パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ムーミン ベーカリー&カフェ(後楽園)
73軒目(東京の200軒を巡る冒険)

知られざるフィンランドのパン文化を教えてくれる貴重な店。
キャラクター優先という先入観で見ると真価を見誤る。
ベーカリープロデューサーを務めるのは、あのオーバカナルで辣腕を振るった、池田裕之氏。
福岡から定期的に訪れ、味のチェックは怠りない。

フィンランドのパンの特徴について、池田さんはこう語る。
「ライ麦を使っているという点はドイツのパンに通じていますが、それともちがう。
パンに甘さがある。
フィンランドでは糖蜜を使ってパンを作ります。
むしろ、ドイツ人は甘さを食事パンとして受け入れません。
かつて支配されていた、ロシアの影響があるのではないでしょうか。
北欧各国を旅行した日本人観光客で、パンがいちばんおいしいのはフィンランドだったと言う話を聞いたことがあります。
食パンでも砂糖が入っていて、単体で完結している」

スニフの黒パン(1/2 290円)。
糖蜜の甘さ、ライ麦の甘さ、よく焼けた生地の表面の甘さが響き合う。
しっとりした粘りのある生地に、すーっと歯が通っていく感覚の心地よさ。
生地のねっとり感が、舌に絡みつくように感じられる甘さとシンクロする。
細かい部分に分かれながら溶ける感覚はライ麦独特のもので、それがすーっと溶けていく。

スニフの黒パンサンド(380円)。
クリームチーズ&サーモンと、パストラミポークの2種。
甘い食事パンはおかずと出会ってさらに魅力を増す。
特に黒パンとクリームチーズの相性が印象的。
チーズが生地の甘さをさらにまったりとした甘美なものに変える。
濃く深い甘さはサーモンから臭みを消し、魚のうまみだけを引きだしてもいる。
ライ麦の香りはハムのスモーク感とも響き合う。

プロデューサーに就任した池田さんは2度現地を訪れて食文化を調査している。
「ヘルシンキには白い小麦のパンがありますが、それよりもっと北の、北極圏に属するラップランドでは、昔は白い粉(小麦粉)は手に入らなかったでしょう。
だから、ライ麦を使った重たいパンが多い。
四季のはっきりしている日本人から見ると、一見、貧しい食事をしているように思いますが、それは大まちがいでした。
フィンランドには旬の異なる30種類のじゃがいもがあって、彼らなりに季節を楽しんでいます。
クラウドベリーなどのベリーを摘むのも楽しみのひとつで、人の家になっているものもとっていいらしい。
夏にはザリガニを食べて、ウオッカを飲んで、長い昼を楽しみます」

体をあたためる効果があるスパイス、シナモンとカルダモンは、フィンランド人にとってなじみ深い、クリスマスの味である。
「シナモンやカルダモンを赤すぐりといっしょに煮込んだグロッギは、体をあたためるための一種のホットドリンクで、この香りがカフェから漂うようになると、クリスマスがきたなと思う。
子供はそのまま、大人は赤ワインやウオッカを足して飲みます。
日本人が寒くなると甘酒を飲むのと同じように、フィンランド人のおいしさの感覚に染みついていて、体が要求している。
映画『かもめ食堂』の、シナモンロールの匂いを嗅いでフィンランド人のおばさんがはじめて店にやってくるシーンは、まさにそのことを象徴していると思います」

「プッラ(菓子パン生地)はフィンランド人の朝ごはんで、シナモンとカルダモンの入ったプッラ(シナモンロール)を食べて、仕事へ出かけていきます」
慌ただしい朝、コーヒーで流しこむシナモン味のプッラは、フランス人にとってのクロワッサンのようなものなのだろう。

シナモンプッラ(170円)は池田さんにとって思い入れ深いパンで、ジンジャーを入れたのは、フィンランドの味を日本人においしく食べてもらうためのアレンジだ。
「カルダモンだけだとじーんとして、ストレートすぎる。
ダイレクトに伝わりすぎないよう、隠し味としてジンジャーを入れてみました」
私はこの話を聞くまで、フィンランドのシナモンロールにも、ジンジャーが入っていると思っていた。
それほど違和感がない。
甘いパンから、しょうがの風味がすることは、ペストリーを実に素朴な味わいにしていて、その風味が、食材が豊富でないはずの北の風土に思いを致させるのだ。
カルダモンのすっとする感じが、ジンジャーやシナモンの中にあるほのかな甘さとコントラストを作り出し、噛むごとにエッジを明確にしていく。
プッラ生地は、ブリオッシュに似ているけれど、ふわっとしていながら、もっちりと、やや噛みきれない感じが不思議で、独特。

池田さんは2度目にフィンランドに行く際、完成させたプッラの試作品を、ヘルシンキの老舗エグバーグに持っていった。
池田さんにフィンランドのパンについて助言をくれた工場長は、
「これならプッラと呼んでもいいと思うよ」
とお墨つきを与えたという。

「エグバーグは創業して200年の老舗で、情熱的な姿勢や、やっている内容に、同じパン屋として共感するところがありました。
オーナーには本をもらったり、調理場を見せてもらったり、いろいろやさしくしてもらった。
エグバーグさんのレシピを教えて、じゃなく、あくまでお店が気に入ったので、伝統的なパンや、地方独特のパンを教えてほしいと。
そのお店のスペシャリテを勝手に盗んで売ってしまうようなやり方ではありません。
フィンランドのパンをパン屋が本格的にやるのは、日本ではほとんどなかった。
パン屋には伝統パンを伝承していく使命がある」

フィンランドのパンが、その紹介者として池田さんと出会ったのは幸福なことだった、と思う。(池田浩明)


東京メトロ南北線・丸ノ内線 後楽園駅
03-5842-6300
ベーカリーコーナー:8:00〜22:00(通年)
カフェコーナー:8:00〜22:30(L.O. 22:00)[日・祝は〜22:00(L.O. 21:30)]

不定休
(C)Moomin Characters TM

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