パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
第1回ベーカリージャパンカップとモバックショウ

インテック大阪で3月6日から9日まで行われているモバックショウ(国際製パン製菓関連産業展)。
その一角で、全国のパン職人の頂点を決めるベーカリージャパンカップが開催されている。
パン業界にはすでにさまざまなコンテストや、クープデュモンドのような世界大会もあるが、このベーカリージャパンカップは特に小さなパン屋で日々パンを作る職人にも開かれていて、食パンやあんぱんといった日本の親しみやすいパンをテーマに争われる。

7日は菓子パン部門(アンパン、クリームパン、メロンパン)の決勝が行われた。
東日本からVIRON渋谷店の土田岬さん、群馬県伊勢崎市のグンイチパン羽鳥真理子さん、西日本からは岐阜県恵那市ブーランジュリー・ボネロの中谷幸司さん、リョーユーパン佐賀工場の野口義信が決勝に残った。

「すくって食べるくりーむぱん」を作る、羽鳥さん。
クレームブリュレのように表面をバーナーであぶってキャラメリゼする。
また、「『いも』『くり』『かぼちゃ』」あんぱん」は、ご当地パン祭りでも好成績を収めた、グンイチパンのスペシャリテ「まゆっこ」をベースにしていて、群馬名産のシルクパウダーによる独特のもちもち感が特徴である。

グンイチパンの小此木さんは、心配しながら、まるで母親のように彼女のことを見ていた。
「アドバイスしたいんだけど、言ったら失格になっちゃうもんね(笑)。
でも、今日はいままででいちばんいい色に焼けました。
プレゼンの飾りつけもお店の人たちみんなで考えました。
布団カバーや帯などあるものを使って。
賞を取ることもそうだけど、みんなでひとつにまとまって、いいもの作ろうねってがんばった、それがよかったです。
材料を大会の会場に送り出すとき、ちゃんと着くように、宅急便屋さんにみんなで祈ってた」

ブーランジュリー・ボネロの中谷さんは自分の店のことを、「自然の中にたった一軒建っている店」と表現した。
大きな組織にバックアップされての参加ではないオーナーシェフが、有名店への野望を実現できる大きなチャンス。
2009ドイツIBAカップの日本代表にもなった腕は見事で、うつくしいパンが、機械のように精密で素早く作り上げられていく。
写真は、ナッツを巻き込んで、クグロフ型で焼いた森のメロンパン。
ドゥーブルクリームパンには2種類のクリームが入れられる。
店近くの牧場で作られた自然のまま「ノンホモ」の牛乳のタイプと、より濃厚なクリームチーズのタイプが溶け合う。

VIRONの土田さんは「みんなのおやつパン」をテーマにした。
それを子供からお年寄りまでと普通は考える意味以上に深めている。
「店にくるお母さんが、アレルギーの子供がいて、なにを食べさせようか悩んでいた。
菜食主義の友達も、バターや牛乳など動物性油脂の入った甘いパンを食べられない。
そういう人たちの選択肢を広げたいと考えました」

あんぱん、クリームパン、メロンパンを植物性の材料だけで作った。
それでも卵を使っているようなおいしそうな色に見えるよう、かぼちゃを生地に練りこんでいる。
油脂のない分、ふわふわではなくもさっとしている。
その食感を食べにくさではなく、製法の工夫や味のバランスによって個性的な魅力、はまる感じに変えている。
クリームパンのチョコクリームも豆乳を使用しながら、ピーナッツペーストで濃厚に仕上げているし、あんぱんにもシークワーサージャムを入れ、味にインパクトや酸味を与えて。
健康のために食べるのではなく、この味を食べたい、という域まで高めた。

朝8時から夕方の3時まで各ブースで公開の上作られたパンは、審査委員長である日本パン技術研究所の井上好文所長以下、愛パン家の渡邉政子さん、ブレッドジャーナリストの清水美穂子さんら12人の審査員によって「コンセプト」「こだわり」「外観」「市場性・独創性」という4つの観点から審査された。

(前列左から
、羽鳥、土田、ひとりおいて、中谷、野口の各選手)

優勝したのはVIRONの土田さん。
パンの教科書に載らないような新しい生地をおいしく食べられるよう着地させるのは困難な作業だったにちがいない。
「いろいろ試作をやりました。
最初はストレート法でやっていたのですが、中種を(長時間)冷蔵発酵させるやり方がきいたと思います。
店のみんなや家族や友人に支えてもらって、あらためてありがたいと思いました」
2位は羽鳥さん、3位は中谷さん、4位野口さんの順だった。

ル・スティル(VIRON)の西川隆博社長は裏話を教えてくれた。
「この大会に賭ける彼女の思いがとても強かった。
絶対決勝に出るって、夢にまでその場面が出てきたそうです」

8日は「国内産小麦パン部門」の決勝。
選りすぐりの職人たちが国産小麦を使った食パンで争う。
その模様は誰でも見学することができるので、お近くの方は足を運んでほしい。

モバックショウでは、クープ・デュ・モンド(ベーカリー・ワールドカップ)国内最終選考会も行われている。
第1次、第2次予選の狭き門をくぐった16名の選手が、3月6日から9日までの4日間、各日4名ずつ競技を行い、パン部門、ヴィエノワズリー部門、飾りパン部門各1名のみが2016年フランスで行われる世界大会の代表選手に選ばれる。

一発勝負の緊張感がみなぎっている。
選手たちはここで作るパンに人生を賭けているといってもいい。
焼き色のうつくしさ、クープの反り、うつくしい模様が描かれたパンはどれも見事。
それを、前回大会で日本を優勝に導いた監督であるトランブルーの成瀬正さんや、かっての代表選手らが厳正に審査する。
日本のパンの名誉がかかった大会。
選手と審査員による、パンをめぐる戦いの真剣さは一見に値する。

競技を戦ったあと、帝国ホテルの二宮茂彰さんはこう話していた。
「パン・オ・ルヴァンの(自家製酵母)種がちょっと弱くて。
普段はもっと勢いがあるんですけど、今日はボリュームが出なかった。
それで、あきらめかけたんですけど、最後までがんばりました」

私の眼にはきちんとクープも立って、うつくしいとしか見えないパンだった。
世界のレベルの高さ、選手の緊張感がうかがえる言葉だ。

(各選手の作ったパンは毎日このブースに追加されていく)

会場では1000円でエコバッグにパンがついたセットが販売されている。
1日数度売られ、早い時間は過去の代表選手が作ったパン、競技終了の時間には競技で作られたパンを買うことができる。
私も並んで買った。
見かけがいいだけではなく、味も世界大会にふさわしいレベルのパンだった。

ドンク合田知弘さんのバタールは、ドンクらしいいつもの味わいがあり、そして中身の風味の豊かさ、さわさわと湧き上がるような感じがとてもすばらしいのだった。

二宮さんのセーグルもゲットした。
濃厚にライ麦が漂い、苦みさえ鼻へと抜けていくのに、どんどん喉を通る。
しっかりした皮には甘い香りが、やわらかい中身もしっかりと芳しくて、最後には軽やかな酸味がすっと駆け抜けた。

明日もジャパンカップ、そしてモバックショウについてお伝えする予定である。(池田浩明)

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