パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
成城ベーカリー(成城学園前)
92軒目(東京の200軒を巡る冒険)

この店は町の中で透き通ってしまうほど個性を消している。
「駅前のパン屋」といえば通じてしまうような普通さ。
そのことはパンにおいてなにが大事なのかという優先順位を考えさせる。
日々の生活があり、食卓があり、そこにパンが置かれる。
大切なのは人間で、パンは従。
パンを食べるのであって、店の名を食べるわけではない。
ラ・クロシェットの鈴木暁シェフが成城ベーカリーを目標にしているといっていた理由がわかった。

パン・ド・ミpart2(221円/ハーフ)
甘い発酵の香り、乳製品の香りがごくかすかに。
しっかりと中身を包み込んだ厚めで引き締まった皮。
甘いと思わせてリーン、リーンと思わせて甘い。
やわらかさがあり、かつ張りがあるので、噛みごたえも楽しい。
口溶けがスムーズで、かつ味わいが豊か。
ことさらに誇るでもない普通の食パンの中に職人の仕事が秘められている。

社長の樋口勝吾さんはいう。
「パン・ド・ミpart2は湯種製法で作っています。
小麦粉を先にお湯でこねると、でんぷんが変化してやさしい甘みになる」

1929年、昭和4年の創業、80年以上つづく老舗。
有名なのが桜あんぱん(105円)。
成城のイメージその通りの上品なあんこに、中からでてくる塩漬け桜の花がでてくるサプライズが実に風流。
演出もさることながら、パン生地がすばらしい。
表面の香ばしさとあんこのマリアージュがすばらしい。
さくっとして、すぐ溶けて、あんこの前に決してでない。
あんこの甘さが弱まったとき、はじめてじわじわと小麦自体の甘さが発揮しはじめ、第2の波を作り出す。
あんこの余計な甘さを吸収しながら、甘さに甘さを重ねてサポートもする、生地の務めを完璧に果たす。

「食パンやバゲット、バタールのような食事パンはパン自体を食べるパンで、あんぱんやクリームパンは甘いものと合わさった上でのパンです。
どちらにしても、パンの味はパン生地自体がおいしくなきゃならない。
原点はパン生地をきちっと作ること」

パン生地が原点とは、印象の強いパン生地を作ることとは異なる。
成城ベーカリーのあんぱんで、パン生地はあんこを引き立てるために影に隠れようとする。
それもパンの大事な仕事である。

以前、桜あんぱんを取材したとき、樋口さんは「基本が大事」というただひとつのことを繰り返した。
基本さえできていれば、おいしさはあとからついてくると。
工場と店舗は別だったものを、平成になって、店舗と一体の、ガラス張りの厨房を作った。
成城ベーカリーはそこでなにを見せようとしているのか。

「基本って大事なんですけど、一言でいえば、パンをよく見てあげるということ。
よく見ると、生地の肌で、パンの状態がわかるんですよ。
自分が今日は暑いなと思ったら、水を控えてあげたり、自分の肌で感じた感覚をパンに伝えていくと、パンも応えてくれるというか、いいものができあがってきます。
適当に時間がきたからといって次の工程に移ると、それなりのものしかできません。
冷え込んじゃってるときは『10分待とうか』、発酵すすんじゃってるときは『今日はもうやろうか』。
発酵や熟成に時間を合わせてあげる」

「暑くてきつい窯前を若い子がやったりしますけど、実はいちばん大切です。
発酵して、成形して、大事に育てられてきたものを受け継いでいるわけだから、いちばんいいタイミングで焼くって気持ちで焼いているのと、もういいかと思って焼くのではできあがりがちがいます。
ひとりで焼くのではないですから、チームワークがよくないと絶対にできません。
できあがってから、硬いんじゃないの、やわらかいんじゃないの、とみんなで話し合って、他の人に伝わらないと。
成形までうまくできてても、焼くときに適当になって、ベストより早く焼けば、風味も薄くなります。
発酵までよくても、成形で悪くなることもありますし。
基本に忠実に、という部分では、原点はそこなんじゃないですか」

おこりん棒(189円)。
ポピュラーなドーナツ生地のカレーパンではなく、プレーンな生地のカレーパンが食べたかった。
インパクトの強いカレーというフィリングにフランスパン生地が合わないはずがあるだろうか。
カレーの味がやさしい。
どっぷりとカレーの味ばかりで満たしてしまうのではなく、パンの同伴者という位置づけ。
輪切りにして家族で分け合えるこの形もいい。
しかし、特筆すべきは、この店のフランスパン生地のおいしさ。
昔ながらの作り方のパンだけに許された透明感。
味は淡いのに口の中に満ちる空気は充実している。
当たりはやわらかく食べやすいけれど、噛みちぎろうとしてなかなか噛みちぎれない、ハードパンならではの部分はきちんとある。

「フランスパンはストレート製法(基本の作り方)で作っています。
低温長時間発酵は流行っていますし、たくさん穴の空いたのもおいしいんですけど、うちは軽めで食べやすい。
大阪の奥本製粉の粉を使っています。。
ストレート法でリスドオル(フランスパン専用粉)やナポレオン(同)使うところが多いと思いますが、それだと同じ味があるということで、ブロートハイムのフランスパンにはかなわない。
あまり使われていないような小麦粉で、味を変えてやっています」

成城学園の食卓に低温長時間発酵のバゲットはなぜか不似合いな気がする。
クラシックなフランスパンがそこには合っている。
移ろうものより、しかるべきものがしかるべき場所に、いつもあることも大切だと思う。(池田浩明)


成城ベーカリー(成城パン)
小田急線 成城学園前駅
03-3482-0150
7:00〜19:00
日曜休み

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はじめてコメントします。
パンラボ愛読者です。
おこりん棒が出ていて嬉しかったので!
あまえん棒は召し上がりましたか?

7時からあいてる成城ベーカリーで、
早朝ウォーキングの帰り道に、
賞味期限間近の超安価パンを買って、
朝食で食べるのが最高に幸せです。
from. すぎはら | 2011/08/14 21:09 |
すぎはら様
コメントありがとうございます。
あまえん棒は残念ながら食べられませんでした。
やっぱり2本セットじゃないとだめでしょうか?
ネーミングはお茶目ですが、パン生地はまじめにおいしいです。
近所にあったらかなりうれしいパン屋さんですね。
from. 池田浩明 | 2011/08/15 21:04 |
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