パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
近江屋洋菓子店(淡路町)
43軒目。

パン屋はどこもそうだけれど、この店の扉を押すとき特に、きてよかったという感に打たれる。
買ってきてもらったパンだけを食べるのではなく、近江屋洋菓子店の雰囲気に触れたい。

高い高いコバルト色の天井、色とりどりの石が敷き詰められた床、一直線のショーケースとカウンター。
弛みもなく整然と椅子や調度品が並べられている。

なんといっても制服がかわいい。
空色のワンピースに白いブラウスとエプロン。

ショーケースの中にはクラシックな洋菓子の数々。
いちばん目を引くのはなんといっても、いちごのショートケーキ。
店主が毎朝太田市場で仕入れるいちごを使い、たっぷりの生クリームが盛り上げられている。

ケーキ屋としては例外的に、たくさんの種類のパンが置かれている。
菓子パンはもとより、惣菜パンが充実している。
この完璧なインテリアの中で、洋菓子という非日常と、惣菜パンという日常との取り合わせは不釣り合いに思えるかもしれない。
近江屋においてはまったくそう感じさせない。
コッペパンの焼き色がうつくしい。
そこに盛られた卵フィリングの黄色やポテトサラダの白には、ショートケーキと同じ品を備えている。

店主夫人で販売を切り盛りする吉田優子さん。
「ケーキ屋でこれだけの量のパンがあるのは珍しいと思います。
それは近江屋が最初パン屋からはじまっていることに関係しています。
2代目が明治30年頃にアメリカでパンと焼き菓子を覚えて帰ってきて、それから本格的にパンを焼くようになりました」

創業120年以上。
近江屋の魅力とは歴史の重さだけなのだろうか。
「そのときその時代の好みや流行りに合わせて変えています。
菓子パン生地も甘みが強い重たいものでしたが、配合を変えて、軽くしました」

クリームパン(116円)。
平らにのばした生地を2つ折りにしたよそでは見ない形。
それがクラシックでいかにも近江屋らしいと思う。
でも、このクリームはとても軽やかである。
卵と牛乳の風味はしっかりと放ちながら甘さは控えめ。
見かけに反して、いま評判になっているクリームパンと同じようなふわふわ感だったので驚いた。
ところが、パンをずっと噛み締めていくと、昔ながらの店でよく味わうような古めかしい感じが滲みでてくる。
新しいようで古く、古いかと思えば新しい、レトロのメビウス。

吉田さんは紙袋を持ってきて示した。
「これは昔の包装紙のデザインを、主人の考えで復刻したものです。
でもすべて昔のままではなく、電話番号もいまのものにしてありますし、ホームページのURLも載せています。
そのまま継承してやっていくだけでは生き残っていけない。
あるものは変え、形は残す。
イーストだって昔はなかったんです。
麹から起こした種を使い、ふとんの中に入れてあたためたそうです。
今年で92歳になるうちの職人さんだった方に聞きました。
13歳から勤めているので、戦前の、7、80年も前の話になるでしょうか」

変わるものと変わらないもの。
時代に合わせて近江屋が変革をつづける、その変え方にも、近江屋らしい伝統が働いているように思われる。
いっぽう、変わらないように見えるものも、時代の波に洗われて無傷ではいられないのだと。
この店には、いつまでも変わらずに、変わりつづけてほしいと思った。


たまご(147円)。
愛パン家・渡邉政子さんが絶賛する卵サンド。
すべてがふんわりしている。
コッペもふわり、卵フィリングもメレンゲのようにふわり。
しかし、味はかなり塩をきかせて、ふわふわなところへめりはりをつけているし、コッペの表面のよく焼けた香ばしい香りは、卵のやさしい甘さに対してアクセントになっている。
隙間なくぎっしりと詰め込む心遣い。
小さめの形、焼き色のうつくしさも洋菓子店ならではの美意識。

あんドーナッツ(158円)。
あんぱんが人気の店のあんドーナッツ。
平たいけれど思いのほかずしっとくる。
表面にカリカリとしたところもあれば、中身はもちもち。
油を吸ってどこまでもしっとりした生地には、すがすがしい歯切れ、心地いいしつこさがある。
あんこの甘さとドーナッツ生地、ふたつのしつこさが競い合うけれど、あんこの後味がさっぱりして、上品にまとめられているのが、近江屋らしい。(池田浩明)

喫茶スペースでは525円の飲み物バイキングあり。


東京メトロ丸ノ内線 淡路町駅/都営地下鉄 小川町駅/JR中央線 お茶の水駅・神田駅
03-3251-1088
[月〜土]9:00〜19:00
[日・祝]10:00〜17:30(パンは休み)

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近江屋さんのお店の雰囲気が好きなので、行くと長居してしまいます。

なすべきことを淡々と誠実に果たす店の姿勢がパンやケーキにも投影されていて毅然さや思想さえ感じます。

街に愛されているお店、そんな感じがします。
from. koo | 2011/04/09 09:13 |
kooさま

「街に愛されているお店」まったくそのとおりですね。
あの裏には薮そばがあり、夏目漱石の通った洋食屋もある、明治からのグルメ街です。
もしあそこに近江屋がなければ街がちがってしまうような気がします。
from. ぷ | 2011/04/09 15:32 |
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