パンの研究所「パンラボ」。
painlabo.com
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
りんご食堂〜おいしい陸前高田〜 @Réfectoire(レフェクトワール)
陸前高田を応援する団体「希望のりんご」のグルメイベント「りんご食堂〜おいしい陸前高田〜」を原宿Réfectoire(レフェクトワール)で行うことになりました!

陸前高田市米崎町に行って思うことがあります。
この町はなんとおいしいところなのだろうと。
甘いりんごの成る丘があり、眼下に見える広田湾はおいしい貝類をはぐくむ漁場として、全国的に有名です。
民宿に泊まれば、食べきれないほどの新鮮な魚介類がどーんと。
津波に襲われた市街地はいまだ更地のままですが、こと食べ物に関していえば、豊かなのは都会ではなく、被災地の陸前高田です。
復興は確実に進み、震災直後には想像できなかったほど、たくさんの海産物が獲れるようになってきました。
陸前高田の新鮮な海の幸を関東のみなさんにようやく届けられるようになったのは感無量です。

ル・プチメック/レフェクトワールの西山逸成オーナーが、陸前高田のために一肌脱いでいただけることになりました。
ホタテ、毛がになど、陸前高田から直送された海の幸を、ノルマンディ風に料理。
デザートにはもちろん「希望のりんご」で作った、おいしい焼き菓子をお出しします。 

そして、陸前高田より特別ゲストもお招きする予定です。
津波をたくましく生き抜いた人たちの生の声を聞いてください。
それは悲劇にはちがいありませんが、最悪の事態にも人間は団結して乗り越えていくのだという「希望」をきっと知るでしょう。
イベントの趣旨に賛同いただいたミュージシャンbackground of the musicさんが演奏を披露してくれます。
アコースティックギターの田中幹人さんとキーボードの松本 径さんという2人編成のインスト・ユニット。
食事をしながら、楽しい音楽もお楽しみください。

このイベントは陸前高田の復興をお手伝いする団体「希望のりんご」の設立も記念しております。
「希望のりんご」がプロデュースした米崎りんご100%ジュース「点 Tomoru」やグッズも販売する予定です。(池田浩明)

 <スケジュール>

開催日時:
 1/25(土) 開場 17:30
     スタート17:45 / 終了20:30
 ※17:30に直接会場へお越しください

定員: 44 名
 ※今回のイベントは着席スタイルです。  

 会費: ¥5,500

 会場:Réfectoire(レフェクトワール)
東京都渋谷区神宮前6-25-10 タケオキクチビル 3F
 アクセス 明治神宮駅徒歩5分

【イベント内容】
・Réfectoire 西山逸成シェフによる、陸前高田のおいしいもの満喫メニュー(詳しい使用食材やメニューは希望のりんごfacebookにて随時報告予定)
・陸前高田市より希望のりんご農家さん上京。パンラボ池田浩明とトークショー開催
・インストユニット「background of the music」によるライブ 

●イベントのお申し込みに関しての注意事項●※必ずお読みください

・今回のイベント受付はお申し込み先着順とさせていただきます。
・お申し込みはお一人様一回まで
・複数人数で参加希望の方は、お手数ですがお一人分づつ申込みフォームの送信をお願いします。
・受付後、「希望のりんごイベントお申し込みありがとうございました」という件名のメールが自動返信で届きますので必ずご確認ください。
・イベント会費は事前に振込をお願いします。振込手数料はご負担ください。
・イベント開催日3日前以降のキャンセルにつきましては、基本的にご返金は致しませんのであらかじめご了承ください。(食材を人数分で準備するため)
・会費に含まれるもの:お食事&デザート、食後のコーヒーor紅茶
・アルコールをご希望の方は当日、別料金で各自オーダーしてください。
・ワイン持ち込みOK。(持ち込み料として1本¥500をお店にお支払ください)

その他、情報は随時、希望のりんごfacebookにて更新します

【お申込みフォーム】(1月1日0時より受付スタート。先着順)

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年末年始ヒマだからスペシャル!

年末年始は特番の季節。ビッグダディも最終回(ホントかね?)
世にならって、自分もパンの特番を企ててみた。

 
一工夫するまでもなく美味しい、気軽に買える定番系の袋パンを
一工夫して食べてみる。そんな企て。

どんな工夫か?

すべてを煙り漬けにしてしまう工夫。

いわゆるスモークってやつだ。

参加袋パンは以下の7袋パン。
 

スポンジ系代表イチゴスペシャル!
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どう見ても優勝候補! チーズ蒸しパン
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油分に煙りは乗りやすい! シュガーマーガリン
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チョコとスモークの相性は抜群だ! 銀チョコロール
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いつだって参加だよ! かにぱん
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オカズ系代表! マヨのスモークにはテクがいるらしい! 
コーンマヨネーズ
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揚げ系代表!
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さあスモークと上手に結婚できるのはどのパンかな?

煙り漬けにされたパンたち! 
合わせるのはもちろんアイラで一番の個性派ラフロイグだ!
ワーー!!
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優勝は、
下馬評とおりチーズ蒸しパン。ワーー! 圧勝!

そもそもスモークと相性のいいチーズ。
蒸しパンには煙が適度に乗りやすい。
スモーク・チーズ蒸しパンがおいしくないはずがない。
書くまでもないですが、ちゃんと22時からの蒸しパンになってました。
ハイボールにひじょうによく合いました。

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写真右が優勝したチーズ蒸しパン。

一番難しかったのは、
「チョコロールとイチゴスペシャルです」とは
スモークしてくれたのはBAR SMOKE SALTのマスター。

「チョコのスモークはひじょうに美味しいですが、チョコを溶かしつつスモークしないと上手くいかないので、はじめからパンに塗られていると厳しいです。スモークしたチョコをパンに塗って食べたほうがおいしいでしょう」

「チョコ系でおいしく燻製できるのはチョコクロみたいに中にチョコの入っているクロワッサンですよ」(以前、ここで紹介)

「それはコーンマヨネーズやカレーパンにも言えます。マヨネーズやカレーは原材料を1つずつスモークして、それを合わせるほうがおいしい。たとえばマヨネーズは卵の黄身とオイルをスモークしてから混ぜ合わせる。カレーパンは、スモークした素材でカレーを作って、それをカレーパンにした方が断然うまい。中身のカレーでスモークを楽しむ」だそうです。


たとえばこれがマスターの燻製カレー。
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素材を1つずつ燻製して、水も燻製して、牛スジと煮込んで、完成させたカレー。
ポイントは煮込んで、かつ寝かせることだそうだ。
寝かせると煙がいい感じで浸透していくそうだ。

常識と違うのは燻製ではなく、むしろ玉ねぎを使わないところか。
玉ねぎではなく、ネギを使っているそうだ。他に葉物の野菜をいっぱい使っているとか。
仕上げはインド系のスパイシーなサラサラ系。
カレーには下ごしらえで使われた牛スジも野菜もな〜んもない。
だけど、味に何層もの奥行が感じられて、もちろん煙たくって、至福の美味さだ。
仕込みのテマがそのまま煙とともに凝縮された感じだ。
(ちなみに上に乗っているのは熟成ビーフの燻製ステーキ)

このBARはオーセンティック・バー。
だけどヘンテコなリクエストを面白がって乗ってくれるアソビがあって、そこがいい。
(レモンハート〜ネプラスの系譜と書けばちゃんとしてることが伝わるでしょうか)


ビッグダディが終わった(うかつにも最後の5分くらいしか見てなかった。どうだったんだろう? 今回もツッコミどころいっぱいだったのだろうか?)。
あしたは朝から夕方まであまちゃんか……


これがパンラボ・ブログの2013年の最後を飾るとは思わない。
きっとムッシュやナカムラが楽しくてためになることを書いてくれるでしょう。

けれど自分は根多的にはこれが最後。
今年もお世話になりました。
みなさま、よいお年を〜〜〜。

かしわで








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丸山珈琲・西麻布店のプレオープンに突撃!
以前のパンラボの「パンとコーヒーのカップリング」の回で
お世話になった丸山珈琲が東京に2店舗目を出す。
さらにそこではパンも食べられる。

…というお話を聞いてから数ヶ月。

10年来の熱烈な丸山珈琲ファンのかしわでさんともども、
今か今かと首を長〜〜〜〜〜くしていた丸山珈琲の新店「西麻布店」が
12月21日、オープンしました。

今回はそのプレオープン日にお邪魔させて頂きました。
ヤッホ〜!

各国の大使館も多い西麻布3丁目、外苑西通り沿いの
ガラス張りのビルの1階。
なかなかにオシャレな外観です。


丸山健太郎さん率いる丸山珈琲。
日本にスペシャリティコーヒーを根付かせた、まさに草分け的存在。
世界中の産地、農園を巡り、直接買い付けを行っています。

通販でよく豆を買っていますが、実に多彩な豆を扱っていて
時期によって刻々とラインナップが変わります。
タイミングが良ければ、カップ・オブ・エクセレンスと呼ばれる
コーヒー豆の世界的なコンテストで入賞した豆も入手できます。


どど〜ん!と西麻布店でも世界中のスペシャリティコーヒーが壁一面に並んでます。
テンション上がるなぁ〜。
もちろん、購入も可能ですよ。


それぞれの豆には細かい説明があり、味や煎り具合はもちろん、
産地、農園、生産者まで分かるようになっています。

今月はこの豆、来月はあの豆…といった具合に、
ゆっくりと時間をかけて色々な豆を飲み比べていき、
自分の好みの煎り具合や産地を探すのは本当に面白いです。


店内はシックでかなりスペースに余裕がある贅沢な造り。
ゆっくりコーヒーを楽しむことができそう。


こちらは日本で導入しているのは2店舗しかない(西麻布店が2店舗目)…
というその名も「スチームパンク」。
驚くべきことに、Googleで検索してもほとんど引っかからない…という、
本当に最先端なマシンのようです。

メニューによると
「スチーム圧を利用したお湯の上下運動と
均一な蒸らしと撹拌によって抽出する新型マシン。
豊かな質感とフレーバーが特徴です」
とあります。

しかも操作は脇にあるiPad的なタッチパネルで行っていました。
なんかちょっとSFチックですげ〜!


そしてこれがスチームパンクで淹れて頂いたコーヒー。
豆は「2013ブラジル レイトハーベスト COE(カップ・オブ・エクセレンス)3位
ファゼンダ JR(中煎り)」。

飲み口にものすごく透明感があり、スーッと体に沁み込んで行くえも言われぬ感じ。
うまい!
家で丁寧に淹れても、絶対この飲み口にならないだろうなぁ…。


そして、かしわでさん曰く、「とんでもなく旨いカプチーノ」。
確かに、これは………絶妙の温度!
カプチーノの味を旨く文章で表現できなくて、
今、書きながらヤキモキしてますが、
「なんだこりゃ!? カプチーノってこんなに旨かったのか…!」というのが正直な感想でした。

それもそのはず。
だって日本チャンピオンになったバリスタ、鈴木樹さんも当日お店に
いらっしゃいました。
なんて贅沢な店なんだろう…。


そしてお待ちかね、コーヒーのおともとなるパンは、
麻布十番の「ポワンタージュ」のもの。

こちらは「リンゴのクイニーアマン」。
甘さは比較的控え目ですが、外側の砂糖が溶けた甘い部分と内側のリンゴ、
味と食感のコントラストが最高。
コーヒーに合うなぁ〜。


こちらはドイツの伝統的なデニッシュ「モーンプルンダー」。
ケシの実とクルミが入ってます。
アイシングとか、見るからにコーヒーに合いそう♡

中はしっとり、上の黒くなっている所は齧るとごくごく細かく口の中でクラッシュして
メチャウマです。
渾然一体となった甘みをコーヒーで洗い流す……まさに至福の一時。


そして、これが「ミルクフランス」。
予備知識なしに食べたんですけど、これは一口食べただけで、ありゃっ!?となる旨さ!
パン生地はかなり柔らかめです。
中の練乳は「一生舐めていたい系」。

ものすごく人気があって、ポワンタージュといえばミルクフランス!と
叫ぶ人も多い、売り切れもある大人気パンだとあとで知りました。
そりゃあ人気になるわな…旨いもの、このミルクフランス。

ミルクフランスはプレオープン時のみの予定だそうです。
これまた、コーヒーとの相性はバツグンでした。

丸山珈琲西麻布店では、他にも
「金属ドリップ(ゴールドフィルター)」で淹れたコーヒー
(何度も使える金属のフィルター、油分を通すのでプレスに近いが、
飲み口はすごくスッキリ)や、中国茶や日本茶など、様々なメニューがあります。

世界中の良質な豆とトップバリスタの確かな腕による極上のコーヒーとポワンタージュのパンが
楽しめる、なんとも贅沢な(贅沢ですけど、そんなに高くないんですよ、お値段)、
居心地の良いお店でした。
ああ、近所に出来ないかなぁ…。

【ナカムラ】

サッカロマイセスセレビシエ

パンラボ
まさこジャム

JUGEMテーマ:美味しいパン
ナカムラ comments(1) trackbacks(0)
未来が見えてきた!【X Bakery】
12月25日、原宿のギャラリーROCKETで行われるイベント「X Bakery」の予告を先日行いました。
ところが、読者のみなさまから「ざっくりしすぎて、わからないし〜」というもっともなご意見をちょうだいしました。
未来のパンとはいったいどんなものになるのか。
その真実は現時点では、江古田のDr.スランプこと、ブーランジェリー・ジャンゴ川本シェフだけの知るところです。
が、ジャンゴのtwitterでその特定秘密がちょいちょいと漏れ出しております。
本当のところは、12月25日を楽しみにしていただきたいと思っておりますが、川本氏撮影の写真とともに内容をチョイ見せしたいと思います。

なんでしょう、このサンタコスチュームのような赤に染まったバゲットは!
いったいなにを混ぜ込めばこのような色になるのでしょう?
もしや、これはあの豪華食材のサンドイッチに使われるというパンではないでしょうか。
たしか、予告によれば、「クリスマスの食べ物にも勘違いが生じ、七面鳥ではなく、別の動物を食べている」とありましたが…。

こ、これも、奇抜な色をしている!
そして、中にはさまっているのはなんでしょう。
もしや、あの予告に「科学の進歩が極まる一方、しょーもない縁起は依然としてかつぐ」とあったように、縁起かつぎによく使用される、あの物体ではないかと…。

もうひとつ、これは写真はありませんが、「日本人はお茶漬け味のものに飢えている」という一文。
パンでお茶漬けを作るということでしょうか?
どんな代物になるか、たいへん気になります。

そして、おかず系のパンだけではなく、クリスマスにふさわしい、スイートなパンも用意されております。
ワインもあります。
表参道のイルミネーション見がてら、ぜひお越しください。

一応、池田浩明の新刊『日本全国パンの聖地を旅する パン欲』(世界文化社)の発売を記念するイベントではあります。
彦坂木版工房さんの「フューチャー床の間」も楽しみです。

【営業時間:18:00〜21:00】
商品の数に限りがありますので、売切れの際はご容赦ください。
池田は営業時間内はずっと在廊しております。

トークショー
「近未来パン 池田浩明 × ブーランジェリー ジャンゴ 川本宗一郎」
パンラボ池田浩明とブーランジェリー ジャンゴの川本宗一郎が、
近未来パンについて語り尽くします! トークにはブーランジェリージャンゴの美味しいパンがセットです。
クリスマスの夜、パン好きは逃せないトーク、ぜひご参加ください!
【時間】20:00-21:00
【参加費】1500円(パン付き)

*トークショーお申し込み方法
workshop@rocket-jp.com 
までメールをお送り下さい
件名に「近未来パン 12/25」、本文にお名前、参加人数、連絡先をお書きください。
参加決定後こちらよりお返事をさせていただきます。
※ 定員に達し次第募集を締め切らせて頂きます。
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【代々木八幡】365日、開店! スギクボムーブメント第4弾
デュヌラルテのシェフという肩書きに「元」がついたのが約1年半前。
その看板は、杉窪章匡にとって、むしろ窮屈なものだったにちがいない。
才気煥発、一気呵成。
ここ3ヶ月のうちに、名古屋「テーラテール」、福岡「ブルージャム」、川崎(向ヶ丘遊園)「セテュヌ・ボンニデー」と、まったく別コンセプトの店を次々とオープンさせた。
そして「スギクボムーブメント」最後を飾るのは、自らがオーナーシェフを務める、代々木八幡「365日」。

【スギクボムーブメント統一コンセプト】…添加物は一切使わず、国産小麦のみ使用(一部自家製粉)。ドライフルーツもオーガニックかそれに準ずるものを使う。

彼が掲げた「365日」という店名には、日々の食事を愛おしみ、それに役立つものを提供していきたいという思いが込められる。

「食って、血となり、肉となり体を作るもの。
もっと楽しんでいいし、もっと大切にしていい。
最初の1歩を踏み出せる提案をしたい」

添加物や残留農薬の影響を受けない、いい材料を使う。
素材の特徴や性質について知り、理論的なパン作りをする。
「料理」としてのクオリティを持った、パンと具材との組み合わせ。

それらを極めようとすれば、職人には休む暇がなくなる。
パンの試作を重ね、うまい店を惜しみなく食べ歩き、旅に出れば地元の食材を探す。
365日24時間、職人でありたいという思いが、この店名には込められているという。

杉窪シェフはこの店を、「食全般にわたるセレクトショップ」と標榜する。
置かれるのはパンのみではない。
同じく杉窪プロデュースの一軒・福岡「ブルージャム」のコンフィチュール。
青果卸として名高い築地御厨(つきじみくりや)から仕入れる自然農法による野菜や果物。
紅茶やペーストなどの食材。
北海道産、共働学舎のチーズや「想いやり牛乳」。
作家ものの器や仏ラギオール社の食卓用ナイフなど生活雑貨。

イートインスペースでは料理も食べられる(現在準備中)。
夜な夜な一流店を食べ歩くグルマン杉窪シェフが選び抜いたレシピで作る「フォワグラのテリーヌ」。
無添加のハム・ベーコンを安価に提供するため、ブロックで仕入れた肉をさばいて自家製し、それをパンにも使用する。

「食をカテゴリーわけしたくない。
パンだけじゃなく、お菓子も料理も出したい。
和食も食べたいし、洋食も食べたいじゃないですか。
朝にごはん定食やりたい。
自家製の精米機を用意しました。
パン屋でごはん出すってすごいでしょ?
そしたら、パンを食べたくないときも、店にきてもらえるじゃないですか。
自然栽培のお米と大分の有精卵。
めちゃめちゃうまいですよ。
食べると元気になる」

365日3食、口に入るものを1食たりともおろそかにしない。
もし本当に「おいしい」ということにこだわりつづけているならば、パンという狭いフィールドだけに追究を限定することはありえない。
その思いが、自分の考えるあらゆるおいしいものを提供するというスタイルを要請したのだ。

「365日」には、ネクストレベルの衝撃がある。
バゲット、カンパーニュ、クロワッサン、ブリオッシュ…。
それらすべてに新しい解釈が与えられている。

かって杉窪さんはこう言ったことがある。
「パンを食べたとき、つんとする独特の香りがありますよね。
イースト臭が残ってる粉の香りが鼻に抜けるときの。
パンが好きな人はそれがきっと好きだと思うんですけど、僕、苦手なんです」

イーストが不完全にしか発酵しなかったとき残る匂いを、「悪い」ものだとしっかり認識すること。
それを完全に取り去ったとしたらどんなパンができるのか。
パン・ペルデュ、それを継ぐデュヌラルテが発火点となったパンの革命を、杉窪シェフは引き継ぎ、先に進めようとしている。

「365日×ブリオッシュ」(160円)は人を虜にする。
あたたかく湿り、少しだけぷにゅっとしたかと思うと、しゅうっと溶けて、ミルキーな香りを芬々とまき散らす。
見事な口溶けのあとには雲散霧消したミルクの官能の記憶しか残さない。
私はこのブリオッシュを歩きながら食べたのだが、その後口をなにかと合わせずにはいられず、近くにあった自動販売機でココアを買って飲み込んだ。
缶ココアさえ、あるいは、うちに帰ってからつけた、どこにでも売っているようなありふれたジャムさえも、このブリオッシュは極上のものに変えた。

もうひとつ、パン・ペルデュの生み出した伝説のクロワッサンが「クロアソン」。
あるいは、デュヌラルテ初期の傑作「コーヌ」。
その一口によって人生を変えられ、パン職人を目指した人がいるのを私は知っている。
師の作りだしたそのパンを杉窪さんはなんとしても超えようとしていた。
かってデュヌラルテ時代に自分が作っていたクロワッサンでさえ納得していなかったのだ。

「デュヌラルテのときは変わった形だったので、『これクロワッサンじゃないよね』という感想になった。
(他の店と)同じタイプのクロワッサン作ったら、(自分の作るクロワッサンとの)ちがいが明確になるかなと。
東京のクロワッサンを作る。
たとえば、デュヌラルテのコーヌ
あれはよくできたパンです。
考え抜かれている。
超えるものを作りたい。
クロワッサンって通常縦巻きですよね。
縦巻きか横巻きかでバターが溶けたときの流れ方が変わるので食感も変わる。
コーヌは斜め巻きで、いいとこ取り」

この話を聞いたのは、オープンに先立つレセプションのときだった。
そのとき出ていたクロワッサンも、列席者を驚かせるほどのおいしさだった。
「こんなんじゃない。
これを僕のレベルだと思われたくない。
コーヌを超えるものを、あと2週間で見つけられるかどうか」

1週間後に会ったとき、こうなっていた。
「形はできたんですけど、8割の確率でしか成功しない。
オーブンに入れる前と後で別の形になるんです。
スタッフも驚いてますよ」

「365日×クロワッサン」。
手のひらにおさまるぐらい小ぶりで、まるで貝殻のようなたたずまいをしている。
無二の食感。
皮はちゃりちゃりと音を立て、微細な破片に割れていく。
バター感はあっさりしてているのだとはじめは思った。
ゆっくりと急がず、やさしく滲みだす。
と思っていると、想像を超えて広がり、みるみるうちに爆発し、まるで絞りたての牛乳を飲み干しているかのような鮮烈さに襲われる。
バターを含んだやわらかな中身に、乾いた皮の小さな破片が無数に舞い降り、そのひとつひとつからバター感が発散しているのを感じるほどに。

杉窪さんはかってパティシエであり、また無類のあんこ好きである。
あんこは自前で炊くにしくはなく、パン屋の自家製あんは往々にして、素朴で素材の味があり、それが魅力となっている。
365日の「フランスあんぱん」のあんこは素朴さの形跡がほぼない。
素材の味はしっかりとありながら、和菓子屋のあんこのようにきちんと洗練されてもいるのだ。

「あんぱんはやっぱり、あんこ。
こしあんもうちで炊いてます。
白あんも手亡豆から。
デロンギのスロークッカー(火を使わず余熱で調理する)。
これで炊くとすごくおいしくできる」

白あんにはいやらしさも、過度な甘さもなく。
パンといっしょに溶ければ溶けるほど、さらに甘さの輝きを増す。
角食と同じという生地にはミルク感と白さがあり、こしあんの場合特に顕著に、あんこの甘さをくっきりと引き立てるのだ。

カレーぱん(240円)
塊で買ったブランド肉を自ら挽いたというキーマカレー。
辛さのためではなく、肉のおいしさを引き出すためにえも言われぬスパイス感はある。
肉にはうまみも香りも豊かで、コクがじわじわと胸に滲みる。
やがてワインの芳香がたなびき、それが奥深さとなる。
カレーフィリングといっしょに、さつまいものペーストが入れられている。
スパイシーにがつんといくところを、さつまいもの甘さでまろやかにする。
エロティシズムの自作自演。

あんぱんとカレーパンの秘密を見せてくれた。
上質なものを自前で作り、しかもできるだけ安価に提供するために。
ビニール素材でできたたくさんのくぼみからなるシート。
そこにあんこやカレーフィリングを詰めて冷凍保存する。
あんこはスロークッカーがひと晩かけて炊いてくれる。
シートに詰めれば自動的に量が決まる。
一度に大量に仕込むので手間がかからない。
そのために冷蔵庫は一般のパン屋に比べ大きい。

「この設備見たらみんなお菓子屋さんだと思うでしょうね。
お菓子屋なのになんでドゥーコン(温度調節機能のついた発酵機)があるんですか? ぐらいの設備。
デュヌラルテのときも、優秀な職人が集まっていると言われたけど、素人同然の子や、よそで通用しなかったからうちへきたという子もいた。
それで高いクオリティを保つには、ああいうもの(シート)が必要なんです。
感覚が鈍い子がやっても量が安定する。
あんの味つけは、そういうところで決める。
冷凍しているので、さつまいもピューレみたいなとろっとした、成形しにくいものも入れられる。
あと、型を多用すれば、成形下手でもきれいな形になる」

ぐるっと取り囲むカウンター。
入口から向かって左にパンが並べられ、右側がイートインスペース。
パンを食べることもできるし、前述したような料理やワインを楽しむことができる。
これは代々木八幡的な365日に対応している。
駅を出て、昔ながらのパン屋、そしてスーパーがあって、意外にも生活者の匂いを感じる町である。
もうひとつの顔は、アヒルストアのような、いまはやりのバルやワインバーの激戦区だということ。
このカウンターが、朝・昼は軽食を取るカフェ、夜はワインバーとなる(残念ながら、現在は19時までの営業)。

「うちにはワインのソムリエとチーズソムリエがいる。
最強のサービス陣。
この2人の味覚がこの店の中心。
バーテンダーでもなんでもできる2人です」

レセプションのとき、次から次にパンが焼き出され、それに合うチーズとともに供された。
特に、ライ麦40%のカンパーニュとフルムダンベールの組み合わせに瞠目した。
青カビの癖のある香りの中にライ麦につながるなにかがある。
それがパンと響きあって、経験のないほどのマリアージュに襲われたのだ。

「ライ麦40%のカンパーニュにはレーズン液種とイーストを使っています。
全粒粉のカンパーニュはレーズン種だけ、ライ麦70%のカンパーニュには、セーグル(ライ麦)種とレーズン液種。
セーグルのパンにはセーグル種が合う。
風味に合わせて種の種類を変えてやりながら調整しています。
ライ麦は北海道産、全粒粉は岐阜県産のタマイズミを自家製粉しています」

いま、バゲットはモルト(大麦の麦芽)を入れる製法が一般的である。
杉窪シェフは、小麦粉、酵母、水、塩のみでバゲットは作られるべきだと考える。
「モルトを入れなくても風味は出せる。
レイモン・カルヴェル(「パンの神様」といわれる元フランス国立製パン学校教授)はなぜモルトを入れる配合を日本に伝えたのか。
あの時代は麦の質が悪かった。
いまは麦の味がじゅうぶんに出せる時代になったのに、なぜ使うんだろう」

バゲット
皮の香りにコクを感じたのははじめてだった。
焼け焦げた香りではない、麦自体のコクである。
その一事をもってしても、このバゲットの香りがどれだけ濃厚かわかる。
中身の香りを嗅いで、さらに驚く。
穀物的な香りが激しいほど湧き上がってきたからだ。
薄めの皮は軽く、ぱりぱりして、弾け、オイリーに溶ける。
皮の甘さは明るく、どこか気品がある。
その背後でここでも穀物的な香りは作用している。
中身を食べると、時間に添ってさまざまな風味がほどけていった。
穀物感であり、ミネラル感であり、当たりのやわらかい塩気であり。
そしてしっかりと味があったのに、どこまでもさわやかな余韻に至るまで。
変化はつづき、ストーリーが展開される。
このバゲットは、食べ手のバゲット観さえ、変更を迫る。
どれだけ甘いか、ではなく、どれだけ香りがあるか、どれだけ小麦を感じるかによってバゲットは評価されるべきではないかと。

「江別製粉のE65(TYPE ERの添加物抜きバージョン)、はるきらり(前田農産)、江別製粉のTYPE100(春よ恋、きたほなみ)。
この配合には、色でいえば黄色とグレーの香りがある。
はるきらりは黄色い。
ブレンドして香りのバランスをとっています。
香りには黄色、グレー、白、茶色がある。
4種類の香りを5段階で評価して、試作しています。
口に入れたときが黄色の3、後味は白の2。
じゃあもっとこっちの粉を入れてみようか、とか」

香りを色彩で表現する方法は、ワインやウイスキーやビールをテイスティング、あるいは調合する現場で使われている。
とらえどころのない香りというものを、システマティックに扱うための、効果的な方法である。

「バゲットを作るためにはひとつの粉では不完全。
この粉は10分の7にして、この粉は10分の2、もうひとつは10分の1にして、というふうにバランスを取る。
たとえば絵を描くときに、ただ色をつけていく人はいないと思うんですよね。
ファッションもそうですけど、色のバランスを見ながら、こっちの色はアクセントに使おうとか考える。
同じ系統の色を合わせたり、逆に相反する色にしてみたり。
料理の世界では『相性』っていいますよね。
だけど、その勉強をしてるパン職人がまだまだ少ない」

先進的な試み。
自分がその先頭を切ることで、パン業界全体を引っ張ろうとしている。
「日本のパン屋さんがそのへんを勉強したら、パンも次のステージにいける。
いまは冷蔵庫にあるものをただ入れてるだけ。
ひじきあるからひじき入れようとか、野沢菜あるから野沢菜入れようとか、おやきみたいな感覚で作ってる。
主婦レベルと変わらないんですよね。
プロというのは、寿司職人のようなこと。
ネタに合わせてシャリの大きさを変えたり、形を変えたり、握り方を変えて、作品にしていく。
どういうふうに口に入るのか、余韻をどうするかまで考える。
それがプロの仕事。
早く次のステージに日本のパンをいかせたい」

そして、人が聞いたら笑うような、壮大すぎる目標を、杉窪さんは真顔で語るのだ。
「食べ物は血となり肉となり、精神にも作用していきますから。
精神が平安になれば世界平和に貢献していきますよね。
添加物やポストハーヴェスト(輸入する作物に収穫後散布される農薬)も悪影響を及ぼしている。
それがなくなれば世界平和につながっていくはずなんです」

究極の目標への小さな一歩。
だが、この店から新しい「ムーブメント」は確実に広がっていくだろう。
「365日」の出現はこんなにも衝撃的なのだから。(池田浩明)

365日
小田急線 代々木八幡駅/東京メトロ千代田線 代々木公園駅
東京都渋谷区富ヶ谷1-6-12
tel 03-6804-7357
9:00〜17:00(水曜休み)


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パン・ド・ロデヴ
少し前に世の中は「新米、新米」と騒いでいたが、

未だに新米は食べることはなく、あっと今に12月も半ばになってしまった。

我が家には昨年の新米がまだある。。。

昨年の10月頃もらったときは新米だったが、もう完全に古米。。。

たった3合しかもらわなかったのに、半分も減っていない(苦笑)

新米のおいしさはわからないけれど、パンのおいしさはわかるつもり。


昨日は久々にパン友とパン集会を開催。

メンバーは飯能のMちゃんと武蔵小杉のMちゃんと

世田谷のMちゃん(私)の三人なので「パン集会」と言うほど

大袈裟なものではないのだが。。。

昨日のメインは池袋西武のドンクのパン・ド・ロデヴ。



11時半に焼き上がったまだほんわか暖かいものを

飯能Mちゃんに買って来てもらい、我が家で食べた。

飯能Mちゃんは大の池袋西武ドンク好き。

ちなみに世田谷Mちゃんの私は自由が丘ドンクがお気に入り。


今までドンクの中で一番ハード系のパンがおいしいのは

自由が丘ドンクだと思っていたが、池袋ドンクもすごかった。


お・い・し・い!!!!


スライスが困難なほど、中身はみずみずしく、

皮の香ばしい香りも中身のほんの少し酸味を感じる甘い香りもすばらしい。

さらに食べてみると「おいしい〜」以外の言葉が見つからず、三人で同じ言葉を連呼。


テーブルにセッティングされているポップアップ式のトースターで

ちょっとあっためてみると、香りはさらに増し、むっちり度もアップ。

わずかな酸味と粉から来る甘みが口の中じわじわと広がるし、おいしさの余韻も長かった。


Mちゃんがリュスティックも買って来たので、

ロデヴとリュスティックの食べ比べも出来た。

紙袋から出しただけでその違いはわかった。

甘い香りがするリュスティック。

食べてみても酸味は全くなく、香ばしさと甘さだけがぶわっと口の中に広がった。

両方とも大好きなパンだけれど、食べ比べることはないので、

なかなかいいパン集会だった。


パンのアテにはまさこジャム/エストラゴンマスタードを使ったレンズ豆のサラダ、

青いトマトのカレーピクルスとにんじんのサラダ、大納言小豆の甘煮。

パンがおいしすぎて、まさこジャムはちょびっとあれば十分だった。


今夜もひとりロデヴナイト♫

まだなかなか知名度が低めだけど、今日も明日も明後日もおいしいパンなので、

ぜひ池袋ドンクか自由が丘ドンクで買って食べてみてくださいませませ。

ちなみに秋山ちゃんのパンカレンダーにもロデヴ月がありま〜す。


◎ ○ ◎ まさこぱん ◎ ○


まさこジャム

パンラボ


サッカロマイセスセレビシエ

JUGEMテーマ:美味しいパン
渡邉政子さん comments(0) trackbacks(0)
X Bakery 〜近未来パン屋〜 @原宿ROCKET
平成X年、日本の未来はたぶんこうなる。

・TPPによって食糧は外国製が席巻。日本古来の食べ物はめったに口にできない。日本人はお茶漬け味のものに飢えている。
・「風流」が誤解されて伝承されている。もっとも風流なものはクリームパン。
・生物の進化によって、花が咲く植物は希少になり、シーラカンスかカブトガニのような天然記念物になっている。
・現代とは美的感覚がずれている。パンも突拍子もない形や色になる。
・科学の進歩が極まる一方、しょーもない縁起は依然としてかつぐ。
・クリスマスの食べ物にも勘違いが生じ、七面鳥ではなく、別の動物を食べている。

12月25日、原宿のギャラリーROCKETに、近未来からパン屋が着陸する。
「X Bakery」は、平成X年X’masの、とあるパン屋を先取りした姿である。
「20 HOST in ROCKET」という、日替わりでアーティスト、デザイナー、料理家など錚々たるクリエイターの方々が食のイベントを繰り広げる企画の一環。

パンを作っていただくのは、江古田のブーランジェリー ジャンゴ。
先端グルメマニアとして、東京の片隅でとんでもない新作を次々と放ちつづけている。
パン屋の新作は、世間を半歩先取りするのがいいとされる。
ジャンゴの場合、4歩5歩は先取りしてしまうので、ときに誰にも理解されないことがあるのが悩みの種。
この機会に溜まりに溜まった思いの丈を大爆発していただく。
せっかくのクリスマスなので、それ的パンもご用意いただけるそうです。

アートディレクションは、池田浩明の新刊『日本全国パンの聖地を旅する パン欲』の表紙の絵を描いた、彦坂木版工房にお願いした。
紙に描いてあると知っていながら、あまりのリアルさ、ほっこり感ゆえに、心の手が絵のパンを思わずつかんでしまう「木パン画」。
木版という江戸時代から伝わる伝統技法の継承者であるのに、未来パン屋のADを無茶ぶりされ、いささか戸惑いぎみではあるが、いま構想を練っている最中である。

ちなみに、このイベントは、池田浩明の新刊『日本全国パンの聖地を旅する パン欲』(世界文化社)の発売を記念するイベントの第1弾だったが暴走してしまい、内容はほぼ関係ない。
彦坂木版工房さんの特製『パン欲』缶バッジなどグッズを販売するので、そちらも楽しみに。(池田浩明)

【営業時間:18:00〜21:00】
商品の数に限りがありますので、売切れの際はご容赦ください。
池田は営業時間内はずっと在廊しております。

トークショー
「近未来パン 池田浩明 × ブーランジェリー ジャンゴ 川本宗一郎」
パンラボ池田浩明とブーランジェリー ジャンゴの川本宗一郎が、
近未来パンについて語り尽くします! トークにはブーランジェリージャンゴの美味しいパンがセットです。
クリスマスの夜、パン好きは逃せないトーク、ぜひご参加ください!
【時間】20:00-21:00
【参加費】1500円(パン付き)

*トークショーお申し込み方法
workshop@rocket-jp.com 
までメールをお送り下さい
件名に「近未来パン 12/25」、本文にお名前、参加人数、連絡先をお書きください。
参加決定後こちらよりお返事をさせていただきます。
※ 定員に達し次第募集を締め切らせて頂きます。

本文と関係ありませんが…。
希望のりんごのサンふじ。
いま、とれたてを食べてほしい。
写真でもわかる、この蜜の多さ。
とんでもない甘さ、みずみずしさ。

おかげさまで、台風による落下でご心配をおかけしたジョナゴールドはほぼ完売したそうです。
いまはふじの季節。
甘く、甘く、甘いりんごをと、1年間、農家さんが丹誠込めた総決算。
小粒で不揃いなため、贈答用として出荷できないものを、特別に下記で販売しております。


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セテュヌ ボンニデー、開店。【スギクボムーブメント第3弾】
元「デュヌラルテ」シェフの杉窪章匡(すぎくぼ・あきまさ)さんが日本全国をまたにかけ次々とベーカリーをプロデュースする「スギクボムーブメント」。

【スギクボムーブメント統一コンセプト】…添加物は一切使わず、国産小麦のみ使用(一部自家製粉)。ドライフルーツもオーガニックかそれに準ずるものを使う。

名古屋「テーラテール」(http://panlabo.jugem.jp/?day=20130920)、福岡「ブルージャム」。
そして、「セテュヌ ボンニデー」(C'est une bonne idée)が、12月11日(水)、川崎市の向ケ丘遊園にオープンした。

杉窪さんはパリに滞在し、ジョエル・ロブションの三ツ星レストラン「ジャマン」で修行を積んだ経歴を持つ。
彼はまたひとつ引き出しを開け、セテュヌ ボンニデーに、思い出深いフランスをコンセプトとして与えた。

「ル・プチメックが男性形だとするなら、ここは女性形です。
パンの形も女性的。
感覚的にいうなら、プチメックはエッジが立っているけど、ここは丸くて角がない。
自分の中に、男性的な部分もあれば、女性的な部分もある。
その振り幅が大きいほど、表現はすばらしいものになる。
若い頃それに気づいたので、僕はそういう生き方をしてきました」

杉窪さん自らがパリに飛び、女性的なかわいさをもつ備品を買い付けた。
テーマカラーは赤。
パンを置く器の赤。
サンタクロースの人形の赤。
パンを置く皿にタルト型を使用するなど、ガーリーに演出している。

杉窪さんの考える、フランス的なるもの。
たとえばクロワッサン。
「(スギクボムーブメントの)4店舗の中でいちばんミルキーに作ってあります。
日本はさくさくかどうかに重きを置く。
フランスは、クロワッサンといえば、バター、小麦粉のおいしさ」

名古屋テーラテールで見せつけられた、バターが光り輝くクロワッサン。
ュヌ ボンニデーではどんな驚きが仕組まれているのか。 
そう思いながら、クロワッサン生地のパン・オ・レザンを食べた。
ばりばりとポテトチップスが割れるような響き。
皮が乾いているのに、中身はあふれるほどのバターで湿っている。 
そして、黄金色の輝き。
それが予感させた通り、バター感は鮮烈で豊か。
濃厚に、甘美に、あたたかく広がり、レーズンの酸味のつめたさとうつくしいコントラストを描く。
一瞬フランスを想起させ、次の瞬間にはそれを超え出るほどの快楽に酔いしれることになる。

秘密はどこにあるのか。
杉窪さんに店舗の2階部分を案内してもらった。
「ここはパイルーム。
室温は常に18℃に設定してあります」

パイルームとは、クロワッサンのような折り込み生地を作るための部屋。
低温に管理されることで、バターを溶かさずに生地を作ることができる。

「パイルームの最大のメリットは、パイシーター(生地を伸ばして折り込むための機械)を冷やせること。
常温のままだと、パイシーターを通した瞬間、バターが溶ける。
溶けると生地がぎゅっとなって(層が密着して)しまう。
そうすると、バターの香りが出ない。
窯の中ではじめて溶けたら、いちばん香りが出る。
折り込み生地でいちばん大事なのは、デトランプ(生地の部分)とバターの厚さをキープすることです。
みんな三つ折りが何回なのかばかり気にするけど、ポイントは、バターを潰さないようにしながら目的の薄さまで持っていくこと。
きちんと作るには、最初のスタートはむしろ厚いほうがいい。
これを見てください。
ヨーロッパのパイシーターなので40mmの厚さまで通せる(日本製は30mmが一般的)。
最後までバターの層を残すことでバターの風味が残る。
きれいに折れてると、窯の中でバターが溶けたときの流れ方も変わる。
クロワッサンは横巻きだし、パンオレザンは縦巻き。
縦巻きにして、あえてバターを流したり。
巻き方で特徴が出るのは、生地が潰れていないからできること。
きちんとした仕事をすると、作るものの幅が広がる」

ふたたび、パン・オ・レザンの話に戻る。
巻いた生地に遠心力が働くように外へ外へと広がりだすような形をしている。
バターによって生地の一枚一枚がきれいに分離しているからこうなる。
ばりばりとした食感も同様で、バターが完全に生地とからむことで、油で揚げたような感じになっているのだ。

同じ縦巻きクロワッサン生地のアイテムとしては、自然栽培のゆず入りのものもある。
ゆずのすっとする香りが、バターの甘さにせつない刺激を与える。
一口食べて、これは本当にエロティックだなー、と思わず呟くと、杉窪さんは答える。
「本当においしいものはどんどんエロくなるんです」。

ュヌ ボンニデーのスペシャリテはキッシュ。
そのレシピもパリを感じさせるものだ。

「ブリゼ(キッシュ生地)はジェラール・ミュロと同じ配合。
20年前に『とっておきのレシピ』がフィガロにのってたのを見逃さなかった(笑)。
片栗粉が入っている。
フランスでは片栗粉とコーンスターチをうまく使い分ける。
しっかり火を通すものはコーンスターチ。
クラフティ(プリンのような生地)とか中途半端に火を通すものは片栗粉。
コーンスターチはパティシエールに入れるぐらいしかほとんど使いません」

台になるタルト部分はかきっとしてさくさくなのに、中身はおいしい卵焼きのようにとろとろ。
そして具材は惜しみなく。
私の食べたものには鮭がぎっしり詰まって、ホウレンソウが合わせられていた。

「向こうのキッシュは具がいっぱい入っている。
日本のはアパレイユ(生地)のほうが多い。
お好み焼でも、キャベツいっぱいのほうがおいしいでしょ」

ちなみに、ジェラール・ミュロといえば、1軒の店でパンもお菓子もトレトゥール(惣菜)も売る老舗。
クロワッサンが名高く、ジャンルをまたにかけてクオリティが高い。
それは、小さい店ながら、セュヌ ボンニデーの目指すところ。

朝はクロワッサンとコーヒー、昼はキッシュやリエットといった惣菜とワインを、併設の小さなカウンターで楽しむという、まるでパリのような体験ができるのも、セュヌ ボンニデーの魅力のひとつ。

姉妹店であるビストロカプリシューから運ばれるリエットやパテ・ド・カンパーニュ。
それらを使った極上のサンドイッチも用意される。

リエットサンド。
ハード系の生地にカレンズを混ぜ込んで細く焼き、そこに切り込みを入れてリエットを塗り、クルミをたっぷりとはさむ。
リエットの肉味、熟成香がたなびき、やがてクルミの香ばしさ、カレンズのゆっくりとした甘さが寄り添っていき、曰く言いがたい完全なマリアージュとして立ち現れる。
リエットの癖の強さが逆回転して、食べやめられないほどの快楽へ引きずり込まれる。

さらには、パンに転向する前は腕利きのパティシエとして鳴らした経歴を活かし、入魂のプティフールセック(クッキーのような小さな焼菓子)も店頭に並べられる。

ガレット・ブルトンヌの衝撃。
表面はかりかり、ぽろぽろと崩れたかと思うと、じゅわっと滲みだす、バターの豊かな味わい。
鼻へ、口中へとあふれだしてとどまるところを知らず。
そして、本当にうつくしいバターの甘さが喉へと流れこみ、しばらくのあいだじんじんとして、たまらない心地よさとして留まっている。

「お菓子屋の売り上げを取れって、スタッフには発破をかけている。
パン屋でこのクオリティやられたら、お菓子屋はたまったもんじゃないでしょ?(笑)」

丸い食事パン。
その不思議な食感は驚くべきものだった。
ちぎろうとすると、チューインガムか餅のようにびよーんと伸びる。
皮は薄く、香ばしく、一方で中身はむにゅむにゅとした食感。
並外れた水分量と相まって、歯にくっつくのも楽しい。
よけいな香りは一切なく、ゆえに小麦の繊細な風味のささやきが邪魔されることは決してない。

「吸水が100%(通常のパンは60〜70%)。
そんなに水が多かったら、普通は成形できないでしょ。
(どうして成形できるのか?)ミキシングの仕方ですね。
たくさんまわして引きを出している。
引きがあるから力が強くなっているはずなのに、こんなに歯切れがいいのは吸水が多いから。
素材と向き合って、理論を勉強すれば、イメージしたものはなんでも作れます」

秘密は水分量だけではない。
このパンの薄い皮、独特の食感はコンベクションオーブン(ファンがついていて対流を作りだすことで均一にすばやく焼ける)ならではのもの。
パンにはデッキオーブンと思われているが、杉窪さんはコンベクションの利点を強調する。

「コンベクションオーブン用の配合にすれば、まったく問題ありません。
逆にいま出まわっているレシピが、デッキオーブン用の配合、デッキ用の発酵の取り方というだけで。
水分の多いパンはむしろコンベクションのほうが向いている。
デッキだと生地が硬くなる。
コンベクションのほうが伸びる。
だから皮が伸びて、薄くできる。
デッキの優位性は遠赤外線にあります。
だから、この店ではハード系はデッキで焼きます」

ュヌ ボンニデーは、コンベクションとデッキ両方を備える。
ブリオッシュや食パンなどやわらかいパンはコンベクションで。
ハード系のようながっちりとした硬い皮が求められるものはデッキオーブンで焼かれる。

たとえば、カンパーニュ。
ここを強調してきたか、と思った。
麦の粒の外側の、穀物的な、癖のある香り。
一歩まちがえれば野暮ったくなりがちなこの香りを、その他の余計な匂いをなくし、食感も口溶けも食べやすいものにすることで、好ましい野趣として取りだしている。
遅れて持ち上がってくる甘さやコクと次々と結びあうことで、それが奥深くなっていく。
中身の湿り、ぷりんとした噛みごたえ。
ちゅるちゅるとよく溶けて、ひたひたとうまみを含んだ液体を舌のあたりにしたたらせるとき、焼きもちを食べているかのように錯覚する。

(杉窪章匡さん[左]と有形泰輔シェフ)

この店にシェフとして送り込まれた有形泰輔さんは、カンパーニュの粉をこのように選択したという。
「基本になるのは北海道産のキタノカオリ。
そこにKJ15(熊本県産ミナミノカオリ石臼挽き)と北海道産のライ麦全粒粉をブレンドしました。
KJ15はおいしい粉。
粉屋さんには種で使うように言われてましたが、特徴である穀物臭をうまく活かしたかった」

都心からやや離れた町の商店街に突如現れたモダンな店舗は、早くも付近の人たちの注目を浴びている。
店名「セテュヌ ボンニデー」(C'est une bonne idée)とはフランスの日常会話でよく使われる表現で、「それはいいアイデアだね」の意。
フランスの伝統に、新しいアイデアを加えてイノベーションを起こそうとするこの店の名にとてもふさわしい。
スギクボムーブメントはまだつづく。(池田浩明)

セテュヌ ボンニデー
神奈川県川崎市多摩区登戸1889 今野ビル1F
044-931-9610
www.cetune-bonneidee.com(製作中)
火曜定休

スギクボムーブメント comments(0) trackbacks(0)
パンだけ食べて日本縦断【第1回沖縄編】・pain de kaito
池田浩明の新刊『パン欲』。
「日本全国パンの聖地を旅する」という副題の付されたこの本には沖縄から北海道まで日本中のパン屋が登場する。
私はこの本を作るため、「パンだけ食べて日本縦断」を敢行した。
一筆書きではなく自宅と各地方を行ったり来たりではあるが、旅に出ている間は腹に余裕のある限りパンを食べまくった。

『パン欲』で紹介した沖縄のパン屋
八重岳ベーカリー プラウマンズランチベーカリー 水円 宗像堂

沖縄はパンの島になった。
久しぶりに沖縄を訪れた私の感想である。
ページに限りがあり『パン欲』に収録することのできなかったパン屋を、「パンラボblog」で紹介したい。
第1回沖縄篇はpain de kaito。

那覇から車を飛ばして北へ1時間余り。
ヤンバルクイナさえいるような手つかずの自然がすぐそばに迫る町、名護。
肌を刺す日差し、湿気、そして海の気配。
まがうことない南国の空気の中で、バゲットやハード系のパンが並ぶブーランジュリーの扉をくぐるのは、不思議な体験だった。
pain de kaitoでパンを焼く河本雅一さんの明るい笑顔。
制服を脱いでアロハに着替えれば、もうウチナンチュー(沖縄人)そのものといった感じの人だった。

「沖縄はパンブームですね。
こっちへきて5年になりますが、その間、何十店舗開店したでしょうかね。
横浜出身。
新婚旅行で13年前にきたとき、こんなところでのんびり焼きたいなと思ったのがきっかけですね。
ダイユーというパン屋の立ち上げをする会社で働いていました。
新規開店の手伝いで行くと、地元の人に『パン屋ができてありがとう』と言われる。
なにもないところでパン屋やったら楽しいのかな。
ギター弾きながら飲みながら、色が黒いパン屋を目指そうかなって(笑)」

いったい沖縄の人はバゲットを食べるものなのか?
食べるから作る、食べないから作らない、ではない。
南国の青空の下でバゲットを食べる文化が育ったらおもしろい。
無謀な挑戦だからこそ、やってみる価値はある。

「僕のパンのベースはサンジェルマン。
最初はまったく売れませんでしたね。
田舎はコンビニのパンが、パン。
でも、食べてもらうと変わってくる。
バゲットって意外と硬くないんだ。
地元の人の意識を変えなきゃいけないな。
ハード系を中心にスタートしてみた。
まったく受け入れられず、お客さんが入ってきて『あんぱんないの?』と訊かれ、『ない』って言った瞬間、こなくなる(笑)。
このラインナップでお客さんがきてくれるようになるまではたいへんでした。
はじめたときどうしようかと思いました。
1日にバゲット1本、2本しか売れなかった。
それがバゲット100本売れたことがあった。
友だちのレストランでうちのパンを出してくれたのがよかったですね。
リエットやパテといっしょに。
そこでお客さんがバゲット意識してくれた。
いまでも1日50本、60本は売れます。
なんとかまた100本に持っていきたい。
作りきれないぐらいの数をひーひーいいながら作るのが楽しいんですよね(笑)」

アナナス(200円)
パイナップルのデニッシュ。
南国で食べるにふさわしいパンだと思った。
口にする前から濃厚に南の果物の熟れた匂いが香っていた。
パインのしゃきしゃき感と、薄く焼いたデニッシュのさくさく感。
汁気にあふれ、酸味がきりりとして。
カスタードが酸味と抱き合い、一方でヨーグルトは甘さをさわやかにする。

パンを置くガラスのケースのいちばん上の目立つところにバゲット、カンパーニュと、くるみやドライフルーツの入ったハード系。
地元農家でとれた、うりずん豆やトマト、おくらやへちまを使ったパン。
沖縄という土地に寄り添い、しかしおもねらず、フランスパンを焼く。
自家製酵母のハード系のパン屋は沖縄に数多いけれど、イーストを使った軽やかなフランスパンに関してはここkaitoが独走状態にある。

「沖縄は自然派のパンが多い。
宗像堂、水円、八重岳ベーカリー。
うちは町の素朴なパン屋。
値段を上げたくない。
高い粉は使わず、子供がお金握りしめてきて買えるような。
ただし、野菜はこだわってます。
地元の農家さんが持ってきてくれるものを使っています」

芳野さんの朝採れスパイシーサンド(150円)。
オクラ、シイタケ、ズッキーニ、パプリカ。
ゴントラン・シェリエばりに、カレー粉を練りこんだチャバタ生地に、ローストした野菜をはさむ。
スパイスがパンと野菜を結びつける。
野菜からは汁が滴って、身のやわらかいところが溶け、パンも溶け、マヨネーズのとろけとも合わさって、口の中で渾然一体となる快楽。

ガラスの向こうに知り合いらしき人がきていた。
「あれは地元の海人(うみんちゅ)さん。
急にイカを持ってきてくれて、『パンに使え』って(笑)」

海人さんは私の話を邪魔しないよう、終わるのをずっと待っていたのだ。
うちなんちゅとはなんと素朴で、奥ゆかしいのだろう。

「男の人は恥ずかしがって買いにきてくれない。
それが、『おまえんとこカレーパンうまいから買いにきた』と言ってくれる人が出はじめたり。
気がついたら地元に根づいてたのかな。
沖縄にいきなりやってきて、身よりもなにもないところでオープンしましたからね。
オープンのひと月後 に妻の陣痛がはじまっちゃうし。
身よりもないので、子供を預けるところもない。
お客さんに訊いてみたり、自然と地元の人に頼りますよね。
ゆいまーる(相互扶助)の文化だから、近所付き合いが深い。
一度飲んだ人は兄弟というような土地柄ですから」

そのあとやってきたのは、保育園の園長先生だった。
「巻きパンを保育園でやっています。
小学校でパンを作ったり、フランスパンを持ち込んだり。
バゲットを食べた子供が『硬くない』って言ってくれる。
焚き火であたためるとやわらかくなるんです。
こういう活動ってすごく大事で。
子供のうちに食べると味覚が変わりますからね。
休憩時間に園長先生や子供たちと話していると、パンをどう食べるかみんな知らなかった。
『サンドイッチの講習をやろうよ』。
夕飯の残りもってきてもらってサンドイッチを作る。
ひじき、ちゃんぷるーをあたためたパンにはさんで、マヨネーズ塗って。
おいしいですよ」

沖縄はちゃんぷるーの文化。
固有の文化に、日本、中国、アジアを融合させてきた。
戦後はアメリカまでも。
河本さんが狙うのは沖縄料理とフランスパンのちゃんぷるーだ。

「和と洋がうまく融合できたらいいですよね。
そういう店をやってみたくて。
焼肉屋でリエットを出し、七輪でバゲットをあぶって。
そんなことをやってくれる友人がいるので。
古民家借りて、沖縄文化とパン。
誰もやってないですし。
沖縄ではヤギとかイルカを食べますけど、問題なくパンと合いますよ。
豆腐ようにはちみつかけてバゲットにのせたタルティーヌもすごくおいしいですよ。
豆腐ようってブルーチーズのようなもんですからね。
泡盛ともすごく合う」

それはおいしそうですね、食べたいです。
と興奮ぎみに私は応じたが、いまkaitoで豆腐ようのタルティーヌは出していないという。

「1日1本も売れない日が出てきたもんで。
豆腐ようって地元の人が好きじゃない。
あれはお土産屋さんで売ってるもので、沖縄の人はぜんぜん食べないんですよ。
沖縄は食文化がおもしろい。
スーパーまわってみるとおもしろいですよ。
普通の売り場の中に突拍子もないものを売っている。
レタスをおでんに入れたり、へちまを味噌炒めにして食べたり。
うちでもへちまはグリルしてサンドイッチにします。
沖縄ではパパイヤも、フルーツでなく野菜として食べるんですね。
さっとゆがいて炒め物にしたり」

河本さんはフレンドリーな、気持ちのいい人だ。
この日、誕生日を迎える知人に贈るための飾りパンを作っていたところだった。

「これからハーリー(伝統漁船を使ったボートレース)の練習にいくんです。
気持ちが熱い人が多い。
最年長は60代で、僕が38で若手。
怖くて、地元の若者は近寄らない。
『もっと漕げー!』と怒られながら(笑)。
新しいところにきたから、なんでもチャレンジできる気分なんですよね。
先入観ゼロだから、スパっといける。
サーフィンもはじめましたし。
子供もうすぐ5歳ですが、いつも海で遊ぶので真っ黒です。
奇声あげながらサーフィンやってる(笑)」

取材しているときに感じたこと。
都会の人と話しているつもりが、いつのまにか沖縄の心を持つ人と話をしていた。
河本さんはうちなんちゅーの舌をバゲットに染め上げる一方、自分も沖縄に同化していたのだ。
相手を受け入れることなしに、自分が受け入れられることはむずかしい。
パンが土地に根づくとは、きっとこういうことだ(池田浩明)。

Pain de Kaito(パン・ド・カイト)
沖縄県名護市宇茂佐の森4-2-1
0980-53-5256
8:00〜19:00
日曜休み
パンだけ食べて日本縦断 comments(4) trackbacks(0)
第6回チャレンジドカップ決勝大会
第6回「チャレンジドカップ」(障がいのある方のパン・菓子コンテスト)の決勝大会が、11月30日横浜の国際フード専門学校で開かれた。
全国の障害者施設で行われている、パン・お菓子の製造を後押ししようとはじまった大会。
予選を勝ち進んだ、パン部門・菓子部門それぞれ8チームが、全国から決勝の舞台に集まった。

第6回の大会委員長となったのは、パラリンピック水泳で15個の金メダルを獲得した成田真由美さん。
彼女自身、たくさんの人の期待を背負いながら、世界の舞台で戦ってきた人である。
「他のチームがすごすぎるのもあるし、たくさんの人に見られてすごく緊張しそう。
私は見られるのが好きなほうですけど、みんなにとってはプレッシャーになるんじゃないかな。
そんな中でも、作り方を見ていると、すごく丁寧ですよね。
離れたところで同じ仲間が(ミキシングなどを)やっていて、声を出すと、それにに反応して返事をする。
自分も集中して作業をしているのに、すごいと思います。
仕事の流れがちゃんと頭に入っているからなんですよね」

成田さんは、2020年東京オリンピックの招致委員として、開催決定に尽力した。
「2019年スペシャルオリンピックス夏季世界大会に東京は立候補することになりました。
それが開かれるときには、障がいのある人が当たり前に生活できるような社会になってほしい。
そのためには一歩、一歩進めていくしかない。
多くの人にこの大会を知ってもらうのが大切なことです。
障がい者施設の利用者の就労の環境についても、知ってもらいたいと思う」

大会ごとにレベルは確実に上がっている。
たとえば、温度管理が大事な意味を持つ、パン生地の発酵。
たったひとりでミキシングを行い、生地の温度を計り、黙々と仕込みをこなす選手の姿があった。
職員さんからなんの指示も受けず。
この大会では、各工程ごとに、職員がどの程度作業を助けるか、「かかわりなし」「確認のみ」「指示」「一部補助」「職員が行う」という5段階で自己申請する。
申請通りに行われているかは、審査員によって厳重にチェックされる。
山本シェフも参加チームの進境ぶりに驚く。
「どのチームも職員の人がほとんど手伝ってない。
ほぼ指示だけですよ。
僕たちパン屋が見習わないといけないことがいっぱいある」

職員の関わりをなくせばなくすほど、基礎点が上がり有利になる。
そのルールが、指示をいかになくし、利用者にまかせるかという工夫の開発に向かわせ、自立を促している。
工程表に細かく書かれた注意点や指示。
声を出すタイミングまで記載されているものがあった。

あるいは、生地に巻き込むフィリングの量や位置をわかりやすく示すために写真を使っていた社会福祉法人めだかすとりぃむ(埼玉県川口市)「すいーつばたけ」チーム。
同じ施設の木工部門が作ったという麺棒には、常に一定の厚さに生地をのばせる工夫も施されていた。

山本「失敗しないための工夫がすごい。
これを見ていると、原点に帰れますよね。
仕事って慣れてくると、失敗する。
俺たちでも、クロワッサンの折り込みするのに、1回折ったのか、2回折ったのかわからなくなることなんてしょちゅうありますよね。
何回も出場を重ねるごとに、利用者だけでできるように改良を重ねている」
こういった工夫が全国の作業所で共有されれば、技術のレベルアップにつながることはまちがいない。

ほほえましい光景がいくつもあった。
ばんじゅうの中に入った1次発酵中の生地を見つめる参加者たち。
このひたむきさ、集中力。
「発酵の時間は休んでていいんだよ。
おいしくなれ、おいしくなれって念じてるんじゃないの?」
とブーランジェリー ボヌールの箕輪喜彦社長が笑いながら声をかける。

会場のドアの外で中の様子をずっと見守る人がいた。
胸には選手であることを示す番号がついている。
彼女は、パンを焼く頃になるとやっと中に入り、型から生地を取りだす作業をはじめた。
健常者ならば簡単なことかもしれない。
だが、オーブンから出たばかりの熱された型を持つ仕事は、障がい者にとってはどきどきの作業にちがいない。
この女性を作業所に通わせている親御さんもまた行き詰まるような思いでこの場面を見ていることだろう。
「4人しか入れないので、交代でやってます」
と、社会福祉法人めだかすとりぃむの職員さんは語る。
ひとりひとりの得意技をうまくシェアしながら、ひとつのパンをみんなで焼きあげるのだ。

ラ・テール洋菓子店の中村逸平グランシェフも菓子部門の感想をこのように語る。
「すごくレベルが高い。
審査員もみんなおいしいおいしいって言ってます。
びっくりしたのは、素材から自分で作る奥の深いお菓子づくりをしていること。
地元でとれた小松菜からシフォンを作ったり、卵にこだわったり。
赤米やあわ、ひえを使って色彩を表現したり。
職員が手を出さなくても、できるだけ自立してできるよう、指示をすべて書き出したり。
職員さんのそういう気持ちが工夫の中にすごく籠っていますね。
たとえば、手粉をふらないでできるよう、クッキーの型にゴムマットをつけている。
作業の安定性を考えた道具ですね」

この型を使っていた、NPO法人シンフォニーの「どき土器クッキー」がお菓子部門の1位(金賞)を獲得した。
地元の遺跡で発掘されたはにわや土偶を象った、とてもかわいいお菓子。
細かな模様を息を詰めるようにして型から抜く姿に感銘を覚えた。
どうしてもうまく抜けず、型にくっついてしまう。
それを1個1個、根気づよく手作業で直す。

職員さんはこのように話す。
「もう10年近くこのクッキーを作っています。
はじまった当初は視覚障がい者の方が作業を行っていました。
型で抜くという工程を、目の見えない方でもできるよう、このような型になりました。
どうしても、型に生地がくっついて、形が欠けてしまう。
それを目の見えない方が指先の感覚で直していく。
すごく勉強になりましたね。
目の見えない方でなくても、この形をきれいに抜くのはすごくむずかしいので、ひたすらやって感覚で覚えていくしかありません。
だから、毎回同じ型だけを担当するし、お休みするとできなくなってしまう」

「今日はみんなすごく緊張していました。
どうなるのかなと思っていたら、自分らしく、いつもの作業ができたので、それがなにより。
いつもと段取りも変わったのですが、みんなすごい集中力で感動しました。
最後は涙が出ました。
大会には参加できなかった利用者も、準備を手伝ってくれた。
帰ってみんなでよろこびたいです」

お菓子部門2位(銀賞)社会福祉法人開く会(神奈川県横浜市)「はたらき本舗」のタルトdeユデール。
「フロランタン(ナッツをキャラメルでコーティングしたもの)の上に落花生。
ナッツの風味がよく出ていて、ヒット商品になるんじゃないでしょうか」(リリエンベルグの横溝春雄シェフ)

お菓子部門3位(銅賞)には社会福祉法人ぎんが福祉会(山梨県甲斐市)の「ぎんが工房」チームが作った「花豆ロール」が選ばれた。 

横溝シェフはお菓子の審査はとてもむずかしいと語る。
「パンはイーストによって同じラインでいっしょになっていますが、お菓子はパウンドケーキ、シフォンケーキ、焼菓子とぜんぜんちがう。
同列で計れるものではない。
だから、一概にどっちがおいしいという評価ではなく、さまざまなことを考慮しています。
同じ作業ができていたとしても、障がいの程度には重度と軽度がありますし。
重度でも声をかけるぐらいで、職員さんがまったく手を出さないチームがあったのはすごいことですよね。
指導者の方の努力で、利用者の方の個性をうまく引き出されていると感心しました。
アイデアもすばらしい。
ガトーショコラのチョコレートをホワイトチョコレートに置き換えたり。
そんなこと僕は一度も思いついたことがありませんでした。
帰って試してみたいと思います」

待ち時間のあいだに、コンフィチュールの第一人者である横溝さんの講習会が開かれたのは、参加者にとって参考になる取り組みだっただろう。

パン部門第3位(銅賞)は障がい者福祉サービス事業所宝逢館「宝逢館ベーカリーチーム」(岩手県一関市)の「南部一郎クグロフ」。
しっとり感や気持ちいい甘さは、一般のパン屋に負けない完成度だ。

「南部一郎という、岩手県一ノ関でしかとれないつる首かぼちゃを使いたくて、これを作りました。
最初はクリームにして上にかけたりしていましたが、ふかして、裏ごしして、生地に練りこむほうがもっとおいしい。
それを思いついたのが1週間前。
昔ながらのかぼちゃで、そんなに甘いわけではない。
何度もやめようと思いました。
でも、近所のおばあちゃんが南部一郎を持ってきてくれて、応援をしてくれる。
私は指導のとき怒ってしまうこともありましたが、選手ががんばってくれました」

パン部門第2位(銀賞)は社会福祉法人悠紀会「にっこり作業所」の「にっこりフルーツいっぱい! くるみのかたいパン」。
アイデアに走るチームが多い中で、ハード系のパンにドライフルーツという王道を作りきっての2位に価値がある。

パン部門第1位(金賞)は、埼玉県立特別支援学校さいたま桜高等学園の「サプライズチーム☆SAKURA」。
このチームの周囲は朝からとてもいい匂いがしていた。
学校の園芸コースで作られたミニトマトを煮て、これも畑でとれたバジルを乾燥させたものを当日に砕いてペーストを作る。
驚くべきは成形。
1個1個、ペーストを包み、ヘタまでそっくりにトマトを形作る。

山本敬三シェフはこのように評した。
「完成されたチームのまとまりを感じました。
役割分担もきちんとできていて、かなり練習を積まれたのではないかと。
努力は結果を生むんだなと改めて思いました。
成形にしても、僕らパン屋はここまで手間をかけられない。
とてもすばらしいできだったと思います」

高校生たちが授業の一環としてパンを作る。
学校の近くにあるプラザウエストという公共施設で、自分たちで販売もしている。
就職に際して、この経験が役立つのだという。
あんなに一生懸命無言でパンを作っていたのと同じ高校生とは思えないほど素顔は明るく、みんなで冗談を言い合い、最高に仲よく見えた。

この大会を見て思うこと。
障がいというと暗い面ばかりをイメージしがちだが、決してそうではない。
優勝が決まったとき、よろこびあう笑顔。
いい顔をしていたのは、優勝チームばかりではない。
ハンディキャップがあるからこそ、それを乗り越え、お菓子やパンを作りあげる充実感は健常者にもまさる。
この大会は作ることのよろこびという、忘れがちな原点を学ばせてくれる。(池田浩明)

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