パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
パンを届ける 第2回 南相馬篇
立ち入り禁止区域の境界線、
福島原発まで20キロの地点で聞いたこと、考えたこと。


6月4日の記事
からのつづき。

手元にはなおいくらかのパンがあった。
私の脳裏には前回訪れた南相馬で出会った人たちの顔が浮かんでいた。
あの人たちはいったいどうしているのか。
パンを配るのは翌朝(5月29日)になってしまうけれど、日持ちするハード系のパンでもあったので、持っていってみようと思った。


(ビジネスホテル六角。右側が主人の大留さん。左は山梨から支援のための野菜を持ってきた方)

福島原発から20キロと100メートル地点。
国道6号は東北の大動脈だったはずなのに、警戒区域(原発から20キロの範囲。立ち入り禁止)の出現は、この街道沿いの場所を岬の先端のような、最果ての場所にした。
ここで、援助物資を集め、自宅避難者に配る活動を行っているビジネスホテル六角に、もう一度パンを届けた。
主人大留隆雄さんはこう話す。
「屋内退避が解除になったとはいっても、困ってる人が大勢いるのに、ここまでやってきていまやめたら、生殺しになってしまう。
物資を取りにくる人がどんどん増えている。
最初は200人だったのがいまは600人もいる。
逃げていた人が南相馬に帰ってきているんだけど、仕事がない」

なぜ仕事がないのか。
「農家の人が野菜をもらいにくる。
野菜を出荷できないし、自分の食べるものもない。
津波で漁港も壊れたし、船も流れたから漁業もダメ。
放射能の不安があるから会社も元のように再開できない。
工業製品も、南相馬で作ったものは外国で売れないから輸出もダメ」

この町の悲劇は単に放射能それ自体によって引き起こされているわけではない。
風評被害や政府による対応が悲劇に拍車をかけている。
たとえば、この町では病気になっても入院することができないと大留さんはいう。
南相馬市立総合病院には230のベッドがあるがそのうち5つしか使ってはいけないことになっているのは、入院患者は原発が爆発したとき自力で逃げられないから、という不条理な理屈である。
小中学校も、いまだ再開できない。
政府による緊急時避難準備区域の指定が、むしろ、現にここに住む人たちから復興へ向かう勇気を奪っている。

(この問題は前回同行させていただいた新党日本代表の田中康夫さんが国会で追求している。)



(警戒区域の検問)


ホテル六角の100メートル先にある、警戒区域の境界線までいってみた。
境界線のこちら側とあちら側で、風景は特に変わることがない。
地図にコンパスで円を書いただけの境。
それが、原発事故の被害とは別にどんな悲劇を生みだしているか。
私も福島県産はじめその近県の農産物海産物を買うことに慎重になっている。
一方で、南相馬を訪れ、そこに住む人たちの顔を見てしまったいま、テレビやインターネットで「福島県産のものは食べられない」と声高に語る声に、複雑な心境になる。
なにを食べ、なにを食べるべきではないのか。
なにかを忌避したとき、それによって打撃を受ける人はいないか。
人為的に引かれた線ではなく、ものの先にある、作り手の顔を思い描きたい。
パンを食べるときはいつも、そうしているはずなのに。



地震翌日も営業を休まず、
被災者のためにパンを焼き続けた店。

(パルティール主人の只野実さん)


いまや南相馬でも大手のスーパーが営業を再開するなど、街は復興へ向かっている。
1ヶ月前、多くの店がシャッターを閉じていたにもかかわらず、店を開いているパン屋を見かけ、明るい気持ちになったのを思いだした。
店の名は、ふわふわパン工房 パルティールという。
店主夫人の只野ひろ子さんは語る。
「幸い、ガス、水道、電気止まらなかったので、震災の翌日も店を開くことができました。
そこへ市の人がきて、パンはあるだけほしいと。
それからはフル回転で、3月12日、13、14、15。
(放射能被害の恐れにより政府から避難要請がでて、)16日に私たちも避難するまで、ひたすら焼いていました。
その間は、店にパンをだしてもお客さんがたくさんきて、すぐすっからかん。
店はどこもやってない状態でしたから。
パンが買えない。
お客さんの分を焼ききれない状態なんですよ。
材料も底をついてきたし、余震もつづいていた。
主人が相馬市まで材料を買いにいっては、津波がくるといって引き返してきたこともありました。
余震との戦いでした。
避難していた会津から28日に帰ってきて、29日から営業、1日も休まない。
南相馬市原町区には3軒のパン屋がありますが、交代で避難所に朝のパンを届けています」


パルティールは新聞で取り上げられ、全国に伝えられた。
それを見てやってきた漫画家のやなせたかし氏の色紙がレジに置かれていた。
アンパンマンは傷ついた人に自分の顔をちぎりとって与え、励ます。
その姿とパルティールの活躍が重なったのだろう。


サービスパンとコーヒーを無料で提供している。
避難所にあてられた原町第一小学校の向かい側に店はあって、避難されている方がくつろぐことのできる場所になっている。
避難者のひとりはこういったという。
「避難所に入ってくるパンには賞味期限が切れそうになってるのもある。
その日に焼いたパンが食べたい。
自分で買いにきて食べたいんだ」


南相馬のご当地パン「よつわり」。
焼きたてのパンが避難所に届けられるという希望。

パルティールを紹介するのは、単に被災地にあるからではなく、本当においしいからだ。

この店の名物でもある、南相馬のご当地パン「よつわり」。
あんぱんの上の皮に十字形に切り込みを入れた形。
中には、あんこ、ホイップクリーム、いちごジャムと3段にフィリングが絞り込まれている。
店主の只野実さんによると、
「高校の部活の帰りに、よつわりパンを食べてました。
本来はジャムじゃなくてドライチェリーなんだけど。
あんことクリームは合うし、ジャムとクリームも合うじゃないですか。
だからこの3つは最高のコラボ。
3種類絞るのと上を切るのと、普通のパンより手間がかかるのにずっと残っているんだから、それだけ人気があるということでしょう。
楽天の選手も大ファン。
野球教室をやってくれた縁で球場に差し入れたとき、マー君も、鉄平もおいしいといってくれました」



あらゆる甘さが味覚の器にぎりぎり盛られた感覚。
のどにひりひり、口の中に甘さの膜が貼り付いたようだが、しつこいとは感じない。
ジャム+あんこのこてこて感をさわやかなホイップクリームが絶妙に緩和するからだ。
私たちが近づきたいと願い、一方でそれはちょっととも思っている、しつこい甘さの極限地帯へごくゆっくりと導いてくれる。
生地のふわふわさ、ごく自然な味わいも貢献している。
余計な甘さがなく、小麦の味だけを感じる。
特別でないという、そのことを特別だと思えるような。


ハード系の好きなあの人に、
もう一度パンを届けた。

前回、書かせていただいた、ハード系のパンが好きな村上さん。
その娘さんが記事を目にして私にメールをくれた。
お父さんが「死んだほうがましだった」といった、津波に遭われたときの状況を教えてくれたのだった。


(倒壊した村上さんの自宅)

「父が、大津波警報を聞いたあの日、寝たきりのお年寄りがいる近所に
『一緒に逃げるぞ!』
と声をかけに走り、
『俺達は後で行く! 初男先に逃げろ!』
と言われ軽トラックに乗り込んだ瞬間、津波に飲まれ、抵抗しても割れない窓ガラスに諦め、死を決意しハンドルから手を離したそうです。
しかしその時に孫の顔が浮かんできた、と聞かされました。
その瞬間が運命の別れ道だったのでしょう。
父と最後に交わした近所の方は遺体であがり、父は随分自分自身を責めていました」
あきらめかけたときお孫さんのことを思いだし、生きようと勇気をもって車の外へ脱出し、九死に一生を得たのだと。


1ヶ月ぶりに出会った村上さんは、前回と打って変わって、笑顔、笑顔だった。
「死んだほうがましだった」とまたいっていた。
しかし、文末に「(笑)」がついていたのである。
「こんなに仮設住宅当たんねえんじゃよ、死んだほうがましだった(笑)」
というように。
「事業するために国が5年返済で500万貸してくれるっていうけど、生きていくだけで精一杯なのに誰が1年に100万も返せる?」
と笑顔で政府に文句をつけ、
「これだけの人と体育館で暮らすんだもん、いろんな問題あるよ。
避難所に1日中いたら、頭がおかしくなっちまう」
といっては笑い飛ばした。

「地震がきて、津波がきて、それでも生きてるんだから、生かされてるんだよな。
おばあさんも病院つれてってあげなきゃなんねえしよ、孫の面倒もみなくちゃいけない。
体ひとつで足んないぐらい、自分のこと必要としてる人いっぱいいる。
だから生かされてるんだよ」

村上さんは私の持っていったパンを食べながら、そういい、笑うのだった。
励ましにいったつもりが、教わった。

笑うことの大事さ、強さを。

生きていくのだから、生かされているのだから、困難なときでも笑ったほうがいい。
ふさぎこむのでも、ただ嘆くのでもなく。

笑おう。
パンを食べ、笑おう。


ふわふわパン工房 パルティール

福島県南相馬市原町区大町2-127-1

0244-24-1771


支援物資をお送りください。

ビジネスホテル六角

福島県南相馬市原町区大甕林崎51 

0244-24-2639



(池田浩明)



ikedahiloakiをフォローしましょう(twitterであなたの感想を教えてください)




にほんブログ村 グルメブログ パン(グルメ)へ panlaboをフォローしましょう
(最後までお読みいただきありがとうございました)


JUGEMテーマ:美味しいパン
 
パンを届ける comments(2) trackbacks(0)
Comment








こんにちは。南相馬市のO病院が、違反しながらも人命優先に入院患者を増やしているそうです。現在国に申請しているとか・・・
from. ともみ | 2011/06/14 08:18 |
ともみ様
南相馬市のことを気にかけていただいてありがとうございます。
病院の人は病気の人を見捨てておけないという気持ちでそうしたのでしょうね。
そういう気持ちは誰の心の中にもあって、パンをお配りするために集めるということは、その気持ちを集めているのではないかと、思っております。
from. 池田浩明 | 2011/06/16 17:09 |
Trackback
この記事のトラックバックURL: http://panlabo.jugem.jp/trackback/908
<< NEW | TOP | OLD>>