パンの研究所「パンラボ」。
painlabo.com
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
ベッカライ・タカヤマ(辻堂)
142軒目(東京の200軒を巡る冒険)

「この辺でパンを食べられる公園はないですか?」
私が尋ねると、店の人たちは顔を見あわせてしばらく考えたあと、
「海になっちゃいますね」

いちばん近い公園は、海。
いわれてみれば、さっきからほんのかすかに海の気配がしているような気がする。
「店の前の道をまっすぐに」
ざっくりと道を教えられただけだったが、迷ってはいないという確信があった。
磯の香りがじょじょに強まっていたからだ。
やがて、眼前に海が広がった。
海を見ただけで、子供みたいに胸が躍った。
波は心の中にまで押し寄せ、潮騒を鳴らしていた。

高山シェフも、海に誘われて、この場所に店を構えた人だった。
「この仕事はもう30年近くやっています。
もともと浅草(入谷)のパン屋で生まれたので。
父親がやっていましたが、いまは死んじゃったので、兄が継いでいます。
小学校の頃から見ていたので、自然とこの道に。
最初の10年間はあちこちやって、30からはベッカライ・ブロートハイム。
明石さんの影響は大きいですね。
でもブロートハイムとは、水もちがうし、機械もちがうし、近づけようとしても同じものは作れないです」

ベッカライ・ブロートハイムと同じではない。
比較すると、ベッカライ・タカヤマのバゲットには、気持ち程度だが、グラマラスな甘さがあるような気がする。

バゲット(230円)
ドンク、ブロートハイム…日本に根づいたバゲットのプロトタイプを踏襲。
きちんとふくらんでいるから、軽やかである。
薄い皮が割れるぱりぱりとした音や、馴染み深い香ばしさに思わず頷く。
やがてリスドオル的な小麦味が口いっぱいに広がってくる。
それはとりも直さず、皮と中身にバランスがあって、皮の風味に中身がかき消されていないからである。
皮の硬さに比べて、中身が十分にしっとりしているから、このバランスになる。

「地域の人によろこんでもらえるのがいちばん。
お年寄りが多いんで、菓子パンや、惣菜パン。
最初は試行錯誤していたんですが、ハード系でも酸味があるのは受け付けない。
食べやすいもので、飽きられないように。
ここらへんの方はあちこちのパン屋さん行くんで。
1軒だけじゃなく、このパンはあそこ、このパンはあそこって決めてる人が多い。
だから、インパクトがあるものを作っていきたい」

バジルソースとベーコン たっぷりチーズ(200円 1/2)
巨大な惣菜パンを抱え込む。
つかむのではなく、ひと抱えある。
好きな大きさにスライスしながら、惣菜パンを食べる。
家族で分け合って食べられる。
パンの中でチーズが溶け、ベーコンとバジルの風味は濃厚に周囲へまき散らされる。
それでもなお、この大きなパンにあっては、白い味わいのままの部分が残されていて、舌に残る味を極められる。
がりがりと皮を感じ、中身の清冽さを感じられるフランスパン生地。
惣菜とパンのあいだを行き来する。

下町生まれの高山さんが湘南でパン屋を営む理由。
いつでもサーフィンができるから。

「子供といっしょにやってます。
小学校の頃からやってるから、いま17,8で、プロ並みの腕になりました。
冬はできませんが、夏は忙しいですね」

波の上に立った時の快楽はまるで麻薬のように強烈で、いちど虜になると、なかなか抜け出せないという。
夏になると、サーフィンのことが気になって、パン作りもままならないのではないか。
そう尋ねると、
「ここらへんは波がないので、いつでもできるわけじゃないから逆によかったかも」といって笑った。
だが、ひとたび風が吹けば、うってつけの波がやってくる。

「住みたいところで、パン屋をやりたかったんで。
最初は藤沢の駅前でやろうかと悩みましたが、やっぱり無理せずやりたいなと。
数字を追いかけるんじゃなくて。
週休2日。
この場所はのんびりしてるんで、がむしゃらに仕事というのでもなく。
ここらへんのパン屋さんはそういう感じが多いですね。
釣りが趣味だったり、サーフィンやったり。
ナノッシュさん、プルクワさんもそうです」

休みの日には子供といっしょにサーフィンに興じる。
家族にすばらしい環境を与え、自分自身も日々を楽しむ。
それは仕事をないがしろにすることではなく、かえって作り手の心の安定がパンにもいい影響を与えるかもしれない。
とはいえ、ただ安穏として仕事をしているわけではない。

「あんこも自分で作らないと、気が済まない。
性格なんで。
夜中の3時まで仕事をして、2、3時間寝て、また朝早くから仕事。
大変ですけど、ここでパン屋をやってよかったなと思いますね。
僕の育ったところでは、コンクリートしか知らなかった。
入谷なんて、学校のグランドがコンクリート。
空も広いし。
いちばん最初にここにきたときの第一印象が、ビルがなくて、空が広いということでした」

クラブハウスサンド(300円)
しっかりとした皮に古酒のような深い風味がのっかって、しかし酸味も重さもない。
中身はふわふわで、しかし適度な反発もあって、このカンパーニュ(ペイザン)は、理想的な食べやすさをしている。
ベーコン、チェダーチーズ、トマトにレタス、そしてマヨネーズ。
想像通りの味わいをぐにゃりと噛みちぎる。

海でいちばん食べてみたかったのが、このクラブハウスサンド。
隙を見せると潮風に吹き飛ばされそうになるパンやレタスを、手で引っ掴みながら齧りついた。


ベッカライ タカヤマ 
JR東海道線 辻堂駅
0467-26-8885
9:00〜21:00
月曜 第1・3・5火曜休み

#142

パンラボ単行本増刷完了しました。


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第41回 焼く [テイスティングノート6]
『パンラボ』発売後もパンラボは続く。

第41回のテーマは"焼く"。
いつものトースターで、あらゆるパンを焼きまくる実験をした。
バゲット、食パン、あんぱん、メロンパン、クリームパン、パン・オ・ショコラ、卵サンド、ポテトサンド。
片っ端から焼きに焼いた。


パンは全てパン処麻凛堂のものを使用。

1000Wのオーブントースターを使用し、
どのくらいの時間焼けば(あたためれば)どのくらいの焼き色/食感/味わいになるかを調べた。


焦げたからといって失敗ではないことを証明するために、
おいしい焦げとおいしくない焦げについて考えたパンラボする人びと。

同じ時間でも、オーブントースターがあたたまっている状態で焼くと焦げやすいので
条件が公平になるよう気をつける。


レフ板(=光を反射させるもの)が見当たらず、急遽かいじゅう屋にあったトレイを使用。


表紙のためのバタートースト。
バターを良い溶け具合にするのは難しく、何度もトライ。


池田さんによる実験報告書は3/17発売『パニック7ゴールド5月号』に掲載中です。
コンビニエンスストアへお立ち寄りの際は覗いてみてください。
ちなみに未公開写真はフェイスブックで公開していくことにしたので、チェキラウ。

『パンラボ』を書店などで見かけても買うか迷う人、いるらしい。 (ATARIMAEDANOCRACKER)
「ガチすぎてきもい」
「ガチすぎてついていけない」
「ガチすぎて手に取った本を棚に戻した」
という声を耳にし、ほっこりした気持ちになっています。 (目はセーラームーンの敵みたいな感じで)
最近の若い方々は「マジ」よりも「ガチ」と言うようですね。
『パンラボ』ってガチなんだけど非ガチな面もあるってとこを見せたい。
どうしたらいいのか分からないね!! 【D】




◆『パンラボ』増刷済みだもんっ
◆5月は京都の恵文社一乗寺店で催すもんっ
◆数量限定グッズもつくっているもんっ
◆新宿で何かありそだね…(照)
◆他の街でも何かありそだね…(照)


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(年度末で忙しい皆様おつかれさまです)
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たまに食べたくなる「ネオバターロール」との戦い
かしわで


たまに、

たま〜〜〜に、

突然食べたくなるパン、

ネオバターロール。


きょうがその日だった!やっほー!


neo1.JPG 

なぜ食べたくなるのかは考えない。

そのなぜを紐解くのもパンラボかもしれないけど、自分は気にしない。イヤッホー!


自分はときどきネオバターロールの袋のイラストと目が合う。
いつも視界には入っているけど、いつもは目が合わない。
でもときどき目が合ってしまう。
とろんとした断面図なイラストと。


発売元のフジパンのホームページに行くと、
あるわあるわたくさんのネオバター・レシピが。→ここ


やっぱり考えることは同じだ。
日本中のネオバターマンがきっとオリジナルなレシピで楽しんでるのだろう。

正直、長く愛される理由は、そのまま食べておいしいからだとは思う。
少なくとも日本中のネオバターマンたちだって基本はそのままパックンチョしてるはずだ!(決め付け)
実際、自分はそう。


だけど、その一方でなんか工夫してみたいとも考えている。



何をネオバターと戦わせるか?


たいていはこれ。


neo2.JPG


自分は挟まない。塗りたくる派。で、だいたいLEE。
LEEのキーマ。10倍!

ネオバターじゃなくても、このパターン多し。超熟でもLEE。

でも、きょうはフジパンのレシピを見てしまった。

見てしまった以上はキャスティングも考えねば!


で、こうなった。


neo3.JPG


頼みは落合シェフ。

ネオバターロール VS 予約でいっぱいの店のボロネーゼ(パスタ・ソーズ)


ネオ・ボロネーゼにしてやる!



neo 4.JPG


右がボロネーゼ、左はLEE。
(LEEはもしものときの押さえ。)


ターーーー!


ネオバターを真っ二つに割って、中に詰め込んでやる!


どうだーー!!


うまい!


さすが落合シェフのおいしい約束だ!

ネオでもその約束は守られている。


けど、


けど、


LEEもうまい!



相変わらずうまい。
ふつうにうまい。

LEEの10倍の辛さとマイルドなネオバターがあいまって、うまい。




勝者! LEE!



LEEの防衛! わーー!!



最後にボロネーゼとLEEを混ぜて、ネオバターしてみる。


パンラボ風にいえば、ボロネーゼとLEEのマリアージュ!


ワオ! これはうまい!

マリアージュ成功だ! いやお見合い成功だ!





でも勝者はLEE!


LEE!









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ル・プチメックの4daysサンドイッチ
芝浦で行われたモリカゲシャツのイベント。
たった4日間だけのために、プチメックの西山逸成さんは本気でサンドイッチを作る。

サバサンド。
秤にものをのせたとき、小刻みに針が揺れ動き、そのあと停止するように。
着地点は完全にバランスの取れたある一点。
口にしてからそこに至るまでのごく短い時間に、着地点を目指してあらゆる味わいが浮かんでは消え、交錯し、まるで味覚の針が細かく震えているようになる。
サバの脂、サワークリームの酸味、じゃがいものスライスの甘さ、レモンのさわやかさ、ディルの香り。
小さな+と−を積み重ねて完全な0へと至る。
その計算が常軌を超えて緻密なので、完全に意表を突かれる。

「ノルウェー産のサバは脂がのってすごくおいしいので、前から使ってみたいと思っていました。
サバサンドはトルコが有名みたいなんですけど、調べてみたら、たまねぎのスライスにレモンをぶっかけただけの代物で、それだと芸がない。
それで、サワークリームと合わせようと思いました。
魚にはディルが合うので、それも混ぜようと。
そしたら、渡邉政子さんから『サバはじゃがいもが合うよ』と言われました。
最初はピュレを塗ろうと思ったんですが、それだとくどくなる。
スライスしたポテトを揚げて、塩をしました」

サバの脂という+に対して、レモンやヴィネガーのような強い酸味でマリネすれば、たったひとつの式で、±0になるだろう。
にもかかわらず、近道を取らず、迂回する。
風味というより、気配と呼ぶほうがぴったりくるような、小数点以下の数字を組み合わせて、複雑な連立方程式を解く。

フォアグラのブリオッシュサンドも、然り。
「フォアグラにブリオッシュというのは定番です。
ある三ツ星レストランで食事をしたとき、前菜でフォアグラにキャロットラペ(にんじんのサラダ)が付け合わせでのってきた。
これなら、フォアグラでもあっさり食べられると思いました。
僕の作るものは、かつて食べたもののの記憶を再現することが多いんですけど、これもそのひとつです。
柑橘系のドレッシングにしたら相性がいいと思い、はちみつとオレンジを使いました」

天秤の片方にフォアグラという濃厚さを乗せて、もう片方にキャロットラペという軽やかさをのせる。
それだけではまだつりあわないシーソーに、どのような手管を使ってバランスを与えるのか。
ブリオッシュ、はちみつ、オレンジ。
いくつもの甘さを空気のようにまとわせて、そうとは悟らせないほどの密やかさでバランスをとっていく。
さまざまな甘さが細かく振れ、ゆらめく。
ひとつの甘さが浮上するたび、フォワグラとの間でそれぞれのマリアージュが生まれる。

「何回も食べてみて、バランスを確認するんですよ。
バンズを何グラムにしたらいいかとか、いろんなパターンを作って。
きれいに作りたかったんで、バンズの直径を計って、それにぴったりあったフォワグラのテリーヌを円盤状に作ろうと思いました。
樋型って呼ばれる半円形の型があって、それを使おうと思ったんですが、京都のお店に売ってなかった。
ホームセンターに行ったら、雨樋が売られてて、それがちょうどサイズぴったり。
1m680円のを買うてきて、両端をダンボールをアルミ箔で包んだもので止めて、それを型に使いました。
半円形のを2つつなげたら、丸になるでしょ」

ル・プチメックのサンドイッチには追いつくことができない。
具材の組み合わせが意表を突いているから、というだけではない。
あまりにも厳密なバランス感覚によって。
完全なバランスとはここまで快楽を与えるものなのだということを、西山逸成ほどにはまだ誰も気づけていないのかもしれない。

「フォワグラの厚さも、1cmにするか、5mmにするか、考えました。
厚いほうがフォワグラはおいしいけど、それだとくどくなるかもしれないと思って。
それで、厚さ1センチで半円形だけのも試作したんですが、やっぱりのってないところを食べてるときがあんまりおいしくない。
薄いのが全体にはさまっているとまんべんなく味がしていいというところに落ち着きました。
あのバランスで、フォワグラも、キャロットラペも、ブリオッシュも、ドレッシングの味もする。
これは、パンを作るときのいつもの工程。
僕はバランス探しをずっとしてるんですよね」

イベントの観客に配られたおみやげ。
クイニーアマン、ブリオッシュ・ショコラブラン・アブリコ、栗とショコラのパン。




パンラボ単行本増刷完了しました。


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洋梨のクリームサンドからの読売新聞

ル・プチメック2号店で洋梨のクリームサンド。


今年に入って2度目の京都!!

恵文社一乗寺店さんでの催しの打ち合わせのため、行ってきた。
パン屋さんは今出川にある1号店と烏丸御池にある2号店を巡るだけになってしまったものの
ぱんとたまねぎの林さんにも再会できた非常に有意義なプティパントリップ。


いまにも変身しそうな扉。

京都の地下鉄のホームがかっこよくて写真何枚も撮った。
バス1日乗り放題券買ったのに、地下鉄。(鬱屈)


京都から東京へ戻って、翌朝の読売新聞朝刊に『パンラボ』が掲載されていました!!

漫画家でありコラムニストの辛酸なめ子さんが
愛あふれる表現で紹介してくださった。
読売新聞を取っている方は3/25(日)朝刊文化面右上にご注目。

『パンラボ』発売から2ヶ月経ちましたね。
書店をまわってみると、
書店員さんが平積みしてくれていたりPOPを書いて推してくれていたり
雑誌・新聞・WEBなどで様々な方がよいふうに紹介してくださって嬉しいです。

催しは詳細が決まり次第、すぐブログに書くのでしばらくお待ちくださいネ!【D】




◆『パンラボ』増刷したね
◆5月は京都の恵文社一乗寺店で催すね
◆何らかのグッズをつくっているね
◆新宿で何かありそうだね
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ロータスバゲット(中目黒)
141軒目(東京の200軒を巡る冒険)



長年修行を積んだパン職人でなければ、おいしいパンは作れないのだろうか。
パン業界と関係ないからこそ、他の分野で培ったセンスやノウハウを活かして、固定観念を壊すような、新しいパンができないだろうか。

ハリウッドランチマーケット(聖林公司)が経営するロータスバゲットは、ゲン垂水オーナーの「ロータスの実が入った素朴なパンを作りたい」というアイデアが出発点だった。
日本で最初の古着屋ともいわれるハリウッドランチマーケットやHIGH! STANDARDなどのブランドを立ち上げ、成功に導いてきた人物。
担当者の両角(もろずみ)さんは、オーガニックのカフェであるボンベイ・バザールの立ち上げに関わり、つづいて、そこで作っていたパンを発展させた、代官山・旧山手通り沿いにロータス・バゲット1号店のオープンもまかされた。

「オーナーに店名を言われたとき不自然に感じなかったのは、ロータスの花が洋服の柄にも使われていたりして、身近に感じていたからだと思います。
泥の中から出てきてきれいな花を咲かせる蓮はとても魅力的な花です。
内装に使われているパープルも、ハリウッドランチマーケットでよく使われるカラーでもあり、こちらも自然と馴染みました。
オーナーはパン屋のアイデアをかなり昔からイメージされていたようで、外観やユニフォーム、パンのオブジェなんかもオープン1ヶ月前には全て揃いました。
いつのまにこれだけの情報やアイデアを集めてたのか…」

両角さんの仕事は商品開発。
スタッフのアイデアや、職人からの提案によって、パンを試作し、意見を交換しあって、ロータス・バゲットの味に仕立てていく。

ボンベイカフェの名物は、店で炊いたあんこを使った今川焼。
ロータス・バゲットを立ち上げるとき、このあんこを使ったあんぱんを出すことをまず考えた。
「あんこが自慢なので、あんぱんにあんこをたっぷり入れたいと思いました。
薄皮まんじゅうみたいなパンが食べたい、と。
でも、生地からあんこがはみ出てしまう...
職人さんは『できない』と言ったけど、いっしょになって生地をのばして、『こうやったら必ずできるから』と。
毎朝10個作ったら半分以上は破裂。
何ヶ月もかかってやっとできたときは、涙が出ました。
その後お客さまから『もっと普通のあんぱんが食べたい』という声が出たので皮を厚くし、天然酵母を使ったオリジナルのあんぱんが完成しました」

湯捏ね食パン(240円)
ミルクとホシノ酵母がミックスされたやさしい香りが立ち上がる。
持った感じも食感も軽やか。
ふかふかな中に、天然酵母らしいふくらみきれない部分があるので、噛んですぐパンが復元せず、ふかもちっとなるのが愛らしい。
軽さの中に口溶けがあたたかく感じられるのは、小麦の味わい、酵母の風味とともに、それにもまさってミルクがしっかりと滲みだしてくるから。
強すぎない甘さが、ミルクとあいまって、やさしさを演出する。

細長く、口に運びやすいスマートな形は、スタイリッシュなこのパン屋を象徴するかのようだ。
「半分の大きさの食パンが食べたい」という自分たちのわがままから誕生したもの。
「自分で半分に切ればいいのでは?」との声もある中、
「耳好きの方用に」と。
たしかに、自分で半分に切ったのでは、耳が周囲すべてを覆うことはない。

食パンを特徴づける、やさしくほんのりの甘さは、砂糖ではなく、アガベシロップを使用することによるものだ。
「ボンベイ・カフェでもう14年も使っています。
テキーラの原料であるサボテンから作られたもの。
ちょっと入れただけで甘さが出て、GI値が低い甘味料です(血糖値の上昇の速度が低いのでダイエット効果がある)」

やさしい甘さと、ふにっとした食感。
両者は通じ合い、シンクロして、ロータスバゲットのパンに共通するかわいい感じを作り出す。

「ソフトな食感なのは、糖分がある分、生地にやわらかさが出るからです。
やわらかさだけを求めると、甘くなりすぎる。
ナチュラルな感じがいい。
素材の味を壊さないように。
ぜんぶオーガニック、天然酵母。
安心・安全。
あんぱんのあんこもできるだけ砂糖を抑えて、塩で甘さをきかせています。
お子様からお年寄りまで幅広くよろこんでもらえるメニュー作り。
ハード系よりやわらかいパン。
安定感があるホシノ酵母を主に使っていますが、ビワから起こした自家製酵母も使います。
もちもち感があるので、食パンとかフランスパンはホシノを使っています」

両角さんはパンについて素人だと正直にいう。
むしろこの仕事を通じて、いまのパンの世界の現状をストレンジャーとして理解していったと。

「パン職人さんから提案されてくるパンが、すべて甘すぎると思いました。
バターを使いすぎるし、オイリーすぎる。
普通のパン屋さんをあまり知らなかったので、職人さんが提案するものを食べて、世間はそうなんだと感じた。
ペストリーをよく提案してくるのですが、世間ではこういうのをやっているんだと。
それはうちのパンじゃないと思いました。
開店当初より種類は増えましたが、味のラインは変えていません。
口の中でべとつかない感じは大事にしています」

たまごパン(120円)
かわいい甘さ、乙女味がする卵サンド。
歯が少しパンに触れただけで歯切れる軽さ。
生地がなめらかになりすぎず、ほんの少し、気泡が織り成す組織のつぶつぶ感を感じる。
軽やかさと素朴さが両立している。
甘さでいえばなつかしいコッペパンに近いのに、後口にはまるで残らずすっきりとしている。
快い甘さの中にひとときたゆたわせてくれる。

企業文化、企業風土。
同じ場にいる人が知らず知らずのうちに同じ考え、感性を共有するということはありうる。
ハリウッドランチマーケットのような、強烈な磁場であれば、なおのこと。
それはスタッフの中に内面化され、誰かにひとつひとつ指示されるわけではなくても、洋服と同じ哲学や思いを持ったパンが作られていった。

「洋服と共通しているのはシンプルだということ。
うちの洋服というのは、基本はシンプル。
いろいろな形を作って演出するというのは少ない。
それよりも、見た目の色はもちろんですが、着やすさや機能を重視します。
パンでいえば、それは食べやすさ」

広報担当の冨永さんもいう。
「洋服もパンも一貫してるかもしれない。
はじめて食べたとき、ああ、そうかと。
ぜんぜん不思議に思わなかった。
うちの会社にいたらわかるような感覚。
上辺だけの奇を衒ったものを作らず、シンプルに味と食べやすさを追求しています」

最初に誕生した、オリジナルミックスパン(300円)。
「ブルーベリー、蓮の実、よもぎ。
体にいいものばかり。
カフェで出しているいつものブルーベリーに、毎年やっているもちつきに入れるよもぎ、ロータスバゲットのはじまりになったロータスの実。
スタッフの記憶に残っているもの、納得できるものばかりを使ったミックスパンです」

ボンベイバザー、ロータスバゲットともにオーガニックにこだわる。
ときには現地に足を運んで、食材の生まれる現場を見る。
「ブルーベリーを摘ませてもらったり。
実際に行ってみると気持ちも変わって、素材を大事にしようと思います。
ブルーベリーおじさんはすごい(笑)。
あれだけの広い畑を、夏の間は毎日採ってくださって」

焼きたてフランスパン(300円 ブルーベリジャム or オリーブオイル or バター つき)
焼きすぎないゆえに全身が中身。
噛むともちもちして、ぎゅっと音が鳴る。白い小麦の甘さがミルクでも飲んだときのように、ひたひたと舌の上に溜まり、やがて軽やかに口中に発散してくる。
国産小麦ならではの、舌に馴染む味わい。
頂点のよく焼けたところのみはすばらしく香ばしい。
げんこつパンや、ファンデュのような、昔からある、単純で、それゆえにやさしく、飽きのこないパンたちのことを思いだした。

「突然の産物でした。
1番人気です。
中にホイロやオーブンのついた車で移動し、横浜界隈で焼きたてフランスパンを販売しようと試みて、まずは自分たちのブルーブルーヨコハマの店横で販売しました。
予想以上に顧客様に来ていただけるようになり、その場所から動けず、移動式ながら、不動のまま現在に至ってます(笑)。
スタートする前に1回練習したほうがいいってことで、試しに作ってみたら、これができてきて、『こういうのいいよね』という事で完成したフランスパンです。
パンにも好みがありますよね。
バゲットは皮がぱりぱりしてなくちゃという人もいるし、こういうもちもちしたのがおいしいという人もいる。
ごはんの固さ同様に、パンもこだわって当然だと思います」

経験がなければ、先入観をもちえない。
知識がなければ、直感を大事にするほかはない。
伝統や基本を大事にするパン業界にあって、その外側にいる人たちが、かえって原点的なパンを発見したことは、興味深い。(池田浩明

東急東横線 中目黒駅
03-3715-0284
12:00〜22:00
無休

#141

パンラボ単行本増刷完了しました。


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#141
200(東急東横線) comments(0) trackbacks(0)
花屋さんでパンを食べる経験
表参道のNicolai Bergmann Nomu(ニコライ バーグマン ノム)。

ニコライ・バーグマン氏の花屋さんに併設されたカフェで
パンが食べられるという。


フォカッチャ、パニーニ、ベーグルなどのパンを使ったサンドイッチが沢山ある。


ボリューミーなサンドイッチを2つ注文し、半分ずつシェア。

え?

誰とシェアしたかって?

知りたい?

たい?

ほら、表参道といえば…






大野さんじゃん!! (プルプルプルーン!!)←登場音


このようなオ・シャーなお店をわたくしが知るはずありません。
大野さんが教えてくれたのです。
時折パンの断面をじーっと見つめながら、話をしました。
花の香りが漂うような空間でパンを食べるという機会はなかなかない。
そういえばもうお花見の季節か…。
(皆さんはどうせ友人とかパートナーとか家族とかと一緒にお花見と称した飲み会とかして盛り上がるんでしょ…知ってるよ…それで美味しいものいっぱい食べてちょっとエッチな話とかするんでしょ…わたくしもお花見パーティーするんですけど参加者が自分だけなんですよね…ああ困った困った…)


昨日発売の『あまから手帖』4月号でパンラボが紹介されています。


やったね!!【D】






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◆今グッズをつくっているよ
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(桜の季節)
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きょうのジャケ・パン
かしわで


ヤマザキ・春のパン祭りの影響なのかよくわからないけど、
今や日本中のパン屋がパン祭りしてる気がする。

メーカーだけでなく、ちょっとしたチェーン系パン屋も。


かいじゅう屋さんもしてるのかな?


かいじゅう屋、春のパン祭り


なんだか得体のしれないスケールを感じるんだけど…ギャオス!


というわけで自分も自分を急き立てるようにお祭りに参加してみた。


120323_1340~020001.jpg

駅の地下にある神戸屋さんにお祭り!

右手前はコク濃チーズケーキ、左は丹波黒豆。

チーズケーキはそのキャッチ「デンマーク産チーズ使用」のキャッチに引きずられて。

丹波黒豆はネーミングの丹波に引っ張られて。


たとえば、チーズ売り場に行って、チーズでも購入しようと思ったときには
絶対に「デンマーク産」には引きずられない。 
これは自信を持って言える。

この時期ならおそらく今年最後のモンドールに目が行くのかもしれない。
(ひぃ〜今年も結局ひとくちもできない予感)

だけど、パン屋では見事に引きずられた。
ズルズルズルズル…って引きずられた。

なぜだ!



まぁおそらく自分がチーズケーキ初心者ゆえのズルズルズルでしょうね。
チーズケーキ通に聞いたら、デンマーク産チーズのチーズケーキはけっこう見かけると言われましたし。


チーズケーキも丹波黒豆もどちらもギッシリ感があって、
デンマーク! 丹波! と叫びたくなるような
お味でおいしゅうございました。
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プルクル(代々木)
140軒目(東京の200軒を巡る冒険)

ある日、藤沢市にあるプルクワに、ミュージシャン小林武史氏が訪ねてきた。
彼が構想した空間、代々木ビレッジに出店しないかというオファーを携えて。
プルクワと、小林武史氏のプロジェクトkurkkuはコラボし、プルクルというパン屋ができあがった。
シェフは藤田麻衣さん。
オーナーシェフの神田淳さんのもとプルクワで3年にわたってパンを焼いてきた。

「プルクワは、できるだけ体にやさしい材料で、製法にもこだわりをもって作っています。
天然酵母と少量のイーストを使って低温長時間発酵させて味をしっかり出しています。
プルクルでも新しいものを取り入れていますが、プルクワの元の部分はぶれないように心がけています」

プルクワのオリジナルに、藤田さんが得意とする焼き菓子や、ほんのり甘い豆乳はちみつパンなどを加えて、プルクルはできあがった。

シナモンロール(190円)
フィンランドの元祖シナモンロール、プッラに似ている。
口にすれば、シナモンの香り、卵の香りがふんわり広がる。
やわらかくふにっとしたお菓子っぽい噛みごたえがあって、やさしい甘さがじわっと溶けて、やがて出会うアーモンドクリームと交錯してコクを加え、ひりひりと強まりながら舌に滲み入ってくる快さで、心は虚ろになる。
アーモンドクリームが生地からはみだしたところは、かりかりしゅわっと溶ける。

「プルクワの神田シェフは新しいものを取り入れていく方です。
おいしいものならなんでも取り入れる柔軟さがあり、商品はバラエティー豊か」

プルクワ=プルクルの新しさ、石窯オーブン。
フランスパンやデニッシュなどきっちり仕上げたいパンには普通の電気オーブン、フォカッチャやパニーニなどイタリア系のパンや、もちっとさせたいベーグルには石窯オーブン、と使い分ける。
石窯に入れたパンは、点々とついた焦げ目で、すぐそれとわかる。
プルクルの焦げは苦くない。
さわやかに香ばしい。

「石窯オーブンだと、普通のオーブンとはできあがりはまったくちがいます。
石窯だと高温なので、焦げた部分も焼きすぎじゃなくて、香ばしさだけが残って苦くない。
一瞬で焼き上がるので、水分が閉じこめられる。
まわりをぱりっとさせて、中をもちもちにします」

石窯ホットドッグ(330円)
豊かに肉汁あふれるソーセージが、ロースト感によってさらに味わいを深くしている。
焦げた部分が生地に滲みこんだオリーブオイルの風味と直結して、甘さとして感じられる。
この感覚は石窯で焼くピッツァ=フォカッチャ系パンならではの至福だと思った。
ザワークラウトの酸味、ソーセージ、パンの三位一体。
具材の味わいが、小麦味のふくよかさと出会ってやわらかくなり、また具材の味わいゆえにより小麦味を甘く感じるという、幸福な関係が結ばれている。

自家製酵母を使用している店だが間口は広い。
酵母ならではの味わいのふくらみがあって、しかも食感に硬さや尖りがなく、口溶けもスムーズ。
あらゆるパンにやさしさがある。

「天然酵母だけだと酸味が強くなるので、イーストもちょっとだけ入れて、両方のいいところを引き出しています。
天然酵母は硬くなりがちなので、そこを食べやすくするのがイーストだと。
ハード系だと、手が出にくいものもありますよね。
日本人にはむずかしい。
毎日の食事に合うもの。
地元の方によろこんでいただけるような、毎日食べられるものを心がけています」

パニーニ(350円)
手に取るとあたたかかった。
それはなんと幸福なことだろう。
それはパンの表面をさくさくにし、チーズをとろかし、生地をやわらかに、風味をより軽やかに広がらせ、小麦味をふくらませる。
炎の香りは石窯ならではのもの。
トマトの甘酸っぱさ、生ハム、バジルの香りは、生地をふにゃふにゃにしてしまうほど豊潤な果汁と肉汁を通じてパンに移りこんでいる。
これでなくてはならない、という厳密なマリアージュではなく、ゆるやかだけれど、すべては共振している。
素朴ゆえの幸福感。

プルクルで買ったパンのほとんどがほのあたたかかった。
驚異的な焼きたて率は、たゆまぬ心配りによるものだ。

「奥さん(神田晴美さん)が、接客に関してもすごく勉強になりました。
地元の方との交流がすごくあって、接し方がすごくよくて。
その姿を見て、プルクワに入りました。
明るくて、心配りをすごくしている。
たとえば、なるべく焼きたてをお出しすること。
前の回の分を下げて、新しいものを出したり。
すぐ食べるお客さまには、『あたため直しますか?』とお尋ねしたり。
焼きたてにこだわっています。
あるいは、どなたかへのおみやげにする方には、『お包みしましょうか?』と声をかけたり。
お客さまひとりひとりに対して尽くす。
忙しいからといって手を抜かずに、ひとりひとりに対してじっくり接客する」

プルクルを出たあと気づいた。
東京というぎすぎすした都市にあって、この店の中だけが、ゆるく、ふわふわしていたことに。
パンがやさしい。
女性スタッフばかりのせいもあって、人がやさしい。
代々木に出現したこの新しい空間に与えられたビレッジという名に、プルクルはふさわしいのだった。


JR山手線 代々木駅
03-6300-5390
8:00〜20:00

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