パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
パン・ド・コナ(藤が丘)
51軒目

幸福なパン屋を想像してみる。
それはこういうものかもしれない。
うつくしい新興住宅地の中にまっすぐな桜並木がつづいている。
途中には公園があり、ところどころに畑や緑が残っていて、ずっと歩いていったその先に、フランスのブーランジュリーをイメージさせる青いひさしが見えてくる。
香ばしい匂いが外まで漂い、大きくはない店の中には、きつね色に焼けたパンやサンドイッチで満ちている。

それがパン・ド・コナである。
頭の中の幸福なパン屋というイメージをそのまま現実にすると、このような店にならないだろうか。

高橋シェフはこう考えながらパンを焼く。
「僕の場合、一貫して、頭の中にコンセプトがあるんですね。
天然酵母ならこう、フランスパンならこう、菓子パンだったらこう、と。
そのコンセプト通りにきちんとできるように、と考える。
それが最初にあって、それから材料を選ぶとか、自分の選択肢が広がっている」

この店のパンには意志を感じる。
硬い皮は硬く、やわらかい中身はひたすらにやわらかく。
甘い香りは現実を忘れるように甘く。
そうなった、のではなく、そうした、というような。
パンから触知される、すべての食感や味覚にそれは感じられる。
パンのひとつひとつに、意志や気持ちがきちんと込められている。

角型パンドミ(304円)。
こんなに硬く、こんなに噛み切れない耳ははじめてだった。
かりかりとして、はっきりと香ばしく。
一方で、中身はおそろしくなめらかで、ふわふわで、まるで綿のよう。
木枠の中に真綿。
それが端的なイメージである。
香りはほのかに、ふわっと。
甘いバターの香りと、発酵の香りにバランスがある。
味わいは実にあっさりしている。
これだけすっきりとしていながら、とても充実し、満ち足りて感じられる。
あらゆる風味はとても自然で、リーンな食事パンの理想が描き出されている。

「食パンを作るにあたってまず考えたことは、食パンとは、自分にとって、日本人にとって、幸福を感じさせるパンだということ。
おいしいという以上に、幸福を感じさせるような。
それは黒っぽくて、酸味のある、天然酵母のパンではないだろう。
広がってくる副材料のおいしさであったり、ふわっとした生地の幸福感であったり。
そういうコンセプトがあって、それを実現するために、ミキシングはこう、副材料はこうしようと考えていく。
僕はスキンミルクは嫌いです。
よそのお店ではよく使っていますが、あの香りが嫌い。
食パンには自然なバターの香りがほしい。
開封したとき、自然な乳製品の香りが広がってくるように」

「コンセプトを大事にするのは、自分の習慣的な考え方だと思います。
パン屋になる前は、広告を仕事にしていました。
広告の仕事は、コンセプトを大事にしっかり思い描いてから表現ができてくる。
その方法が考え方のベースとして自然にある。
よく『こだわりはなんですか?』と聞かれるんですが、僕にはこだわりってなんなのかよくわかんない。
あえていえば、自分のズレにこだわっている。
イメージしたものから、実際にできあがったパンがどれほどズレてるのかが気になる」

「すべての前提は、お客さんがおいしいと思うこと。
味がわかる人ではなく、知識もない人に、おいしいと思ってもらえるのが目標です。
なにも知らないおばあちゃんに『ここのパンはとにかくおいしいわ』って思ってもらえるかどうか。
おばあちゃんの頭の中には、有名店かどうかとか、どんな粉を使っているかとか一切ない。
うまいか、うまくないかしかない。
だから説明はしたくないし、材料がどうのこうのもできればいいたくないです」

「食べる幸福というのは、生きていく上でとても大切なものであって、少なくとも悪いものではない。
そう信じたい。
なにも考えず、ただおいしい。
おいしいということで、幸福を感じてもらえれば。
食べておいしいと思うよろこびは、根源的な幸福に通じているはずだと、僕は思います」

ピタサンド チリコンカン(294円)。
パン・ド・コナに行くときは、お腹をすかせて、店の前のテラスでたっぷりランチをとるつもりでいきたい。
それほど、惣菜パンやサンドイッチがおいしい。

私はパンが好きなので、以前からピタサンドというものに不満を抱いていた。
薄すぎて、パンらしさが感じられず、かならず具材に負けているのだ。
このピタはそうではない。
分厚く、ふっくらとして、少しむっちりとして、しっかりとした食べごたえと満足感を感じさせてくれる。
コリコリ感を残して煮上がった赤インゲン豆と、ひき肉のしっかりしたコク、手加減なしのスパイシー感。
ほんの少し塗られたマヨネーズの中の酸味を感じるとき、チリコンカンのコクとさわやかさが手を携え、マリアージュが生まれる。

デニッシュークリーム(231円)。
皮がシューではなくデニッシュでできている。
これはシュークリームの革新だと思う。
そういえば、シュークリームのシューとは、カスタードの引き立て役にすぎず、それ自体おいしいものではなかった、とこれを食べてはじめて気づいたのだった。
この皮は主役を張れる。
香ばしさが心地いい。
歯に触れてあっさりと崩落すると、生地のあいだにはらんだ空気がバターの香りを漂わせて押し出される。
皮から垂れ落ちんばかりに詰め込まれたクリームのすばらしさ。
カスタードとホイップクリームを半分半分にしたことで軽やかさが生まれている。
甘さが舌にまとわらず、ふわふわの上にもふわふわ。
でありながら、深く舌に滲みいってくる卵とミルクの味わいはそのままある。
デニッシュでシュー皮を作る技術と、妥協なきイノベーションへの意志に脱帽する。(池田浩明)

東急田園都市線 藤が丘駅
045-974-4717
7:00〜18:00
火曜休

#051


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