パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ドンナ(幕張本郷)
94軒目(東京の200軒を巡る冒険)

ドンナママの食パン(250円)の幸福な甘さと舌触りは一度食べたときからずっと記憶に残っていた。
小麦の匂いをたしかに香らせ、手に取ると中身はかすかにふるえる。
なめらかで、もちもちで、やわらかく、歯を包みこんでしまう。
みずみずしく、味わいは純白。
実に幸福な小麦の甘さが口いっぱいに満ち、飲みこむとき喉の奥でひときわ甘く輝く。

ドンナママこと吉野俊江さんがドンナを開店したのは18年前。
女性によるパン屋の草分けといえる。
原点となったドンナ食パンは祈りをこめて作られた。
アトピーだった長男を苦しみから救いだそうとして。
「ハイカラなパンは焼けないんですが、無添加で体にやさしいパンを、子供からお年寄りまでみんなによろこんで食べてもらえたらいいなと。
うちの食パンは60〜70%が老麺(前日以前に作られ、熟成された生地)。
1週間後にトーストして食べても味が落ちない。
こんな超めんどくさい作り方してるパン屋、私の知ってる限り2軒しかありませんって、材料会社の人にいわれたことがあります。
愛で焼いてます」

開店のきっかけは、41歳で離婚して、2人の子供を女手で育てなくてはならなくなったことにはじまる。
「夫は商社マンで、それまでごく普通の生活してたから、子供に貧乏さすわけにいかないじゃん。
それには私が働くしかない。
でも水商売ってわけにいかないじゃん。
朝5時から夜の7時8時までずっとパン屋さんやって。
1年で10キロやせて、40キロ切ってた。
参観日もいけないし、子供にもあんまりかまってやれなかった。
だから負い目を感じてましたね。
パン屋さんってみんなそうじゃないかな。
最初は9坪のちっちゃいお店ではじめたんですよ。
3人入ればいっぱい。
だからいつも外で人が待ってるから、流行ってると思われてたんだけど、ちがうんだよね(笑)」

「その頃、毎日パンを買いにきてくれてたおじいちゃんがいました。
64、5だったと思うんですけど、上品な方で。
くるたびにいろんな世間話をしてた。
子供何人? とか。
そのとき、ほんのちょこっとですよ、『5丁目に競売物件でてるんですよ、私ほしいけど、買えないな』という話をしました。
新聞に競売物件ってでてるでしょ。
あれ見るの、私、好きだったから。
そしたら、そのおじいちゃん、『わかりました、僕の事務所にきてください』って。
その頃、私もやせてたし、若かったから(笑)、『あぶないよね』ってでいいながら、事務所にいきました」

「そしたら、この辺に銀行4つあるんですけど、ぜんぶの支店長を集めてた。
『この人にお金貸してやってくれ』
ってその人はいうんだけど、みんなはやだっていいますよね。
『僕がこんなに頼んでも貸してくれないんなら、帰ってくれ』
って怒るんです。
どうしようと思ってたら、さびた大きい金庫から300万だして、
『これを銀行に入れてきなさい』
いわれた通りにすると、それから1ヶ月半でお金を借りることができた。
あれよあれよあれよというまに、おじいちゃんが手続きして、保証人になってくれて。
名前も知らない人ですよ」

「私、お礼いいにいって、
『なにもお返しできないんですけど、どうしたらいいんですか』って訊きました。
そしたら、おじいさん、
『僕がどんなに朝早く店の前を通っても、どんなに夜遅くても、いつも働いている。
僕は応援したい。
がんばりなさい』
それで、この店が買えたんです」

天然酵母のイギリスパン(350円)。
やわらかく、なめらかな中身。
押し込んでいく歯を包みこみ、やさしくしなやかに跳ね返す。
皮はコーヒーのように香ばしく、アルコールにようなすっとする香りは食べながらずっと鼻のあたりをふわふわとまとわりついて、心地いい。
甘さというほどの甘さではない、押しつけがましくない味わい。
それは透明で、そうであるがゆえにあらゆる味わいを映しだすように感じられるほど、深みがある。

クリームパン(155円)。
卵味が超濃厚なザ・クリームパンという趣き。
素朴で、ナチュラル、お母さんの手作りの味わい。
クリームの量も惜しみなく、これ以上は入れられないというほど、たっぷり。
甘さは控えめで、後味がさわやか、けれど卵とミルクのリッチな風味だけは、ずっと口の中に残る。
焼き色もしっかりと香ばしく焼き上げられたパン生地がクリームとよく合う。
歯切れ、口溶けいい生地は、クリームを引き立てる。

このクリームパンより、技術的にすぐれたものは、たくさんあるのかもしれない。
しかし、技術だけで計れない、はっきりとは表現しがたい、プラスαのあたたかさがすごい。
ドンナママはいう。
「パンはハートだよね」と。(池田浩明)

JR総武線/京成千葉線 幕張本郷駅
043-274-6618
8:00〜18:00
日曜・月曜休み

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かしわで


セレンデピュティ。


40を越えると、
っていうか人生の折り返しをとうに越えると、
響く話ってあるよね。

エピソードだけでなく、キャラクターに包み込まれそうだよ。
from. かしわで | 2011/08/23 22:19 |
こんにちは・・DONNNAママです。コメントありがとうございます。仰る通りキャラパン屋といわれてます。本人は美貌、と思ってるんですが・・あははは・・・どうぞいちどが来店ください。おまちしてます。その時はかしわでで〜す。と仰ってください。オマケしちゃいます。
from. donnamama | 2011/09/21 12:00 |
かしわでで〜す。


おまけうれぴーで〜す。


そういうキャラじゃないけどキャラりまーす。



from. かしわで | 2011/09/21 18:06 |
DONNAママ様
先日は取材にご協力いただきありがとうございました。
お客さんみんなと仲がよかったり、通学途中の小学生にトイレを貸してあげたり。
この町になくてはならないパン屋さんなのだと思いました。
いつまでもがんばってください。
from. 池田浩明 | 2011/09/27 15:39 |
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