パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
カンガルー(新百合ケ丘駅)
46軒目


そのパンは、宝物のように、目立たない、少し低まった場所に置かれている。
商売をしているのに、なるべく人目につかないようとっておくというのは不思議なことであるけれど、慎み深い場所が、開店以来焼きつづけられているソフトカンパーニュ(180円)の定位置なのだ。

十字形につながった、ゴルフボールぐらいの小さな丸パン5つ。
もっとも火に近い、頂上あたりでさえせいぜいが山吹色で、それからベージュ、アイボリー、クリーム色とだんだん薄くなっていく。
ほんのちょっぴりおしろいをつけて。

紅潮したほっぺたみたいな、うつくしい焼き色からわかること。
強さは慎重に避けられている。
焼き込めば、強い甘さをパンの表面に作り出すだろう。
それは瞬間的に人を惹きつけるだろうけれど、皮を硬くしてしまうし、表面の甘さは中身の淡い味わいを邪魔してしまうかもしれない。

このパンで作ったベッドがあったら横になってみたい。
食感はもちもちとして、にもかかわらず強く噛まなければ噛み切れないということはない。
発酵の香りもつんとせず、人を誘うようにほのかに甘さを漂わせ、口溶けもごくじわじわとしている。
中身の味わいはやわらかいのに、浅すぎる、白すぎるということもなく、充実している。
つまり、一言でいえば、夢のようにやさしいパンということになる。

カンガルーに置かれているのはすべてがすべてこのようなパンで、人肌のような焼き色をして、食べる人の腕を強くつかんで惹きつけよう、というところがまるでない。

オーナーの中坪雅樹さんはいう。
「日本にある材料はみんなそんなに変わらない。
じゃあ、どこで人とちがいがでるかといえば、心構えでしょう。
パンに真剣に取り組むか、いい加減に取り組むか。
体調が悪いと、力が入らない。
寝不足だったり、お酒の飲みすぎだったりすると、つい流してしまう。
計量、仕込み、発酵の温度・湿度、成形、二次発酵、焼成。
いろんな工程をきちっきちっとやっていかなければ、おいしいパンはできないよね。
きちっとしたパンができない。
自分でぜんぶやってるんですから。
計量から仕込みから人にまかせない。
朝2時に起きて、3時から作る。
作れる量は限られている。
でも、無理して多く作ると、パンが荒れるんです」

どうしたらやさしいパンが焼けるのか、聞きたかった。
「パンは、人が出るんだよね。
作り方は、本を読めばわかる。
でも、パンは発酵食品ですから。
酵母菌がいろんな動きをする。
それは経験でしかわからない。
性格とか癖とかものの考え方が自然に出ちゃう。
自分が変わるとパンも変わる」

東京の200軒を巡る冒険をつづけながら感じはじめていたこと。
パンは人。
それは確信に変わりつつある。

ハースロム(360円)。
食パン生地のパン。
クッキーのように甘くかりかりの皮と、中身はまるで相反して、食感はあまりにやわらかく、味わいはそこはかとない。
中身だけを食べてみたくなる。
かよわい食感と、淡く淡く、そよそよとした食感に、なにも考えず身をゆだねてしまう時間が好きだ。

クランベリートリップ(200円)。
かつて出会ったことがないほど中身のムチムチ感とミルク味が強調されたデニッシュ生地。
ぱりぱりさくさくの皮は、むしろおまけ。
主人公はここでも、やわらかい部分なのだ。
むっちりと詰まりぎみの生地は、甘さも、感触も、口溶けも、素敵にやさしい。
まろやかな甘さとクランベリーの甘酸っぱさに抜群の相性がある。
強いものと強いものが作りだすのではない。
やさしいものとやさしいものが、マリアージュの春霞を作りだす。(池田浩明)

カフェ併設。

カンガルー
小田急線 新百合ケ丘駅
044-955-1591
川崎市麻生区上麻生3-21-11
7:00〜18:30
月・火曜休

#046


にほんブログ村 グルメブログ パン(グルメ)へ panlaboをフォローしましょう
(応援ありがとうございます)


JUGEMテーマ:美味しいパン
200(小田急線) comments(4) trackbacks(0)
Comment








かしわで


おっと!

「最後は人格である」

これは末井昭編集局長が昔、よく言っていたことば。
(最近はあまり聞かないけど)


「彼も人なり。我も人なり」

これは金ぱっつぁんがよくテレビで言っていたことば。


「生きていたいだけの人のらくだ」

これは大塚ガリバーがうぉおお〜うぉおお〜と唄っていたことば。


パンもひとなり。みんな人なり。


だろう? だよね。 
from. かしわで | 2011/04/20 00:37 |
「だす」のではなく「でる」ものというのは
パンに限らず確実に存在しますね。
だすものは繕えますが、でるものはそうではありません。
パンの魂とでもいいましょうか…
from. ぷ | 2011/04/20 05:29 |
ハースロムがロースハムに見えて、
形もロースハムっぽいので「ロースハム」の間違いなのかなと
ちょっと本気で思っていました。

from. 研究員D | 2011/04/20 18:27 |
D様
書いてる僕でさえそう思いました。
from. ぷ | 2011/04/21 04:24 |
Trackback
この記事のトラックバックURL: http://panlabo.jugem.jp/trackback/812
<< NEW | TOP | OLD>>