パンの研究所「パンラボ」。
painlabo.com
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ロワンモンターニュ(王子)
130軒目(東京の200軒を巡る冒険)

この店は誰もが気さくに入れる地元密着のベーカリーである。
「食べづらい」とよくいわれる、天然酵母・国産小麦のパン屋に、お年寄りから、サラリーマン、主婦まで、ご近所の幅広い客層が詰めかけている。
ハード系も、食パンも、あんぱん、カレーパン、デニッシュも。
どれも、イーストとまったく遜色なく、食べやすい。

ごった返す昼時の店内で、丁寧にひとりひとりの客に挨拶をする遠山広シェフの姿があった。
たくさんの従業員を率いる老練のシェフが、自ら品出しをし、率先して「いらっしゃいませ」と声を出し、厨房に戻ってはすばらしい速度と確実さで成形をこなしていた。

「ここは私の地元なんですね。
自分の技術を地元の方に、ちっちゃいお子さんにも食べていただく。
安心・安全、おいしいものでなくちゃ。
よく有名な料理人の方が『愛情をこめて』とおっしゃる。
そういう考え方でけっこうだと思います。
添加物は使わず、異物混入ないかどうかも、細かいところまで神経を使って。
自分の子供だと思ったらそういうの食べさせられないじゃないですか」

「うちの仕事はホテルスタイルです」
と遠山シェフは胸を張った。
ロシアから招かれ、帝国ホテルに最初のベーカリー部を作ったイワン・サゴヤン。
その弟子で、ホテルパンの父と呼ばれた福田元吉。
福田門下のパン職人がシェフを務めていた、ルノートルなどで修行を積んだ遠山シェフは、イワン・サゴヤン以来の伝統を受け継いでいる。

「ホテル系統かどうかは仕事でわかります。
ストレート法、押し丸めの仕方。
普通は丸めるとき手前に引いてくるでしょ。
ホテル系統では押して丸める」
押すか、引くか、これはひとつの例にすぎない。
受け継がれた仕事の流儀は、有形無形問わず、あらゆる影響を与えるだろう。

白神(280円)
まっすぐなパンだった。
塩と水と国産小麦と酵母。
白神こだま酵母がほんのりと野性を漂わせながら、やさしく香る。
小麦味はじわりじわりと忍び寄ってくる。
いまくるかいまくるかと思うと、もうそこにいる。
おだやかだが、きらっと光る。
ごはんを口にしたとき、淡い甘さが、噛んでいるうちに思わぬ甘さを獲得しているのによく似ていた。
皮はぱりっと薄く、しなやか。
微妙に引きのない、ふわふわの中身。
なにもかもが急ぎすぎず、日常に寄り添っている。
いくらでも強く、濃くできるものを、あえておだやかなものに抑制している。
そういうやさしさがこのパンにはある。

伝統的なストレート法による、みずみずしく、軽やかな味わいこそ、ホテルスタイルの仕事の特徴ではないだろうか。
ロワンモンターニュと同じくJPB(福田門下の集い)に属する、明石克彦シェフのベッカライ・ブロートハイムなどの名店とも共通している。

「いまのパン屋さんはパンをおいしくしすぎている。
みなさん技術が上がっている。
いまのお店は、液体のサワー種を使って、ぶどうから起こした種を入れて、イーストも入れる。
複合的な味はそれはそれでいいと思います。
私は、パンは味が濃くなくていいな。
ナチュラルな発酵でいい。
他のもの、おかずなどといっしょに召し上がっていただいても、パンが味を邪魔しないような」

2001年のオープンから白神こだま酵母と国産小麦にこだわる。
食事パンでも、菓子パンでも、どのパンを食べても、国産小麦の味わいをしっかりと、まったりと感じる。
癖のない白神こだま酵母によって、決してあざとくなく、まっすぐに、国産小麦のやさしさが引き出されている。

「天然酵母にも、フルーツから起こす種や、ホシノ酵母、あこ酵母、いろいろある。
その中から自分の製法にあったものを選びました。
天然酵母のイメージといえば、硬くて、重くて、すっぱくて。
それじゃ商売としてむずかしい。
白神こだま酵母は、華やかで甘い香りがあって、皮も薄くて、数日間おいしく召し上がっていただける。
しっとりと、やわらかく焼ける。
日本人の味覚はそういうものを好むんですね」

白神こだま酵母は、秋田県の白神山地で小玉健吉博士によって採取された酵母菌を元にしている。
さまざまな長所のひとつは、トレハロースを普通の酵母の5、6倍も作ること。
トレハロースは甘味料として使われるように甘く、化粧品として使われるように保湿効果がある。
だから、ほんのりと甘く、しっとりしたパンが焼ける。
いつまでも食べ飽きることのない、炊きたてのごはんの味わいは、遠山シェフが目指すところのものだ。
国産小麦と白神こだま酵母の組み合わせは、その理想に限りなく近づけてくれる。

「国内産小麦は外麦に比べてグルテンが少なく、でんぷんが多い。
でんぷんが多いともっちり感が強い。
これも日本人好みなんですね。
ライ麦も北海道産はすごく食べやすいし、すべて国産のものは、チーズでもワインでもコクがないでしょ。
日本人のDNAに訴えかけるのかな。
炊いたごはんの感覚好きなのかな。
炊飯器あけたときの、いい香り、いいつや。
なんか食べたくなる。
麻薬みたいに。
国産小麦のパンを毎日食べるのは小さな贅沢。
米だとこしひかり100%にみなさんこだわるのに、なぜパンは外麦でも気にしないんだろう」

グルテンが少ないとパンがふくらみにくいので、ふわふわのパンを作ろうと思えば国産小麦はマイナスである。
だが、白神こだま酵母の発酵力はそれを見事に補う。
遠山シェフは売り場から食パンを持ってきて両手でそれをはさみ、あらん限りの力で押しつぶした。
角食パンは厚切り1枚分ぐらいまで薄くなったが、手を離すとむくむくとふくらみ、完全に元に戻った。

「タンパク量が少ない日本の粉を使っているのに、潰しても戻っちゃう。
研究者の人とお話ししたとき、グルテンは鉄筋で、でんぷんはコンクリートだと。
白神こだま酵母で作ると、グルテンのネットワークがきれいにできて、酵母のガスが保たれる。
その隙間にでんぷんのコンクリートがしっかりと入っているから、鉄筋コンクリートのように強いんですね」

カレーパン(キーマカレー)(170円)
「白神こだま酵母だと生地を揚げても油が滲みこまないんですよ」
遠山シェフの言う通りだった。
カレーパンの、あの厚めの生地の本当の意味が、このパンを食べてわかった。
油に触れた表面だけ強く焼かれ油が滲みて、小麦の味わいがマックスに引き出される。
一方、その数ミリ内側の白い部分は、おっとりと純粋な、白い小麦の味わいをうつくしく保って、かりかりの皮と、もちもちの中身が鮮明なコントラストを描く。
…実は、そんなことをじっくり味わっている余裕はない。
スパイスは爽快に、舌一面をぴりぴりさわさわと刺激し、肉の旨味とコクは怒濤のように襲う。
カレーが溶けたあと、図ったように訪れるひときわ強い甘さによって辛さは一挙に癒される。

運命の石(160円)
おいしい小麦でパンやお菓子を焼くよろこびがこのスコーンには満ちあふれている。
甘さが刺さない。
向こうが透けて見えるような薄布を宙へ放り投げたように、ふわりふわりと舌の上へ落下してくる。
粉の粒が崩れ、微細な粒へ分かれ、じゅわっとやさしい甘さを滲みださせる。
その様がこよなく可憐である。
小麦のあたたかさの中で、ときどきクランベリーの小片が甘酸っぱさを光らせる。
それさえ、はちみつに漬け込まれ、舌を驚かせるところは少しもないのだ。

「口の中でぼろぼろっと崩れるようにスコーンを作ってるんですよ。
粉がすごくいいから。
うちのはみんな、お菓子じゃなくて、おやつね。
パン屋が背伸びしてもしょうがない」

どの菓子パンを食べても甘さがおだやかなのは、花見糖を使用しているせいでもある。
「グラニュー糖みたいに甘さがすかっと切れて、メープルシロップみたいなフルーティな香りがあります」

クロテットクリームというものを教えてくれた(ロワンモンターニュで売っている)。
「あれつけて、スコーン食べると絶対おいしいですよ」
といいながら、食べる瞬間を自分で想像して、相好を崩す。
自分のことを食いしん坊だという遠山シェフはさまざまなおいしいスプレッドも店内に集めている。

食べ歩きが大好きだというだけに、カレーパンのフィリングも、カツサンドのカツも、ホットドッグのウインナーも本当においしい。
おいしいもののこと、小麦のこと、パンのこと。
それを語るときの遠山シェフは本当にうれしそうで、話はいつまでも止まることがない。

パン作りは激務である。
ある年齢に達すると厨房を離れ、経営者に徹する人も多い。
遠山シェフは現場に立ちつづける。

「生地を触るのが好きなんでしょうね。
作る楽しみを忘れてしまうと、お客さまに自分の思いが伝わらない。
感動が伝わらない。
お客さまによろこんでもらうために作っている。
『おいちゃん、またくるよ』『おいしかったよ』。
そういっていただくのが、いちばんうれしい」

実は、遠山シェフが窯前に立つことはない。
厨房の中で、シェフの立ち位置は常に決まっている。
「麺台(成形などをする場所)が司令塔なんです。
仕込み、窯、ぜんぶ見える。
『これどうなの?』って話がすぐできる。
スタッフ本人は一生懸命でも気がつかないことはあります。
だから、『捏ね上げ温度1度ぐらい上げてね』とか、『丸めを強めにやってね』とか。
やな奴がいるとみんな緊張してやるでしょ(笑)」

熟練した感性は、音を聞いただけで、まるで見ているように生地の状態を把握する。
「ブリオッシュは特に『ミキサーの音を聞け』って言われる。
音の変化で生地の状態がわかる。
最初はやわらかいので生地がミキサーの容器の壁に当たる音がしているけど、そのうち固まってくると中心に集まって、当たる音がしなくなる。
それからまたグルテンができると伸びがよくなって、壁に当たる音がしてくる。
音でどれぐらい捏ねるかの加減がわかります」

ロワンモンターニュのどのパンでも、国産小麦の軽やかで、繊細な風味が絶妙に引き出されている。
だから、遠山シェフの話には大いにうなずけるところがあった。
「オーバーミキシングって外麦(外国産小麦)だとならないですね。
反対に、国産小麦はキャパが狭い。
30秒捏ねすぎても生地の状態が変わる。
うちの子たち、外麦を使ってるパン屋さんなら、鼻歌まじりにできるでしょうね。
国産小麦は水を吸わない。
生地が硬めでもあとでだれる。
それを計算しないといけません。
そば屋みたいなもんです」

そばの味やのどごしは水分量の微妙なちがいで決まる。
それと同じように、繊細な国産小麦は、捏ねる時間も、水分量も、最適な分量の幅が狭い。
だから、細やかな気配りと技術が要求される。
それを毎日、全種類のパンでやってのけることが、ロワンモンターニュの誇りである。(池田浩明)

JR京浜東北線/東京メトロ南北線 王子駅
03-3900-7676
9:30〜18:30
日祝、第2・4土曜休み

#130





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#130
200(JR京浜東北線) comments(0) trackbacks(0)
粉花のパンのレシピと浅草さんぽ
自家製酵母でやさしいパンを焼く粉花のふたり、藤岡真由美さんと恵さんの姉妹が本を出した。
かわいい写真とデザインによって、はじめての人にもわかりやすくレシピが紹介されるとともに、酵母という命とともに生きていく日常も描かれる。
開店当初、思うように発酵が進まず、買ってきた玄米酒かすを床に撒くと、酵母が元気を取り戻したこと。
自然素材や天然の洗剤などを使って、酵母の育ちやすい環境を作るよう心がけていること。
「酵母が居心地のいい暮らし方は、人にとっても健康ですごしやすいんだろうな、と思っています」
おいしそうにふくらむパンが、彼女たち自身が幸福で平和であることの証しになっているのだろう。

藤岡真由美さんは主婦からパン教室の先生を経てパン屋に、恵さんも薬剤師から転職している。
その経緯は、いつでも人は変わることができる、という希望を与える。
真由美さんは、パン屋を開くことになったきっかけについて、こう書く。

「生きづらさを感じていたある日、突然、決意をしました。
『本気で生きよう』。
そう思ってからすべての流れが変わりました。」

「本気で生きる」とは、自分だけでなく、もっと多くの人たちのためにパンを焼くことだった。
直感のささやきに耳を澄まし、それに従って行動を起こすと、自分の中にある思いがけない力に気づいた。
はじめてのパン教室での光景。
「焼きあがったパンを取り出すために、オーブンを開けたときの「わ〜っ」という喜びの歓声。
パンを焼く、ということの幸福感を、そのとき実感したのかもしれません」

粉花で食べたアップルパイの幸福。
青森の伊藤農園から送られてくるりんごて作られる。
りんごの味わいは予期したよりもはるかに息長く、ふくらみつづける。
パイ生地のもくもくしたぬくもりと、りんごのつるんとしたしなやかさ。
滲みだすバターの風味がりんごにふりかかると、味わいのまろやかさは一段と引き上げられる。
酸味と甘さ、+と−のはまり具合がすばらしく、それらすべてを小麦の味わいがまとめあげ、あたたかな余韻で終わる。

藤岡真由美さんは独学でパンやお菓子を学んだ。
「本屋とか図書館で集めたいろいろなレシピを見て、片っ端から小麦粉と副材料の割合を計算していくと、いちばんいいバランスが直感でわかってくるんですよ」
だが、作り方より大事なことは、もっと他にあるという。
「素材がそのままおいしいから、おいしいものができるとしか思えない」

直感であり、信じることであり。
パンやお菓子は、思いの力で焼ける。(池田浩明)






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やまパン
熱海駅の近くで見つけたやまパン。

山田屋水産というお店だからか三角形だからか"やまパン"
注文してからお店のひとがその場で揚げてくれるスタイル。




1cmほどの薄さの耳のない食パンに白い練り物が挟まれている。

だいたいこんな感じかなと想像していたものをはるかに超える繊細な食感。
パン表面数mmの色のついた部分のみサクッとして、
あとは練り物とパンとが一体となって神ふあ。
パンも練り物も薄味で、そこがまたイーネ!


やまパンに似た食べものを最近どこかで見かけたなーどこだったかなーと考えてみたら
ポンッ(閃)!!
ぱんとたまねぎさんのブログで林さんが紹介していたパンだ!!
パン・トリップ comments(0) trackbacks(0)
円盤型に助けられる
シュトーレン、クリスマス、忘年会、忘年会、デート、イブ、忘年会、温泉、プレゼント交換…
皆たのしいこといっぱいしてるンだろうなー!! くそー!!




と思いながら
全く終わる気配を見せないことでココ数日話題の
"自作消しゴムはんこ(特大サイズ)を小封筒に押す作業"をしていたら、
かしわでさんがふらりと現れて机の上に桃色の物体を置いていった。



D「何ですか」
か「はい、これあげる」
D「え…」
か「あげる」


よく見ると、ジュノエスクベーグルという印字が。
ベーグルケースってやつ!? 何これ何これー!! キャピキャピーッ!!

おにぎりの形をしたおにぎり専用ケースとか
バナナの形をしたバナナ専用ケースとか
専用ケース事情は把握していたつもりだったけれど
ベーグル専用ケースの存在を初めて知った。








でええええwwwwww


フィレオフィッシュバーガー入っとるーーーーwww


ベーグルサンドが入っていると思いきや
まさかのFFB(こんな略し方あるか知らない)。
サイズもぴったりで、色合いもぴったりで、キャワウィーネ!!




円盤型のベーグル専用ケース内で保温されて運ばれてきたFFBは
パンがしなしな具はあつあつで
簡単に言うと涙がこぼれそうなくらい美味しかった。



おまけにこのスプレッドをぬるやつもくれた。



かしわでさんは今ワイハーに居るらしい。
この時期突然に姿を見せなくなり連絡が途絶える。
ワイハーと言ってもハワイではなくワイハーという名の何処かに居るという意味なので
国内なのか国外なのかも分からない。
円盤型を置いて去ったかしわでさんのことを考えながら、
"自作消しゴムはんこ(特大サイズ)を小封筒に押す作業"を続けました。【D】





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I'm lovin' it
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2つのシュトーレン、2人のパン職人
クリスマスは、ケーキを食べずにシュトーレンだけで過ごすと、パン好きだな、と自分で自分のことを思う。

ツオップのシュトーレン。
外側から食べ進む。
詰まった身がアイシングとともにしゅわっと溶ける。
レーズンやオレンジピールやらのドライフルーツを噛むと、6ヶ月に渡って漬けこまれたというラムやリキュールの風味とともに果汁が飛び出すたび、さまざまな甘さ、ほろ苦さが喉へ、鼻腔へとせつなく押し広がっていく。
濃厚なれど正統派のシュトーレンだと思った。
やがて、その中心にあるマジパンに到達すると、むせかえるような甘さが口中にまとわり、果実やアルコールや中身と響きあいながら、甘さの濃度をさらに激しく、一挙に高め、シュトーレンに期待していたものの限界すら突破していく。

そのとき、伊原靖友店長のことを思った。
伊原店長の中心でも、きっと激しい喜怒哀楽が渦巻いていて、そこに追いつき、満足させるためには、この激しさ、この豊かさがぜひ必要なのだろう。
ツオップのどのパンを食べても心が揺さぶられるのは、そのためではないだろうか。

そういえば、シュトーレンは白い産着にくるまれた、生まれたばかりのキリストであるともいわれるのだから、その中心にあるのが心であってもおかしくはない。

TOLO PAN TOKYOの田中シェフに電話をしたら、
「シュトーレン食べにきてくださいよ」と。
相当の自信作であるらしい。

純白にピンクのリボン。
それが表すように、田中シェフは乙女味のシュトーレンを作ってしまった。
あえて乳臭いと呼びたい甘いチーズの香りは、女性の肌の香りのようでもあった。
その味わいは、バターより軽く、バターより不思議に変化し、きらめくようなドライフルーツたちとのあいだにさまざまな相性を取り結ぶ。
たっぷりのレーズンと、そして、なによりおもしろいのは、リンゴ。
やさしい甘さはチーズとの響きあいがすばらしく、ざりざりとした食感も快楽と意外性に満ちる。
そして、このシュトーレンを特徴づける、すがすがしい柚子の香り。
それは、甘さをレモネードのようなほのぼのとしたものにして、シュトーレン特有の重たい感じを解き放っていた。

田中シェフは伝統をやすやすと切断する。
だが、ただの思いつきという感じはなくて、マニアックなアイデアとそれを裏打ちする惜しみない仕事によって消化されているので、パンの時計の針を未来に進めたという感じがいつもする。(池田浩明)






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食べながらヤる

う〜ん、ヤってるね〜!!



ヤってヤってヤりまくってるね〜!!



いや、もちろん校正の話。

校正というのは間違いを直す作業。
これでもかこれでもかと出てくる赤字を校正し続ける作業は深夜に及び
その一連の流れをまた何度も繰り返す。

気分転換をしたいならどこかで食事をすれば良いのですが、
時間に追われているためかゆっくり過ごす気持ちになれない。
池田さんの思いつきでバインミーサンドイッチへ行くと、500円でその全てが満たされた。
初訪問の池田さんなので一応感想を聞いてみると、
いつもの調子でぽつり一言。

「めちゃめちゃうまい」


無事に元気を取り戻し、遅くまでヤりまくることができました。
今年もあと数日ですね。【D】




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(メリークリスマス)

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パン家のどん助(東新宿)
129軒目(東京の200軒を巡る冒険)

新宿は平らではない。
丘もあれば谷もあるのだ。
丘のてっぺんである抜弁天から、細い谷道を下っていく。
住宅街に商店がまばらに並んだ、商店街のような、路地のような、久左衛門坂に沿って、この店はある。
およそ、派手な商売には似つかない、地元の人でなければほとんどたどりつけないだろう場所に、隠れるようにして。

あんぱんやクリームパン、カレーパンがならんだ品揃えは、地元密着の飾らないパン屋そのもの。
その中にあって、数少ないハード系のパン、バゲットやパン・オ・レザンの色や形やたたずまいが、このパン屋の非凡さを告げていた。

バゲット(231円)
皮に明るい甘さ、セレアル的な甘さが濃厚にある。
皮は薄く、そして強く、せんばいのようにばりばりと爽快に割れ、ざらつく舌触りも快く、特にクープ周辺のかりかり感がすばらしい。
細身であり、皮がこれだけ乾いているのに、中身はかなりしっとりしている。
だから、皮の味わいの濃厚さにもかかわらず、中身が溶けるとともに酵母の素朴な風味が持ち上がってくる。
時とともに皮の味わいは移ろって、中身の味と合流して、さらに馴染み深いものとなっていく。

主人である斉藤建太郎さんをひと目見たとき、この人こそ「どん助」であろうと私は思ったが、それは早合点だった。

「店名なんてなにも考えていませんでした。
ブーランジェリーなんて名前はちょっとな、と思ってた。
飼い猫の名前がどん助だったので、それを店名にしただけで。
どん助は17歳でいまも生きています。
ちっちゃい頃、父親がこの場所でパン屋をやってました。
製菓学校に行きながら、夜はパン屋さんでバイトをしてました。
パン作るのっておもしろいなと思いました。
浅野屋でバイトから社員になりましたが、すごい修行をしていたわけでもありません」

「開店のとき考えてたイメージなんてまったくないんですよ。
だんだんこうなってきた。
最初は硬いパンも焼いてましたが、売り方が悪いのかもしれないけど、ここでは売れなかった。
それでいろいろ変えていくうちに、いまのようになっただけで。
お昼にお客さんが調理パンがほしいとなったらそれを作ったり」

「考えない」という言葉を何度か使っていた。
それがきっと斉藤さんの持ち味なのだと思う。
お客さんに合わせて柔軟にメニューを変えていくことで、この土地の持つものと店主の個性を自然に混ぜ合わせている。

どん助ごまあんぱん(126円)
猫の手の形。
とろとろのあんこを薄皮が包むさまが、ウォーターベッドのように、手で持つとむにゅむにゅする。
はじめにパンがむちっときて、突き破るとあんこがどろっとする。
あんこの黒ごまの香り高さと、濃厚でコクのある甘さが、喉へと反響していくさまに意識を奪われてしまう。
けれどよく味わうと、パンの秀逸さに気づく。
素朴なやわらかさ、ふさふさした舌触り、小麦味と発酵のあたたかい香り。
甘さがほのかでほんのちょっと足りない感じに、ぎらついたごまあんの甘さが中和される。

「おいしいものを作るっていうのを心がけてます。
技術なんてまったくないですよ。
極力やれる範囲をやろうというだけで。
カレーやトマトソースも作りますし、コロッケも自分で作ってオーブンで焼いたり。
パンは基本のことをやってるだけです。
材料は極力いいものを使おうと思っています。
砂糖、塩、バターなどはパンに入れるものですから、特に心がけて。
砂糖は三温糖、塩は沖縄の塩、ハード系にはゲランド塩を使っています」

斉藤さんのいう「おいしい」とはなんなのか。
どん助のパンの味を思いだしながら私は考える。
それはきっと素材のよさなのだろうし、基本を大事に手間をかけて作ることなのだろう。
2つがベースとしてあり、抜群のバランス感覚でまとめあげる。
皮と中身。
焼き加減としっとり感。
パンの小麦味とフィリングの甘さ。
両者は強く引き合いながら、決着のつかない綱引きのように、均衡している。
ひとつが強すぎないために快く、しかもいくつもの味わいを同時に感じられる。

ラムレーズンサンド(176円)
ソフトフランスのようで、もっとむっちりして、引きがまったくない感じで、歯がちょっとめり込むようで、だが、さくっと歯切れる、生地の感じがすごくいい。
味わいはプレーンなようで、ほのかにミルクっぽいあたたかい甘さがある。
自家製のクリームが秀逸。
甘さがやわらかく、隠し味のシナモンの与えるコクがあって、ラムがじわじわと発揮して甘さをより舌に滲みいらせ、そこへレーズンの酸味が襲ってすべてをさわやかにする。
舌に残らない甘さのバランスがよく、それを生地もうまく受け止める。

斉藤さんはよく笑った。
インタビューをしているときもそうだし、パンを作るときはもっと笑っていた。
ひょっとしたら楽しく作るとパンはおいしくなるのではないか。
どん助の懐深い味わいを思いだすにつけ、そのように感じられた。(池田浩明)

パン家のどん助
東京メトロ副都心線・都営大江戸線 東新宿駅
03-3203-6671
7:00〜19:00
日祝月休

#129






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#129
200(東京メトロ副都心線) comments(3) trackbacks(0)
山手線で見た
3.jpgんもう、またかよー…


パンラボの表紙が出来て嬉しいのはわかったから、もう見飽きたから、そんなドヤ顔で日記に書かなくてもいいから、さりげなく何処かの手すりの上に置いてある演出とかいらないから、それにまあ言っちゃ悪いけど紙ってオワってるっていうか? オワコンっていうかエコじゃないっていうか? 今はウェブじゃん?



って思ってる?


ねえ、ミナさん? そう思ってるのぉ〜? 
(くりくりした目で)



しーん





承知しました。




Twitterでもツウィッティングしたのですけど、
つい先日、表紙や帯を巻いた状態の束見本を手に持って山手線に乗ってきました。
発売前の商品を得意のドヤ顔で持ち歩くことで、
URBUN CITY TOKYOの道行く人びとが「ま、まさかあれって…!?」「うそでしょ! 信じられない!」といった具合になれば良いなと思ったからです。

新宿や吉祥寺などの繁華街を歩いてみたら、2人のひとに本のことを訊かれた。
「面白そうな本ですね? 何て本ですか?」


4.jpg「えっと、はい、あ、あの…パンラボって言う本でして…(照)」

 


これは山口デザイン事務所へうかがう時に立ち寄る表参道駅で
ジャン・フランソワのサンドイッチをテイクアウト。
チーズとハムとピクルスのバゲットサンドは、ちょうどB5サイズの対角線におさまるサイズで
ピクルスがたまらない逸品だった。


【D】



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こちらでよろしいでしょうかご主人様)
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ファラフェルサンドも旅をする
東京にいながらにして、数百円でする想像の旅。
それにはパンがうってつけである。
フランスパンを食べることはフランスへの旅だし、もっとエキゾチシズムを感じさせてくれるものもある。
アラブ、東南アジア、アフリカ。
ここではないどこか遠くへ意識を連れ去ってくれるパンは、おいしいという以上に心を満たしてくれる。

そうした一軒が、ヒルサイドパントリー代官山。
パン屋に輸入食材に、エスニックな惣菜が並んだデリカテッセン。
おいしいパンに、おいしい調味料、おいしい惣菜とくれば、サンドイッチがすばらしいに決まっている。

ファラフェルのサンドイッチでする空想の海外旅行。
ファラフェルとは、ひよこ豆で作った肉団子のようなもの。
同じくひよこ豆をペースト状にした、フムスもパンに塗られる。
フレッシュな野菜、キュウリ、ニンジン、香菜。
甘さとすっぱさの同居したドレッシングがエスニック。
おそらく全粒粉の混じっているピタの香ばしさ、ざっくりとふかふかの食感。
ファラフェルの厚めでコリコリした皮を噛む。
しっかり揚がって油が滲みこんで、豆の味がぐっと引き出されて、力強いから、たっぷりの野菜と合う。
パンと具材が一体となって、お焼きみたいに感じられるほど、印象はあたたかい。

ヒルサイドパントリーのエスニック惣菜がおいしいのはなぜか。
代官山は各国の大使館が多く、勤務する駐在員たちの舌に鍛えられている。

デリ担当の松下さんはいう。
「エジプト大使館の調理人の方に、エジプトで食べられてるファラフェルを作ってもらって、それを日本人の口に合うよう、食べやすくアレンジしました。
エジプトのものはニンニクが強すぎて、繊細な感じじゃなかった。
ここで売っているギリシアのヨーグルトに最近はまっていて、それも使っています」

以前は一人用に小さく焼いたフィセル(バゲット)でファラフェルをはさんだサンドイッチだった。
歯の裏側が痛くなるような硬い皮を噛み破り、ふにっとしたファラフェルに到達する。
フランスパンにファラフェルという組み合わせは、パリのユダヤ人街で食べたファラフェルサンドを思いだした。

それがピタに代わると、また別の街の味わいをまといだした。
「このまえ、ニューヨークに行ったんですが、そこで食べたのがまったく同じ味でした。
まねされたんじゃないかって思うぐらい(笑)」

エジプトからパリ、そしてニューヨーク。
ファラフェルサンドも旅をする。(池田浩明)






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ジュースープ

1.jpgジュースープという商品。

年末進行(=年末年始の安息を獲得すべく気が狂うみたいに働き続ける時期のこと)で
深夜帰宅が続くと、24時間営業のスーパーをパトロールすることだけが日々の憩いとなる。
加工食品コーナーに見慣れない形があり、つい足を留めてしまった。


"パンをおいしく!!"


このひと言、このたったひと言で、私はジュースープという謎めいた商品を買い物かごに入れた。
名前からして、ジュースとスープの間みたいなことなんだろう。
しかしジュースとスープの違いが分からなかった。
ストローが付いているので、飲むものには違いない。
裏面を読む。
牛乳と同量のカルシウムを摂れることがアピールされているのみで、パンへの言及は無い。

新しい電気製品を手に入れた場合などに説明書を読む気にならない人でも、
ジュースープを前にすると説明が欲しくて欲しくてたまらなくなるのは正しい。

大変残念なことに、
深夜のスーパーにいる(=西友)/一人暮らしで(=孤独)/借りぐらしの(=賃貸)/
もう若くない(=老化)/目がうつろな(=危険)/自分なので、説明してくれる人は誰も居ない。
自分で飲んで知るしかない。



5.jpgそれから2日。

冷蔵庫に入れたまま、どうしても飲む気になれず放置していた。
理由は分からない。
不透明すぎるからかもしれないと思い、とりあえず透明な器に注いで色を見てみた。
うむ、黄色い。
薄めたコーンポタージュみたいな色をしている。
だが黄色いコーンの粒は見当たらない。

当たり前だ、だってこれはコーンポタージュではないのだから!!


意を決して飲むと、あまりの衝撃に絶句する。

何故か?

コーンポタージュをフルーツジュースで薄めたみたいな味だから!!


"薄めた"という言葉にマイナスの気配を感じたひとは既に間違っている。

カルピスは水で薄めてもおいしい味だから!!

心を落ち着かせ、商品のHPをチェック。
"パンをおいしく!!"の理由が詳細に記載されていた。
パン=甘いものに合う
ジュースープ=甘みがある
パンとジュースープは相性抜群

うむ、分かりやすい説明だ。
ジュースープはジャムやチョコレートに相当する甘みを担当しようとしているということから考えて、
パンはプレーンなものを想定しているのだろうか。



何かに似ているようで、何にも似ていない、まるで新しい、あまりに新しすぎて少々不安になる、
そんな味わいの商品を、ジュースープのほかに、そういえば最近知っている。

⇒ こちら

はじめ絶句し、つぎに舌先で恐る恐る味を確かめ、しだいにチビチビと歩みを進める。
いつの間にかこの得体のしれない存在にすっかり心酔している自分に気づく。
ジュースープのほかに、そんな味わいの商品を、そういえば最近知っている。

⇒ こちら


【D】




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必飲の価値あり

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