パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
白楽べーグル(白楽)
101軒目(東京の200軒を巡る冒険)

昭和の面影が残る古めかしい商店街が住宅街に変わる頃、トタン屋根のベーグル屋は現れた。
1軒だけモダンな店舗で周囲から浮き上がることもない。
まるで駅から見えない引力で引っ張られるかのように、静かな場所へたどりつく。

東京の白山で白山べーグルを営んでいたオーナーシェフの川崎太一さんは、以前から好きだった白楽で、奥さんとともにこの店を開いた。

「白山べーグルのときは勢いでやってました。
ここでも同じようにできると思ってたら、設備がちがうだけでも同じものができなくなって。
べーグルは食感だと思っていたのですが、その微妙なちがいを探して、1年間ぐらい試行錯誤しました。
それが楽しくて。
ミキシング変えたり、捏ねあげ温度変えたり。
プレーン作るだけでも切りがないので、それしか作りませんでした」

川崎さんが1年かけて探し当てた食感とはどういうものか。
それは生理感覚なのだと私は思っている。
プレーンべーグル(150円)は、上あごの重さによって、重力に従い、自分から噛もうとしなくても歯切れていく。
あるいは、自分から急いで噛もうとしなくても、ゆっくりと自然にまかせて食べるときにいちばんおいしく感じられるべーグルだ。
まるでミシン目に沿って切手を切り取るときのように、ぷちぷちと勝手に気泡からちぎれていく。
ミシン目が快感であるように、ゆっくりとした気持ちで自然にゆだねるからこそ、気づく快楽。

そのとき、粉の甘さと感覚との通路も開く。
この甘さは舌よりもむしろ鼻に働く。
食べる前のふわりと甘い香りでスムーズに食べることへと気持ちを導く。
決して小麦も、フィリングも損なわない甘さ。
おだやかに満ち、軽い味わいが想像を超えてふくらんでいき、舌でも、口の上側でもそれは感じられる。

「きび砂糖は入れてますが、ほとんど糖分は入れません。
粉は国産小麦。
パネトーネマザーという生イーストを使っています。
食感が気に入って。
自分の思ったものと合っている。
いろんな種類の生地を作ることに興味はなくて。
同じものを作ったつもりでも、多少ちがう。
それを楽しんでいます。
絶対にこういうべーグルを作ろう、ということはなくて。
例えば、年によって粉のできがちがったら、それを活かす」

基本生地はわずか1種類。
だがそれは退屈さを意味しない。
絞り込むからこそ、微妙なちがいの豊かさが見えてくる。
作り手にとっても、食べる側にとっても。

「べーグルはいかに食感を出せるかだと思っています。
同じ生地でも、成形の仕方によって食感は変わってくる。
具がたくさん入ると、生地の扱いが変わり、自然と食感が変わる。
シンプルな生地だったら、ねじりを入れて成形したり。
ねじらずにそのままふんわりフィリングを包んだほうがいいものもあるし、フィリングを入れてもねじりを入れて、しっかりした食感にするものもあります。
具材はなるべく生地に混ぜ込まないようにして、生地の食感を活かす」

マカデミアン&ペッパー(210円)
マカダミアナッツと黒胡椒のマリアージュ。
挽きたての黒胡椒のとげとげしさ、塩の、味わいを励ます力と滲ませる力が降り掛ったとたん、粒がかかった地点からどんどん、マカダミアがメゾフォルテで増幅していく。
生地がおだやかであるゆえに、砕け散るマカダミアの破片と、塩によって、小麦の味わいもフィリングといっしょに持ち上がっていく。
ゆるく包んで、もちもちしすぎないべーグル生地と、マカダミアの硬さとのコントラストもおもしろい。
これだけ刺激のある組み合わせが、なおまったり感として感じられるのはこの食感のおかげかもしれない。

タマゴ&ハチミツ(450円)
卵サラダの魅力である、あのほのかな甘さの幸福。
はちみつが加わることによって、幸福感も5割増といった趣き。
甘さの中にほんの少し不思議な色合いがあるのは、オリーブの粒の酸味や風味が反響しているからだった。
丁寧に作られた卵サラダは、甘さが軽々と舞い上がる。
このべーグルの味わいはそれを決して邪魔しない。
むしろ、べーグル自体の甘さと響きあいながらいっしょに飛翔する。

白山べーグルのテーブルでサンドイッチができあがるのを待つ、その時間も、まるでべーグルを噛む時間と同じような、ゆっくりとした心地よさがある。
あるいは、持ち帰ることも、日常の時間にべーグル的時間を導入することなのかもしれない。
近くにある神奈川大学の学生が行きがけに買っていく。
授業やバイトの合間にべーグルを昼食にとる、それが一日の楽しみになっているにちがいない。

「近辺のみなさんに食べていただけるべーグルになればいいな。
わざわざきて買ってくれるお客さんもいるんですが、そういう店じゃない。
意識して個性をだそうとは思っていませんし」

「自分は趣味が渋めなので、白楽という渋めの町が合っている」
と川崎さんがいうように、時間の降り積もったレトロなこの町にはゆっくりと歩いて発見できるものがいろいろあるのだろう。
白楽べーグルでもここの豆を使っている。
「このコーヒーを出したくて、白楽べーグルをやってるぐらい」
と、大手コーヒー会社の元社員である川崎さんがいうように、めっぽうおいしかった。
今度は白楽の散歩もコミで、白楽べーグルにわざわざ行ってみたい。



東急東横線 白楽駅
045-628-9771
10:00〜19:00
水曜木曜休み

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