パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
グード・ファリーヌ(久我山)
89軒目(東京の200軒を巡る冒険)

バゲット(252円)。
いつか出会っていても不思議はないのに、記憶を探っても見あたらない。
新しく、親しみ深い味。

バゲットの製法は二者択一を迫られてきた。
基本の作り方によるあっさりした味わい。
ルヴァン種(自家製酵母)や長時間発酵による甘く深い味わい。
前者は食事パンにうってつけだが、人によっては物足りない。
後者は味が濃いので、さりげなさという点で前者に劣る。
このバゲットは両方の長所を併せ持っている。

自家製酵母といわれなければイーストのバゲットだと思ったかもしれない。
軽さ、食べやすさ、主張のなさ。
食事パンとしてふさわしく、誰にでもどこでも作られうる普遍性がある。
ふわっとして硬すぎず、けれど快い乾きがある。
軽さの中に味わいがあって、ほんの気づくか気づかないぐらい、舌先にひりりとくる酸味、フルーティな風味と、ごくうっすらとした甘さがたなびく。
飽きずに毎日食べられるあっさり味なのに、変化に富んだおもしろさも兼ね備える。
ルヴァン種のパンはひと色の味で全体を塗りこめてしまうが、このパンには真っ白の空白が残されているようで、それがすがすがしさにつながる。

gout de farine =小麦の味。
なんと意欲的な店名だろう。
丸山シェフは、自家製酵母の中種法という、自らの発想による新製法をひっさげて、この店をオープンさせた。
「目指しているところは、食べやすい自家製酵母のパンです。
こんな作り方、普通の人からしたらめちゃくちゃだと思うんですけど、ひらめいちゃったんで、やりたい。
そうすると自分の店を持つしかなくて」

自家製酵母の中種法とは、中種の代わりに自家製酵母種を使うイメージである。
「いままで分けて考えられていた、中種法(前日に作って熟成させた種に当日小麦粉と水を加える製法)と、自家製酵母の種継ぎ(ルヴァン)をミックスしたら、お互いの欠点を補いながら作ることができました。
中種の軽い食感やさくっとした口当たりがありながら、粉の風味がでて味わい深い」

これに近いものを作り出そうとするなら、イーストと自家製酵母を併用するという手もあるかもしれない。
だが、それとも別の味がする。
ベッカライ・ブロートハイムのバゲット(ストレート法のバゲットの最高峰ともいえる)の自家製酵母バージョンという趣きもある。
聞けば、ブロートハイムと同じ粉とのこと。

「日清製粉のリスドオルという極めて当たり前の粉を使ってます。
小麦粉の味にこだわっているというと、国産小麦を使っていると思われがちですが。
一流の食材で一流の味を作るのは普通のこと。
自分の集められる食材で感動させられるものを作りたい。
当たり前のものでも、これだけおいしいものを作れるんだよ、というのがやりがいだし、醍醐味だと思う」

あんぱんやカレーパンは置かない。
ストイックにブーランジュリーでありつづけるのは、フランスパンが大好きだから。
「自動車の整備工をやっていたんですが、新宿の小田急にあるトロワグロに入りました。
最初はパイの工程に入れられてクロワッサンを作っていましたが、ただの折り紙だった。
つまらないなと思っていたら今度はフランスパン工場に飛ばされた。
生地が手にくっついて自分の思うようにいかない。
それがおもしろくて。
焼きたて食べて『なんじゃこりゃー』という衝撃を受けて。
それまでメーカーの袋に入ったパンしか食べたことなかったので。
その衝撃があるからいまもやってます」

アナナス(231円)。
グードファリーヌにはもう1種類フラブールというバゲットがある。
ライ麦と全粒粉、自家製酵母にサワー種を使っている。
「ヨーロッパに住んでいた人に話を聞いたら、向こうには2種類の酵母を混ぜるパンが当たり前にあると。
それまであまり聞いたことがなかったので、うまくいけば看板商品になると思いました」

ドライフルーツではなく、生のパイナップルのみずみずしさ、フレッシュさの衝撃。
透明感のある粉の味わいとコクのある粉の味わいが生地に同居しているのがすばらしく、ココナッツの満ち足りた甘さがパイナップルと生地をつないで、すべての素材が完全に調和している。
パイナップルの酸味は生地の中のごく軽い酸味を、甘さは生地の中のそれを覚醒させ、なじませ、味わい深くする。
パイナップル周縁と、遠く離れた部分の味わいのちがい、グラデーションの不思議さ。
パイナップルの水気をきちんと受け止め、自らのしっとり感に変えてしまう、ふところの深さ、強さが、この生地にはある。

山型食パン(210円)。
ふわふわでしゃきしゃき。
言い換えれば、やわらかさと腰を併せ持っている。
しっとりして、なめらかでという、肌触りの快感と、生地を噛み破るときの快感。
味わいはリーン。
リーンということは、何味とはっきりということができないということなのだろう。
小麦であり、塩気であり、甘みであるような、心地よさとしかいえないようななにか。
ひとつの味に傾かず、快楽だけが追求されているから、毎日食べられる。

あえて食パンだけは普通に作っていると丸山シェフはいう。
それでも特別だと感じさせるのが職人として非凡。
食事パンの充実は、「粉の味」という店名にふさわしい。(池田浩明)

グード・ファリーヌ
京王井の頭線 久我山駅
03-3331-7483
9:00〜19:00
火曜・第3水休

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