パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ドゥエトゥレ(西八王子)
192軒目(東京の200軒を巡る冒険)

Due Tre(ドゥエトゥレ)の川崎泰之シェフにはじめて出会ったのは、とある講習会でだった。
ボルチーニ茸のチャバタを手ごねで作っていた。
講習会用なのでは決してなく、開店以来作りつづける、思い入れ深いパンなので、店でも必ず手ごねするという。
その姿を見て、私は川崎さんの店に行ってみたくなった。

指でつまめば先が垂れ下がるほどのやわらかさ。
でか食パン(220円)は衝撃的だった。
鼻先をかすめる自家製酵母種の香り。
それはどこかフルーツを感じさせ、そうかと思うと、ミルクの甘さへと変わり、そして麦の香りへと移ろっていく。
耳の部分は一段と酵母のフレーバーを感じさせ、いっそう甘く。
ソフトな中身は噛まなくてもなくなりそうなほど、よく溶ける。
なにも考えず食べても単純においしく、ひとつひとつの味わいに分け入ればさらに味わい深さを感じさせる。
「嗅いだことのないような洋梨っぽい香り」
講習会のときこの種を嗅いだ、Zopfの伊原靖友シェフはこのように評した。
香りと食感が噛み合うことで、この食パンはさらに魅力を増しているのだ。

「食パンだけは負けないぞ、と思っています。
酵母種を入れる製法にたどりつくまでは、納得いきませんでしたね。
3日するとぱさついてしまう。
AOSANの食パンを食べたとき衝撃を受けて。
これはいかん、と思いましたね。
イーストなんですけど、自家製酵母も入れています。
フランス産石臼挽き粉で液種(液体状の酵母)を継いで。
それまではイーストで液種を作っていたんですが、おもしろくない。
フランス産の石臼挽きを使うのは、フレーバーを加えたいからです。
しっとりしているのはルヴァン(自家製酵母種)のせいもありますし、形が大きいので水分が保持できる。
水は85%入っています(基本配合で約70%程度)。
窯をウェルカー(ドイツ製オーブン)に変えてから、またおいしくなりました」

八王子のさらに向こう、高尾の手前。
住宅街という土地柄、おしゃれなパンは似合わない。
でっかいフィリングの入ったお腹にたまりそうな食パンサンドやコッペサンドが昼時にはどんどん売れていく。
そんな地元密着のパン屋に、なぜイタリア語の店名がついているのだろう。

「ブーランジェリーなんてつけなくたって、パン屋でいいやって。
そんなにかっこいいパンは焼けないですし。
イタ車に乗ってまして。
フィアットパンダっていうんですけど、マフラーが取れたり、ぼろくて壊れるところがかっこいい。
古くなればなるほど飽きないんですよね。
ドゥエトゥレは、イタリア語で23という意味です。
店の名前をイタリア語にしたくて、誕生日が23日なので。
以前はイタリアのパンを置いてました。
チャバタ、フォカッチャ、塩なしパン。
すごく研究してたんですが、案の定ぜんぜん売れなくて(笑)。
チャバタとビスコッティ以外は残っていません」

多くのパンに自家製のフィリングを使用する。
それが変哲ない定番のパンをおいしくしている。

クリームパン(130円)。
バニラの香りの芳醇さ、水気の多いクリームのなめらかさ。
とろとろ感、たっぷりの量。
ひんやりととろけ、ひたひたと喉を甘い液体が滑り降りる。
パン生地は味も食感もしっかりしているのに、口溶けがいいためにそうとは感じさせない。
口いっぱいに広がるバニラの香りは幸福なものだ。
甘すぎだと感じさせる一歩手前で鎮静化していく頃合い。
一口かじってはすーっと引き、かじっては引き。
その甘さの波打ち際に漂う心持ちがとても楽しい。

「ラム酒、バニラビーンズもオーガニックを使っています。
それでも130円。
(都心ではなく)この土地だからできる値段です」

カレーパン(180円)
よく揚がった衣のかりかり音が異常に高い。
パン生地に油染みが少なく、甘さが後味よくて、ナチュラル。
ひと噛み、ふた噛みしただけで、もろっと崩れて、しゅわっと溶けていく。
カレーフィリングには、きれのいいコクがあって、まとわらない。
肉の味、スパイスが追いかける。
家庭的ななつかしめのカレーは、ぴりぴり感もさわやかに、たっぷりの野菜は形も残して、こくこくと噛みごたえがある。

「カレーパンの肉はブロックでお高いのを買っています。
どうしても既製のカレーフィリングはおいしくない。
じゃがいも、にんにくは八王子でとれた素材です」

食パン、あんぱん、クリームパン、カレーパン。
町のパン屋らしいアイテムとハード系のパンが同居する。

「食いしん坊なので、見た目より、とにかく味。
最近のパン屋さんには、形ではかなわないので、味は負けないように。
毎日でも食べたくなるようなパン。
雑誌に載ってるのって、遠くから食べに行くのはいいが、毎日だと飽きる。
食パン、あんぱん、クリームパンにはやっぱりかなわないですよね。
オーソドックスなものをいかに磨いていけるかだと思います。
ユニークなパンじゃないと、雑誌の記事にはしにくいと思いますが(笑)。
新作をたまに出すけど売れない。
クリームパンだけはどんどん売れますね。
それから、あんぱんに、カレーパン。
一時は挫折しそうになりました。
世の中の流れに巻き込まれそうになって。
食べたことのない組み合わせとかじゃないと、だめなのかなって思いはじめていた」

新作の開発に追われるのはやめ、定番のパンをしっかりと作る方向に舵を切った。
それは正しいことだったと、食パンやクリームパンを食べて思う。
子供の頃から食べてきたいつものパンが、いつものようにおいしいこと。
それにまさる幸福はほとんどないのだから。

Due Tre(ドゥエトゥレ)
JR中央線 西八王子駅
八王子市千人町2-13-8 モナーク西八王子1F
042-682-5066
6:30〜19:00
月曜休み

200(JR中央線) comments(1) trackbacks(0)
Comment








管理者の承認待ちコメントです。
from. - | 2016/09/13 15:43 |
Trackback
この記事のトラックバックURL: http://panlabo.jugem.jp/trackback/1723
<< NEW | TOP | OLD>>