パンの研究所「パンラボ」。
painlabo.com
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
空想サンドウィッチュリー、初のロケ!
「引退したら小さなサンドイッチスタンドを作りたい」

西山逸成シェフの夢を一足先に現実にしてみよう…ということで始まった
「空想サンドウィッチュリー」の初のロケが終わった。

サンドウィッチの屋台を日本の、否、世界のいろいろな場所に持っていき、
空想のサンドウィッチュリーをオープンする。

もちろん空想である。
屋台は段ボールだし(風が吹いたら大慌て、雨が降ったらもう大変!)、
実際に屋台での販売や調理はしないし(日本ではとてもじゃないけれど許可がおりない)、
それはあくまで「ごっこ」である。

けれど、この馬鹿げたごっこ企画に、大の大人たちが本気になった。
馬鹿げたことこそ真剣に。
遊びは全力でやるからこそ、おもしろい。


段ボールの屋台は、なんと「ランドスケーププロダクツ」のきたはた裕未さんの手によるもの。
ぶっちゃけて言うと、ランドスケーププロダクツはとてもとても人気のある
設計、デザイン事務所だ。
そんなところに「段ボールの屋台を作って下さい」と頼む方も頼む方だが、
受ける方も受ける方である。


段ボールの屋台を作るのに、一線で活躍するプロが図面を引き、模型を作り、素材を吟味して、
しまいには段ボールをギコギコして屋台作りまでして頂いた。


お弁当箱は、「折形デザイン研究所」の山口信博さんの手によるもの。
切れ目すらない一枚の紙から弁当箱が立ち現れる。
初めてその箱を見たとき、まるで手品を見るような気分になった。
プロ中のプロの手による仕事。


連載ページのデザインやこのロゴも山口デザイン事務所にお願いした。


この企画はこうして、どんどん周囲の人たちを巻き込み、
どんどん大がかりになっていくし、
関わるひとたちがみんな、
想像よりも、空想よりも、遥かに上を飛んでいく。
驚愕の連続である。

そして、初のロケで、この企画の主人公である西山逸成シェフが
それは、それは見事にかっ飛んでみせた。




このお弁当に関する詳しい話は、
連載「空想サンドウィッチュリー」第2回、
池田さんの筆に譲るが、
Twitterにアップされたこのお弁当の写真は、
わずか1日で5000回以上リツイートされた。
一言添えるとするならば、
「アイデアも見た目もすごいが、食べたらもっとすごいよっ!」
ということ(めちゃウマ!)。

「空想サンドウィッチュリー」は月刊連載企画。
毎月、どこかにこつ然と屋台が現れ、颯爽と去っていく。

その時、その場所にいる人たちに食べてもらいたい。
そんなお弁当を毎月、西山逸成シェフが考え抜いて作る。



……ぷはぁ……いつも鼻歌歌いながらブログを書くのに、
今日のは本当に緊張した……。


今回撮影にご協力頂いたのは千代田区紀尾井町にある
COOK COOP BOOK」さん。


料理や食べ物に関する本がこれでもかと並べられてる本屋さんです。


西山シェフの今回のお弁当のインスピレーションはここからも
生まれたのではないでしょうか。


パンラボもありますよ。

カフェスペースもあり、ゲットしたお気に入りの本を
コーヒーを飲みながら楽しむこともできます。


さらに超充実したキッチンスタジオがあり、
実に様々なイベントが行われています。


というわけで、
「空想サンドウィッチュリー」の第2回は
3月17日発売のパニック7ゴールドという本に掲載されます。

それでは。

【ナカムラ】

空想サンドウィッチュリー comments(3) trackbacks(0)
パンのおいしさは「パン×感性」だ!?
2月16日、日曜日の午後に
池袋コミュニティカレッジで行われたパンラボ講座。
テーマは「おいしいパンってなんだろう」。

パンラボ講座の肝は
「おいしいパンをみんなでたべようじゃないか」ということ。
そこを起点にして色々なテーマに発展して行きます。


おいしいパンの力は偉大です。
おいしいパンを一口かじれば、
それを触媒に参加しているひとたちのテンションも上がるし、
会話もはずみます。

そう、おいしいパンがあれば池田さんも楽ができるというわけ(笑)。
おいしいパンは絶対に欠かせません。

この日も必殺の池田チョイスのカンパーニュやバゲットが揃い踏み。
池袋コミュニティカレッジの一室にパンのおいしい匂いが充満していました。


銀座レカン」のカンパーニュ。
365日」のカンパーニュ/ライ麦40。
SAWAMURA」のバゲット
ブレッドプラントOZ」のバゲット。

シンプルながら、どれもヨダレがだだ漏れになる優秀すぎる食事パン。
ここにチーズやハムやワインが無いというのは非常に酷な気もするんですけど…。

今回は一応、パンの味わい方的なこともテーマの一つなので、
みんなで切る前のパンを眺め、その形やクープの具合を確かめます。


その後、各テーブルに分配されたパンをみんなで切り分けて行きます。


いや〜、本当に香りがいい!
そしてそれぞれのパンを池田さんの説明を肴にして味わっていきます。

銀座レカンのカンパーニュは
「味わいに起承転結を付けるため種類の違う塩が入っている。
それにより味の速度がかわり、時間差で味が到達する」
とか、
ブレッドプラントOZのバゲットは
「先っちょが尖っているのは、メゾンカイザーと同じ。
メゾンカイザーの秘密を知っているシェフが作っている。
パンをたくさん食べている人がこのバゲットを懐かしく感じるのは、
リスドオルが使われているから。そして乳酸菌に秘密が……」
とか。

みんなでもぐもぐしながら和気あいあいとお互いに感想を述べ合います。


「銀座レカン」のカンパーニュは、実に野性味あふれる香り。
上の皮、下の皮、中身…噛み締めていくたびに味の階層が
移り行く実に繊細で、口溶けのよいカンパーニュ。

「365日」のカンパーニュは、
口の中でシュワシュワと溶けていく。
カンパーニュなのにおそるべき口溶けのよさ。
今まで食べてきた365日のパンにはことごとく衝撃を受けてきたが、
このカンパーニュもまたとんでもない代物です。


パンをひとしきり食べたあとは
その感想をたたかわせつつ、
おいしいパンとはなにか…という深淵に踏み込んでいくお時間。

ここで池田節が炸裂。
「パンのおいしさは、パン×感性できまる」

この瞬間の会場の「??????」という空気がめちゃくちゃ面白かった。

なんだか文章でこの「パン×感性」を説明するのは難しいのだけれど、
簡単に説明すると、パンのおいしさとはパン本来の味と食べ手の感性、
いわゆる好みや、好みが形成されるに至った記憶などで変化するということ(たぶん)。

誰しもおいしいパンの記憶を持っていて、
それはこどもの頃に食べたコッペパンであったり、
彼女の手料理とともに食べたバゲットだったり、
パリで食べたクロワッサンだったり。

そういった記憶がおいしいパンを食べた時に突如蘇る…ということもあります。
そこにスポッとハマったパンは、おいしさ倍増になったりしますしね。

人はパンを食べるときに記憶を参照しながら食べている。

というわけです。

この日はちゃっかり会場でクロックムッシュ氏キーホルダーも
販売させて頂きました。


もちろんパンラボやパン欲も。


次回のパンラボ講座は少しステップアップして、
パン教室「フェルマンタシオン」主宰
茂木恵美子さんをお迎えして、
実際にチャバタを作っちゃおうという、その名も
「ちゃばちゃばチャバタパン作り教室」。

池田さんからこのチャバタを貰って食べてみましたが、
もっ〜〜〜ちりしていて大変美味でした。
それもそのはず、茂木さんはシニフィアン・シニフィエでも
研修を受けている…という筋金入りの家庭製パンの先生なのです。
ご興味がある方は是非!

池袋コミュニティカレッジ
3月30日(日曜日) 11時00分〜15時30分

【ナカムラ】

サッカロマイセスセレビシエ』(東京の200軒を巡る冒険の単行本』
ナカムラ comments(0) trackbacks(0)
山角(山梨県北杜市)
『パン欲 日本全国パンの聖地を旅する』(世界文化社)に収録しきれなかったパン屋をご紹介しています。

高速道路を降りると、山角へ至る道は山の中を突っ切っていく。
本物の自然。
それだけでも、都会からきた私を感動させるに十分だった。
葉をすべて落とした針葉樹が、棘のような枝を空に刺している。
完全に透き通った空。
冷たい空気はさらさらと乾いていて、どこまでもクリアな風景を作りだしていた。
山梨県北杜市。
八ヶ岳が大きく大きく見える場所に、内藤亜希子さんの山角はある。

「この風景がいいから、冬にきてほしいんですけど、友だちはみんな夏にくる。
なんにもないけど冬がいちばんいいんですよね。
山が見える。
夏は空気が澄んでないので、こんなにきれいに見えないです」

2回目の移転、3軒目の店舗。
はじめは横浜・白楽のにぎやかな商店街を抜けたところ(現・白楽ベーグルの建物)。
次は横浜・菊名の住宅街のはずれの薮の中に。
なぜこんなところに、こんなパン屋が、と思う場所ばかり。
山角に行くことはそれぞれに冒険だったけれど、3軒目はついに本物の旅行をしなければ辿り着けない場所になった。

自然体である。
たとえば、移転した理由を尋ねたとき。
町に根づいていた店を離れるのだから、なにか重大な決意を孕んでいるのかと思ったら、内藤さんの答えはまるでスーパーに買物に行くような気軽さだった。

「なんとなくきてたのが、だんだんよくなって。
ここらへんに住んでいる人は都会からの移住者が半分。
みんなふらりときて、住みたくなってきちゃう。
なんとなくいいよね、というノリで。
移転してからパンがおいしくなったんですよね。
作り方は変わってないんだけど。
湿度が低くて、作りやすいのはありますね。
夏はどんどん発酵がいっちゃうのが、こっちは涼しいのでそうならないですし」

角食(290円 1/2)
酵母種の香り、力強く焼きこんだ香ばしさ、カラメル化した甘さが結びついた独特の香り。
厚めの皮のしっかりした食感。
特に頭頂部の香ばしさがすばらしい。
噛みこむと、バターの甘さ、つれて酵母種の風味が滲みだし、乳酸的なほのかな酸味がそれらをさわやかにしていく。
中身も同じことで、まったりと甘く、同時にさわやかである。
素材感のしっかりあるやや重めの中身ゆえに、味わいもまたしっかりとしている。
生地が溶け、ゆるんでいくごとに、甘さは片っ端からよろこびに変わっていく。

山角のパンはどこの店にも似ていない。
なのに、なつかしく、そしておいしい。
それはなぜなのか。

「最初、白楽ではカフェをやっていました。
カフェのメニューで出すものがなかったから、パンを作ってた。
最初はパン屋を志してたわけじゃなくて。
パン屋に勤めたことがないから、独創的になる。
目指してるわけじゃなくて、そうしかできないんです」

「(パン作りを)はじめたころは自家製酵母だけでした。
イーストと自家製酵母をダブルで入れています。
ここらへんは酒蔵が多いので、酒粕が出る。
それを材料に酒種を作っています。
自家製酵母は調味料のようなもの。
イーストを入れない頃と同じぐらいの時間をかけて発酵させています。
一般的なパン屋さんの何千分の一ぐらいじゃないでしょうか」

イースト量をごく少なくし、ゆっくりと時間をかけて発酵させる。
風味を加えるため、酒種から起こした自家製酵母を入れる。
そして、焼き色も独特である。
見ただけで甘さを想起させるカステラみたいな濃褐色は強く焼き込むことで生まれる。

「生焼けは嫌いです。
歯にねちゃつくのは。
みずみずしいけど歯切れがいいのが好き。
『焦げてるでしょ』って言いながら買って行くお客さんがいますからね(笑)」

製法のせいだけではない。
内藤さんの精神性が入って、この味になるのだろう。
山角のパンとはそんな感じなのだ。

「いまは世界中からおいしい食材がいっぱい手に入る時代。
そういうところを売りにしてるパン屋さんはいっぱいあると思います。
普通に心地よく焼きたいね。
手に入るもので無理せず焼こう。
たとえば、自家製酵母だけだと安定させるのは無理がある。
店で出せるクオリティのパンを作るってむずかしかったので、イーストも使うようになりました」

白パン(290円 1/4)
この香りを嗅ぐと自然に深呼吸したくなる。
囲炉裏のような香りが落ち着いた気分にさせる。
あたたかな匂いが、自家製酵母種のちょっとした酸味へと移ろっていく。
皮は薄めだが焼き込まれることでしっかりとしている。
渋みにはじまって、噛めば噛むほどに乳酸的な甘さが漏れだし、炎の香ばしさをたっぷりと吸い込んだような香りと絡み合いながら、鼻腔へ転がり込む。
しっとりぷるんとした中身。
心地よい穀物感がじょじょにじょじょにと口の中をまったりと満たし、甘さとあいまってやさしい世界を作りだす。

この味わいはどのように作られるのか。
白パンの生地には残ったパンをいっしょに入れて捏ねるのだという。
「レストブロートを自分なりに研究しました。
大きく焼いているのでみずみずしい」

私を感動させたのはホットドッグ(350円)だった。
ぼてっとした素朴なドッグパンをオーブンであたため、ゆでたてのソーセージとピクルスをはさんで作る。
店の前に置かれた椅子に座って食べる。
冷たく快い空気もこのホットドッグの調味料になっていた。

小麦粉はなにを使っているのですか、と私は尋ねた。
「江別製粉(北海道の製粉会社)のカナダ産の粉を使っています。
適当に問屋さんから取っているもの。
それと、もうひとつ江別で気に入ってる粉があって。
昔のTYPE ERと同じ指向で値段の安いものがある。
それと全粒粉、計3つぐらいを調合し、操作しています。
味のニュアンスの気に入ってるのはあるけど、なくても困らない。
相性が合えば、小麦粉はなんでもいいと思っています」

内藤さんは丁寧に質問に答えてくれたが、銘柄を明らかにすることで誤解されたくないというニュアンスも伝わってきた。
それはどういうことなのか。
粉の銘柄によってパンを説明づけることが、内藤さんにとっては「ちがう」のだろう。
頭で理解した気になっていることが、現実に感じているものを押し殺す。
わからないことで、開かれていく感性があると、内藤さんは考えているのではないか。

「あんまり言葉で説明したくないんですよね。
たとえば、ホームページに店の写真は載せていません。
載せるのは簡単ですけど。
それより、きてみると、想像より意外と店がちっちゃいとか、テンション上がる要素はいっぱいある。
お客さんの想像を潰さないようにしたいと思って」

理屈ではなく感覚。
理解より想像。
仄聞ではなく、自分の見たものだけ、感じたものだけを信じる。
そのようにして、自分のパンを見つけてきた。

「固定概念を持たないこと。
たとえば、オーガニックだからおいしいとか、国産小麦だからおいしいとかじゃなく」

内藤さんは、自分の焼きたいパンを「山っぽい」という言葉で表現する。
山角っぽいということでもあるし、八ヶ岳に抱かれたこの風土に基づいたパンという意味でもある。

「なんか山っぽい、この辺の土地の栄養分をぐぐっと込めたようなパン。
遠くから、手に入るものなんでも取り寄せて作るパンじゃなくて。
いまはインターネットで検索すると、これめずらしいね、おしゃれだねっていうものが、ぱっと出る。
だけど、ここらへん見渡すと、おいしいものが転がっているんですよね。
無理のない感じのパンを、おおらかに焼いたら山っぽいんじゃない?
技術とか材料とかじゃなくて、ここで、どうやったら無理なくできるか。
ここ独特の空気や水。
横浜より格段に水道水がおいしい。
そこらへんのいいところを吸い上げながら。
手はかけても、生地に触りすぎたくない。
技術は過信せず、普通に焼きたいんですよ。
普通に焼くということを考えるとこうなる。
無理な感じ、おしゃれな感じを出したくない。
技術でねじ伏せるんじゃなく、それなりに作る」

自分のしたい方向に無理矢理パンを持っていくのではなく、土地の風土に抱かれながら、パンが自ら行きたい方向に行くのを導いていく。

「ここらへんに住んでいる人にはみんなそういう『土地勘』があるんですよね」

そう言って、内藤さんは2人の名を挙げた。
付近にワイナリーがある、ボー・ペイサージュの岡本英史さん。
一度飲めば虜になる、日本産として奇跡的なバランスを持つあのワインは、自然な発酵から生まれてくる。
遠くから持ってきたものを付け加えるのではなく、自然を見つめて作るワイン。
もうひとりは、イギリスから移り住んだガーデンデザイナーのポール・スミザーさん。

「ポール・スミザーさんに学んだガーデナーの友人も、同じようなことを言っていました。
この土地に合う植物が自然に残っていくんだって」

世界中から珍しいものを集めて作った庭よりも、その土地に自然と根づく花や草から成る庭のほうがきっとうつくしい。
感覚を信頼し、風土を信頼する。
パンは小麦に加え、空気と水から作られるものだ。
作り手もまたこの土地に住み、影響を受けながら生きている。
その自分が感じたことに素直に従う。
つまり、自然であること。
無理をしてまでパンを作る必要はない。
それは食べ手を身構えさせ、自分自身をも苦しめるだけだ。
楽な気持ちで作ったパンは、食べる人をきっと楽にする。
あるがままにあること、それがいちばんいい。

「わかりにくいですよね?」
内藤さんが問い返しながら語っていたのは、そういうことだったのではないか。
(池田浩明)

0551-45-8796
7:30くらい〜夕方
火曜水曜木曜休み
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パンデュースがプロデュース! キャニス・ミノール開店
大阪の雄パンデュースの米山雅彦シェフが、ついに関東進出を果たした。
米山プロデュースの新店、キャニスミノール。
場所は新興住宅地、千葉・新鎌ケ谷。
駅前にそびえ立つ豪壮なビルディングの1階にあり、木と石という自然素材を使った内装にも、コンセプトは表現されている。
すべてがナチュラル。

たとえば、パンデュースではすべてのパンに国産小麦を使用する。
「外国の小麦はポストハーベスト(輸送時に船中で散布される農薬)の問題があり、全粒粉の場合、残留農薬が皮についたままになる。
焼けば飛ぶのかもしれませんし、安全安心を謳う気持ちもないが、普通にすっと食べることができない。
身内に食べさすなら、農薬かかってたらいややな、と思ってしまう。
国産が広まるべきやと思う。
人として、作り手の顔が見えるほうがいいですよね」

スペシャリテである野菜を使ったパンには、農家から直送された素材が使われる。
「その季節に採れるものを農家さんがいろいろ送ってきてくれます。
それがうちの店の旬になる。
野菜がなくなったらその商品は終わり。
商品は(送ってもらった野菜から発想して)受け身で作っています」

キャニスミノールでも農家とつながっていく姿勢は変わらない。
「千葉の近隣の野菜を使って、パンを作ろうと思っています。
まだ1軒の農家さんしか取引ルートができてないのですが、今後は広げていきたい」

食べてもらう人の身体を思い、作物を作ってくれる生産者のことを思い。
パンデュースのパンは、さまざまな人の顔を家族のように思い浮かべながら作られる。

ほうれん草と黒ごまチーズのフォカッチャ(180円)
玄米茶のようなすがすがしい香りを、このほうれん草は持っていた。
ふりかけられたチーズは香ばしく。
トータルとしての味わいもやさしい。
チーズのコクを頂点にして味わいはやわらかさい甘さの方へ流れていく。
ナチュラルなものの後口よさ。
生地を切ったままのラフな形もこのパンの特徴。
つまり生地を成形によって締めつけていない。
それは食感にも大きく影響を与えているはずだ。
表面はさっくりと。
一方で中身はソフトに、にゅっと歯切れる。
生地は噛まずともほどけ、たっぷりの水分がしんなりした口溶けを演出する。

紅芯大根とミニョレット(240円)
大根のうつくしい赤、さっくりとした歯ごたえが、心を躍らせる。
大根のわずかな酸味であり、苦み。
ざくっと音を立てて割れると、慈味深い野菜の汁が口の中にあふれかえる。
全粒粉入りの生地は、香ばしさとナチュラルな甘さを表現する。
チーズがえぐみをやわらげ、カブの個性を活かす。
ベシャメルソースのおだやかなミルキーさや甘さと、カブの透明なエキスが相性のよさを見せる。

千葉という新たな土地で、どんなパン作りを目指すのか。
「ここらへんは郊外型の大きなパン屋さんが多い土地柄。
駅前で手作りのパン、どれだけ受け入れられるんかな、と思っています。
いまこの辺りで売れてるパンをやっても意味がない。
うちは国産小麦でやってるから、食パンも食べたことのないような香りがするはずです。
それを感じられるお客さんもいるでしょうし、あんぱん、クリームパンが単純においしいねっていう人もいるでしょうし。
手作りのおいしいパン、国産小麦のパンを売っていきたい。
パンデュースがおいしいというパンを。
大阪駅構内にデトゥット・パンデュースという店舗があって、駅のニーズはつかんでいます。
こだわったパンを求める層から、通勤途中に買って日常で楽しむ層まで。
100円の食パンをスーパーで買ってる方を取り込めたら」

関東だから、住宅地だからといって、妥協はない。
パンデュースのやってきた100%が展開される。
「うちらしいことやってどこまで受け入れられるか。
郊外店の成り立っている土地柄で、実験するのおもしろいかな。
厨房が大きいんで、生産能力があります。
ここを販売拠点にして、カフェを併設した支店に卸したり。
店舗展開を秘めた土地。
この駅は地方のターミナルで、乗り換えのお客さんが行き交っていますし、郊外型の大きい店が多くて、こじんまりした店が逆に少ない。
おもしろい商圏やなと思っています」

フルリル(150円)
フランボワーズの爽快な酸味で幕を開ける。
アーモンドクリームの表面に出たところはかりかり、パンの中にあってはしっとりさを演出する。
焦げるか焦げないかのきわきわの焼き加減が生むアーモンドクリームの甘さ。
それはフランボワーズとの鋭い対照によってさらに心地よいものとなる。
表面のかりかりの歯触りとともに、ぽろぽろっと崩れるこの食感も、その甘さと感覚的に響き合うものだ。

「ルセットに意思がある」
米山さんが厨房でスタッフに諭していた言葉である。
レシピに込められた米山さんの意思を再現するのは熊田和弘さん。
メゾン・カイザーやゴントラン・シェリエで経験を積んだ逸材をシェフに迎えた。

同じビルの2階に本格的フレンチレストラン「キャニス・マヨール」、ライブハウス「エムティー・ミリーズ」を備える。
「大人が聴いて楽しめるものを」とオーナーの小川桃伴実さんは言う。
ライブハウスであってもきちんとした料理を出したいと、著名料理人にフレンチレストランのプロデュースを依頼した。

写真は、エムティー・ミリーズでの豪華絢爛なオープニングパーティの様子。

米山さんは、パーティのあとも、熱っぽく語りつづけていた。
低温殺菌ではない普通の牛乳には焦げたような香りがあり、それが牛乳嫌いを作り出していること。
添加物を食べられない子供の感覚の鋭さと、大人はそれに比べたら「舌がけがれていってる」のだと。
米山さんはナチュラルなものだけを使ってパンを作る。
どれだけ手間ひまがかかっても、いつも素材の作り手と、食べる人の体を思いやる。
このパンが関東のパン屋に与える影響は少なくないはずだ。(池田浩明)

047-401-6601
7:30〜20:00
火曜休み
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パリゼット(上尾)
193軒目(東京の200軒を巡る冒険)

大宮から高崎線でさらに北へ。
埼玉県上尾。
駅からさらにバスに乗る。
名店は東京から離れた思わぬ住宅街の中に存在する。

瀟洒な店。
対面式の売り場のガラスケースを覗き込んで、普通のパン屋となにかがちがう、と思う。
それがなんなのか、やがてわかった。
パンの形がすべて寸分ちがわないのである。
クロワッサンはぜんぶ同じ形のクロワッサン、あんぱんはぜんぶ同じ形のあんぱん。
当たり前と言うなかれ。
パンは、ふくらみかたも、焼き加減もひとつひとつちがう。
パリゼットにおいても、もちろん微妙にはちがうが、同じに見えるほど正確無比だ。
ここにはなにかがある、と思った。

店名が示唆するように、塩塚雅也さんはパリで修行した人だ。
「銀座木村家でスタートして、その後フランスに。
帰国後は大阪の麦の花、東京のマディにいて、それから独立しました。
パン職人になる前は、もともとフランス料理やってたんですよ。
そのレストランで自家製パンを焼いていた。
パンのことをまったく知らなかったんですが、パンがふくらむ過程が知りたくなって。
パン屋に就職して、勤めながら、専門学校にも顔を出してました。
そのときの同級生がフランスに行った。
ショック受けて、僕も行こうと。
強引に退職届を出しました。
働く場所も決まってないのに、チケットを手配した。
準備といえば、フランス語を習いに2回行っただけでしたね。
前の授業が終わって出てきた人に『パリのパン屋で働きたい』と話したら、『知り合いに聞いといてあげる』。
フランスに着いたとき、紹介してもらった番号に電話したら、その人も『知り合いのパン屋さん聞いてあげる』と。
それで、パン屋に勤めることができました。
そこのオーナーシェフが紹介してくれたので、またそこから紹介紹介で、いくつかの店に行きました」

フランスに行きたい。
ある種の人にとって、それは衝動であり、やむにやまれぬなにかだ。
そうして旅だって行った者は、人生を通じて決して消せない思いを魂に刻み付けることになる。
まるで運命のように、塩塚さんの目の前に立ちはだかっていた障害は消え、錚々たる名店で働くことができた。

「2000〜2002年、ほぼパリにずっといました。
メゾン・デュピュイ、ジャック・タピオ、モワザン。
地方は、レイモン・カルヴェルさんが教授を務めていたことでも知られる、国立製パン学校にも行きました。
向こうのクロワッサンをはじめて食べたとき、衝撃受けた。
こんなうまいもんがあるんだって。
向こうは形よりスピードを求められる。
スピードに負けるかって。
対等にやってけてたとは思います」

塩塚さんにとって、大事な師といえる人物がいる。
「そこで働いてたわけではないんですけど、ティエリー・ムニエさんのお店にはよく行きました。
すごくおいしくて、どうやったらこういう味が出るんだろうって」

ドンクの「バゲット・ムニエ」に名を残すジェラール・ムニエ氏ではなく、もうひとりのムニエ。
MOF(国家最優秀職人)受賞歴もある名職人。

「ルヴァンリキッド(メゾン・カイザーの製法として知られる)は、ティエリー・ムニエさん、エリック・カイザーさん、クリストフ・ズニックさんの3人で考えたものだそうです。
ムニエさんの店(オ・デュック・ドゥ・ラ・シャペル)に日本人が働いていたこともあって、お店に行くようになりました。
ルヴァンリキッドのパンを食べてみたくて、バゲット・ムニエを買った」

のちに、パリのバゲットコンクールを制することになるそのバゲットは、塩塚さんにとって忘れられないものとなった。
そのオマージュが、パリゼットの「バゲット・トラディショナル」である。
「2種類の小麦に、微量ですけど、とうもろこしの粉と胚芽。
ルヴァンリキッドとイーストを併用して、低温長時間発酵。
ルヴァンリキッドのいちばんいいところは風味がプラスされること。
食感もしっとりしますね」

バゲットにルヴァンリキッド、そして隠し味としてとうもろこしの粉を入れるのはティエリー・ムニエ氏のスペシャリテである。
埼玉にいながらにして、パリでもっとも優れていると認められたものと同じ感覚のバゲットが食べられる、その貴重さ、よろこび。

「パンの文化。
1日の3回の食事のうち1回でいいんで、必ず食卓に並べたい、と思うようなパンを。
日本のパン屋さんによくあるような甘い匂いじゃなく、粉の匂いがするお店でありたい。
仕込んだとき、フランスで嗅いだのと同じ匂いがするときがありますね。
粉をブレンドするときも、そういう思いでやってます。
修行してたところの匂い。
自分の中にずっと残ってるものを、パンで表現したいというのはありますね」

パリで魂に刻み付けた思いを羅針盤にして、日々塩塚さんはパンを焼く。

バゲット・パリゼット(写真はプチサイズ)
皮が引いたかと思うと、ずばっと一気に歯切れる。
そそり立つクープはがりがりとして快く弾ける。
甘さが存分にあり、ほのかに自家製酵母種が香る。
やがて鼻へと抜けていく香りの中に混ざる、香ばしさ、酵母種の香り、少しのミネラル感。
やがて味わいがあたたまるとともに甘さも変化し、複雑な魅力を表す。
そのバランスとオーケストレーションと。

「バゲット・パリゼットにはコクがあります。
たんぱくの強い配合です。
フランスパン専用粉などに、石臼挽き小麦、石臼ライ麦細挽き」
きちんとふくらませた上で、石臼挽きの小麦やライ麦で香りを強化する。
フランスの素材の強靭さに、日本の素材を近づけようとする工夫である。

マカダミア・ミルク(180円)
マカダミア入りのバゲット生地。
このバゲット生地ははじめ軽いと思わせて、跡からじわっと味わいがしてくる。
かりっと理想的な割れ方、香ばしさ、塩気。
中をのぞくとゆでたマカダミアナッツと練乳のクリームをはさんでいる。
すばらしい組み合わせを考えたものだ。
練乳のしみじみした甘さが、バゲットのしみじみさとこよなく合い、マカダミアナッツの香ばしさがさりげなく香りだす。

クロワッサン(180円)
バターの甘さと発酵の香りがからみあう。
強めの塩気はバターとせめぎあいつつ、ゆっくりと甘さのほうへと転んでいき、どんどん滲みわたり、広がっていく。
そこに、上皮のやや苦い香ばしさも混ざりあう。
歯に感じる、ざくっとした感触とともに、皮はぼろぼろとこぼれ落ちる。
ねちっと中身はしぼみ、しゅわっと溶けていく。
バターの滲む感じがオイリー。

「フランスのクロワッサンって、うまく表現できないんですけど、外国の味なんですね。
フランスに行くまで食べたことがなかったような。
口溶けは、ちょっとだけ歯ごたえを残した感じにはしてます。
重視するのは、甘みと食べたときの鼻に抜ける香りですね。
いまは石臼挽き小麦ですが、一時はフランス産小麦も使っていました。
小麦の甘みを最大限に引き出すために考えながら」

職人気質。
かってパリゼットは横浜に店があった。
もう数年前になる、オーブンから焼き上がったバゲットを取りだしながら、バゲットはパン職人としての基本だと塩塚さんは語っていた。
あのひたむきな姿を思いだす。

「四季を通すと小麦の状態ばらばら。
1年通して同じにならない。
発酵時間、水の量も変えなきゃならないし、塩も変えなきゃならないし、考えられるすべて駆使して、考えながらやってます。
自分の中でこのパンはこういう味、食感だな。
いいときのものが頭にあって。
甘さがなければ、もっと水を足してみようか、発酵とってみようか。
バゲットもクロワッサンも、ようやく横浜のときと同じくらいの、自分が売りたいものができている感じはありますね」

意外なことだが、この店ではハード系から売れていく。
バゲットは午前中に消えることもしばしば。
日本のパン屋、とくに都心以外では、ハード系は売れにくいパンであるにもかかわらず。
おいしいバゲットやクロワッサンを作れば、立地条件は超えられるという、なによりの証左である。

「日本じゃバゲットは売れないというのもあるんですけど、伝えて、食べていただいたらわかる。
食べ方もいっしょに伝えると、お客さんはやってみようかな、と思う。
『この前買ったのおいしかったよ』と言われると、『今度はこういうのもありますよ』と別のをおすすめする。
その繰り返しでした。
(販売を担当する)妻はパティシエだったこともあり、食べ方も知ってますしね。
夫婦共通の趣味は食べること。
エンゲル係数ものすごく高い。
いろんなものを買ったり食べたり。
食べ物はいいもの食べよう。
それぐらいしか趣味がない。
自分の作ったパンを夕食によく食べるんですね。
そこで気づいたりする。
風味が弱くなってるな、甘みもないな、とか。
うちのパンって一癖あるんだけど、なんでも合うんですよね。
肉も魚もいいし、バターだけでもおいしい。
パンだけでもワインが飲めます」

塩塚さんは厨房にたったひとりいた。
いつも無言でパンと対峙する。
ここに、あの正確無比なパンができあがる理由がある。

「自分の性格なんですけど、人にいじらせたくない、というのが本音。
自分で仕込んで、自分で成形して、自分で焼いて。
人を使って何人かでやると、いろんな形のものが出る。
それでよしとする人もいるし、いやだという人もいる。
できないなら、自分でやる、ってなるんですよね。
ひとりだと、他人に対するストレスがないのが自分に合ってる。
体力的にはきついけど、精神的には楽。
言ってみたら、僕には人が使えないということなんですけど。
オープン半年は人がいた。
だけど、教えてもできないし、最後には、
『触るな』
じゃ、スタッフがいてもしょうがないと。
信じてあげないといけないんだけど、信じられない。
人にやらせればいいのに、いつも気にして、手を出しちゃうんじゃないかという気持ちでいるなら、人を使ってる意味がないじゃんって」

誰にも触らせず。
研ぎ澄まされた感覚でパンは作られる。
それを知ってか知らずか、付近の人たちはこぞってバゲットを買い求める。
パンのおいしさはきっと伝わらずにいない。

パリゼット
JR高崎線 上尾駅
埼玉県上尾市大字小泉8-22
048-637-0219
10:00〜18:00
火曜水曜休み

サッカロマイセスセレビシエ』(東京の200軒を巡る冒険の単行本』

200(JR高崎線) comments(0) trackbacks(0)
福岡・ブルージャム【スギクボムーブメント】
元「デュヌラルテ」シェフの杉窪章匡さんが日本全国をまたにかけ次々とベーカリーをプロデュースする「スギクボムーブメント」。
名古屋「テーラテール」、向ケ丘遊園「セテュヌ・ボンニデ」、代々木八幡「365日」に加え、昨年10月には、福岡に「ブルージャム」をオープンさせていた。

福岡市郊外、次郎丸。
室見川の川縁に立つモダンな建物。
水面の色から名づけられた「ブルー」は、青い空、誠実さ、清潔さ、哀愁などをも表す。

【スギクボムーブメント統一コンセプト】…添加物は一切使わず、国産小麦のみ使用(一部自家製粉)。ドライフルーツもオーガニックかそれに準ずるものを使う。

「おいしいパンをつくらにゃあかん。
孫にも安心して食べさせられるパンを」
と、パン屋の開店を思い至ったオーナーの岩室さんが、プロデューサーとして杉窪章匡さんを招請し、ブルージャムができあがった。

「オーナーさんの思いを『大切な人に、食べさせたい』という言葉に置き換えました。
いま、みんながよかれと思ってやってることが、その人のためになっていない。
悪意はないがそうなってしまう。
添加物、人工甘味料。
そういったものを使わず、家族で、ファミリーで、きてもらえるお店を考えました」

スギクボムーブメントは、画一的に同じメニューを押しつけるようなやり方ではない。
むしろ、そこに住む人びとの嗜好に合わせてメニューを作り、土地土地のおいしいものを食材に使う。

「ブルージャムはやわらかいパンを中心にしています。
食べログを見たら、大手チェーンのパン屋が上位にきていたんですよね。
だから、やわらかいふわふわさでメニューを考えた。
たとえばライ麦パンも、ライ麦を70%入れて、というハードな感じにしないで、ふわっとさせた、食べやすいものにしました。
クロワッサンも普通の形で、わかりやすさを打ち出しています」

食べ歩きに金も時間も惜しまない食通、杉窪さんが選んだ九州の食材とは、こういうものだ。

「佐賀の無添加ベーコン・ハム、大分の有精卵。
卵はカヌレやクリームパンに使ってますし、卵自体も販売してます。
あんこも、おいしいあんこ屋さんがあったので、味つけしてないものを作ってもらって、うちで味つけしている」

「これめちゃくちゃうまいですよ」
と言いながら出してきた、明太クロワッサン(300円)。
明太子とクロワッサンの運命的な出会い。
クロワッサンを福岡という土地において至上の玉座につかせる革命。
クロワッサンの中心には明太ペーストが鎮座する。
ちゃりちゃりとも、ざくざくとも、音を立てながら皮が細かく割れる。
バターの甘さに、魚介の香り、コクと辛味が混ざりあい、溶けあう。
塩辛さと甘さがめくるめく、逆ベクトルのエクスタシー。
バターは明太子をまったりとすることに奉仕し、明太子の塩気はバターの甘さをより高める。
明太子の辛味によって、舌はじんじん、喉はぴりぴり。
激しい香りは甘美に鼻をかきまわす。

「フランスでも、クロワッサンにアンチョビを入れたり、ブリオッシュとタラモ(たらことじゃがいものペースト)を合わせたりする。
料理の文脈を踏まえて、パンを作っている。
明太子といえば、明太フランスばかり。
福岡のパン屋さんに、こういうのもあるって提案したかった」

室見川食パン(320円)
穢れなきバターの甘さ。
それは豊潤に香り立ち、うつくしい発酵の香りとともに、鼻先で乱舞する。
それらは、自然に滲みだし、広がりだす。
皮はぷちんとちぎれ、中身はまったく引きのない、デュヌラルテ的テクスチャー。
いやみのないもちもち感。
中身はしゅわっと溶け、すぐにふにゃふにゃに、頼りなくなりながら、それでも最後のひとかけらが口の中から消えてしまうまで、ほのかな甘さを発光しつづける。

「うちでいちばんきめが細かい生地。
口溶けがいいように、牛乳とバターで約20%も入っています。
口溶けってバターの量に影響される。
多ければ多いほど口溶けがよくなりますから」

(2階は、窓を広くとったカフェ)

スギクボムーブメント各店には、その土地柄にもっとも合った人材が送り込まれている。
ふわっとしたパンを作るのが上手だった櫻井広基さんが、ブルージャムのシェフに抜擢された。

「もともと櫻井は発酵を(多めに)とりがちだったので注意していました。
デュヌラルテでは、味が濃いパンを作ろうとしていたので、それをするためには、(低温下に置くなど)酵母を活動させないように(発酵をあまりとらないように)しなければならない。
酵母を活動させないことで、糖分を消費させない。(そのため小麦の甘さがパンに残る)
デメリットは発酵をとらないと、パンがふわっと軽くならないこと。
ブルージャムでは北海道産小麦を使っています。
北海道産は味が濃いものが多い。
味が濃いと、発酵を(多めに)とっても味は残る。
チーズなどの具材も多く入れてますし。
高い小麦を使ったり、いい材料をふんだんに使っている分、いい発酵をとれています」

発酵を多くとれば、パンはふわふわになるが、糖分を消費して、素材の甘さが失われる。
技術と発想力で、その厳然たる法則の虚を突くのが杉窪イズムといえる。
ここブルージャムでは、甘さとふわふわのバランスを、よりふわふわサイドに寄せている。

全粒粉の農夫パン(230円)
香ばしさ、と同時に、抜きん出た甘さ。
そう感じさせる農夫パン(パン・ペイザン)にはじめて出会った。
武骨な田舎パンというイメージはこのパンにおいて覆されている。
全粒粉らしい甘さと、全粒粉らしからぬふわふわぶり。
甘さのニュアンスは黒糖のようでいて、もっとやさしく、もっとすっきりとしている。
しゅわしゅわと音を聞きそうなぐらい、すぐさま溶けていく。
やがて、じわじわと穀物的な味わいが広がっていく。

「ペイザンもふわふわにしたんですよ。
東京とはちがって、パンの硬さを楽しむというお客さんが少ないですから。
なにがいちばんおいしいかはお客さんが決めること。
お客さんがいちばんと思ってるものがいちばん。
知識とか技術というのは、それを作るために用いる。
進化しないといけない。
いまがベストかといったらそうではなく、5年後にはちがうかもしれないですし」

デュヌラルテ的、杉窪的なパンの進化論が、都心ではなく、地方でどのように根づいていくのか。
その挑戦を興味深く見守っていきたい。

ブルージャム
福岡市早良区田村3-1-41
092-861-5888
9:00〜18:00
火曜・第3水曜休み

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パンラボ・バッグプロジェクト始動 〜理想のバッグを求めて〜
いよいよ作ることになりました。
パンラボのオリジナルバッグ。

いわゆる布製のトートバッグ。

安価でエコバッグ感覚で使えるものを目指すのか、
それともある程度使い込めるしっかりした生地で
使い込むと味が出るものを目指すのか。

どうやら今回は、しっかりと使い込める
良い生地のものを作る方向に行きそうです。


打ち合わせの風景。
池田さんに堀道広さんにパンラボ・ナカムラ、
さらにスペシャルなデザイナーNさんがプロジェクトのメンバーです。

実はこのデザイナーさんは銀座レカンの割田シェフのお友達。
割田さんが実際に職場でバゲットを運ぶのに
使っているというバッグ、通称〝割田モデル〟
(絶賛発売中の「&プレミアム」(マガジンハウス)にちょっと載っている)
を作ったデザイナーさんなのです。


この割田さんが仕事でバゲットを運ぶために使っているバッグは
さすがにサイズが特殊すぎるので
(バゲットが縦にスッポリ収まるようにとても縦長、しかも背中に背負うので持ち手も長め)、
今回はこの「割田モデル」をベースに、
より僕たちがパンを買いに行く時に使いやすいようにカスタマイズした、
究極のバッグを目指そう…という、けっこう壮大なプロジェクトです。

とりあえず、マチ(底辺の横幅)のサイズは
食パンがつぶれずに入るように15センチ以上にしたいなぁ〜
(Twitterでさっそくご意見を頂きました、ありがとうございます)。

すべては美味しいパンを美味しく運ぶために。

そしてパン屋さんにパンを買いに行くという毎日の幸せを
もう少しだけ楽しいものにするために。

いざ打ち合わせすると、あれもこれもがありまして、
完成まで時間かかりそうだなぁ…。

プロジェクトの進捗状況や続報は随時お届けしようと思います。

【ナカムラ】

パンラボ


サッカロマイセスセレビシエ

まさこジャム


ナカムラ comments(0) trackbacks(0)
パンだけ食べて日本縦断【第7回大阪篇2】ROUTE271
本能のパン。
この店にくると喉から手が出る。
スモークサーモンのレモンクリームソースに涎が出て、パテ・ド・カンパーニュのサンドイッチの分厚いテリーヌに喉が鳴る。
トロペジェンヌ・オ・テ・ベールの抹茶ブリオッシュにたっぷり盛られたマスカルポーネの泡立ちであり、クルミ入りの細く焼いたハードパンの中にごっそりと入れられたバターとあんこであり。
ROUTE271のフィリングはとにかく本気である。

「テリーヌやパテは自分で作る。
あとはコラボ商品。
ROUTE271×PUJAさんコラボカレーパンは、タンドリーチキンをネパール料理屋さんから仕入れています。
鶏胸を真空調理したり自分でしますし。
コロッケもほぼ自家製。
まかないでコロッケ作ったら、おいしかった」
そしてレジにいたスタッフを指し、
「目黒さんが作ったから、『目黒さんちのコロッケパン』って名前つけました(笑)」

京都の有名店ル・プチメック出身。
オーナーシェフの船井高志さんはプチメックとこのように出会った。

「プチメックのラインナップに惹かれましたし。
レストランに食べに行って、このパンおいしいな、と思ったらプチメックのだったってことが何度か重なったり。
もう僕の中では、プチメックしかないなと。
それまで勤めたパン屋はストレート法(基本的な製法)だったんですけど、パンを長時間寝かせる作り方もはじめて学びました。
西山さん(ル・プチメックのオーナー)とマンツーマンで働きました。
直にいっしょに仕事させてもらってわかったんですが、人を惹きつける力が半端ない。
カリスマ性の部分は、見ていただけで、自分は真似できないことですが。
ごはんよう連れてってもらって、舌を鍛えさせてもらいました」

メニュー構成、パンのたたずまい、プライスカード。
視覚要素だけで「これ食べたいでしょ?」と訴えかけてくる。
やってきた客を楽しませずにいなエンターテイメント性はル・プチメックに通じる。

「僕にないものを得たいと思ってプチメックに入ったんで、その当時の自分には近い感覚はなかったですね。
いまでこそうちはプチメックに近いかなと思うんですけど。
西山さんは、本気で仕事して、ふざけてくすっと笑わせる。
それがお客さんを楽しませるんですよね。
『1号』『2号』という商品名をつけたり。
プライスカードもそうです。
『もはや辛すぎて味がよくわからない』とか書いてみたり(笑)。
そういうの見てきているので、うちも普通の店にないことやってもええかなって」

塩キャラメルのブリオッシュ2号(220円)
塩キャラメルの甘美すぎる口溶け。
塩気とミルキーさを同時に滲みださせて、身をよじるほどの快感を生み出す。
あえてふわふわにせず、硬く焼き締めたブリオッシュ。
その濃密さがたまらなくキャラメルクリームと合うのだ。
表面はかりかり、クリームと触れ合う部分はむっちりという食感のちがいもおもしろい。

トロペジェンヌ・オ・テ・ベール(160円)
抹茶の尖った苦みを、マスカルポーネの酸味を含んだ乳臭い甘さが癒そう癒そうとする。
抹茶ブリオッシュにマスカルポーネのホイップクリームのマリアージュ。
シンプルな組み合わせが必要十分である。
ブリオッシュは少しもさくっとせず、上記塩キャラメルとはまったく食感を変えてただただねっとりと溶け、からみあって、マスカルポーネをますます引き立てる。

ル・プチメックと同じパンがあったとしても、味はすべて271流にアレンジされている。
ル・プチメックにある可能性は、独自の方向で進化させている。
たとえば、ル・プチメックの売りでもある、ビストロクオリティの総菜をはさんだサンドイッチが271にも並ぶ。
一方で、フレンチという枠にとらわれず、みんなが大好きな日本のパンも。
洋食屋のようなコロッケパン、エスニック料理店のようなカレーパン。
それらはまさにみんなが食べたいと待っていたものではないか。

「うちはブーランジェリーという感じではなくて、パン屋さんとしてやってる意識がある。
焼きそばパンもあるし、ハード系も好きな方がいるので作る。
ただ、焼きそばパンでも、ちょっとだけ変えて、よそにないものにしています。
ソース焼きそばじゃなく、タイ風焼きそば。
よそにないけどうまいというものを。
焼きそばパンもめちゃうまいの作ったらいいんだ。
そういうの意識してやってます。
よそにないとか、こういう味いままでのパンになかったかな、というものを目指すんですけど、大前提はただパクって食べてうまいということ。
考えてうまいのではなく、直感的に。
子供さんが食べてもうまい。
無防備に食べてああうまいなって思える。
その上ではっとさせられるものがあるといい」

見ただけで涎が出て、食べて止まらなくなる。
本能に訴えかける感覚は行列ができるような名店が共通して持っているものだ。
ROUTE271はその系譜に連なろうとする。

「たまき亭(京都府宇治市)やブノワトン(神奈川県伊勢原市。現在は閉店)が僕は好きでした。
ブーランジェリーというより、パン屋の進化系。
僕はそっちのほうにいきたい。
岩永さん(ル・シュクレクール)、西山さんは、完全にフランス。
西山さんのエッセンスはもらいながら。
おしゃれ感じゃなく、パン屋として、食べておいしい、よそにないもの。
鴨のコンフィとかありながら、傍らでそういうこと(焼きそばパンのような総菜パン)をする。
パン屋ってそうであっていいんじゃないかって僕は思っています」

プレミアムクロックムッシュ(250円)
食パン生地ではなく、サンドイッチ用に細長く焼いたセーグル生地をスライスしてクロックムッシュにしている。
チーズをかけ、中にはソーセージとタマネギ。
かりかりとした皮の香ばしさで幕を開ける。
ベシャメルソースが、コクを滲ませながらクリーミーに溶けて具材を抱擁する。
ソーセージとタマネギの甘さ、のみならず酸味も作用して、すばらしいバランスを発揮する。

船井さんは紆余曲折を経てパン職人になった。
「ガソリンスタンドではじめは働いてて。
ケーキ屋に勤めて、パンを作ったのが23のとき。
職人になったのは遅めでした。
それまでまったく料理を作ったことなくて、突然作りたくなったんですね。
やってみたら、意外とできました。
おもしろかったし。
職人の仕事って、おいしいものを作ったら、お客さんの声で手に取るようにわかる。
混ぜ方や丸めが上手になったり、バゲットの成形できるようになったり、すごくやりがいがあった」

パンの技術を深めるため、兵庫県西宮市夙川のムッシュアッシュに入る。
その店はいまなくなったが、コンセントマーケットという名で引き継がれている。
コンセントマーケットもまた、オリジナリティあふれる総菜パン・菓子パンが、客のテンションを上げずにおかない、本能のパン屋の系譜に属する。

その後、料理人修行のため、大阪の名フレンチ「カランドリエ」に勤務した。
「カランドリエは4年半いて、担当がデザート・パン。
料理をやりたかったんですけど、パンをまかされた。
もう30だったし、自分はパンやなと、あきらめがつきましたね」

「料理はしたかったんですけど、パンが中途半端なのでもうちょっとやりたかった。
おいしい料理屋さんをやりたいとずっと思ってました。
パンも焼く料理屋。
だけど、料理を中途半端にやるより、パン屋のほうがええかなと」

船井さんの志は変わらなかったのだと思う。
皿に盛るか、パンに盛るか、というプレゼンテーションの仕方が変わっただけであって、まず「料理」なのである。

「毎年、東京も行ってます。
こういう味もあるんや、それを活かしてやってます。
ケーキ屋、レストランではっとさせられるものもある。
いまのパンは食感が大事なんですよね。
東京のパン屋に行って驚かされました。
僕もそのステージに立ちたい。
暇があったら試作もしてます。
お店って、前に進まんと。
店舗経営ってゆるやかにエスカレーターにのってるのといっしょだと思うんです。
自分が止まると後退する。
それよりもちょっと早いスピードでいつも歩いて進む」

試作を繰り返し、求める味へ到達する。
「試作する前にゴールを想像して、こういう味がほしいというのから逆算して作る。
1回目はゴルフの第1打。
2打目でさらに細かく、ピンに近づけていく。
このパンはこうだからって決めるんじゃなく、表現したい味によって、工程も変わる。
教科書に発酵60分でパンチ(ガスを抜く作業)と書いてあったとしても、どのパンにとってもそれがいいわけじゃないですから。
何回も試作していくと、そのパンの持ち味に適切な作業がわかる。
1回目70点でも、やっていくうちに、ちょっとずつ『こっちやな』『こっちのほうがええ』って、作りこんでいくとわかる。
そのうち100点に近いものができる。
僕は作りこんでわかるということを大事にしています。
パンを作りこんで長所、持ち味を把握することが大事なのかな」

レシピは完成することがない。
妥協せず、すでに出ている商品も常に作り直し、ちょっとでも前に進もうとする。

「クロワッサンもその都度、その都度で、作りたいものがちがってくる。
お客さんの声を聞いたりもしますし、衝撃的においしいもの食べると、こっちにしてみようかなって思ったり。
京都のパンスケープさんや、芦屋のベッカライ・ビオブロートさんの、やわらかい、やさしい味のクロワッサンを食べたときには、似たようなイメージで作ってみたりしましたね。
それも、長いことやってると、もっかい元に戻そうかな、となったり。
変えておいしくなることもあれば、前のほうがおいしかったと思うこともあります。
お客さんの声は聞きますが、職人として前に進むためには、変化を恐れず、新作を出すと同時に、いまあるものも見直していく。
『この前とちがうやん』とお客さんに言われても、僕は『配合を変えました』と言っちゃうんで」

パンひとつひとつに対して狙いがはっきりと定まっている。
船井さんが食べ手に味わってもらいたいものとは、針を通すような「この感じ」なのである。

「お客さんが食べる時間、シチュエーションを考えます。
パンの種類によって、店に出すときから、袋に入れたり、入れなかったり。
きれいに切ったほうがうまいものは、はじめから切ってありますし。
パンは焼きたてがうまいわけじゃない。
クイニーアマンはにちゃにちゃして、ぱりぱりの食感が出ない。
そういうものは、焼き戻して、粗熱とれて、表面が冷めてから食べてくださいって、お客さんに言います。
エビのフーガスは、水分をエビに持ってかれるので、わざと厚みを持たせて、しっとりさせている。
よりおいしい形、厚み、そういうところまで考えています。
大きく焼くとおいしいが、大きすぎるとひとりで食べづらい。
だから、ぎりぎりの形を考えますね。
テリーヌのパンも5回、形を変えました。
作りこんでいくとわかる。
見えてくるものがある。
作って考えて、作って考えてを繰り返しています」

小さな駅からバスに乗ること十数分。
行ってみて驚いた。
マスコミにもよく取り上げられる人気店が、アクセスがいいとはいえない、ごく小さな店であることに。
それでも行きたくなる。
そう思わせるのは、船井さんの飽くことなき追究のおかげである。

ROUTE271
072-628-1078
9:00〜18:00(土曜・日曜・祝日は7:30〜)
月曜休み

ROUTE271 高槻店
072-669-8373
9:00〜18:00
月曜休み

*本文中、下から5つは高槻店、それ以外は本店の写真です。

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池田浩明×嶋浩一郎×西山逸成「サンドイッチ・トーク」お知らせ
池田浩明『パン欲』(世界文化社)刊行記念イベント 2 
池田浩明×嶋浩一郎×西山逸成
「サンドイッチ・トーク」
主催: 本屋B&B

出演 _ 池田浩明(ライター)
嶋浩一郎(博報堂ケトル)
西山逸成(Le petit mec/Réfectoir オーナーシェフ)

下北沢のユニークな書店「B&B」さんから、『パン欲 日本全国パンの聖地を旅する』発売記念のトークショーをという依頼をいただいていた。
けれども、誰となにを話したらいいのか、私には特にアイデアもなかった。

ル・プチメック/Réfectoireのオーナー、西山逸成さんと会ったとき、雑誌『BRUTUS』の本特集の話になった。
そこで博報堂ケトルの嶋浩一郎さんが下記のように語っていることに、西山さんは「僕も同感です」と感心しきりだった。

「ネット検索が定着した今は、結論に直線的に辿り着くことがよしとされていますよね。そういう世の中では、すぐに役立たないことは無駄かもしれない。でも、読書の意味はそれだけじゃないと思うんです。(中略)だから僕は、本を読むときは何も期待しない」

これには私も大いに頷くところがある。
1冊の本を1ヶ月かけて読み、見つけた1行を宝物のように思って、人に言いふらすことさえあるのだ。

1万冊以上の蔵書を持ち、雑誌『ケトル』の発行や、B&Bのオーナーも務めるクリエイターである嶋さんは、ル・プチメックの熱心なファンでもあるらしい。

家に帰って『BRUTUS』に目を通してみる。
無数の付箋が貼られた村上春樹の文庫本の写真がのったページには、こんなふうにも書かれていることに気づいた。

「僕が付箋を貼るのは主人公が(中略)サンドイッチを食べたりするシーン。“無駄”が潜んでいるのは、物語の本筋からずれた周辺です」

実は、私も村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』に載っていたサンドイッチが食べたくて、神戸まで足を運んでいた。

「ぱりっとした調教済みのレタスとスモーク・サーモンと剃刀の刃のように薄く切って氷水でさらした玉葱とホースラディッシュ・マスタードを使ってサンドイッチを作る。紀ノ国屋のバター・フレンチがスモーク・サーモンのサンドイッチにはよくあうんだ。うまくいくと神戸のデリカテッセン・サンドイッチ・スタンドのスモーク・サーモン・サンドイッチに近い味になる」
(村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』上巻p.327)

B&B、西山さん、嶋さん、村上春樹、サンドイッチ。
脈絡のなかったいろいろなものがひとつの線で結ばれたような気がして、西山さんと私で嶋さんをはさむような形で、「サンドイッチ・トーク」をしてみたいと思いついた。
テーマは「パンと本」ということになるが、無駄が大事、という嶋さんの意見を実践し、本筋からどんどんずれていきたいと思う。

私は「神戸のデリカテッセン・サンドイッチ・スタンド」=トアロード・デリカテッセンでサンドイッチを食べていながら、そのことは『パン欲』には収録せずにいた。
けれどももやもやしたものが残っているのでこの機会に書いて、ご来場の方全員に、『パン欲』の特別付録としてお渡ししようと思う。

西山さんには、村上春樹のサンドイッチを再現してくださいとお願いし、快諾をいただいた。
ところが、先述した村上春樹の一節をコピーした紙を渡したとき、西山さんはじーっとそれを見つめたまま、固まってしまった。
なにを考えているのだろう。
すると、一言。
「僕、神戸まで行ってきます」
研究のために、トアロード・デリカテッセンまでスモーク・サーモン・サンドイッチを食べに行ってくれるというのだ。
じーっと固まっていた時間。
村上春樹のサンドイッチはあまりにもシンプルなので、どんなふうに作ったら、お客さんにいちばんよろこんでもらえるか、それを西山さんは考えていたのだ。
ル・プチメック/Réfectoireをみんなが好きなのは、西山さんがこういう人だからなのである。

池田浩明『パン欲』(世界文化社)刊行記念イベント 2 
池田浩明×嶋浩一郎×西山逸成
「サンドイッチ・トーク」
主催: 本屋B&B

出演 _ 池田浩明(ライター)
嶋浩一郎(博報堂ケトル)
西山逸成(Le petit mec/Réfectoir オーナーシェフ)

開催日時 _ 3月23日(日)19:00〜21:00 (18:30開場)
場所 _ 本屋B&B
世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F
入場料 _ 1500yen + 1 drink order
お申し込み
現在売り切れ中。どうもありがとうございました。
キャンセルなどあれば再募集いたします。(その際は告知します)
2月17日追記:すべての席が確定いたしました。再募集はいたしませんので、ご容赦ください。お待ちいただいた方には申し訳ありませんでした。

①『パン欲』特別付録「なぜ村上春樹は紀ノ国屋のバター・フレンチを買うのか?」
②村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』に出てくるスモーク・サーモン・サンドイッチ 付き
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『パン欲』発売記念イベント「小麦で巡る日本」
「小麦で旅する日本」
 
出演
米山雅彦(パンデュース)
蔭山充洋(充麦)
割田健一(銀座レカン)
池田浩明

池田浩明の新刊『パン欲 日本全国パンの聖地を巡る旅』発売記念イベント。
場所は東京駅前、話題のビルKITTE内にある書店マルノウチリーディングスタイル
日本の鉄道の起点となるこの駅から、空想のパンツアーに出かけます。

パンにおいて土地の風土をもっともよく表すのは、原料である小麦。
日本にあるさまざまな小麦の味は品種ごとにそれぞれ異なっており、生育する土地によっても風味(テロワール)は別のものになります。
ですが、それらの小麦のちがいを食べ比べ、実感する機会は稀です。
このイベントでは、小麦について熟知した3人のシェフにお越しいただき、北海道、関東、九州と3つの小麦を使ったパンを、ご来場の方々といっしょに食べます。

米山雅彦、九州を焼く。
熊本県・東さんの有機無農薬小麦使用のパン。

蔭山充洋、湘南を焼く。
自ら育てた三崎産小麦使用のパン。

割田健一、北海道を焼く。
『パン欲』冒頭に登場する十勝・前田農産の小麦使用のパン。

日時    2014年2月25日(火)
      19:00〜21:00 (開場18:30〜)
      終了後サイン会
場所    マルノウチリーディングスタイルカフェ (東京駅丸の内南口 KITTE4F)
料金    ¥1,500 (ドリンク・パン付) 
定員    先着60名
受付方法  ・店頭販売:事前にカフェにて、平日20:30・日・祝日19:30 まで販売
       ※一番確実にチケットをお求めになれる購入方法です。

      ・ネット予約は申し込みフォームからお願いします。
       定員に達したため予約を締切りました。ありがとうございました。
       ※料金はイベント当日のお支払いです。
       ※当日いらっしゃらないときも、料金が発生する場合があります。
       ※ご記入いただいたメールアドレスに、予約完了のお返事をさせて頂きま         す。確認に少々時間がかかることご了承ください。また先着60名様とな
        りますので、お申し込み時点で満席の場合があることもご了承ください。

出演者のプロフィール

米山雅彦
大阪の名店「パンデュース」シェフ。
国産小麦を使用、農家から直接野菜を仕入れてパンを作るなど、生産者の顔が見えるパン作りをすすめてきた。
2月1日、千葉・新鎌ヶ谷にオープンした「キャニス・ミノール」のプロデュースも行うなど、関東にも活躍の場を広げる。

蔭山充洋
神奈川県三浦市にある「充麦」のオーナーシェフ。
店の近くにある畑で自ら小麦を作り、パンを焼く、日本でも数少ないパン職人。

割田健一
「銀座レカン」でシェフブーランジェを務める。
マルノウチリーディングスタイルのホットドッグはじめ、レストラン・カフェとのコラボ、パンの提供を多数行う。
パンの世界大会「モンディアル・デュ・パン」の元日本代表。
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