パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
チャリティー製パン講習会in京都
11月19日、株式会社 京都麻袋で開かれた「チャリティー製パン講習会」。
これは元ジェラール・ミュロでシェフも務めた山院丙蝓頬シェフのライフワークとして開始され、10回目を数える。
Zopf伊原靖友店長、ブーランジュリー オーベルニュの井上克哉シェフと手を携え、10年にわたって講習会を行い、その収益を被災地に届けるというものだ。

はじめに、京都の老舗・小川珈琲の勝又貴司さんによる、パンとコーヒーについての講演が行われた。
話は多岐にわたった。
コーヒーの歴史、コーヒー豆の種類、スペシャリティコーヒーとはなにか、食べ物とコーヒーとの相性を追究するフードペアリング。
パンといえばコーヒー、コーヒーといえばパンという切っても切れない組み合わせは、世界中に見られるという話も。
フランスでは、エスプレッソマシーンで抽出したコーヒーにミルクを入れたカフェオレに、バゲット、クロワッサン。
デンマークはフレンチプレスによるコーヒーと、デニッシュ。
イタリアではエスプレッソと、フォカッチャやパニーニという組み合わせがポピュラーとの話。
短時間ではあったが、コーヒーという知ってて知らない飲み物についての理解が深まった。

特別に、今年ドイツのシュトーレンコンテストで金賞に輝いた、コンディトライ・フェルダーシェフ(広島県廿日市市)のシュトーレンが参加者全員に配られた。
それは、とろけるようだった。
フルーツの酸味と相争いながら、生地の甘さが勝ち、喉の奥へ流れこんでいく。
とろけるからはかなく、そして甘さはうつくしく光るのだ。

Zopfの伊原さんは、人気のあんマーブルを作る。
ロールパン生地にあんこを折り込んでマーブル状になったもの。
Zopfの数多くのアイテムのうち、私も大好きなパンのひとつ。
食パン型なので、スライスしながら何枚も食べられるし、ファミリーでも楽しめるのだ。

「冷蔵庫に一晩入れていた生地です。
いま吹いて(十分に発酵がきて)います。
最初に常温で25分一次発酵をとり、冷蔵庫に入れます。
1次発酵はとらずに冷蔵庫で一晩置いても、生地が吹いてさえくれれば大丈夫です。
ただ、ブレークする(ふくらんできた生地が過発酵となり、下に落ちる)と、窯伸びしないので注意してください。
ブレークするといけないのは、グルテンが切れるという意味あいが大きいんですよね。
一度切れたグルテンを復活させるのは大変ですから」

そのあと話は、どのようにグルテンの性質をイメージしつつパンを作るかに及んだ。
「パンのグルテンは一度伸びた地点までしかふくらまないようになっていると考えていいと思います。
だから、ミキシングでは、しっかり生地を伸ばしておくことが大事になります。
そして、生地を折り畳みながらこねるとグルテンは編まれてガスを保持しやすくなり、ふっくらとふくらむ、というイメージです。
生地を練るときや丸めるときなどはグルテンを伸ばすこと、編むことを意識してください。
それを工程のどこかでちゃんとやっておくと、窯の中でふっくらよくふくらむようになります」

あんマーブルの成形は見ているだけでもたいへんおもしろいものだった。
「きょうは2種類作ります。
栗あんと黒豆、小倉あんとさつまいも。
生地に対して8割のあんこ、黒豆とさつまいももたっぷり入ります。
3つ折りを2回するだけです。
あんこと黒豆をのせて折る、その上にあんこと黒豆をのせてまた折る。
あんこは生地の上に伸ばしてもいいですし、あんこが硬かったらちぎって分けたものをのせるだけでもいいです。
3つ折りが終わったら、冷蔵庫には入れないで1度休ませてから、2回目の3つ折りを行います」

食パンに入れる前、生地を三つ編みしてから成形するのもおもしろい。
「重たいあんこを支えられる強さがほしいので、生地を編んでから、型に入れます。
何回編むかで、食感も変わってきます。
まず生地を4等分して、さらに3等分します。
この3本で三つ編みしていきます。左右を交差させていくだけです」

できあがったあんマーブルを手にした。
あんこがたっぷりと入って、このずしっとくる重さがうれしい。
ぷるぷるした生地は、絶妙の口溶けを見せ、むせ返るほどあずきの香りがしてくる。
生地のバター感があんこと激しく反応し、あんばたと同じ快感となる。
焼いて食べて、すこしあんこが焦げた感じもおいしいだろう。
日本茶と合わせてもよさそうだ。
たっぷりのあんことバター感を感じられ、伊原さんらしく、豊かな気持ちにしてくれるパンなのだ。

山泳シェフは、被災地・陸前高田をパンで応援するために立ち上げられた団体「希望のりんご」のジョナゴールドを使って、「陸前高田リンゴパン」を作ってくれた。

「いつもは、僕はバゲットを焼いて、その中にりんごをごろごろ入れるんですよ。
きょうはソフトフランスの生地でやります。
分割のときは、あまりきつく丸めないでください。
形を整える程度です。
(ミキシングのときは)塩も、イーストも、粉もオールインワンで、すべて入れて混ぜます。
ただバターだけはあとから、完全に生地が混ざったところで入れてください。
混ざりきってないところにバターを塊で入れると、イーストが飛び散っちゃうので。
そういうことに注意するのが、丁寧な仕事です」

パンの中にフィリングとして入れる、りんごのプレザーブの作り方。
「りんごを半分に割り、さらに6等分、さらにそれを半分に切ります。
本当はもっと小さくするんですけど、今回のりんごはやわらかかったので、なくなっちゃわないように。
僕は皮もぜんぶ使います。
皮と身の間が、味があるし、ペクチンもいちばん多いです。
きょうのは皮が硬いですけど、パンに入れる分には問題ないです。
ピンク色になりますし。
皮を入れなければ真っ白になります。
ただし、酸化しないうちに作業しないと、色が変わってしまいます。
銅鍋で炊くといちばんきれいにできます。

プレザーブの作り方からも、山吋轡Д佞素材の個性を大事に汲み取ろうとしていることが伝わってくる。
「りんごは炊いても10分まで。
まだ芯が残っているぐらいで大丈夫です。
レシピに、りんごを炊くときの砂糖の量を書いてますけど、その通りじゃなく、味を見ながら入れてください。
入れすぎると、りんごの風味がなくなっちゃうんですよ。
市販のプレザーブは、保存の意味で多く入っています。
きょうのりんごだったら、甘いので、生のままパンに入れてもいいぐらい。
そういうときは長めにオーブンに入れてもらえば、りんごが蒸されます。
シナモンを合わせてもいいんですが、りんごの風味をマスキングしちゃうので、僕は好きじゃないんですよ。
せっかくいいりんごがもったいない」

パンの中に包餡するようにりんごのフィリングを入れ、さらにアーモンドビスキュイも入れる。
「きょうはりんごがやわらかかったので、食感を出すために、アーモンドビスキュイを用意しました。
オペラっていうケーキがありますよね。
あの生地と同じもの。
60gで分割した生地の底にビスキュイを入れて包みます」

山韻気鵑砲茲辰討いしいパンとなった希望のりんご。
フランスパンらしい引きがありながら、食べてみるとむっちりしてやわらかい中身。
味にも食感にも、ぶつかってくるところが全然ない。
この生地はあっさりしているのに、なんだか味わい深いのだ。
パンのすっきりしたおいしさと、りんごのフィリングはすごく響きあっていた。
りんごの香りは濃厚であってうつくしく、けれども甘さはすっきりして、引きが早い。
ビスキュイによるもうひとつの甘さは、りんごを活かすアクセントにもなっていた。
山韻気鵑蓮希望のりんごの個性をとてもうまく活かした。

京都の人気ベーカリーチェーン志津屋から、小林健吾製パン部部長が登場。
「大きく焼く京黒豆のパン」を実演した。

「パン・ド・ロデブ的な配合で作ります。
ロデヴはしっかりと火を通すのが大事です。
きょうのは大きく2キロで焼いているので(水分が保持され)、しっとりもっちりです。
焼き上がってから切ります。
日本製粉のブリリアントは、歯切れがよくて、もっちりしているのが特徴です。
これを100%使います。
それから、月桂冠さんの酒種ペースト。
しっとり感や甘酒っぽい風味を出す効果があります。
水は70%で仕込んで、さらに10%を捏ね上がってから足していきます」

大きく伸ばした生地に、黒豆を入れ、2つ折りにしてはさみこむ。
「(冷蔵でオーバーナイトさせた生地は)必ず復温させてください。
冷たいままだと窯伸びがよくないんで。
せっかくふわっとしているので、麺棒でがんがん伸ばさないで、なるべく手で伸ばしてください。
京都のパン屋なので、丹波の黒豆を使っています。
黒豆を生地に折り込んで成形します。
窯に入れる前に、生地の上にサイコロ状に切ったバターをちりばめます」

フォカッチャのように、大きく、平たく焼いたパン。
表面ぱりぱり、中もっちり。
揺れ動くトランポリンの上にのった皮、そんなイメージの食感だった。
表面で溶けて生地と混ざってないだけに、バターがなんとも愉楽的な香りを放っている。
それが噛むごとに黒豆と合わさって、どんどんおいしくなっていく。
味わいとしても、あっさりとしつつ穀物感が強調されてもちのようなので、ますます黒豆と合う。
口溶けもよく、口の中ではや液体に変わって、黒豆の甘さと合流するのだった。

毎回お楽しみの昼食はZopfによるもの。
鶏肉をオリーブオイルにローズマリーとともに漬け込み、オーブンで焼いたもの。
上から、トマトソースと、パプリカ、パルメザンをのせて。
トマトの酸味と鶏肉の脂が合わさって、実にパンがすすむ。
にんじんのつけあわせはクミンなどとマリネされていて、スパイス感が加わることで、鶏肉をまたひと味変化させておいしくする。

それから、山吋轡Д佞砲茲襯侫カッチャ。
講習会場の隅でいつも説明もなく準備しているのだが、何度食べてもおいしい。
オリーブオイルによって小麦の味わいは引き出され、しっとりした生地はそれを存分に活かす。
酸味に満ちた粒のオリーブのフレッシュさもこの生地に抜群に合う。

デザートに、希望のりんごを使ったタルトも山吋轡Д佞郎遒辰討れた。
タカナシ乳業株式会社により、リコッタ、フロマージュブラン、マスカルポーネ、クリームチーズなどが添えられ、マリアージュによる味わいのちがいをテイスティングできたのも楽しい体験だった。

午後は井上シェフにより、めずらしいロシアのパンが作られた。
リング型の生地にけしの実がつけられたものはブーブリク。
15分しか発酵をとらない速成のパンである。

「ブーブリクの成形です。
このリング状の形に、けしの実をつけるのが伝統です。
(生地を手のひらで伸ばしながら)3つ折りを入れてから伸ばしたほうが、力がつきます。
つなぎ目の部分は細くして、包むように連結します」

「もうひとつ、プリューシカ・マスコフスカヤはモスクワのパンです。
プリューシカは「平たく伸ばす」という意味、マスコフスカヤは「モスクワの」という意味があります。
バターではなく、マーガリンを使います。
ロシアにはバターは置いてないからです。
ハムロールと同じような成形。
ぐるぐるっと巻き込んで、生地の真ん中にナイフで切れ目を入れ、開く。
ハート形にして焼きます。
このハート形に誇りがあるそうなんです。
ブーブリクとプリューシカ・マスコフスカヤは、本当は別の生地なんですけど、きょうは同じ生地で作りました。
両方ともたいして変わらないんですよね(笑)」

プリューシカ・マスコフスカヤはおもしろい食感をしていた。
表面だけは極端にかりかり、クラッカーのよう。
反対に、中身は目が詰まって、もっちり。
中から滲みだしてくるマーガリンの味わいとかりかりが相まって、まるで焼菓子のようだ。
発酵時間が短いことによって、かえってこのような食感を生むのだろう。

伊原さんはもう一品、ベーマーバルトブロートを披露した。
ライ麦90%に、石臼挽きの小麦粉と、サワー種、レストブロート(古くなったパン)を入れて作るドイツパン。

「日本製粉のグリストミルを10%入れています。
グリストミルを入れると、甘くなります。
モルトの味を引き出す。
すごくいい粉で、これ一本でバゲットを作ってもすごくおいしい」

サワー種を簡単においしく作るコツは市販のスターターを使うことだと言う。
「ライサワー種は手こずるところですよね。
なんでも手づくりのほうがいいというより、簡易種を利用してもいいのです。
ライ麦パンってなかなか売れないんですよ。
食べ方を提案しても、お客さんはあんまりやってくれないし。
それだったら、ライ麦パンで惣菜パンなんかを作ったり、工夫をしてったほうがいい。
ボッカー社(ドイツ)さんのTKスターターを使います。
乳酸菌種はサンフランスシコ乳酸菌です。
元種が安定しているので、起こした種も安定する。
安定というのは、いつも同じ香り、同じ味になるということです。
種って、やわらかくてあったかいと酢酸が減って、すっぱくない。
反対に、硬くて冷たいと、すっぱくなるということです。
スターターを使えば、(種継ぎなしで)1回でできちゃうので、好みの味にするには温度と硬さとライ麦粉の種類で調整すればいい」

市販だからおいしくない、手づくりだとなんでもおいしいというのは、思い込みだと伊原さんは言う。
市販のものでも、ひと工夫することで、自分らしい味にすることもできる。

「サワー種を使ってもすっぱくならない方法。
粉末ライサワーはパウダー状の種です。
粉くささが気になるのであれば、使う前に2〜3時間水を吸わして、水和させればいいんですよ。
それで冷蔵庫に入れておけば、大丈夫。
出来合いでも、自分でアレンジすれば、おいしくできます。
それから、発酵種をカビさせないいちばんのポイントは、ラップをしっかり貼りつけることです。
ライサワーを起こして、小麦粉でつなげばホワイトサワーになる。
でも、ライ麦のほうが小麦より安定しているので、ライサワーのまま持ってたほうがいいかなと思います」

ドイツパンに並々ならぬこだわりを持つ伊原さんは、サワー種を上手に作るコツ、うまく使いこなすコツをたくさん教えてくれた。

「ドイツパンはフランスパンよりもっと簡単に家庭でもできますよ。
サワー種さえできてればね。
つまり、スターターを買っちゃえば、簡単なんです。
ライサワーを食パンとかに入れてもおいしいです。
もち感も増えるし。
ライサワーはドイツパンにしか使っちゃダメだと思ってるでしょ?
パン作りは、ダメなことがあると思っちゃダメなんです」

最後に、各シェフの作ったパン(お菓子)をまとめておく。

小林健吾さん
・大きく焼く京黒豆のパン
・くるみのパンコンプレ

井上克哉さん
・トルテ
・ブーブリク

伊原靖友さん
・あんマーブル
・ベーマーバルトブロートR90W10

山泳さん
・オプストヨーグルトブロート
・陸前高田リンゴパン


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