パンの研究所「パンラボ」。
painlabo.com
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
あんバタフォカッチャ
 粒あんとバターが挟まれたフォカッチャ。

温めてくれる上に、ホイップクリームも付いて、飲み物まで付いて550円。
これは馴染みのあるカスタマイズスポットであるスターバックス先輩を充分に脅かす存在。
フォカッチャというのは一般的にオイリーなパンですが、
このフォカッチャは温め行為によって中のバターを溶かしてオイリーさを演出していました。
フォカッチャを甘くして食べるやり方は初めてだったので飛びつきましたが、
想像以上に満足のいく組み合わせでほっこり。(←出た! ほっこりプレイ!!)

最近は家でカンパーニュを食べることが多く、
レタスとメープルシロップとか
ハムとチーズとメープルシロップとか
甘さとしょっぱさを合わせる活動に敏感な時期だったということも飛びついた理由のひとつ。
ちょっと真面目な気持ちになりたい時に行くことになっている珈琲館のパンパワー、を再確認。【D】



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(パワー全開!!)

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トゥルナージュ(笹塚)
63軒目(東京の200軒を巡る冒険)

かつてトゥルナージュの神宮前店にいったとき。
商品は売り切れ、店内にパンはほとんど見ることができなかったが、女性たちが熱っぽく作業台を囲む場面を垣間見た。
中心にいたのはオーナーシェフの小山利千さん。
この店では天然酵母のパン教室を開講しているのだった。
なぜ小山さんの手から生み出されるパンはあんなにあたたかく、おいしいのか。
生徒たちはすごい集中力でそれを学び取ろうとしているのだった。

鋭角的ではっきりした意思の見える男性のパンに比べて、女性の作るパンは、おしなべてやわらかく、味わいの輪郭がグラデーションのようになっている。
トゥルナージュのパンもそうした特徴を持ってはいるけれど、高い完成度で一歩先をいっている。

たとえば、高い人気を誇る山型食パン(350円 1/2)は15年も同じ製法で焼きつづけられているけれど、いまなおほかの店が追いつけないような新しさがある。
一言でいえばリーン。
香ばしさや甘さを欲張らず、国産小麦の味わいだけに焦点をあわせ、ほかの要素が慎重に抑制されている。
だから、口に入れた瞬間からただまっすぐに、小麦の風味の陰影を感じることができる。
おだやかで上品なその味は10回以上噛んでようやく輝かしい甘さへと変貌していく。

「パンが好きではなかったんです」
と小山さんはいった。

「最初はイーストのパン屋だったのですが、つづけていけそうになかったんですね。
ごはんが好きなもので、軽い、空気が入るのは好きじゃない。
どこかのお店で天然酵母のパンを食べたとき、これだったらつづけていけそうかな、と思いました。
2年ですべてのパンを天然酵母に切り替えました」
イーストのパンに対して違和感を抱く感性を持っていたから、天然酵母のパンを奥深く繊細に探求していけたのだろう。

ストレートな自家製酵母のハード系パンもあるが、私にとってトゥルナージュのイメージは、ホシノ酵母を使った中身がむちむちのクロワッサンであり、やさしい食感のおやつパンである。

「添加物を絶対入れないようにしてますよね。
やわらかいパンを作ろうとすると、チェーンのパン屋さんではケミカルなものを入れていると思います。
化学的にじゃなく、私は私なりにやわらかいパンを作ろうとしています。
山芋とか大豆の粉とかを入れて。
化学に頼らない。
するとコストがかかる。
お客さんに高いなーと思われる。
わかってもらうのはたいへんですね」

そして、小山さんは、まったく新しいやわらかさをもつパンを生み出した。
ホールフーズ食パン(230円 1/4)がそれである。
スライスして手でもつと、指にのっていない部分がだらりと宙へ垂れる。
ふわっとして、しなやかで、なめらか。
そのどれもがいままでのパンと別次元である。
ふわふわが、口溶けとともに、軽やかに、実に快いねっちり感へと舌の上で変貌していく。

「パンじゃない、ぜんぜんちがったやり方で作ります。
パンというのは、1次発酵→2次発酵→焼成と進んでいきますが、そうじゃないぜんぜんちがったやり方でできる」
想像もつかない話に私が驚いていると、
「長くやってるとできるんですよ」と微笑した。

そのとき、時間は夜の19時半だった。
昼間は幾人かの従業員が忙しく働いていた店内に、小山さんがひとりで黙々とりんごの皮をむいている。
オーナーと呼ばれ、先生を務めている人が、もっとも地味な作業をひとりでこなす。
「ぜんぶ手作りなんで、時間がいくらでも必要なんですよ。
寝てる時間以外仕事。
ごはんも座って食べない。
よくないんですけど」
10年以上もこうした生活をつづける小山さんだからこそ、まったく新しいインスピレーションは降りてきたのかもしれない。

自家製酵母のアップルパイ(280円)は情熱に圧倒されるようだった。
持ったときの重量感、生地の厚み。
オーガニックの粒から自分で挽いたという全粒粉の味わいの濃さ。
にもかかわらず、パイ生地ではなく、発酵をとったパン生地なので、あたたかい重たさの中に、軽やかさをはらんでいる。
素朴なのに食べやすい。
リンゴのコンポートを強くだすより、シナモンやレーズンなどとのチームワークで食べさせる。

素材感を強くだしたものは得てして食べにくい。
「できるだけいい素材を使っています。
でも、素材がよくても、おいしくなければ商品としてつづかない。
おいしくて長つづきするようなものを作りたい」
情熱をこめて銘柄を選び、手をかけた全粒粉の醍醐味。
一方、食べやすさ、軽さも兼ね備えるアップルパイは、その解答なのだと思った。(池田浩明)

京王線 笹塚駅
03-5388-5167
9:00〜20:00
月曜休み(祝日の場合は翌日休み)

#063


 
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パンの漫画9『先祖とフォカッチャ』






パンの漫画1 『パンと金持ち』
パンの漫画2 『クロワッサン』
パンの漫画3 『朝にパン』
パンの漫画4 『こがす』
パンの漫画5 『ガレット』
パンの漫画6 『罪悪感』
パンの漫画7 『ながら食べ』
パンの漫画8 『買いすぎる』



漫画:堀道広


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パンの漫画 comments(0) trackbacks(0)
パリット フワット(千駄木)
62軒目(東京の200軒を巡る冒険)

「ヘタウマ」という形容詞を、約15年にわたって営業をつづける店に対して使うのは失礼なことなのだろうか。
私が「ヘタウマ」というとき、マティスやピカソのことを想像しているとしても。

あるパン屋さんはこの店のことを「パリット フワットじゃなく、モチット ズシットだよね」といった。
揶揄しているのではなく、愛着をこめて。
そのとき、話題にされていたのは「もう一度いってみたいといちばん思うパン屋」についてだったのである。

この店にきたとき、単に着いたというより、「たどり着いた」と思った。
この店のパンを食べ、「やっぱりたどり着いたんだ」と思った。
パリット フワットを発見するのは二重の意味で簡単ではない。
この店があまりにも千駄木という町に溶け込んでいるからでもあるし、また、数十軒の冒険を重ねたあとでなければ、この感動はひょっとしたら得られなかったのではないかという意味においても。

パリット フワットなパン=幸福、というマスイメージがあるとしたら、そう形容しても差し支えはない。
でも、私としてはモチット ズシットと呼びたい。
皮はなく、ただ固めただけというような。
そばがきのようなパン。
そば粉本来の味を味わうなら、そばよりも、むしろそばがきのほうが食べ方としてふさわしいように、小麦粉という素材の味そのものを味わうのなら、パリット フワットよりも、モチット ズシットのほうが適しているのではないか。
その可能性を、可能性のままにとどめず、すべてのパンに適用してしまった、並外れた感性と勇気。

ほとんどのパンにホシノ天然酵母を使用している。
でも、ホシノ天然酵母らしさはあまり主張されていなくて、パリット フワットの個性をひきだすための道具、あるいは協力者になりきっているように思える。
「ホシノ天然酵母は、私の作りたいパンにとても合っています。
使い勝手とかではなく、味そのものが好きです。
なにより味がおいしくなければならないですから。
ホシノ天然酵母はお米から作り出されていますが、お米が主体の日本人の口に合うのではないでしょうか。
うちではドライフルーツ以外、なるべく国産の材料を使うようにしていますが、ホシノは国産の粉ともよく合っていると思います」

常連に愛されている店。
それは千駄木という土地柄と無縁ではない。
店主はいう。
「私は谷中、千駄木にずっと住んでいるのですが、ご近所同士、顔の見える関係だと思います。
ここら辺は寺町で、おまつりなどで近所の人たちが集まることが多い。
たとえば、災害のときはみんなでなんとかしようと話し合ったり、コミュニティの意識が高い」

お客が店に入ってくる。
そのときの雰囲気が、緊張しながらではなく、水にぷかぷか浮かびながら入ってくるという具合なのだ。
なにもいわなくても、わかりあっている。
同じ町の空気をいつも吸っている人たちの、他人以上、家族未満の関係性。

「クレーム命です。
いってくれる人は本当に感謝、ありがたいです。
開いたときひとりでやっていたので、失敗が多かった。
『あれはちょっとすっぱかったよ』とか『パンの入れ方が乱雑だよ』とか。
この店のことを思っていってくれているのがわかる。
こっちはめげるんですが、そういうクレームがあるかないかで、その後にすごく影響する」
たったひとりですべてを決めなくてはならないと思ったら、ひるむし、勇気がでない。
パリット フワットは常連さんをパートナーにすることで、クリエイションの不安を乗り越えてきた。

「同じパンをいつも買っていただくお客さんがいます。
1日に何個も売れるパンではない場合、作りながらその人の顔がおのずと浮かびます」
たったひとりのことを思って作られるパン。
まるで家族や恋人に料理を作ってあげるときのように。
ことさらな会話はなくても、モチット ズシットなパンを、作り、作られ、結ばれた特別な関係。

ミルク(173円)。
なぜだろう。
プレーンなこのパンにそこはかとなく夏みかんの甘い香りが漂っているように感じられるのは。
白めのパンらしく目が詰まっていて、甘さがちゅるちゅると溶ける。
ややもっちりと、ややふわっと。
やわらかでありながら、噛みしめ、噛みしめられる食感でもある。
甘い口溶けの行き着く先は国産小麦の味わい。
それはじょじょに姿を現し、甘さがつきるとともに自覚されるけれど、やさしい風味で、えぐすぎない。

3つの小さなパン(283円)。
この不思議なパンが現代美術の展覧会に飾ってあったとしても違和感はないかもしれない。
「3つ」といいながら、日によってそれ以上の種類のパンが連結される。
むちむち感。
つまんで、ちぎって、愛おしみながら食べたい。
他のパン同様、皮はない。
すべてはねっちりもっちりに捧げられている。

紫芋…イモ特有のスモーキー感じ、ウコンのような和のスパイシー感、ごくうっすらとしてさわやかな、砂糖とはちがう甘さ。

玄米…口の中の甘さを奪っていくようなマイナスの甘さという表現は変だろうか。
あの玄米のむわっとくる感じがあって、でも味わい深い。
食べたことのないおもしろさ。
味覚を拡張される。

よもぎ…手加減なく鮮烈。
小麦の甘さのあわいに苦みを噛みしめる。

にんじん…にんじんとはこんなに甘かった。
苦みはなく、透き通って。
そして突如甘さは尽き、突き放される。
舌先で甘さを感じていたのに、舌を通過したあとの喉ではもう分解されてしまっているような。
それはさわやかさでもある。

ミルクオレンジ(1/2 399円)
むっちりした白い小麦の味わいに見事に溶け込み、なじむ、オレンジ。
飛沫を飛ばして、自分で皮をむいて、口にふくんで、果肉を噛み潰す、味わいのリアル。
しゅわしゅわと生地がゆっくり溶け、小麦の甘さとオレンジの甘さが完全に同体となっている。
そのために、オレンジの酸味、苦みが完全にスパイスとして感じられる。
一口ごとに、バランスが、オレンジに傾いたり、パンに傾いたりと息をつかせず。
パンがちなとき、ちょっと物足りないのがまたいい。
食べやめられるようで、食べやめられず。(池田浩明)

↓ショップカードのイラストと同じくトウフクロウさんのデザインしたHPが秀逸

東京メトロ千代田線 千駄木駅/南北線 本駒込駅
03-5814-2339
9:00〜19:00
月曜休み

#062


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200(東京メトロ南北線) comments(0) trackbacks(0)
ノンポリ天皇のパン

『パン』という名前の雑誌を見つけた。


擬人化されたパンが教室で授業を受けている表紙が印象的である。
(バゲットが教師役なんだね)
ノンポリ天皇という方が発行しているらしく、
頁数34枚と小規模サイズながら情熱の迸りを感じずにはいられなかった。

内容はこんな感じで↓
◎特別企画 主食対談「日本の主食を考える」…パンさんとごはんさんの対談
◎漫画「美術室のパン」…以下漫画は全て三島凛子氏による
◎漫画「東京まるソーOFF」…まるソーとはまるごとソーセージの略称
◎小説「パン動会」…パンが繰り広げる運動会の挿話
◎漫画「バゲットの三日間」
◎漫画「山頂サンドイッチ」
◎コラム「パンと思い出」…編者である芝浦慶一氏による興味深いパンの話
◎漫画「未来へのパン」


"パンは未知なものであり非日常性を有するから米よりも記憶に残りやすい"というくだりに
考えさせられた。(写真はパン氏とごはん氏)

今年に入って炊飯器を捨てたので家で米を食べなくなった。
(しかしパンに専念するためとかいう高潔な理由ではなく単に壊れたため)
パンは毎日のように食べるが、パンの記憶がそれぞれに鮮明なままであることを思うと
自分にとってはまだまだ非日常であるなと感じる。
いずれ新しい炊飯器は買うだろうし、
自分の中で米の位置がパンに取って代わられる日はいまのところ来なそうだけど
芝浦氏の言うように"しかし、どうもパンが気になって仕方がない"のだ。【D】


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(ノンポリ天皇って名前とのギャップがまた萌えるぜ…)

パンラボ comments(0) trackbacks(0)
セブンの安道名津

かしわで


セブンイレブンで見つけた。




安道名津。

まずはロゴ、書体が目に飛び込んできた。

ムムム! てな具合に。

この書体はたしかおにぎりにも使われてる書体だ。老舗感の出る書体と勝手に思ってたんだっけ!

パンでは珍しい気がして、すぐに手にとった。

食べ物そのものではなく、書体に釣られるなんて!
もはや犬だ。パブロフだ。

よく見ると、
根多モノであることがわかった。



日曜劇場 JINー仁ー

週刊文春の今井舞氏によると、
このドラマはもはや大河を食ってやるかの勢いだそうだ。

今井舞氏がそういうんだから間違いないんだろう。


自分はこのドラマを見たことがないので、
食べる資格なしと思い、コイディーにあげてみた。


「は!これはJINのですか?」

見たことあるの?

「シーズン1は見てました。面白いですよね」

なぜシーズン2を見なくなったのか気になったけど、その質問をするのはやめておこう。

自分には食べる資格はないので、どうぞ。

お食べあれ。

コンビニ・ラボ comments(3) trackbacks(0)
ヒルサイドパントリー(代官山)
61軒目(東京の200軒を巡る冒険)

一歩階段を下りるごとに体が軽くなっていく。
地下へ下っているのに、陽の光が降り注いで、明るくなる。
それが不思議だと、ヒルサイドパントリーへ下りる途中の、テラス席の置かれた踊り場のところでいつも思う。

ヒルサイドパントリーでは浮遊感を買って帰る。
棚に並んだ外国の缶詰や瓶詰には非日常を詰めて売っている。
横文字で書いてあるので正確にはなにが入っているのやらわからないジャムのひと瓶でも勇気を持って連れて帰れば、テーブルの風景はたちまち明るくなり、ヒルサイドパントリーに降り注ぐのと同じ光で食卓は満ちる。

ラフで馴れあいすぎない外国製品の羅列に心地よく突き放される。
でも異国の不安感に突き落とされるわけではなく、ちょっとすーすーして適度にすがすがしいのは、羅列の隙間に、心遣いが滲みこんでいるからだ。

ベーカリーとデリカテッセン。
心のこもった手作りを提供して、それを主張しすぎない。
マニュファクチュアな外国雑貨に同調するようであって、あたたかい感触で無機質なもののあいだを満たす。

たとえば、パン・オ・レの単純な四角形の繰り返し。
それは過度の手作り感を演出しない一方で、不ぞろいなふくらみ加減や、見た目にもやわらかい卵色が、ほのあたたかい質感を伝える。

パンの製造を担当する岸本浩江さんはいう。
「輸入食品が多いので、組み合わせて買っていただけるようなパンを作ろうと思っています。
和風な感じにはならないように。
あんぱんぐらいは置いとこう、でも米粉とかは避けて、というような。
大使館が多いので、外国の方にも違和感なく買ってくださるものを、と思っています」

ベーカリーの象徴ともいえる天然酵母クロワッサン(180円)。
かっこよくなろうとしてなりきれない、ずんぐりむっくり。
おっとりしたバターの香り、雑味やコクを含んで純粋すぎない小麦味、ふにっとするボリューム感と、生地一枚一枚の不器用な厚み。
やがてじわじわのびて広がっていくやさしい甘さ。
シャープな食べ物というクロワッサンのイメージに反して、愛らしさとやさしさが重なりあって層になっている。

クロワッサンにも、食パンにも感じられるなつかしい感じはどこからくるのだろう。
「天然酵母クロワッサンはうちの超ロングセラー。
ヒルサイドパントリーができた当時の製造責任者だった、猪狩秀清さんが作ったものです。
天然酵母のハード系などは猪狩さんの作ったものをそのまま残しています。
実家がパン屋さんで、つながった食パンのようなオーソドックスなものを、国産小麦とホシノ天然酵母の組み合わせで焼きたいと思っていたようです」

いつも変わらないシンプルな定番商品はありながら、くるたびにどこかが新しい。
ヒルサイドパントリーらしさだと思う。
岸本さんが心がけているものは「わくわく感」。
「ヘルシーとか安心も考えていますが、大事にしているのはわくわく感」
「『なにが入ってるんだろう?』『なんだろう、買ってみようかな』とお客さんが思ってくれたら」

例えば、桜とクリームチーズのマフィン(250円)(2011年の3月26日から4月6日までのTODAY'S マフィン)。
完全なるふわっふわの中身、甘さの浮遊感。
にもかかわらずかりかりの皮は、歯を置いただけで崩れる。
そこはかとなく桜もちの香りが漂っているなと思っていると、やがて桜の葉の感触を舌が探り当てる。
ざりっと千切れてまろやかな塩気が流れ出すと、甘さの表情が狂おしく変化していく。
さらに、クリームチーズとの出会い。
マフィンのふわふわの中のチーズのふにゃ、あるいはひんやり感。
桜葉の塩気の上に別様の塩気が重なり、そしてマフィンの甘い世界にいるだけに発酵物の香りをリアルに感じる。
あまりに異質なものが、一時にたくさん訪れるために、味覚系統がオーバーフローを起こす。

「例えば、ドーナツがいま世の中で流行っているとなったら、うちはうちにしかできないことをやろう、流行もほどよく取り入れつつ、いまに流されないようにしようと思っています。
メニューは笠原店長と相談しながら決めていますが、いまこれが流行っているという話になったら、『それはよそでやってもらえるんじゃない?』とよく2人でいっています」

ヒルサイドパントリーの不思議がちょっとだけ解けた。
もし他の店でよく目にするような流行りものがあったら、きっと現実の世界にひきもどされて体が重くなってしまうだろう。
いつきても半分外国であるこの店に、半分異邦人としてふわふわ訪ねたい。

ヒルサイドパントリーのサンドイッチは、私にとって理想のランチのひとつである。

食パンをぱんぱんに膨らませる、ポテトサラダの白と卵の黄色。
どのサンドイッチも期待に違わず、とても軽やかにオリーブオイルやビネガーが香る。
輸入食品店だけに、調味料のクオリティは譲れないところだ。
それだけではなく、家でも作れそうなお惣菜のあたたかみがあるのに、決して家では作れないと思わせるセンスが同居している。

ファラフェル&フモス(577円)。
ファラフェルとは、ひよこ豆で作ったユダヤのコロッケ。
ピタパンのような中東のパンではなく、フランスパンにはさんでいるところが、パリのユダヤ人街っぽい。
土と呼吸を交換しあったような豆らしい強いコク。
と同時にある、挽肉のような癖のある香りを、香菜がすがすがしく一刀両断する。
やがて、やさしさを帯びた豆の甘さがじわりじわりと滲みだす。
バゲットはあくまで軽やかで、ひよこ豆のぐにゃっとした感じとコントラストを描く。
エスニックだけど軽くて食べやすい。
ポケットに入るような小さな非日常がランチにふさわしい。(池田浩明)

ベーカリーもデリカテッセンもテイクアウト・イートイン可。

ヒルサイドパントリー 代官山
東急東横線 代官山駅 
03-3496-6620
渋谷区猿楽町18-12 ヒルサイドテラスG棟 B1F
10:00〜19:00

#061


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新大久保で食べ歩かざるを得ないパン

1.jpg行ってきたどー新大久保!!


ホトックでしょ?  どうせホトック食べるんでしょ?



…そうだよ!!

2.jpg写真撮っていいですか って訊いたら じゃあ裏返すね って気を利かせてくれた店員さん。


あ〜らよっと!!


3.jpgピースサインまで繰り出す始末。


あんことハチミツとチーズが各200円。
券売機でチケットを買うスタイルのお店。



4.jpg幸せな味。



5.jpg



6.jpgチョコデニッシュ とか言ってデニッシュではない商品。(だがそんなキミが好き)

ホトックに似た形。



【D】

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BOULANGERIE ianak!(西日暮里)
60軒目(東京の200軒を巡る冒険)

ポップ。
かっこをつけながら、でも敷居は下げて、地元の人と手をつなぐ方法として、オーナーシェフはポップであることを選んだ。

色でいえばオレンジ色。
活字の筆記体ではなく手書きの店名。
町を駆け抜ける自転車のスピードや軽さがこの店のイメージにふさわしい。

パンにおけるポップとは?
定石や理論の間隙を縫って、人びとの欲望の食べものをいきなり作って提示してしまうフットワーク。
すべてがフラットである。
伝統も、新しさも、高級食材も、町パン屋的な惣菜も、高度なテクニックも、日本的な味覚も。
あらゆるものに瞬間的にアクセスする感覚がポップだと思う。

パンドラ(250円)。
キューブ型のブリオッシュ生地の甘いパンはときどき見かけるが、食パン生地にカスタードを練り込んだものははじめてだった。
とてもしっとりした生地からおっとりした甘さがおだやかに滲みだす感じがめくるめくほど。
チョコレートの部分を齧るとき、喉をひりつかせる苦みは、カスタード味のまろやかさを強調し、カスタードのミルク感はチョコの甘さのせつなさを強調する。
キューブ型はかっちりした皮の食感を倦み、少し大きめのポーションは、食パン生地らしくスライスする可能性を呼んでいる。
それが気安いおいしさを生み、デザインも含めてポップにしている。

金井孝幸シェフはいう。
「町場のパン屋ですから、気軽に寄ってもらえるようなお店にしたいと思っています。
パン作りに関しては特にこれといったこだわりを持ってなくて、自分で作りたいものですとか、お客さんに要望されたもの、スタッフのアイデアとかから商品は生まれます。
気楽な感じで。
他店にはないような感じで。
デパ地下で見たものを参考にすることもあります」
惣菜パンも、おやつのパンも、どこにもない商品が豊富にそろうこの店で事欠くことはない。

豚肉のゼリー寄せフォカッチャサンド(300円)。
ホワイトソースと豚肉のコクとのうむをいわせない壮絶な相性。
たまねぎのスライスが豚肉の香りを消したりアクセントとして盛り上げたり。
豚肉のこりこりとゼリーのこまかなぷりぷり。
フォカッチャの食べやすい厚さと手のひらにおさまる大きさ。
塩気があり、歯切れがあり、しかし食べ応えがありと、サンドイッチのパンとしての用件をすべて満たす。
そして具材の味が溶けきったあと、明確な小麦の味が姿を現し、さっきから具材のおいしさを支えていたのは実はこれだったことに気づく。

金井シェフは、ルノートル、パンコテ、メゾンカイザーと、名店での経験を重ねてきた実力者。
「いま、製法という面では、メゾンカイザーで勉強したことがいちばん活きています」
自家製酵母による液種を使ってパンを焼く。
酸味のない、やわらかいパンを、イーストを使わずに自在に作れる方法でもある。
「食べやすいということは大前提。
どれだけ味があっても硬いパンが苦手な方には食べづらい。
この辺に住んでらっしゃる方にあわせて、おいしいパンを作りたい」

「できないことはできないんで、自分にできることを、できる限りの力を持って、精一杯。
技術的なところはいろんな考えがあるかもしれませんが、どれだけ一生懸命できるかは、そういう気持ちになればできると思うので。
すべての工程…仕込み、発酵、焼成、接客まで。
自分のパンを作って食べるしかできないのでわかりませんが、こうやっていろんなお客さんがきてくれるので、まちがいではないんじゃないかと」

ホットトッグ(270円)。
こんなにでっかいのを思う存分ほおばってみたかった。
ばりばりっと大きい音を立ててるソーセージの太さ、豪快さ。
口の中いっぱいに満ちる肉の味の満足感。
それを引き立てるドッグパンにはざらざらとした素材感を残し、噛めば噛むほど小麦の味わいを豊かに滲みださせる。
ただ大きいソーセージをはさんだだけでは終わらない。
ふにゃふにゃだったり、味わいに乏しかったりといったそんじょそこらのホットドッグとははっきり一線を画し、パン屋ならではの技と良心を見せる。(池田浩明)



JR山手線/京浜東北線/東京メトロ千代田線 西日暮里駅
03-3822-0015
8:30〜19:00(パンがなくなり次第閉店)
不定休


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とらやベーカリー(金町)
59軒目(東京の200軒を巡る冒険)

写真が趣味だという森岡進店長は、私が店を撮影していたニコンを見て、自分はキャノンを使っているといった。
なぜニコンではなくキャノンかといえば、
「ニコンはクリアすぎるでしょ。
クリアなのはあまり好きではなくて。
パンの味でもわかると思うんだけど」と。

たしかに、その味は滲み、漂っている。
はっきりとした物体が舌の上にある、というより、口の中に雰囲気のようにある。
カメラにニコンとキャノンがあるように、パンにも、味の鮮明なものと、味のぼやけたものがある。
それぞれに魅力的だが、後者は技術的というよりも、得てして素朴であったり、巧まずしてでた個性であることが多い。
とらやベーカリーが希有なのは、確固とした意志によって、クリアにもできるパンを滲ませているということだ。
雑味はなく、味わいが濃密であることからもそれはわかる。

バゲット(178円)。
このバゲットを食べるためにはやや長い時間感覚を必要とするだろう。
豊かな味わいはダイレクトではなく、くぐもっているがゆえに、あたたかさを感じさせる。
滲んでいて、かつ強く、にもかかわらず純粋である。
あるときには国産小麦らしい味の陰影を感じさせ、あるときには天然酵母の発酵の風味を感じさせるけれど、その変化はごくゆったりとしている。
皮は厚く、力強く、中身は皮の延長のように一体となっている。
なによりすばらしいのは、発酵が完全にコントロールされ、酸味もいやな匂いは一切なく、イーストで作られたものと遜色ない完成度を示していることだ。
(製法に関してはとらやベーカリーのサイトに詳しい)

森岡店長はオーバカナル、ロブション、ペルティエなど数々の名店で修行してきた。
中でも低温長時間発酵のパイオニアである志賀勝栄シェフ(現シニフィアン・シニフィエ)との出会いは、自分のパンを完成させる上で大きかったと振り返る。
「もともと少しのイーストを長く発酵させる方法に注目し、試作を行っていました。
そんなとき食べた志賀さんのパンはすごくおいしく、ぜひ勉強したいと思った。
低温長時間はいちばん手応えのある、自分を納得させる方法でした」

志賀さんからなにを学んだのか? と尋ねるとこのような答えが返ってきた。
「レシピや製法じゃないんですよね。
取り組む姿勢。
ひとつのことにとらわれず、いろいろなアプローチができる。
志賀さんの下で新しい商品開発に取り組んだ。
お題を出して、あとはごちゃごちゃいわず、自由にやらせてくれる。
できたパンを食べても『いいね』とかそれぐらいしかいわない。
それがすごくいい経験になった。
業界の大御所といわれる人、売り上げもだしてきている人のストライクゾーンがわかった。
自分のパンを自己満足じゃないものさしで計ることができた」

直感を大事にしている。
たとえばある製法について、「なぜそうするのですか?」と質問しても、
「自分にとっておいしいから」
としか答えない。
答えられないのではなく、それ以上理屈をつけることを自分に禁じているように思われた。

「意味づけして、論理的にやることもいいことだと思います。
修行中はそういうふうに理論を勉強してやってた。
独立してからは、自然にやったほうがいいんじゃないかと思うようになった。
もちろん守らなければならないセオリーはありますが。
イースト、天然酵母、国産小麦、外麦…。
どれがいちばんいいとかあまり深く考えないようにしている。
いま正しいとされてる業界の常識が、10年後にはまちがいだった、となるかもしれないし。
先輩に『こうやるのが正しい』といわれたことなんて、ホイロにしても、ベンチタイムにしても、いまはやってないことばっかり。
なんでもいいやって。
もちろんそこに、ごまかしや、手抜きや、お客さんに対する嘘があっちゃいけないけど、自分がいらないと思ってやってりゃいらない。
それが正解。
すべてはおいしいと思えるかどうか、俺とお客さんの間だけで成立する世界だと思う」

おいしさとは常識や理論が決めるものではなく、作り手自身と、金を払った客だけが決めることができるものだ。
なにが正しくて、なにが正しくないのか。
それをすべて自分で決めると決意した時点から、目の前に完全な自由の地平線が広がる。
途方もない数の選択肢にひるむことなく、決断しつづける勇気を、森岡店長のパーソナリティからは感じるのだった。

バターフランス(241円)。
香りの中に気配だけあって、見た目にバターは姿を見せない。
食べるとしばらくして、ぱりぱりの薄い皮からバターはじわじわと滲みだしては、舌の上を、淡く、けれど豊かな甘さがたゆたうのを感じる。
リュスティックにも似たもちもちの中身。
そのぷりぷり感がたとえようもないほどぶ厚く、噛むことに底知れぬ快感がある。
滲みだす生々しい小麦の味わい。
それはバターを使った多くの他のパンとは異なり、バター(がそこはかとなく香る)ゆえに、より小麦を純粋に素のままで味わうことができる。

あんずあんぱん(168円)。
発酵の香りの中にあるやんわりとした個性があたたかさと感じられる。
香ばしいゴマが覆う、豆乳を含んだ生地は、この薄さであって実に欲張りである。
ぷりっとしたむっちり感があり、豆乳とあいまってすっきり感じられる小麦の味わいがじんわり口溶ける。
こしあんの甘い香り、舌触りが実によく、しかもおっとりとして、甘さは前に出ず、ただ舌に滲みこむようだ。
そこへまったく逆ベクトルのあんずのすっとする酸味があんこと馴れ合わず同居するその感覚がおもしろい。

葛飾方面で数少ないブーランジュリー。
近所でフランスパンを買って食べる、という習慣から根づかせていかなければならなかった。
「開店した6年前には、まだ世間でブーランジュリーなんていっても、わからなかったと思います。
だから、こういう店の名前にしました。
パンの名前もわかりやすく。
葛飾、金町のお客さんに認めてもらわなきゃいけない」

金町にフランスパンは根づいたのか?
「ハード系の売り上げは毎年だんだん上がっていきます。
(根づいているかどうかは)わかりやすいと思います」

ブーランジュリーのない町に一から根づかせる。
それが他人の判断に頼らない店長独特のパンであってみれば、ますますやりがいのある仕事だと思う。(池田浩明)


JR常磐線 金町駅
03-5660-2355
11:00〜売切れ次第終了
日月休み

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