パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ベッカライ・ブロートハイム

かしわでさんはブロートハイムでバゲットを買って家に持って帰れたことがないそうである。理由は、家に着くまでにぜんぶ食べ終わってしまうから。

愛パン家の渡邊政子さんは、もし死ぬまで同じものをずっと食べつづけなければならないとしたら、迷わずブロートハイムのバゲットを選ぶといっていた。

それほどブロートハイムのバゲットはおいしく、食べ飽きることがない。


きのうバゲットを買おうとしたらすでに売り切れていて、代わりにバタール(バゲットと同じ生地でちょっと直径が大きい)を買った。

夜中に食べようとしたら半分を買ったせいもあり、一口食べたときにやや乾いているかなと思った。

乾いた生地は私の涎を吸い込み、噛み締めると今度はその唾液が滲みだしてきて、甘さのようなものが口の中に広がっていった。

飲み下すとその甘さはさっと引いていき、また噛むと味が滲みだして飲み下すと引き…ということをずっと繰り返して、私は暗くした部屋の中でひとりで自分の味覚とずっと向かい合ったままでしばらく時間を過ごした。

考えてみると、ここまで書いたことはブロートハイムのバタールの紹介ではない。

本当はきっとあらゆるパンを食べたときこのように味は移ろっていくはずなのである。

唾液がパン生地を溶かし出すことによって味覚は生まれる。

その何千回繰り返した当たり前のことに、ブロートハイムのパンを食べてはじめて気づいた。



そのあとでブロートハイムのジャーマントーストを食べた。

噛みちぎると中身がぷるっと揺れる。

そして噛み締めるとまるで数の子でも食べるように、パンの組織がぷるぷると潰れていくような感覚を覚える。

このパンはまるで生きている。

そして、たとえサンドイッチを作るときでさえ、この耳を切り捨てようなどと決して思わないだろう。

香ばしい、というだけでなく、これが白い中身と同じ物質から焼け加減のちがいだけでできあがったとは思われないのだ。

中身のみずみずしい甘さと、耳の乾いた香ばしさ。

2つのまったく質のちがうおいしさが舌の上で交差し、ひと噛みごとに重なりあいかたを移ろわせて味わいを変化させていく、その驚き。

これもどのパンにおいても起こっている現象にすぎないが、ブロートハイムのジャーマントーストを食べてはじめてきづいたものだ(ぷ)。

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