パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
福岡・ブルージャム【スギクボムーブメント】
元「デュヌラルテ」シェフの杉窪章匡さんが日本全国をまたにかけ次々とベーカリーをプロデュースする「スギクボムーブメント」。
名古屋「テーラテール」、向ケ丘遊園「セテュヌ・ボンニデ」、代々木八幡「365日」に加え、昨年10月には、福岡に「ブルージャム」をオープンさせていた。

福岡市郊外、次郎丸。
室見川の川縁に立つモダンな建物。
水面の色から名づけられた「ブルー」は、青い空、誠実さ、清潔さ、哀愁などをも表す。

【スギクボムーブメント統一コンセプト】…添加物は一切使わず、国産小麦のみ使用(一部自家製粉)。ドライフルーツもオーガニックかそれに準ずるものを使う。

「おいしいパンをつくらにゃあかん。
孫にも安心して食べさせられるパンを」
と、パン屋の開店を思い至ったオーナーの岩室さんが、プロデューサーとして杉窪章匡さんを招請し、ブルージャムができあがった。

「オーナーさんの思いを『大切な人に、食べさせたい』という言葉に置き換えました。
いま、みんながよかれと思ってやってることが、その人のためになっていない。
悪意はないがそうなってしまう。
添加物、人工甘味料。
そういったものを使わず、家族で、ファミリーで、きてもらえるお店を考えました」

スギクボムーブメントは、画一的に同じメニューを押しつけるようなやり方ではない。
むしろ、そこに住む人びとの嗜好に合わせてメニューを作り、土地土地のおいしいものを食材に使う。

「ブルージャムはやわらかいパンを中心にしています。
食べログを見たら、大手チェーンのパン屋が上位にきていたんですよね。
だから、やわらかいふわふわさでメニューを考えた。
たとえばライ麦パンも、ライ麦を70%入れて、というハードな感じにしないで、ふわっとさせた、食べやすいものにしました。
クロワッサンも普通の形で、わかりやすさを打ち出しています」

食べ歩きに金も時間も惜しまない食通、杉窪さんが選んだ九州の食材とは、こういうものだ。

「佐賀の無添加ベーコン・ハム、大分の有精卵。
卵はカヌレやクリームパンに使ってますし、卵自体も販売してます。
あんこも、おいしいあんこ屋さんがあったので、味つけしてないものを作ってもらって、うちで味つけしている」

「これめちゃくちゃうまいですよ」
と言いながら出してきた、明太クロワッサン(300円)。
明太子とクロワッサンの運命的な出会い。
クロワッサンを福岡という土地において至上の玉座につかせる革命。
クロワッサンの中心には明太ペーストが鎮座する。
ちゃりちゃりとも、ざくざくとも、音を立てながら皮が細かく割れる。
バターの甘さに、魚介の香り、コクと辛味が混ざりあい、溶けあう。
塩辛さと甘さがめくるめく、逆ベクトルのエクスタシー。
バターは明太子をまったりとすることに奉仕し、明太子の塩気はバターの甘さをより高める。
明太子の辛味によって、舌はじんじん、喉はぴりぴり。
激しい香りは甘美に鼻をかきまわす。

「フランスでも、クロワッサンにアンチョビを入れたり、ブリオッシュとタラモ(たらことじゃがいものペースト)を合わせたりする。
料理の文脈を踏まえて、パンを作っている。
明太子といえば、明太フランスばかり。
福岡のパン屋さんに、こういうのもあるって提案したかった」

室見川食パン(320円)
穢れなきバターの甘さ。
それは豊潤に香り立ち、うつくしい発酵の香りとともに、鼻先で乱舞する。
それらは、自然に滲みだし、広がりだす。
皮はぷちんとちぎれ、中身はまったく引きのない、デュヌラルテ的テクスチャー。
いやみのないもちもち感。
中身はしゅわっと溶け、すぐにふにゃふにゃに、頼りなくなりながら、それでも最後のひとかけらが口の中から消えてしまうまで、ほのかな甘さを発光しつづける。

「うちでいちばんきめが細かい生地。
口溶けがいいように、牛乳とバターで約20%も入っています。
口溶けってバターの量に影響される。
多ければ多いほど口溶けがよくなりますから」

(2階は、窓を広くとったカフェ)

スギクボムーブメント各店には、その土地柄にもっとも合った人材が送り込まれている。
ふわっとしたパンを作るのが上手だった櫻井広基さんが、ブルージャムのシェフに抜擢された。

「もともと櫻井は発酵を(多めに)とりがちだったので注意していました。
デュヌラルテでは、味が濃いパンを作ろうとしていたので、それをするためには、(低温下に置くなど)酵母を活動させないように(発酵をあまりとらないように)しなければならない。
酵母を活動させないことで、糖分を消費させない。(そのため小麦の甘さがパンに残る)
デメリットは発酵をとらないと、パンがふわっと軽くならないこと。
ブルージャムでは北海道産小麦を使っています。
北海道産は味が濃いものが多い。
味が濃いと、発酵を(多めに)とっても味は残る。
チーズなどの具材も多く入れてますし。
高い小麦を使ったり、いい材料をふんだんに使っている分、いい発酵をとれています」

発酵を多くとれば、パンはふわふわになるが、糖分を消費して、素材の甘さが失われる。
技術と発想力で、その厳然たる法則の虚を突くのが杉窪イズムといえる。
ここブルージャムでは、甘さとふわふわのバランスを、よりふわふわサイドに寄せている。

全粒粉の農夫パン(230円)
香ばしさ、と同時に、抜きん出た甘さ。
そう感じさせる農夫パン(パン・ペイザン)にはじめて出会った。
武骨な田舎パンというイメージはこのパンにおいて覆されている。
全粒粉らしい甘さと、全粒粉らしからぬふわふわぶり。
甘さのニュアンスは黒糖のようでいて、もっとやさしく、もっとすっきりとしている。
しゅわしゅわと音を聞きそうなぐらい、すぐさま溶けていく。
やがて、じわじわと穀物的な味わいが広がっていく。

「ペイザンもふわふわにしたんですよ。
東京とはちがって、パンの硬さを楽しむというお客さんが少ないですから。
なにがいちばんおいしいかはお客さんが決めること。
お客さんがいちばんと思ってるものがいちばん。
知識とか技術というのは、それを作るために用いる。
進化しないといけない。
いまがベストかといったらそうではなく、5年後にはちがうかもしれないですし」

デュヌラルテ的、杉窪的なパンの進化論が、都心ではなく、地方でどのように根づいていくのか。
その挑戦を興味深く見守っていきたい。

ブルージャム
福岡市早良区田村3-1-41
092-861-5888
9:00〜18:00
火曜・第3水曜休み

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