パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
パン ア ロルジュ(蕨)
81軒目(東京の200軒を巡る冒険)

いくら食べても、パンから教わることはまだある。
パン ア ロルジュのレトロバゲット(250円)を食べて知ったのは、「素材を大事にする」ことの意味だった。
トラディショナルなバゲットは、粉と水と塩、酵母のみから作られる。
これさえ守られていれば、粉や酵母を純粋に味わうことができると思っていた。
おそらくそうであって、しかしそうではない。
「素材を大事にする」やり方に、個性と深さがある。

皮の香ばしさに気品がある。
強く焼きこむ寸前に止められた加減がそれを生んでいるのだろうか。
香ばしさの隙間から皮の甘みが湧きあがって、口中に満ちる。
ぱりっとした皮の下でもっちりした中身が跳ねる。
バゲットなのに、中身にねっちりするほどのうるおいがあるのだ。
むっちりした食感を噛みしめていくと、リュスティックのような生(き)の小麦味が滲みだしてくる。
まぎれもない国産小麦の風味。
皮の香ばしさと、焼きつかない小麦の味わいが同居しているバゲットは、ありそうでなかなかない。

この微妙なバランスを常に維持するのは難しいことだと、稲村有貴シェフはいう。
「国産小麦を使い、甘みを大事にしています。
パンは温度やミキシングで味が変わるものです。
温度設定を大事にしています。
季節によって分量も微妙に異なってきますし。
帰る間際に置いて帰り、一晩熟成させるのですが、気温が高くなると発酵が進むし、温度管理が必要です。
感覚の問題になる。
いままで取ったデータを元に、勘を働かせる。
特に寒暖の激しい時期はむずかしい」

開店して10年。
小さい店だが、ブーランジュリーであることを貫く。
世田谷ならいざ知らず、蕨という土地柄で、それはストイシズムである。
「フランスパンが好きなんですね。
粉と水と塩だけの素朴な味わい。
そこに深みがあると思うんで。
レトロバゲットが1日に1本2本しか売れなかった時代もある。
でも、フランスパンの味を地元のお客さんに知ってもらうことにやりがいがあると思うんで」

「深み」とは指差すこともできなければ、大声で宣伝してまわることもできない。
パン職人にできることは、ベストのパンを手渡すことだけだ。
1日1本しか売れなかったバゲットが、2本になり、3本、4本になり…。
そこに「深み」への共感が町中に静かに広がっていったことの証しを、職人は見て取るのだろう。

パンドミジャポネ(260円)。
「豆乳を使ってるので、国産小麦のほうがいいかなと。
甘みをだしたいというのがあって」
国産小麦約95%使用。
あとの5%は粉のコンディションによるたんぱく量のちがいを外麦で埋めるためのゆとりだと。
甘いと思えた発酵の香りが口の中でブランデーのような深いすっとする香りに変わるのは不思議だった。
同時に滲みだすごくごくまったりな豆乳の甘さ。
ふかふかに感じられる生地が、噛むと舌の上で重量感を増し、ほどよい噛みごたえを生む。
飲みこんだあとの後口の甘さがとてもいい感じ。
焼きこまない浅い色の皮はやわらかく、苦みを発せず、中身の風味を邪魔しない。

メロンパン。
メロンパンに新しい展開がまだあった。
あえて素朴に。
自然な空気感と軽い甘さ。
やさしい発酵の香りが最高の味つけになっている。
メロンパンとしてはしっとりめの生地。
対照的に、ビス生地は硬く、軽く、さくっと。
甘さは控えられ、素材の味わいに意識は向く。
噛みしめるとともに深まっていくのは、砂糖のそれよりもやわらかい、小麦や卵やミルクの甘さ。
素材を信じ、それに賭けていると感じさせられる。(池田浩明)


パン ア ロルジュ(Pain à l'Orge )
JR京浜東北線 蕨駅
048-262-8206
10:00〜20:00
日曜、第3月曜休み

#081



にほんブログ村 グルメブログ パン(グルメ)へ panlaboをフォローしましょう
(応援ありがとうございます)


JUGEMテーマ:美味しいパン
#081
200(JR京浜東北線) comments(0) trackbacks(0)
Comment








Trackback
この記事のトラックバックURL: http://panlabo.jugem.jp/trackback/897
<< NEW | TOP | OLD>>