パーラー江古田
2010.10.22 Friday 05:18
パーラー江古田はパンを売っているが、パン屋ではない。
この看板のいちばん上には「BAR」と書かれているけれど、営業時間を見ると「8:30〜18:00」と書かれている。
BARなのに昼間やっているのかと不思議であるが、これは「バー」ではなく「バール」と読まなくてはならない、ということがのちに判明する。
カウンターしかない喫茶店。
そして自家製パンも売っている。
パンは大人気で主だったものは午前中に売切れる。
店内でも写真のようなコーヒーとパンのセットや、パンの盛り合わせを食べることができる。
パンの品揃えはハード系が中心、デニッシュやブリオッシュもある。
自家製酵母を使ったハード系のパン。
容赦なく皮が硬い。
そして厚い。
噛み締めると味わいががつんとくる。
ハード系ががつんとくることにおいて、東京でこの店にまさるところはなかなかないかもしれない。
素材の組み合わせもユニーク。
写真のカシューナッツとブラックペッパーは、ブラックペッパーの乾いたひりひり感によって引き出されたパンとナッツの甘みが、とてもさわやかで、新しいものに感じられた。
ご主人曰く、
「がっしりと焼いたほうが粉の味わいが強くなる」
「皮と底がおいしいです」
「本当はビールといっしょがいいんですけどね」
白い部分のじわじわくる甘みとか、やわらかさとか、そうしたものはあえて捨象され、とにかく、がつんとくる味わい・スピーディな甘さが追い求められている。
つまり皮派のパン。
サンドイッチのすごいボリューム。
ツオップのカフェでキッチンを担当していたご主人が、この店を開店したときのもともとのコンセプトは「サンドイッチを出す喫茶店をやりたかった」とのこと。
サンドイッチのためのパンを自分で焼いていたのが評判を呼び、持ち帰りのパンもいろいろ焼くようになったとか。
このサンドイッチ用の食パンが店の原点なのである。
自家製レーズン酵母を使い、油分や糖分は入れない、いわゆるハードトースト。
鶏肉のローストのしたたる肉汁を生地がきちんと受け止めている。
「具材をしっかり味つけるのでそれに負けないものを」といい、その通り、小麦の味わいがとてもしっかりしている。
小麦と肉が激しくぶつかりあう、そのエッジがおいしさになっている。
素材と素材の味のこすれあいこそがヨーロピアンなサンドイッチの醍醐味だと私は思っていて、しかし、このような食パンを焼けば、日本人好みの、口に当たらないやわらかさも同時に実現できるのだなと思った。
サンドイッチを焼くところをじっと見ていた。
一枚のパンに巨大な鶏肉のローストをのせ、もう一枚に舞茸のローストをのせ、オーブントースターへ。
タイマーまかせにはせず、お客さんと話をしながらも意識はトースターのほうへいっていて、何度もふたを開けて、人さし指で生地を押し、焼き具合をチェックしていた。
トースターからサンドイッチがでてきたのはかなりの時間がすぎたあと。
よく焼けた耳、特に上の部分はさくさくになっていて、香ばしさ最高、そしてとても甘い。
ご主人は、イタリアの食堂を巡り歩きもしたそうである。
このカウンターだけの店に詰め込まれた食への意識は、隠してはいるけれど実に高いところにある。
そうした情報は、ご主人と常連さんがの会話を小耳に入れることによって仕入れたのであるが、だれでもふらりと入れて気さくに会話ができて、これ以上は望みようがない軽食を取ることができる、すごい喫茶店である。
おいしすぎのため、帰りにレーズン酵母食パンを購入。
「よく焼いたほうがいいですよ。はちみつをつけるとおいしいです」
といわれたが、生でなにもつけずに食べた。
発酵の香りが強く、それが実にフルーティ。
軽い酸味が、小麦の甘みを強烈に後押しする。
両者が恊働してワンレベル上の味わいを作りだすさまがすばらしい。
ペリカンやブロートハイムといった、だれもが認める食パンとはまったく別の方角に、こんなにおいしい食パンがあったとは。(ぷ)
2010年1月19日追記
「ご主人はイタリアンの名店アロマフレスカで料理を学び」と書いておりましたが、事実は、雑誌『料理通信』の企画で、ディリットの坂内シェフにパスタの作り方を学んだことがある(坂内シェフは元アロマフレスカ)というお話を私が曲解しておりました。
謹んで訂正させていただきます。
関係者の方にご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。