パンの研究所「パンラボ」。
painlabo.com
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ウッドペッカー(桜上水)
39軒目

10年近く前、この店のそばを何度も通り過ぎていたが、一度も中へ入ることはなかった。
私は自分の不明を恥じるけれど、それでよかったのかもしれないとも思う。
自分なりにいろいろなパンを食べてきたからなのか、それとも時代のせいなのか。
いまやっとウッドペッカーの本当の価値が見えるようになってきた。

おいしさとは人から与えられるものなのだろうか。
あらかじめ用意されたキャッチフレーズを見つけだすことが食べることなのだろうか。
そうではなくて、本物の味とは、まだ誰の色もついてない無色なものの中から、自分でおいしさを見つけだすことではないのか。

小さなカンパーニュ(200円)を食べてそう考えた。
口にした瞬間はなにも言葉が浮かばなかった。
しっとり、もちもちという感触の快さはあるけれど、味わいについてはなにもわからない。
しばらく噛んでいくうちに、このパンと、自分の感性とのチューニングが合ってくる。
レーズンにも似た芳香が満ちはじめ、やがてそれはそこはかとない甘さへと変わる。
他にも言葉にならないいくつかの風味がほのかに漂っている。
このパンは押しつけない。
だから、前を素通りしてしまうかもしれない。
おいしさは食べる人が自分で発見しなければならないし、食べる人によって感想は変わってくるだろう。

天然酵母とイーストのちがいはなにか?
そう聞かれるとき、後藤雄一店長はこう答える。
「天然酵母っていうのは、人間でいったら、小学校の1学年なんだよ。
体操が好きなのもいれば、文学が好きなのも、勉強嫌いもいる。
イーストはその中から体操の得意なのだけ集めたようなもの。
天然酵母にはいろんなの入ってるから。
天然酵母は、わけわからない、まろやかな、不思議な味がある」

ウッドペッカーは創業して34年。
20数年前、ある人のすすめで天然酵母のパンを知ることとなる。
海のものとも山のものともわからない天然酵母パンを最初に作ったときの感想とは、
「かっちかち。
これ、パンじゃねーよ」

当時のパン屋の常識とはこういうものだった。
「添加物とかマーガリンとかたいてい入っていて、焼きたてで油と卵さえ入っていればなんでも売れた。
大手メーカーが開く『パンの講習会』というのがあって、パン屋はそこで習ってきた通りにパンを作る。
小麦粉と添加物をセットで売りつけられて、
『この添加物を使うと、こういうパンができます』っていわれる」

添加物を使わなければパンはできないと思われていた当時、オーブンから、焼き上がった天然酵母パンが出てくる光景は驚きだった。
「なんにもいらないんですよ。
小麦粉と塩と少しの砂糖と水だけ。
小麦を窯に入れたらパンが出てくる。
不思議だなーと思う。
そっからのめり込んだ。
考えてみれば、大昔はイーストなんかなかったじゃねーかよ。
工夫すれば、天然酵母でやわらかいパンだってできる。
(試作を)毎日、やったです」

情報がまったくない当時、天然酵母のパンを作るということは、地図を持たずに荒れ野をひとりで切り開くようなものだっただろう。
以来、暗中模索を繰り返しながら、ずっとつないできた種でパンを焼く。
「20何年つづいてきてる。
うまい酵母だなと思いますよ。
悪いのぜんぶ蹴散らしている。
天然酵母っていちばん簡単。
ほっとけばいいんだから」

簡単とはいいながら、毎朝4時に起きて、7〜8時間の発酵を取り、オーブンから天然酵母パンがでてくるのは昼の12時。
夜まで働きつづける。
それを20数年間繰り返さなければ現在の味には至らない。
天然酵母のパンを食べることとは、そうした目に見えない無数の出来事の継起を感じ取ることなのだろう。

奇妙な光景を見た。
オーブンの中から後藤店長が取り出した鉄板の上には卵の殻やじゃがいもの皮などが載っていた。
「もう24、5年前から生ゴミを出してない。
すべてコンポスト(家庭で堆肥を作る容れ物)に入れて、小さな庭に鋤きこんでいます」
生ゴミが分解しやすくなるよう、オーブンの余熱で乾燥させているのだった。
ただでさえ忙しい、パン作りの合間に。
頭の下がる思いがした。

「人って死ぬんですよ。
いまは火葬場で焼かれて灰になるけど、火葬がなかった時代は、死んだら埋められて、土になる。
体がぐちゃぐちゃになって、そこに種が落ちて、植物が生える。
人間も死んだら土になるから、土から生えたものがおいしく食べられるんだ。
化学物質はおいしく食べられない。
酵母菌は自分が生きようとした、その結果として、アルコールと炭酸ガスを作る。
それがパンを膨らませ、パンの味になる。
人間は、自然界で起こる生命の循環によってできた副産物を与えてもらってるだけ。
硬いとかやわらかいとか求めることがおこがましい」

誤解のないようにあえて付け加えると、後藤店長はウッドペッカーのパンが硬いといっているのではない。
哲学を語っているのである。
哲学とは高邁なことを言葉の上だけでいうことではない。
実際にそのように生きるということだ。

後藤雄一店長、またの名を「行革パン屋」。
都議会議員を2期8年務め、その間、行政の無駄を徹底的にあぶり出した。
いまでこそ普通に使われるようになった「官官接待」(公務員が公務員を公費で接待すること)も最初に摘発したのは後藤議員だったし、選挙の公費負担(ガソリン・選挙カー)の見直しの火付け役ともなった。
他の議員を尾行までして無駄遣いの証拠を握り、200件もの裁判を弁護士抜きで戦った。
「蓮舫がやってる『仕分け』なんて、僕がぜんぶ(東京都のレベルでは)直している」

天然酵母パン屋の顔と、正義を追求する都議会議員の顔。
まったく別々に見える2つの顔は、「自然」というキーワードによってひとつに重なる。
まじめに働いて収めた税金がまっとうに使われる。
自然に作られたまっとうな食べ物を食べて生きていく。
ごく単純な「自然」を求めているにすぎない。

パン屋を目指す若者にぜひ伝えたいことがあるという。
「パン屋なんか窯とミキサーとフリーザーさえあればできる。
あとはなんにもいらない。
おいしいパンができれば客なんかいくらでもくる。
一生懸命朝から晩まで働いてれば、使う暇ないから金なんかいらない。
あとはぜんぶ自分で作ればいい。
この棚は自分で作った。
この鉄棒、建築現場で使うやつ、1本10円ですよ」

「若い子にいいたい。
金をおっかけるな。
おっかけなければあとからついてくる。
自然から学ばなきゃ、って僕は思う。
自然から教わってれば人の道だけは踏み外さない」
(池田浩明)

ウッドペッカー
京王線 桜上水駅
03-3302-8291
7:30〜20:00
日祝休

#039


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パンラボする人びと8 堀道広さん


堀道広さん
漫画家・うるし職人。

今年3月に入ってから不定期的にパンの漫画を描いていただいている。

パンの漫画1『パンと金持ち』
パンの漫画2『クロワッサン』
パンの漫画3『朝にパン』

パンがお好きだということを知り、お願いしてみたら快諾してくださった。
今後も続いていく予定ですので、お楽しみに。【D】


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(詳しいことは堀さんのブログをチェーック!!)

パンラボする人びと comments(0) trackbacks(0)
イエンセン(代々木八幡)
第38軒目

デニッシュにはもちろん、とてもおいしいと思えるものもあれば、それほどでもないと思うものもある。
しかしどれもが、これがデニッシュである、という常識の幅の中に収まっていることに変わりはない。
イエンセンのデニッシュに限ってはそうではない。
なにかが圧倒的にちがう。
そして一度食べると、イエンセン中毒に陥ってしまう。
まるで恋に落ちてしまったかのように、知らず知らずのうちにイエンセンのデニッシュのことを考えている自分に気づく。

それは、私だけではないらしい。
「親愛なる和田さん」
という書き出しではじまる、店内に貼られた1通の手紙。
「あなたのベーカリーが東京に有るという事はまさに、大都市に小さなデンマークを発見したほどの嬉しい驚きでした。
大使館員をはじめ妻と私は昨年中何回となくあなたのパンとペイストリーを頂きましたがデンマークの最高級品に匹敵する素晴らしい味でした。
ベア・グローツ 駐日デンマーク大使」

私が久しぶりにイエンセンを訪れた日も、朝の会議にどうしてもデニッシュが必要だといわれ、デンマーク大使館に朝7時にデニッシュ・ペストリーを納めたと、店主の和田さんは話していた。
「デンマーク人の会議では、テーブルにデニッシュ・ペストリーとコーヒーが置かれていることが当たり前なんです」
イエンセンのデニッシュを食べなければ、会議ができない人たちがいるとは。

30年前、店主の和田さんは本場デンマークでパンの学校を修了し、マイスターになった、「日本ではおそらく唯一」のパン職人である。
日本人がデンマークに留学するのは不可能で、和田さんが製パン学校に入学できたのは奇跡のようなものだった。

和田さんはイエンセンのデニッシュが日本の他の店の味と異なる理由について、バターの量が多いせいではないかという。
デンマークでは、生地に60%以上バターを含んだものしか、デニッシュ(ヴィエナ・ブロート)と呼んではいけない決まりになっている。
本場と同じデニッシュを作るために、和田さんは、この高温多湿な日本で、大量のバターを折り込んで溶け出さない工夫を試行錯誤で編み出し、たいへんな苦労を毎日つづけている。

あるいは、もしかしたらイエンセンが東京にあるということが、イエンセンのデニッシュを非凡なもの足らしめているのかもしれない。
というのは、いまやデンマークでも、添加物や方法の簡略化が幅を利かせ、30年前と同じやり方でデニッシュを作る店が少なくなっている。
日本にずっといて、30年前の方法しか知らない和田さんは、生真面目な性格も手伝い、他の方法では決してデニッシュを作ろうとしないのだ。

和田さんが敬愛するデニッシュの師にピーターゼン先生がいる。
デンマークでパンを教えている彼が、来日したときにイエンセンの看板を見かけたのは、まったくの偶然だったという。
ピーターゼン先生は、イエンセンのデニッシュが本場デンマークのものと変わらないことに驚き、以来毎年クリスマスになると店にやってきて、抜き打ち検査を行うようになった。
いつくるかわからないので、クリスマス頃には、和田さんはいつも緊張して仕事をしていなければいけないが、不合格になったことはない。

「パンは匂いである」
これがピーターゼン先生の持論だそうで、パン屋に入っただけでその店のパンがおいしいかどうかわかるという(大いにうなずける話だ)。
彼はユニークな方法でパンの検査を行う。
自宅の1階に置いたパンを置き、玄関の扉を開けはなして風がパンの香りを運ぶようにして、2階で待ち構えて匂いを嗅ぐというのだ。

ピーターゼン先生はいう。
「イエンセンみたいなパン屋がデンマークにもっとあればいいのに」と。
ユーラシア大陸を横断することなく、デンマークのトップレベルと同じデニッシュを食べられる私たちは、どんなに幸せだろう。

スモースナイル(168円)。
「スモー」はデンマーク語でバターを、「スナイル」は渦巻きを意味する。
この店のデニッシュペストリーの中で、もっとも単純にして、もっとも奥深い。
歯が表面に当たると、ずさりと小さな乾いた音を立て、それからすーっと心地よいしっとり感を伴って、歯が生地の層を噛み破っていく。
このしっとり感が大量のバターによるものだ。
バターは滲みだしつづけ、生地の味わいや、ふわりと香るシナモンと出会い、混ざりあって変化をつづけ、例えようのない愉楽へと導く。
それから中央へと食べ進み、アイシングの甘さに舌が触れた途端、力が抜けるほどの快感に襲われる。

ショコレーゼボロ(215円)。
シュークリームのように中が空洞。
噛むとへなりと押しつぶされる、その軽さが魅力である。
噛み切った底で出会うカスタードと、パン生地から滲みだすバターが、溶けながら混ざりあっていくとともに、おいしさの核融合を起こす。
さらに、しっかりと苦く、しっかりと甘すぎる、手加減のないチョコクリームが、日本人の未体験の快感を生む。
押しつぶされはしても、はっきりとできた層が、口の中で最後まで崩れないでいることも、口溶けの心地よさを倍加している。

スモーケア(395円)。
デニッシュ生地の軽いさくさくと、硬く作った、重たいカスタードのチーズケーキのようなしっとりした噛みごたえとのコントラスト。
カスタードの酸味に呼ばれた唾液が口にあふれるとき、生地から滲みだした大量のバターと合流して、本当の快楽の波がくる。
甘さは強いけれど、きらきらと輝き、透き通っている。

「快感」とかそれに類する言葉が多くなってしまった。
デニッシュの本質とは、体温でとろけるバターが、生地や副素材と口のなかで混ざりあって、刻々と変化していくことにあるのではないだろうか。
変化するもの、滲みいるもの、糸を引くように遠ざかっていくものに、エクスタシーを感じるように私たちの感覚器官はできているようだ。
ウィーンからやってきたパンを自分のものにしてしまったデンマーク人は、バターのエクスタシーに取り憑かれてしまった人たちというべきだろう。(池田浩明)

イエンセン
小田急線 代々木八幡駅/千代田線 代々木公園駅
03-3465-7843
6:50〜19:00(土曜は16:00まで)
日曜祝日休み

#038


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パンシェルジュ検定を受けてみる(ゴクリ…)

  パンシェルジュ検定というものを受けてみることにした。

自分のようなニワカ者には大変勉強になる内容。


こっそり受けて、合格した時だけ「んあっ、当然っしょ」みたいな顔して

報告しそうな気がしたので、あえて日記で宣言して逃げ道を断つ作戦にします(超鬱屈)。

結果報告が遅いぞ…(ニヤ)と感じた方は

Twitterやブログのコメント欄でツッこんでください。


珈琲館のシナモンロール。

スターバックスのイートインよりも細くて使いやすいナイフが好印象。

しっとり度も若干こちらのほうが上か。【D】

 


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(シナモンロール探訪いっくよぉー!!)


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パンとエスプレッソと(表参道)
第37軒目

白に出会いたいがために、この店に通う。
内外装のつやつやした白。
あるいは、味覚に関する先入観を真っ白にリセットしてくれるような、気づきに満ちた新鮮な味わいも、イメージにするならばつやつやした白だと感じる。
モダンアートに通じる、普遍的でシンプルな形も、ギャラリーのようなホワイトキューブの中に置いてこそふさわしい。
それは光を反射して眩しいような、都会的で、ちょっと敷居の高い白だけれど、日常の中に、ときにそのような非日常の色合いに身を浸す時間があってもいい。

例えば、プロヴァンス(300円)も白いパン。
このユニークな形にして食事パンである。
とても奇妙だと思いながら、パンを切った断面を見て気づく。
ドーナツ型は、山形食パンをびよーんと伸ばして両端をくっつけたものなのだと。
バジル・ローズマリー・セージといったハーブが練り込まれているといえば、複雑なパンのように感じるかもしれない。
だが、これも余計なものを取り去って、白に近づけていった、引き算のパンである。
ハーブは味を付け加えているのではなく、単に白いという以上にリーンな、小麦の味わいのうつくしさを引き立てるためにある。

数あるパン屋の中でも特別な一軒として惹きつける魅力が、この店にはある。
製造担当の岩崎さんも、勤める前からこの店によくきていた。
「大好きなお店だったので、応募するときは迷いました。
働いてしまったらいろんなことを教わるから、お客さんのままでいたいと。
でも、思いきって応募していまはよかったと思います」

よそでは味わえないような斬新なパンはどのように生まれるのか。
「(シェフの)桜井さんの個性が反映しているのだと思います。
おいしいものってすごくいっぱいあって、その中でも、ここであえて出すなら、を考えている」

パンとエスプレッソと、の個性とはなにか。
「新しさ…」
そういってから、岩崎さんは言葉に詰まり、じっと考えた。
「新しさ、に近いが、ちがう。
見て、『うわっ』と思えるような。
試作はすごく重ねています。
それで桜井さんのイメージに近づけていきます。
ブリオッシュとか、フランスパンとか、一般的にあるオーソドックスなパンとは別に、新しい、はっとするようなものを作りだそうとしています」

岩崎さんが表現したくてもどかしい思いをしたことを、私なりに言葉にしてみるなら、それは「理性」ではないかと思う。
いたずらに、ただ新しければいいのではない。
いままでなかったけれど、なかったことが不思議になるような、おいしさと普遍性を備えていること。
論理的であり、合理的でなければ、あえて作りだす価値はない。
そうした高いハードルを越えてきた感触が、パンとエスプレッソとのパンにはある。

桜井シェフはいまは厨房に立たず、パンの研究に注力しながら、この店のスタッフを指導している。
「桜井さんにはいつも『丁寧に』といわれています。
それは、自分のタイミングや、自分の都合で作らないで、生地のタイミングで仕事をするようにということだと、私は思っています。
例えば、窯前で、さっき熱いものを置いたところの上に、焼く前の生地を置かないこととか。
ちょっと面倒くさいと思うことに手を抜かない。
窯に入れるタイミングも、許容範囲はあるけれど、ベストの発酵状態で入れられるよう、みんなで心がけています」

「丁寧に」。
これもきっと「新しさ」という言葉だけで表現することを、岩崎さんにためらわせた理由のひとつだろう。
どんなに斬新であっても、心がなければ、おいしいパンはできない。
食べる側も新しさだけに目を奪われず、そこに目を向けていたいと思う。

カカオテ(160円)。
パンとエスプレッソと、といって多くの人が想像するのは、この菓子パン生地かもしれない。
この店の多くのパンに共通する、まったく新しい生地の感触。
小さくくにゅっとして、すっと歯が通り、しゃくしゃくと音を立てる。
ブリオッシュのようなバターのきいた生地だけれど、なにかが新しく、表現しようのないなにかがあるので、それがもどかしく何度も食べたくなる。

とろけていない、ペースト状であるがゆえに、じわりじわりと唾液を滲みこませて、ゆっくりと甘さを滲みださせる。
しかも、ヴァローナのチョコはよりせつなく、より深く舌へ滲み入り、余韻はとても長い。
それが、独特な生地に浸透していく。
新しいものと新しいものが重なって、さらに新しい味覚が生まれる。

チョココロネ(180円)。
ただのチョココロネのように見えて、この店に置かれているかぎり、それで終わるはずはない。
チョコクリームがおいしすぎる。
普通のクリーム同様に甘さからはじまる。
それが喉へ達した途端、エッジの尖った信じられないほどのココアの苦みへと急旋回する。
飲み込むときには、チョコクリームに特有の、のどごしの冷たさに潤わされる。
ぷりぷり感のあるブリオッシュ的な生地は、パンとエスプレッソとが得意とするものだが、甘さを極端に控えて、チョコを受け止めることに徹する。
ここにも、引き算的新しさを潜ませている。(池田浩明)

バリスタのいるカフェを併設。

パンとエスプレッソと
銀座線・半蔵門線・千代田線 表参道駅
03-5410-2040
8:00〜20:00
第2,4月曜休み(祝日の場合、翌火曜休み)

#037


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モレノチェドローニのパイナップルライムジャム

かしわで氏から貰った。


はじめパイナップルゼリーと思い、スプーンをいれようとしたら入口が思いのほか狭かった。

食べて、ゼリーでないことに気付く。

よく見れば重厚感あふれるガラス製容器に入っているし、

ガラス製容器はアシンメトリーなシャレオツ系デザインとなっているし、

パッケージもイラストや書体にこだわりを感じるし、

原材料名の少なさからフレッシュでオーガニックな匂いがぷんぷんするし、

何よりも容器の割に異様に量が少ない。

(余白が多いほどおしゃれに見えるゼエエエ!!)


「これはただならぬジャムではあるまいか」

その狭い入口に指を挿れて中のものを掬って口に入れると、

控えめな甘さとパイナップル&ライムピールのごろごろした様子が良い。

ポイントはパイナップルではなく"フレッシュパイナップル"が使用されているところだろうか。


パンに塗ったらおいしかったけど、何らかの肉料理に添えてもおいしいだろうし、

使い道に迷うなあ。

(上写真:色んな厚みに切ってみようとしてガタガタになった食パン)


以前より薄々気付いていたことですが、

こんな素敵な贈り物をくれるかしわで氏ってもしかして私のこと好きなんじゃないか。【D】



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テコナ ベーグルワークス(代々木八幡)
第36軒目

地下への階段を降りると、ガラスの内側がきらきらしていた。
この店のベーグルはとても華やいでいる。
思わず手に取って触れてみたくなるような愛らしさがある。

パン作りを教えている高橋雅子さんが開いたのは、いちばん得意とするベーグルの店。
自家製酵母の「もちもち」、ホシノ丹沢酵母使用の「むぎゅむぎゅ」、イースト使用の「ふかふか」という3種類の食感のベーグルがあるのが特徴。

ベーグルを焼く小林千絵さんは10年間パティシエールを務めたあと、この店の店長になった。
「女の子が作っているのだから、見た目にもかわいいものをとこだわって、スタッフと心がけています。
1個1個に愛情をかけ、顔を見つつ作ります」

「ベーグルの顔を見る」。
1個のケーキに手間と時間を注ぎ込むパティシエならではの表現だと思った。
そして、パティシエにベーグルの製作をゆだねるという方法にも膝を打った。
考えてみれば、ベーグルの立ち位置はパンとお菓子の中間にある。
ベーグル屋に足を運ぶ人たちの多くはパンの味もさることながら、食べたことのないフレーバーを求める。
パン専門の職人よりも、フレーバーの開発についていえば、適材適所なのである。

「お菓子屋さんでは、パン屋さんの何十倍もの菓子の素材を扱います。
その中にはパン屋さんが知らない素材や調理法があると思います。
普通のパン屋さんが使わないものを使ったらおいしいベーグルができるんじゃないかと思いました」

ブーランジェの知らないパティシエのこだわりのひとつに、漬込みフルーツがある。
「ドライフルーツをそのまま使わずに、煮込んだり、2、3ヶ月前から漬込んだり、香りを足したりして使います」
ラムとブランデーとはちみつに漬込んだフルーツは、ときどき開かれる、土日のフェアのときのみ登場する。
たった数十個のベーグルのために、できあがる瞬間を想像してわくわくしながら、数ヶ月も前から用意をはじめるときの気持ちは、愛情という言葉がまさにぴったりくるものだろう。

「パティシエの頃に感じていたのは、お菓子が日常食として食べてもらえないということでした。
よくいらっしゃるお客さんでもせいぜい3ヶ月に1回とか。
お菓子は特別な日のためにあるものですから。
でも、この店では、1週間に2度3度通ってこられるお客さんもいらっしゃいます。
焼きたてを食べてもらえるし、お客さんと接する機会もある。
パンっていいな、ベーグルっておもしろいな、と思います」

大納言塩(むぎゅ、230円)。
生地に練り込まれたそこはかとない豆の味わいをふりかけられた大粒の塩が浮かび上がらせる。
ほのかだけれど、くっきり、というはじめての味わい。
アメリカンな食べ方を日本の食材に合わせた意外性がおもしろい。
反発してくるのではなく、沈み込む食感が「むぎゅ」生地の心地よさ。
酒種にも似た風味が特徴のホシノ天然酵母の生地に和の味わいは合っている。

おいもチョコ(ふか、240円)。
ココアを練り込んだ生地+巻き込んだチョコチップがとろけるダブルチョコ。
そこにさつまいもが入る新機軸。
はじめて食べるチョコとさつまいもの組み合わせは、とてもよく合っていた。
甘さの少ないチョコの苦みを、いもの甘さともたもたした食感が癒してくれる。
逆の言い方をするなら、チョコの苦みによって、いものやさしさを再発見させてくれるのだ。
もっともふっくらした「ふかふか」生地のやさしさも、いもにふさわしい。

クランベリー(もち、200円)+レモンミルククリームチーズ(170円)。
好きなベーグルとディップを自分で組み合わせたオリジナルサンドイッチ。
レモンクリームのせつない甘酸っぱさは、乙女心を持つすべての人へおすすめできる。
レモンはチーズの中に練り込まれて、鋭さがいい感じに丸まって、ふわっと甘い。
そこへ、クランベリーのとてもいい甘さが、ゆっくりと近づいてくる。
甘さはベーグルの皮の香ばしさともいい相性があって、甘いだけではなく、ベーグルの味わいに目を向けさせてもくれる。
「もち」生地は、普通のパンのもちもちよりは強いけれど、普通のベーグルのもちもちよりはやさしい。
自家製酵母+国産小麦の味わいの豊かな滲みだしは、ベーグルとして希有。(池田浩明)


小田急線 代々木八幡駅/千代田線 代々木公園駅
03-6416-8122
11:00〜18:30

#036


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パンの漫画3 『朝にパン』






漫画:堀道広



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(うんうん)


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AOSAN(仙川)
第35軒目

14時30分。
その日、2回目の角食パンの焼き上がりを待つ人びとで、AOSANはいっぱいだった。

約2ヶ月先まで予約がいっぱいという角食の、製法の秘密について。
「いい材料を使って、丁寧に、時間をかけて発酵させる」
とだけオーナー夫人である奥田さんは語る。

角食(250円)。
とろっとしている、という印象を与える食パンにはあまり出会った記憶がない。
皮はぱりっと、特に底辺の食感はがりっとして、クラッカーを噛んだかのようだ。
そして、果てしなく澄んだ発酵の香り。
中身はなめらかで、存在と非存在のあいだにあるかのように軽い。
噛み進むと、むちっむちっと歯ごたえを感じ、やや酸味があって、噛むごとに発揮される生(き)の小麦味は、どんどん明るさを増して発揮されていく。

投じられたパン種が生地を膨らませ、次々とパンを作り出していくように、一片の種だったルヴァン(自家製酵母パン屋の草分け)はたくさんの卒業生を送り出し、彼らによるパン屋はさまざまな場所にオープンしている。

中でも、もっとも成功した一軒がAOSAN。
自家製酵母のパンとイーストを使ったパン、両方を焼く。
いつ行ってもたくさんのお客がいる。
理想的な住宅地といえる仙川の地に、ちいさな子供連れのマダムも、若い人も、みんなが立ち寄れるパン屋を根づかせた。

卒業生である奥田さん夫妻にとって、ルヴァンとは何だったのか。
「とにかく場のインパクトに圧倒されて、考え方はとても影響を受けました。
パンというのはただのものじゃない。
体に入ってその人の一部になる。
おいしいものは食べた人の気持ちを高め、生きるためのエネルギーになる。
パンを作る技術だけでなく、そういう精神的なものを学びました」

AOSANはルヴァンから何を引き継ぎ、何を変えたのだろうか。
「厳密にオーガニックを求めるのはいいことなんですが、ルヴァンでは人件費や原材料費がかさんで、価格設定が高めになっています。
うちでは、もちろん安全でいいものをなるべく使うようにしていますが、なにがなんでもオーガニックということではありません。
安全なものはできる範囲で使うことにして、価格は抑え、日常生活で買っていただけるような、日々の生活に溶け込んでいけるパン屋にしたいと思いました」

ルヴァンの魅力は、「原点のパン」を作りつづけるストイックな精神性にある。
でもそれはときとして窮屈にも感じられる。
完全にオーガニックなパンを作ったとしても、値段が高すぎて毎日食べられなければ、本当に健康に資するとはいえないだろう。
あるいは、ハード系のパンを食べたいときもあれば、ときにはやわらかいパンや、甘いパンも食べたい。
それから、家の近所にあって、入りやすくなければ、買いにいくことができないだろう。

「ポリシーと値段のバランスを取りたいと思っています。
敷居の高いものにならないように。
人間でもストイックになりすぎるとまわりの人が窮屈に感じてしまうことはあると思います。
おおらかでないと、人も受け入れられない。
だから、お砂糖も使わないということではなく、甘いものは甘くして出したい」

高山のようにそびえ立つルヴァンから精神性のみを引き継ぎながら、日常の目線が届く場所までそれを下ろしてきたところに、AOSANの新しさはある。
AOSANのパンは形がかわいい。
女性らしい感性をそこに感じる。
夫婦とも厨房に入る、2人の役割分担からそれは生み出される。

「最初のレシピは私が作ります。
それをアレンジして技術的に高めていくのが主人です。
新商品のイメージはぽこっと出てきます。
『あ、こういうの食べたい』という感じで。
いろんなパン屋さんで触発されたり。
私がもやもやっとイメージしたものを、主人がきちっとしたものへ落としこんでいく。
私がもやもや係で、主人がきちきち係(笑)」

インテリアがかわいい店だ。
「主人の感性ですべて決めています。
私はいっしょにいって『これはいいね』『これはちょっとね』というだけ。
でも私がほしいものと主人がほしいものはいつも一致しています。
感性が同じなんでしょうね」

志は高く掲げながら、しかし主婦の目線で価格を考え、日常にはストイックなものばかりではなく、かわいいものも持ち込みたい。
しかしパンとしての完成度は妥協しない。
男性と女性、日常と非日常…さまざまな1と1が混ぜ合わさってマーブル模様を織り成し、2以上のなにかになっている、それがAOSANだと思う。

プレーンカンパーニュ(280円 1/4)。
しっとりして、ぷるぷるとしている。
軽く、食べやすいという印象がまず最初にあり、それから小麦の味わいは噛むごとにますます透明なものへと移ろい、ブランデーのような香りもどんどん強まる。
誰もが好むような食パン的な食べやすさと、カンパーニュ好きが好むマニアックな濃さがひとつのパンの中に両立している。

ジャムフルーツサンド(180円)。
プレーンな小麦味の丸パンに、酸味の強い山イチゴのジャム。
サンドイッチだから、生地の小麦味と山イチゴの野性味がともに活きている。
表から作っているところを見ていたら食べたくなった。
よつ葉バターの大きなひとかけを、半分に切った拳大のパンに塗り込む。
きちっと塗るのではなく、適当に。
だから、ぜんぜん塗れていないところと、固まりが入っているところとにムラができる。
バターのない部分の酸味を耐え忍んだあと、ついにバターの固まりが口に入る。
バターがとろけ、生地の甘さ、イチゴの甘さが突然際立ちはじめる。
その瞬間がたとえようもなく幸福である…ストイックすぎなくてよかった。(池田浩明)

AOSAN 
京王線 仙川駅
03-5313-0787
10:00〜18:00
日・月曜休み

#035

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家でストロベリーホットケイクス
「ケイクス的なものは、おおむね気分を明るくさせるはず…」

元気がぜんぜん出ないので
貰ったホットケーキミックスを使ってホットケイクスを作った。
ボールに粉と卵と豆乳を入れて混ぜている段階、
フライパンに流し入れて気泡を確認している段階、
綺麗な焼き色が付いたものをお皿にのせメープルシロップとバターの良い香りがする段階、
でじわじわと癒されていく。

ナイフとフォークを用意して、紅茶を淹れて、食べたら期待通りの味がして、
元気が出た。
しかし、アレっ!? 何か飽き足りないと感じている自分に気付いてしまう。
なんだろう
なんだろう
なんだろう
と胸に手を当てて考えてみたら、驚き? 刺激? 発見? 想定外の展開? のようなもの…

ふと見やると洗濯機の上に熟れすぎた苺が。
※1人暮らしの狭い部屋では時として洗濯機の上が貴重なスペースとなります

「こ、こ、これかもしれない…」

おもむろに手で潰したものを残りのタネに混ぜてみた。
ところどころに苺感のあるストロベリーホットケイクスが完成。
妙にしっとりして、時々苺が出てきて、う、うまいぞおおおおお!!!


ここぞという時に元気出すくらいしか取り柄がないのに
肝心の元気がぜんぜん出なくて無力感に拍車をかけている方/打ちひしがれている方。
ストロベリーホットケイクスを焼いてみるのも手です。
ホットケイクスはもう作っちゃったーという方でも
ストロベリーホットケイクスはまだだったりして…(わくわく)
食欲が無い方にもお薦めです。【D】


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(ケーキと言うべきところをケイクスと言えば、少したのしい)


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