パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
「以心伝心バスツアー パン屋さんと行く陸前高田」レポート
(米崎町のりんご園。手前のピンクは桃の花。陸前高田は遅い春のまっただ中で梨や山桜まで咲いていた。向こう側は広田湾)

地震のことを忘れたくない。
傍観者でいるのは心が痛む。
『以心伝心バスツアー パン屋さんと行く陸前高田』に参加いただいた方はそうした気持ちを共有していたはずだ。
経済的な意味での「復興」に役立つかはわからない。
けれども、被災地と、被災を逃れた地域に住む人たちとのつながりの数を、3.11の前よりも、もっと多く、もっと太くしていくことは少なくとも可能だ。
人と人の出会いはきっとなにかを生みださずにいないはずだから。

この催しにご協力いただいた団体(事業主)

株式会社 愛工舎製作所
お茶の水女子大学 熊谷圭知研究室
大和田晴男・三代子
大屋果樹園
沖縄ハム総合食品株式会社
櫛澤電機製作所
こんがりパンだ パンクラブ
ケンコーマヨネーズ
三和産業
Zopf(ツォップ)
日本セルプセンター
日本製粉株式会社
復興支援団体SET
ブーランジェリー ボヌール
マルグレーテ
民宿志田
みんなのプロジェクト(伊藤忠食品)
米崎中学校仮設住宅
米崎町女性会
ラ・テール洋菓子店
ラブギャザリング
和野下果樹園

また、いつものように、特定非営利活動法人 NGBC(障がいのある人のパン・菓子作りを支援する団体)加盟のパン屋さん、お菓子屋さんにご協力いただいた。

5月11日午前、参加者はまず陸前高田市内を見学した。
地震直後の廃墟を見ていない人にとって、ただの原っぱに見えたかもしれない。
震災後2年を経て、それほどに瓦礫の撤去は進んだともいえるし、復興は依然として進んでいないともいえる。
それでも、陸前高田はずっと町らしくなった。
仮設の店舗がそこかしこにでき、市街地が姿を現している。
今回は津波の被害を伝える「語り部」の方に案内していただいたことで、津波の悲惨さがよりリアルに浮かび上がった。

午後は米崎町へ。
果樹園に接近していくと木々に白い点々が付いているのが見えてくる。
待ちきれず走り寄ると、それは本当にりんごの花だった。
わずかにピンクを帯びて、花びらは堂々とグラマラスな線を描いて、それでいてかわいらしく。
毎日何気なく口にするりんごが、こんなに可憐な花から生まれてくるのだと、身をもって知ることはひどく感動的だった。

これはジョナゴールドの花。
先端の大きく開いた花をいくつかのつぼみが取り囲んでいる。
放っておくとたくさんのちいさなりんごができるので、中心の花だけを残してあとは取り去る作業「花摘み」を行う。

写真に写っている30センチが花房と呼ばれる部分。
花摘みで残すのは3つだが、最終的にはたった1個に絞る。
また、玉回しという、まんべんなく日に当ててきれいな赤い色をつけるための作業もある。
わずか100円ほどのひとつのりんごになんと手間がかかっていることだろう。
この日は朝から雨が降って、水滴が花を痛めてしまうため、花摘みのお手伝いをできなかったことが残念だ。

りんご畑をツアー参加者のために開放してくれた、和野下果樹園の金野秀一さんと大屋果樹園の菊池貞夫さん。
愛情をかけたりんご畑に大勢が踏み込み、迷惑でもあったにちがいないけれど、金野さんの奥さんはこう言ってくれた。
「若い人がたくさんきてくれて、(金野秀一さんは)本当によろこんでいます。
もうりんご作りはやめようかと一時は言っていたのに、今度はりんごの木を増やそうと言っています(笑)」

(立派な字で書いていただいた看板)


近くの米崎町コミュニティ・センターに移って、がんずき教室が行われる。
「がんずき」とは、岩手県でよく食べられる蒸しパンのことだ。
指導と準備をしていただいたのは米崎町女性会「アップルガールズ」のみなさん。
女性会の中でも、がんずき名人に集結していただいた。

(お茶の水女子大・熊谷圭知先生と学生のみなさん。米崎小学校仮設住宅で被災者の聞き取り調査を行っている)

「水加減がむずかしい」と参加者から声が上がったように、おいしく作るにはこつがいる。

「茶」と「白」があり、「茶」は玉砂糖という黒砂糖を使っている。
「茶」は重曹、「白」はベーキングパウダーと、レシピにもこだわり。
地元産のくるみを殻から割って使用した。
中には殻つきのくるみを見るのがはじめての人もいた。

(前で教えてくれているのが、米崎町女性会の菊池清子さん。「パンを届ける」という一連の活動でずっとお世話になってきた)
蒸しあがる間に、アンパンマンの作者やなせたかしさんが作詞・作曲した「陸前高田の松の木」を踊る。
恥ずかしがらずみんなでできたことで、参加者のあいだに一体感が生まれた。

昼食には陸前高田市広田町の農家のお母さんたちが自ら栽培した野菜で作ったカレーをいただいた。
添えられた蒸し牡蠣は広田湾で大和田晴男・三代子さんご夫妻が育てたもの。
この旅で私たちはりんごはじめ地元産のたくさんの農産物・海産物を食べ、この土地の豊かさを実感することになった。

ホテルで夕食をとったあと、米崎小学校仮設住宅のリーダー佐藤一男さんのお話会が行われた。
被災した本人が語る津波の悲惨さ、災害への備え、復興が進まない理由など。
報道では伝わりにくい被災地の真実を参加者は静かに聞き入った。

翌朝は米崎小学校仮設住宅でバーベキュー。
地元の人たちもみんな楽しみにしていてくれた巻パンを、Zopfの伊原靖友店長が作る。
道具が揃わない中でも、みんなができることをし、協力しあって、パンを作り上げていく。
小麦粉や砂糖、卵の計量をアップルガールズのお母さんたちが手伝う。
森和也さん(元パン・コティディアン・ベーカリーシェフ)が自分の指を温度計代わりに水温を測り、外気を肌で感じて適切な水温を作り出し、小型ミキサーをまわして生地へと仕上げていく。

生地ができあがったら伊原さんが棒に巻きつけ、それをお年寄りもお母さんもツアー参加者も炭火にかざしてくるくるまわしながら焼きあげていく。
子供たちは、はじめて触る生地の感触に興奮し、お手伝いをしたり、いたずらをしたり。
それを見た大人たちがかわいさに目を細め、また盛り上がる。
炭に次から次に火が延焼していくように、ベーベキューの時間はどんどん楽しくなっていく。

お菓子の材料として使うクーヴェルチュールショコラが余っているのを見た、ラ・テール洋菓子店の中村逸平グランシェフが、即席でホットココアとチョコレートソースを作ってくれた。
5月とはいえやや肌寒さを感じる曇り空の下で飲むココアは体をあたためてくれたし、巻きパンにもたっぷりとチョコレートをつけ、子供たちはおおよろこびだった。
なにげないものをアイデアひとつでみんなが楽しめるおやつに変えてしまう、プロの仕事とは改めてすごいと思った。


(とれたてのめかぶを炭火で焼く)
(網で焼かれるつぶ貝と沖縄ハムのフランクフルト、地元産の野菜)

地元で採れたたくさんの海産物もバーベキューの火の上に置かれる。
採れたてのめかぶに、つぶ貝。
貝のこりこりとした食感、磯の香り。
はじめて食べる焼きめかぶの香ばしさ、とろっとした口溶け、濃厚な味わい。
どれも、新鮮な海産物だけの持つものだ。
つぶ貝は、自ら釣った魚介で宿泊客をもてなす民宿志田の菅野さんにご提供いただいた。
めかぶは、前日の野菜カレーと同じく、広田町に移り住んで支援を行う「復興支援団体SET」の三井俊介さんの仲介で、地元生産者の方から購入したもの。


(仮設住宅のお母さんたちと話をする櫛澤電機製作所の澤畠和秀さん)

(プレミアムモルツも配られさらに盛り上がる)

以心伝心バスツアーの参加者、米崎町女性会アップルガールズの人たちが全員で、野菜を切り、肉を焼き、後片付けをする。
調理用具を融通し合ったり、食べ物をすすめたり、「おいしい」と言い合ったり。
バーベキューというイベントを協力して作り上げていく中で、自然と会話が生まれる。
最後に、みんなで集合写真を撮り終わると、拍手が沸いた。
バスに乗り込む前まで、参加者それぞれが、地元の人たちと別れを惜しみ、再会を約束する言葉が聞こえていた。
食事をともにし、よろこびを共有することで、参加者はみんな仲間になっていたのだ。
3.11という深く大きな傷口。
今回の催しが、それを塞ぐための小さな積み重ねのひとつになったとしたら、とてもうれしい。

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