パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
「りんご食堂 おいしい陸前高田」報告

1月25日、原宿のRéfectoire(レフェクトワール)で「希望のりんご」主催のイベント「りんご食堂 おいしい陸前高田」が開かれた。
陸前高田の海の幸、山の幸を、ノルマンディ・ブルターニュといった北フランス風に料理する。
陸前高田から、ゲストもお呼びした。
「希望のりんご」を作る農家・金野秀一さんご夫妻、陸前高田米崎町を元気にするお母さんたちのグループ「アップルガールズ」の菊池清子さん。

菊池清子さんは、山の中の小さな避難所「自然休養村」の代表。
金野さんご夫妻も「自然休養村」に食糧・資材を集める世話をしていた。
金野秀一さんはマイクを握り、津波の日のことをこのように物語った。

高台にある、りんご畑に囲まれた自宅から海を眺め、「黒い津波」がやってくるのを見て、足が震えて立てなくなった。
逃げてくる人たちを自然休養村に避難するよう呼びかけた。
電気も水もガスもない。
救援物資が届かない一方、数日で食糧はなくなる。
ガソリンが尽きていく中で、恐怖に駆られた人たちがてんでに物資を探しに出ていこうとした。
「ひとりで生きないで、死ぬときはみんないっしょに死のう」
ひとつのおにぎり、1本のバナナを分け合ることで、なんとか全員の命をつなぐことができた。

自らの死に直面し、近しい人を亡くす。
最悪の危機に際して、団結することで乗り越えてきた体験を間近で聞く。
そのリアリティは、テレビで見ていることとはまったくちがっていた。
涙が出そうになるほど心を揺さぶられながら、なぜか体の中をあたたかいものが流れて、勇気が出てくる。
被災地で見聞きし、私を動かしてきたそうした力を、東京の人たちと共有することができたのは、このイベントの大きな成果だった。

お話のあと、いよいよレフェクトワールの西山逸成さんとスタッフの人たちによる料理をみんなでいただいた。

前菜:米崎町ホタテ養殖組合さんの帆立貝と菊池清子さんの海藻の「軽いグラタン・サバイヨンソース」
朝、海で獲って生きたまま東京へと送られたホタテ。
貝をお皿にグラタンへと仕立てられた。
ホタテの下には昆布のバターソテーが敷き詰められている。
陸前高田のお母さんたちによる町を元気にする団体アップルガールズのおひとりが、獲った昆布。
新聞紙にくるまれたその束をどさっと手渡されたとき、私には和食のイメージ以外まったく浮かばなかった。
それさえ余さず、フレンチに仕立ててくれた、西山さんのアイデアと情熱に脱帽する。

サラダ:金野秀一さんのりんごを使った「サラダ・ノルマンディ風」。
ダイス状に切ったりんごとアルデンテにゆでたお米。
乳製品を多く使うノルマンディらしく、レモン汁に加え、生クリームで和える。
西山さんによると、ノルマンディで伝統的に食べられているものだという。
けれど、さわやかな甘さとつぶつぶの食感はとても新しいものに感じられた。
りんごを野菜として日常的に食べるのは、りんごの木がたくさんあるノルマンディならでは。

メイン:民宿志田の菅野さんが獲られた魚介類のスープ「コトリヤード」。
たくさんの魚をひとつの鍋で煮る南仏のブイヤベースに対して、北フランスのコトリヤードにはそこに生クリームが入ることもあり、それを今回は再現。
コトリヤードの語源とは薪束であると西山さんは説明する。
薪束を次々とくべ、強火でぐつぐつと沸騰させたスープに魚介を投入し、短時間で煮る。
だからこそえぐみのないスープとなる。
民宿志田の菅野さんはポリープの手術で入院していた病院を出るとすぐさまその日に網を入れ、蟹、つぶ貝、タラといった魚介を獲り、送ってくれた。
ムール貝、はまぐりなどの食材も追加され、たくさんのコクが重なって、果てしない深みを奏でる。
コンブでダシをとり、さらに蟹や魚のアラなど、ひとつ仕込みを終えるたび、それぞれにダシをとる手間をかけ、西山さんはこの味を作りあげていった。
トマトペーストを加えたニンニク入りのマヨネーズとグリュイエルチーズを塗ったパンをスープに浸したり、添えられたフレンチドレッシングをかければ、味の変化を楽しめる。

パン:菊池清子さんの海藻を使ったフォカッチャとチャバタ
   海藻バターとレフェクトワールのパン
イベントの1週間前、菊池清子さんの実家「こんの直売センター」に海藻が売られていることを思いだした。
これもパンにならないだろうか。
西山さんに作ってくださいと無理を承知でお願いしたところ、「やります」と即答いただいた。
オリーブオイルの香りが滲むフォカッチャやチャバタに刻んだ海藻を練りこみ、フォカッチャにはさらに海藻のパウダーがまぶされる。
ふわふわのパンに閉じこめられた、三陸の海の香り。
スープとの相性は抜群。
そして、手作りの海藻バターから発せられる磯の香りも、パンを止まらなくする。

デザート:金野秀一さんのりんごを使った「焼きりんご・シナモンのアイスクリーム添え」。
陸前高田のりんごそのものの味を味わってほしいと供された、焼きりんご。
くりぬいた芯に差されたシナモンが、木の枝のように見える。
痛烈なシナモンの香りとりんごのやわらかな甘さのコントラスト。
熱いりんごは冷たいアイスクリームと出会い、口の中でとろけてまろやかになる。
「りんごは煮たり焼いたりいろいろやってきたけど、こんなものを食べたのははじめてです」
りんご農家に生まれ、もう60年近くも生産に携わってきた金野さんは満面の笑みでこう言った。

(食事のあいだ演奏を披露したbackground of the musicのふたり)

イベント後、西山さんがtwitterやレフェクトワールのFacebookにアップしたメッセージから抜粋して紹介したい。
http://instagram.com/p/joJN4nPW0F/
https://www.facebook.com/refectoire.lepetitmec

「ぼくから一つだけ主催者の方にお願いをしていた。
 それは、りんご農家さんや漁師さんたち生産者さんたちをイベントへご招待して欲しい、というお願いだった。
自分たちが愛情を持って育てたものや獲ったものが、遠い東京で東京の人たちに、こんな風に喜ばれ、食べられるているということを目の当たりにして欲しかったということや、東京にもこれだけ応援している人たちがおられるということも、みなさんに直接お会いして知って欲しかった。
生産者さんたちの旅費や宿泊費は、ちゃんとした説明をして、みなさんの会費から少しずつ出していただければ可能だと考えた(そのために今回は人数を集める意味もあった)。
普段ぼくたちがやっているイベントよりは少し会費は高くなるけれど、その分はうちが頑張って、参加されたお客様にも絶対に損や後悔はさせない」

「厨房は朝から本当に大変だった。 
当日の午前まで食材が届かないという不測の事態に加え、当日は昼過ぎまでの営業にはしていたけれど、その通常営業時間も普段以上にお客様が多く、営業をしながら普段とはまったく違う仕込み(大きな真鱈丸ごと、帆立貝もツブ貝も毛蟹も生きたままのものを捌くところから)をする必要があったりで、イベント時間に間に合うのか、ヒヤヒヤものだった。
 イベントは、とても穏やかで楽しい時間となり、お招きした生産者さんたちにもとても喜んでいただき、何度もお礼を言っていただいた。 
大成功だったと思う。
 そして今日、昨夜のイベントスタッフのお一人(陸前高田市にご親戚がおられる方)から、お招きした生産者さんたちからの伝言をお聞きした。 
『心のかばんにもいっぱいの優しさと感動をありがとうございました』 
こちらが感動しました。 
本当にやって良かった、と思う瞬間だった」

食事を終えたとき、私たちはなんとも表現しがたいあたたかさの中に包まれていた。
金野秀一さんの奥様、真希子さんはこんなふうに表現した。
「会場に入ってるときのお客さんは恐る恐るという顔をしていたけれど、出るときの表情はみんな輝いてました。
東京は冷たい人ばっかりだって思ってたけれど、こんなにやさしい人ばっかりだったんですね!」

食材を作った生産者の思いをすべて受け止めて料理する。
それを食べながら、語り合い、伝えあい、思いがひとつになったとき、食事は至上の体験となる。
そのことを、このイベントにご協力いただいたすべての人たちから教えていただいた。
本当にありがとうございました。(池田浩明)


写真・小池田芳晴(シミコムデザイン)

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初めてコメントします
twitterでパンラボさんをフォローしているので
このイベント気になっていたんですが

ブログでこの記事を読んで
このイベントに関わった方々の思いが
たくさん伝わってきて
朝からウルウルと
目頭があつくなってしまいました。
しかも会社で…笑

とても良いイベントですねぇ
from. 7 | 2014/01/29 10:22 |
7様
どうもありがとうございます。
そのように言っていただけると、
今後も活動をつづけていく勇気がでます。
from. 池田浩明 | 2014/01/29 21:32 |
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