パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
パンとエスプレッソと(表参道)
第37軒目

白に出会いたいがために、この店に通う。
内外装のつやつやした白。
あるいは、味覚に関する先入観を真っ白にリセットしてくれるような、気づきに満ちた新鮮な味わいも、イメージにするならばつやつやした白だと感じる。
モダンアートに通じる、普遍的でシンプルな形も、ギャラリーのようなホワイトキューブの中に置いてこそふさわしい。
それは光を反射して眩しいような、都会的で、ちょっと敷居の高い白だけれど、日常の中に、ときにそのような非日常の色合いに身を浸す時間があってもいい。

例えば、プロヴァンス(300円)も白いパン。
このユニークな形にして食事パンである。
とても奇妙だと思いながら、パンを切った断面を見て気づく。
ドーナツ型は、山形食パンをびよーんと伸ばして両端をくっつけたものなのだと。
バジル・ローズマリー・セージといったハーブが練り込まれているといえば、複雑なパンのように感じるかもしれない。
だが、これも余計なものを取り去って、白に近づけていった、引き算のパンである。
ハーブは味を付け加えているのではなく、単に白いという以上にリーンな、小麦の味わいのうつくしさを引き立てるためにある。

数あるパン屋の中でも特別な一軒として惹きつける魅力が、この店にはある。
製造担当の岩崎さんも、勤める前からこの店によくきていた。
「大好きなお店だったので、応募するときは迷いました。
働いてしまったらいろんなことを教わるから、お客さんのままでいたいと。
でも、思いきって応募していまはよかったと思います」

よそでは味わえないような斬新なパンはどのように生まれるのか。
「(シェフの)桜井さんの個性が反映しているのだと思います。
おいしいものってすごくいっぱいあって、その中でも、ここであえて出すなら、を考えている」

パンとエスプレッソと、の個性とはなにか。
「新しさ…」
そういってから、岩崎さんは言葉に詰まり、じっと考えた。
「新しさ、に近いが、ちがう。
見て、『うわっ』と思えるような。
試作はすごく重ねています。
それで桜井さんのイメージに近づけていきます。
ブリオッシュとか、フランスパンとか、一般的にあるオーソドックスなパンとは別に、新しい、はっとするようなものを作りだそうとしています」

岩崎さんが表現したくてもどかしい思いをしたことを、私なりに言葉にしてみるなら、それは「理性」ではないかと思う。
いたずらに、ただ新しければいいのではない。
いままでなかったけれど、なかったことが不思議になるような、おいしさと普遍性を備えていること。
論理的であり、合理的でなければ、あえて作りだす価値はない。
そうした高いハードルを越えてきた感触が、パンとエスプレッソとのパンにはある。

桜井シェフはいまは厨房に立たず、パンの研究に注力しながら、この店のスタッフを指導している。
「桜井さんにはいつも『丁寧に』といわれています。
それは、自分のタイミングや、自分の都合で作らないで、生地のタイミングで仕事をするようにということだと、私は思っています。
例えば、窯前で、さっき熱いものを置いたところの上に、焼く前の生地を置かないこととか。
ちょっと面倒くさいと思うことに手を抜かない。
窯に入れるタイミングも、許容範囲はあるけれど、ベストの発酵状態で入れられるよう、みんなで心がけています」

「丁寧に」。
これもきっと「新しさ」という言葉だけで表現することを、岩崎さんにためらわせた理由のひとつだろう。
どんなに斬新であっても、心がなければ、おいしいパンはできない。
食べる側も新しさだけに目を奪われず、そこに目を向けていたいと思う。

カカオテ(160円)。
パンとエスプレッソと、といって多くの人が想像するのは、この菓子パン生地かもしれない。
この店の多くのパンに共通する、まったく新しい生地の感触。
小さくくにゅっとして、すっと歯が通り、しゃくしゃくと音を立てる。
ブリオッシュのようなバターのきいた生地だけれど、なにかが新しく、表現しようのないなにかがあるので、それがもどかしく何度も食べたくなる。

とろけていない、ペースト状であるがゆえに、じわりじわりと唾液を滲みこませて、ゆっくりと甘さを滲みださせる。
しかも、ヴァローナのチョコはよりせつなく、より深く舌へ滲み入り、余韻はとても長い。
それが、独特な生地に浸透していく。
新しいものと新しいものが重なって、さらに新しい味覚が生まれる。

チョココロネ(180円)。
ただのチョココロネのように見えて、この店に置かれているかぎり、それで終わるはずはない。
チョコクリームがおいしすぎる。
普通のクリーム同様に甘さからはじまる。
それが喉へ達した途端、エッジの尖った信じられないほどのココアの苦みへと急旋回する。
飲み込むときには、チョコクリームに特有の、のどごしの冷たさに潤わされる。
ぷりぷり感のあるブリオッシュ的な生地は、パンとエスプレッソとが得意とするものだが、甘さを極端に控えて、チョコを受け止めることに徹する。
ここにも、引き算的新しさを潜ませている。(池田浩明)

バリスタのいるカフェを併設。

パンとエスプレッソと
銀座線・半蔵門線・千代田線 表参道駅
03-5410-2040
8:00〜20:00
第2,4月曜休み(祝日の場合、翌火曜休み)

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200(東京メトロ銀座線) comments(2) trackbacks(0)
Comment








かしわで

このお店のパニーニは自分には衝撃の旨さだった。

なんせお腹がいっぱいなのにおいしく食べられましたから。
from. かしわで | 2011/03/28 20:19 |
かしわで殿
ゲタみたいな四角四面的なのですね。
私もおいしくいただきました。
衝撃がなければパンじゃない。
というぐらいに衝撃だらけのパン屋です。
from. ぷ | 2011/03/29 10:23 |
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