パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
自分で収穫した小麦がパンになった!
11月17日、子供のための絵画・造形教室『代々木公園アートスタジオ』による「麦を蒔こう パンを食べよう」が開かれました。
このワークショップは、アートスタジオを主宰する鈴木完さんご一家が自ら切り開いた山(千葉内房・鋸南町)を舞台に行われます。
鈴木さんは週末ここに通い、自分で家を建て、畑を耕し、薪窯を作り、と自給自足的な生活を実践。
麦作りもワークショップとして、教室に通う子供たちといっしょに、機械も使わず自分の手で種蒔きから収穫まで行っています。
麦の刈り取りのことを以前パンラボblogでお伝えしましたが、その後、脱穀・製粉を経て、今回はいよいよパン作り。
そして、来年の収穫に向けて種蒔きを行います。

山に到着すると、カタネベーカリーの片根大輔さんは、さっそく計量をはじめます。
肌寒い晩秋の日、パン屋の厨房のように温度が高くないので、予定通りの時間で発酵が進むかなと心配しています。

みんなが苦労して刈り取った小麦粉は約30キロになったとのこと。
スーパーで買ってきたものとはちがって、少しグレーがかっています。
自家製粉だと、小麦の粒の皮の部分(ふすま)も少し入ってしまうために、きれいな白にはなりません。
でも、きっと香りや味はたっぷりです。

まずは、小麦粉、塩、はちみつ、パン酵母といった材料をボウルに入れ、混ぜていきます。
だんだん水と粉がなじみ、生地状になっていく変化に驚いたり、安堵したり。
そのあとボウルから取りだし、丸める段になると、手にくっつく生地に苦戦。

無事に丸め終わると、1次発酵をとります。
「これをうまく発酵させるのが僕の仕事」
という片根さんにまかせ、子供たちはそのあいだ種蒔きをします。

ロープを目印にし、15cm感覚で土を置き、5粒ほどの種を蒔いて、さらに土をかぶせる。
しゃがみながら移動しつづけなければならないので、30分もすると、足腰が痛くなってきます。
それでも根気づよくつづけていた子供たちは偉かった。

その間、発酵は進み、カンパーニュのような丸い形に成形です。
「これ、焼いたの?」
と訊く子供がいたように、種蒔きしているうちに変化を遂げていたのは不思議だったようです。
折り畳み、生地を張らせる。
ぐにゃぐにゃした生地の感触に子供たちはなにを思ったでしょう。
バヌトン代わりのボウルを型にして、ホイロをとります。

窯の中で燃え盛る薪。
こうして窯をあたため、燃えかすを取り除いて、生地を入れ、余熱でパンを焼きます。
そのあいだ、かまどではスープがぐつぐつと煮えています。
一方、子供たちは遊びに夢中。

昼の1時をまわり「お腹空いた」と訴える子供が続出する中、発酵が進まず、なかなか窯にいけません。
そしてようやく、生地を触ってみて「うん、いい感じ」と片根さんのゴーサインが出て、いよいよ窯入れ。
電気オーブンのように温度設定ができるわけでもなく、薪窯のコントロールはむずかしい。
想定したより温度が高かったようで、みるみる色がついていきます。
「もっと時間をおいて、窯の温度を下げてから生地を入れればよかった」と片根さんは反省しきりでした。

まんまるのパンも、変な形のパンも、真っ黒焦げのパンも、いい感じの色のパンも。
それぞれのパンがそれぞれの作り手に手渡されます。
自分が作ったパン、ということで感慨深いのか、みんなで見せあったり、自慢しあったり。
そして、「おいしい」という声があちこちからあがります。

もちもちとして、小麦の味がしっかりとする生地。
印象的なのは、まず鼻へ抜けていく、癖のある香り。
土の香りのような、草の香りのような。
他のミナミノカオリでは嗅いだことのないこの香りは、この土地ならではの「テロワール」なのでしょう。

野菜のスープも、いっしょに入れられた豚肉からのダシ、あとは塩・こしょうだけの味つけのシンプルなものでしたが、体に滲みこんでいくようです。
凝った料理ではない。
パンも、ホイロの機械があるわけでも、細かく温度調節ができるわけでもなく、子供たちが練った生地です。
にもかかわらず、おいしい。
私がいつも食べ、取材をしているような、一流店のパンとは異なっているにも関わらず、です。
おいしさとは必ずしもテクニックではなく、食べ物によって心が満ち足りたときに感じることなのではないでしょうか。
自然の中で働き、自然の中で食べ、そのように思いました。(池田浩明)


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