パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
テーラ・テール本日開店!【スギクボムーブメント第1弾】
杉窪章匡(すぎくぼあきまさ)がついに動きだした。
デュヌラルテでコンセプチュアルなパンを展開し、理論と独創性を高く評価される杉窪シェフ。
デュヌラルテを辞め、プロデューサーとなり、今年中に全国に4店舗を出店する予定。
その第1弾、名古屋のテーラ・テールが20日にオープンする。

スギクボムーブメントの統一コンセプトはこうだ。
「契約農家の無農薬野菜を使い、無添加の素材でパンを作る。
国産小麦、一部には自家製粉の粉も使って、ドライフルーツはオーガニック、もしくはそれに準じるもの。
最低条件は、安全であるもの、ポストハーヴェストの心配がない国産のもの。
できるだけ地元の野菜や卵を使う。
生産者と直接つながっていく」

そして、各店舗には、それぞれ地域色を背負った独自コンセプトも用意される。
「名古屋の人はこってりした味のものが好き。
バターの甘さを強調したような、北の方のフランス(ノルマンディ、ブルターニュ)のスタイルを取り入れます。
だいぶ畑をまわったので、野菜を使ったパンが多いですね。
デュヌラルテのときより総菜パンが格段に増えている。
食感も軽めにしてるので、かなり食べやすいと思います」

その成果のひとつが、ノワール・エ・ノワール。
ゴボウとナスのピューレを、ビターチョコを混ぜこんだクロワッサン生地で包んでいる。
「ノワール」とは黒のこと。
食べ物の風味を色にたとえるのは、杉窪シェフ独特の表現。
「同系色による素材の合わせ方もあるし、同じ旬のものを合わせ方法もある。
秋ナスはおいしいし、ゴボウも今頃から冬にかけておいしいもの。
黒と黒という色同士でもあるし、もうひとつ黒い色バルサミコが、野菜をつなぐ役割をしている。
それを引き締めるためにカイエンペッパー(辛味の強いトウガラシ)を使っています」

あまり名前を聞かない製粉会社の粉袋が並んでいた。
なぜ杉窪シェフは小さな会社の製品にこだわるのか。
「小さいながらも、がんばっている生産者、製粉会社を応援したい。
ポストハーヴェストの心配がないものを作っている人への恩返しです」

3種類の食パンが目を引く。
まず、「石臼全粒粉」は岐阜県各務原市のサンミールが挽いた地粉を使っている。
名古屋周辺で小麦粉を探していた杉窪さんが、ある日「すごい製粉会社を見つけた」と興奮ぎみに語っていたのを思い出す。
「タマイズミという品種は、色でいうと白茶色の味。
もちろん、品種のちがいもあるが、製粉の仕方がすばらしい。
小麦の粒度が粗いんですよ。
どの製粉会社を探してもこんなに粒度が粗いのは少ない」

この食パンは衝撃的だった。
ハードな皮。
にもかかわらず、食パンとして極めて薄いゆえに、食べづらくはなく成立している。
バゲットさながらに、気泡がふつふつとヒョウ柄のように現れでて、それゆえに強烈で奥深いうまみがオイリーに滲む。
中身にある野の香り。
単に野生的なのではなく、極めてセグメントされている。
それはじょじょに、コーンのような明るい甘さへと変貌しつつ、ときどき噛む全粒粉の粒によって、再び野の香ばしさへと引き戻され、絡み合うのだ。
食感でいえば、実に軽くさわさわと舌に当たり、ちりちりとちぢれて、しゅっと溶けていく。

食パン「豆乳」は豆腐懐石店くすむらの豆乳を使用している。
すばらしい豆乳の甘さがパンにおいてまったく摩滅せず、活かされている。
むしろ、ふるふるとした食感、やわらかさ、麦の快楽と出会うことで、新たな翼が与えられている。
「豆乳」に限らず、これらの食パンはすごく唾液がでる。
それゆえにおかずがほしくなり、食事パンとして秀逸なのである。

(テーラ・テール佐藤一平シェフ)

食パン「牛乳とバター」。
「福岡県産小麦(太陽製粉のプラム)、北海道産小麦(ユメチカラ)を使っています。
口溶けのいいのができる組み合わせ」
いかにもゆめちから的なもちもちが、そのまますーっと溶けていく。
それにつれて、バターが濃厚に溶けだすのだが、強いだけでなくとてもうつくしく、清らか。
溶ければ溶けるほど甘さは高まって、喉で狂おしいほどになる。

クロワッサン「サリュー」。
テーラ・テールのスペシャリテ。
フランス語の「挨拶」を意味するこの名前をクロワッサンにつけたのは、スギクボが放つ名刺代わりの一撃だからだと、私は解釈した。
プライスカードに「食感とバターの香りが凄い」と自ら記す。
彼はこのクロワッサンを「日本一」と豪語しているのだ。
少し長くなるが、その理由は下記である。

「食べたら、びっくりしますよ。
バターの香りがあんまりしないクロワッサンってよくありますよね?
折り込みがうまくいってない。
バターと生地が混ざってしまっているから。
なぜうちのクロワッサンはおいしいのか。
要は、ぜんぶ理論的に進めているからです。
(一般的なものは)折り込むときに生地を薄くしすぎているから、プレスするときに、バターと生地が混ざってしまう。
そうならないように厚さをミリ単位で計算している。
それから、作業する温度は0度に近ければ近いほどいいので、パイルームをこの店には作りました。
あと、バターを包むとき、端が余りますよね?
バターののっていない、生地だけの部分ができる。
それをいかに少なくするか考えた折り方をしている。
これは講習会で話すと、みんな目から鱗だと言います。
それと水分。
水分を究極に減らして、一度冷凍し、また解凍すると水分移動が起きる。
それを利用して、いちばん少ない水分で生地をまとめているのも、層が崩れない理由です」

実際にクロワッサンを食べる。
聞いたことのない崩壊音を聞いた。
ざわざわ、あるいはしゅわしゅわ。
一瞬で、四方八方に亀裂は広がり、実に細かく木っ端みじんとなる。
中身に光の粒が見えた。
バターが光っているのだった。
もっとよく見てみると、中身に黄色と白のストライプができている。
バターと生地が完全に層になっているためにそう見えるのだった。
このクロワッサンを食べると、目の前が黄色く染まる。
バターの甘さが滴って、喉が心地よくて仕方がなくなる。

2階はカフェになっている。
ここで出す、自称「日本でいちばんおいしいパンケーキ」によって、パンケーキブームを一蹴するつもりである。
たしかに、うならされた。
食感は豆腐に似て、ぷるぷるしてちゅるんとして、なめらかで口溶けがいい。
それだけではなく、軽やかに、高らかに、麦の香りが歌っている。
添えられた、乳化剤を使わない自家製のアイスクリームがさわやかに甘く溶け、いちじく、ぶどう、ももという季節の果物がハーモニーに参加する。
とてつもない愉楽。
ここでスギクボムーブメントの真価に気づく。
麦の風味がきちんと聞こえているからこそ凡百のパンケーキを超えているのだと。
テクニックだけでも、新しい素材の組立てだけでもなく。
素材のすばらしさが合わさってこそ、一次元上の高みへと連れ去られるのだ。

スギクボムーブメントの今後の動向を記す。
福岡が10月開店予定。
川崎市向ヶ丘遊園が12月開店予定。
代々木公園(プロデュースではなく杉窪さん自らがオーナーシェフとなる店)も12月開店予定。

杉窪章匡のビッグマウスはとどまるところを知らない。
「いまの日本、いやこの世界、どうしようもない。
僕が変えていくつもりです」

(池田浩明)

terre à terre
052-930-5445
地下鉄桜通線高岳駅下車(栄の近く)
カフェ併設
9月20日(金)オープン
スギクボムーブメント comments(6) trackbacks(0)
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なんですか、このクロワッサンの断層は!?

ぴかぴか輝いてるじゃないですか!?

黄金のクロワッサンだ!

ああー口にしたい!
from. かしわで | 2013/09/21 09:35 |
な、なんと!
やっと名古屋にも
こういうパン屋さんができたのですねっ!

じゅわっとクロワッサンを
体験せねばなりませぬ。

行かねば!

かしわでさんも、ぜひ名古屋へ!!!

from. ヒランヤ | 2013/09/23 20:15 |
ヒランヤ様
ごぶさたしております。
地元は名古屋でしたよね。
ぜひじゅわっとしてください。
from. 池田浩明 | 2013/09/24 00:11 |
行きます。行きます。
5日までに行きます!
from. かしわで | 2013/09/24 10:09 |
行ってきましたっ!!!


クロワッサンしか頭になくて
クロワッサンの存在を確認した後は、
居並ぶ他のパン達を前に
あわあわってなっちゃって。

でも、店員さんがとても丁寧に
パンの説明をしてくれて
根気よく選ぶのを待っててくれたのが
嬉しかったです。

結局、クロワッサンと
イチジクのジャム(?)が入ったパンと
焼きたてのカレーパンと、
「フォカッチャみたいなパンです。」
という一言に即決したオリヴィエっていうパンをげと。

クロワッサンは
ホント、バターの存在がハンパなかったです。
それと、食べやすい!!!
パラパラこぼれて何食べたかわかんないような
クロワッサンではありません。
最後までその姿を主張し続けてました。

出逢えてよかった。
そんな思いでいっぱいです。

次は、食パンに挑戦したいです。
from. ヒランヤ | 2013/09/28 19:01 |
ヒランヤ様

じゅわっとしちゃいましたか。
お気に召したようでよかったです。
迷うのは当然です。
どれが食べたいかといわれてもぜんぶ食べたいとしか言えないですもんね。
食パンもぜひどうぞ。
from. 池田浩明 | 2013/10/03 11:48 |
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