パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ポム ド テール(西荻窪)
85軒目(東京の200軒を巡る冒険)

フレンチのビストロとしてはじまったポム・ド・テールは、なぜベーグルの店になったのか。
工藤美幸さんが、サンドイッチデリの中の一商品として作っていたにすぎなかったプレーンベーグルを、毎日買っていく男性がいた。
ニューヨーク勤務の経験があるその男性は、ニューヨークと同じ味がするといって、時には買い占めていくこともあった。

「ベーグルは独学です。
ゆでるという工程があるのがベーグルだということ以外、アメリカの製法を守っているのかわかりません」
パンとは普遍的なものなのだろう。
本場といわれるものを、見たことも食べたこともない職人が、レシピだけで本質をつかまえることは時として起こる。
パンはそのようにして国境を越えてきたのだ。

工藤さんがパン職人ではなくパティシエールだったことは、ベーグルが日本で発展を遂げる上で幸福なことだったのではないだろうか。
アメリカ人が想像もつかないような種類のベーグルを、スイーツの発想で続々と生みだし、後続の店にも影響を与えてきた。

「具材を生地の中に混ぜ込むようになったのは、あとからサンドするのがめんどくさかったからです(笑)。
生地を巻いてみることにも違和感を感じませんでした。
ロールケーキをよく作っていたので」
渦巻の断面はポム ド テールを特徴づける。
空気がはらむことにより、食感においてはクッションを、味わいにおいては空気感が与えられる」


キャラメルチョコベーグル(230円)。
芳香漂うキャラメルが生地に混ぜこまれ、ベーグルのねっちり感を強調する。
そこにはキャラメル特有のまろやかさだけがあって、かすかに苦みばしる。
ストイックといえるほどのまったくの甘さのなさに耐えると、やがて天国のように、フィリングとしてのもうひとつのキャラメルチョコが甘く舌に触れはじめる。
生地のねっちりと、キャラメルチョコのねっちりが出会い、シンクロする。
甘さと苦さは混ざりあいながらも完全には一体とならず、コントラストがあるために響きあう。

キャラメルチョコベーグルは、工藤さんがお菓子的な発想で自由に生みだしたベーグルのひとつ。
「キャラメルを入れちゃったらどうかな、と。
あえて甘ったるくないように、ビターにビターに攻めて、中のキャラメルチョコと出会う。
入れこむ状態、どのタイミングでフィリングを入れるかを考えています。
生地を巻いていくとき、どの瞬間に入れるか。
口に入るタイミングで風味の抜け方がちがってくる。
噛んだ瞬間に味がするのか、噛んでいくうちにしてくるのか」

つまり、生地の渦巻の外側にフィリングを置けば、噛んだ瞬間に舌に触れるし、渦巻の中心に巻き込めば、なかなか舌は到達しない。
渦巻の発明は工藤さんに時間をコントロールする権能まで与えた。
時間の芸術ですね、と話を向けると、
「そうありたい、そう感じてほしい」

そして、ベーグルはフレンチと出会う。

ブロッコリー、生ハム、チキンコンフィ、クリームチーズ、コーンフランのサンド(300円)。
ベーグルにサンドされたフレンチの一皿。
ひとつだけでも満足なフィリングを重ねに重ねる贅沢。
ふわふわのコーンフラン(ムース状のとうもろこし)の、コーンスープと同じあの素敵な甘さ。
ブロッコリーはえぐみを完全に抜かれ、羽が生えたかのように軽やか。
甘さ、酸味、塩気。
まるで調味料を混ぜ合わせるように、具材の持つ味わいを利用して、それらを調合する。
立体的で、めまぐるしく、とらえきれないほど複雑で、甘美。

「フレンチの方法で下処理をしています。
ブロッコリーをゆでるときはびっくりするぐらい塩を入れ、ダスターで完全に水気を切ります。
マヨネーズも自家製です。
よそではない感じのものをだしたいと思っています」

積み上げてきたものに満足していない。
ベーグルの新しい可能性を押し広げつづけている。
ベーグルを使ったキッシュに、ベーグルのラスク…。
再訪問するたびに驚きがある。

ベーグルのクロックムッシュー(250円)
ベシャメルソースの甘い香りが、食欲をそそり、期待を高める。
グリュイエルチーズ、マッシュポテト、トマトソース。
ふわふわのとろとろでほんのり甘いものばかりを集め、クロックムッシューがすばらしく軽やかなものへ高められている。
具材同士の微妙に異なる甘さの戯れは、幻影のようなしょっぱ甘さを織りなす。
ソースが滲みこんでとろとろなのに、なお小麦のコクを感じさせるベーグルの粘り腰。
もはや姿をとどめないほど具材を重ねられても、やっぱりベーグルはベーグルだった。(池田浩明)
#085
JR中央線 西荻窪駅
03-5382-2611
12:00〜20:00
火曜日水曜日休み



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#085
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