パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
『北新地 GREEN MARKET』 ル・シュクレ・クール、新しい10年へ

中之島ダイビルに移転したル・シュクレ・クールが、新しいことをはじめている。
月一第2土曜日に開催される「GREEN MARKET」。
店舗前のスペースに約10店舗が出店。
参加するのは生産者やその仲間たち。
岩永歩シェフがつながりのある人たちに声をかけ、 その想いに賛同した人たちが想いを持って集まった。
買い物を通じて、誰もが生産者たちと会話をし、自然とともに生きる人の感性に触れることができる。
青空のもと、そこここで会話と笑顔が生まれていた。

 

フジマル醸造所の岩谷澄人さんと佐々木さん。
大阪府柏原市で自ら栽培したぶどうから、ワインを作っている。

 

「なにも加えず、ぶどうの味をそのまま出したい。
レシピは無限大にあるのだから、ぶどうをよく見つめていないとさ迷ってしまう。
僕のワインは、ぶどうが教えてくれることを素直に出してるだけ」

 

ワインもまた農作物なのであり、岩谷さんのワイン作りは、ぶどうへの完全な信頼がベースにあるのだ。

 

ワインと野菜とおばんざいの店「土佐堀オリーブ」のオーナーであり、兵庫県佐用町で羽山農園を営む羽山智基さん。

「もともと素材や生産者を重視する方向で料理をしていましたが、自分も野菜を作ってみたくなって。
畑をやりはじめたら考え方が変わりますね。
なるべく野菜を活かそうってなる。
かぶの葉っぱも捨てられなくて、みそ汁に入れます」

 

季節は12月。
羽山さんはかぶや大根を並べていた。
料理人でもある羽山さんに、自分で作った作物をどうやって食べるか訊けるのは、とても楽しいことだ。

 

「バターでソテーするのが簡単でいちばんおいしいと思います。
しょうゆをちょっとだけつけて」

 

和歌山県岩出市のヴィラ・アイーダは、自家菜園を持つレストラン。
マダムの小林有巳さんがスープやペーストの瓶を並べていた。

 

「スタッフの朝の仕事は収穫から。
育ってる過程を見ると、野菜への愛着がちがいますね。
シェフ(小林寛司さん)は『これぐらいのサイズのをとってきて』と言います。
その大きさのときに、野菜が自分の欲しい味になっているんでしょうね。
同じ野菜でも小さいほうが味は凝縮していて、大きいのはみずみずしい。
大根なんかは、さや大根といって、さやの中に入っている種を食べることがあります。
野菜のお花も使います。
豆の花は豆の味がしたり、それぞれそのお野菜の味がするんですよね」

 

スーパーで売られている野菜は、いつも一定の大きさや色のときに摘まれている。
私たちが知っているものはその野菜の一生のうちの瞬間に過ぎないのだと気づいた。

 

岩永シェフは、窯の前でパンを焼きながら、ガラスの外の風景を楽しそうに見ていた。
GREEN MARKETをどんな思いではじめたのか?

 

「最初に、徳島の小野農園さんとのつながりができたことがひとつのきっかけでした。

レストランHajimeが招かれた、祖谷で行われた『ダイニングアウト』で提供するパンの小麦粉を探してた時に、小野農園さんの全粒粉と出会ったんです。

その後、直接畑を見せていただいて、小野さん入倉さんと直接お話させていただき、「この人たちの作ったものを使いたい」、そう思ったんです。
と言いましても、岸部ではサンドイッチの需要も少ないので、「小野農園さんの有機野菜のサラダ」としてしか、食べてもらう機会もあまり作れませんでした。
それでも、なんとかお客さんと「直接接してもらえる機会を」という想いは常にあって、『いつかきてくださいね』って言ってました。
やはり、想いを持った生産者の、 『こういう思いで作物を作ってる』って声を、いつかお客さんにも届けてもらいたいなと思って」

 

大阪の中心から少し離れた吹田市岸辺にあったル・シュクレ・クールは昨年、大阪のど真ん中・中之島に移転した。

「移転が単なる自分の店の拡張でしかなかったら、ぜんぜんおもしろくないでしょ? 「年数経ちました、移転拡張しました」では、次の世代のパン職人にも、なにも残せてない。
何のビジネスモデルにもなりゃしない。
いますごく素材の値段が上がって、暗黙の「パンの値段」の枠の中で、パン屋さんは自分の作りたいものが作りにくくなって来てますよね。
下の世代はそれを見て、将来に夢を描けなくなってるんじゃないかな」


パン屋である意味、パン屋だからできることとは、何だろう。
食や環境をめぐる様々な問題を、どうやって解決していくのか?

ずっと抱えていた大きな問いにひとつの解答を見つけた。

 

「料理人の食のフォーラムやイベントに混ぜてもらったりするんですが、キュイジニエたちはすごくいいことを語る。
それをかっこいいなと思いながらただ見てるだけでした。
でも、ある時ふと思ったんです。
そのフォーラムやイベントに来る人って、だいたいレストランに行くような人。
ここに来なくても、大体みんな知ってるような人たち。
 何かを変えて行くには、知らない人たちこそ気づいてもらわなきゃいけない。
 そんなモヤモヤを抱えながら、うちの営業のシャッターが開いたとき、 『あ、この人たちに伝えていかなきゃ! 僕らには、ちゃんと役割があったんだ!』 そう気づいたんです」


「もともとパンの役割って、わかちあうこと。
食材をつなぐし、人もつなぐ、すごくやさしい食べ物。
パン屋さんの特徴って、敷居が低くて、間口が広い。
大人だって子供だって、いろんな層のお客さんが来てくれる。
そして飲食の中でも1日の来客数は絶対的に多い。
レストランだと20人でコンプレ(満員)でしょ?

それが夜営業だけだと一週間で100名超しか会えない。
パン屋は1日でそれくらいの人たちと接せられる。
確かにレストランより滞在時間は短いかもしれないけれど、 その代わり、パン屋さんは来店頻度も高い業種。
日常を変えていかないと、なにも変わらない。
日常に即したお店が変われば、日本が変わる。
うちにくるお客さんがみんな意識を変えれば、オセロみたいにひっくり返る。
キュイジニエといっしょにいたからこそ、パン屋という業態の特徴に改めて気づかされた。
やれることがある…というより、むしろやらなきゃいけない役割をちゃんと担ってることを自覚しないと」

 

パンの「つなぐ」という役割を、社会の中でパン屋が果たしたい。
それはパンの本質的な役割であり、パンの未来を切り開くテーマにもなりうる。

 

「地方に行っても、にぎわってる場所って、ナチュラルワインとかコーヒースタンドでしょ。
人をつなぐツールとなって、コミュニティの場を生むツールに、 パンだってなりえます。
そこを目的としてるかしてないかの差だけです。
下の世代の子たちには、『大阪だからできるんだ』とか、 『シュクレだから』とか思ってほしくない。
地方に帰ってそんな店をやってほしいんです。
その土地の小麦を使ったり、生産者さんとつながったり。
パン屋さんが地域の食について発信するスピーカーになれれば、 周りのお客さんにとっても新しい気づきを生むかもしれない。
こんなすばらしい生産者いたんだって、こんなおいしいものがある地域なんだって、みんなに知ってもらえるきっかけになるかもしれない。
そうなれば、その地域にパン屋さんがあるという意味も出てくるじゃないですか。
パン職人が、おいしいパンを作ることはもちろんだけど、地域のコミュニティを形成する役割も兼ねて行けるとしたら、なかなか捨てたもんじゃない仕事だと思いませんか? 閉塞感もってた次の世代の子たちが、『おもしろそうだな』、『自分も田舎帰ってやってみよう』なんて思ってくれたら、地域創生なんて大袈裟なことはできなくたって、きっと『あのパン屋さんできてくれてよかった』って、思ってもらえるんじゃないかな。
ただパンを作って売るだけの店じゃ、もうつまらないでしょ」

 

岩永さんは、パン屋を「食をつなぐハブ」にしようとしている。
それは食卓において、他のいろいろなものをつなぐ主食の役割をするパンにふさわしいものだ。
小麦、野菜、果物、肉、牛乳…さまざまな素材がパンの材料になる。
のみならず、お客さんが毎日訪れる場所なので、それを販売することもできる。
遠くから輸入された食材を用いて、いたずらにフードマイレージをかけるのではなく、地元の食材をみんなが購入すれば、地域でお金が循環するので、経済の活性や環境を守ることにもつながるだろう。

 

「まずそこから自分で開拓しなきゃいけなかった。
売り上げなんかより、食べてもらうことより、手にとってもらうことすら難しいスタートでしたから。
『パンってね!』『フランスってね!』、それをずっと言いつづけてきたような開店当初、そしてそれを突きつけてきたような10年でした。
移転が決まった一旦閉店する岸部のお店には、何の躊躇もなくお客さんが入って来てくれました。
10年の歳月をかけて、自分がここで見たかった景色を、お客さんに見させていただきました。
じゃ、次の10年ってなんだろう?

自分は10年後どんな景色を見たいんだろう?

もうパン屋はずっとやってきた。
極端な話、別に改めてパン屋をやりたいわけじゃない。
パン屋という業態の特徴を生かして、自分たちに何ができるだろうか。
啓蒙するんじゃなくて、お客さんも僕らもみんなで食の理解を深めて、楽しみながら一緒に向かっていきたい。
価値観を押し付けず、共有しながら学べたら素敵ですよね。
いまは実際、まだまだ自分もわかってない部分が多いですし」

 

10年間の努力で築いたル・シュクレ・クールの看板。
今度はそれを、地域の人たちや、農家、パン職人の未来のために使う。

それが北新地で始める意味であり、GREEN MARKETを主催する意義である。

 

「お客さんにとっては、信用している店がやっているというバックボーンがある。
それは安心につながると思います。
そしてパン屋が横にあるということは、 出店者さんへの安心にも繋がります。
やはり集客への不安は切実です。
せっかく来ても、そもそもお客さん自体が少なかったという声も、 大阪での他のイベントに参加された農家さんから聞いていました。
前回も幸いほとんど完売したので、本当にほっとしました。
そして何より、店の外に今まで見たことのない景色が広がりました。
店から出たお客さんが、すぐまた外の違う店で買い物をしている。
良い笑顔で喋ってるのとか見ると、ちょっとしたジェラシーですよ(笑)。
ランチの時間が過ぎると、近くの料理人さんも買いにきてくれたりと、GREEN MARKETをきっかけにコミュニティができて、 それぞれのお店とお客さんも直接繋がりが生まれたりして、食の小さな連鎖が生まれたらいいですね。
この場所の利便性、なにもしなかったらもったいないですし、この場所でやらせていただいてる、果たさなきゃいけない責任や役割もあると思うんです。
『シュクレさんが来てくれて良かった』って、 また10年後に思ってもらえれば、それだけで幸せですよね」

 

ル・シュクレ・クール
大阪市北区堂島浜1丁目2-1 新ダイビル1F
06-6147-7779
11:00〜21:00(LO20:30)

 

北新地 GREEN MARKET 〜僕らは街のスピーカー!〜
ル・シュクレ・クール内で毎月第二土曜日開催

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