パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ブレッダル ワン(千歳烏山)
76軒目


ファーストベースから離れた一塁走者が、盗塁を狙ってピッチャーの様子をうかがっているときのように、その人の体はいつも小刻みにハイテンポで左右に動いて休むことがない。
まな板の上で1個のパンの成形を終えると、三歩先の窯前まで稲妻のように飛んでいき、トレイの上にパンを置く。
置くやいなや、すぐさま反復横跳びのようにまな板のところに戻り、また成形。
その動きはあまりにすばやく、残像を曵いているようにすら見えた。

「ぜんぶひとりでやってるんで時間がなくて、申し訳ないですけど」
というシェフに、「30秒だけ」と懇願すると、彼は笑みをこぼして応えた。

「普通にやろうと。
変わったことはしてないんで。
普通にやろうと思ってます」
ベレー帽をかぶったその人はそれだけいって、また反復横跳びに戻っていった。

「普通にやる」。
語ることはなにもない、ただパンを食べればわかる。
パンという結果の中に、どんな努力もすべて表されるはずだ。
原材料や製法を謳って自分の作るパンが価値あるもののように喧伝したくはない。
すべては味である、とパン職人は語っているようだった。

まさに彼は1個のbredal one(パン的ななにか、という意味か?)になりきり、情熱の火の玉と化して、パン作りに没頭している。
なにも考えず、ただ仕事に集中するあいだだけが、その人にとって貴い、breadalな時間なのだろう。
たしかにパンは、そこにあるだけで、言葉を語ることはないものだ。

ロールパン(50円)。
小さく、シンプルなパンにこそ、作り手の美意識は表れる。
ただ放り出しただけのような、整いすぎないさりげなさが、このパンに雰囲気をまとわせている。
なにも付け加えていない味だった。
皮は皮らしく、中身は中身らしく。
表面には張りと、薄いけれど根強さがあり、白い部分にはやさしさと反発が同時にある。
これといった味はない。
ないにもかかわらず味はある。
これがパンの、ある種の極限なのだろう。

レーズンハースブレッド(300円 1/2)。
フランスパン生地を食パン生地のまわりにまきつけた。
生地の同伴者が生地とは、なんとbredalなパンだろう。
薄い膜のような皮がぱりっぱりっと乾いた音を響かせるところはハード系、舌の上に綿をのせたかと思うほどのふわふわな中身は食パン。
皮にしっかりと味がのっているところはハード系、ほんのりじわじわの小麦味は食パン。
まるまるとしたレーズンが皮と中身に味を浸透させながら、噛み潰せば甘酸っぱくほとばしり、白い中身にコントラストを走らせる。

オレンジティーブレッド(190円)。
包丁を入れると鋭い柑橘系の香りが空気を切り裂く。
紅茶味が甘くない。
アールグレーの茶葉が鼻孔のすぐ近くで嗅ぐごとくにヴィヴィッド。
オレンジの香りも同じくで、両者のデッドヒートには決着がつかない。
ぷりぷり感のあるブリオッシュからほどよく甘さが舌へと送り込まれる。
薄い皮のカリカリがアクセント。
「見かけたらぜんぶ買い占めていく人がいます」と販売のおばさま。
紅茶好きを納得させられる、数少ないティーブレッド。(池田浩明)


Breadal one(ブレッダル ワン)
京王線 千歳烏山駅
03-3308-6599
12:00〜14:00
17:00〜19:00
月曜・木曜休み
月1回不定休あり

#076


にほんブログ村 グルメブログ パン(グルメ)へ panlaboをフォローしましょう
(応援ありがとうございます)


JUGEMテーマ:美味しいパン
#076
200(京王線) comments(0) trackbacks(0)
Comment








Trackback
この記事のトラックバックURL: トラックバック機能は終了しました。
<< NEW | TOP | OLD>>