パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
パンだけ食べて日本縦断【第4回つくば篇2】ベッカライ・ブロートツァイト
日本各地約50カ所のパン屋を紹介したこの本の制作のために、パンだけ食べて日本縦断の旅を敢行しました。
本に収録しきれなかったパン屋をご紹介しています。

ベッカライ・ブロートツァイト
パンの街、つくば。
もしそこでパンが住民の生活に根づいているならば、そこにあるパンとは、シンプルで特別なところなどどこにもなく、かつ、上質で少し特別であるだろう。
そんなふうに想像していた通りの店が本当にあった。
ベッカライ・ブロートツァイト。
白い壁にウッディな棚とガラスケース、そしてシンプルなパンと、必要最小限のラインナップ。
日常使いの必要性を見事に満たし、遠くからやってきた者の高い期待値をも満たしていた。

ヴァイスブロート=食パン。
それは白いパンを意味する。
ドイツの発想で作った食パン生地。
同じ生地を、テーブルロールとして、小さく丸めたものはヴァイスブロートヒェン。
ごろごろと愛らしい姿で陳列棚の上に並んでいた。

ヴァイスブロートヒェン(90円)+ジャム(100円)
持った感じはすごく軽いのに、身の中にはぎっしりと小麦の白い味わいが詰まっている。
なにげないたたずまいでいて、ひどく味わい深い。
80円プラスすると注文してからパンを切り、もものジャム(*1)とバターをはさんでくれる。
ふさふさした生地の上のひやりとした甘さを感じ、バターがじょじょに溶けて甘さはさらに快楽の度を加えていく。
薄い皮を歯で引きちぎりながら、この小さなかわいいパンを食べるのが楽しい。
オーガニックのショートニングを使っているとのこと。
だから、麦の香りを邪魔せずして、ふわふわした食感のパンを作りだせているのだ。
*1 現在、オーストリアのオーガニックジャム(ゾネントア)を使用、ジャムの種類もアプリコット、ミックスベリーなど適宜変わっている)

菅原大輔さんはヴァイスブロートについてこのように言う。
「イーストが強いパンって、胸焼けしてしまう。
だけど、場所柄、食パンを置かないわけにいかない。
どうせなら、食べて快い、すーっとの喉を通るパンがいいのかと思って、これを作りました」

店名はドイツ語だが、いかにもドイツパン屋という感じはない。
やさしいドイツ。
そんなイメージだ。

「都内のパン屋で7年働き、店を開く前、1年間ドイツに行きました。
ドイツパンは割合としては少ないですけど、エッセンスだったり、材料を選ぶやり方はドイツで学びました。
ビオのパン屋で働いていたとき、そこのシェフと共感するものがあり、自分も極力オーガニックを使っていこうと思いました。
たとえば、オーガニック認証はとっていない小さい農家なんですが、栽培計画表を提示してくださっていて、全粒粉に関しては、どんな有機肥料を使っているのか、木酢液を使って防虫していることなどもわかるので、安心です。
小麦は、春よ恋を玄麦で取り寄せたもの、北海道十勝産の「春の香りの青い空」(春よ恋、キタノカオリ、ホクシンのブレンド)を使用しています。
もちろん食べる人たちの安全、健康も大事ですが、そういう栽培方法を行っている農家さんをサポートしたいという気持ちが強い。
自分が長生きするかどうかはどうでもよくって。
たいした力じゃないですけど、少しでもいまの農業がいい方向に変わっていく手助けになれば」

店の中で有機栽培の野菜を売っている。
オーガニックの紅茶やジュースを並べたり、それからドライフルーツも、業務用で大量に買ったものが小分けにして販売される。
良心的な生産者を応援したいという気持ち。
それはとりもなおさず、自らが職人として、まっとうなものを作っていきたいという決意と無縁ではないはずだ。

なぜ、つくばでパン屋になったのか。
「開店して8年目になります。
ここは筑波大学のキャンパスからも近い。
つくばは学生のときから住み慣れた町でした。
だけど、この町には小さな店がない。
海外の町って、小さな店がたくさん集まって、文化が作られてますよね。
そういう町を作る何十個の店のひとつに自分がなれればいいと思って。
実は、パン屋さんでなくてもなんでもよかったのかもしれません。
だけど、自分はなにか手で作るものを、淡々とやってるほうがいいのかな。
農業、環境に感心があるので、そこがパンとつながった部分もありますね」

環境への意識と、小さな手仕事の店への指向。
それはいま世界を飲み込もうとするグローバリズムに抗うことで、一致する。
大きな道が東西南北に貫くつくばは、大資本のスーパーマーケットやチェーンストアが多い。
大量に生産され、安く販売される。
そうした商品が席巻すれば、自然な農業は駆逐され、環境への負荷も増大するだろう。
安価な商品が出まわってデフレが進めば、ひとつひとつ手で作るパン屋も苦境に陥る。
だから、農業とパン職人が、環境と安全に配慮しながら丁寧な仕事を行っていくことで協力しあうことは正しい方向だし、未来に向けて必要なことでもある。

アプリコットとヘーゼルナッツ(現在はカシューナッツに変更)(1g=2円)。
ライ麦70%のドイツパンにドライフルーツとナッツ。
まるでウイスキーのようなライ麦の香りが、アプリコットのただれた甘さとこよなく合っている。
やわらかでなめらかな生地。
湿り気が十分なためにそれが粒だってほどけ、さらにしゅわしゅわっと溶けていく感じが快い。
有機のドライフルーツをおおぶりでリッチに入れて、甘さの箸休め的にヘーゼルナッツ、というバランス。

私がこの店に入ってきてすごく食べたいと思ったのはサンドイッチだった。
といっても、実物が並べてあったわけではない。
この日のメニューは、グリュイエールにリコッタにコンテにブルーチーズ、レバーペーストにロースハム。
黒板においしそうな食材の名だけ書かれていたために、きっとオーダーしてから作ってくれるのだろうと期待はさらに高まった。

「料理もなにもできないんで、はさむだけです。
だけど、作りおきしたくなくて。
ロスが出なければ、安い値段でいいものが使える。
鹿嶋のヴィアザビオから仕入れているオーガニックのチーズが本当においしいので。
チーズはほとんど利益なしでのせています。
ドイツにいたとき、乾いた感じのパンが多かった。
僕自身は水分が多いほうが好きで、だから作り立てにこだわっています。
乾いた感じもありながら、しっとりしてる部分もちゃんとあってほしいな。
そうすると、咀嚼してると出てくる味わいもある」

作り立てだからおいしい。
注文してから作るからロスがなく、安く出せる
忙しい朝だからこそ、いいものを提供したい。

「働いてる方は忙しいんで、サンドイッチがあればぱっと食べれますよね。
朝は、出勤前のお客さんがこられて、時間との戦い。
それでも、作り置きしちゃうと意味がないと思っています。
それに、この人のために作るってわかると、技術がなくてもおいしくなると思いますし。
いつもレバーのバターなしをオーダーする人がいたり。
その人に合わせて作る。
サンドイッチをやることで、お客さんにパンの食べ方もわかってもらえる。
次回はパンだけ買って自分でハムをはさんだり」

コンテ・ビオ(グリーンオリーブ)(450円)
グリーンオリーブ入りのチャバタ(現在は別のパンに変更)に、有機のコンテチーズをはさむ。
おいしいコンテのサンドイッチが、パン屋で買うだけで食べられるのは、予期せぬよろこびだった。
オリーブの酸味によって、チャバタの甘さがよりいっそう高められている。
唾液があふれだし、旨味の液体となって、舌に垂れる。
コンテのざらざらした素材感をしっとりしたパンがなだめる。
本当においしいチーズとパンがあれば、簡単な食事が、完全な食事になる。

ベッカライ・ブロートツァイト
029-859-3737

7:30〜売切れ終了(月曜火曜休み)

パンだけ食べて日本縦断 comments(0) trackbacks(0)
Comment








Trackback
この記事のトラックバックURL: http://panlabo.jugem.jp/trackback/1714
<< NEW | TOP | OLD>>