パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ロンシェール(洗足)
102軒目(東京の200軒を巡る冒険)

洗足駅前にはパンの塔がそびえ立っている。
店から入って、レジの横を抜け、裏にある階段をぐるぐると上っていく。
階上には窯の並んだ調理場があり、さらにその上には、老舗の歴史が詰まった社長室があった。
階段を上ると、時代までさかのぼっていた、というように。

ロンシェールは、昭和7年に「洗足パン」として創業した。
「営業御案内」と書かれた小冊子が残っている。

「御食事用パンの部」には「フランスパン(淡白味)」という文字が見える。
洋菓子店も併設したこのハイカラなパン屋には当時珍しかったフランスパンがあったのだ。

上原晃道社長はいう。
「いまはファンデュという名前で売っているのですが、当時はフランスパンとかげんこつパンとか呼ばれていました。
黒柳徹子さんのお父さんの愛用のパンでした。
バイオリニストをやられていたハイカラな方で、この近くにお住まいだったのですが、いつもお届けしていました」

ファンデュ(130円)。
元祖フランスパンは、いまのハード系とコッペパンの中間のような硬さだった。
皮はぱりっとしていながら柔軟で、しっとりとした中身は白パンのような焼き切らない感じで、淡い小麦の味がまろやかに押し寄せる。
それは決して悪いものではなく、むしろ新しく、やさしい。
フランスパンが一般的でなかった時代の記憶をあまりもたない私にとってさえ、発せられる香りにクラシカルな感じを嗅ぐのはなぜなのだろう。

いまなお昭和初期と同じレシピで作られる、パンの天然記念物。
上原社長は東京都パン商工協同組合の副理事長として、「ご当地パンまつり」の主催者側の立場にある。
地元で愛され、人びとの食生活を形作り、長い年月を越えてきたこのようなパンこそ、ご当地パンまつりの会場で出会いたいと思った。

父の急逝によって早大商学部を卒業後、すぐに跡を継いだ。
大学で学んだ経営学を活かして会社は急成長を遂げ、アメリカ・サンディエゴにも出店した。
「冒険心おう盛で、若さで無茶をしてました。
お店は繁盛していました。
日本の会社がたくさんある町で、日本人や日系人がたくさんいました。
あんぱんなんかはアメリカではとてもめずらしいので、なつかしいといって、日本人の方にはよろこんでいただきました。
5年間で、撤退しました。
職人を往復させたり、視察にいく費用が馬鹿にならなかった」

最盛期は渋谷に出店するなど、10店舗を数えた。
「工場で作って1日2回、3回と配送しましたが、やっぱり焼きたてを提供するのがいちばん。
大手と同じだとうまくいかない。
支店をたたんで、この店1カ所になってからは、おかげさまで順調にご支持をいただいています。
なるべく焼きたてのものを食べていただけるように、1日何回も焼くようにしております」

拡大戦略の失敗ははからずも、焼きたてに勝るものはないというパン屋の原点を教えてくれたのだった。
窯のぬくもりが感じられる活気ある場所に人は集まるということも。

洗足パンからロンシェールへと名前は変わったが、根本的な部分は変えずにいる。
「昔からのクリームパン、あんぱんなどは特に大事にしています。
時代に合わせて甘さは抑えていますが、基本的には昔のまま。
長い間やってますんで。
父が昔の資料を作ってましたので、それを活用しながら作っています」

クリームパン(130円)。
トングでつかもうとすると表面に傷がつくほどにやわらかい。
ふにゃふにゃと自由自在に動き、みずみずしい菓子パン生地。
皮の香ばしさとクリームの甘さが響きあう。
バニラビーンズが入らない昔気質のカスタード。
むずかしくない単純明快な甘さが気持ちよく広がる。
戦前からの超ロングセラー。

「クリームパンには昔からずっと力を入れています。
特に自家製のカスタードにはこだわってきました。
ポテトサラダや卵など、中身のフィリングも自家製の割合を減らさないよう努力しています」

コッペパン(ダブル)(160円)。
トングで取りあげた瞬間、軽やかさに裏切られる。
注文してから好きなスプレッドを塗ってくれるスタイル。
ダブル、つまり2種類のスプレッド、あんことバターを塗って160円は安い。
このコッペパンはふわふわすぎないで、もくもくとしている。
生地は甘くなく、クラシックな小麦の味わいが感じられる。
きらびやかすぎず、しつこさのないあんこ味、バターの味が、なつかしめのコッペパンとともに安心感を与える。(池田浩明)


東急目黒線 洗足駅
03-3781-5292

7:30〜19:00
第3日曜休み

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