パンの研究所「パンラボ」。
painlabo.com
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
かいじゅう屋のパンといっさつ
かしわで


パンといっぴき(桑原奈津子著・発行PIE International)
という本をパラパラとコンフィデンシャルしてたら、素通りできないキャプションに遭遇してしまった。


IMG_0993.jpg 


↑↑↑パンの朝食を、パン好きの犬のおあずけシーンとともに紹介する本

に、

↓↓↓かいじゅう屋さんのフランス食パンが登場していた。

IMG_0994.jpg



↓↓↓かいじゅう屋さんのチョコチップパンとぶどうパンも登場していた。

IMG_0996.jpg


パンラボを連載している「パニック7ゴールド」という活かしたヤング系漫画誌の編集長・ミスターTがこの本を見て、
自分のとこの愛犬チャッピーもパン好きですよ!
しかもこの犬と同じようにおいしいパンしか食べません。
(この犬がおいしいパンしか食べないのかどうかはわかりませんが、ミスターTはそう思ったのでしょう)
とにかく対抗心剥き出しで主張してきました。

犬は人間の数千倍の嗅覚を持ってるといいます。
おそらく人間が美味しそうと感じるパンの匂いの数千倍のおいしそうを感じてるのかもしれません。

いいなぁ〜そんなに美味しそうと思えて。

つまりこの写真のおあずけの表情はこちらが思ってる以上に
ハードなおあずけだということです。

だってかいじゅう屋さんのパンですからね。

軽く炙って、バターなんて塗られたら、嗅覚の退化著しいアラ・フィフ(←まだ初期段階です!←必死!)のおっさんでもヨダレを垂らすこと必至ですよ。


かいじゅう屋さんだけでなく、パンラボに登場したことのあるパン屋のパンがたくさん登場してます。
犬は数千倍、数万倍のおいしそうに囲まれていたことになります。
うらやましいかぎりです。


- comments(2) trackbacks(0)
ブール・ブール ブーランジェリー(八王子)
171軒目(東京の200軒を巡る冒険)

パリのような。
と大雑把に形容してもまちがいではないが、パリにだっていろいろな場所がある。
VIRONはさしずめ、16区のような高級住宅街や、ルーブルかオペラ座あたりのような中心部のイメージだろうか。
ブール・ブールはもっと町外れ、バスチーユのような若者が集まる先端的な町の、手作りの店といった趣きである。

青の扉と、赤い扉。
まるでデジャヴのようにパリの風景とかぶった。
フランスの店のファサードは、なぜかはわからないがこの2色が多い。
1軒で2軒分を表現して、横町を模しているのだ。
どこで見つけてきたのか、扉に張られた「POUSSEZ」(押してください)の札や、飲食店の営業許可証、オランジーナの色褪せたポスター。
フェイクはどこからどこまでも手が込んでいる。

草野武店長はフランスが大好きな人だ。
「フランスをやりたかったんです。
ミニチュアなフランスの店を作りたかった。
1年に1回はフランスに行くようにしています。
新しいパンがあるとか、そういうのではないんですが。
向こうの人の、たとえばホームステイしてたご両親のお宅に行く。
話すことが、『孫が生まれるのよ』とか、フランス人の普通の生活のことだったり。
そういうのを体験するのが楽しい」

パリが好きという気持ち。
エッフェル塔やシャンゼリゼのような観光地ばかりに心惹かれているわけではない。
フランス人がほとんどなんとも思っていないような日常の風景。
たとえば、アパルトマンの重い扉を開くと、どんな建物にも石畳の中庭があり、それを横切るとぐるぐると狭い階段がとぐろを巻いていて、映画で見た風景とやっぱり同じであることを確認するだけで心が躍る。

「パリのモワザンと、メゾン・ランドメーヌで研修したことがあります。
技術的にすげー新しいというのはなかったんですけど、ホームステイをして職場に通う生活の中で、パンがどんなふうになってるかわかるのでよかったです。
マダムが毎朝買いに行って、常にパンが食卓にある。
ころんとそのへんに置いといてくれる。
おいしいし、満足して食べる。
焼き戻したりしないし、ラップに包んできっちり冷凍したりしない。
パンは本来こういうものなんですね。
気候が日本とちがうから、置いといてもだいじょうぶなんですね」

おいしいということは、もちろん。
手を伸ばせばいつもそこにある、気のおけない関係。
ブール・ブールは、パン自体というよりも、パンとフランス人との関係性を再現しようとしている。

バゲット(270円)
繊細な内相。
心地よいタッチですーっと噛み切ったあと、断面を見て驚く。
歯が通過したあとがきれいにストライプになっていたのは、やわらかで、かつなめらかであることの証明ではないだろうか。
反対に、皮は硬く乾いていて、かんかんかんと鐘でも鳴らすような小気味よい音を立てる。
やわらかな中身はさっと溶ける。
皮からも中身からも、なんともいえない楽しげな甘さが広がり出す。

「最近ようやくいい方法を見つけたんですよ。
プースラント(成形後に低温で長時間発酵をとる方法)ですが、あれを0℃とかすごく低い温度でやる。
設備がないので仕方なく冷蔵庫でやっているのですが、すごくおいしくなる。
フランスで教わっていたんですが、最近ようやく安定してきました」

フランスに行く前、いまはなき名店、茨城のニコラで修行した。
「時間をしっかりとかけ、温度を守る。
フランスパンもパンチの数を少なくして、あまり触らず。
『ちゃんとやってなさい』とパンに言い聞かせて、あとはパン本意にやらせる。
ニコラの師匠・杉山(洋春氏)から言われたこと。
ニコラみたいなパンを作りたいってずっと思ってて。
ニコラでは、スケッパー(生地をカットする道具)を使わない。
分割するためにばんじゅう(生地を入れる箱)から出すときに引っ張られて、生地に傷がつくからです。
ばんじゅうに入れたままはさみで切って分割する。
ブリオッシュでもバゲットでもはさみで切って分割。
慣れるとわりと速くできるんですよ。
触っていいときにしっかり触れるように、その前は触るのを少なくしておく。
成形のときだけ触る。
基本的にはパンをいじらないほうが、風味が飛ばない。
杉山はそのことをすごく気にしていました」

ガレット(180円)
あえて素朴に。
ただの円盤である。
あえてふくらませず、ふわふわせず。
目はやや詰まり、平たいのにもっちりして。
発酵の香り、フロマージュブランの香りが、酸味をともなって、からみあって。
カスタードのすばらしい甘さが広がる。
なんということのないパン。
子どもが小銭を握りしめて買いにくる、駄菓子のようなパンの表現になっている。

ガレットといっても、日本でポピュラーなガレットブルトンヌ(そば粉のクレープ)ではなく、お菓子パンである。
「カスタードとフロマージュブランを入れたガレットブレッサンヌです」

ラング・ド・ブフ(190円)
甘さ控え目のブリオッシュを扁平にした「牛の舌」。
表面の焦がしキャラメルがオリジナリティ。
ほろ苦く濃厚に溶け、ふりかかった砂糖がとろけ、かりかりした氷砂糖からは別様の甘さも流れ落ちる。
とともに、ブリオッシュも溶けて、卵とバターの甘さが滲みだして、それらの口溶けやとろけや滴りのめくるめく合流によって、舌までとろけ、ほっぺたが落ちる。

ガレットやラング・ド・ブフ、タルト・フランベ。
ショーケースにあるのは、色とりどりのフルーツを盛った豪華なものではなく、素朴な表情の菓子パンや、惣菜パンといった、下町のパンたち。
『地下鉄のザジ』のカトリーヌ・ドモンジョが、口を大きくあけて頬張るところが想像できるような。
草野武店長が「フランスをやりたい」というときの「フランス」とは、こういうもののことである。

ブール・ブール ブーランジェリー
JR中央線 八王子駅
042-626-8806
八王子市八日町10-19
11:00〜19:00(売り切れ終了)
火曜・水曜日・隔週月曜休み


#171
- comments(0) trackbacks(0)
サロショコのポワカン
伊勢丹新宿店で今日まで行われていたサロン・デュ・ショコラ。
ポワラーヌのパン登場と聞いて食べに行った。

ポワラーヌとは、パリでただ一軒、伝統的製法のカンパーニュを自家製酵母・薪窯で焼きつづけた伝説的な店。
日本のカンパーニュの草分けであるルヴァンもこの店を参考にしている。

イートインで、皿盛りのデザートとして「タルティーヌ・ショコラ・グルマンディーズ」を供していた。
パン・カンパーニュのタルティーヌ(コポー、プラリネクリームの2種)
ブリオッシュ パンペルデュ風(ポワラーヌ)
ムース・オ・ショコラ(ジャン=ポール・エヴァン)

私のお目当てはタルティーヌ。
ジャン=ポール・エヴァンは、伝統的パンをチョコレートでどのように彩ったのか。
あの豪華なチョコレートを、素朴なタルティーヌという形式で活かすことができるのか。

コポーとは、薄く削ったチョコレートのこと。
あたためられたカンパーニュの上で溶けて、踊っていた。
バターがチョコとカンパーニュをつないでいた。
塩気のきいたバターはカンパーニュから甘さを引き出し、甘さの控え目なチョコレートと調和が生まれ、苦いカカオと酵母の香りが対立しながら同調する一瞬が甘美だった。

プラリネクリームはヘーゼルナッツのものだっただろう。
おそらく、ジャン=ポール・エヴァンは、ポワラーヌのカンパーニュにヘーゼルナッツの香りを嗅ぎ、それゆえにプラリネを合わせたのではないか。
ライ麦の香りとプラリネがどこからどこまでかわからないほど一体となっていた。

ジャン=ポール・エヴァンのムース・オ・ショコラもほっぺたが落ち、舌がとろけるほど、なめらかでおいしかった。

これとは別に、「ムニュ・アミティエ」というものがあり、迷った末、「グルマンディーズ」にしたのだった。
「ムニュ・アミティエ」とは、
「夢のトリプル・コラボ皿。〈ジャン=ポール・エヴァン〉〈クリスティーヌ・フェルベール〉そしてパリの有名ブーランジェリー〈ポワラーヌ〉。チョコレートアイスクリーム、フルーツのコンフィ、ブリオッシュ(公式HPより。以下略)」

隣で、これを食している女性がいて、たいへんうまそうだった。
女性「どれがいちばん人気あります?」
店員「ムニュ・アミティエでございます」
女性「ですよねー」(はるな愛風の抑揚で)
という会話があった。
なんか悔しかったのでご紹介しておく。(池田浩明)


- comments(0) trackbacks(0)
第一パン工場見学
IMG_7045.JPG
先日の日記でお伝えしたように、第一パンさんの工場見学へ行ってきた!
実は製パンメーカーの工場見学は初めての体験。


IMG_7041.JPG
小平工場へ。


IMG_7046.JPG
主力商品が一堂に会する。
人気の"ひとくちつつみ"シリーズもあるね。


IMG_7059.JPG
配送前のスペース。

他にも色々とご案内していただいたのですが、
正しくは池田さんの日記更新をお待ちください。忘れた頃にUPされるはず。
(池田さん何かと忙しそうだ)【D】



にほんブログ村 グルメブログ パン(グルメ)へ panlaboをフォローしましょう
("スイートポテト蒸し"が美味しかった)
パンラボ comments(0) trackbacks(0)
生クリーム入り
IMG_7069.JPG
ドトールコーヒーにあるミルククリーム入りメロンパンが美味しい。


IMG_7072.JPG
表面がやわらかめのクッキー生地タイプ。
(砂糖のかかったキラキラ系)


IMG_7076.JPG
裏面の色が濃くなっているところを剥がして食べるといいね。

パッケージに"中のクリームが柔らかいからお気をつけて…"との注意書きがあるほどだったので
どんだけやらかい訳!? へい、カモンっ!! と手で割ると、
 

IMG_7080.JPG
ほややや〜ん。

ほややや〜ん ホウィップしたての ほややや〜ん


IMG_7052.JPG
先日取材に伺った第一パンさん
蒸しパンの中にホイップクリームが入ったものがあって(右・ふわりいキャラメルシフォン)、
で美味しかったのを覚えていて、なんとなく注入系を買ってみたくなったのでした。

注入系のパンはだいたい穴が開いていて、その穴探しが楽しい。
最近池田さんの更新が続いていて、久しぶりの日記。【D】



にほんブログ村 グルメブログ パン(グルメ)へ panlaboをフォローしましょう
(第一パン取材の様子はFBのパンラボページにて!)
パンラボ comments(0) trackbacks(0)
1月26日(土)希望のりんごの販売時間について
1月26日(土)に陸前高田の希望のりんごを販売するイベント「被災地応援 高校生マルシェ」(リンク)は11時から有楽町の交通会館で行います。
先日の告知記事で「13時」としたのは誤りでした。
訂正し、お詫びいたします。
メインの正面入口前での販売は11時から12時半まで、その後は規模を縮小して会場内の別の場所で15時半まで。
売り切れ終了となります。


頌栄女子学院高校の女子高校生たち・ニコニコガールズ(略称NKG12+4)が、「希望のりんご」と、それを使った商品、パン オ フゥ(五反田)のアップルパイ、岩手県大船渡銘菓「かもめの玉子」の希望のりんごバージョンを販売します。

- comments(0) trackbacks(0)
ブーランジェリー ベー(大泉学園)
170軒目(東京の200軒を巡る冒険)

シェフはいつも窯前にいる。
対面販売のカウンターの向こう側、彼とスタッフの一挙手一投足はすべて客の目にさらされる。
にこりともせず仕事に没頭するシェフの気合いは、スタッフに波及し、このオープンキッチン全体を真剣さで満たす。

パンの仕事でもっとも大事なもの。
それは「焼き」だと國島武人シェフはいう。

「何日も何時間もかけていいものができてるのに、焼くときには2分、3分でダメにしちゃう。
窯は大事だと思う」

だから、國島さんが窯前の定位置を明け渡すことはない。
パンを作る工程の最終地点。
スタッフ全員がつないできた生地というバトンを、最終的にゴールさせるのはシェフの責任だと信じるからだ。

「料理の世界でもソシエ(ソース担当)、ストーブまわりが花形。
パンもそうじゃないかと思います。
各工程のしわ寄せがくるのが窯。
まず仕込み、分割、成形、発酵とって窯。
各ポジションでー2点、ー3点のミスがあって、最後窯に、100点でくることはない。
いちばんそのパンをわかってる人間が対応しないとできない。
生地と会話ができないと。
見たり、触ったり、嗅いだり、五感をフルに活用して、何度で、何時間であがってくるかという数字も大事だし。
その対処の仕方をどれだけ知ってるか。
温度設定や時間、窯の中の入れる場所を変えながら」

パンのオーラ。
山と積まれ、鈍く光るバゲットの表情が凛々しい。
出来が一定であるからなのか、たたずまいはどれも端正で、買われていく瞬間、食べられる瞬間を無言のうちにじっと待っているように見える。

ルージュ(300円)
ピーカンナッツ、ドライチェリー入りのパン。
皮を乾かせ、中身には十分に水分を残す。
瞬間的に皮が破砕し、その砕け散りぶりがナッツと実にシンクロする。
一方で中身は湿り気にもかかわらず軽やかで、あっさりと溶けていく。
また、しっとり感による、ちょっとひんやりした舌触りも、チェリーの果肉、あるいはすっぱさと響きあう。
と同時に、チェリーの甘さと、しっかり焼きこんだ皮に特有の甘さにも、バランスがある。
ベーのパンはこんなふうに緻密な計算と技術が一体となっている。

「実家は福島の田舎でパン屋をやってるんですが、東京の専門学校を卒業したあと、東京のパン屋で1年半働き、家業を継ぎました。
5年ぐらい親の元で働いていました。
その頃、たまに那須に遊びに行くことがあった。
いま考えたら大したパンじゃなかったんでしょうが、そこで食べたクルミのハード系のパンがおいしくて。
自分もハード系のパン焼いてみたいな、と思った。
自分でもやってみましたが、うまくいかなかった。
東京で働いていたときも、なにせそこまで突き詰めてやってなかったので。
東京でもう1度修行したいと、親を2年ぐらいかかって説得しました。
親父は19で店を出して苦労した頑固な職人。
反対されたが、諦めなかった」

「頑固な職人」と呼ぶ父の血は、國島シェフ自身がきっと濃厚に受け継いでいるのだろう。
彼の語り口や、仕事ぶり、なによりも作りだすパンから、そう思う。
実家を継ぐという定まった軌道から外れて再び上京したのは、大事な忘れ物を取り戻すためではなかったか。
國島さんは、そのために探していた師をすぐに見いだす。

「アンジェリーナを見たときは、当時カルチャーショックを受けました。
そのときは募集がなくて入ることができませんでしたが、紹介で入ったデイジイ(川口の有名店)で働きながら、休日にはアンジェリーナに足を運んでいました。
隅さんはパンの表情とかにものすごくセンスがある人。
アンジェリーナには、そこに惹かれたというのもありますね。
店の雰囲気作りもすごくよくて、フランスの田舎のパン屋さんみたいな感じ。
シャンソンを流していました」

アンジェリーナは健在だが、いまは移転し、國島さんの最初に見た店舗はすでにない。
だから、当時の店舗はいま見ることができないが、2000年代初頭に訪れた私にも、アンジェリーナは圧倒的な印象を与えた。
まだまだブーランジュリーの名にふさわしいパン屋は少なかった頃でもあり、これがフランスパンだ、と思ったものだ。

國島シェフはやはり諦めることなく、3年かけてアンジェリーナに入った。
「元々ベーカリーカフェをやりたかったこともあり、パンのほうが人が足りているのはわかっていたので、売場だけでもいいのでといって入れてもらいました。
キッチンで働きたいと。
隅さんはケーキや料理が好きな人なんで。
当時の僕は包丁が使えなかった。
にんじん1本切れなかった。
短冊切りもわかんなかったし、千切りもできない。
隅さんがそこから教えてくれた。
パンだけだったら、そんなに必要ないのかもしれないですけど、料理とお菓子とパンはつながっているところがある」

料理を学ぶことは、パンを深いレベルで理解することにつながるだろう。
隅シェフの影響はベーの店の中にも見つけることができる。
たとえば、ベーではパンのみならず、トータルで食を提供しようとしている。
この小さな店舗で、パン以外の食べ物がこんなに充実していることは珍しい。
コンテやブリーなど、ヨーロッパから輸入されたチーズ。
地元大泉学園の名店であるル・ジャンボンのハムやソーセージ。
そして、自家製の惣菜。
サンドイッチも本格的で、手間とオリジナリティを感じさせる。

「パンのラインナップも食事を意識したものを出したい。
よその店ではいいと思うんですけど、うちでは、『このパン、いつ食べるパンなんだろう?』というようなものは出したくない。
このパンはこういう食事のときに食べてほしいな、と思いながら作っています。
オーソドックスなフランスパン(パン・ド・べー)はオールマイティ。
バゲット・ミュールは魚介系の食事、フュメ・ド・ポワッソン(魚のダシ)につけていただくと相性がいい。
お肉系だったらバゲット・コンプレは動物性の脂肪と相性がいい」

パン・ド・ベー(200円)(写真上の中の上のバゲット、写真下の中の右のバゲット。隣りはバゲット・ミュール)
ブーランジェリー ベーのラインナップの中で、パン・ド・ベーはスタンダードで日々の食事にも買いやすい価格のバゲット。
反り返るようにクープが立ち、かりかりと小気味よく弾ける。
皮の硬さとまったく対称的な中身のやわらかさ、湿りに驚く。
気泡の中へ唾液が入り込んでいく感覚があって、それゆえにしゅわしゅわと溶けていく。
そのとき、塩のミネラル感を感じさせながらおだやかな甘さが揺れながら滲む。
溶けた皮もなお香ばしさを発し、鼻腔へ甘い香りが立ち上っていく。

「オープン当時から5年目ぐらいまで、けっこうとんがった仕事をしてた。
だんだんいまの自分に合った、そういうパンになってきたのかな。
ダメなものはダメという考え方でやってきましたけど、そういう考え方はしなくなりましたね。
そんな背伸びはしなくていいのかな。
以前は自分に自信がなかった、プライドが高かったというか。
お客さんにおいしいねといわれても、正直うれしくなかったんですよね。
納得できるパンが焼けてうれしいなとは思っても。
最近ようやっとお客さんが想像できるようになった。
おいしいねといって食べてる姿を。
お客さんが自分のパンを食べてる姿が見たいなって」

作るパンがその人の人間性を写す。
年齢とともに嗜好も移り変わる。
また、子供ができるという人生の大きな節目も、人の感性に影響を与えずにいないだろう。

「去年、子供ができて、保育園のお誕生日会でシュークリームを焼いたんです。
子供たちがシュークリームを食べてる姿が見たいなと思って。
いままでは自分のプライド賭けてやってきましたが、そんなのたかがしれてる。
地域密着って言いながらも、職人が食べておいしいパンを目指してた。
ものすごくとんがってた気がしますね。
このパン食べてわからないんだったらいい、みたいな気持ちで作ってた気がしますね。
コンセプトとかいろいろありましいたけど、コアな部分にはそれがありました。
恥ずかしいですけどね。
スタートが遅かったせいで、デイジイに入ったのも26。
新卒の人と仕事する劣等感が強かったんでしょうね。
それをバネに仕事をしてるうちにそうなってしまった。
デイジイにいた頃、19、20の人に使われる。
しょうがないなと思う半分、悔しい気持ちもものすごく強くて、でも、そう思っても仕事ができないので、気持ちのままに進んでしまったのは、よかったのか悪かったのかわからないですけど、最近は変わってきたのかな」

職人のこだわり、とはよく言われる言葉だ。
それは、客が気付くかどうかわからないほどの、繊細なレベルに及んでいることだろう。
ときには、マニアックでない客にとって必ずしも望ましいといえないこだわり(例えば、硬い皮)にさえ、寝る時間を削って心血を注ぐ。
それは、単に客を置き去りにしていることなのだろうか。
國島さんの衝動、理想とするパンを焼くために払われる、人生を賭けた努力。
それを理解はしていなくても、職人の厳しい仕事がもたらすなにかに触れたくて、私たちはパン屋に足を運ぶ。
そうしたストイシズムの空気が、ブーランジェリー ベーにはある。
パンとは、あるいは別の言い方をすれば、「作品」とはそういうものなのだ。
他人からは理解できないほどの高みに達しているものは、作者のやむにやまれぬ衝動や、コンプレックスに発している。
だから、國島武人さんのいう「劣等感」を聞いて、私は大いに納得し、ますますベーのパンをおもしろいと思った。

もうひとつ、國島さんのパンに変化をもたらした、直接のきっかけがある。
「やり方も以前とは変わったりしましたね。
セーグルも、パン・ド・ベーも変わった。
パン・ド・ベーはいままで細かいマイナーチェンジしかしてませんでしたが、半年ぐらい前がらっと変えましたね。
ある人のパンを食べてショックを受けた。
もっちりしているのに口溶けがいい。
皮もがっつりしているのに、すっと溶けていくというフランスパンを食べてショックを受けた。
それがルセットを変えるとっかかりでしたね。
自分の気持ちも、好みも変わった。
(飛騨高山トランブルーの)成瀬(正)さんのパン、講習会で食べたら、『ん? 』と思った。
『今まで食ったことないな』と。
うまかったんですよね。
成瀬さんの本、西川(功晃、サマーシュのシェフ)さんの本、読んでたんですけど、なんでそこまでミキシングかけるのかわからなかった。
なるほどな、そういうことなのか、とやっとわかった。
窯伸びなんですよね。
窯で生地を伸ばすことによって、フランスパンの皮が薄く、口溶けのいいパンが焼けるんだなと。
いままでの自分の作り方では、高温短時間ということだけ先行していた。
ところが、成瀬さんのやり方は、窯伸びさせるためにミキシングも強めにし、その段階である程度しっかり生地を作ってしまう。
その前の僕のやり方は、あまりミキシングしないで、寝かせたり、パンチでつないでいく。
使う粉とのバランスもあるんですけど。
しっかりつないで、窯伸びさせることで、皮も薄くて、口溶けのいいフランスパン焼けるのかなとわかった。
もっちりしてるのと、口溶けいいのとは、相反するものです。
自分自身、内麦(国産小麦)にこだわってるんですが、そんなときに成瀬さんのパンに出会って『なんだこれは』と。
パン・ド・ベーも内麦をメインに使っていたんですが、いまはフランス産7割、レジャンデール(日清製粉の強力粉)3割に変えました。
ある程度灰分があってタンパクが低い粉を探していましたが、やっぱりフランス産なのかなと。
自分に合う粉が見つかった」

成瀬シェフのパンを食べて衝撃を受けたのは、もっちりした食感と、口溶けよさという反対概念が、1本のバゲットの中でともに実現されていたからだ。
そこに自分の焼くべきバゲットの可能性を見た。
味わい深く、食べごたえもあって、しかも口溶けいいバゲットへ。
パン・ド・ベーをワンステージ上へと引き上げるきっかけとなった。

このエピソードからもわかるように、國島シェフのパン理論というのは、あらゆるファクターを、相反する概念の関係として捉えることである。
たしかに、パンとは相反する2つからできていることが多い。
皮と中身、パンとフィリング、軽さと重さ…。
その両者のあいだにどのようにバランスを取るかが、自分の追い求めるパンを作る上で決定的に大事だと、國島さんは考える。

「バランスを考えながらいつも作っています。
配合を考えるのも、実際に焼くのも、バランスを考えてます。
どれぐらい皮を厚く、薄くするのか。
保湿性はどれぐらいもたせればいいのか。
たとえば、クリームパンなら、このぐらいの皮で、このぐらいのクリームの量、皮の香ばしさ、厚さに負けないクリームの量。
それぐらいインパクトあったほうがいいんじゃないか。
ブリオッシュも、どれぐらい発酵とれば、どんだけ口溶けがよくなるのか。
口溶けとボリュームが出すぎれば、味は薄くなるし。
どれぐらい発酵を抑えて濃くするか。
店のラインナップもそうです。
ハード系ばっかりじゃなく、甘いものばかりでもなく。
バランスの落としどころをどこにするのか考えながら焼いてますよね」

クリームパン(180円)
断面写真を見てわかる通り、隙間なくクリームが詰め込まれている。
手に持つとずっしりとした重さを感じる。
特に中心部は薄皮のワッフルのようにクリームの味を猛烈に感じ、そのリッチさが幸せな気分にさせてくれる。
それは、パンが薄くてクリームが多いということもさることながら、こんがりと焼かれて軽やかな、菓子パン生地の一気の口溶けも大いに貢献している。
跡形もなくパンが溶けても、バターの甘さだけ後味に残る。
それがクリームのおいしさをさらに加速させるのだ。
クリームもしっかりと甘く、4噛みぐらいしたところで、甘さの輝きがさらに跳ね上がる。

國島シェフがもっとも大切だという、バランス。
皮か中身か、水気か乾きか、硬さかやわらかさか。
生地のベストなバランスを最終的に決定するポジションこそ、「焼き」に他ならない。
それが國島さんが、窯前を決して譲らない理由であろう。
そして、ファクターの対立とは、本当は二者択一や一次元的な「あれかこれか」ではないのだと思う。
繊細微妙な、ここでしかないという決定的な瞬間において、決して両立しえないものが両立し、パンに奇跡さえ呼び込む。
その瞬間を求めて、パン職人は窯前であくなき努力を続けるのだ。

ブーランジェリー ベー(Boulangerie bee)
西武池袋線 大泉学園駅
03-5387-3522
10:00〜19:00
日曜月曜休み

にほんブログ村 グルメブログ パン(グルメ)へ panlaboをフォローしましょう
(応援ありがとうございます)

#170
200(西武池袋線) comments(2) trackbacks(1)
希望のりんごが驚きの展開!!
岩手県陸前高田市の「希望のりんご」(謂れはこちら)が新たなる展開。
NKG12+4とコラボします!!!

NKG12+4とは…
白金台にある頌栄女子学院高校の女子高校生たちニコニコガールズ(略称NKG12+4)。
かねてより東北支援をしてきたNKGが、このたび「希望のりんご」を使った商品を開発しました。
1月26日13時→11時から、東京・有楽町駅前の交通会館前広場で行われる「被災地応援 高校生マルシェ」で販売します。

(「希望のりんご」応援キャラクター「のぞみちゃん」もNKGが作ってくれた)

その商品とは…
ジャーン(効果音)!
頌栄女子学院からほど近い、パン オ フゥ(リンク)が作る、アップルパイ!
フランス帰りの荻原シェフならば、極上のショーソン・オ・ポムに仕上げていただけるのでは。

そして、
ジャジャジャーン(効果音)!
なんと、あの有名お土産「かもめの玉子」(岩手県大船渡市さいとう製菓)のりんごバージョン!!

パッケージもかわいいし、食べてもおいしい。
りんごの酸味がアクセントになってて、あの永遠の名作「かもめの玉子」よりむしろいい味だしてんじゃね? ぐらいの勢いはあります!

12時45分のオープニングイベントにはサンドウィッチマンが出演。
当然、私(池田)も買いにいきます!


- comments(0) trackbacks(0)
パン祖のパン
パン祖のパン。
150年前、日本ではじめてパンを焼いた(長崎で焼かれていたとか諸説あるが)とされるパン祖、江川太郎左衛門。
そのパンを再現した「パン祖のパン」を「ぱんとたまねぎ」の林舞さんからもらった。
1月19日・20日にパン祖のパンまつりが伊豆・韮山であり、彼女はわざわざ福岡からそれを見に行ったそうだ。
見上げたパン魂である。

さっそく朝食としてかぶりついた。
なんじゃこりゃー。
というほど、めちゃめちゃ硬かった。
発酵もあんまりしてないし、甘くもない。
これ、ただ小麦粉焼いただけじゃん、という代物であった。

ところが、説明をよく読んでみたら、こうある。
「召し上がりにくい場合は、湯茶等に浸してお召し上がり下さい」
ミルクティに浸して食べてみると、硬い分やわらかさの頃合いがいいし、下手にパン自体に味がないので、いい感じであった。

さらに、裏側を見てみると、賞味期限が書かれている。
「14.1.10」
なんと1年間も持つ。
江川太郎左衛門は、幕末に軍の近代化に努めた人物で、これは兵糧として開発されたものなのだ。
非常用の食べ物としてとてもいい。
甘すぎたり、味がついてたりすると、避難が長引くと逆につらくなりそうだ。
これなら、お茶の種類変えたり、おかず変えたり(スープとか、みそ汁とか)すれば、けっこう楽しめるんじゃないか。
パン祖、えらい。
シンプルなもののほうが、時代を超えて役に立つといういい例である。





にほんブログ村 グルメブログ パン(グルメ)へ panlaboをフォローしましょう
(応援ありがとうございます)
- comments(0) trackbacks(0)
アンジェリーナ(氷川台)
169軒目(東京の200軒を巡る冒険)

マリアージュの王。
隅シェフのことを私は心の中でそう呼んでいる。
アンジェリーナの真価は、特にサンドイッチや、デニッシュなどのスイート系で発揮される。
独創的な食材と食材の組み合わせ。
マリアージュはあらゆる角度からやってくる。
クリーム、コンポートの方法、生地に練り込んだり、フレンチの技法を使ったり。
アンジェリーナのパン1個はレストランのひと皿に匹敵する。
皿が運ばれ、香りを嗅ぎ、スプーンですくい、噛み、味わい、付け合わせの野菜と合わせ、ソースと合わせ、飲み込み…。
すぐれたひと皿に、時間軸に沿ったストーリーやドラマがあるように、アンジェリーナのパンは劇的である。

なすとタプナードのサンドイッチ(350円)
タプナードとマリネしたナス。
オイリー+オイリー。
油分で掻き立てるだけ掻き立てた濃厚な風味が舌の上にしたたる。
野菜というにはあまりにも強い甘さを、どこかさわやかに発揮する。
そして、ときどき、これもマリネされたドライトマトが、滲みわたる酸味とまた別角度の濃い甘さを発揮する。
パンにもタマネギが混ぜ込まれ、さらに甘さを重ねる。
野菜のあらゆる甘さに包囲され、味覚の針は振り切れる。

以前、隅シェフに聞いた一言が強烈に耳の奥に残っている。
「みんな、パンおたくすぎないかな?」
パン屋がパン生地ばかりに目を向け、一方でサンドイッチやスイーツ系・惣菜パンのフィリングやスプレッドの組み合わせが旧態依然なことを指している。
長いあいだ、隅シェフは独走状態にあった。
料理、菓子、パン、ワイン…。
食のあらゆるジャンルにこんなにも通暁したパン職人(知識だけでなく作ることができる)を私はあまり知らない。

なぜ隅シェフはオールジャンルの鉄人になりえたのか。
彼のアイデンティティはおそらく、パン屋であるよりも、料理人である。
パン屋を開いたという意識があまりないようなのだ。
料理人としてパンも作り、それがたまたま現在のような形になっただけであると。

「自分がレストランをやろうと思ったとき、パンやケーキを外から買ってくると原価が高くなると考えた。
だったらパンやケーキも自分で作れるようになればいいわけじゃん」

アンジェリーナは、かってカフェを併設した江古田店も擁していた。
それを閉じて以来、ここ数年は、氷川台の本店でパンだけに集中していた。
ところが2012年の3月オープンさせた新店舗に再びカフェをオープン。
数年来の念願がかなって、再び料理の腕もふるうことになった。

「うれしいのは、ディナーもランチもやってること。
サンドイッチも、パニーニ、クロックムッシュとかいろんなメニューがあるし、プラ・ド・ジュール(本日の定食)では肉を焼いたり、煮込みをやったり。
5種類のパンも出してる。
そんなの、自分のところでパンを焼いてるからできること。
普通のレストランではなかなかできない。
だから、お客さんにもすごくよろこんでもらえる。
パン屋だからいろんなパンが食べれるし、デザートだってなにをやったっていいんだよ。
パンを作るときにネタが余ったのを使えばすごくいいのが安くできるんだから。
いまはすごく充実してる。
毎日勉強。
本を読んだり、作ったり、いろんな後輩、料理人を呼んで聞いたり。
フォワグラ、テリーヌ、牛ホホの赤ワイン煮、仔羊のトマト煮…。
オーブンがあるから、パンを焼いたあとの余熱でなんでもできる。
オーブンにぶちこんどけばいいわけだよ」

隅シェフが自分のやりたいこと、いまやっていることをとどめなく語りつづける姿は心底楽しそうだ。
ジャンル横断的にパン・菓子・料理を作ることの効果は計り知れない。

「お客さんが楽しいじゃん。
例えばクリスマスの時期なら、シュトーレン、オードブル、ケーキ、バゲットみたいな食事系のパンを買っていけば、あとはワインを買えばそれで大満足」

「パン屋さんはなんで料理とお菓子に目を向けないんだろう。
料理人はなんでパンやお菓子に目を向けないんだろう
お菓子屋さんはなんでパンと料理に目を向けないんだろう
不思議でしょうがない。
なんでお菓子屋さんはパンをやらないんだろう
イースト以外ぜんぶ材料あるのに。
そう言ったら、発酵をすると冷蔵庫が汚くなるからだって言う(笑)。
フランスに行くと、どこでもヴィエノワズリーやってるのに」

「僕が思うに、パンがまずかったら、料理が木っ端みじんになる。
パンは線でしょ。
オードブルからメインまでずっといっしょにある。
だから、料理人はパンを勉強しないとダメ。
逆に、料理が普通でも、パンがおいしかったらすごく満足するでしょ。
いくらいい料理人でも、それがわかっている人がどれだけいるだろう。
自己満足の自家製酵母のパンを作って、それがすごくまずかったりする。
ぜんぶを台無しにしちゃう」

「お菓子屋さんの後輩には『パンをやれば?』と言っている。
ケーキは1週間に1回しか食べないもの。
お菓子屋さんにはコンベクションオーブンしかないから、それでできるもの、フランスパン、ヴィエノワ、イギリスパンだけやればいい。
パンをやれば、3日に1回お客さんがくるようになる。
そのとき焼菓子もいっしょに買ってくれるんだよ」

「パン屋さんはお菓子と料理をやったほうがいい。
サンドイッチの幅が広がるし、セック(クッキーのような小さい焼菓子)を買いにくるとき、パンも拾ってくれるわけじゃん」

「みんな人手がいないって言い訳をする。
うちの子は、パンもお菓子も料理もサービスもやる。
俺といっしょに肉をおろしたり。
短い時間しか働かないでなにを覚えられる?
仕事が終わったあとの時間なにに使う?
よく言うのは、『おまえら、腕に貯金しろよ』。
仕事が早く終わったって遊びに金を使っちゃうから、貯金ができない。
最初に勤める店がいちばん大事。
そこで楽すると、あとあと体が持たなくなる。
うちの子はみんな独立して店をやるつもりできてる。
オーナーシェフなら10何時間やんなきゃダメ。
オーナーがたるんじゃうと店はダメよ。
そういうのお客さんにわかっちゃう」

隅シェフは名伯楽である。
ブーランジェリー・ベー、ブーランジェリー・プーヴー、薫々堂、Nukumuku…。
アンジェリーナ出身者によるパン屋は、どれも名店ぞろいだ。
どの店もパン自体がおいしいことはもちろん、サンドイッチ、デニッシュ、ブリオッシュ、惣菜パン、そしてクリームパンのカスタードもおいしい。

「ぜんぶあいつらには教えた。
みんなそれだけ仕事をやってた。
だからいま店ができるんだよ。
いつがんばるかだよね。
そのあと、2、3年フランス行ってもいいし、料理関係に行ってもいい。
それが貯金になるんだから。
パンだけを1日中やるより、お菓子仕込んだり、料理やったりしたら、飽きない。
接客もやる。
途中から着替えて、シャンパンやワインをサービスしたり」

「20代でも30代でも年は関係ない。
勉強すればいいんだよ。
自分でパン屋開いて、近くに強力なのできたらどうするの?
うちも近くにスーパーがあって、インストアベーカリーがあるから、食料品といっしょに買物できるなら、そこ行っちゃうでしょ。
みんなパンおたくじゃないから、そんなにパンの味にこだわりがないし。
スーパー行けば食パン1斤98円だけど、うちは280円。
そしたらどこで差別化するの?
いまからもっともっと、これから10年もっと個性を出さなきゃダメ。
レストランががんがん潰れてる世の中だよ」

キャラメルポワール(230円)
洋梨の果汁まで閉じこめたコンポートのみずみずしさ。
さわやかな酸味とクリームの濃厚な甘さとのマリアージュ…という食前の予期を華麗に裏切る。
カスタードはカスタードでも、苦みの強調されたキャラメル味。
それが洋梨の甘さを後押しするとともに、ほろ苦いキャラメルの芳香によって、デニッシュの風味と合体し、香ばしさの透明なドームでフィリング全体を包み込んでしまうかのようだ。
なんと大胆なデニッシュだろう。

「たとえば普通のパン屋さんって、業者さんがもってくるプリンパン、プリンまるごと注文する。
その材料、なんだかんだいって高いし、そういうパンは俺は好きじゃない。
なんで粉とバター持ってるのに、ホワイトソースを自分で作らないんだろう。
うちは季節のスープだってなんだって毎日作ってるし。
なんでも作らなきゃやってられないもん。
牛は作ることできないけどね(笑)」

仕事に対する厳しさは孤高を思わせるが、いつも売り場を覗き、積極的に客に話しかけている。
それを楽しみに立ち寄る人も多いはずだ。
もちろん、客のニーズを汲み取るという積極的なメリットもある。

「すごく大事なこと。
いまの店は厨房から売り場が見れないから余計に。
うちは常連さんがついてくれてるし」

まだ本格的なブーランジュリーが日本に多くなかった1990年代から、アンジェリーナは名店の名をほしいままにしてきた。
それは、オールジャンルにわたる仕事だけが評価されたわけではなく、パンも高いレベルにあるからだ。
パンの極意について隅シェフはこのようにいう。

「パン屋では1種類を仕込むんではなく、生地を何種類も仕込んで焼く。
その順番と、オーブンまでいく工程と、自分の仕事をきちんと組み立てられるかが大事。
たとえば、食パンの分割に、5キロでどれぐらいの時間がかかるか。
自分は何分で終われるか。
クリームパンを何分で包めるか?
6分空いてるから、詰めよう。
そうすれば、仕事がきちっとまわる。
それがいちばん大事」

タイミングよく仕事を終わらせることができれば、効率よくたくさんの仕事をこなせることはいうまでもない。
それは生産量だけではなく味にも関係する。
手早い仕事によって、ベストの発酵状態で次の工程へ進むことができる。

隅シェフは専門学校でも教鞭をとっている。
若い生徒たちによくいうことがある。
「パン屋という大きな幹がある。
パン屋ができなかったら、まず枝からはじめればいい。
お菓子や紅茶、コーヒー、チーズ、ワインという枝もある。
パン屋やるにしても絶対それが役に立つ。
パン屋さんの面接にいったって、パンの専門学校だけじゃなく、ワインの勉強もしましたとなったら、雇いやすい。
いろんなことを勉強していれば、複合的な店を作れる」

幹だけでなく枝も葉もあって木はにぎやかである。
料理やお菓子や酒やお茶とともにあって、パンはおいしそうに見えるし、楽しくなる。
アンジェリーナのように。(池田浩明)

アンジェリーナ
東京メトロ有楽町線・副都心線 氷川台駅
03-3557-1577
9:00〜20:00(土曜・日曜・祝日は8:00〜19:00)
月曜休み(祝日の場合は翌日)




にほんブログ村 グルメブログ パン(グルメ)へ panlaboをフォローしましょう
(応援ありがとうございます)

#169
200(東京メトロ有楽町線) comments(2) trackbacks(0)
| 1/2 | >>