台風26号による「希望のりんご」落下の顛末をご報告します。
2013.10.29 Tuesday 00:36
先日の台風26号によって陸前高田市米崎町のりんごにも大きな被害が出た。
「希望のりんご」の作り手である金野秀一さんの畑にあった、ジョナゴールドの「8割〜9割」が落下した。
金野さんはもう60を過ぎた人だが、これだけの大きな被害に遭うのははじめてとのこと。
津波から立ち上がろうとする矢先に訪れた、数十年に一度の災厄。
「今年はりんごを作るのはあきらめた」と言っている農家さえあるとのこと。
1年をかけて育てた作物が台無しになるのだから、その無念は察するにあまりある。
強風は枝を揺らし、りんごの実に陽をあてるため葉っぱを取り去っているために、りんごと枝がぶつかり、擦れあって、傷がつく。
そして落下して、打ち傷を負う。
収穫まであと1〜2週というところ。
それまで気温が高かったために、今年は赤く熟すのが遅かった。
がために、青いまま、未熟の状態で落ちた。
もはや商品価値はない。
「ユンボ(パワーショベル)を借りてきて穴を掘って埋める」とまで、金野さんは言っていたが、ジュース用としてすべて農協に引き取られることになった(価格はほとんどつかないとのこと)。
傷がついていて、悪くなりやすいので、一刻も早く決断しなくてはならなかったのだ。
それが10月17日のことだった。
先日の記事でお伝えしたように、10月18日には京都でのチャリティ講習会で、山崎豊シェフにりんごを使っていただいた。
みなさんたいへん共感していただき、何人もの方に「ぜひ買いたい」と言ってもらった。
だが、熟していないりんごはおいしく食べられないという判断で、お売りするのを泣く泣く断念したのだった。
翌日、東京に帰ると、ラ・テール洋菓子店の中村逸平グランシェフから電話があった。
「おいしくできましたよ」
金野さんから試験的に送られてきた青いりんごを調理してみると、とてもおいしかったと。
熟していないためにかえって、調理に向くと言われる紅玉以上に、身は硬くてしゃきしゃきと食感が楽しく、熱を加えて甘さが増すと、酸味も鮮やかなアクセントとなる。
捨てようとしていたりんごが、こんなにうつくしいタルト・オ・ポムに変貌しようとは。
中村シェフのレシピは以下のようだ。
1バターでソテー。このとき荷崩れしないよう、砂糖はまだ入れない。
2カルヴァドス(りんご酒)などでフランベ(火をつける)。
3ボウルなどに取り上げ、砂糖をまぶす。
いまならまだ間に合う。
ジュースになる前に、調理用として、買ってくれる人を探そう。
まず、ラ・テール洋菓子店のある三軒茶屋周辺のパン屋さんに思い至った。
シニフィアン・シニフィエ、ブーランジュリー ボネダンヌ、ブーランジェリー ボヌール。
それから、twitterで募集を呟いてみたところ、700人もの方にリツイートいただいたのだった。
こんなにたくさんの人が陸前高田のことを気にかけてくれている。
その気持ちをぜひ農家さんに伝えなくてはならないと思う。
販売の受け皿ができていないため、残念ながら、多くの人の手にりんごが渡ったとはいいづらいが、みなさんのご協力で400キロものりんごを、お送りすることができた。
ご協力いただいた方に心からのお礼を言いたい。
世田谷の三宿に今年の7月に開店したばかりのブーランジュリー ボネダンヌ。
元パン・オ・フウの荻原浩さんがオープンした店だ。
「希望のりんご」をタルト・オ・ポムに仕上げていただいた。
薔薇の花びらのようにりんごの果肉が配されている。
重く、分厚く。
何枚ものりんごの層を噛み破るさっくり感、パイが割れるざくざく感。
りんごの果汁が滴り、素材そのものの酸味がフレッシュに広がり、パイの甘さとのあいだで、痛烈なマリアージュが生まれた。
茗荷谷のマールツァイトでもアップルパイにしていただいた。
やさしい甘さ、小麦の風あいを活かしたパイ生地はいかにも、この自家製酵母の店らしいものだった。
三軒茶屋のブーランジェリーボヌールは「米崎リンゴデニッシュ」。
上記した中村シェフのレシピでソテーしたりんごにカスタードを合わせデニッシュにのせたもの。
同じく、三軒茶屋のレ・サンクサンスでは、タルトタタン、タルトレット・オ・ポムを作っていただいた。
また、シニフィアン・シニフィエでも「希望のりんご」の商品が近々登場する予定である。
関西では、千林大宮のグロワールにも現在お作りいただいている。
りんごとルバーブのコンフィチュールを持ったデニッシュは、鮮やかな酸味を想像させてくれる組み合わせ。
りんごの天然酵母パンにはりんごのレーズンとアーモンドが練りこまれている。
これらうつくしいりんごのお菓子たち。
すべては、廃棄物同然に扱われていたものなのだ。
当然、台風がこなくても、落下するりんごは毎年出る。
これを加工用として販売することができれば、無から有が生まれ、復興のための大きな希望となるはずだ。
中村逸平シェフは自分の作ったりんごのタルトを金野秀一さんに送った。
自分が泣く泣く廃棄しようとしていたりんごがこんなにおいしいお菓子に生まれ変わった。
金野さんは中村さんにお礼の電話をかけ、2人でともに涙したそうである。
「みなさんのあたたかい気持ちがうれしくて、泣いてしまいました」
11月15日、陸前高田「以心伝心バスツアー」の再募集を行う。
台風の片付けも終わり、当初の予定通り行えることになった。
バーベキュー、8種類のりんごのテイスティング、葉摘みや植樹の体験。
元気な顔を見せ、農家さんを少しでも励ましたいと思うばかりである。
主な旅程(予定)
11月15日 23時 東京駅前集合
11月16日 7時 陸前高田着
8時 市内見学
10時半 バーベキュー
14時 りんご農作業体験&試食ワークショップ
16時 作業終了し、民宿吉田へ。
11月17日 9時 りんご植樹作業
11時 作業終了、昼食、米崎町婦人会祭り見学。
13時 帰路出発
20時 東京駅着(道路状況で遅くなる場合あり)
ツアー料金23,000円 (往復バス代、宿泊代、イベント経費、食事代込み)
※ツアー実施前にお振込みいただきます。
その他費用、飲み物代は各自ご負担ください。
※本ツアーは営利目的ではなく、料金はすべて運営経費に使われ、すべての参加者が平等に負担します。
※募集定員 10名
■ツアー概要(PDFファイル)
■お申し込みフォーム
※ツアーに関するお問い合わせはこちらまで
icdctour(@)gmail.com
(ツアー事務局)
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主催・パンラボ池田浩明、こんがりパンだ パンクラブ
共催・ラブギャザリング