パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ベーカリー パンプキン(雑司ヶ谷)
95軒目(東京の200軒を巡る冒険)

池袋の駅前からつづいていく東通りは不思議な商店街である。
わずか数百メートルで東京の喧噪はやみ、山手線の内側ではないようなひなびた雰囲気の町へいつのまにか誘う。
そこが雑司ヶ谷であって、都電荒川線の踏切の音が聞こえるほど近づいたところに、レンガ作りのパン屋がある。

飾りのない昔のパン屋の面影を残している。
近くに住んでいる知人のパン職人に教えてもらったのでなければ、パンを買おうとは思わなかったかもしれない。
この店に売っているもの、ロッテや明治のお菓子、コーラなどの飲料、弁当。
自分で作ったパンだけを売っていなくては、まじめなパン屋とはいえない。
そうした思い込みにとらわれていたが、まちがいだった。
パンは食べてみなくては絶対にわからない。

店主の赤木健二さんは3代目。
「もともとは川越屋という和菓子屋さんでした。
おじいさんがはじめて、それからずっとやってるんですけど、父の代にフジパンを売ってました。
袋入りのではなくて、工場からそのままきたパンを並べて売る商売でした。
それが、30年ぐらい前に、パンを作ることって自分でもできるんじゃないかと思って、スクラッチ(粉からパンを焼きあげて売る店)をはじめました。
私が代わったのは20年前。
ちょうどバブルの頃で、お客さんがいっぱいくるし、よろこぶお客さんの顔が目の前で見えるし、こんないい商売ないと思って(笑)。
私は専門学校をでて、そこの先生にいろんな店を紹介してもらって教えていただいたり、橋本さんというコンサルタントになられた先生に教えてもらったりして、あとは独学です。
父親も独学。
本しか読んでない。
それでパン屋やっちゃったのもすごい」

木製の台の上に焼き上がったばかりの食パンを並べて粗熱をとっていた。
「もう40年になりますかね。
木って匂いがつくでしょ。
それがないんです。
もう古いものだから安心というか。
古いってだけで安心するのもおかしいんですけど(笑)」

道具がさりげなく歴史を物語る。
仕事の習慣には無意識の慣性が働く。
強いこだわりというほどではないが、変えるまでもない。
しかと目に見えるわけではない細部が、実はパンの味を決めているのかもしれない。
父からパンを習ったわけではないという赤木さんは、身近に見ていた後ろ姿や、店舗や道具によって、老舗の力を受け取っているのかもしれない。

「昔はコンビニも弁当屋もなかったし、お客さんがいっぱいきました。
今はそういうの次々とできて、次々とやめていく。
残っていくのはたいへん。
うちは姉と私の家族だけでやってるんで、成り立っています。」

周辺にはオフィスが多く、主な常連客は会社員。
コンビニ、弁当屋との競争に勝たなくてはならない。
「飽きさせないことが大事なのかなと思います。
お客さんは、サラリーマンや、OLさんがほとんどで、毎日くる人が多い。
毎日見てあきちゃうとこなくなるので、商品のサイクルを短くするしかありません。
1ヶ月でなくなるものが多いです。
アンテナを張って新商品の情報を得るようにしています。
お客さんから、どんなに『あれまたやってほしい』といわれても、最低半年は間を置きます。
あるとわかっていて、それを目当てにきちゃうとつまんない。
忘れてもらって、リセットした頃に『ああ、あった!』と。
楽しいなという感覚、店にきて楽しいのを探すという感覚が大事じゃないかと思います」

フレンチトースト メープルシロップ(120円)。
4枚切り食パンで作った分厚いフレンチトーストが、歯で少し触れただけで噛み切れる。
メープルの香ばしさ、そして表面の糖分がカラメルのように焼けた香ばしさ。
そのかりかりと、中身のくにゃくにゃにコントラストが強いのは、この厚さならでは。
シロップの甘さから、食パンの淡い甘さへと、時間とともに甘さが順送りに移ろっていく。
「たしか食パンの4枚切りが余ったとき、これを利用して作ろうと思ったのがきっかけじゃないかな。
食パンを食べてほしいと思って作っています」

袋菓子や弁当とともにパンが並ぶ、昔の雰囲気のこの店には、食パンやあんぱんが似合う。
赤木さんが大切にしているのもそうしたパンだ。
「ポンパドールの袋を持って、あんぱんだけ買いにくるお客さんがいました。
わざわざそれだけのためにきてくれたのありがたいと思いました。
ハード系は他のお店にまかせて、うちは菓子パン、サンドイッチ、食パン。
食パンはよそのお店の方にも、『おまえんとこは食パンうまいんだよなー』といわれます。
このへんのお客さんに、硬いパンは合わない」

BIGかぼちゃパン(400円)。
ご当地パン祭りに東京代表として出場、の声も上がったほどの、雑司ヶ谷の名物パン。
かぼちゃペーストを練り込んだ生地はまるでウコンのようなスモーキーな甘さとほろ苦さが同居し、東洋風ブリオッシュとでも呼びたくなるほど、リッチな香ばしさがある。
かぼちゃあんはもっさりとして、舌にまとわっては、やさしく消えていく。
かぼちゃの種がアクセントとしてちょうどいい。
巻貝のような渦巻型の生地が手でちぎるとするするとほどけていく。
やわらかく、なめらかで、かつかぼちゃのせいなのか繊維状にもなっているので、脱脂綿にも似た独特のふわふわ感。

七福神あんぱん(450円)。
どんなあんこがでてくるか楽しい。
うぐいすあん、塩あん、紫いも、かぼちゃあん、こしあん、白あん、桜あんぱんの7種類。
雑司ヶ谷七福神にちなんで、店でだしているさまざまな種類のあんぱんをこぶりに作って、ひと袋にパッケージ。
生地が秀逸。
やわらかく、ふわふわで、なめらか、そしてちょっと引きがある。
唾液を吸って丸くなり、そのうちねっとりしてきて、あんこと同じ食感になって、響きあう。

昔ながらのパンを大事にしながら、コンビニの新製品攻勢にも正面から勝負を挑む、パンプキンでなくては、この企画はできない。
今度は都電に乗って行ってみたい。(池田浩明)

東京メトロ・都電荒川線 雑司ヶ谷駅/JR山手線 池袋駅
03-3971-7511
8:00〜20:00

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200(東京メトロ副都心線) comments(7) trackbacks(0)
Comment








池袋でたまに買い物をするので、今度行ってみます。
色々なパンがあって買い込んでしまいそうです。
from. nobu | 2011/08/22 01:02 |
コメントありがとうございます。
ジュンク堂のところから歩いていくと、ちょっとした旅のような気分が味わえると思います。
from. 池田浩明 | 2011/08/23 15:41 |
かしわで


ムッシュが写真採用しなかったパンにむしろ惹かれるあたくしでございます。

内観から垣間見える2段目左側のあたりは自分の居場所ではないか?
気になる!
from. かしわで | 2011/08/23 22:00 |
かしわで様
惣菜パンですか?
確かにおいしそうでした。
この店の主力商品だそうです。
from. 池田浩明 | 2011/08/24 09:56 |
BIGかぼちゃパン、私が以前食べた時は、ひまわりの種でなくパンプキンシードでした。
変わったのでしょうか?
from. 通りすがり | 2011/09/23 23:50 |
通りすがり様
おっしゃる通り、かぼちゃの種でした。
本文を訂正いたしました。
ご指摘ありがとうございました。
from. 池田浩明 | 2011/09/27 14:58 |
すごく美味しいそうです!!!
今度行ってみたいと思います。
from. chs | 2017/05/17 14:02 |
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