
日本にも輸入されているエピレットを使っています。
フランス産50%、カナダ産50%。
このカナダ産の粉もおいしいんですよ。
中身は引きがあるけど、口溶けがいい。
フランスで食べたその味を目指しています」

バゲット(260円)
中身のクリーム色はフランス産小麦ならでは。
香りさえクリーム色で、のっぺりと立ちはだかる。
皮は薄めだけれど、がりっとしてぱりっとしたところもフランス流で、手加減はない。
引っ張ってちぎれず、噛み切ると、ざくっと一挙に離れる、気持ちのいい引きの強さ。
皮の香ばしい甘さのあとから、中身の旨味が豊かにあふれ、飲み込んだあとまで、残照が喉を照らす。
この濃厚さこそ、長時間発酵のものだ。

「お客さんに『国産小麦ないの?』とよくいわれるので、作りました。
あまり甘くしたくもなくて、軽く食べられるようなのがいいな。
北海道産の石臼挽き小麦が少し入って、全粒粉も入る。
メインは熊本産の小麦」

ジャポネ(240円)
いかにも「麦」を感じさせる、あたたかみのある香り。
薄いしなやかな皮の下にもわんもわんと跳ね返る中身がある。
麦の粒の外側のほうの雑味や軽い酸味を感じる。
さまざまな味わいを含み込んだおおらかさ。
それが餅のようなもっちり食感と相まって、和を感じさせる。
底の皮がいい。
せんべいのようなばりばりさで、長時間発酵ならではの、甘さの伸びがある。

バゲットを溺愛する。
籠にささったさまざまなバゲット。
普通は、丸や小さなバトン型をしている、ドライフルーツ入りのパン・オ・フリュイさえ、バゲットの形に作られる。

「お客さんにほしいといわれて作ったオリーブ入りのパンも、バゲットで作りました。
とにかく長時間発酵で作りたかった。
食べたときの食感がバゲットがいちばん好き。
スライスすると一口サイズで食べやすいし、チーズなんかものせやすいですからね。
思ってたより年配の方もバゲットを買ってくれる。
バゲットがいちばん売れます。
『おすすめは?』と聞かれたら、『バゲット』と答えます」

バゲットを作りたいと思ってはじめたお店でバゲットがいちばん売れる。
日常で食べるパンとして多くの客がバゲットを買っていくパン屋は、フランスではごく普通のことだが、日本ではなかなかない。
普通のことを普通の顔でつづけることが実はいちばんむずかしく、また幸福なことだ。
近所に住み、この道をいつも通っている人が、一度この店でバゲットを食べたなら、それを買わずに通り過ぎることはむずかしいだろう。
遮断機の棒さえバゲットに見えるようになるかもしれない。(池田浩明)

パサージュ ア ニヴォ
JR中央線 武蔵境駅
0422-32-2887
8:00〜18:00頃(売り切れ終了)
第1火曜休み、水曜休み

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