パンの研究所「パンラボ」。
painlabo.com
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
大阪りんごの日も盛り上がった!
1月17日、18日の両日、大阪でも「りんごの日」が行われた。
被災地・陸前高田で津波を生き残った「希望のりんご」を使っていただき、復興へつなげていこうというイベント。
大阪府下で各家庭にポスティングされている「大阪日日新聞」が希望のりんごの取り組みに賛同、情熱的なご協力により実現したものだ。

1月17日付の紙面で1ページ丸々を使って「りんごの日」が告知された。
旭区、鶴見区、城東区などを中心に40数店舗にご協力いただき、りんご、ジャム、ジュースを使った思い思いの料理、サービスを提供していただく。
業種もさまざま。
パン屋、洋菓子店のみならず、カフェ、居酒屋、英会話教室、絵画教室と多岐に渡った。

りんごを提供してくれたのは佐々木隆志さん。
陸前高田市米崎町のりんご農家さんで、産地直売所なども営み、地域の農家を束ねるキーとなる存在である。
またジュースやジャムの販売も行った。

金野秀一さんのりんごで作る、希望のりんごジュース「点 TOMORU」。
そして、陸前高田で活動するNPO法人SAVE TAKATAの「米崎りんごジャム」。
SAVE TAKATAはりんごを通じて、若者の就業支援を促進し、高齢化や過疎の解決を試みる。
希望のりんごと志を同じくする団体である。

大阪りんごの日の中心となったのは、大阪の下町「千林商店街」。
大阪で一、二を争うほど活気のある商店街で、ダイエーの1号店があったことでも知られる。

17日午前、千林くらしエール館前で、りんご、ジュース、ジャムの販売が行われた。
用意したりんごがあっというまに売り切れる人気ぶり。
試食に出したところ、みなさんおいしいと言い、中には買い足してくれる方もいらっしゃった。

商店街のイベントスペースでは、イタリアンレストラン「ボッテガブルー」が、米崎りんごジャムをはさんだホットサンドを提供。
ハンドドリップのコーヒーとともに、あたたかいホットサンドは、寒い冬の日に心も体もあたためてくれるものだった。

商店街からほど近い、TKDスポーツクラブ。
少年たちがテコンドーに柔道にと打ち込む姿があった。
ここで、無料体験会&試飲会。
教室に通う少年たちはもちろん、テコンドーをはじめてみたい人にもりんごジュースが振る舞われた。
「子供たちがジャンクフードや化学合成添加物の入ったものばかり食べる現実がある。
体作りがいちばん大事な時期。
体にいいものを摂ってほしいと思って、この企画を行いました」(舘和男師範)

千林大宮は、震災直後から希望のりんごの活動をともに行っている「グロワール」の地元。
この日、店頭のいちばん目立つところに、りんごのパンがたくさん並べられていた。

りんごのブリオッシュはりんごの形にテンションも上がる。
コンポート、カスタード、ホイップクリームをサンド。
チョコで作ったへたもかわいい。

「繋ぐ」は2本の生地を編んで作られている。
1本は、陸前高田八木澤商店のみそとアーモンドの生地。
そして、もう1本がりんご入りの生地。
2本を1本に繋ぐ。
しょっぱいものと甘いものが繋ぎ合わされ、不思議に舌に馴染むおいしさが作りあげられる。
店頭に輪っかが重ねられて置かれている様子は、まるでパンでできた鎖のようで、見えない延長線は陸前高田へと繋がっていくようだ。
いつも陸前高田に駆けつけてくれてくれる一楽千賀さんだからこその、思いのこもったパンだと思った。

りんごのパンを作ってくれたパン屋さん、お菓子屋さんを紹介したい。

エトワール(大阪市城東区今福東)
とてもきれいにできた網網がかわいい。
正統派アップルパイは生地がしっかりして、いかにもパン屋さんらしいもの。
りんごのコンポートがたっぷりごろごろ入っている。
店頭にあんぱんまんの歌が流れる商店街のパン屋だった。

パティスリー ラ・フェーヴ(大阪市鶴見区放出東)
いちごショートにおけるいちごというセンター位置に生のりんごが!
中からクリームがどろりととろけでて、りんごのコンポートも姿を現す。
生とコンポート、りんごの香りがダブルで香り立つ。

こいまり(大阪市城東区蒲生)
かりかりの薄いパイ生地に、たっぷりのダマンドクリーム。
りんごをたっぷり1/3個分のコンポート。
伝統的な組み合わせをストレートに、贅沢に。
やさしい甘さも定番のおいしさを引き立てる。
(写真のものは、形が崩れております。申し訳ありません)

ワッフルカフェ プルミエ(大阪市城東区古市)
さくさくのワッフルを噛めば、りんごの香りが滲みだしてくる。
オーブントースターであたためると、なお香ばしく、かりかりになった。

カフェ チャオッペ(大阪市旭区清水)にうかがった。
住宅街にある一軒家を利用したカフェ。
看板がバス停のようになっていたりと、手づくり感のある内外装が楽しく、ずっといたくなるような気持ちにさせてくれる店だった。

この店で出されていた、りんごのトーストセット。
パンが自家製。
トーストにバターを塗り、「米崎りんごジャム」を塗る。
バターの甘さとりんごの酸味はいつだって幸福を運んでくるようだ。
オーナーの諏訪一平さんはお客さんのリクエストに応えて、おいしいカプチーノにラテアートを描いてくれる。

1杯目には、希望のりんご。

2杯目には、りんごを食べるクマ。
飲むのがもったいないかわいさだった。

11日14時からは、千林大宮のmachi cafeでツキノスミカのアコースティックライブが行われた。
日常は飲食店などに勤めながら音楽活動をつづけ、復興コンサートなどに出演するなど、被災地へも共感を寄せる。

夜は向かい側にある、旬鮮粋処かくれでも、ツキノスミカのLIVE。

ソースにりんごジャムを使ったステーキとともに。

小さな舞台であったけれど、それだけに音楽を介して、その場にいる全員が盛り上がり、気持ちをつなげあい、とても楽しい時間を過ごさせていただいた。
私も挨拶させていただき、平凡ではあるけれど、被災地で知った、人と人が気持ちでつながることの大切さについて述べた。

今回まわってみて感じたのは、どのお店にもあたたかいものが流れていることだった。
それは大阪・下町の人情であり、被災地・陸前高田に寄せられたたくさんの気持ちだったのだろう。
商店街の小さなお店が、それぞれ思い思いに自分の得意技を使って、りんごの商品を作ってくれた。
その商品を買ってくれるお客さんの心の中には、東北を応援したい気持ちが宿っていたにちがいない。
少しずつ集まったあたたかい気持ちを被災地に届けられれば、きっと東北は復興できるはずだ。(池田浩明)


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「りんごの日2015」ご報告&お礼

陸前高田の津波を生き抜いた「希望のりんご」を錚々たるパン屋さんに使っていただくイベント「りんごの日」。

3回目となる今回は、191011日に、東京近郊の各店で行われた。

陸前高田市米崎町・金野秀一さんが栽培する、同じ園地で作られたりんごが、各シェフの手によってどのようなパンになるのか。

どのパンも個性的で、そのシェフの人柄や嗜好を表わすものとなった。


ZOPF(北小金)

キャラメルりんごのデニッシュ

ラム酒の香りがまろやかで尖りなく、ひたすら鼻腔をやさしく撫で、彗星の尾のようなうつくしい余韻をたなびかせる。

使用しているのは「ロン サカパ センテナリオ 23年」。

その芳香はデニッシュの中のバター、ダマンドそして、りんごの三位一体をさらに魅力的なものに変容させる。

りんごはさくさくと鳴り、キャラメリゼすることでなお香りが活かされている。


CALVA(大船)

りんごのタルティーヌ

さくさくさくさく。

噛んでも噛んでも高い音で鳴るりんご。

バゲットの上にごろごろと置かれたたくさんのバターソテーに気分は上昇。

りんご、レーズンからほとばしる甘酸っぱい液体がバゲットを濡らす。

バゲットはこぼれでたジュースを受け止め、さらに投げ返して、りんごの香りを口の中で増幅させる。


ローゼンボア(東白楽)

りんごのデニッシュ

デニッシュの中にりんごのコンポートがたっぷり入っているのがうれしい。

さくさく鳴るデニッシュのあたたかさの中に、ひんやりと冷たいりんごが包まれている。

りんごの甘酸っぱさとバターの甘さのマリアージュは永遠の定番だと改めて思う。


ケポベーグルズ(上北沢)

焼きりんごベーグル

歯と歯のあいだでぴちぴちと気泡が弾けて音が鳴るような、元気のいいベーグルの弾力。

ときどきりんご、ときどき生地。

生地にぐるぐると巻き込まれたりんごが舌に触れると、甘酸っぱさが口の中に不意打ちのように広がる。

一方、生地だけのところを噛むあいだにもぱふぱふとふいごのように、りんごとシナモンの香気は巻き起こる。


nukumuku(中村橋)

希望のりんごとチョコチップ

バンズのような形をして、実はライ麦の甘いパン。            

甘く、あまりにも濃厚なチョコチップとりんごの酸味との息が止まるほどの衝撃的な出会い。

カカオの後味とライ麦の後味もぴたり調和しあうのも素敵である。


希望のりんごと口溶けチョコレート

nukumukuもうひとつのりんごのパン。

少しジューシーさを残してりんごをドライし、そしてミルクとバターを乳化させて作ったガナッシュがパンの上に置かれる。

そしてトッピングされているのは、バニラシュガーをまぶしたりんごの皮をかりかりに焼いたもの。

とろけるチョコレートとりんごの皮、なんと香りあふれるパンだろう。


「皮を捨てちゃうのはもったいない。

食べてほしい。

だったらかりかりに焼いちゃえと思いました」と与儀さん。

(希望のりんごとチョコチップは現在も販売中。希望のりんごと口溶けチョコレートは不定期販売中)


ボネダンヌ(三軒茶屋)

りんごのタルト

かりかりしたパイの上にりんごのコンポートがバラの花びらのように重なる。

酸味がひやりと駆け抜けたかと思えば、すぐさまその下のマドレーヌ生地の甘さがやってきてバランスする。

パイとマドレーヌ、なんとすばらしいアイデア。

マドレーヌにりんごの果汁が滲みこんで、それが一拍置いてりんごの風味を投げ返し、リフレインするのだ。


シニフィアンシニフィエ(三軒茶屋)

パンの中に焼きりんごを入れる構想力。

表面のマカロナージュはかりかり。

湿った生地がほろほろと崩れ、歯にねっちりとくっつき、なおかつちゅるちゅる溶けていく、というウルトラDは志賀勝栄シェフならではの技術とこだわりだと思った。

想定外なことに、りんごの香りはいつしかきんかんの香りに変化を遂げる。

かりかり焦げたアーモンドスライスとりんごとの相性まで緻密に計算されているのだ。


星パン屋(根岸)

りんごミルキーウェイ

「煮詰めたりんごをたくさん入れた銀河系のシナモンロール」とメッセージが添えられていた。

星パン屋は昨年横浜にオープンしたばかり、宇宙をテーマにした異色のパン屋。

シナモンロールは、店主の白井純子さんが得意とするもので、渦を巻いたその姿からミルキーウェイと名づけている。

シナモンの銀河系に相性抜群のりんごが飛び込んだ。


エペ(吉祥寺)

りんごのベラベッカ

りんごをわざわざドライフルーツにし、りんごのお酒カルヴァドスで香りづけしたものを使用。

たくさんのドライフルーツやナッツをりんごの香りとともに食べる、贅沢なパン。


11日夜には、六本木のピッツァ ヌーバで、「りんごの日パーティ」が行われた。

上記のパンを一堂に集め、みんなで食べるという催し。

おかげさまで30席がすぐにいっぱいとなる盛況。

みなさんの被災地への変わらぬあたたかい気持ちをたしかに感じることができた。


ピッツァヌーバで出た料理。

パンに合うものをというリクエストでご用意いただいた前菜は、ヌーバの名物である石窯料理。

石窯で焼いただけのシンプルな野菜が、素材の味がしてとてもおいしかった。


同じく石窯で焼いた陸前高田広田湾産のきらきらほたて。


そしてりんごを使ったデザートピッツァもご用意いただいた。

粉糖をふって、熱いりんごの上に冷たいアイスをとろけさせていっしょにいただくのは、言うまでもなくおいしかった。


そして、各お店から集められたパンを分けて召し上がっていただいた。


ゲストにお呼びしたのは、いつも陸前高田へご同行いただいている、Zopfの伊原靖友店長。


4種類の食事パンをご用意いただくとともに、前記したりんごのパン。


そして、Zカンパーニュを持ってきていただいた。

Zopfの庭に生るぶどうからとったZ酵母を、希望のりんごジュース「点 TOMORU」で培養した特別バージョン。

発酵の香りが普段よりいっそうさわやかであるように思われた。


りんごジュース「点 TOMORU」や「KEEP CALM AND EAT BREADTシャツを店頭で販売していただいているnukumukuの与儀高志さんも駆けつけてくれた。


ピッツァヌーバのオーナーである澁谷満廣さん。

ピッツァ窯付きのキッチンカー「ぬーば号」を製作。

月2回程度のペースで、陸前高田を中心に、三陸各地を訪れ、保育園・幼稚園などでピッツァの提供やワークショップを行っている。

「ぬーば号」の基地とする狙いもあって、ピッツァヌーバをオープンしたほど、熱く東北支援に尽力しているのだ。


「被災地の人たちに『笑顔』を運びたい。

そんな思いで、ぬーば号を作りました。

被災地であっても、おいしい物を食べること、おいしい味を知ってもらうことが大事かなと考えています」


おいしいものを食べるとき、笑顔になる。

笑顔こそ、人を前向きにさせ、苦難から立ち上がろうとさせる原動力になる。

渋谷さんのぬーばの活動も、私たち希望のりんごの活動も、それを信じるということでは変わらない。


さて、すべてのお店のパンをイベントで食べることはできなかったけれど、ご協力いただいたその他のお店のことも記しておこう。


ロワンモンターニュ(王子)

生りんごのシナモンドーナツ。

シナモンとりんごの相性言わずもがな。

油滲みしてない清らかな生地だけにりんごの香りがすごく活きているのは、さすがベテランの遠山シェフである。

油で揚がってシナモンシュガーをまぶされ、とさまざまな衣装をほどこされてなお、りんごの香りがより澄んで聴こえてくるのだ。


マールツァイト(茗荷谷)

焼きりんご

お店を訪ねるとドアの外まですばらしい香りが漂っていた!

ちょうど翌日出す焼きりんごをオーブンで焼いていたのだ。

芯の部分にバターとシナモンを入れることが多いと思うが、白井幸子さんの作る焼きりんごは少し砂糖をふる程度で、そのまま。


オーブンから出たとき、鉄板にはたくさんの煮汁が溢れ出している。

それさえもったいないと、白井さんは鍋で煮詰めてゼリー状のソースを作り、11個にかけていく。

そのひと手間で愛情もかけるかのように。


焼き上がったあとホイップクリームをのせてできあがり。

陸前高田りんごのおいしさにほとんど手を加えていない。

天が与えたままの酸味と甘さと、すばらしい香りに感動した。


残念ながらいくつかのお店は食べにうかがうことができなかったがここでご紹介だけはさせていただきたい。


レ・サンクサンス(三軒茶屋)

タルトレットオポム

事前にコンポートなど調理するのではなく、希望のりんごを生のままパイ生地で包み、オーブンで焼きこんだのち上からきび糖をかけて仕上げる。

これはきっとりんごのジュースがたっぷりと生地に垂れ、ジューシーであるにちがいない。 


粉花(浅草)

アップルパイ

藤岡真由美さんの作るアップルパイは本当においしい。

さくさくと割れるパイからすばらしい香りのコンポートが出てきたとき、ひどく幸せを感じる。

普段は別の産地の農家さんから取り寄せたものを使用しているのを、りんごの日は特別に「希望のりんご」で作っていただいた。


パラオア(新鎌ケ谷)

りんごのソーダブレッド

クリームチーズ&りんごのコンポート入りりんごのマフィン

自家製りんごのコンポートのアップルパイ

キャラメリゼしたりんごを巻き込んだりんご食パン

ブログではこれらのパンの写真とともにりんごのパンが早々と売り切れた旨が書かれている。

私が食べたかったのはりんごの食パン。

あのおいしい食パンにりんごの香りが合わさったらどんな化学変化を起こすか、わくわくしてしまう。


うれしいことに、売り切れたというご報告を各お店からいただいた。

このブログや希望のりんごFacebookでの告知を見て、わざわざお店に足を運んでいただいた方、店頭で知ってお買い上げいただいた方、本当にありがたいことだと身に滲みて思う。

もちろん、りんごのパンを作り、販売していただいた、各お店の関係者のみなさんにも感謝を。

みなさんの熱い気持ちを陸前高田の復興へつなげていく責任を痛いほど感じながら。(池田浩明)


希望のりんごHP

希望のりんごFacebook

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りんごの日 りんごのパンを食べて被災地を応援するイベント
岩手県陸前高田の丘で津波を生き延びた「希望のりんご」。
このりんごを食べて被災地を応援する「りんごの日」を開催します!

今回で3回目となるこのイベント。
下記に記すパン屋さんに陸前高田の「米崎りんご」を買っていただき、りんごのパンを作っていただくというもの。
りんごの代金は、陸前高田市米崎町の農家さんに入り、それは被災地へお金をまわしていくことにつながります。
この記事をお読みのみなさんに、各お店に行っていただき、りんごのパンを食べていただくことが、そのまま東北支援となります。

主催:希望のりんご
開催日:1月10日・11日(一部店舗除く)

参加店一覧(五十音順)
写真は前回お作りいただいた商品、または現在のりんご商品です。

EPEE(エペ)
0422-72-1030
武蔵野市吉祥寺南町1-10-4 1F
11:00〜19:00

CALVA(カルヴァ)
0467-45-6260
神奈川県鎌倉市大船1-12-18エミールビル1F
7:30〜21:00
火曜・第3水曜休

グロワール
0120-517314
大阪市旭区大宮3丁目18番21号
7:00〜20:00
水曜休
1月10日・11日・17日・18日開催

ケポベーグルズ
03-6424-4859
世田谷区上北沢3-17-8
9:00〜18:00
月曜(祝日の場合は営業)・火曜休

粉花
03-3874-7302
台東区浅草3-25-6-1F
10:30〜18:00(土曜・祝日 ~16:00まで)
売り切れ次第、終了
日曜・月曜・火曜休
1月9日・10日開催

シニフィアン・シニフィエ
03-3422-0030
世田谷区下馬2-43-11 1F
11:00〜18:00
不定休(店舗に問い合わせのこと)

Zopf(ツォップ)
047-343-3003
松戸市小金原2-14-3
6:30〜18:00
無休(夏期・冬期休業あり)

nukumuku(ヌクムク)
練馬区貫井1-7-25
03-3825-5404
10:00〜19:00
月曜・火曜休

パラオア
047-468-8046
千葉県鎌ヶ谷市新鎌ヶ谷4-6-28
9:00〜19:00(売切れ次第、閉店)
火曜・水曜休

星パン屋
横浜市磯子区下町11-18
10:30〜17:00(売り切れ終了)
日曜日・月曜日

ボネダンヌ
03-6805-5848
世田谷区三宿1-28-1
8:00〜19:00
月曜・火曜休

マールツァイト
03-5976-9886
文京区大塚3-15-7
11:00〜19:00
日曜・祝日休
1月9日・10日開催

レ・サンク・サンス
03-6450-7935
世田谷区若林1-7-1プチピエール三軒茶屋1F
8:00〜21:00
1月17日・18日開催

ロワンモンターニュ
03-3900-7676
北区王子本町1-15-20高木ビル1F
9:30〜18:30
第2,第4土曜・日曜・祝日休
03-3900-7676

ローゼンボア
045-491-8856
横浜市神奈川区平川町10-2
6:00〜19:00
土曜定休
1月9日・11日開催

希望のりんご=米崎りんご。
岩手県陸前高田市米崎町の特産品です。
りんご産地のうち南に位置するこの地は、温暖で、紅葉が遅く、収穫時まで葉っぱが落ちずについています。
だから、太陽の光をいっぱい浴びて、葉っぱがソルビトール(りんごの甘さの元となる成分)をたくさんりんごに送り込むので、糖度は15〜16度にもなります(他産地のふじは高くて14度)。

希望のりんごの生産者は金野秀一さん。
農業指導員も務めたこの地区の農業生産のリーダーです。
震災のときは、すぐ近くの避難所の世話人を務めるなど、被災者支援に尽力。
娘さんが津波で家をなくしてもいます。
金野秀一さんのりんご畑は広田湾を臨む絶景の地。
潮風に吹かれて育つのでおいしいりんごになるとも一説に言われています。

いま被災地で求められていること。
それは経済的な自立・復興。
新しい産業を興すことが必須の課題です。
いま三陸では過疎が深刻な問題となっています。
陸前高田市では津波によって1,599人の方が亡くなられ、215人がいまだに行方不明のまま(平成26年3月現在)。
津波で人口が減り、農業人口は高齢化をつづけ、いまや米崎町のりんご農家の平均年齢は70歳以上となっています。
農業を、都会の消費者やパン屋さんとつながった、おもしろいものにして、若者を呼び込みたい。
陸前高田市米崎町をりんごの木でいっぱいにしたい。
おいしいりんごのパンやお菓子を目がけて、みんなに遊びにきてもらえる町にしたい。
それが希望のりんごの夢です。(希望のりんご 池田浩明)


希望のりんご→http://www.kibounoringo.com/

希望のりんごFacebook→https://www.facebook.com/kibounoringo

陸前高田からとれたてを直送!
きらきらほたて1月分予約受付中!→http://www.rikuzen.com/?pid=84049937
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小麦の地産地消へのケーススタディ「大山小麦プロジェクト」
いま全国各地で、地元産の小麦を使ってパンを作る試みが動きだしている。
鳥取では、米子のパン店「麦ノ屋」の出井亘(いづいわたる)さんによる、「大山小麦プロジェクト」が育ちつつある。
ゼロからたったひとりで小麦の生産を企て、自家消費するだけではなく、県全体に販路を広げた。
小麦からパンを作る取り組みを行おうとしている(あるいは、すでに行っている)人たちは、いま全国にたくさんいる。
「大山小麦プロジェクト」の経験をその人たちに役立ててほしくて、この原稿を書く。

●プロジェクトの立ち上げ
出井さんが、プロジェクトを立ち上げるきっかけとは。
「麦を作ってみたかった。
パン屋としての好奇心でしょうかね。
地域のお店モチベーションアップでもあるし、スタッフのモチベーションアップでもある。職人と食べる人どちらも元気になる
原料のことを知ってみたくて。
最初は岸田牧場さんに頼んで小麦を蒔いてもらい、2.7tの収穫がありました。
岸田牧場さんとは同世代で、仲がいい。
もともと牛乳で取引しとった。
岸田牧場さんなら、牛の飼料としても循環型農業にもなりますから」

米子からもその姿を望める大山。
周辺の高原地帯は酪農が盛んである。
岸田牧場の低温殺菌牛乳は「ベッカライ ひがしやま」で販売されている。
さわやかに甘く、何杯でも飲めそうなほど香りのいいものだった。
その味だけでも、素材を大切に考えている農家であることが十分に知られた。

「岸田牧場さんからはじめた大山小麦プロジェクトは、現在、大山ぐるっと囲んだ8軒の農家さんで構成しています。
プロジェクトの特徴は、すべて民間で計画しようと始めた。
作物の準備から、収穫、販売まですべて自立目的に行っている。。

●鳥取県で20数年ぶりに本格生産された小麦
小麦はかって全国どこででも植えられていたごくありふれた作物だった。
だが、栽培する農家が減り、栽培ノウハウさえ失われそうになっている。

「(山陰地方で)小麦を本格生産するのは25年〜30年ぶりだろう。
作り方を知ってる人は高齢化。
しかも品種もかってとは違う(昔は農林61号、いまはミナミノカオリ)。
鳥取県ではその当時、いわゆる麦類が1000t栽培されていましたが、プロジェクト立ち上げ前は小麦の生産流通は0でした」

小麦を食べるばかりで、少しも生産していない地域。
需給バランスの悪さは否めない。
かっては1000tもの生産があったこの地域で、大山小麦がはじまるのは、必然だったのかもしれない。

少しずつではあるがプロジェクトは順調に育ち、毎年収穫量を増やしてきた。
「日本はうどん麺文化。
本格的なパン用の品種改良が積極的になったのはここ10年ほどだと思います。
はじめは(自家製粉していたため)全粒粉しか挽けなかった。
それを使って最初に作ったのが、ふすまヌガー、と全粒粉食パン。
どちらも無添加で。
自分の小麦ができて最初に思ったこと?
『小麦粉だなー』と(笑)。
自分が作った小麦だから心情的に『うまい』とは思えるけど。
それよりも、『粉質は使えるな』というのがいちばんうれしかった」

ミナミノカオリで作った小麦からパンやお菓子ができ、それが商品となったことは大いに自信になったという。
最初に作った商品として、出井さんが示したのは「ふすまヌガー」だった。

ソれは青空に放り投げたくなるような大きな円盤型をしている。
ばきっと噛み割るその感触。
ふすまのつぶつぶがほぐれて散って、麦の香りを発散する。
そして、全粒粉と合う副素材の風味が次々と顔を出す。
バターの香り、はちみつの濃厚さ、ごまの香り。
強めの甘さで喉の奥がじんじんと熱くなるのだ。

「ミナミノカオリはパンを作るには、いい感じの小麦だったんですけど、山陰の栽培気候には完璧には合ってない。
梅雨の時期に発芽しやすい品種で。
山陰では収穫期と梅雨がかぶる。
とはいえ、最初の3年間はまともにとれました。
1年目2.7t→2年目19t→3年目35t→4年目42tにはならず。
今年は4年目でしたけど、だめでしたわ。
6月にとれたのは80%が低アミロ(収穫期に雨にあたった小麦は酵素活性が強くなりパンがふくらまなくなるので、パン用としては使えなくなる)で。
来年度産は70トン収穫の予定で、20haに種を蒔く予定です」
現在の農家さんで150t作る環境設備はある
大手さんや学校給食など県全体で使うとなれば、もっと増やすことができる。
かって鳥取県で麦類の収穫は1000tあった」

●製粉をどのように行うか
大山小麦プロジェクトは製粉をどのように行っているのだろう。
自家製粉の段階を経て、現在は製粉会社に委託している。

「九州の製粉会社に5t貨車で送っている
製粉会社で挽いて頂いた小麦粉は問屋さんを通じて販売している。
自分が小麦販売はしてないからね。
製粉会社には、ご連絡をして直接頼みました。
『大山小麦が鳥取で流通するようにしてください。
小麦は本気で作るから』と」

出井さんの苦労は察するに余りある。
製粉、流通とやるべきことは多く、それをパン屋を経営しながらこなさなくてはならないのだから。

「始めのうちは自社の活動でした。
大山小麦プロジェクトは農家さんと事務局で栽培管理している。
学校給食で大山小麦を使ってもらってます。
使用していただく範囲も増えて、活動が広がりそう。
大山Gビール(イギリスで行われた『ワールド・ビア・アワード2011』で世界一に輝いたビール)でも試験中です。
ビールの原料は大麦だけど、ヴァイツェンは小麦も使う。
低アミロになっちゃうとパンでは使えないのですが、ビールの原料にならないかと相談している。
低アミロになった小麦の使い方が今後の課題。
キノコの菌床やお酒など模索中です。
みそ、しょうゆでも使えないのかな。
いまは牛が食べてるんだけど。
飼料にするのか、人が食べるのかは大きなちがい。
人の口に入るということはやっぱり大事だと思いますよ。
うちの店ではパンを捨てないことをモットーにしている。
ぜんぶお腹に入ると思ったら、スタッフも変なパンは作れないでしょ。
異物混入なんかのミスもなくなります」

高温多雨の日本で、小麦には不作のリスクがつきまとう。
だが、低アミロが被害となるのは不向きな製品を作ろうとすることからであり、むしろ、低アミロ被害をきっかけに、研究試作することで、地元産小麦の裾野を、さらなる分野に広げていけるのではないか。

●大山小麦はおいしいのか?
大山小麦の味はどうなのだろう。
一般に販売されている外国産小麦や、北海道産、九州産小麦と比べて、おいしいのか。

「小麦って原料自体の味がおいしいというより、
おいしいパンを食べてはじめて『小麦がうまい』と表現するのではないか?
小麦がうまいから製品がうまくなってる説明は一般的には分かりにくい。
お客さんは、『いいね』とは言ってくれますけど、それは地元産、または活動の意義が『いいね』ということ。
おいしいはもっと単純かつ純粋、そしてフェアな部分と思う。
(鳥取県名産の)梨や鯖とはちがう。
あくまで一次加工品(小麦自体を食べるのではなく、加工されてはじめて口に入るもの)なんだから。
(『おいしい大山小麦』などという言い方は)キャッチとしてはいいが、まじめで堅物な僕は、商品のクオリティに執着したい。
消費者の気持ちを重要視するなら小麦自体も大切だが、原料のよさだけが独り歩きしない、商品のよさを追及したい。
さらに、大山小麦は『意味』のおいしさの追究がしたい。
耕作放棄地を利用したり、顔の見える農家さんが作っていたり。
パンにできることの可能性ってなんだろう。
農家さんの名前が粉袋にまで書いてあることはすばらしい。
大山小麦をブランド化するなら、よい製品つくりの和を広げないと…」

パン屋とは小麦のプロデューサーである。
小麦という自然のものにおいしいもまずいもないと私は考える。
それは人間が勝手に決めるものだ。
小麦の品種の個性を知り、それにふさわしいパンの作り方をして、個性が食べる人に伝わるようにすれば、きっとみんなにおいしいと思ってもらえるパンになる。

大山のテロワール(その土地で育った作物ならではの風味)。
大山小麦を口にしたとき鼻へと抜けていく独特の風味。
それは、田舎にある古い木造の家に漂っているような香りである。
それはいかにも地粉と呼びたくなるような素朴だ。
この小麦はきっと和食に合うはずで、それはそのまま鳥取の人たちの食卓にも入っていきやすいパンになる。
大山小麦のパンが広まったとき、鳥取の人たちは本物のパン文化を手にしたことになるだろう。

●大山小麦はどのように拡大してきたか
大山小麦を使うことは、大手メーカーの外国産小麦を使うほど簡単ではない。   
また、仕入れに関しても、一般的な国内産小麦よりむずかしい。
「使っていただく方は、1年に1回、先に大山小麦の使用量を申請していただくのが原則(大ロットであることが条件)。  
外麦(*1)は大山小麦より安いし、注文すればいつでも届くので便利です。 
一方、大山小麦を使うためには量や価格のリスクを共有しなければならない。
もし、年間の生産量が30tを切るようなことになれば、お届けできないこともありえます。
それでも使おうという人は、地元愛があり、地域の農業のことを考えてる人。
でも、それに頼っているばかりではなく、ちゃんと商用ベースにのるような、価格であったり、使用量への対応がしっかりしてなくてはならないと思ってます。
地域の人々の地元愛が、地元の小麦を育てるといってもまちがいではないけど、いつまでも『苦労を共にして、夢やロマンを語り』ではだめなんです。
栽培量を増やすことによってスケールメリットを出し、希少価値ではなく市場価値のある小麦になることを早急に目指したい」 
 
大山小麦プロジェクトは、自家栽培、自家製粉にとどまることなく、製粉会社や問屋と協力関係を作り、地域を巻き込んでいくことで、扱い量を拡大してきた。
大山小麦は現在、問屋を通じて地元のパン屋、学校給食などに流通している。
 
「問屋経由で30店ぐらいに卸しています。
来年以降、70t、150tと増やす予定です。
県全域でも使ってもらえるようになるので楽しみですね。
そこまでいくと、スケールメリットが出てくるので、価格も下げられるのではないかと思っています。
生産量が増えることにより、農業部会(大山小麦を作る農家による組織)での工夫が行えますし、製粉効率のアップ、物流のコスト減、小麦原価も安くすることができます。
すべての生産・加工・流通すべての部門が協力と工夫をできるようになるからです」
 
継続する力。
じょじょに生産量を増やして実績を積めば、産地品種銘柄(農産物検査法に 基づいて農林水産省が指定するもの)の指定を受けられる可能性が出てくる。
産地品種銘柄になると、農家さんへの助成金・補助金を受けられるメリットがある。
また、5年間栽培をつづけると農業共済が降りるようになり(農業共済への加入条件は、麦の場合5年間継続すること)、不作の場合に、収穫量の代金の90%が補償される。
農家が安心感をもって大山小麦を作れるようになるので、生産量を増やす上で追い風となる。

「小麦のプロジェクトは5年間継続するのが大切なことです。
1年目は栽培が成功するかどうかリスクが伴います。
2年目は原料(小麦の収穫量)が安定するかどうかという課題。
3年目は商品開発や販路開拓が問題となってきます。
4年目には拡大した販路に原料を安定的に供給できるかがカギとなってきます。
5年目はさらに販路を拡大する努力が必要となるでしょう」
 
出井さんが組織する大山小麦プロジェクト事務局。
大山小麦をプロモーションすることに加えて、大事な仕事は小麦の検査である。
 
「小麦を流通させるためには等級検査があって1等、2等、等外と格付けする検査員が必要です(原則はJAがする仕事。現在は大山小麦でもJA職員が行っている)。
それから、赤カビ、農薬、放射能などの検査をして、麦として正常だということを確認しなければいけません(本来農家さんの仕事だが、プロジェクト事務局が委託して行っている)。
栽培面積の管理など農家さんとの密に連携をとって、情報管理を行うことも大事になります」

●大山小麦使用の実例:ベッカライ ひがしやま
出井さんがオーナーシェフを務める「麦ノ屋」「ベッカライ ひがしやま 麦の種」では大山小麦をどのように使用しているのだろう。

「大山小麦10%もあるし100%もあります。
すべてが1つの小麦粉でつくるわけではない。
そこは活動家とつくり手と考えはわけてる。
国産小麦か大山小麦かフランス産小麦、ドイツ産ライ麦。
大山小麦は3種類の挽きわけた小麦粉があります。

ここで出井さんの店、ベッカライ ひがしやまを紹介する。
米子ではつとに知られる店。
商品ラインナップには、パンの世界の広がりや奥深さが表現されている。
パン・オ・ルヴァンや、数種類のバゲットなど、本格的なフランスパンを並べているのは、地方都市では珍しい。
惣菜パンもフランスの顔をしている。
クロックムッシュをハード系のパンで焼いたり、カレーフィリングをローストした野菜といっしょにのせタルティーヌにしたり。
あるいは、プレーンなフォカッチャがあるなど、家でサンドイッチや夕食に合わせられるような食事パンにも目配りされている。
プレッツェルや、トルコのシミットといった世界のパン。
あるいは、注文を受けてから焼き上げるパニーニのようなメニューもある。
レトロなパッケージをオリジナルで作って、昔の袋パンの雰囲気を出した商品など。
本物のパンを焼きたいという職人の本能と、消費者目線の楽しさのあいだに、うまいバランスをとっていた。

目についたのは冷蔵ケースの中のペースト類。
タプナードや豚のリエットのようなフレンチ惣菜。
生キャラメルやジンジャーシュガーバターのような甘いもの。
パンとこれさえ買えば、晩酌にも、朝ごはんにも、おやつにも事欠かないだろう。

左からタプナード、安納芋ジャムバター、あんこ&ミックスベリー。

大山小麦のパンはどうか。
種を蒔くことから小麦に関わってきた出井さんはこの素材の特徴を知り抜いている人だ。
3種類の大山小麦をパンごとに使い分ける。
「大山小麦」の文字を刷りぬいた袋に入れられる大山小麦の食パン。
大山小麦を日常の食卓で味わえるものとする人気の商品。

48時間のパリジャンは、名前通り48時間の熟成を経たもの。
完全な水和を果たした、中身の湿った感触は心地よく、口溶けもいい。
皮の濃褐色が示す通り、小麦の中のでんぷんは大量に糖に変えられ、濃厚な甘さで目の前は覆い尽くされる。
大山小麦をおいしく、食べやすく提供したいという情熱が伝わってくるものだった。

石臼挽きバゲットは、石臼挽き粉も使い、大山小麦100%で作られる。
中身はこれもしめっていて、ゆるやかにつながっているために、やさしくほどける。
ここには、先述した、なつかしい家の香りがある。
心地いい甘さと穀物感はじわじわと湧きたち、想定外の強い甘さまで、口の中で育っていくのだ。

●自家製粉・自家消費ではなく、製粉会社や問屋を巻き込む理由。
なぜ自分の店で使う分だけの小麦を生産し、自家製粉するというところにとどまらなかったのか。
小麦という作物は、大勢の人を巻き込み、役割分担を行うことで、さまざまなメリットが出てくることを、出井さんは強調する。

「僕がしたいのは、地域の誰もが使える小麦、当たり前にある小麦。
本当は最初の年の2.7tで終わってたんです。
やってくうちにいろんな人とつながるし、おもしろくなってきた。
製粉会社のない県に、白い小麦(ロール挽き)があることはありがたい。
とれた小麦を石臼で挽いても全粒粉にしかならない。
ふるいでふるったとしても、細かい全粒粉、粗い全粒粉に分けただけ。
白い小麦粉を大量につくれるのは製粉会社にしか作れない。
全粒粉だけでは、お客さんに多種類の商品を提供するのはむずかしい。
スケールメリットが出ないと、小麦はだめ。
量の多さは原料価格や供給量の安定、さまざまな問題のクリアにつながるだろう。
他県の小麦とも情報交換し、ブレンドしたり。
小麦は加工者のためにもブレンドありきだとも思う。

ミクロとマクロ。
個々でやってることには大きな苦労がある。
いまひとりで小麦の栽培から製粉、パン作りまで行おうとしている人に出井さんは呼びかける。
まずは同じ地域の同業者同志が連帯して小麦を作ること。
農業、加工、商業、消費とひとつの流れを地域で行えるようになりたい。
その次には、地域同士が小麦を共有しあう段階がくるだろう。
もちろん、ひとりで小麦を作り、パンを作る自由は尊重されるべき。
だが、たったひとりで背負うには、小麦の生産と製粉が強いる作業は膨大である。
それらを共同管理によって肩代わりしたり、ノウハウやコネクションにアクセスできる仕組みが必要であると私も痛感する。

「だれかがいつも言っていたこと。
『一人菓子はいけん』。
菓子はみんなで食うほうがいい。
小麦もそういうもん。
あと、カンパニー(company)の語源も『パンを共に食す仲間』だし」

小麦という甘美なる果実を独り占めにすべきではない。
さまざまな人がそれを共に味わえる仕組みを作ることは必要である。
出井さんは、もうひとつことわざを教えてくれた。

「『小麦畑を耕す者はパンに祝福されるだろう』。
ドイツのことわざです。
汗水たらして小麦を作ると、おいしいパンが食べられるよ、という。
パン職人だから響く言葉だね」

このことわざの起源を考えてみる。
それが可能になるような場所や時代は、中世にあった村落共同体ではないか。
みんなが農民として麦を育て、村にある共同の水車小屋や風車で粉を挽き、共同の窯でパンを焼く。
そもそも小麦という農作物は、みんなが協力しあうことを前提として、有史以来育てられてきたのではなかったか。

「僕はそこに戻るべきだと思う。
村単位(地域単位)で行くべきだと思うよ。
九州の小麦産地では農家さんで検査しあっているらしい。
麦の状態を見極めるにはスピードと現場の経験値がいるからね。
全国第2位の生産地でもやってる。
それを見習わんといけん」

地域が自立して小麦を育て、パンを焼くような社会。
地方創成が叫ばれるいま、大山小麦プロジェクトの経験は貴重となっている。(池田浩明)


ベッカライ ひがしやま 麦の種
鳥取県米子市車尾南1-16-31
0859-21-5020
9:00〜18:30
日祝休み

*1出井さんによる注釈
「干ばつや地球規模での自然バランスがくずれ、災害や季節のずれにより近年麦の不作がつずいている。
あと、中国の食文化の変化により買占めによる外国産麦の相場高もあります」
外麦というと、簡単に入手できるイメージがあるが、小麦を巡る環境は世界的に見ても実は悪化している。

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